Dies irae -Silverio Godeater Resurrection-   作:フェルゼン

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第一話 死神の噂/Gerüchte den Tod 後編

 

 

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 「そーいや、新型の方には自己紹介がまだだったな。

 オレはシュン。小川シュンだ。お前の言う通り、これでもオレが先輩だからな。先輩の忠告は素直に聞けよ」

 

 上から目線の口上に、コハクは思わず溜息を吐く。同時に、初の実践演習から帰還したコウタが彼に対する愚痴を漏らしたことにも納得した。

 高慢で横柄な態度は、時にトラブルの原因にもなる。だからこそ同期は、シュンの態度を指して、新人いじめするタイプと判断したのだ。

 

 何より、平然と空気の読めない発言をした先輩の言うことなど、素直に聞ける者がいるとは思えない。

 実際コハクは、恐らく──という枕詞がつくものの、彼の態度から(ろく)でもない話を聞かされるのだろうとさえ考えていた。

 

 「死んだエリックは、若手の神機奏者(ゴッドイーター)としちゃ腕は悪くなかったぜ。それが、こうもアッサリ死ぬにはワケがあるって話だ⋯⋯」

 

 言われ、コハクは怪訝(けげん)そうに目を細め、コウタは首を(かし)げる。

 要するに、エリックの死には()()()()()()()()()()()と言いたいのだろう。

 無論、そんなものなどありはしない。

 エリックが周囲の警戒を(おこた)り、油断していたところを荒神(アラガミ)に目をつけられて襲われた──これの何処(どこ)()()()()()()()()()()()と言うのか。

 

 「なんだよ? その、訳って」

 

 知的好奇心に負けたのだろう。コウタが(たま)らず、シュンに先を促した。

 彼は嬉々としてそれに応える。

 

 「簡単な話さ。おれたちの中に、()()()()()んだよ」

 

 刹那、不自然に鼓動が跳ねた。

 

 「⋯⋯⋯⋯死神⋯⋯だと⋯?」

 

 聞きたくないと、コハクは思った。けれども意に反して唇は動く。

 聞きたくない。聴きたくない。聞けば、心の中で渦巻いていた疑念が確信に至ってしまう。聴けば、無視できなくなってしまう。

 だが、聞かなければ、彼の真意が分からない。聴かなければ、受け止めることも出来ない。

 コハクの目が怪訝(けげん)そうに細められる。彼がようやく話に興味を抱いたと勝手に解釈したシュンは、したり顔で笑った。

 

 しかし。

 

 「なんだよそれ? 都市伝説か何かか?」

 

 コウタが呆れたように目を半眼にさせ、シュンに疑問を投げかけたことで、コハクはハッと我に返る。

 相手の空気に()まれかけていたことを自覚し、彼は(かぶり)を横に振った。額に手を当て、しっかりするよう己を叱咤し、大きく息を吐く。

 

 そして、コハクもまた、自分の意見を述べるのだ。

 

 「アホらしい⋯⋯もう行こうぜ、コウタ」

 

 加え、馬鹿馬鹿しい。荒神(アラガミ)が出現して以降、新西暦におけるの概念は一変した。

 結論から言うと、神は死んだ。人の手ではなく、(アラ)(ガミ)という新たな神の存在によって。

 

 少なくとも、旧西暦から続く宗教はそれが原因で衰退したと言っても過言ではない。

 聖教皇国と呼ばれた西洋の島国では、極東黄金教(エルドラド・ジパング)の時と同様、新たな神を盟主に迎えることで権勢を保とうと足掻いたものの、結果としては()もありなん。順当に荒神(アラガミ)に襲われて聖教皇国は滅亡した。

 

 もはや神とは、西洋でいう祈るものでも東洋でいう(まつ)(しず)めるものでもない。

 人類の天敵、絶対の捕食者、世界を破壊するもの──それが、今の新西暦(じだい)におけるの定義である。

 シュンの話にコハクとコウタが呆れたのは、無論それだけではない。

 エリックが死んだのは、死神と呼ばれる(なに)(がし)のせい──そう言外に語るシュンの姿勢に呆れたのだ。

 

