Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】 作:フェルゼン
一方、その頃──
適合試験の準備をする試験会場は今、一種の混沌と化していた。
試験会場に運ばれる
しかしそれも、むべなるかな。台座の上に置かれた神機は、
無論、いわく付きではない神機などない。
そして、
所有者のいなくなった神機は、次の適合者に引き継がれる訳だが、その大半が殉職した者から引き継がれているなど、何も珍しい話ではなかった。
だが──
「最終確認だけど······」
ふと、準備を続ける整備班と研究員を一望できる部屋から一連の流れを見守る男へ、黒いインバネスコートを羽織った男が険しい顔で
「ヨハン、キミは本気で
「ふっ···何を言い出すかと思えば、
「そんなも何も無いよ。
「······
そのまさかだ──ヨハネス・フォン・シックザールは
ロンギヌスランゼ。
十字の
新型神機のプロトタイプでもあるそれは、選抜された適合候補者の
ある者は、穂先の向く位置にいただけで身体中の水分が蒸発して死亡。
また、ある者は神機を直視しただけで身体が
そして、またある者は神機に触れた途端、全身の毛細血管から致死量の血液を
次々と適合候補者を死に追いやる神機は、遂に本部から危険と判断され、凍結封印を施される事となる。
当然だ。選抜された適合候補者達は決して低い適合率を有していた訳ではない。むしろ、当時としては高い適合率を誇り、将来を有望視された適合候補者達である。
また、適合に失敗したとか生易しいものではなく、明らかに常軌を
そのような曰く付きの神機を、ヨハネスは再び表舞台に立たせようとしている。
黒コートの男はズレてもいない眼鏡を押し上げると、深い
「···悪い事は言わない。今すぐ中断すべきだ。下手に死体を増やすのは賢くない選択だと、僕は思うけどね」
「おや、
「······ヨハン」
くつくつと
どうやら、知らず知らずの内に彼の地雷を踏み抜いていたらしい。
「冗談だ。さて···一度は凍結封印された神機の適合試験を再開する理由······だったかな? 理由は単純。今回の適合候補者ならば、高確率で神機に適合できると判断したに過ぎない」
「···その根拠は······?」
「
「根拠としては薄いね。最悪、死体が一つ増えかねない。ヨハン、もしかしてキミ──······」
ヨハネスは手前にあるマイクのスイッチを入れると、試験会場にいる関係者に指示を下す。
「よろしい。では、予定通りに適合候補者を試験会場に案内してくれ」
そうして──
白い制服に身を包み、コハクは案内された試験会場に足を踏み入れた。
「···············」
暗い。それが最初に抱いた印象である。
幼少時から夜目が
相変わらず、何を考えているのか分からない組織だなと、コハクは胸中で吐き捨てた。
刹那、カッと音を立てるようにライトが点灯し、人工の光が屋内にある
反射的に左手で視界を
次に抱いた印象は疑念。
ここは本当に試験会場なのだろうかと、思わずにはいられない。
四方を特殊合金製の壁に囲まれ、他に目立つ内装は両端に設置された高低差の異なる高台のみ。しかも、それら内装は
『長く待たせてすまない』
不意に頭上から声が響いた。
ただの一声で、その場にいる全ての者達を掌握できそうな、
演説を始めた途端、聴衆の心を
誰もが姿勢を正したくなるような声を前にして、コハクは鋭く目を細めた。
音源を辿り、天井を仰ぎ見る。
ビルの三階に当たる場所に一箇所だけ、大きな
『さて···ようこそ、人類最後の
君には、対アラガミ討伐部隊・ゴッドイーターの適合試験を受けて
まるで、神託を下すように告げられる。
が、コハクの胸中を占めるのは安堵という、この場には似つかわしくない感情だ。
“何とかスタート地点には立てたみたいだぜ”
首から下げたペンダントトップを握りしめ、祈るように
神機との適合率は、加齢と共に低下する。ゆえ、適合試験を受けられるのは、12歳から18歳の若年層と決められていた。
今年の誕生日を迎えるまでに、適合神機が発見されなければ、神宿コハクは間違いなく
そのギリギリになって迎えた適合試験を、失敗で終わらせる訳にはいかない。ヒバリとの約束もある手前、尚のことだ。
『少しリラックスしたまえ、その方が良い結果が出やすい』
言われ、ふと我に返る。
緊張していると思われたらしく、頭上から響く
『心の準備が出来たら、中央のケースの前に立ってくれ』
心の準備? そんなものは遠の昔に出来ている。
ゆえに、何の
部屋の中央に置かれた、機械仕掛けの台座。
プレス機にも見えなくないケースの前に立つ。
その上には一振りの槍が、まるで
「···これは······」
同時に、コハクはそれに奇妙な違和感を覚えた。
自分が知る神機とは異なり、不可思議な形態をしていたのも
すると、先ほど指示を下した男が、恐らくそんなコハクの様子に気付いたらしい。
『そう言えば、君の父君は
彼が教師であれば、どのような劣等生でも彼の教えに耳を傾けるだろう。男の声には、そんな魅力が備わっていた。
が、今のコハクに彼の言葉は届いていない。
忘我という状態がある。コハクは今、我を忘れて目の前にある神機を見詰めている。
石突から穂先に至るまで、黄金に彩られた槍。
これを前にして、正気でいられる者などいるはずがない。
