Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

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第九話 家族の為に/Für die Familie 後編Ⅱ

 

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◇ ◇ ◇

 

 

 「創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星」

 

 だから、自然と。本当に自然とした流れで、コウタが口にしたのは、星の光を解き放つ起動詠唱(エンゲージ)

 

 「女神が育てた不死の蛇神。再生と増殖を繰り返す多頭竜(ヒュドラ)の首が、お前は無力だと未熟な勇者に毒を吐く」

 

 誇るように、叫ぶように、(つむ)がれていく言葉。呼応して輝き始める星辰体(アストラル)禍神体(オラクル)の燐光が彼の握る神機を淡く包み、異能の力を宿していく。

 その反応は、一見して実に穏やかだった。本人の気性に反し、あまりにそつがなく、危険性などないかのように使用神機へと染み入り、生体武器を強化する。

 

 「ゆえ、彼は求めた。難行にさえ同行する者、お前の力を貸してくれ。疾風の如く戦車を駆り、毒蛇を滅ぼす我が一助となって欲しい」

 

 異変はたったそれだけだ。火も出なければ、闇も出ない。

 風が吹き(すさ)ぶわけでもなければ、気温も光も不動のまま。世界に変化は訪れず、星の起動に対して依然、森羅は毅然とそこに()る。

 

 「ああ、己は何を勘違いしていたのだろう。(さか)えの英雄、神成る戦士、()()なる名誉で褒め(たた)えようと、彼の本質は変わらない。我らと同じ独りの人間なのだ」

 

 だからこそ、恐ろしいのは()()だった。つまりこれが示すのは、外界(せかい)()(じん)も干渉しない。完全な内界(じこ)強化だから。

 

 己の一部を押し上げて、コウタは神機という専用武器(アダマンタイト)に高性能化を促していく。

 

 「気付いたからこそ、応じる心に偽りなし。凡俗たる馬方が、必ず汝の旅路を導こう。たとえ詩神の掟を逆手取ろうと、我が命を()とすに(あた)わず」

 

 藤木コウタとは、そういう人間なのだろう。

 仮に世界と大切な人を天秤にかけるならば、彼は世界も大切な人も()()()()

 自分以外の何かに成り果ててまで、事を成そうなどとは考えないし、出来はしない。

 ()()までいこうとも彼は真っ直ぐなだけの、普通の凡人。それに不満を抱きながらも、そんな自分に胸を張ることが出来る人物だから。

 

 ゆえに、それは(あらわ)れるのだ──神機強化という星光(カタチ)となって。

 

 「超新星(Metalnova)──

 雷鳴と轟く水煙よ(Mosi blow)天地を繋ぐ馭者たれ(Iphikles)!」

 

 半神半人の英雄を運ぶ者。

 天地奈落を駆け巡った人間の従者。

 二頭立ての戦車を巧みに操る(ぎょ)(しゃ)が、今ここに輝照を果たすのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 「いっけぇぇぇえええッ!!」

 

 ──刹那、残弾など知らぬとばかりにコウタが猛攻を仕掛ける。自動小銃と汎用機関銃、二つの特徴を兼ね備えた銃身による連続射撃は絶妙で、まさに天衣無縫の鋭さに迫る。

 と言っても、実弾を撃ち出す訳ではない。遠距離型神機とは、オラクル細胞をエネルギー弾に変換して撃ち出す装置なのだ。

 

 当たり前だが、(アラ)(ガミ)にも個々の特徴と弱点がある。たとえば、眼前にいるコンゴウは火と雷の属性に弱い。

 コウタの使用する遠距離型神機モウスィブロウは、雷属性のバレットと相性が良く、相手よりも優位に立ちたいのなら、バレットを雷に切り替える方が良いだろう。

 だが、今の彼はそれをしない。まるで、()()()()()()()とでも言うように、火と雷のエネルギー弾を交互に撃ち出していく。

 

 コウタは()()()()()()()()()()()()()()()()というのに……

 

 無論、一つのバレットに複数のエネルギー弾を仕込めない訳ではない。だが、それを戦闘中に行うなど絶対に不可能だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()それが、異能看破のきっかけとして、コハクに糸口を掴ませる。

 

 「──即時バレット編成、なるほど……それなら納得だ」

 

