Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

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第五話 初陣/Die erste Bestellung 後編

 生きて。

 いつか必ず幸せになれるから。

 

 生きて欲しい。

 どうか、キミだけでも真っ当に。

 

 生き続けて。

 守りたいと思えるモノが沢山あるはずだから。

 

 生き抜け。

 俺の息子ならば、せいぜい足掻いて見せろ。

 

 それは祈り、それは願い。

 幸福(さいわい)を込めた生に対する正の感情。

 

 負の感情が入り込む隙など一切ない。

 人に生きる事を望むのは、人として当然の心。

 邪念はなく、ただ純粋な願いに満ちている。

 

 ならばこそ。

 真意に気付けても、誰が自覚出来よう。

 

 彼に向けられた幸福(さきわい)は。

 それを望みし者に呪いを(もたら)すのだから──

 

◇ ◇ ◇

 

 

5

 

 翌日──

 

 ──なあ、おい。あれが(うわさ)の新型だろ?

 ──もう緒戦投入かよ。流石(さすが)、新型様は違うねぇ。

 ──まあ良いじゃない。これからの実績が見ものだわ。

 

 方々から聞こえてくる(ささや)きの中、コハクは深い(ため)(いき)と共に、ソファの背もたれに全身を預ける。

 彼が新型神機の適合検査を通過した事実は、たった一日で()()()()内に広がっていた。

 

 結果、()()に行こうと目立ち、周囲の人間は決まって同じ反応を示す。

 無理もない。新型が登場するという事は、今も現場で活躍し続けている神機奏者(ゴッドイーター)達は今後、旧型と呼ばれる事を意味している。

 ゆえに、彼らの大半は新参の神機奏者(ゴッドイーター)に対する眼差しには、純粋な好奇の他に、あからさまな敵意や(さい)()の念が込められていた。

 

 しかし、そうした者達へ、コハクが視線を向ければ、彼らは一斉に目を()らして、そそくさとその場から逃げていく。

 二度目の溜息が(あき)れと共に、口を()いて出た。

 

 "やれやれ──本気で聞こえないと思っていたとはね。その声量じゃ、俺でなくとも聞こえちまうぜーってな"

 

 胸中で独り()ちりながらも、コハクは周囲から聞こえてくる無遠慮な視線や評価など、全く(とん)(ちゃく)していない。

 ただ、態度が余りに露骨過ぎるので、呆れて(えり)を正そうと、睨みを効かせただけである。

 

 “···まさか······”

 

 ふと、嫌な思考が頭に()ぎり、再び視線をエントランスに戻した。

 

 “こいつら、()()()()()()()()()()()()()()、陰口を叩いていた···のか······?”

 

 最早それは、陰口と呼べる類ではない。

 だが、叩かれている側から見れば、周囲の人間が(はや)*1す言葉は、立派な陰口として聞こえるだろう。

 人は多かれ少なかれ、周囲の評価を気にする生物だ。自分に対して悪口を叩く他人の姿を見聞した日には、その者の自信や士気が下がるのは、火の目を見るより明らかだ。

 

 瞬間、コハクは本日三度目となる溜息を吐く。

 無造作に頭を()きながら、(おお)(ぎょう)に肩を(すく)めて、背もたれに()()かった。

 

 “いやいや、流石(さすが)(うたぐ)り過ぎだろ。何、考えてんだ···俺······”

 

 まるで、ここに居る人間の民度を、既に()(しつ)*2しているかのような感覚に、少し困惑する。

 それは、自分の(くつ)と他人の靴を()()(ちが)えた感覚と、何処か似ていた。

 

 履いた心地も靴のサイズも全て、自分が履いていた靴と酷似しているのに、何故か自分の靴とは思えない。

 靴を履いた瞬間、何かが違うと感じる、あの感覚に。

 

 “······にしても遅いな。今、何時だ?”

