Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

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第八話 光と闇の邂逅/Memento mori 中編

 ──······“勝利”からは逃げられない。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

     3

 

 

 くすくすと(わら)*1う、その彼方(かなた)で。

 美しく恐ろしくおぞましい、歌が響いた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 「全く···やれやれ」

 

 リンドウから届いたメールを思い出し、コハクは無意識に(ため)(いき)を吐く。

 輸送ヘリで、指定された合流地点に急ぎながら、()(だる)そうに独り()ちた。

 

 「まさか、置いて行かれるとはなぁ〜」

 

 困惑して頭を()く。だが、その態度と言動は普段と変わらぬユルいもので、慌てているようには見えない。

 想定外の事態を前で、その余裕。肝が据わっていると言うべきか、或いは、自覚が足りないと言うべきか。

 

 否、そのどちらでもない。

 彼は事態の重さを理解している。新兵の実地演習で当事者を同行させず、任務出撃するなど、前代未聞にもほどがあるだろう。

 だが、同時に神宿コハクは知っているのだ。

 

 慌てたところで意味は無い。事態の収拾を望むのなら、自らその問題に取り組むしかないということを。

 無論、思う所は色々ある。一体、何処の世界に当事者を置いて実地演習に行く奴がいるのかと、問い詰めてやりたいし、文句も言いたい。

 ゆえに、コハクはこうして行動していた。追いつく為に。

 

 「よっと···」

 

 神機を担ぎ、輸送ヘリから降り立つ。

 携帯端末に表示される腕輪のビーコン反応を確認すれば、今回の同行者が出撃地点から差ほど離れていない場所にいることが判明した。

 

 「これなら、なんとか追いつけるか」

 

 独り呟き、携帯を携行品ケースに放り込む。

 同行者と合流する為、出撃地点から施設跡に飛び降り、周囲を見渡した──その時。

 

 「妹は病弱でね。つい、この間も高熱を出して、家で静養さぜるを得なくなってしまったんだ。

 だから、元気になった暁には、新しい服を買ってやるって約束したんだけど······実の所、妹が好みそうな服がまったく! これっぽっちも! 思い付かない!

 という訳だから、頼む! ソーマ! 君の華麗なるファッションセンスで、僕を助けてくれッ!!」

 「断る」

 「んなッ──!」

 

 これでもかと、静寂に包まれた発電施設に()(だま)する大きな声。

 音源を辿るように視線を走らせれば、そこにはクセの強い赤髪の少年と、紺色のフードを(かぶ)った青年が立ち話をしている。

 

 「な、何故だ、ソーマ。君も明日は非番だろう? なら、丁度良いじゃないか。君と僕の華麗なる友情を育む為にも──へぶっ!」

 「誰が友情だ。寝言は寝てから言え」

 「し、しかしだな! いくら君が健康優良児でも、一日を拳銃の手入れで消費するのは、身体に──アばッ!」

 「余計なお世話だ。殴るぞ、クソガキ」

 「も、もう既に、殴られてるんだが······」

 

 とてもバイオレンスな漫才に、何処からツッコミを入れて良いのか分からない。

 ふと、フードを被った青年と目が合った。瞬間、彼は露骨に顔を歪める。まるで、忌々しいものを見たと言わんばかりに。

 

 「誰かに構って貰いたけりゃ、そいつに構って貰え。俺に関わるな」

 

 そして、突き放すように殴り飛ばした赤毛の少年へ告げて、彼は足早と(きびす)を返して周囲の警戒に当たる。

 青年の行動の意図が分からず、首を(かし)げると、無様に尻もちを着いていた青年が立ち上がった。

 

 「え、そいつって一体、誰のこと──···」

 

 言いながら、少年がこちらを振り返る。

 サングラスの下、(とび)色の(そう)(ぼう)が好奇心で輝くのを瞬時に察知し──

 

 「お、君が例の新人クンかい? (うわさ)は聞いているよ! さぁ! そんな所で立ち止まってないで、こっちに来るといい! そして、華麗なる出会いを共有しようじゃないかっ!」

 「············」

 