 いや、気分を害したと言うべきか。

 

 二人は別に、自己責任論を語る気はない。立ち上がれぬ者は捨てて行けなどと言う戦場の、兵士達の、大原則であり絶対のルールに彼らは納得していないのだから。

 ゆえに当然、彼のように人死を嬉々として語り合う趣味などない。

 だから早々に話を切り上げ、退散しようと揃って(きびす)を返した──その時。

 

 「そいつの言ってることは本当だぜ」

 

 不意に、頭上から声が落ちてきた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 釣られ、視線をそちらに向ければ、ブロンド物で身を固めたくせっ毛の青年──カレル・シュナイダーが、人を小馬鹿にするような笑みを口元に貼り付けて階段を降りてくる。

 それを見て、コハクは舌を打ち鳴らした。この青年もまた小川シュンと同類だと見抜き、更に心が冷え込んでいく。

 

 コハクはついと(まぶた)を落として、沸き上がる激情を抑えながら口を開いた。

 

 「お前ら正気か? 本気で⋯⋯そんなことを言っているのか?」

 「ふん。正気も何も、()()()()()()。この支部には、死神じみた凶運を運んでくる奴がいる⋯シュンはそう言いたいのさ」

 「だったら、尚のこと性質(タチ)が悪い! まして、そんな話を面白おかしく言いふらすなんざ、馬鹿げてる⋯!」

 「はン! お前はあいつのことを知らないから、そう言えるのさ」

 「そうそう。だから、人の話は最後まで聞くもんだぜ、後輩」

 

 小馬鹿にするかのようにせせら笑う裏側で、何か別の(かげ)りが仄見えた。

 それは畏怖、嫌悪、忌避の類。およそ、この二人には似合わない、生々しい恐怖の感情そのものだった。

 コハクは僅かに眉を(ひそ)める。

 

 「何が言いたい?」

 「別に。ただ、稼ぎたいなら身近に潜む危険ぐらい知っといても損はない」

 「ああ、ソイツは荒神(アラガミ)より危険だぜ? 何せ、ソイツとチームを組んだ奴は、バンバン死んでいくんだからな!」

 「⋯⋯⋯⋯っ!?」

 

 思わず絶句したコハクの耳朶(じだ)に、シュンの放つ言の葉が突き刺さる。

 

 「その死神はよ⋯⋯ソーマってんだ」

 

 同時に、コハクは理解した。いや、彼の話を聞いたことで、胸の中で渦巻いていた疑念が核心へと至れたと言うべきだろう。

 あの日、ソーマから言われた、あの言葉。

 

 ──⋯⋯とにかく死にたくなければ、俺とはなるべく関わらないことだ──

 

 リンドウの想いを汲み取った上で解釈するならば、仲間想いゆえの自己嫌悪から飛び出した言葉と、受け取ることが出来た。

 だが、違う。ソーマのアレは、そんな(しゅ)(しょう)な心掛けだけでは成立しない。

 それには、ある種の事実が必要だ。他者を拒み、遠ざけるに足り得る"何か"があるからこそ、ソーマは無頼漢で居続けられる。

 

 何故ならカレルの言う通り、()()()()()()

 ソーマと組んだ神機奏者(ゴッドイーター)が高確率で死ぬことも、荒神(アラガミ)よりも危険な存在であることも。

 

 「アイツといると、荒神(アラガミ)が自然と寄ってくる。一緒にいるヤツは、すぐ死んじまうよな」

 

 だからシュンは、その事実を噂する。面白おかしく、さも世間話をしているような軽い調子で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 迂遠(うえん)に話すのは、聞かせた相手の反応を楽しむため。悪びれる様子がないのは、他者を(おとし)める行為に悦楽を見出しているからだろう。

 理由は不明だ。だが、そこはかとなく感じるものがある。

 彼は、ソーマのことが気に入らないのだ。

 

 「でもよ、アイツは何でか生きてるんだ。バースト時間もやたら長いしよ。

 な? 人間とは思えないだろ⋯? アイツはな、死神なんだよ」

 

 そうして同意を求められた瞬間、コハクの中で何かが音を立てて切れたのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