 そう、それこそが藤木コウタの星辰光(アステリズム)。その効果は至ってシンプル、()()()()に他ならない。

 凡俗たる馬方従者(イフィクレス)……その名の通り、彼の星は前線に立つあらゆる者を(すく)うべく、何処までも早く、速く、(はや)()()()()()()()()()()()()

 

 たとえば今こうしているように、己と感応する星辰体(アストラル)を利用して、エネルギー弾の源を自主的に集めることも可能にする。

 如何に神機奏者(ゴッドイーター)が人間兵器たる星辰奏者(エスペラント)を土台にしているとはいえ、血肉通う生物だ。

 身体能力、反射神経、代謝の活性化による治癒力の上昇や、物質硬化の星を利用して肉体防御力の強化は見込めても、発動体の()()()()という概念はそうそう上げられるものではない。

 

 ゆえに、コウタの星は単純ながらに非常に強力だった。

 本人の無計画な性格とその銃身による(ほん)(ろう)が合わされば、まさに移動する弾幕射撃。並の防御力では突破することさえ叶わないだろう。

 よって此方(こちら)も炎翼加速に用いていた炎を全身に(まと)わせ、鋼さえ焼き尽くすほどの熱を持った不滅の鎧を作り出す。

 防御面を高めることで、同期による誤射を確実に防ぐ方向へと舵を切った。

 

 「が、あ……ああああぁぁぁぁぁぁぁ────ッ!!」

 

 弱点である火と雷属性のエネルギー弾で表面の肉を(えぐ)られながら、コンゴウが怒りの咆哮を上げる。

 無線の向こうで、こちらの様子を観察していたヒバリから活性化の(しら)せが届くものの、コハクという生きた火球は止まらない。

 ()(ふう)の如く吹き(すさ)ぶ弾幕射撃を背に、一瞬でコンゴウの(ふところ)に飛び込んでいた。

 

 もし仮に、(アラ)(ガミ)にも感情というものがあるのなら、彼は間違いなく呆然としただろう。

 10m近い距離を──しかも弾幕射撃が引き詰める中を──瞬く間に詰めるなど、人間業ではない。

 にも関わらず、やってのけたのである。この、(せい)(ひつ)な目をした人間は。

 そして、寸分の躊躇(ためら)いもなく、狂いもなく、コハクは槍の穂先をコンゴウの顔面に突き刺すのだ。

 

 「ぎゅがあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 猿を(ほう)彿(ふつ)とさせる顔面を破壊されて、痛みにのたうつコンゴウ。

 暴れる巨体に押し潰される寸前、コハクが後ろに飛び退()けば、それと入れ替わる形でコウタの弾丸(ホシ)がコンゴウに殺到する。

 その数、実にこの刹那で千発以上。自動小銃の規格を完全に逸脱しているが、何ら不思議なことではない。

 元より対人用に造られた従来の銃身と異なり、コウタたち遠距離専門の神機奏者(ゴットイーター)が使用する神機は、対アラガミ戦を想定して造られている。

 加え、基準値(アベレージ)から発動値(ドライブ)に切り替えているとなれば、語るに及ばず。

 

 ゆえにこの時、(じゅう)(たん)(ばく)(げき)もかくやの勢いで連続した銃弾は、驚異的な威力を(もたら)した。倒れながらも、振り下ろそうとしていた力任せの打撃を相殺し、動きを止めてパイプの結合を壊してしまうほどに。

 

 「ぐううぅ、がああああああああッ!!」

 

 苦悶の咆哮を上げながら、突然コンゴウが後方へ飛び退(しさ)る。

 同時に、胴体を風船のように(ふく)らませて、壊れたパイプから空気弾を連続で打ち下ろしてきた。

 

 「コウタッ」

 「おうッ!」

 

 頭上から迫る空気弾を、コハクはコンゴウに追い(すが)る形で、コウタは空高く跳躍することで回避。

 狙いの()れた空気弾は雪の地面に当たり、地吹雪が舞い上がる。

 結果、一気に視界が悪くなった。しかし、コハクはそれすら意に介さず敵の元へ肉薄していく。

 

 それにコウタも気付いたのか。未だ空中に身を置きながら銃を構え、同期の援護をしようと銃声を轟かせる。

 星の力を得たモウスィブロウに援護され、着地したコンゴウの目の前にコハクは自ら進んで(おど)り出た。

 

 「があッ!!」

 

