Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

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注意
 ・うp主は、喧嘩シーンのインプット量が少ないです。
 ・この為、玲愛√の蓮VS司狼を参考にしています。
 ・工夫はしてますが、ネタバレ&キャラ崩壊に注意してください。



第二話 喧嘩しよう/Lasst uns kämpfen 後編

 

   3

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 瞬間、ソーマは背後の壁を殴りつけた。

 同時に響くのは、耳を(ろう)する大轟音。これには流石のコウタだけでなく、エントランス内にいる誰もがビクリと肩を震わせ、驚愕する。

 

 力任せに殴打したのだろうか、その壁には巨大な(ひび)が入っていた。衝撃で()がれた破片が、ぱらぱらとソーマの足元へ落ちていく。

 だが、そんなものに一瞥(いちべつ)*1をくれる余裕など今の彼にはない。

 

「⋯ふざけるな⋯⋯ふざけるなよ、ルーキーッ!

 ()()()()()()()()()()()だと? そんなこと、俺は絶対に──⋯⋯」

「ふざけてんのはそっちだッ! いつまでもそうやって、逃げ続けられる訳ねえだろうが!!」

 

 怒号が飛び交い、食って()かったソーマを強烈な威圧が襲う。

 獣のような眼光。先ほど、シュンに見せたものとは質の違う⋯⋯本気の怒り。

 

 それはもうどうしようもない、二人の間に生まれた溝で。完全に互いの見ている地平がズレた、その証左だったから。

 

()(くび)るなよ、俺は本気だ」

 

 抑揚のない声で言われ、ソーマは思わず目を見開いた。コハクは続ける。

 

「ラリってるんじゃねえぜ、ソーマ。目玉磨いて、脳味噌丸洗いしてから周りをよく見てみやがれ。

 お前の言う同行者は死んだ、エリックもだ。今更テメェが訳分かんねえ意地張ったところでなぁ⋯⋯もう何もかも手遅れなんだよ!

 言ったろうが、他ならないてめえ自身が。とっととクソッタレた日常に慣れろ、それしかねえだろうがって⋯⋯ありゃなんだ? どういうことだ? 今のてめえの態度と比べてよ。

 死んだらそいつに(すが)りつくための言い訳か? 違うのか? そんなシケた(つら)しやがって、まだスカしたこと抜かしてカッコつけやがって。

 今のお前は、落としたもんが石ころだろうが、宝石だろうが、何の区別もついてねえ。全部失っちまった後になって、大切だったことに気付いて、落っこちたもん片っ端から抱え込んでるだけのクソガキだ。

 戻ってこねえよ、みっともねえ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()⋯⋯本当イライラするぜ」

 

 歯噛みし、睨みつけてくる激情が、痛い。

 何よりも。押し潰されそうで、辛くて。

 

「そうさ死んじまったんだよ、もう二度と戻っては来ねえ。

 なのに吹っ切れることもなく、死人みたいな理論いつまで垂れ流してやがるんだ、てめえはッ。悔しくねえのかよ、死なせたくなかったって吼え返してみろッ!」

「黙れ⋯っ。お前には、関係ない!」

 

 反論に僅か敵意が薄れ、コハクは(ちょう)(ろう)の笑みをこぼした。

 

「⋯⋯じゃあ、どうするんだ? いつまでもそーやって永遠と延々に、積み上がった髑髏(どくろ)の山でも()でてるつもりか?」

「違うッ!」

「何が違うんだよ。今だって、()()()()()()()()()()()()

「⋯⋯ッ!?」

 

 思わず絶句したソーマの耳朶(じだ)に、コハクの放つ言葉が突き刺さる。

 

「図星か⋯⋯お前、意外と分かり易い奴なんだな。少なくとも、俺にはお前がそう見えるぜ。

 過去を引きずって、後悔ばっかして、いつも死を想ってやがる。だからお前は、生きてる奴を見ないんだろ? 大切に想えないんだろ?