 

 ふと、脳裏に()ぎった疑問に、コハクはエントランスホールを望む大時計へと視線を向けた。

 

 大時計の針は、9時45分を過ぎようとしている。

 それを見て、コハクの(ほお)に呆れ汗が浮かんだ。

 

 “おいおい、集合時間とっくに過ぎてるじゃねーか。そりゃ、確かにツバキさんから遅れてくるとは言われたが···流石にこれは遅すぎだろ”

 

 そう、胸中で(ひと)()ちた時である。

 不意に、背後から大股で階段を降りる足音が響いた。瞬間、視線だけを逸らして噂を囁いていた者達は(みな)、足音の主を認識するや否や、言葉を交わす事さえ中断する。

 まるで、その主に影で人の悪口を言うような、嫌らしい人間だと思われたくないと言わんばかりに。

 

 「────?」

 

 唐突に訪れた静寂と、一際目立つ足音に釣られ、コハクもまた、背後にいる足音の主を見やる。

 (ぬれ)()(いろ)の髪を揺らし、悠々自適とした態度で階段を降りてくる男の様は、ありとあらゆる緊張感が抜けているかのようで。

 だがそれでいて、男から感じる(たい)(ぜん)とした(ふん)()()は、まるで青々と生い茂る竹林を思わせるような安心感が(ただよ)っていた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 「あ、リンドウさん」

 「ん?」

 「支部長が見掛けたら、顔を見せに来いって、言ってましたよ」

 「おーけー、見掛けなかった事にしといてくれ」

 

 ヒバリを経由して伝えられた支部長の招集を、リンドウと呼ばれた男は、流れるように拒絶した。

 まるで、長年の友からの誘いを断るような軽やかさに、コハクは思わず目を丸くする。

 いやいや、それで良いのか──と、胸中でツッコミを入れるよりが、ヒバリはリンドウを咎める事はしない。むしろ、苦笑と共に了承の意を示す程だ。

 

 “なんつーか···想像するよりも、偉く自由な社風だな、ここ······それとも、あの人が特別自由なだけなのか? っと···”

 

 ヒバリと別れた男が、真っ直ぐと此方(こちら)へ向かって歩いて来るのが見えた。

 すかさずソファーから立ち上がり、リンドウを出迎えるコハクだったがしかし──

 

 「よぉ、新入り。オレは雨宮リンドウ。

 形式上、お前の上官にあたる···が、まあめんどくさい話は省略する」

 「······は?」

 

 拍子抜けするほど、手短で気軽い挨拶に、コハクは呆気に取られ、思わず()(とん)(きょう)な声を上げる。

 しかし、眼前にいるリンドウは、至って真面目だと言わんばかりに言葉を続けた。(おう)(よう)と。

 

 「とりあえず、とっとと背中を預けられるぐらいに育ってくれ。な?」

 「んな、無茶苦茶な······」

 

 言葉の内容は簡素だが、難易度は高い。

 少なくとも、配属されたばかりの新人に要求して良いような内容では無かった。

 

 「あ、もしかして新しい人?」

 

 不意に、そこへ新たな女が歩み寄って来た。

 肩やら胸元やら(へそ)やら健康的な()(たい)(あら)わになる服装で、堂々と。

 当然、そういうものに耐性が低いコハクは、彼女を目にした瞬間、まるで凍り付いたかのように思考回路が停止する。

 しなやかな(たい)()は、それでいて筋肉が付き過ぎているということも無い。鍛え方が良いのだろう。女性特有の肉付きに加え、しっかりと引き締まったスタイルだ。腰の(くび)れも綺麗に出ている。

 恐らく、ツバキと一・二を争う肉体美の持ち主だろう事は、露出度の高い服装で嫌というほど理解出来た。

 

 出来たのだが──

 

 “···この人······下着、どうしてんだ?”

 

 背中開きのキャミソールなのだろう。横側面で自己主張している乳房を見て、そう思わざるを得ない。

 男は大抵、大艦巨砲主義と聞くが、ここまで露骨に見せつけられると、その価値の良さが更に薄くなるばかりだ。下着の有無すら謎というのもあり、わざとらしい印象を受ける。

 

 「あー、今厳しい規律叩き込んでるんだから、あっち行ってなさい、サクヤ君」

 

 リンドウがわざとらしく咳払いをして、コハクは息を()むように我に返った。

 厳しい規律とは、先程の要求を指しているのだろう。確かに、要求されている内容の難易度は高いが、とても規律と呼べるような類ではない。

 それに対して指摘するべきか悩んでいた、その時である。

 

 「了解です、上官殿」

 