   6

 

 

 「だからよ、お前らもあいつと組む時は、せいぜい死なねえように気を付け──⋯⋯」

 「──もういい、黙れ」

 

 るんだな、と続く言葉はしかし、不意に響いた地を()うようなコハクの声により寸断される。

 話の腰を折られたシュンは、苛立ちで顔を(しか)めた。一歩踏み出し、わざとらしく耳に手を当てながら、彼は改めて聞き返すのだ。

 

 「は? なんだって?」

 「聞こえなかったか?」

 

 それに返されたのは、どこまでも冷えた声だった。(ちょう)(しょう)でも(れん)(びん)でもない、シュンの気持ちと理屈に対して心底から()()()()()()()という、明確なまでの拒絶。

 まるで(はえ)でも追い払うかのような(いと)わしさを(にじ)ませて、コハクは告げた。

 

 「黙れと言った」

 「ごあァ───ッ!?」

 「なっ⋯⋯!」

 

 次瞬、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、シュンが冗談みたいに弾け飛ぶ。それを前にし、彼と共に新兵達に絡んできたカレルまでもが言葉を失った。

 そのまま鉄製の欄干に叩きつけられ、支柱を折り曲げる勢いで倒れ込むシュン。いかに彼が(きゃ)(しゃ)とはいえ、()()()()()()()()()()()で成せるような所業ではない。

 

 エントランスの床に座り込む形で倒れたシュンは、口元を手で拭うと、その手についたものを確認し(げっ)(こう)する。

 

 「⋯っの野郎ぉ⋯⋯、いきなり何しやがる!?」

 「⋯⋯テメェの話にムカついた。だから殴った⋯それだけだ」

 「はぁ!? 意味わかんねぇ! おれはただ、事実を教えてやっただけじゃねえか!!」

 「何が事実だ! ふざけるな!!」

 

 静かに応えたのも束の間、シュンのそれに倍する怒号が爆発した。

 

 世界を震わすほどの激しい感情の発露に、その場の全員が息を()む。

 唯一気圧されていないのはソーマ一人だけだが、彼にしてもある種の驚愕に近い思いを(いだ)いていたのは間違いない。

 それは、なぜ──という疑問。なぜコハクは、あんなに激怒しているのだろう。なぜコハクは、シュンの語る死神の噂が許せないのだろう。

 恐らくそれは本人にも答えられない問いで、()いた所で何の意味もない問いだった。

 

 約十年の月日を越えて理解した()()の心情の元、ただ譲れないという感情を胸に、神宿コハクは激怒する。

 

 「ソーマが死神だと? 馬鹿も休み休みに言えッ!

 あいつはあいつなりに、エリックを助けようとしてたんだ! 荒神(アラガミ)の接敵にいち早く気付いたのも、その危険を知らせたのも全部⋯ッ」

 

 心の芯を灼熱の怒りが貫く。握り拳へ更に力が()もる。駄目だ、駄目だと胸中で繰り返し自制を試みるが、覆水盆に返らず。

 一度溢れ出した感情は止まらない。

 

 しかしそれも、むべなるかな。コハクはエリックが殉職する瞬間を文字通り、目と鼻の先で目撃している。

 その日の任務が新兵の実地演習も兼ねており、作戦区域を指定したのは当然、彼等の上司である雨宮リンドウその人だ。

 共に出撃するだけで運が良いと評されるほどの実力者が、鉄塔の森に潜む危険を知らぬはずがなく──

 

 要は、単なる不運。エリックの油断と慢心が生み出した結果に過ぎない。

 頭では理解している事実だが、しかし素直に受け入れるには辛すぎて、心は今もそれを拒絶している。

 

 だから分かるのだ。

 アレは断じて、ソーマの所為ではないと。

 

 「テメェらにあいつの気持ちが分かるか? 知っていたのに何も出来なかった苦しみがッ! 助けたくても助けられなかった虚しさがッッ!!」

 

 確かに彼の人外じみた戦闘センスは、羨望の的ではあるだろう。

 まして態度や言動がアレなのだ。相手の言葉が正しいと理解できる分、余計に疎ましく思うに違いない。

 しかし、結局それは他人事だから感じることであり、当事者となれば見える風景も当然変わる。

 

