Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】 作:フェルゼン
カツン、カツン···と、鉄製の床を打ち鳴らす甲高い足音は、ヒール
コハクとコウタの二人は
しかしそれも、むべなるかな。エントランスを往来する人影はあれども、その数はさして多くはない。
ましてや、床は鉄製の
その中で最も目立つ足音が響かせ、コハク達の方角へ歩いてきているとなれば、
「おぉぉ······」
二人の視線の先、そこにいたのは一人の女。
そして、何よりも目を引いてしまうのは──
“···何で、サイズの合った服着ねぇんだよ······”
異性も同性も関係なく、目に当てられるであろう光景。コウタが正に良い例と言えるがしかし、コハクは冷静な眼差しで上乳を遠慮なく
堂々とした足取りで、彼女は
「立て」
冷たく、命令を下してきた。
「へ?」
あまりに唐突な命令に、コウタが
そんな新人二人に呆れるように、黒髪の女は小さな
「立てと言っている! 立たんか!」
凄まじい迫力に満ちた号令に、
対するコハクは、気迫が波として襲いかかる
その態度を見て、黒髪の女が鋭く睨みつけた。しかし、つい先程まで至極真面目な話をしていた青年と同一人物なのかと疑いたくなるほど、今のコハクは
決して崩れる事のない態度に注意する気さえ失せたのか、黒髪の女は
「···まぁ、良いだろう。私は雨宮ツバキ、お前たちの教練担当者だ」
コハクの態度を瞬時に
「予定が詰まっているので簡潔に済ますぞ。
この後、メディカルチェックを済ませたのち、基礎体力の強化、基本戦術の習得、各種兵装の扱いなどのカリキュラムをこなして
瞬間、
「これまでは守られる側だったかもしれんが、これからは守る側だ。下らない事で死にたくなければ、私の命令には全て“YES”で答えろ、分かったな?」
嵐のように現れ、嵐のように
壊滅前の軍人もかくやとばかりの態度に
そんな二人を見て、ツバキは射殺せんとばかりに彼らを鋭く
「···分かったのなら返事をしろ!」
「はい!!」
「りょーかい」
一瞬の遅れも許さぬツバキの怒声が響き渡り、コウタは完全に
肝が
無気力な脱力感を
もはや、睨んだ所で意味が無いと悟ったのだろうか。話を聞いていないよりはマシと言わんばかりに肩を竦め、ツバキは淡々と話を進めていく。
「では早速、メディカルチェックを始めるぞ。まずは、神宿コハク。お前からだ」
名指しされた瞬間、ここに来て初めてコハクは目を丸くした。
「···俺······ですか?」
「お前以外に誰がいる?」
「まぁ···確かに、俺しかいませんが······」
適合試験の後にメディカルチェックが予定されているのならば、適合試験を受けた順番とメディカルチェックを受ける順番はイコールで繋がるのが自然だろう。
コウタが指定の場所にいた時間を
だと言うのに、メディカルチェックを受ける順番は先に適合試験を受けたコウタではなく、彼に続く形で適合試験を受けた自分だと言うのだから、誰だろうと不自然に思うはずだ。
その疑問。気付いてしまったがゆえ、コハクは目を
「適合試験を先に受けたのはコウタですよね? それなのに何故、俺が先にメディカルチェックを受ける事になってるんですか?」
「ああ、なんだ。そのことか」
率直に疑問を投げかければ、ツバキは一転して柔らかな微笑を口元に浮かべた。
「コウタが適合した神機は、二年前まで現役の
「······? なる···ほど······?」
気になる言い回しだったが、問い質した所で返答している時間はないと
先ほど、適合試験に立ち会った金髪の男の言葉を思い出す。彼が口にした極東支部初の
だが、彼女の言には前例がないとのこと。
