Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

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第六話 戦場の華/Schlachtfeld Blume 中編

     3

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 一方、その頃──

 遅めの昼食を()る為、コハクはコウタと共にエントランス二階にあるラウンジを目指していた。

 

 「でさでさー、その時のイサム、何て言ったと思う?」

 「何て言ったんだ?」

 「俺は、俺達を裏切った監督テルミスを倒した。そして、俺達を強くしてくれた恩師テルミスは許す──だってよ! カッコイイよなぁッ!」

 「ほぉー」

 

 移動中の会話は、コウタが熱狂的に支持しているアニメの話で大半を占めている。

 無論、話を聞き流している訳ではない。彼の話を聞く限り、バガと呼ばれる球を打ち合って競うスポーツを題材にしたアニメだと、コハクは(おお)(ざっ)()に理解して耳を(かたむ)ける。

 ただ、年頃の青少年──コハクも同年代だが──が熱くなれる球技になるよう、アニメ向けに調整されているらしく、コウタの口から必殺技と思しき名前が飛び出す事に戸惑いを隠せない。

 

 「なんだよ、ノリ悪いなー。あ! もしかして、バガラリーに興味無かった?」

 

 ()ねたように(ほほ)(ふく)らませたコウタだったがしかし──次の瞬間には、申し訳なさそうに目を伏せて、そんな事を()()けて来た。

 年齢の割に良識を(わきま)えているのだろう。無関心な話題を聞かせられるほど、苦痛の伴うものはない。また、長話を続けて退屈に感じるものもない。

 そんなコウタの配慮を(あま)す事無く理解して、コハクは軽く首を横に振る。

 

 「いや、そういう訳じゃあないさね。ただ···俺の知るバガラリーと随分かけ離れてるんで、どう反応したもんかと思ってな」

 「えっ、マジ? バガラリー知らないの!?」

 「一応、知り合いの()()達の間で()()ってるのは知ってたが···肝心の中身は······って奴さね」

 「わ、悪ぃ! おれ、知ってるもんだと思って、つい···」

 「なーに、気にすんな。元々、俺はそういう話題には(うと)くてね。お陰で暇を持て余さずに済んだ。感謝するぜ」

 「なら、いいけどよぉ」

 

 (さかき)の研究室がある区画は、まるで役員区画と一般区画を(わか)つ境界とでも言うように、一般区画の中でも最上階の位置に施設が(もう)けられている。

 この為、移動時間の大半をエレベーターという密室で過ごすのだ。一人なら兎とも角かく、二人以上が搭乗している状況の中、目的地まで沈黙状態というのは、中々に気まずいものがある。

 意味のない仮定の話かもしれないが、もしコハクがコウタほどの話題性を有していたら、自分も彼と同じ事をすると断言出来た。

 

 「まあ、お礼じゃあねえが、今度そのバガラリーって作品──」

 

 見てみるわ、と続く筈だった言葉はしかし······

 

 「──ッと」

 

 目的地に到着し、乗場ドアが開かれると同時、まるで逃げ込むかのように搭乗してくる人影の肩と、彼は期せずして衝突してしまい、(とっ)()に謝ろうと背後(うしろ)を振り返る。

 だが、相手方は気付いていないのだろう。何事も無かったようにエレベーターに乗り込み、お陰で謝罪する暇さえ無かった。

 

 「──? どうした、コハク」

 

 それは、隣を歩いていたコウタも同様で、不思議そうに首を傾げている。

 コハクは困惑するように頭を()いた。後を追い駆けて謝罪する選択肢もあるが、相手の顔立ち所か姿形さえ見逃している以上、追い駆けた所で無意味だろう。

 

 「···仕方ねえかぁ······」

 

 この場合、謝罪するのは諦めた方が良い。エレベーターに搭乗したという事は、間違いなく極東支部(アナグラ)の関係者だろう。

 ならば、顔を合わせる機会が必ず訪れるはずだ。その時に相手方が覚えていたら、改めて謝罪すれば良いだけの話。

 

 「おーい?」

 「いや、何でもない」

 

 次瞬、背後からコウタに声を()けられ、コハクは(きびす)を返して軽く首を横に振る。

 食事前である以上、気分を害するような話を持ち込む気はない。

 衝突した相手に謝罪出来ずにいるのは悔やまれるが、ここは仕方がないのだと、()()()()()()()()と、己に言い聞かせた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 そして──

 

 「「いらっしゃいませー」」

 