 言いつつ、引き千切れそうな勢いで腕を振りながら、こちらの方へ走り寄る赤毛の少年。

 その面影が、別の場所で実地演習を受けているはずの同期と重なって見えたのは、恐らく気のせいではない。

 いや、もしかしたら、同期よりも(おお)()()のように思える。

 取り敢えず、彼に主導権を渡してはいけないような気がして、コハクは呆気に取られながらも、名を名乗った。

 

 「···神宿コハクです。まだ配属したばかりで、至らぬ点もあると思いますが、今後からよろしくお願いします」

 「うん。御丁寧にどうも。

 僕はエリック。エリック=デア・フォーゲルヴァイデ。君も僕を見習って、人類の為に華麗に戦ってくれたまえよ」

 

 と、エリックが自己紹介を終えた──刹那に。

 

 「エリック! 上だ!」

 

 後方にいた青年が、怒号にも似た声を張り上げた。

 同時、不得要領のままエリックが背後を振り返り、コハクは息を()むように我へ返る。

 視界の端で、高さ40フィートはあるコンテナ状の高台から、こちらに飛び付いて来るオウガテイルの姿が映った。

 

 その軌道上には、未だ接敵に気付かぬエリックが立っていたものだから······

 

 「危ねぇッ!」

 

 続く展開を予見して、(たま)たずコハクは叫んだ。(とっ)()に地を蹴り上げ、エリックへと手を伸ばす。

 切羽詰まった声に釣られ、エリックは再びコハクの方へ向き直る。しかし、彼はここに来て(ようや)く異変に気付いたのだろう。

 反射的に己の頭上をエリックが(あお)ぎ見ると、そこにあったは(ぼう)(ぜん)と立ち尽くす彼にめがけて、一気に飛び込んで来るオウガテイルの姿だった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 瞬間──

 

 「うッ、うわあああぁぁぁぁぁぁああッ!!」

 

 耳を(つんざ)*2く断末魔。(がく)(ぜん)と見開いた瞳に、紅の液体が間欠泉のように噴出する。

 電光石火、刹那の一瞬。奇襲に成功したオウガテイルは、悲鳴ごとエリックの頭から喰らい付き、ぶちぶちと肉と骨と神経を力任せに引き千切っていく。

 伸ばした手は(むな)しくも(くう)(つか)み、心が引き裂かれるような激痛を訴えた。

 

 確定した死。(くつがえ)せない結末。

 今更どう足掻いた所で、エリック・デア=フォーゲルヴァイデは助からない。神であろうと救えない。

 ならば今、新兵であるコハクが優先すべきなのは、自分の身の安全を確保することだ。体勢を立て直し、もう一人の同行者と共に状況を改めて把握することだ。

 それは分かっている。誰よりも分かっているが······

 

 「───()()()ッ」

 

 関係ない、知ったことか──そんな()()()()()なんかどうでもいい。

 すぐに諦めようとする思考(ヤミ)と、突き進まんと猛る理性(ヒカリ)()鹿()()()()()で押さえ付け、コハクはオウカテイルに向かって(とっ)(かん)する。

 頭から捕食され、大量出血で赤黒い水溜まりを広げていく少年の姿を視界に入れる度、胸が(きし)むような痛みを訴えるのだ。

 

 ゆえに、情け容赦をかける余裕は何処にもない。

 ただ、眼前で行われ続ける捕食活動。それを一刻も早く終わらせる為に、コハクは高速を軽く(しの)ぐ速度で槍を振り上げる。

 

 「ギシャアッ!?」

 

 衝撃波の伴う斬撃を直に受け、吹き飛ばされるオウガテイル。同時、その顎門(あぎと)からエリックの亡骸(なきがら)が解放された。

 視界の端で、血の海に倒れ伏すのを確認する。そして、コハクは即座に神機を銃身に切り替え、更なる追撃をオウガテイルへ叩き込んだ。

 

 急所を的確に撃ち抜かれ、オウガテイル鋼を()()わせたような悲鳴を上げる。その先で待ち構えていたのは、いつの間にか迎撃態勢に入っていたフードの青年だった。

 

 「···くたばれッ」

 

 罵声と共に、振り下ろされた神機がオウガテイルの身体を縦一直線に斬り伏せる。

 真っ二つにされた身体は、地に落ちる寸前で黒い(ちり)となって消滅した。恐らく、体内にあったコアごと破砕したのだろう。オラクル細胞の結合を維持出来なくなったのだ。

 