 クスクスと微笑しながら、リンドウの要請にサクヤと呼ばれた女は応じた。

 そんな彼女を(いち)(べつ)すると、こちらの視線に気付いたのか、サクヤははにかんだ笑みを見せて、軽く手を振りながら踵を返す。

 彼女の態度を見て、コハクは全てを察した。即ち、ツッコミを入れたら負け、と言う奴である。

 

 「とまぁ···そういう訳で、だ。

 さっそくお前には実戦に出てもらうが、今回の緒戦の任務にはオレが同行する······っと、時間だ。そろそろ出発するぞ」

 「···りょーかいです、上官殿」

 

 ゆえに、コハクは何も言わない。

 本当の出撃時間は9時15分であることも、遅刻した理由などの一切を追求した所で、恐らく意味がないだろう。

 そうなると、一々ツッコミを入れていたら身が持たないのは、陽の目を見るより明らかだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

6

 

 

 そして──

 初任務の舞台となる、旧市街地へ二人は降り立った。

 

 出撃場であり、帰投場でもある高台から望む旧市街地は、現代版ゴーストタウンを思わせる。

 眼下に広がる光景を感慨深そうに見詰め、リンドウはポツリと(つぶや)いた。

 

 「······ここも随分、荒れちまったなぁ」

 

 口に(くわ)えていた煙草(たばこ)を投げ捨て、隣に並び立った新人へ視線を向ける。

 

 「おい、新入り。実地演習を始めるぞ」

 

 そう、声を掛けると、リンドウと同じように旧市街地を見下ろしていたコハクの瞳が、流れるようにリンドウを見やり、そして一言。

 

 「···新入りじゃなく、神宿コハクです」

 

 ()(だる)そうな声で、彼は静かに訂正してきた。

 

 どこまでも()り切れていながら、静穏と冴えた声。

 言語の異なる者が聞けば、(たい)(とう)とした風が吹いたように思えるだろう仄昏い声。

 されど重過ぎず、軽過ぎる事のない涼やかさが宿る声。

 聞いた事のある声と何処はかとなく似ていたが、自分の思い違いだったかと、リンドウは頭を掻く。

 

 「おっと、すまん。つい、癖でな」

 「ほー」

 

 目を半眼にさせて見据えてくるコハク。

 すかさず目を逸らすリンドウ。

 元を辿れば、リンドウが諸々の面倒臭い話──コハクの自己紹介も含めて──省略したのが原因である。

 自然な(しょ)()で話を省略したのだから、本当に(ただ)の悪癖なのかと疑われて当然だ。

 

 「と、とにかく···だ」

 

 わざとらしく咳払いをし、あからさまな態度で話を本題へ戻す。

 

 「んじゃ、コハク。オレからの命令は三つだ」

 「はぁ······」

 「()()()

 「──、────」

 

 言葉を(つむ)いだ瞬間、コハクの瞳が(わず)かに揺れ動いたのを、リンドウは気付かない。

 唯の上司として、当たり前の事を新人に叩き込むのだ

 

 「死にそうになったらにげろ。そんで隠れろ。

 運が良けりれば、隙を突いてぶっ殺せ」

 「·········」

 

 ふと、呆気にでも取られたかのように、コハクが(ぼう)(ぜん)としている事に気付き、リンドウはハッと我に返る。

 

 「あ、これじゃ四つか」

 「············」

 「ま、とにかく()()()()()。そうすりゃ万事どうにでもなる」

 

 まともに数を数えられない事に()(ちょう)しながら、リンドウは新人の肩を軽く叩いた。

 しかし、コハクからは何の反応もない。

 それを見て、リンドウは()(げん)そうに首を傾げたがしかし、ややあって。

 

 「···あんたも、俺に()()を望むのか」

 「ん?」

 

 ポツリと、何かを(つぶや)いた。

 死んだ魚のような気の抜けた目を伏せ、神機を握り締めた左手に力が入る。緊張している訳でも、恐怖している訳でもない。

 むしろ、神宿コハクという人間は実地演習と言う名の戦場を前にしている新人にも関わらず、その精神は(こう)(ふう)(せい)(げつ)の如く(せい)(ひつ)さを(たた)えていた。

 

 だがしかし、この青年は今、リンドウの命令を聞いて初めて、動揺らしい動揺を見せたのである。

 珍しい反応に、リンドウは(いぶか)しむように目を細めると、その疑念に答えるようにコハクが口を開いた。

 

