Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

25 / 44



第五話 初陣/Die erste Bestellung 中編

3

 

 

 ──雨宮ツバキは覚えている。

 

 地獄絵図を現実にしたような居住区で。

 ただ一つだけ散らずにいた命があったことを。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 落日の空は血の色だった。

 見渡す大地も血の色だった。

 

 そこに転がる(すべ)ての(むくろ)が、(アラ)(ガミ)という現実に出会うまで、いつ終わるか分からない平凡とした日常が永遠に続くと信じ、普通の生活を営んでいた者達だ。

 彼等は(アラ)(ガミ)の襲撃により日常を壊され、()()()()()()()()()()とフェンリルに見捨てられ、(つい)(つい)まで救い手は決して訪れぬのだという現実を目の当たりにしながら、

 (アラ)(ガミ)の侵入を防ぐ壁に(もっと)も近い、この外部居住区で。

 

 「············ッ」

 

 腕輪のビーコン反応を(いち)()*1の希望と抱きながら疾走する途中、(いな)(おう)でも視界に飛び込む光景と、鼻をつく強烈な血と()けた()(にく)の匂いに、ツバキは奥歯を()()める。

 人々の生活が営まれていた痕跡は、もはや跡形もない。総て(アラ)(ガミ)により壊され、萌えているのは()(れき)と、既に(ほね)(ずい)まで炭化した人の死体だけ。

 広々とした街路には、露店商と思われる建造物が並んでいたが、それらも総て区別なく炎の(たき)()()べられて、何を取り扱う店なのか判別することすら出来ない。

 出来ないが、ほんの少し時間を(さかのぼ)れば、この街路を中心に活気溢れた人々の日常が(つむ)がれていたことが、嫌になるほど(うかが)えた。

 

 だがそれも、もはや過去の()()でしかない。

 居住区を見渡せば見渡すほど、ツバキの瞳に総てが克明(こくめい)と映し出される。

 大地一面に海のように広がる血溜まり。

 街区全体を荒波のような燃え盛る地獄の業火。

 そこには、もはや生の()(ぶき)など、何一つとして感じられない。食い千切られたと(おぼ)しき肉片も、切り裂かれた服の破片も、(みな)(ひと)しく不浄を清める炎の(たき)()として()べられたのだ。

 

 建造物が倒壊し、ただの()(れき)になろうとも。人の死体が含む油分が燃え尽き、骨の(ずい)まで炭化しようとも。そんなことは関係ないと(のたま)うかの如く、(ごう)(ごう)と燃え続ける。

 ふと、視界の端に映り込んだ(すす)だらけの人形が炎に()まれて消えるのを、ツバキは(たま)さか目撃してしまい──

 

 「──、─────ッ」

 

 かつて見た光景が目の前の惨劇と重なり合い、大きく鼓動が()ね上がる。自我を制御する術に長けていなければ、一瞬で過去の痛みに囚われていただろう。

 振り返りそうになる過去の幻肢痛(いたみ)から、今だけ必死に目を()らすよう言い聞かせ、ツバキは後輩と共に走り続けた。

 

 「···············」

 

 様々な感情がツバキの胸中で渦を巻く。

 何も珍しいことではない。今の時代、こんな事は全世界の人間がリアルタイムで経験している。

 だが、しかし──いいや、()()()()()

 こんな、ありふれるべきではない悲劇を、ありふれた悲劇だと常識を塗り替える事に納得していいのだろうかと思う心が、無い訳では無いのだ。

 

 ()()()()()()()──そう、上層部に判断され、実際に生存者などいる訳がないという(てい)(かん)が心に()ぎりそうになった、その時である。

 腕輪のビーコン反応が示す座標に、血塗れの月を背にして(たたず)む、一人の少年がいた。

 

 「······、子供?」

 「··········」

 

 思いも寄らぬ生存者の発見に、後輩が思わず口走ったのに対し、ツバキは驚愕で目を大きく見開いて少年のことを(ぎょう)()する。

 彼女がオペレーターに確認を取らせた際、()()()()()()()()()()()と彼は答えた。歯切れの悪さから、(うそ)()いていた可能性は無に等しい。

 

 では一体、何故? という疑問さえ──()()*2

 ······()()()()()()

 

 「··················」

 

