Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

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第八話 光と闇の邂逅/Memento mori 前編

   1

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 翌朝──

 

 リンドウは、(わざ)とらしく(せき)(ばら)いをして、自室のソファに腰を下ろす。

 チラリと、片目で部屋に呼び出した青年を()()れば、彼は()(こつ)に目を()らしたまま、微動だにしない。

 呼び出しに応じた辺り、完全な無視を決め込んでいる訳ではないと、青年の態度に苦笑しながらも判断して、リンドウは彼に告げた。

 

 「急に呼び出して悪かったな、ソーマ。今日は折り入って、お前に頼みがある」

 「断る」

 

 刹那、ソーマと呼ばれた青年の口から飛び出したのは拒絶の言葉。それにより虚を()かれたリンドウは、期せず行動の拍子を外される。

 話し始めた瞬間、聞き手側が(かん)(ぱつ)()れず拒まれたのだから当然の反応だろう。それこそ道化よろしく、本当に()けかけたほどである。

 

 予想通りと言えば、予想通りの反応だ。

 だがしかし、まさか出鼻から折られるとは、流石(さすが)に予想外だったと言わざるを得ない。

 普段と変わらぬソーマの態度に(あき)れて、(おお)(ぎょう)(ため)(いき)を吐いた後、リンドウは改めて言葉を(つむ)ぐ。

 

 「···あのな、オレはまだ何も話しちゃいないだろ。断るかどうかは、オレの話を最後まで聞いた後でも遅くないと思うがね」

 「···············」

 「無言は肯定と見なすぞ〜」

 「······ちっ」

 

 舌打ちし、壁に背を預ける。フードの隙間から(のぞ)く瞳は、未だリンドウを映してはいないが、その姿勢は遠回しに了承の意を示していた。

 

 三度目の(たん)(そく)()()()()()とは思う。

 ソーマは確かに、人付き合いが苦手な一匹狼だが、人見知りする性質(タチ)ではない。特に人と話をする時は、必ず目を合わせる癖があった。

 

 明らかに、普段の調子を崩している。その理由を吐き出させてやりたいとは思うものの、同時に自分の踏み込めない領域だと、リンドウは即座に理解した。

 秘めた痛みや過去を白日へ(さら)すには、ある種の無遠慮さが必要となる。相手の事情をわざと(しん)(しゃく)しない人間や、適度の距離感の開いた相手である方が、意外と話しやすいことがあるのもまた事実。

 リンドウは完全に前者側の人間だが、だとしてもソーマに関しては踏み込みたくても踏め込めない理由が、()()()()()()()()()()()()

 

 その()()を満たせない限り、雨宮リンドウでは彼の抱える問題に触れる資格すらないのが現状である。

 ゆえに、今は()えて黙認し、彼はソーマに告げるのだ。

 

 「結論から言うと、おまえにはエリックと一緒に、新人の実地演習に同行してもらいたい」

 「断る」

 

 再び即答。一瞬の逡巡もなく拒絶され、リンドウは盛大に肩を落とした。

 予想通り過ぎる反応に、思わず頭を抱えて泣き出したくなる。

 

 「まあ、そう言うなよ、ソーマ。なぁに、簡単さ。お前が前線で陽動。エリックが後衛でバックアップ。で、新人は新型らしく、遊撃を──······」

 「興味が無い」

 

 リンドウからの提案を(いっ)(しゅう)すると、ソーマは壁に凭れていた背筋を伸ばして(きびす)を返す。

 

 「あっ、おい! ちょ、ちょっと待て!!」

 

 そのまま部屋を退出しようとする若者を、リンドウは慌てて呼び止めた。

 同時に、ソーマの足が止まる。ゆらりと、まるで(ゆう)()*1のような仕草で振り返ると、彼は射殺せんとばかりの目でリンドウを睨み付けた。

 

 「······なんだ」

 「なんだ、じゃない。人の話を最後まで聞けって、さっき言ったばかりだぞ」

 「俺には関係ない。新入りの実地演習には、お前とサクヤが同行すれば良いだろ」

 「そうしたいのも山々なんだが···オレは()()()で忙しいし······サクヤは新入りの同期と実地演習が予定されてるからなー」

 「なら、他の奴と組ませろ。俺は知らん」

 