 「別に···あんたの命令に思う所はないぜ。むしろ、同意見ですらある。ただ······」

 

 ただ──どうしても言いたい事が一つだけあるのだと、コハクは続ける。

 

 「俺に生きる事を望むのはあんたの勝手だが、俺はどうにも、俺に生きる事を望んだ奴ほど、決まって俺の目の前から消えちまう性質(タチ)らしい」

 「···············」

 

 それが何を意味しているのか、リンドウは()えて追求しない。

 今の時代、誰であろうと悲劇の一つや二つは持っているもので、それはコハクとて例外ではないということ。

 だからこそ、彼は言うのだ。

 

 「だから、その代わりと言っちゃあなんだが···()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()······」

 

 でなけりゃ、あんたも俺の前から消えてしまうから。

 そんな含みを持たされた言葉に、リンドウは再び頭を()く。自分が青年から感じていた奇妙な既知感は、気の()()でも何でも無かった。

 

 似ているのだ、この青年は。第一部隊に所属する、()()問題児に。

 そのくせ、()(かた)のベクトルは真逆だから、比重として相手に対する言葉がストレートになる。

 なまじ痛みを知るがゆえに、伝えてくる言葉が重く()(かか)るのだ。

 ゆえに、そういう空間をリンドウは好まず。

 

 「あー、あー、あーあーあーあーあーッ!」

 「ッ!? な、なんだよ。いきなり」

 

 唐突に、奇妙な声を上げる。

 

 「暗いッ」

 「は?」

 「お前さんは至極真面目にそれを言ってるんだろうが、真面目すぎていっそ暗いッ。声もボソボソしてて聴こえづらいしよー、あと、表情だな。表情。お前の表情筋は飾りか? ん〜?」

 「いででででででッ」

 「おぉ、伸びる伸びる」

 

 茶化すように新人の(ほお)を伸ばし、暗い雰囲気を吹き飛ばす。否。吹き飛ばそうと試みる。

 元より、(とが)った善意ではなく、素直な善意であるがゆえか、そこら辺も素直なもので。

 

 「痛いって言ってるだろうがッ!」

 「ぐほっ!?」

 

 強烈なボディブローが叩き込まれた。

 昨夜と良い、今日と良い。ちょいと殴られ過ぎやしないか、自分。

 

 「ったく···俺の表情筋は玩具(おもちゃ)じゃねえっつーの。それと、声がちぃせえのも元からだ。元から」

 

 目を半眼にさせながら、コハクは掌についた(ほこり)を払い落としていく。

 それを見て、リンドウは目を丸くした。

 未だ、声に覇気はなく、目は死んだ魚のように気が抜けているものの、茶化してくるリンドウに対する態度と表情は、まさに生のある感情の発露だ。

 

 「なんだ、お前···意外と感情豊かなんだな······」

 「どっちだよ」

 

 だから思わず、そんな事を呟くと、(ひたい)に青筋を立てるようなツッコミが返ってきた。

 

 「はは、すまんすまん。ちょいと茶化し過ぎた。

 んじゃあま、気を取り直して···おっ始めますか」

 「りょーかい」

 

 見据える先は、廃墟の街。

 コハクにとって、真に初陣と言える戦いが巻くを開けた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 討伐対象はオウガテイル一体。

 白く小型な恐竜を(ほう)彿(ふつ)とさせる(アラ)(ガミ)だが、決して(あなど)ることなかれ。(ひと)(たび)致命的な隙を(さら)せば、()(だれ)神機奏者(ゴッドイーター)とて簡単に捕食してしまう(アラ)(ガミ)だ。

 

 出撃地点から当該地域に降り立ち、リンドウが先導する形で索敵を開始する。

 西側の広場にはいない事を確認し、東側の路地へと歩き出すと、不意にコハクが足を止めた。

 

 「ん? どうした?」

 

 それに気付いたリンドウもまた足を止め、コハクの方を振り返る。

 新人の神機奏者(ゴッドイーター)にはよくある話だ。戦う力を手に入れたからこそ、逆に倒すべき(アラ)(ガミ)の恐怖に押し潰されてしまうことが。

 