 (わずら)わしげな咆哮と共に、引っ掛けるように突き出される左フックは、ひた速い。

 狙いもなければ、予備動作もない。ただ無造作に、力づくで獲物を排除しようと叩きつけてくる。しかし、コハクは下から払い上げた石突部分でその軌道を逸らした。

 流れるように槍を後方に回転させ、強く右足を踏み込みながら、コンゴウの巨体を縦一文字に斬り上げる。

 

 「……………………!」

 

 声にならない絶叫を上げながら、コンゴウの体勢が大きく()()った──その時。

 

 「これで、トドメだぁっ!!」

 

 駄目押しだと言わんばかりに、コウタはLLサイズのエネルギー弾3連発をコンゴウに叩き込んで──

 

 「が、がああ……

 

 遂に、コンゴウの生命活動が完全に停止した。

 

 鎮魂の廃寺に静寂が戻り、自然と沈黙が降りる。

 背後にいるコウタから(かた)()を飲み込む音が聞こえたような気がしたが、恐らく気のせいではない。

 これから行う作業を(かんが)みれば、むしろ彼は普通の反応を示していた。

 

 新兵二人に、異形の死骸は黄色く(にご)った瞳を向けている。

 猿を思わせるその顔に浮かぶのは、憤怒の形相。生意気にも自身に抗う卑小な人間たちを許さぬ暴虐の(そう)(ぼう)は、まさしく荒ぶる神のそれと言えるだろう。

 深い溜息を吐いて、コハクが死骸の前に歩み出た。

 

 「()()()()()は趣味じゃねーんだがな……

 

 心底嫌そうな口振りで、しかし、その表情には任務中の時と同様、(いち)()の隙も感じられぬ(せい)(かん)さを浮かべたまま、コハクは殺したてのコンゴウの元へ歩み寄る。

 肩に乗せた槍を気だるげに下げて、構える。その穂先は、既に息絶えたコンゴウに向けられており──ならばこそ、コハクは死体イジメと評したのだ。

 

 確かに、(アラ)(ガミ)は人類にとって()()(たい)(てん)の天敵である。

 しかし、だからと言って、その尊厳を踏み(にじ)る行いをしていい理由にはならない。

 それを理解した上で、ゆえに──

 

 「悪ぃな、俺らも生きる為だ。容赦してくれ」

 

 言って、コハクは神機を捕食形態へと変化させる。

 黄金に輝く穂より生まれた黒い獣の顎門(あぎと)が、(むさぼ)るようにその死肉に喰らつく。

 肉を引き裂き、噴き出る体液を浴びながら()(しゃく)を繰り返す光景に嫌悪感を覚えつつも、コハクは思うのだった。

 

 いつか、この光景も見慣れたものになってしまうのだろうな、と。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

     8

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 そして──

 極東支部(アナグラ)へ帰投を果たした新兵二人は、普段通り榊の講義を受けていた。

 

 研究室に用意された床置きモニターには、ペイラー榊のなぜなに講座という、子供向け番組みたいな題名と共に、とてもファンシーな絵柄の榊とオウガテイルが表示されている。

 あれ、榊博士が自分で描いたのかな、とか。今日の講義、早く終わらねーかな、とか。そんな割とどうでもいいことを考えながら、コウタは眠気眼で榊の話を聞いていた。

 

 「完全環境都市(アーコロジー)という言葉を知ってるかい?

 アーコロジーとは、“それ単体で生産、消費活動が自己完結している建物”を指す言葉でね。そう、実は極東支部(アナグラ)を中心としたフェンリル支部は、一種のアーコロジーだと言えるんだ」

 

 榊の右隣にあるモニター画面が切り替わり、ファンシーなタイトル画面が一転して、荒廃したフェンリル支部の写真が映し出される。

 (アラ)(ガミ)の侵入を防ぐ外部周壁が見当たらないことから、恐らく対アラガミ装甲壁が開発されるより以前のフェンリル支部に違いない。

 事実、その写真には壁のような建造物が映り込んでいた。

 

 画面に向けられていた視線を新兵二人に戻しながら、榊は続ける。

 

 「これって、極端な話、ある支部を除いた全てのフェンリル組織が滅んでも、残った支部は単独で生産、消費活動を行い、今まで通り生き残ることが可能ってことなんだよ」

 