 後輩が必死に呼びかける声さえ、()()か遠くから聞こえる。

 胸中を埋め尽くす感情の嵐。それを、喜びという(ちん)()な言葉でしか表現できない。

 風に揺れる極東地域では珍しい黄金の髪。こちらを見据える瞳は、(メタル)(ブルー)を思わせる(あお)

 病的に白い肌と、身に(まと)う白を基調としたフード付きアルスター・コート風の服が、()を死者のように映すがしかし、返り血で汚れた少年の背を優しく照らす血塗れの満月が()の生を肯定しているように見えた。

 

 糸の切れた人形のように(くずお)*3れる少年。

 思わず後輩と共に声を上げ、少年の元に駆け寄ると、更に死の気配が強く感じられたが、微かな吐息と、緩やかに脈打つ鼓動の音を聞き、目頭の奥が自然と熱くなる。

 生きている。死んでいない。()()()()()()()と上層部に判断され、実際に生存者など皆無と思われた絶望の中、この少年()()は生きていてくれたのだと、強く感じられて──

 

 「よくッ、生きていてくれたッ」

 

 気絶した少年の手を強く握り締め、ツバキは()()する。(おの)が心情を。

 ()()()()()()()()──ただ、それだけの事がどうしようともなく嬉しくて、生来の性格ゆえに感謝の言葉ではなく激励の言葉を少年へと伝えたのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

 

 ならばこそ──

 雨宮ツバキは、()()()の事を鮮明に覚えている。

 

 忘れられない。否、忘れる訳がない。

 諦観という絶望に身を(ゆだ)()け。

 尚も希望を信じ、(すが)り続けた末に。

 (ようや)く出会えた希望なのだから。

 

 そして、今日、彼女は強く実感する。

 勝利からは逃げられない、という現実を。

 ()()は何処までも追い駆けて来る事実を。

 

 期せずして果たした再会と共に──

 誰よりも早く、ツバキは運命の岐路に立たされていた。

 

 

4

 

 

 コツ、と甲高い靴音を奏でて立ち止まる。

 ツバキの目の前には、廊下と部屋を区切る扉。重々しい空気の中、彼女はその指先で部屋の呼出音を鳴らした。

 

 「·········」

 

 静寂。返答はない。

 もう一度、呼出音を鳴らしてみる。

 

 「············」

 

 再び静寂。呼出音が虚しく鳴り響く。

 一瞬、留守の可能性が頭を()ぎった。確認の為に、感覚を()()まして、室内の気配を探る。

 人の気配が感じられる事から、部屋を留守にしている訳ではないらしい。

 

 ならばと思い、三度目の呼出音を鳴らす。

 だが、しかし──いいや、()()()と言うべきか。三度目の呼出音にも(かか)わらず、部屋の主が呼び出しに応じる気配どころか、音に反応する気配さえ(かい)()

 

 「·····················」

 

 仏の顔も三度まで。

 (しび)れを切らしたツバキは、問答無用に新型神機適合者の上官になるであろう男の部屋へと踏み込むのだった。

 

 「おい、リンドウ! 貴様、いったい何をモタモタしている! 居るなら、さっさと返事を──···」

 

 男もかくやという勇ましさで、リンドウと呼んだ男の部屋に突入するツバキの声が、徐々に小さくなっていく。

 しかしそれも、むべなるかな。鼻先を(くすぐ)る酒精の匂いと、床に転がる大量の空き缶を目にして、絶句せずに居られる人間など誰にもいまい。

 

 「あ〜、姉上ぇ〜、こんな時間に、どうしたんですかぁ〜?」

 

 加え、肝心の男は缶ビールを片手に良い感じに出来上がっている始末。

 神機奏者(ゴッドイーター)は、星辰奏者(エスペラント)技術を土台に製造された存在の為、本来は()()()()()()なのだが、(まれ)にいるのだ。強化措置を受けてもなお、()()()()()()()の持ち主が。

 

 そして、ツバキの目の前で床に座り込み、缶ビールを勢いよく(あお)る男もまた、その珍しい()()()()()()()の持ち主である。

 これでも(たしな)めるようになれた分、実際かなり改善はされていると言うのだから、余程の上戸だったに違いない。

 

 「あ! (せっ)(かく)だし、姉上も一杯どうです?」

 「·········」

 「たまに羽目を外す程度なら、バチは当たらないと思いますけどね〜。ヒック」

 「·········、···」

 「って、姉上ぇ? 聞いてますぅ〜?」

 

