Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

14 / 44



Prologue #14

 数時間後──

 異なる武装を手にした二人の神機奏者(ゴッドイーター)が、(ようや)(くだん)の居住区に到着した。

 

 緊急事態とは言え、アイフェイオンの応援要請時刻を(かんが)みれば、致命的な遅れと言える。

 だが、二人の名誉のために言っておくならば。

 二人はもう、本当の意味で到着に遅れるしか無かったのだ。(アラ)(ガミ)に襲撃された居住区は、何も()()だけではない。

 この区画に(アラ)(ガミ)が侵入を果たしたのと同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 未だに人口の少ない神機奏者(ゴッドイーター)では(さば)き切れない。加え、その多くが神機奏者(ゴッドイーター)になりたての新兵となれば、()もありなん。

 居住区を管理する本部が、新兵である神機奏者(ゴッドイーター)を出撃させる事を出し(しぶ)ったのだ。

 

 結果、迫られたのは()()()()()()

 後進の為にも、貴重な神機奏者(ゴッドイーター)の殉職させる訳にはいかない。

 そんな()()()()()の元、二人は本部の意向に従う他になく──必然として、二人の神機奏者(ゴッドイーター)は即座に駆け付ける事が出来なかった。

 

 「······酷い」

 

 眼前の光景に、言う権利などないと理解していても、刀剣を持つ金髪の少女は思わず(つぶや)いてしまう。

 後続する黒髪の少女もまた、身の丈以上はある銃を構えて警戒しながらも、()()か絶句している様子だった。

 

 居住区を焼き尽くす緋色の業火。

()(にく)()ける不快な匂いが、血の匂いと混ざって周囲一体を満たしている。

 だと言うのに、(アラ)(ガミ)の姿が確認出来ないとは、どういうことだ。

 

 「どうしますか、ツバキ先輩。隊長とも連絡が取れませんし······」

 「狼狽(うろた)えるな、ヒルデガルト。有事の際の連携は、お前も隊長から直々に叩き込まれたはずだ。それを忘れたとは言わせん」

 

 困惑を隠せない金髪の少女に対し、ツバキと呼ばれた少女は年齢に似合わぬ態度と口調を崩さない。

 絶句していたのも僅か一瞬。即座に状況を理解し、(おの)が心を仕切り直したのが分かる。

 その切り替えの速さに、少女は罰が悪そうに目を伏せた。

 

 「す、すみません···つい······」

 「いや、私は別にお前を責めている訳ではない。不安になるのは理解できるが、今は最善を尽くす時だと言いたいのだ。たとえそれが、どれほど絶望的な状況だろうともな」

 「はい、分かりました」

 

 叱責とも取れる先輩からの()()に、ヒルデガルトと呼ばれた少女は改めて背筋を伸ばし、神機を片手に周囲を警戒し始めた。(アラ)(ガミ)の気配は今のところ感じられないが、用心に越したことはない。

 後輩が自分の役割を担うのを見届けたあと、ツバキは上着の内ポケットから通信機を取り出して、本部との連絡を開始した。

 

 「こちら、第一部隊の雨宮ツバキ。神宿大佐の応援を受け、現地に到着した。オペレーター、状況の確認を求む」

 『こちら、(さくら)()。第一部隊の現地到着を確認。すぐに(アラ)(ガミ)のオラクル反応のデータを────······こ、これはッ!?』

 

 連絡が繋がり、状況を把握して動き出そうとした刹那、驚愕の色を隠せない青年の声が通信機越しから響く。

 声の主が滅多な事では狼狽えない性格の持ち主だと知るツバキは、即座に異常を察知して、()(げん)そうに目を(すが)めた。

 

 「どうした櫻井、何かあったか?」

 『いえ、それが······先程まで確認できた(アラ)(ガミ)のオラクル反応が()()()()()()()()()んです』

 「えッ!?」

 「なんだと?」

 

 櫻井と呼ばれた青年から(もたら)された新情報に、ツバキとヒルデガルトは反射的に驚きの声を上げる。

 

 『おかしい···こんな事が有り得るのか······? 確かに該当地区の(アラ)(ガミ)は、イオン隊長が対応に当たっていたが············』

 

 まさか、あの人が全ての(アラ)(ガミ)を討伐した? だとするならば何故、イオン隊長は応答してくれない? と、櫻井は独り()ちていく。

 彼の(ろう)(ばい)ぶりから、常に防衛最前線と化した当該地区に存在するオラクル反応に気を配っていたのだろう。

 他の地区に侵入した(アラ)(ガミ)の鎮圧へ向かっていたツバキ達のオペレーションをこなしつつ、いつでも応援要請に応じられる状態を維持していたに違いない。

 事実として、現場に居合わせるツバキやヒルデガルトでさえ、該当地区に存在するはずの(アラ)(ガミ)の気配を感じずにいる。

 