 そう言うと、榊は手に持っていたリモコンを操作した。モニターが切り替わり、今度は五枚の写真が挿入された説明書を思わせる映像だ。

 

 「極東支部(アナグラ)は、地下に向かって食料や神機、各種物資の生産を行うプラントがあり、外周部には対アラガミ装甲壁や、キミたち優秀な神機奏者(ゴッドイーター)を始めとした、強固な防衛能力もある。

 それがフェンリルの支部であり、人類を守るために最適化された完全環境都市(アーコロジー)なんだよ」

 

 強烈な睡魔と戦いながら、コウタが大きな欠伸(あくび)をして、背伸びをした──その時である。

 

 「ただ、そこにも問題はあって、それは収容可能な人口に()()()()()()()なんだ」

 

 榊の口から、一瞬でコウタの中にある睡魔を吹き飛ばす言葉が飛び出したのは。

 

 「キミたちも知っている通り、この極東支部の周囲には、広大な外部居住区が形成されている。しかし、彼ら(すべ)てを収容するだけの規模は、まだこの支部にもない。

 外周部に対アラガミ装甲壁を巡らすことが、今できる最大限の対処策なんだ」

 

 でも、とコウタは思わず口走る。

 二人の視線が自分に集まっていることも気付かずに、コウタは続けた。(とつ)(とつ)と。

 

 「それだけで足りるのかな。現に装甲は(ひん)(ぱん)に突破されてるんじゃ……

 「だからその為に、神機奏者(ゴッドイーター)の防衛犯が配備されている……

 

 意味がないと、言い終える前に榊が即座に反論する。

 だがしかし、何かに気付いたのか。まるで、自分の言動を恥じるように、彼は軽く咳払いをする。

 そして、コウタの方へ向き直ると、榊は誠心誠意を込めて謝罪してきた。

 

 「いや、すまない。

 コウタ君のご家族は外部居住区にいるんだったね。軽率な物言いを許してくれ」

 「いえ、おれはただ……

 

 ただ、もう少し安全を確保することが出来ないのだろうかと、思っただけ。

 せっかく対アラガミ装甲壁を巡らせているのに、物資不足で頻繁に突破されていては、宝の持ち腐れというものだろう。

 何より、客観的な事実を述べていただけとは言え、より大勢の人が榊と同じ認識を持てば、それこそ()()()()()()()の繰り返しだ。

 

 それだけは……

 それだけは、どうしても避けたいと思うから。

 

 コウタの真意に気付いているのか、いないのか。分からないが、どこか口惜しむように榊が内情を()()する。

 

 「本当は、極東支部(アナグラ)を地下に向けて拡大して、内部居住区を増やす計画もあったんだけどね……

 

 だが、その計画は実行されることは無かった。

 

 ここ極東支部には、旧暦の日本において神奈川県と呼称された土地と、ほぼ同じ活断層が確認されている。

 一般的に、地下は地上より揺れが小さくて安全とされているが、建物の支柱が折れてしまえば話は別だ。容易に逃げられる場所ではない以上、内部居住区を増やしていくわけにはいかない。

 

 「でも、その計画をより安全で完璧にしたのが、“エイジス計画”なんだよね!」

 「そうだね」

 

 問いに、返答はどこか冷めたもので。

 

 「現状、極東支部の地下プラントの多くの資源リソースは、エイジス建設に割り当てられているんだ」

 

 普段通りの明るさを取り戻しつつあるコウタとは裏腹に、今度は榊の顔に(かげ)りが指したように思えた。

 

 「その話は、また今度にしようか」

 

 しかし、それも一瞬のこと。

 いつも通りの()(さん)(くさ)くも明るい調子で、彼は今日の講義の終了を知らせるのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「いやー、今日はすげーやりやすかったよ!」

 「そうか、そりゃ良かった」

 「こう、コハクがさ、ザシュッザシュッって斬ったり貫いたりしてさ、後ろに引いた後に俺がズバババッて撃ち込んだ時あったじゃん?」

 「そうだな」

 「コンゴウの奴よろけまくってたよな!?」

 「ああ、確かによろけてたぜ」

 

 その後、互いの自室がある区画に戻りながら、コハクとコウタは談笑を交わしていた。

 だがそれは、ほとんど一方的にコウタがコハクに語り聞かせているだけであり、コハクはそれに(あい)(づち)を打つだけ。

 

