Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】 作:フェルゼン
──雨宮ツバキは覚えている。
地獄絵図を現実にしたような居住区で。
ただ一つだけ散らずにいた命があったことを。
落日の空は血の色だった。
見渡す大地も血の色だった。
そこに転がる
彼等は
「············ッ」
腕輪のビーコン反応を
人々の生活が営まれていた痕跡は、もはや跡形もない。総て
広々とした街路には、露店商と思われる建造物が並んでいたが、それらも総て区別なく炎の
出来ないが、ほんの少し時間を
だがそれも、もはや過去の
居住区を見渡せば見渡すほど、ツバキの瞳に総てが
大地一面に海のように広がる血溜まり。
街区全体を荒波のような燃え盛る地獄の業火。
そこには、もはや生の
建造物が倒壊し、ただの
ふと、視界の端に映り込んだ
「──、─────ッ」
かつて見た光景が目の前の惨劇と重なり合い、大きく鼓動が
振り返りそうになる過去の
「···············」
様々な感情がツバキの胸中で渦を巻く。
何も珍しいことではない。今の時代、こんな事は全世界の人間がリアルタイムで経験している。
だが、しかし──いいや、
こんな、ありふれるべきではない悲劇を、ありふれた悲劇だと常識を塗り替える事に納得していいのだろうかと思う心が、無い訳では無いのだ。
腕輪のビーコン反応が示す座標に、血塗れの月を背にして
「······、子供?」
「··········」
思いも寄らぬ生存者の発見に、後輩が思わず口走ったのに対し、ツバキは驚愕で目を大きく見開いて少年のことを
彼女がオペレーターに確認を取らせた際、
では一体、何故? という疑問さえ──
······
「··················」
後輩が必死に呼びかける声さえ、
胸中を埋め尽くす感情の嵐。それを、喜びという
風に揺れる極東地域では珍しい黄金の髪。こちらを見据える瞳は、
病的に白い肌と、身に
糸の切れた人形のように
思わず後輩と共に声を上げ、少年の元に駆け寄ると、更に死の気配が強く感じられたが、微かな吐息と、緩やかに脈打つ鼓動の音を聞き、目頭の奥が自然と熱くなる。
生きている。死んでいない。
「よくッ、生きていてくれたッ」
気絶した少年の手を強く握り締め、ツバキは
ならばこそ──
雨宮ツバキは、
忘れられない。否、忘れる訳がない。
諦観という絶望に身を
尚も希望を信じ、
そして、今日、彼女は強く実感する。
勝利からは逃げられない、という現実を。
期せずして果たした再会と共に──
誰よりも早く、ツバキは運命の岐路に立たされていた。
コツ、と甲高い靴音を奏でて立ち止まる。
ツバキの目の前には、廊下と部屋を区切る扉。重々しい空気の中、彼女はその指先で部屋の呼出音を鳴らした。
「·········」
静寂。返答はない。
もう一度、呼出音を鳴らしてみる。
「············」
再び静寂。呼出音が虚しく鳴り響く。
一瞬、留守の可能性が頭を
人の気配が感じられる事から、部屋を留守にしている訳ではないらしい。
ならばと思い、三度目の呼出音を鳴らす。
だが、しかし──いいや、
「·····················」
仏の顔も三度まで。
「おい、リンドウ! 貴様、いったい何をモタモタしている! 居るなら、さっさと返事を──···」
男もかくやという勇ましさで、リンドウと呼んだ男の部屋に突入するツバキの声が、徐々に小さくなっていく。
しかしそれも、むべなるかな。鼻先を
「あ〜、姉上ぇ〜、こんな時間に、どうしたんですかぁ〜?」
加え、肝心の男は缶ビールを片手に良い感じに出来上がっている始末。
そして、ツバキの目の前で床に座り込み、缶ビールを勢いよく
これでも
「あ!
「·········」
「たまに羽目を外す程度なら、バチは当たらないと思いますけどね〜。ヒック」
「·········、···」
「って、姉上ぇ? 聞いてますぅ〜?」
つい先ほど自分の手で空にした缶ビールを差し出しながら、実姉に酒飲みを誘う見事な酔っ払いと化した
そして──
「へぶしッ!?」
衝動に駆られるがまま、彼女は
あまりに突然かつ手加減抜きの暴力に、リンドウの飲酒は強制的に中断。殴られた衝撃は想像を絶するものであり、軽々と彼の身体は
だがしかし、そこは
「なぁ〜にするんですかぁ、姉上ぇ〜。ヒック···折角の
「これの、どこが、晩酌だ! 一晩に十本以上も飲むのが貴様の晩酌か!?