 優れた五感も、桁外れな星辰(チカラ)も、現実を(くつがえ)すには足らない以上、ソーマにとって(とう)(ろう)の鎌にも劣る無意味な代物でしかない。

 何故なら、いち早く仲間の危機に気付いても、時既に遅く。それを知らせた所で、事態は好転するどころか悪化するばかり。

 ならばと助けに動いても、その手は空虚。何かを掴むことはおろか、仲間の元に駆け寄ることさえ(まま)ならないのだ。

 

 コハクは知っている、そのとき味わう死と喪失の痛みは想像を絶することを。

 やがてそれは後悔という、心を同じ(とき)に縛り付ける呪いの鎖と化すことを。

 

 ゆえにこれが、彼の源泉──怒りに燃える理由だった。

 

 当たり前だが、後悔など率先して抱くものではない。ましてそれを人一人に押し付け、有意義な話のごとく語るなど、狂気の沙汰と言える。

 彼でなくとも、健全な精神と倫理観を持つ者ならば誰であれ、シュンの話に顔を(しか)めるはず。

 

 事実、コハクの後ろに控えるコウタもまた、怒りで顔を険しくさせていた。

 

 「そんなことも分からねえ奴らが、好き勝手ばっか抜かしてるんじゃねェッ! エリックが死んじまったのは、あの場にいた俺ら全員の責任だ! エリックの所為でもなければ、誰か一人の所為でもない!!」

 

 周囲を警戒しながらも、後方支援の射程距離外に身を置いていたソーマ。

 遠慮がないエリックの態度に、何処か懐かしさを覚えて、気が緩みそうになっていたコハク。

 エリックに至っては、もはや語るまでもなかった。

 

 意味のない仮定だが、もしあの場で誰か一人でも()()()()()()()()()()をしていれば⋯⋯

 重軽傷は負うかもしれないが、死という唯一無二の終焉を迎えることはなかっただろう。

 良くも悪くも光と闇の眷属たちは身内を愛し、天敵を憎む傾向がある。ならばこそ、怪我をした事実だけでも目にすれば、コハクとソーマの二人はエリックが死んだ時と同様の反応を見せるのは自明の理だが⋯⋯しかし。

 

 今となっては、後の祭りという他ない。

 

 「それとも何か? 仲間を守れなかった負い目を、あいつ一人に全部背負わす気か? ハッ、ふざけろ。

 そんなことはな、心が卑しい負け犬のすることだ! もう、弱い奴ですらねえ!」

 「なッ⋯⋯なんだと、てめえ」

 

 怒りに任せて吐き捨てたコハクを、射殺さんばかりの目でシュンは睨みつけた。

 のろのろと立ち上がって、危なげな足取りでコハクに近寄り、その胸倉を無造作に掴みあげる。

 

 「⋯新人だからって下手にでてりゃ、ごちゃごちゃ好き勝手に言いやがって! 撤回しろ!!」

 「断る」

 「野郎ッ!」

 

 刹那、空いている右腕が(うな)った。

 コハクの左頬目掛けて飛ぶそれに、事の一部始終を見ていたヒバリとコウタが何やら叫ぶが、時すでに遅し。

 

 殴られた、とコハクは胸中で悟り。

 殴った、と──シュンの顔がその喜悦に歪んだのを目にしたと同時──

 

 「─────は?」

 

 頬から鋼鉄でも殴り付けたかのような、ありえない音がエントランス内に木霊した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 小川シュンのあるかも分からない名誉の為に言っておくならば。

 彼の拳は、確かにコハクの左頬を捉えてはいたのだ。ただ、その際に付随する反応が見られないのである。

 

 殴られた箇所から走る衝撃も、ぐらりと揺れるはずの視界も、肉体が訴える痛みも、今のコハクには何も感じられない。

 強いて分かることは、シュンの拳が頬にめり込んでいることだけだった。

 

 思いも寄らない異常事態に、コハクもまた驚愕する。

 怒りで沸騰していた頭が冷静さを取り戻し、ここに来てようやく、自分が()()()()()()()()()()()()()()()()ことを認識した。

 