 「いや、本当にすげぇ! おれとあんたの見事な連携! 息ピッタリだったよな? ってか最強コンビじゃね?」

 「かもな」

 「こりゃあ、家帰ってノゾミに自慢できるぜ。地球の平和はおれが守る! ってさぁ!」

 「ふっ。頑張れよ、お兄ちゃん」

 「やめろよ、その呼び方! 気持ち悪ぃ!」

 

 別段、苦には思わない。

 恐らく、変な所だけ先祖に似たのか。コハクは話すことより、人の話に耳を傾ける方を好む。

 一種の聞き上手なのだろう。コウタの話を聞いている間に、自室のある新人区画の前に辿り着いた。

 

 「じゃあ、また明日な!」

 「ああ。おやすみ」

 

 夜の挨拶を交わしながら、コウタと別れた後、コハクは先ほど講義中に見せた同期の暗い影を思い出す。

 家族の為に──藤木コウタという人間の根底にあるのはただそれのみであり、それ以上でも以下でもない。

 それが何故、対アラガミ装甲壁の話になった途端、危ういと直感的に思うほどの翳が差したのか。

 

 そんな事を考えながら、突き当たりにある自室へ戻ろうと足を進めていた──刹那に。

 

 『無理もない。(けい)が感じているように、アレは(いささ)か危うい』

 「────!」

 

 ()()から語りかけて来る声に、思わずその場に立ち止まってしまう。

 いつの間にか当たり前のように受け入れていた内奥存在──11年前のあの事件以降、確固として存在するもう一人の何者かが、今朝の時と同様に語りかけてきたのだ。

 

 “……どういう意味だ”

 『言葉通りの意味だよ、英翼(ベレロフォス)。ひたむきな想いは力となり、(みち)(たが)えば心を壊す──アレはその典型だ』

 “………

 

 男の言う通り藤木コウタの原動力とは、家族に対するひたむきな想いだ。

 しかし、今回の講義で肝心の存在意義が家族を愛する己ではなない。家族の安全を確保してくれる()()しれない、エイジス計画に傾いていると分かってしまった。

 

 もし仮に、エイジス計画が何らかの原因で(とん)()したとしよう。その瞬間、彼の存在意義は崩壊する。

 そして最悪の場合、エイジス計画の成功を信じた自分自身に対する憎悪と(えん)()に囚われて。心が日増しに崩れていくのだ。

 

 “どうしたら良いんだろうな。あいつの想い自体、別に間違っているわけじゃねえ。希望を信じ、未来に進む心だって、とても当たり前で大切なことだろうが”

 『ふっ。なに、簡単なことだ。アレが迷い、悩んでいる時、相談に乗りつつ、共に支え合えば良い。丁度、今日のようにな』

 

 要は、今まで通り当たり前のことを積み重ねていくしかないということ。

 言外にそう言われ、思わずコハクはため息を吐く。その当たり前が、何よりも難しいことだと理解しているがゆえに。

 だがしかし、だからと言って、それを怠れば最悪の結果を招くことになる。その事実を、コハクは誰よりも知っていた。

 

 だから……

 

 『その糸、決して手放してはならんよ』

 “分かっている”

 

 男からの忠告を、コハクは素直に聞き入れる。

 それに満足したのか。男が微かに笑みを浮かべ、再び意識の深層へ戻ろうとしていく気配を感じ取った。

 

 “あ、おい。ちょっと待て”

 

 慌てて男を呼び止めて、はぐらかされ続けた疑問を口にする。

 

 “いい加減、教えてくれ。あんた一体、何者なんだ”

 

 刹那、男の気配が僅かに揺れた。そこから微かに感じ取れるのは、明らかな惑いと迷い。

 心の底からコハクを想いやるからこそ、彼は今、片翼の疑問に応えるべきか否かと考えあぐねている。

 無理もない。今までこの男は、名を尋ねられる度に、黄金の天駆翔(ハイペリオン)()()するだけで、本名を名乗ろうとしなかったのだから。

 

 こういう時、コウタの隣室に誰もいなくて助かると思いながら、コハクは返答を待ち続ける。

 数秒近い(めい)(もく)の末、彼はようやく真実の一端を開帳させるのだった。

 

 『ヘラクレス-No.γ(ガンマ)耀翼(アルカイオス)