 ゆえに、コハクも本当の実戦が近付くに連れ、恐怖の感情が()いてきたのだろうと、リンドウは検討を付けていたが、直ぐに考え違いであると気付く。

 コハクは、人差し指を口元に近付けて、静かにするよう(ハンド)信号(シグナル)を送ってきたのだ。

 

 それを見て咄嗟に口を閉ざすと、コハクは鋭く目を細め、協会の壁際に耳を()ます。

 何か聞こえたのだろう。壁際へ向けられていた視線が、流れるように此方(こちら)へ向けられた。

 

 コハクの意図を察し、リンドウは忍び足で曲がり角へと歩み寄る。

 気配を殺し、物陰から東側の路地を盗み見ると、ノシノシという重い足取りと共に、横穴の空いた教会の通路から(くだん)(アラ)(ガミ)が姿を現した。

 

 「おー、いたいた。あれが今回の討伐対象のオウガテイルだ。実物を見るのは、初めてだよな?」

 「···ノーコメントで······」

 

 言外に、実物を見るのは今回が初めてではないと、返答していたが、無言の肯定よりもまだ良い方だろう。

 何より、今回の討伐対象は(アラ)(ガミ)の中でも(もっと)も個体数が多いと言われている(アラ)(ガミ)だ。実物を見た事があるからと言って、それが必ずしも当人にとって地雷であるとは限らない。

 

 「よし。なら、そういう事にしておくぞ。

 オレが一気に仕掛ける。お前は様子を見ながら、後方からの支援を頼む」

 「りょーかい」

 「なーに、落ち着いてやりゃ、大した敵じゃない。それじゃあ、行くぞッ」

 

 指示が下ると同時、リンドウは宣言通り一気に脇道から表通りへと(おど)り出た。

 

 刹那、新たな(えさ)を探し求めていた(アラ)(ガミ)が、まるで(かま)(くび)(もた)*3げるように鬼面の尾を持ち上げ、此方を(へい)(げい)*4する二本脚の獣。

 (アラ)(ガミ)の中でも小型な方で──それでも人間と比較すれば、十分に巨大だが──新人の神機奏者(ゴッドイーター)達の初陣を飾る事が多い。

 とはいえ、(アラ)(ガミ)である事実に変わりはなく、決して油断出来る相手ではないのだ。その力は人間を遥かに(しの)ぎ、その牙は容易く人間の体を噛み千切り、その尾は人間を容赦なく叩き潰す。

 雨宮リンドウという獲物を捕捉したオウガテイルは、威嚇の咆哮を(ほとばし)らせ、(むち)のように尾をしならせた。

 

 「うおッ!?」

 

 予想よりも早い挙動に、先陣を切って戦場に飛び込んだ突撃兵は思わず(きっ)(きょう)*5の声を上げる。当たり前だが、車は急には止まれないように、人間もまた急には止まれない。

 なので、今回のように()(ばた)(くじ)かれれば、初撃を封じられると共に敵の攻撃を正面から受ける可能性もあるのだが──

 

 「そらよ」

 

 何やら随分と気の抜けた声が響くと同時、凄まじい銃声が木霊し、大口径砲も()くやとばかりの赤いレーザーが器用にオウガテイルの尾を貫き、敵の重心を崩しに()かる。

 結果、転倒させるのに失敗はするものの、リンドウの出端を挫こうとしていた攻撃は中断され、彼は無事にオウガテイルの(ふところ)に飛び込む事に成功。続けざまに突進斬りを叩き込む。

 

 「ふ──ッ」

 

 息を整え、二撃目・三撃目へと堅実に斬撃を増やし、損傷(ダメージ)を与えていく。

 それを(わずら)わしく感じたのか、オウガテイルが再び尾を振り上げた。人間サイズの敵ならば、一撃で吹き飛ばせる重い攻撃がリンドウに襲い掛かる。それは、前髪に(おお)われた彼の死角を狙うものであったが、

 

 「突っ込むぜッ」

 

 背後から響く宣言に合わせ、リンドウは後ろへ飛び退()く。次瞬、槍に装填(チャージ)していた力を解放させたコハクが、オウガテイルへ衝撃波を伴う突進突きを繰り出した。

 その刺突はオウガテイルの体表面を貫いたが、辛うじて硬質の表皮に覆われた尾と()(ちが)ったのだろう。コハクの口から小さな舌打ちが漏れ、頭から捕食せんと迫るオウガテイルの牙から、咄嗟にバク転する事で逃れて見せた。