「えぇ〜、良いじゃあないですかぁ。明日の仕事に響く訳じゃあないんだしぃ〜」
「それが甘いと言っているッッ!!」
再び衝動に駆られるがまま、彼女はタブレット端末で実弟の
「あーじゃーぱアーッ!」
同時、リンドウの口から飛び出す奇怪な悲鳴。
まるで、
そうして──
「···酔いは覚めたか?」
「はい······」
そこには、
こういう時の姉の恐ろしさは、誰よりも
ましてや、眼前に正真正銘の鬼が入れば、誰であろうと酔いは覚めるというもの。
リンドウの返事に満足したのか、ツバキは
「よろしい。ならば、楽な姿勢に戻れ。少し話が長くなるからな」
言われ、正座の姿勢を崩して
それを見届けたツバキは、
「今回、私がお前の所に来たのは、明日から行われる実戦演習で新型神機の
正式な辞令は明日下るだろうが、恐らくお前が
「···恐らくって······そりゃまた
「最終訓練における総合評価から見た、私の勘だからな。無理もない」
言いながら、ツバキは脇に挟んでいたタブレット端末を彼に手渡した。
「これが、今期のアナグラに配属される、新兵データだ」
「どれどれ···」
先程まで二人の新兵に行わせていた、戦闘訓練の詳細データがまとめられている端末を受け取り、リンドウはその内容を一つ一つ確かめていく。
藤木コウタ······総合評価AA+。平均的な成績だ。ここに来る新人は、大概これと同じような評価を受けて配属してくる。
大切なのは、ここから
実戦前に教えられる事柄など、現場では何の役にも立たない。
結局は経験がものを言う以上、コウタという少年は一般的で、可能性のある原石のようなものと言えるだろう。
特記事項に“落ち着きがない”と記載されているのが気になるところだが──任務に支障を来さねば、特に問題はないと断言できた。
ならばこそ──
「····こいつは······」
指を
神宿コハク······総合評価SSS+。現場に立ち続けて十年近くが経過しているものの、この成績は
当時は、
少なくとも、これ程の高評価を受けて入隊した新兵は、
もはや
特記事項に“常にやる気がない態度を示す”と記載されているのも気になるところだが──それ以上に、リンドウの意識を奪ったのは、ある一文だった。
「···
当惑したように、リンドウは指先で
無理もない。何故なら、その一文は
何よりも、リンドウが知る限り、
「まるで、焔の救世主様みたいな戦法ですね。もしかして、もう
かつて、この世界に
その一人が焔の救世主──
「残念ながらと、言うべきなのか···或いは喜ぶべきなのか······観測計器
「そりゃまた、微妙な所ですねー。どちらに転んだ所で、
残念ながらと言えば、
逆もまた
人間は、自分が知る常識の
「いずれにせよ、これほどの成績を残した人材だ。ただでさえ貴重な新型の適合者を、緒戦の任務で潰す訳にはいかないと、上の人間は考えるだろう。
ならば、誰が新型の上官に任命されるかなど、日の目を見るより明らかだ。違うか?」
「···なるほど、そいつは光栄な事で」
ツバキの説明に、リンドウは納得の声を上げた。
雨宮リンドウ──仕事よりも自室でゴロゴロする方が好きな性格ではあるが、その実力はアナグラに所属する
加え、同行者生還率90%を超えているとあらば、
「そこでお前には、少々注意を払って貰いたくてな」
「······? 何か問題でも? 特記事項には、“常にやる気がない”みたいなこと書かれてましたが······」
「いや、新人に関する問題点ではない。
ただ、そいつの適合した神機が少し特殊でな。リンドウ、お前も研修を受けた事がある神機だ」
「そー···でしたっけ······?」
目を白黒させながら、確認するとツバキから盛大な溜息がこぼれる。
無理もない。自他共に認める記憶力の
「···近々、このアナグラに配備予定のポール型神機の事だ。もう忘れたのか?」
「あー、あれか!」
問われ、リンドウは思い出したように手を叩く。
欧州支部では主流の神機であり、剣をモチーフとするブレード型神機とは異なり、ポール型神機は槍・
「確か、槍は穂先を展開できて、
「そうだ。ポール型神機は、特殊攻撃に変形が伴うため、ブレード型神機と比べてかなり複雑な制御機構を有している上、安定性にも欠点が見られる神機だ。
適合率が高い者でも、持ち主の制御が上手く行かず、神機が暴走する事も
「ああ···」
納得。神機の暴走など
恐らく、実戦に投入される前にその新人も注意を受けるだろうが、試験運用第一号として細心の注意を払うべきだろう。
何が起こるか分からない上に、高い潜在能力を保持した新兵が
「何か神機に違和感を感じたり、新人から相談された場合は、すぐに報告するように。分かったな?」
「了解です。姉上」
「リンドウ。私のことは、姉上と呼ぶなと言ったはずだ」
「はい! 雨宮大尉!」
わざとらしく背筋を伸ばし、返事をする実弟に、ツバキは深い溜息を吐く。
どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか。実姉であるツバキでさえ、彼の実態は掴み切れていない。
それはリンドウの良さでもあるのだが、それは同時に彼が何かを背負っていても、雲か
ゆえに、ツバキはいつもの様に言い聞かせる。
雲隠れしないように。霞のように消えてしまわぬように。
「良いか? 必ず、生きて帰ってこい」
「分かってます分かってます」
ふざけたように返事をするリンドウ。
本当に分かっているのかと疑ったが、彼が生き抜くことを信条としているのを誰よりも
全く···と口走りながら、
“無茶だけはしてくれるなよ······”
姉として、上司として、彼女がリンドウに望む事はそれだけだった。
まるで駄目なリンドウさんは、「GOD EATER オフショット」と、続編の「GE2」、そして地味に「pixiv百科事典」に記された、「仕事よりも家でダラダラしたい」発言も参考にしています。
同じ「リンドウ」でも、「GE」の「雨宮リンドウ」と、「KKK」の「
(名前の由来は、花の竜胆だけどね^^;)
冒頭は、ツバキ視点から見た「Prologue」の出来事。
個人的に、本編の立ち回り方から、ツバキさんは誰よりも早く運命の岐路に立たされたのではないか? と考察しています。
そして、サラッと登場。ウルトラトンチキ。
本作における黄昏の守護者、その一人ですね。はい。
後、それ勝率あるの? なメンバーが控えてます。
では、今回はここまで。
また次回に会いましょう|・x・)ノシ