 ()(れつ)の回らぬ言葉。酔いが冷め切らぬ声。

 つい先ほど自分の手で空にした缶ビールを差し出しながら、実姉に酒飲みを誘う見事な酔っ払いと化したまるで駄目な弟(雨宮リンドウ)の姿に、ツバキは僅かに()(まい)を覚える。

 

 そして──

 

 「へぶしッ!?」

 

 衝動に駆られるがまま、彼女は(わき)に挟んでいたタブレット端末を用い、弟の顔面にアッパーカットを叩き込む。

 あまりに突然かつ手加減抜きの暴力に、リンドウの飲酒は強制的に中断。殴られた衝撃は想像を絶するものであり、軽々と彼の身体は(きり)()み状に回転しながら、()まりに溜まったゴミ袋の山へと、リンドウは無様に墜落した。

 

 だがしかし、そこは流石(さすが)と言うべきか。ゴミ山に埋もれた酔っ払いは、ゆっくりとした動作ではあるものの、即座に上体だけ起こして突然の来訪者を()めつける。

 

 「なぁ〜にするんですかぁ、姉上ぇ〜。ヒック···折角の(ばん)(しゃく)だったのにぃ〜〜」

 「これの、どこが、晩酌だ! 一晩に十本以上も飲むのが貴様の晩酌か!? ()(こう)(ひん)を嗜むのは貴様の勝手だが、程々にしておけと、私は何度も貴様に言ったはずだ!!」

 「えぇ〜、良いじゃあないですかぁ。明日の仕事に響く訳じゃあないんだしぃ〜」

 

 (くちびる)(とが)らせ、異を唱えながらも(そば)に落ちていた缶ビールを拾い上げ、ステイオンタブと呼ばれる口金を開こうとするリンドウ。

 (ぼう)(じゃく)()(じん)のような振る舞いを見せつける実弟に、ツバキは(ひたい)に青筋を浮かべた──その時。

 

 「それが甘いと言っているッッ!!」

 

 再び衝動に駆られるがまま、彼女はタブレット端末で実弟の(あご)を打ち上げる。

 

 「あーじゃーぱアーッ!」

 

 同時、リンドウの口から飛び出す奇怪な悲鳴。

 まるで、()(もつ)()()(さか)へ真っ逆さまに()ちていくような声が、ベテラン区画に()(だま)した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 そうして──

 

 「···酔いは覚めたか?」

 「はい······」

 

 そこには、()(ごく)(えん)()の如く雄々しく()(おう)()ちしたツバキと、産まれたての()鹿(じか)のように(ふる)えるリンドウの姿があった。

 

 こういう時の姉の恐ろしさは、誰よりも()(しつ)*4しているがゆえ、もはや逆らう気にすらならない。

 ましてや、眼前に正真正銘の鬼が入れば、誰であろうと酔いは覚めるというもの。

 リンドウの返事に満足したのか、ツバキは(たん)(そく)と共に肩を(すく)めた。

 

 「よろしい。ならば、楽な姿勢に戻れ。少し話が長くなるからな」

 

 言われ、正座の姿勢を崩して胡座(あぐら)をかくリンドウ。

 それを見届けたツバキは、(おごそ)かに話を再開する。

 

 「今回、私がお前の所に来たのは、明日から行われる実戦演習で新型神機の神機奏者(ゴッドイーター)が投入される。

 正式な辞令は明日下るだろうが、恐らくお前が(くだん)の新型の上官を務める事になる可能性が高いので、その引き継ぎを行いに来た」

 「···恐らくって······そりゃまた(あい)(まい)ですね」

 「最終訓練における総合評価から見た、私の勘だからな。無理もない」

 

 言いながら、ツバキは脇に挟んでいたタブレット端末を彼に手渡した。

 

 「これが、今期のアナグラに配属される、新兵データだ」

 「どれどれ···」

 

 先程まで二人の新兵に行わせていた、戦闘訓練の詳細データがまとめられている端末を受け取り、リンドウはその内容を一つ一つ確かめていく。

 藤木コウタ······総合評価AA+。平均的な成績だ。ここに来る新人は、大概これと同じような評価を受けて配属してくる。

 大切なのは、ここから()()まで生き延びる事が出来るのかだ。

 