 馬鹿が。いい加減気付けよ、ソーマ。そーやって過去(うしろ)向きに逃げ続ける限り、お前は何もかも失う羽目になるんだぜ」

 

 確かに、彼の言う通りだった。

 大切な人を失いたくないと想うのなら、怒りよりも、憎しみよりも、恐れよりも。他のどんなものよりも、いま目の前にある現実と向き合わなければならない。

 その分、喪失した時の痛みは計り知れないが、まだ結末に納得して乗り越えることは出来るだろう。

 少なくとも、まるで昨日のことであるかのように、愚痴(ぐち)(うら)みを垂れ流すことはないはずだ。

 

 けれどソーマの理屈にとって、それは決して(うなず)いてはならない言葉でもあったから──

 

「お前が⋯⋯お前こそ何言ってやがる、ルーキー。らしくなく、弱きじゃねえか」

 

 震えそうな声で否定する。まるで、信じられないと言わんばかりに。

 

「俺のことなんざ気にせず、お前はただ()だけを見てればいい。簡単なことだろ、勝手に諦めようとしてるんじゃねえッ」

 

 悲しいわけではない。痛いわけでもない。なのに心の底から激情が込み上げて、喉に絡まる。

 それが表に出ないよう必死で(こら)えながら、ソーマは語気(ごけ)を荒げた。

 

「偽悪的な態度なんかやめちまえ。言わせて貰うが、似合ってねえんだよ。お前の十八番(おはこ)は、頭の硬さと頑固さだろ? ならそれらしく、ブレずに負けん気でも燃やしたらいいじゃねえかッ。

 スカしてカッコつけてるのはそっちだ、賢そうに切り捨てさせる算段なんざつけんな──ッ」

 

 死神の噂を理不尽だと思うのなら、その原因ごとお前が焼き尽くしてしまえばいい。

 荒神(アラガミ)を駆逐する。誰一人として死なせない。お前もサクヤもリンドウも、何があろうと生き残る。どうしてそれに本気を出さない。

 

 その場にいた誰もが、ソーマの激しさに息を呑んだ。

 対するコハクは、瞠目(どうもく)したまま彼を(ぎょう)()している。

 驚愕で瞳が揺れ、次いで困惑。そして深い嘆息の後、小馬鹿にするように口角を吊り上げた。

 

「はっ、何を言い出すかと思えば⋯⋯お前それ、()()()()()()?」

「なっ⋯」 

「悪いが俺は、鋼の英雄様でもなければ、焔の救世主様でもないんでな。

 あの二人みたいに、決めたからこそ果てまで()くとか⋯⋯俺には、()()()()()()()()()()()()()⋯」

 

 刹那、視線を落としてくしゃりと歪むコハクの相貌(そうぼう)

 気付いたソーマは、はっと息を詰める。初めて見る顔なのに、妙な既視感を覚えるのは何故なのか。

 だが、その表情は一瞬で消え、再び剣呑なものに変わる。

 

「話を戻すが⋯⋯お前、またエリックみたいに、大切だと想える奴が現れたらどうするつもりだ?」

「それは──⋯⋯」

「エリックみたいに遠ざけて、拒絶して、それで終わりか? 馬鹿が。それじゃ駄目だ」

 

 簡単に、それこそ呆気なく。考えていた言葉すら否定された。

 

「あの手の人種はめげることを知らねえからな、拒絶しても意味がねえ。例え手酷く罵倒されようが、ぶん殴れようが、お前の思い通りにはなってくれねえのさ」

 

 むしろ、その逆。ソーマの言葉や態度の裏に見え隠れする()()()()()を正しく汲み取り、淡い笑みすら浮かべて見せるだろう。

 君は優しいな、仲間想いだなと。言われた本人からして、見当違いも(はなはだ)しい評価を下しながら。

 

「その上で、だ──なぁ、ソーマ。お前一体、何がしたい?」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 再び問われ、ソーマは返答に(きゅう)して唇を噛んだ。

 

 死神らしく仲間を見捨てるにしろ、しないにしろ。過程に重要なのは己の意志。

 もうそれしかなくて、その選択しかないのなら。

 この俺に、()()と言うのか? ■■■とこれから現れるだろう大切な者、その二つからどちらか片方だけを抱き締めろと?

 

「ま、そーいうこった」

 

 先ほどまでと打って変わり、静けさを取り戻したコハクの声音は、聞く者に薄ら寒さを感じさせた。証拠に彼の背後に控えたコウタが、堪らず生唾(なまつば)を飲み込む。

 一方のソーマは、眼前の新兵をきつく睨み返した。これほど彼が忌々しいと思ったのは、初めて共に任務をこなしたあの日以来である。

 

「で、お前は選びたくねえんだろ? だから俺が、嫌でもお前に選ばせてやるっつってんだぜ」

 

 ついと、コハクは目を細めた。言い逃れなど許さぬと言うように。

 

()()()()()()()()()。駄々こねて、逃げてばっかいるお前は、結局最後まで何も選べない。

 極限まで追い詰められねえと、お前は戸口を開けねえトロイの木馬だ。八方美人しやがって、今だってきっちりかましてやがる」

 