 それを静かに見届けた後、銃形態にしていた神機を元の槍形態へと変形させる。

 不意に、カシャンという音を聞いて視線を滑らせると、赤黒い血の海に壊れかけた一本のサングラスが沈んでいた。

 

 時間にして、僅か25秒······

 まさしく、過ぎ去っていく刹那のように、一つの命が踏み潰された瞬間である。

 

 

     4

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「···ようこそ、クソッタレな職場へ······」

 

 血に濡れ、黒光りする神機を肩に担ぎながら、ソーマは吐き捨てるように言葉を継いだ。

 

 「俺はソーマ···別に覚えなくても良い」

 

 名乗るだけ名乗り、エリックの死体に歩み寄る新人を冷たい眼差しを向ける。

 神機奏者(ゴッドイーター)になるということは、その身にオラクル細胞を宿すということ。いわば、人型の(アラ)(ガミ)になるようなものと言っても過言で他はない。

 ゆえに、生命活動を終えた神機奏者(ゴッドイーター)の身体がどうなるかなど、語るまでもないだろう。

 

 「············」

 

 消えるのだ。()()ではなく、()()()()

 コアを失った(アラ)(ガミ)の身体を形成する禍神体(オラクル)が崩れ、少しずつ黒い塵へと変わるが如し。神機奏者(ゴッドイーター)の亡骸もまた、黒い塵となって世界に消える。

 実際、通路を埋め尽くす血痕は既に消え失せていた。残るのは、エリックが適合した神機と腕輪、そして身に(まと)っていた衣服だけ。

 

 神宿コハク──

 エリックにそう名乗った新人は、(おもむ)ろに片膝をついて破損したサングラスを拾い上げる。

 前髪が影となり、その表情を(うかが)うことは出来ないが、予測を立てられない訳ではない。

 目の前で仲間が死ぬ。恐らく、この新人にとって未知の出来事のはずだ。ならば、自分がここで伝えるべきことはただ一つ。

 

 「······言っとくが、ここじゃこんな事は日常茶飯事だ」

 

 言外に諦めろと、ソーマは冷たく事実のみを告げた。

 この凄惨な光景こそ、正しい世界の()(かた)であり、変えようのない理なのだと。

 

 「そうやって···お前は(すべ)てを諦められるんだな······」

 「なに?」

 

 聞き捨てならない台詞(セリフ)に、ソーマは(たて)(じわ)を寄せた。逸らしていた視線をコハクへ戻し、射殺せんとばかりの目で睨みつける。

 立ち上がったコハクは(きびす)を返して、自分の背後にいるソーマを()()り、一言。

 

 「なあ、お前さ。そう諦めてばかりいて、悔しくねえのかよ?」

 

 瞬間、息が詰まるのをソーマは自覚した。

 真っ直ぐと見据えてくる新人が一歩、ソーマに近付く。そっと、先ほど拾い上げたばかりのサングラスを差し出してくる。

 

 「······お前のダチだったんだろ? なら、せめてお前の手で、こいつだけでも極東支部(アナグラ)に連れて帰ってやれよ」

 

 同時に、(のう)()()ぎるのは、エリックの最期。警戒を(おこた)り、油断していた所を突かれた彼は、満足な抵抗も出来ず、オウガテイルに頭から捕食された。

 それを振り払うように、目の前の新人から顔を背け、ソーマは冷たく言い放つ。

 

 「知らん。アイツが勝手に名乗っていただけだ」

 

 聴く者が聴けば、血も涙もない人だと(ふん)(がい)するに違いない。

 少なくとも、ソーマは実際にその目で見てきたのだ。淡々とした態度で事実のみを告げる彼に対し、まるで()()()でも見るかのような()(べつ)の眼差しを向ける同僚たちの姿を。

 ゆえに、ソーマは普段通りに、淡々と事実を述べた。

 

 眼前の新人が、自分に忌避感を抱くように。

 他の者達のように、自分を()()()のように蔑視してくれる事を期待して。

 だと言うのに──

 

 「······なら、どうして悲しむ?」

 