 実戦前に教えられる事柄など、現場では何の役にも立たない。

 結局は経験がものを言う以上、コウタという少年は一般的で、可能性のある原石のようなものと言えるだろう。

 特記事項に“落ち着きがない”と記載されているのが気になるところだが──任務に支障を来さねば、特に問題はないと断言できた。

 

 ならばこそ──

 

 「····こいつは······」

 

 指を(すべ)らせた刹那、リンドウは驚愕に目を(みは)らせる*5

 神宿コハク······総合評価SSS+。現場に立ち続けて十年近くが経過しているものの、この成績は()()()()()()()()()()()()()()

 当時は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言われた為、あまり気には止めなかったがしかし、強烈な印象は()()に記憶力が(とぼ)しい人間だろうと、記憶に残りやすいものなのだ。

 

 少なくとも、これ程の高評価を受けて入隊した新兵は、()()()()()()を取り除けば、今まで現れた事がない。

 もはや(いつ)(ざい)を通り越して、異常の域と言えるだろう。

 特記事項に“常にやる気がない態度を示す”と記載されているのも気になるところだが──それ以上に、リンドウの意識を奪ったのは、ある一文だった。

 

 「···()()()()()()()()()()()()()()()()()······ねぇ···」

 

 当惑したように、リンドウは指先で(ほお)()く。

 無理もない。何故なら、その一文は()(とぎ)(ばなし)か夢物語に出てくるような一文であある。

 何よりも、リンドウが知る限り、()()()このような戦法を行えるのは、ただ一人と限られているからだ。

 

 「まるで、焔の救世主様みたいな戦法ですね。もしかして、もう星辰光(アステリズム)に目覚めてるんですか? だとしたら、この成績も(うなず)けるものがあるんですが······」

 

 かつて、この世界に(アラ)(ガミ)が出現したばかりの頃、多くの人々が目撃し、その存在を記録されたとされる存在“たち”がいる。

 その一人が焔の救世主──()()()()()()()()()()()()()()()()究極の破壊者にして、(かく)()(おう)(さつ)星辰烈奏者(スフィアセイヴァー)だった。

 

 「残念ながらと、言うべきなのか···或いは喜ぶべきなのか······観測計器()()星辰光(アステリズム)の輝照は確認されていない」

 「そりゃまた、微妙な所ですねー。どちらに転んだ所で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですもん」

 

 残念ながらと言えば、(くだん)の青年が常識の(らち)(がい)にあると認める事になる。

 逆もまた(しか)りだ。神宿コハクの異常性を無条件に認めるどころか、それを喜んで受け入れる等、周囲の人間から正気を疑われる。

 人間は、自分が知る常識の(はん)(ちゅう)から突き抜けた個を見た時、その外れ具合に何らかの理屈を求めずにはいられない。

 神機奏者(ゴッドイーター)とて、(しょ)(せん)は人の子だ。イレギュラーな存在を前にして、()()()()()()()()と受け入れられる程、出来の良い器量など持ち合わせている訳がないのは、自然の道理と言える。

 

 「いずれにせよ、これほどの成績を残した人材だ。ただでさえ貴重な新型の適合者を、緒戦の任務で潰す訳にはいかないと、上の人間は考えるだろう。

 ならば、誰が新型の上官に任命されるかなど、日の目を見るより明らかだ。違うか?」

 「···なるほど、そいつは光栄な事で」

 

 ツバキの説明に、リンドウは納得の声を上げた。

 雨宮リンドウ──仕事よりも自室でゴロゴロする方が好きな性格ではあるが、その実力はアナグラに所属する神機奏者(ゴッドイーター)の中でもエース級であり、一般的な神機奏者(ゴッドイーター)の3.2倍程だと言われている。

 加え、同行者生還率90%を超えているとあらば、()もあらん。ただでさえ、現場は常に人手不足なのだから、緒戦の任務で貴重な人材──しかも新型の適合者──を失いたくないと考えるのは、人として当たり前の感情だった。

 

 「そこでお前には、少々注意を払って貰いたくてな」

 「······? 何か問題でも? 特記事項には、“常にやる気がない”みたいなこと書かれてましたが······」

 「いや、新人に関する問題点ではない。

 ただ、そいつの適合した神機が少し特殊でな。リンドウ、お前も研修を受けた事がある神機だ」

 「そー···でしたっけ······?」

 