 ゆえに、続くシュンの言葉も当たり前の反応として受け入れる。

 

 「殴ったんだぞ、当たったんだぞ、なんで平然としてられるんだよ、ありえないだろ!」

 「な⋯ッ。おまえ、自分から人を殴っといて、なんだよその言い草は!!」

 「おまえだって見てただろ? 聞いてただろ!? 殴られても平気な顔してるこいつをッ! 殴った所からありえねー音が鳴ったのをッ!!」

 「だからってなぁッ!!」

 

 言外に普通では無いと叫ぶシュンに、堪らずコウタが(はん)(ぱく)した。

 同期とて、シュンの話す理屈に思うところがある。

 そこに越えてはならぬ一線が加われば、年上相手にコウタが(ふん)(がい)するのも無理はない。

 

 ソーマの件もあり、言い合いになる二人を()()りながら、事の発端であるコハクは嘆くように溜息を吐いた。

 忌々しげに目を細め、誰にも聞こえない声で独り()ちる。

 

 「⋯⋯だから、()()()()()()()()

 

 だと言うのに、心の(うち)にある怒りは今も(くすぶ)っていた。

 恐らく、この怒りは別のところに因がある。ゆえに燻り、冷静さを取り戻してなお鎮火する気配がない。

 自分が納得する形で折り合いをつけぬ限り、これは決して消えることはないだろう。

 

 ならばと考えたコハクは、不意に踵を返した。

 細心の注意を払ってカレルの横を通り過ぎ、一人先に階段を登り始める。

 

 「あ、おい! 待てよ、コハク!」

 

 すると、それに気付いたコウタが、慌てて後を追いかけてきた。

 対してシュンは偉そうに鼻を鳴らしているが、それだけだ。

 よほど先の異常現象に堪えたのだろう。後を追いかけてくる気配はない。

 

 「いいのかよ、このまま逃げ出して! おれ、あいつらと組んだことあるから分かるけどけ、絶対あることないこと噂し始めるぜ、きっと! なあ、おい──」

 「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 コウタが何やら言い募られても、今は無視を決め込む。下手に相手をしたら、彼にも怒りの矛先を向けしまいかねない。

 それだけはすまいと己を律し、残り少ない理性で同期の友人に謝罪しながら、コハクは黙々と歩き続ける。

 

 ソーマの()り方は、かつての自分と同じだ。

 拒絶こそが守ることに繋がるのだと信じて疑わず、健気にそれを貫こうとしている。

 だが、その先には何も無い。あるのはただ、大切なものを守ろうとして、()()()()()()()()という度し難い結末だけ。

 

 「⋯⋯⋯冗談じゃねえ」 

 

 吐き捨てると同時に、エントランス二階へ辿り着く。

 視線だけを動かして周囲を見渡せば、居住区用のエレベーターとは真逆の方向に、コハクが探す目的の人物は立っていた。

 

 物分りが良いように(うつむ)いているその青年は、こちらを見るなり忌々しげに顔を(しか)める始末。

 その態度が、余計にコハクの苛立ちを誘った。舌打ちし、再び歩き出してソーマの前に立つ。

 

 そして、一言。

 

 「で? テメェはテメェで、何ありもしねえ事実を受け入れてやがる」

 

 抉るような低い声で、シュンの時とは異なる怒りをソーマにぶつけるのだった。

 

 





 や、やっと書き終えた(震え声)
 まさか、こんなにも怒るシーンが難しいだなんて⋯⋯本当、正田卿って凄いやと改めて思いました。

 ただ、作品としてはまだ序盤中の序盤。
 そこまで詳しく描写せずとも、今は「ただそれだけ」で良いのでは無いか? と開き直った訳です。
 結果は、言わずもがなですね。神座シリーズの世界観を考慮すれば、コハクの異常性が分かると思います。

 まあ、怒るのが嫌な分、爆発した時の威力がとんでもねー人なんですけどね、彼。

 次回からは、リメイク前から大体コピペして、加筆修正するだけで済むコハクとソーマの殴り合いになります。

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