 冷たく突き放され、ソーマは改めて歩き出し、リンドウの部屋から退出しようとした──その時である。

 

 「フフフッ」

 

 廊下内に、不敵な笑い声が木霊した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 刹那、ソーマの顔が忌々しげに歪む。

 見れば、何時からそこに居たのだろう。エレベーターホールで、赤毛の青年がサングラスを光らせて待ち伏せしているではないか。

 

 まるで、生理的嫌悪感を(もよお)す生物でも見付けたかのように、ゲッと口走るソーマ。

 対する赤毛の青年は、そんな反応など全く意に介さず、意気揚々と声を張り上げる。

 

 「話は聞かせて(もら)ったぞ! 我が友よ──ッ」

 「てめぇ、何でこの区画(エリア)にいやがるッ!?」

 「──ごはぁッ!?」

 

 それはもう、(たか)が獲物に飛び()かるが如く(ちょう)(やく)してきた赤毛の青年に、ソーマは容赦なくボディブローを叩き込んだ。

 見事に(みぞ)(おち)を打ち抜かれた(くだん)の青年は、宙を三回ほど(きり)()み状に回転しながら床に倒れ込むが、しかし······

 

 「ぐふっ······さ、流石は、僕の認めた好敵手(ライバル)···今日も君の天墜(レイジング)銀狼拳(ブロー)はキレが良いじゃあないか·······」

 

 言いながら、彼は直ぐに起き上がり、いつものノリでソーマの攻撃を褒めるのだ。

 

 「何が天墜(レイジング)銀狼拳(ブロー)だ。ただのボディブローに、妙な技名を付けるんじゃねえ。気色悪ぃ···」

 「何を言う! 本気で殴って来てるのだから、技名の一つはあって当然だろうッ!!」

 「てめぇは中二病か何かか!? 馬鹿かこの、他所(よそ)でやれ、他所で! 小っ恥ずかしいんだよ!」

 「ことわーる! これもリンドウさんの命令だ。君が任務を受けるまで、僕は絶対にここは通さんと誓っているッ」

 「──、────」

 

 次瞬、再び射殺せんとばかりの目で睨みつけられ、リンドウは(とっ)()に目を逸らした。

 殺気という殺気を受け流し、暖簾(のれん)に腕押しと言わんばかりに振る舞えば、後は勝手に赤毛の青年が盛り上げてくれる。

 

 「ソーマ、君の気持ちは痛いほど分かるとも! 未来ある新入り君を自分と同じ任務に同行させるべきではない······そう、考えているんだろう?」

 「──誰が、そんなことをッ」

 「言わなくとも分かるさ! 僕は君の親友だからね!」

 「誰が、誰の、親友だと?」

 「このエリックが、君の」

 「ふざけるなッ!」

 「どわぁぁぁあああーッ!!」

 

 再び繰り出されるは、ソーマ(こん)(しん)の右アッパー。

 エリックはそれをまともに喰らい、吹き飛ばされながらも、決して引き下がろうとはしない。

 不死鳥の如くとは、まさにこのこと。その諦めの悪さに、流石のソーマも顔を引き()らせていた。

 

 「かはっ···な、なんか、今日の君······何時にも増して、バイオレンスじゃないかい? いや、君の愛のムチは今に始まったことじゃないから、僕は別に構わないけど······」

 「てめぇ···まさか、マゾか······?」

 「何を言うッ。この程度で倒れるほど、僕は腰抜けじゃないとも!!」

 「·············」

 

 違う、そうではない──と、否定した所で無駄だろう。話は絶妙に噛み合わぬまま進行していき、いつものように振り回されるに違いない。

 そんな未来を先見して、ソーマは盛大に溜息を吐き、舌を打ちながら吐き捨てた。

 

 「···分かった、行けば良いんだろ。行、け、ば」

 「おー、分かったらさっさと行ってこい」

 「ふん···」

 