まさに規格外。間違いなく、神機としては最高位の格と力を有していた。
では、コハクはその規格外な神機に魅入られたのかと問われれば、否である。
彼が抱いているのは疑問。規格外な神機だと察知出来るがゆえに、何故そのような代物が自分の目の前にあるのか、それが理解できないのだ。
『君も知っての通り、神機とは我々人類が
「············」
無論、声の主は細かい感情の
彼はコハクの
『神宿コハク君』
その声に、コハクはハッと我に返る。
『さあ、そこに手を置きたまえ。心の準備は、出来ているのだろう?』
まるで、言葉の揚げ足を取るような物言いだ。実際、コハクの選択につけ込む意図で発言したのは間違いない。
自然と不快感を覚える。だが、一度心で決めた事を曲げるつもりは無かった。
「やれやれ···せっかちな野郎だぜ」
小さく毒づきつつ、コハクは手を伸ばす。
神機が収められた台座の上にはもう一つ、半円形状の物体が置かれていた。それはボルトを止める際に使用されるナットを半分に割いた形で、台座の上部に対となる部品と共に組み込まれている。
コハクは、伸ばした左手を左右に割かれた半円形状の物体の上に置いた。
『ではこれより、適合検査を開始する』
号令が木霊した──その刹那に。
「───ッ」
台座の上部が、さながらギロチンのように落下。瞬く間にコハクの手首が半円形状の部品に挟み込まれる。
注射針のような物に刺されると同時、何かが体内に流れ込んで来るのが手に取るように分かった。
「ッ、────、くッ······」
目立つ痛みは感じないが、それ以上に体内へと流れ込んでくる
自分の腕だけではない。神宿コハクという存在そのものが、
「···ぅ······、──ッ!」
インバネスコートの男は
忘れてはいけない事実がある。
逆説的に、オラクル細胞を受け入れた瞬間、神宿コハクという存在は純粋な人間では無くなるのだ。
無論、コハクはそれを承知の上で、
だがしかし、心の底にある
それが、拒絶という形で現れていた。
もはや吐き出してしまおうかと、本気で考えた──その時である。
『否──飲み干せ』
『身体に入る
潔く受け入れたまえ。後は私の領分だ』
遠巻きに後は任せろと言われ、コハクは深呼吸を二回ほど繰り返す。
矛盾の連鎖爆発を起こす
そして──
空気が盛大に
思わず
そこには、ナットで固定された赤い腕輪が
まだ装着したばかりのためか、腕輪の周囲には黒い煙が
「············」
コハクはそのまま、台座の上に置かれた神機を握りしめる。
瞬間、神機から他の生命体と変わらぬ
力を入れて持ち上げる。平均的な男性と比べ、細い部類に入るにも
コハクが驚いたのは神機の軽さよりも、その
だが、それも当然のことだろう。
神機を操るには、その所有者──つまり
それを可能としているのが、
正式名称、P-53アームドインプラント。
つまり、神機とは人工的に作られた
ゆえに、たとえ
「ん······?」
ふと、穂にある
ルーン文字とオガム文字が混ざったような、それでいて双方の文字を理解していようとも、決して解読も発音も不可能な言語。
逆光でよく見えない言語を確認して見ようと、長槍を掲げてみる。
すると、穂と柄が繋がる接合部分に
「────!」
次瞬、自分の左手が
『──おめでとう、神宿コハク君。君がこの支部初の
乾いた拍手を打ち鳴らしながら、事務的な祝辞の言葉が降ってきた。
槍から視線を切り、頭上を
どうやら、極東支部初の“何か”になったようだが、実感らしい実感は感じられない。
『適性試験はこれで終了だ。次は適合後のメディカルチェックが予定されている。始まるまで、その扉の向こうの部屋で待機していてくれたまえ。
気分が悪いなどの異常がある場合は、すぐに申し出るように』
声は、一通りの注意事項を伝え終えると、マイクの電源を落とした。
コハクは神機を肩に担ぎ、
「────?」
ふと、ガラス窓で区切られた部屋から
怪訝そうに目を細め、背後を振り返れば、数人の姿が確認できる人影の一人と目と目が
年齢は四十代半ばといったところか。一見すると二十代半ばにも
隣に立つ男が体型の分かりにくい黒のインバネスコートを羽織っているせいか、純白のロングコートを着こなす堂々とした姿を余計に際立たせていた。
極東地域では珍しい黄金の髪を持った男は、その琥珀色の瞳を静かに細めながら、口元に穏やかな笑みを浮かべる。
瞬間、背筋に
男にとって感情など、もはや自らを飾り立てる装飾品でしかなかった。
誰にも聞こえない声で、
本当は一ミリとて考えてもいないことを、平然とした顔で告げるのだ。
『期待しているよ』
一部、地底アリサこと『GOD EATER』のスピンオフ作品、『アリサ・イン・アンダーワールド』を参考にしています。
GE1主に対するシック支部長の認識も、『シルヴァリオ』プレイした後に読了すると、物凄く分かり安い。
後、『Dies irae』の正史である玲愛√が下地にあるため、「
ふと、疑問に思ったんだけど、獣殿がロンギヌスランゼに後継者だと認められた時って、どんな感じだったんだろう?
『Dies irae』のロンギヌスに書かれたルーン文字? オガム文字? 両方交えた造語? あれも気になるし···割と謎が残されたままなものが多い気がする。
では、今回はここまで。
またの次回に会いましょう| ・∇・)ノシ♪