それはつまり、新型神機の適合試験は何度も実施した事があるという前提が無ければ、言い回す事ができない言葉だろうが、しかし──
“···ここは、そーいう事にしておくか······”
きな臭い。下手に
「理解できたなら、話を本題に戻すぞ。ペイラー・
これからお前たちが世話になる、フェンリル極東支部、通称・アナグラだ。メンバーに
伝令を伝えるだけ伝えると、ツバキは
恐らく、彼女が担当している仕事は教練だけではない事が、その足取りから読み取る事が出来た。
「こ、怖ぇえ···あんな怖い人がおれらの教官かよぉ〜」
立ち去っていく白い背中を見送りながら、コウタは両肩を小刻みに震えさせていた。
ツバキの背中が見えなくなったのを確認し、終始一貫した態度を崩さなかった同期へ視線を移す。
「コハクも良く、あの人の目の前であんな態度を取れるよな。怖くなかったの?」
「だって、怖がるのめんどーだろ?」
「まぁ、確かにそうだよな〜······」
「ああ、そうだよ」
「うん」
一瞬だけ訪れる静寂。が、次の瞬間。
「って、えええぇぇぇぇぇぇええッ!?」
突然、コウタが何の前触れもなく、本日一の大声を上げた。
「んだよ、うっせぇーなぁ。
「いやいやいや、そうじゃないでしょ! 怖がるのがめんどーだからって、あんたどんだけ面倒くさがりなんだよっ!!」
「まぁ、人並みには」
「人並み!? あれで人並みな訳ないだろ!! 本当の面倒臭がりなら、目ぇ付けられるのを面倒くさがるだろ!? どーすんだよ、あれでツバキ教官に目ぇ付けられたら!!」
「それはそれでメンドーだが···自業自得だし······まだ、そーいう状況になった訳じゃねえからな」
「いやいや、そーなりかけてんじゃん!」
「ま、どうにかなるだろ。じゃあな」
「あっ、おい! ったく···どーなっても知らねえからなぁッー!!」
コハクの楽観的過ぎる態度に困惑するコウタを
恐らく、ツバキい言われた通り、施設内を見回るつもりであろう同期に、コウタは
それでも同期の態度は変わらず
あれで自分よりも年上という事実が信じられない。
ここは
「やっべぇッ! おれのメディカルチェック、
肝心な事を思い出し、コウタは一人、絶叫を響かせるのだった。
そして──
背後で轟く絶叫を耳にしながら、コハクは階段を上り、エントランス二階へと足を踏み入れた。
細長いピースに正方形のピースを組み合わせた張り方は、流れるように繊細であり、まるで
加え、一階エントランスと比べると、二階の方が清潔な印象を受ける。
出撃ゲートの直線上に客間を思わせるセンターテーブルとL字ソファが設置されている辺り、二階はエントランスと言うよりラウンジに近いのかもしれない。
“さて···
墓所区画を回るのは、メディカルチェックを受けた後にするとして、問題は墓所以外の施設から見回るかである。
父のイオンは滅多な事がない限り、アナグラで寝泊まりする事がなく、自身が神機の整備士だからと言う理由で家に神機を持ち帰ってくるような男だった為、アナグラで世話になった記憶が無い。
何処かに施設内を見れる地図は無いだろうかと思い、周囲を見渡した時。
「あっ。
頭部に
「君が今日、配属した新型の人でしょ、初めまして。あたしは
「あ、ああ···初めまして······」
「あれ? もしかして、緊張してる? それとも、いきなり声
「いや、そういうことじゃ──······」
「お前が一目見て、そいつの事を新型の適合者だと見抜いたことに驚いてんだよ、リッカ」
よく一目で、自分が新型の適合者だと分かったなと続くはずだった言葉はしかし、途中で割り込んできた声がコハクの言葉を受け継ぐ形で
リッカと名乗った少女と共に音源を辿り、食堂室の看板を掲げた扉がある方角へ視線を向けると、肩に紅色のライダースジャケットを羽織った