 

 「そらよっと!」

 

 入れ替わるように、リンドウがオウガテイルへと突進し、捕食形態に切り替えていた神機でオウガテイルの一部を捕食する。

 

 「ギシャアッ!?」

 

 直撃を受け、吹き飛ばされるオウガ。バースト状態を解放させたリンドウはしかし、そのまま追撃する事無く、自分の背後へ後退した新人へアドバイスを送る。

 

 「あんま正面に立ち過ぎるなよ。頭からバクッといかれちまうからな」

 「そーいうのは始める前に言ってくれ。お陰で喰われ掛けた」

 「あ、悪ぃ。言い忘れてた」

 「忘れるなよ···」

 

 意外に重要だろう、それとツッコミを入れられ、苦笑するリンドウ。

 無論、地面に倒れ伏したオウガテイルが再び立ち上がり、どちらか一人に狙いを定めている事には気付いている。

 油断はない。慢心もない。だが、敵から見たリンドウは、目に見えた隙を晒す哀れな獲物である。

 

 「ガアァァァァァァアアッ!」

 

 咆哮と同時、オウガテイルがリンドウに向かって飛び込んできた。

 

 「っと、危ねえなッ!」

 

 それを待っていたと言わんばかりに、押し出されるような強風に叩かれながら、彼は正面からオウガテイルを迎撃する。

 オウガテイルの顔面を振り上げた長刀で殴り飛ばし、空中へと投げ出せば、すかさずコハクが握りしめた神機に力を装填させるのだ。

 

 しかもそれは、先程のような牽制の為の突進突き攻撃ではない。

 星辰体(アストラル)禍神体(オラクル)が視認できる濃度まで感応し、黄金と真紅の光が衝撃波となり、槍全体を包み込む。

 地球法則に従い、地に()ちて来るオウガテイルへ狙いを定めながら、その時を待ち続けていた。

 

 狙うは一点。叩き込むは留めの必殺。

 リンドウの神機が捉えたのは、仮面のように顔を覆う硬い表皮である。切断に特化したブレード型神機では、斬り付けて傷付ける事は出来ても、破砕や貫通することは出来ない。

 ゆえに、オウガテイルを投げ飛ばした瞬間、傷は浅いだろうと、二人は予想していたのだ。

 

 「今だッ。一気に叩き潰すぞッ」

 「分かった。善処はするぜ」

 

 オウガテイルが地面に落ちた瞬間、コハクに指示を出すと同時に、リンドウがすかさず追撃を掛け、受け身を取って着地していたオウガテイルの片脚を切断する。

 悲鳴のような怒号を上げ、オウガテイルはバランスを崩し、その場に倒れ込む。

 間髪入れず、コハクが地面を蹴り上げた。僅か数歩で、オウガテイルとの距離をゼロにまで縮め、そして──

 

 「オオオオオオォォォォォォォッ──!」

 

 (れっ)(ぱく)の気合いと共に、黄金と真紅の破壊光を解放した槍でオウガテイルの胴体を刺し穿つ。

 方向性は少し異なるものの、コハクが槍に装填させている光が破壊に特化している事実に変わりはない。

 加え、オウガテイルは身体の側面に貫通の弱点を抱える(アラ)(ガミ)だ。そんな所に破壊を極める二種類の光を叩き込まれればどうなるかなど、語るに及ばず。

 

 「ギガアァァァッ、ギギィィィィィィィィィィッ!!」

 

 鋼を擦り合わせたような絶叫を上げるオウガテイル。体の全てを喰らい尽くされる前に黒い(ちり)となって消滅する

 恐らく、体内にあるコアを先の一撃で喰われた為、オラクル細胞が身体の結合を維持出来なくなったのだ。

 

 ふぅ、と安堵の息を漏らすリンドウ。

 身を(ひるがえ)し、コハクの姿を探すと、彼は独り空を見上げていた。

 

 「···これで帰れるか······」

 

 ポツリと、独り呟いたのである。

 その一言に目を丸くしながら、思わず口角を釣り上げ、新入りの肩を抱き寄せた。

 

 「うぉッ!?」

 「いい動きだったぞ、コハク。初陣にしちゃあ上出来だ」

 