 エントランス二階を挟んだラウンジへと足を踏み入れると、扉が開く音に続き、よく通る声が左右からステレオのように響いた。

 理由としては、出迎えた双子と思われる少女が元気だから。後は時間的な問題だろう。昼食時を過ぎている為か、或いは今も任務に(いそ)しんでいるのか、ラウンジを利用する神機奏者(ゴッドイーター)の姿が見受けられない。

 

 「あれ? コハクに、コウタじゃん。もしかして、今からメシ? なら、あたしも仲間に入れてよ。丁度、誰もいなくて、暇してたんだ」

 「そう、今日もお店は閑古鳥(かんこどり)!」

 「もういっそ、男の人に身請(みう)けでもしてもらうしか、くすん······」

 「「という訳で、本日のおすすめは、双子の満腹御奉仕セットでございまーす」」

 「オプションで、生クリームの女体和えもいかがですか? かしこまりましたー、にしし」

 「ニョタイアエ? なんだよそれ? おれ、そんな料理聞いたことねえぞ」

 「······」

 

 双子の()()いに、コハクは()()()()()()を味わい、目を丸くする。

 小悪魔の如き不敵な笑みも、悪徳商法じみた口説き文句も、あわよくば鴨葱(かねづる)にしようとする態度も──何故か、()()()()と感じるのだ。

 

 「ではでは、サクランボへの蜂蜜(ハチミツ)デコレーションも追加でどうですか?」

 「い、いいよ、別に! おれ、そこまで甘党じゃねえもん!!」

 「そう、釣れない事を言わずに······オマケでチョコレートバナナならぬ、チョコレート双子(ダブル)ピーチもお付けしますから」

 「だ〜か〜ら〜ッ、人の話を聞けってぇ〜!」

 「あはははは! いいねー、そこだいけいけー」

 「ちょっ、リッカさん! (あお)ってないで、助けて下さいよッ!!」

 

 などというリッカの気楽で無責任な声援の中、切れ味の鋭いツッコミで助けを求めるコウタ。対して双子の店員は、悪魔のような笑みを浮かべ、ジリジリと初心(うぶ)な少年へと(にじ)()っていく。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()かのように迫る双子は、まさに小悪魔と呼ぶに相応しい。

 

 「「ねえ、お願いお客様ぁん」」

 「ダメダメ! おれには養わなきゃいけない家族がいるんだから! 身請けとか、よく分かんないけど···そう簡単に請け負えるものじゃないから!」

 「はぅわ! やだ、この子すっごい健気······!

 今どきトップクラスのレアさだよ、ティナ」

 「ですねえ、ティセ。いじれるだけいじれそうで、わたしも段々面白くなってきましたよ」

 「いやいや、面白がるなよッ! いじられるこっちの身にも──ああ、もう! 見てないで、助けてくれよ、コハクぅッ」

 

 最早、手一杯だと悲鳴を上げるコウタに、はたとコハクは我に返る。

 双子(ハンター)に狙われた鴨葱(コウタ)を救いの手を差し伸べようと、一歩前に踏み出して──

 

 「なあ···ティナ、ティセ······とか、言ったよな。君ら、前に何処(どこ)かで、俺と会った事があるか?」

 

 コウタを背中に(かば)いながら、今も感じる()()()()()()の正体を探るべく、コハクは双子へ問い掛けた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

   4

 

 

 刹那、双子の瞳がこれ以上ないほど見開かれる。

 まるで、()()()とでも言うように。

 だが、驚愕も一瞬。何かを理解するや否や、双子は口元に新たな標的(おもちゃ)を見つけた子供のような笑を浮かべた。

 

 「ほほぉ〜、これがいわゆる()()()って奴ですな、ティナさんや」

 「は?」

 「ええ、間違いなく口説かれてますよ、わたし達」

 

 彼女達は一体、何を話しているのだろう。先程の質問の何処に口説き要素があったというのか、全く理解する事が出来ない。

 だが、火に油を注ぐ行為ではあったらしく、双子は標的(おもちゃ)を変えて、躙り寄ってくる。

 

 「ふふ。前にも何処かでお会いしたか? ···なんて、口説き文句の代名詞を用いて()()()して来るとは、コハクさんもなかなか大胆な方ですね」

 「でもでもぉ、そんなお兄さんも嫌いじゃなかったりするというかぁ〜」

 「残念ながら、わたし達はあなたとお会いした事はありませんが···コハクさんがお望みとあらば」

 「あたし達の全てを特別に、見せてあ・げ・ちゃ・う」

 「いや、そういう意味じゃねえよ」

 

 即座に否定するが、そんな事さえなんのその。

 

 「まあまあ、そんな事は言わずに」

 「一夜の愛を(おう)()して、乙女の純情ゲットだぜ♪」

 