 リンドウの手にあるオーダー表をぶん取ったソーマは、機嫌が悪いのを隠さないまま踵を返し、エレベーターに向かって歩き出す。

 仕舞いには、エリックすら置いて行こうとするものだから······

 

 「あぁ、待ってくれ、ソーマ!」

 「やかましい! 一々、俺に(すが)るように追い駆けて来んな、気持ち悪いんだよ、この馬鹿がッ!」

 

 慌てて後を追い駆けるエリックに、年相応の罵倒を浴びせるソーマ。

 まさに、嵐のような騒々しさで立ち去る二人を、生暖かい目で見送りながら、リンドウは上着の胸ポケットから煙草(たばこ)ケースを取り出す。

 口に(くわ)えた細葉巻(シガレット)の先端にライターで火を()けて、大きく紫煙を肺の中に()い込んだ。

 

 はて、自分は大切な事を忘れていないだろうか?

 と、疑問に感じた瞬間、リンドウはようやく大切なことを思い出す。

 

 「やべ、コハクも同行させるよう言い忘れた」

 

 しかし、ソーマのことだ。新人の実地演習だと知りながら、勝手に(くだん)の新入りを放置して、任務に出撃したに違いない。

 バツが悪そうに頭を()きながら、リンドウは携帯を取り出して、コハク宛にメールを送信する。

 

 内容は至ってシンプル。

 現地集合──ただ、それだけだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

   2

 

 

 そして、一方──

 ソーマとエリックの二人は、一足先に今回の作戦区域内へと足を踏み入れていた。

 

 「···良かったのかい?」

 「何がだ」

 「例の(うわさ)の新人くんだよ。君、()()()()()()()()()()()?」

 「············」

 

 無言。返答はない。

 或いは、無言の肯定なのだろう。

 実際、新人との実地演習だと言うのに、ソーマは当の本人を極東支部(アナグラ)に置き去りにして、淡々と任務をこなしていた。

 

 他でもない、ソーマの独断で。

 エリックはそれに異論を唱えない。むしろ、彼の判断に賛同さえしている。

 裕福な家庭に生まれ、トイレの扱いが下手で、よく詰まらせては清掃員を困らせている(きっ)(すい)(おん)(ぞう)()ではあるものの、かと言って、完全に無知という訳ではない。

 むしろ、その逆。こと人を見る目に関しては、エリック・デア=フォーゲルヴァイデも一家言を持っている。

 ソーマと共に行動するようになって、まだ二年しか経過していないが、されど二年とも言うだろう。それだけの時間があれば、相手の本質を見極めることも可能なのだ。

 

 それは、ある種の才能とも言えるだろう。

 周囲の(がい)(ぶん)や偏見に囚われることなく、目の前にいる人間と対等に接するなど、並の者に真似出来ることではない。

 ゆえに、エリックには分かるのだ。ソーマの真意、その冷たい言動の裏に隠された、彼の本質とも呼べるものが。

 

 「君ねぇ···、確かにここは、他の場所と比べ、(アラ)(ガミ)の急襲を受け易い場所だ。それこそ、戦い辛い戦闘区域決定戦なんてものを開催すれば、すぐにここは殿堂入りを果たすだろう。

 ゆえに、新人くんを置いていく。危険は排除する······理解は出来るが、それを何故、リンドウさんに言わないんだい? ソーマが指摘すれば、彼も作戦区域を変更してくれただろうに。その、何も語ろうとしない態度は君の悪い癖だぞ」

 「勝手に言ってろ。俺には関係ない」

 

 鬱陶しげに吐き捨て、振り下ろしていた大剣を肩に担ぐ。

 エリックの語りに、さして興味がないのだろう。ソーマは相手に(いち)(べつ)さえくれずに、周囲の警戒に当たる。恐らく、討ちこぼしがないか確認しているのだ。

 

 相変わず無愛想な親友の態度に、エリックは思わず深い溜息を()らす。

 

 「君のそういう所······少し心配だよ」

 「なに···?」

 