 「分かった。では、生体反応及び腕輪のビーコン反応の確認を頼む」

 

 謎が深まる中、凛としたツバキの声が響いた。

 この際、(アラ)(ガミ)のオラクル反応が消失したのを好都合と考え、生存者捜索を最優先事項に変更(シフト)したのだろう。

 

 『分かりました。直ぐに検索を開始します』

 

 凛とした彼女の指示に冷静さを取り戻したのか、櫻井は素早くキーボードを操作して、電子機器で確認できる生存者を探し始める。

 そして、実行キーを叩く音が響いた──刹那に。

 

 『···申し訳ありません······辛うじて、腕輪のビーコン反応は確認出来ますが···生体反応については······』

 

 確認が出来ないと、櫻井は通信機越しで続ける。

 それが何を意味しているのか、分からない二人ではない。

 即ち、この街区で生活していた住民も、(アラ)(ガミ)から街区を守る為、文字通り命を()けて戦った神機奏者(ゴッドイーター)も、(みな)(ひと)しく全滅した事を意味していた。

 

 「そんなッ」

 

 理解した事実に、絶句する事しかできない。

 しかしそれも、むべなるかな。居住区の住民が全滅するなど、それこそ()()()()()()である。

 

 『──待って下さい。一つだけ···腕輪のビーコン反応と思われるモノが確認できます。ただ······かなり反応が微弱で、上手く反応を拾えません』

 「生体反応は?」

 『···()()······()()()()()······』

 

 歯切れの悪い櫻井の返答に、ツバキは(しば)(めい)(もく)する。

 そして、再び(まぶた)が開いた時、その新緑色の瞳には決意の色が宿っていた。

 

 「よし、その座標を教えてくれ。今から確認に向かう」

 

 下された判断。

 その内容に、ヒルデガルトは目を(みは)り、櫻井は通信機の向こう側で息を()んだ。

 

 『本気···ですか? 仮に、この反応が腕輪のビーコンだった場合、()()()()()さえ想定できるんですよ?』

 「だからこそだ、櫻井。(アラ)(ガミ)のオラクル反応が確認できない以上、本当に()()()()()に陥っているのか確かめるべきだ。違うか?」

 『······分かりました。すぐに座標をそちらに送信します』

 「ああ。感謝する」

 

 言って、ツバキは通信を切った。

 同時に彼女の通信機に送られてきたのは、先ほど櫻井が電子機器で観測した反応の座標が記された、一つの地図。

 それを確認した彼女は、ヒルデガルトに向き直り──

 

 「話は聞いていたな、ヒルデガルト。これから件の座標(ポイント)に向かい、反応の正体を確かめる」

 「···了解(ヤヴォール)

 

 先輩の指示に、後輩は複雑ながらも素直に応じるのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 炎に包まれ、神と人の血に濡れた街区を二つの影が疾走する。

 唯一確認できた微弱な反応を目指し、時に曲がり角で停止。左右を確認すると、ヒルデガルトがツバキを(いち)(べつ)しているのに気付き、彼女は無言で(うなず)

 そして、腕輪のビーコン反応が存在する座標──広場へと二人は同時に(おど)り出た。

 

 そこに立っていたのは──

 

 「······、子供?」

 

 そう、子供だった。

 

 見た目からして、恐らくは十代前後──

 風に揺れる黄金の髪は赤く染まった月に照らされ、生者とは思えぬ(はく)(せき)の肌も、身に(まと)う白い服さえ、(あか)に染まっている。

 だが、その血が子供自身の怪我によるものではないと、ツバキもヒルデガルトも即座に見抜いていた。

 

 明らかに外部から浴びなければ、その血痕はありえなかったから。

 されど、次瞬それら全てがどうでも良くなってしまう。

 

 「先輩、アレッ!」

 

 この地域では珍しい黄金の髪を持つ少年は、その左手で引き裂かれた黄金と(くろ)(がね)(こしら)えかな成る刀剣と()()()()()()

 無論、赤い腕輪などはめていない。他人の神機に──しかも生身で──接続するなど、神機奏者(ゴッドイーター)の誰が見ても自殺行為に等しかった。

 

 「ちょっと、そこの少年!」

 

 慌て、ヒルデガルトが少年に呼びかけると、彼の肩が(かす)かに反応を示す。

 音を辿るように、背後を振り返る少年。虚無を見詰める(あお)の瞳に背筋が凍るが、しかし負けじとヒルデガルトは向き合い続けた。

 

 「その剣から手を離しなさい!