 双子の揶揄いは続行する。人の話を聞く気配がない。

 さて、どうしたものか···と、思考を巡らせた。このままでは、ミイラ取りがミイラになりかねない。

 聞き捨てならない台詞(セリフ)が飛び出していたものの、その事を真面目に注意した所で、先程と同じような(てん)(まつ)*1に至るのは、火を見るより明らかだろう。

 取り()えず、彼女達の意識を本職の方へ戻したいと考えていた、その時──

 

 「···おれ······もう、ダメ···」

 

 コハクの背後にいるコウタが、盛大に腹の虫を鳴かせるのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 そうして──

 

 コウタが腹の虫を鳴かせてくれた光明だろう。引き際を弁える双子と、流石に(いじ)り過ぎた事を反省したリッカにより、新兵二人は(ようや)く昼食にありつく事が出来た。

 

 「あ、そうだ。改めて、コハク君に聞きたいんだけど···任務はどうだった? なんか、神機に違和感とか······あった?」

 

 不意に、隣に座るリッカが思い出したかのように、コハクへ素朴な疑問を口にした。

 それもそうだろう。ゲンから聞いた話では、彼が適合した神機・チャージスピアは、欧州で運用されている近接武器・ポール型神機に分類されるものであり、未だ極東支部(アナグラ)で実戦使用している者はいない。

 つまり、コハクは期せずして、極東支部初の新型神機適合者になるだけでなく、ポール型神機の第一試験運用者でもあるのだ。

 

 奏鋼調律師(ハーモナイザー)である以上、何もかもが初めて尽くしの神機奏者(ゴッドイーター)のコンディションを把握しておきたいのだろう。

 コハクは口に運び掛けていたスプーンを持つ手を止め、軍隊糧食製のリゾットが盛られた皿の上へスプーンを置いた。(あご)に手を当て、先の訓練や任務の事を思い出し、首を横に振る。

 

 「今の所は、なんとも···」

 「そっか。まあ···そりゃそうかもね。新型神機の適合者自体、非常に稀まれだし······でも、出来る限り早く()()()()()()()()()()よ」

 「ああ、分かってるぜ」

 

 欧州支部から輸入しているポール型パーツは、極東のアーティフィシャルCNS──つまり、人工的に製造された荒神(アラガミ)のコアとは相性が悪い。

 それが()()()()()さえ引き起こしかねない原因であり、一番の理想は極東(ここ)でポール型パーツの製造・整備を行う事だが、そうもいかない理由がある。

 単純に、ポール型パーツを製造・整備する為の設備が極東支部(アナグラ)に存在せず、輸入に頼るしかないのだ。

 

 「なら、いいんだ。でも···」

 

 意味深げに目を伏せ、リッカは言葉を継ぐ。

 

 「正直な話、私としてはコハクに()()新型神機を使わせるのは、あんり賛成できないんだよね······」

 「··················」

 

 ポール型ではなく、コハクが適合した()()()()()()を指して(つむ)がれた言葉に、彼は僅かに目を細めた。

 皿の上に置いていたスプーンを手に取り、乾いた(のど)(うる)わせるように、水分の多いリゾットを胃に流し込む。

 理由を(たず)ねるのは簡単だ。当事者なのだから、遠慮する必要も無い。取り敢えず、差し支えがないようであれば、()いてみようと思った矢先──リッカは苦笑しながら首を振った。どこか無理に、自分自身にも言い聞かせるように。

 

 「···ま、(さかき)博士が彼の適合率なら大丈夫! って言うし、実際、()()()()問題ないはずだから、ひとまず経過観察させてよ。特に不具合が無ければそのまま使い続けてみて。

 新しいパーツが欲しくなったら、ターミナルに申請してね。欧州へのパーツ製造・改造依頼は私が最速で処理するから、コハクには一切、不都合は感じさせないよ······そこは、信じて」

 

 優しく説明された時、既に影はどこにも無い。一瞬だけ見せた半信半疑の色が気になるものの、その様子に下手に(やぶ)(つつ)くのは止めにした。と、その時──

 

 「だあああああッ! もー、我慢できねェッ!! 昼飯ぐらいフツーに食わせてくれよ! 聞いてるこっちが息苦しいじゃんかッ!!」

 「あ、悪ぃ···」

 「いつもの癖でつい······」

 「真面目か! いや···コハクはともかく、リッカちゃんは真面目か······じゃあなくて。仕事とプライベートの線引きぐらいしろッ!!」

 