 目を白黒させながら、確認するとツバキから盛大な溜息がこぼれる。

 無理もない。自他共に認める記憶力の(とぼ)しさとは言え、つい先日まで受けていた研修の内容まで忘れていたとなれば、誰であろうと呆れるものだ。

 

 「···近々、このアナグラに配備予定のポール型神機の事だ。もう忘れたのか?」

 「あー、あれか!」

 

 問われ、リンドウは思い出したように手を叩く。

 欧州支部では主流の神機であり、剣をモチーフとするブレード型神機とは異なり、ポール型神機は槍・(つち)・鎌という、(なが)()が特徴的な神機だったと記憶している。

 

 「確か、槍は穂先を展開できて、(つち)はブースト発射、鎌は刃を伸ばせるでしたっけ? オレが受けたのは槍だったんで、比較的安定してるなと感じましたが······でも、その分、デメリット面が大きいと聞いた記憶がありますが······」

 「そうだ。ポール型神機は、特殊攻撃に変形が伴うため、ブレード型神機と比べてかなり複雑な制御機構を有している上、安定性にも欠点が見られる神機だ。

 適合率が高い者でも、持ち主の制御が上手く行かず、神機が暴走する事も(まま)あるらしい。それをお前に伝えたくてな」

 「ああ···」

 

 納得。神機の暴走など()()()()

 恐らく、実戦に投入される前にその新人も注意を受けるだろうが、試験運用第一号として細心の注意を払うべきだろう。

 何が起こるか分からない上に、高い潜在能力を保持した新兵が()()()()()に陥ればどうなるかなど、言うまでもない。()()()()()()()()、リンドウ以外の人間で、彼の上官が務まる者はいなかった。

 

 「何か神機に違和感を感じたり、新人から相談された場合は、すぐに報告するように。分かったな?」

 「了解です。姉上」

 「リンドウ。私のことは、姉上と呼ぶなと言ったはずだ」

 「はい! 雨宮大尉!」

 

 わざとらしく背筋を伸ばし、返事をする実弟に、ツバキは深い溜息を吐く。

 どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか。実姉であるツバキでさえ、彼の実態は掴み切れていない。

 それはリンドウの良さでもあるのだが、それは同時に彼が何かを背負っていても、雲か(かすみ)のように分からないことを意味していた。

 

 ゆえに、ツバキはいつもの様に言い聞かせる。

 雲隠れしないように。霞のように消えてしまわぬように。

 

 「良いか? 必ず、生きて帰ってこい」

 「分かってます分かってます」

 

 ふざけたように返事をするリンドウ。

 本当に分かっているのかと疑ったが、彼が生き抜くことを信条としているのを誰よりも()(しつ)しているのは、他ならぬツバキ自身である。

 全く···と口走りながら、(おお)(ぎょう)に肩を(すく)めたくなるのを必死に(こら)え、そして──

 

 “無茶だけはしてくれるなよ······”

 

 姉として、上司として、彼女がリンドウに望む事はそれだけだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

*1
ごくわずかであること。ひとすじ。

*2
物事に感じ、喜びや悲しみに心を動かして発する声。ため息。

*3
くずれるように倒れる。

*4
知り尽くしていること。

*5
目を大きく開いて見る。





 まるで駄目なリンドウさんは、「GOD EATER オフショット」と、続編の「GE2」、そして地味に「pixiv百科事典」に記された、「仕事よりも家でダラダラしたい」発言も参考にしています。
 同じ「リンドウ」でも、「GE」の「雨宮リンドウ」と、「KKK」の「()()(りん)(どう)」では、キャラクター性が真反対に振り切れてるので、区別はしやすい。

 (名前の由来は、花の竜胆だけどね^^;)

 冒頭は、ツバキ視点から見た「Prologue」の出来事。
 個人的に、本編の立ち回り方から、ツバキさんは誰よりも早く運命の岐路に立たされたのではないか? と考察しています。

 そして、サラッと登場。ウルトラトンチキ。
 本作における黄昏の守護者、その一人ですね。はい。
 後、それ勝率あるの? なメンバーが控えてます。

 では、今回はここまで。
 また次回に会いましょう|・x・)ノシ

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。