 きみ、それが神機だと分かっているの!? 危険だから、すぐに神機から手を離しなさい!!」

 

 一昔前の発動体とは異なり、神機は(アラ)(ガミ)を討伐する為だけに製造された生物兵器。

 武器の形こそしているが、その本質はただの人工アラガミと何ら変わらない。

 加え、制御機構たる腕輪も無しに接続するなど、危険などという言葉さえ生易しいと言えた。それこそ、()()()()()になっている方が自然である。

 

 だと言うのに──

 

 「···········」

 

 無言、返答はない。

 その瞳は確かに、此方(こちら)()()えている。

 なのに、その要望は届いておらず──

 

 「お願いだから! きみ、()()()()()()()()()()()()ッ!?」

 

 こんな地獄絵図と化した街区で、ただ一人の生き残りとなれば、確かに生きる希望など持つ事は困難を極めるだろう。

 それこそ、生きる意味さえ見失っていてもおかしくはない。

 ゆえに、ヒルデガルトは思わず問い掛けた。

()()()()()()、と。

 

 「聞いているんですか! ねぇ!!」

 「···············」

 

 再び無言。返答はない。

 だが、次の瞬間──

 

 「──、────」

 

 突然、少年の身体が糸の切れた人形のように(かたむ)いて。

 

 「おい!」

 「危ない!」

 

 ツバキとヒルデガルトはそれぞれの反応を示しながらも、地面に倒れた少年の元に駆け寄った。

 やはりと言うか、彼には怪我一つない。奇跡的と言うべきか、信じられないと言うべきか──いや、そんなことはどうでもいい。

 心臓の鼓動が跳ねる。

 ツバキがそっと、子供に触れてみれば、脈はまだ存在して生きていた。

 

 「ヒルデガルト!」

 「はいッ!」

 

 すぐさま後輩の名を呼べば、彼女は即座に通信機を取り出して、オペレーターと連絡を取る。

 生きている。死んでいない。生存者など皆無という絶望の中、この少年()()が生きていた事実に満足する。生来、ツバキもヒルデガルトも高望みはしない性格だった。

 

 気を失う少年の手を握り、ツバキは胸中で渦巻く喜びを噛み締めながら、力強く告げる。

 

 「よくッ、生きていてくれたッ」

 

 何があったかなど、後で好きなだけ考えれば良い。ゆえに、今はただ、彼を保護するために全力を注ぐ。

()()()()()()()()()()いれば、人は()()を生きる事が出来るから──

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 こうして──

()西()()を新たに(けん)(いん)する組織・フェンリル極東支部で発生した、外部居住区・同時多発的アラガミ襲撃事件は、()()()()()()()()を残して、全員が犠牲になると言う、()(ぞう)()の被害を爪痕として残した。

 

 元々、いつ破壊されても()()しくない壁周辺に居住区を(もう)けた事が仇となったのだろう。

 マスメディアの印象操作も相まって、民衆の怒りの矛先は、鬼の首を取ったような勢いでフェンリル極東支部に向けられた。

 

 襲撃を受けた、外部居住区の人間の為とかいう、そんな訳の分からない大義名分を掲げて。

 しかし、極東支部を預かる支部長は(しん)()なもので、即座に装甲壁付近の居住区を閉鎖。定期メンテナンスを行う場所として再利用する事が決定されたと聞く。

()()()()()()()()の帰る場所などよりも、もっと大勢の人の命を守るための(いしずえ)とする方が犠牲者も報われるからだ。

 

 後は、なべて世は事もなし。

 時間は緩やかに過ぎ去り、再び始まる日常により塗り重ねられていく。

 

 語り部なき悲惨な事件は、やがて人々の記憶から忘れ去られるだろう。

 

 何せ、こんな事件は今の時代では()(きた)りな悲劇でしかないからだ。

 自分とは無関係な過去にいつまでも縛られるのは、可笑しな話だからだ。

 

 ゆえに、誰も気付かない。 

 悲しき宿命を背負った者が暗躍していることを。

 あの悲劇は、その一つでしか無かったことを。

()()()()()()()()さえ、その事実に気付くこともないまま、在り来りな悲劇は幕を下ろすのだった──

 

 

 

黄金の天駆翔/PrologueEND




 プロローグ、これにて完結ッ。
 いや、だから長ぇよ。というフリーツッコミは後回しにするとして、オペレーターやツバキさんの後輩など、足りない部分はオリキャラで補完しました。

 時期的に、ツバキさんとリンドウさんがフェンリルに入隊したのは異なるので、その為ですね。だから、必然的に隊長も違うと。
 割と花関係の名前縛りってキツイ。

 つか、ミステル・バレンタインの名前を見てて思ったんだけど、【GEオンライン】に『ゴドー・ヴァレンタイン』なる人物がいたなーと、最近思い出した次第。
 というか、うp主が【GE】シリーズに入るきっかけになったのが【GEオンライン】で、サ終&レオとコラボ来た時はキレて、絶対にレオやらないと決めた記憶ある。

 本編コハクのキャラは、【GEB 男ボイス15 彷徨(さまよ)える者】を見てみると、参考程度にはなるぞ。
 (ゼファーさんよりもやる気なさそうな雰囲気だけど)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。