 先刻、榊の座学を受けたばかりだと言うのに、何が好きで食事中にも座学並に小難しい話を聞かねばならないのかと、コウタは訴える。

 確かに、彼の言う通り。少なくとも、食事中に先の話を聞かされた日には、ただでさえでも味の微妙な食事が、更に味気ない物になるのは想像に(かた)くない。

 その点で見れば、落ち度はコハクとリッカの二人にあるのだが、それはそれ。これはこれだ。コウタの口から飛び出した言葉に、コハクは目を半眼にさせる。

 

 「ほー、ナチュラルにディスってくれるじゃねーか」

 「んなッ!? ち、違うって! そういう意味じゃ···」

 「へー···じゃあ、どーいう意味なんだ?」

 「そ、それはだな···そのぉー······えーっと···」

 「んー、この反応を見るからに、思わず本音が出ちゃった···って、感じかな〜?」

 「···みたいだな。はぁ······どうせ俺は、真面目に見えない()()(らく)な人間ですよぉーっと···」

 「だ〜か〜ら〜、そうじゃなくて···そうじゃ、······だああ、もぉー、うぅぅぅぅぅぅ──ッ、なんだよなんだよ、二人がかりなんてズルいぞぉ!!」

 「え? 別にわたしはコハクに加勢した覚えはないよ」

 「俺もリッカに手を貸してくれって、頼んだ覚えはねえなぁ」

 「嘘こけぇぇぇぇぇぇええ──っ!!」

 

 冴え渡るコウタ(こん)(しん)必殺技(ツッコミ)をテーブル越しに受けながら、コハクは微笑ましげに年相応の反応を受け止めていく。

 僅かに感じる懐かしさ。表情をコロコロと変え、相手の冗談に(ほん)(ろう)される同期の姿が、()()()()()()の姿と重なって見える。

 その度に、コハクは己の心を戒めた。

 

 ただ似ているだけ。

 彼と()()は違う人間だ。

 コウタを通して、()()(おも)(かげ)を探すなど、相手に対して失礼だろう。

 何より、自分の目的を(かんが)みれば、それを行うこと自体、本末転倒な行動と言って構わない。

 

 「ほうほう、なるほど。こうして見ると、これはこれで」

 「コハクさんは、()()()()()()()()()()()()とは違うみたいですね」

 「おまえっ、おまえらなぁっ──分かっててバカにしてるだろぉ!」

 「さぁ〜て、なんのことだか」

 「笑って誤魔化すなッ。ちくしょおぉォッ」

 

 騒がしく、(とん)(ちん)(かん)に、陽気な時間は過ぎていく。

 リッカと交わしていた小難しい話を中断させ、(ほお)(ふく)ませて()ねる同期を(なだ)めながら、許してもらい、今度はコハクやリッカがからかわれたりなどしつつ、今の時代なりの幸福(しあわせ)を気ままに味わう。

 

 馬鹿なやり取り。頭の悪い会話。何の意味もない、硝子(ガラス)細工(ざいく)のような日常。

 荒神(アラガミ)跋扈(ばっこ)する世界に()いて、宝石の如く()()な光景とされているがしかし、いざ後になれば思い出すこともないであろう、ありふれた一コマ。

 その日常を、その一瞬を、コハクは大切に深く噛み締める。

 個室に戻るまでの間、ラウンジには終始楽しそうな声が響いたのだった。

 

 

 

*1
ことの全事情やいきさつ。




 大変、お待たせ致しました。
 前回の投稿より、約一ヶ月振りの更新となります。

 実は、小説を書く上で日常シーンを描写するのが苦手·······という、致命的な欠点を抱えており、それを克服しようとした結果、執筆時間に一ヶ月近くも要しました。

 「グレイ」の「あびゃびゃびゃびゃ」みたいなタイプの奇声は、マジで思いつかない。

 因みに、大体の予想はついていると思いますが、ティナ&ティセの言う「頭のおかしいおバカさん達」とは、「初代お馬鹿さん」と「原初のお馬鹿さん」の事です。
むしろ、他に誰がいるんだ。

 基本、コハク君は男ボイス15の「やる気皆無」をコンセプトにしているので、光の眷属が持つ気合・根性・覚醒(まだだ)の三コンボを積極的に使わない。
 個人的には、男版ヴァネッサ姐さんみたいにするのが理想なんだけど、それだと完成されているので、最初の内は男版ヴァネッサ姐+アストロゴールド成分が無難と思っている次第。

 当たり前だが、糞眼鏡と欲望竜とは相容れない。

 では、今回はここまで。
 またの次回にお会いしましょう| ・∇・)ノシ♪

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