 聞き捨てならない台詞(セリフ)だったのだろう。

 任務に出撃して以降、一度も目を合わせずにいたソーマが、(いぶか)しむような目でエリックを睨みつけた。

 

 「対人関係からすぐ逃げる。足が速い。そして意外に手も早い。いや···手の早さは意外ではないか······いずれにせよ、僕から見たソーマという少年は、まるで盗賊と旅人の星と言われる水星のようだと、僕は思うんだ」

 「······お前、俺を馬鹿にしているのか?」

 「まさか!」

 

 むしろ、褒めている方だと続けても、説得力は皆無に等しいだろう。

 何せ、水星に対応する大抵の者は、特殊プレイ好きの歪んだ性癖の持ち主なのだから。(けな)されているように聞こえても無理はない。

 

 「(みな)に内緒で、すぐ何処かへ行く所とか、君、自覚しているかい?」

 「······別に」

 「なんか距離を置いている感じにスカしてて、少し感じが悪い所は?」

 「············」

 「リンドウさんと微妙に怪しかったり」

 「······おい」

 「ははっ。今のは流石に冗談だ。気にしないでくれ」

 

 笑えない冗談に、ソーマは顔を(しか)め、射抜くようにエリックを睨みつける。

 文句の一つでも言い返してやろうかと思い、口を開きかけた──その時。

 

 「だが···少しだけ、悔しく思ってね」

 

 ポツリと、漏らすように(つむ)がれた言葉に、思わず(ぼう)(ぜん)と目を(みは)ってしまう。

 息を詰めるソーマとは対照的に、エリックは(ろう)(ろう)と言葉を継いでいく。

 

 「ソーマの顔は、常に何か悩んでいる顔だ。だと言うのに、何も相談してくれない······無論、僕はまだ若手だ。

 神機奏者(ゴッドイーター)としてキャリアが長い君に、烏滸(おこ)がましい事を言える立場ではない。だが、忘れないでくれ、ソーマ。たとえ君が認めずとも、僕は君の味方だ。辛い時ぐらい、頼ってくれ」

 「············」

 「僕のブラストは、中々の火力を誇るぞ」

 「誤射率No.2の野郎に言われても説得力がねぇな」

 

 指摘してやれば、エリックは()ねたように(ほお)(ふく)らませる。

 本人曰く、カノンよりはマシだと自負しているようだが、ソーマから見れば五十歩百歩だ。どんぐりの背比べと何ら変わらない。

 にも関わらず、相談してくれと(のたま)う自称親友の姿に、ソーマはフードの下で密かに苦笑を浮かべていた。

 

 ああ、この男は──全く、どうして。

 ここまで世話焼きなのかと、思わざるを得ない。

 

 駄目なことだと、分かっている。

 心を開き、気を許してはいけないことを。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ソーマという青年は誰よりも何よりも、その恐ろしさを理解しているからこそ、駄目だと己の心を自戒するのだ。

 

 「あ、そうそう!

 聞いてくれたまえ、妹が明日(あす)、久しぶりに僕に会いに来てくれるそうだ!」

 「お前···またそれか······」

 

 ゆえに──いいや、だからこそ。

 

 ()()()()()()()()()と、そんな馬鹿げたことを祈る自分がいることに、ソーマはついぞ気付かない。

 

 

 

*1
死者の霊。亡霊。





 リメイク前同様、エリックのキャラ掘りがメイン。
 ドラマCDのエリックとはかなり異なると思いますが、うp主はゲーム外に『GE』のメディア媒体に弱いので、捏造するしかありませんでした。

 何より、本作におけるエリックとエリナは、『Dies irae』に登場した「アルフレート・デア・フォーゲルヴァイデ」の血筋という設定。
 勿論、ベア子との子孫。せめて、せめてアルフレートは報われて欲しいッ(切実)

 ふと、思ったこと。
 不動遊星は盧生の資格保有者だと思う。
 というか、普通に甘粕の好みだろ、彼。

 では、今回はここまで。
 またの次回にお会いしましょう´∀`)Ψノシ

 
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