 蝋の翼に手向けの花と捧げられた、救世主最後の人間性の塊だ』

 

 長い時を得て、大義も裁きも怒りも削り落とされ、雷神の側面を持つに至った、新たな太陽……

 

 英雄の一次感情を象徴する耀翼(アルカイオス)は、どこまでも穏やかに(おの)が真名を告げたのだ。

 

 そして、同時に神宿コハクは悟る。

 どうやら自分は、とんでもない運命に巻き込まれたらしい。

 

 何故なら、三番目(γ)がいるということは、その始まりとなる一番目(α)と、()の運命を司る二番目(β)がいることを意味するのだから。

 

 

 

戦いへの序曲/Sshlacht Overture...END

 

 

 






 終わったぁぁぁぁぁぁ!
 やっと、やっと、終わったよぉっ(´;ω;`)
 偏頭痛とコウタの詠唱に悩まされること、約二ヶ月半。ようやく、コウタを中心としたepが書き終わりました。

 最後の最後でアルカが全部持っていくのは、リメイク前から既に決めていました(笑)
 何せ、リメイク前はコハクに名乗るシーンすら描写していないという、酷い雑な感じでしたので( ̄▽ ̄;)

 そこで、第一章の最後を飾るコウタとの合同任務後に名乗らせるかと、本編に至る。
 黄金の天駆翔(ハイペリオン)はあくまでアルカの自称で、本名ではないと丸わかり。
 だって、アッシュの功績を鑑みれば、天駆翔(ハイペリオン)なんてコードネーム、歴史の教科書で出てきそうなほど有名だと思うの。

 後は、ヘリオスやケラウノス閣下のような名乗り口上をどうするか?
 最初は普通に、ヘリオスのオマージュで行くのを考え出たんだけど、アルカの正体を隠す必要性がない上に、早く判明させないと深堀出来ないので、どストレートに名乗って頂いた。

 余談だが、原始ケルトの太陽神は雷神も兼ねている。

 では、話もひと段落した所で、コウタのステータス。オープン!!

雷鳴と轟く水煙よ(Mosiblow)天地を繋ぐ馭者たれ(Iphikles)
AVERAGE(基準値)B
DRIVE(発動値) A
STATUS
集束性 A
拡散性 E
操縦性 A
付属性 A
維持性 B
干渉性 C


 モウスィブロウ イフィクレス

 藤木コウタの星辰光(アステリズム)
 能力は、神機性能強化・即時バレット編成
 詠唱の元ネタは、イオラオスとイフィクレス父子と、ケルト神話のロイグ。

 本来なら不可能な戦闘中でのバレット編成を即座に可能にする能力で、バレット内の属性を装填されたバレットに付属したり、集束性を利用することで貫通性能を高めることも可能。

 ただし、拡散性が壊滅的に低いので、放射や爆発などの破砕系バレットを使用し、再干渉。更に広範囲に攻撃することは不可能。
 反面、操縦性と維持性が高く、干渉性も平均的な為、広範囲に星辰光(アステリズム)の能力は広げられなくても、発射した弾丸をある程度は自由自在に操縦することが出来る。

 総じて前衛で戦う神機奏者(ゴッドイーター)の援護に向いた星辰光(アステリズム)
 後に可変式神機が主流になることを考えれば、彼の星辰光(アステリズム)は可変が上手く出来ない新型の神機奏者(ゴッドイーター)の強い味方になるに違いない。



詠唱

創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星

女神が育てた不死の蛇神。再生と増殖を繰り返す多頭竜(ヒュドラ)の首が、お前は無力だと未熟な勇者に毒を吐く。
ゆえ、彼は求めた。難行にさえ同行する者、お前の力を貸してくれ。疾風の如く戦車を駆り、毒蛇を滅ぼす我が一助となって欲しい。

ああ、己は何を勘違いしていたのだろう。
(さか)えの英雄、神成る戦士、()()なる名誉で褒め(たた)えようと、彼の本質は変わらない。我らと同じ独りの人間なのだ。

気付いたからこそ、応じる心に偽りなし。
凡俗たる馬方が、必ず汝の旅路を導こう。たとえ詩神の掟を逆手取ろうと、我が命を()とすに(あた)わず。

超新星(Metalnova)──
雷鳴と轟く水煙よ(Mosiblow)天地を繋ぐ馭者たれ(Iphikles)


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