 不自然に鼓動が跳ねる。何かが心臓を蹴り上げる。

 視界の端に映り込む新人の瞳は、()()までも(しん)()で、そこには侮蔑も(れん)(びん)も何も無い。

 本当に、心の底から純粋に感じた疑問と、一点の(くも)りもない■■。それにソーマは耐えられず、何の(ちゅう)(ちょ)もなく、肩に担いでいた大剣を振り下ろすのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 コハクの喉元で、鋭く光る黒の(きっさき)

 あと半歩前に出ていれば、間違いなく、その大剣で彼は真っ二つに引き裂かれていた事だろう。

 だが、無抵抗のまま急所を(さら)してやるほど、神宿コハクは甘くない。それが証拠に、ソーマの喉元には黄金の穂先が突き付けられていた。

 

 まさに、一触即発。

 次の刹那には、本来の目的も忘れて、彼等は互いの刃を交え始めるだろう。

 息が詰まるような緊張感の中、目を吊り上げたソーマは挑むように問う。

 

 「お前は、どんな覚悟を持って、()()に来た···?」

 「···············」

 

 無言。返答はない。

 呆気に取られている訳でも、返答に当惑している訳でもなく、答える気が無いのだろう。それとも、話題を強引に変えたことを呆れているのか。

 どちらにせよ、自分には関係ない。そもそも、眼前にいる青年がどんな覚悟を持っていようと、興味がないのだから。

 

 「なんてな···

 時間だ、行くぞルーキー」

 

 言いながら、コハクに突きつけていた大剣を再び肩に担ぐ。

 踵を返し、再び背を向けると、ソーマは漏らすように言葉を続けた。

 

 「······とにかく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 「···なに?」

 

 聞き捨てならない台詞(セリフ)だったのか、背後でコハクが()(げん)そうに目を細める気配を感じ取る。

 更なる追求が来る前に、さっさと行ってしまおうとした──その時。

 

 『──ッ! 緊急事態です!

 付近にオラクル反応を確認! このままでは、(アラ)(ガミ)に囲まれます!』

 

 通信機に入るヒバリの切羽詰まった声と共に、地面から飛び出すように現れたのは、二匹のコクーンメイデンと三匹のオウガテイルだ。

 恐らく、霧散した禍神体(オラクル)が新たな個体を形成したのだろう。囲まれると言うよりも、(アラ)(ガミ)誕生の瞬間に居合わせたと、言う方が正しい。

 

 『一度、コクーンメイデンの射程から離れ、各個撃破して下さい!』

 「···だとよ、先輩」

 「ソーマだ。遅れを取るなよ、ルーキー」

 「コハクだ。ま、置いてかれねえように努力するさ」

 

 出現と同時に捕捉され、異なる二種の(アラ)(ガミ)が威嚇の咆哮を上げた。

 対するコハクとソーマは、決して友好的ではない言葉を交わしながら、それぞれの武器を構え、臨戦態勢に入っている。

 

 『ソーマさん、コハクさん、聞こえますか!? このままでは危険です! 一度、コクーンメイデンの射程から離れ──·········』

 「断るッ!」

 

 下さいと、続くはずだったオペレーターの指示を、二人は声を重ねて(いっ)(しゅう)し、ほぼ同じタイミングで地を蹴り上げるのだ。

 

 

*1
小説や漫画では、花が咲いたように雰囲気が明るくなるという意味で使用する。

*2
勢いよく突き破る。つよく裂き破る。





 二日遅れのメリークリスマス。
 
 タグにもあるけど、原作沿いです。
 なので、エリックには原作通り上田さんになって貰いました。

 ただ、1主の演出のみ変更。
 理由はコハクのキャラではないと感じたからです。
 何より彼、光の眷属なのに「正論なんざクソ喰らえ」と考えてるので、基本KYな正論に耳を貸しません。

 この言葉が正しいか分からないけど、レインと同じタイプの光。
 そこにゼファーやケルベロスと似た価値基準が存在するので、コハクは「まだだ」を使いたがらない。
 (その分、狂い哭かせ易いというメリット持ち)

 最後にお報せ。
 ただいま、八命陣を回す準備をしております。
 鈴子√をクリアしてからになるので、具体的な時期は分かりませんが、気楽に吸えるよ! という方は、もう少しお時間を頂けると幸いです。

 では、また次回会いましょう| ・∇・)ノシ♪

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