「悪ぃな、話が聞こえちまったモンで首を突っ込ませてもらった。で? リッカ、お前、自分の所属先をちゃんと教えたんだろうな?」
「あ、忘れてた。ごめんごめん、アハハ」
「ったく···笑い事じゃねぇだろう。物事には順序がある。そこを
「分かってる、分かってる。
「······本当に分かってるんだか···」
「本当だよー? 信用ないなー」
まるで、
それをコハクは彼らのすぐ
期せずして振り返る事となった過去に、ほんの僅かだけ思いを
「あ、なんか、ごめんね。君を驚かせた上、身内にしか分からない会話を始めちゃって」
不意に、リッカの視線がコハクに戻る。
先の失態も含め、
「いや、俺は別に気にしてねえよ」
「そっか···気にしてないなら良いんだ。あたし、神機整備に携わる
「ああ···それでか、なるほどな······」
改めて自己紹介された内容に、心の底から納得する。神機と言えど、定期メンテナンスが必要な兵器である事実は変わらない。
加え、その多くが高濃度の
「納得してくれた?」
問われ、コハクは静かに
「じゃあ、ついでだから紹介するね。この人は百田ゲンさん。主に現場で活躍する
「おう、よく来たな···
だが間違いなく、そんな奴らもオレ達が守ってる。オレの言葉じゃないが、数は少なくともそいつらがくれる感謝と笑顔を
「こう見えてゲンさんは昔、あの軍事帝国アドラーが誇る
「そうなのか?」
「······フッ、とは言っても昔の話だ。今となっちゃ、
ゆえに、自分のしている事は
無理もない。神機適合者の年齢制限が定められているから仕方がないとは言え、その
親の言葉でさえ
自分と同年代か、少し年下の同僚が
「まぁ···なんつーか······心中お察しします。ただ、俺個人としては、まだ軍が機能していた頃の
言いながら、右手を差し出して言葉を継いだ。
「俺は神宿コハクと申します。これから何かとご迷惑をおかけすると思いますが、改めてよろしくお願いします」
「お、おう···ご丁寧に、ごりゃどうも······」
しかもそれは、彼だけでは無い。一連のやり取りを見ていたリッカも目を丸くして、興味深そうに
「へ〜、コハク君って意外に礼儀正しいんだね。あたしの見立てじゃ、シュンやカレルほどじゃないにしろ、そこそこひねくれてるだろうな〜って予想してたんだけど······」
「そうなのか···?」
「少なくとも、あのツバキの目の前で、あんなふてぶてしい態度を取れるのはオレが知る限り、お前とソーマぐらいなもんだな」
ゲンの指摘に、そうそうと言って肯定するリッカ。
僅かに脳裏へ走った
「あっ、ツバキさんで思い出した。実は伝言を預かってて、一通り施設を回り終えたら自分のところに来るようにだってさ。あの人、怒ると結構おっかないから、早めに行った方が良いよ」
「分かった。肝に銘じとくぜ」
「今度、暇な時があったら一緒にメシでも食おうよ。じゃあね」
「ああ」
ツバキがいる場所を推測できるのか、その足取りに迷いはない。
リッカもまた、背伸びをして持ち場に戻っていく中、ゲンだけが階段を降りていくコハクの背中を見詰めており──
「神宿コハクか···また、因果な名前だ······」
顎に手を当てながら、彼は独り
リメイク前と比べ、日常パートを加筆しての投稿。
ゲンさんは、元軍属でピストル型神機の適合者だと言うので、本部のある場所が北欧であることから、アドラー帝国の人に( ̄▽ ̄;)
第十北部駐屯部隊ということは、皆さん大好き、あの第九北部制圧部隊・
大変だったろうな、糞眼鏡と別の意味で( ̄▽ ̄;)
因みに、ツバキさんのセリフを書いている時、何故か脳内にザミ姐がチラついた。
ザミ姐のセリフをツバキさんが言っても違和感なさそう(´・∀・`)
では、今回はここまで。
また次回にお会いしましょう| ・∇・)ノシ♪