 ニッという音を付けるような笑顔を見せながら、リンドウは実地演習での彼の動きを評価する。

 唐突に肩を抱き寄せた為か、コハクは呆気に取られたまま、目を(しばたた)かせ、

 

 「いや、そりゃあんたが上手くフォローしてくれたからで···っと、すみません。つい」

 

 思わず飛び出した口調がタメ語であると、(よううや)く気付くや否や、即座に謝罪を口にした。

 

 「ははっ、気にすんな。元々オレは、そういう()()()態度が苦手なんだわ。だから、フツーの態度で接してくれると、正直オレもやりやすい」

 「······分かった。あんたがそう言うなら、以後こんな感じで接するが、構わねえな?」

 「·····················」

 

 改めて聞く砕けた口調に、やはり既知感を覚える。

 似ているのだ、この青年は。第一部隊に所属する問題児だけでなく、自分と因縁のある男とも。

 

 「リンドウさん?」

 「あー、いや、どうにもお前さんはオレの知り合いと似てるようで似てないもんだから、調子が狂うなーと思ってね」

 「────? それって···どういう······」

 「あー、なんだ、そのー、つまりあれだ、あれ! お前さんが気にする事でもないって事さね!」

 「そりゃあまた、無理矢理感が半端ない言い訳な事で」

 「む、細かいぞー、コハク。そんな細かい奴は、こーなっちまうぞ〜。うりゃあ!」

 「どうわッ!? お、おい、やめろ! 髪、崩れる、だろーがッ!」

 「えぇ〜、良いだろ〜。減るもんじゃねえし〜」

 「減るわッ! 主に俺のメンタルがッ!」

 

 先のやり取りを記憶から忘却させるように、子供のようなやり取りを重ねていく。

 実際、そういう趣旨が含まれていた事は否定しない。

 これは雨宮リンドウが向き合わなければならない過去(うんめい)であり、新しく自分の部下となった青年とは無関係な事柄だ。

 

 だが、それでも──

 

 “悪いな···新入り······”

 

 罪悪感が無いかと言われれば嘘になる。

 だから、胸中で謝罪を口にした。

 

 何故なら、雨宮リンドウは()()()()()()()()()()()()()である。

 いずれ必ず、()()()が訪れるのは間違いない。

 それが何時になるかは分からないし、こうやって接すること自体、ただの独り善がりなのかもしれないが、だとしても──

 この心配性な部下が生きる糧になるぐらいの思い出を与える程度なら、罰は当たらんだろうとリンドウは思うのだった。

 

 

*1
声をそろえてあざけったり、ほめそやしたりする。

*2
ある物事について、細かい点まで知りつくすこと。

*3
もちあげる。おこす。増す。

*4
横目でじろりとにらみつけること。

*5
おどろくこと。




 どうも、お久しぶりです。シャーマンキングや蟲師のマイブームが再来したら、更新日が軽く半月ぐらい放置する羽目になりました。

 アリサ・イン・アンダーランドこと通称、地底アリサを読むと分かるのですが、リンドウさんは本編が始まる六年前から既に運命の岐路を選択しているんですね。
 あくまでツバキさんは、誰よりも早く運命の岐路に立たされた人ですが、何故か見事に対照的になってくれましたよ、この姉弟。何これ、偶然って怖い。

 コハクはソーマのような根暗ちゃん(By.司狼)ではなく、根が生真面目なので、真面目な話をすると声のボソボソ感と相まって、印象が暗くなるだけという感じ。
 割と叫ぶし、デカい声もそこそこ出します。
 実際、男ボイス15は特大ダメージを受けると、結構大きな声で叫ぶ。

 というか、男ボイス15を担当していらっしゃる三浦祥朗さんの声の表現が非常に難しい件について。
 ソーマと確かに似てるけど、ソーマほどドスは効いてないし、掠れてもおらず、声は小さいけど聞き取りやすいという、まるで二律背反を声で実践しているかのよう。

 そんな不思議な声なんですよね、男ボイス15は。
 流石はパチスロゴッドイーターで、神薙ユウ君の声を演じてるだけはあるわー。
 某笑顔動画のコメントにセーラーサターンのサイレンス・グレイブ持たせたいとかあったけど、実際にやらせてみたいな。似合いそう(KONAMI感)

 それでは、今回はここまで。
 また次回に会いましょう。
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