 冷たく響く声は淡々としていて、(だい)(おん)(じょう)で怒鳴られるより、余程心に突き刺さる。

 そこにあるのは、確かな思いやり。ソーマにかつての己と同じ(わだち)を踏ませたくないという、哀切の思いがよく分かる。

 難しいことは()(じん)もない。おかしなことも言ってはいない。

 

 コハクが伝えたいのは、とてもとても簡単なこと。そう──

 

「それが嫌なら、大切なことぐらい自分の心で選びやがれ! エリックの死を、無駄にすんなッ!!」

 

 ああするべきとか、資格がどうとか、そんな()()()()()()()()など関係なく、全ては己の心によって。そうでなければ意味はないのだと。

 そんな激烈な活が、神託を告げるかの如き忠告と共に轟いた。

 

 刹那に。

 

「──はっ、なんだそれは」

 

 吐き捨て、ソーマは乱暴にコハクの胸倉を掴む。次いでぐいと、華奢(きゃしゃ)な肢体を引き寄せた。

 (ぎょう)()してきた彼の視線が痛い。言葉の続きを促されているようで⋯⋯なのに何も言えず、息が詰まるような思いに襲われる。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 しかしそれも、むべなるかな。ソーマとて理解はしているし、気付いてもいるのだ。何もかも、コハクの言う通りであることを。

 けれど、無理なものは無理なのだ。彼は眼前の新兵みたく過去から学び、(ちゅう)(ちょ)なく他の道を選び取ることは勿論。選んで捨てて、残ったものを誇ることもできやしない。

 

 認めよう。相手の方が余程、自身よりも先に進んでいたのだと。

 闇の眷属だからだろうか。属性を言い訳にするつもりはないが、自分はいつまでもしがみついていた。今に積み重ねた喪失は、(すべ)てそれが原因だったのだと。

 

 けれど、ああそうだとも、()()()()()──

 

「ふざけるのも大概にしろ、ルーキー。目障りだ」

 

 冷たい語気(ごけ)で言い放ち、突き飛ばすようにコハクの胸倉から手を離す。

 加減などしなかったためか、思わず体勢を崩した彼が勢い良く床に尻餅(しりもち)をついた。その姿を冷めた目で睥睨(へいげい)しながら、ソーマは闇の眷属らしく(あざ)(わら)う。

 

 そもそも、おかしな話だ。いずれ現れるかもしれない大切なもののため、自分の意志で勝利を選べと言う割に、この青年は自分の存在を(かん)(じょう)に入れていない。

 恐らく、互いの属性を考慮した結果なのだろうが⋯⋯

 忘れてはならない、闇の眷属とは得てして、理屈よりも感情が先に来る生き物だ。相手の属性など些事(さじ)であり、証拠に前例もいくつか存在する。

 そうした自身の特性を、ソーマとて無自覚なわけがなく。

 

「俺のことなんざ放って置け。無駄な手間をかけさせるな」

 

 ゆえに拒絶する。選択肢など総じて邪魔だと(いっ)(しゅう)する。

 ああそうとも、こんなところで別の可能性(みち)に逸れるわけにはいかないのだ。

 

 手放したくないと、何故か強く思う目障りな一滴。

 自分に関われば最後、エリックよりも容易く(こぼ)れるであろう期待の新人。それを承知で(おの)勝利を選ぶなど、絶対にすることができなかった。

 

「勘違いするな。お前が何を簡単に切り捨てようが、なに勝手に⋯⋯俺の許可得て馬鹿げたことやろうが、俺には関係ない。

 いなくなるならいなくなるで、()()()()()()()()()()()。決まって俺を巻き込もうとするな。でないと、俺は──」

 

 お前を大切だと思うようになってしまう。

 たとえ英雄(ヒカリ)と同類だとしても、自分との任務で何とか生還してくれたこの新型を、知らず知らずの内に身内として見るようになってしまう。

 そんなのはごめんだ。絶対に認めない。

 お前にはずっと、それらしく──やり過ぎない程度に輝きながら生きて、馬鹿みたいに未来を目指してて欲しいんだ。

 

「だから⋯⋯お前は俺に関わるな。

 価値なんてつけるか、優先事項なんぞ知るか、できるかできないかにも興味はない。守ってやるつもりなんざハナからねえ。

 俺はお前に、関わるつもりはない。お前の存在に興味もない」

 

 大切な存在だと思える可能性があるからこそ、その選択のどれかを選ぶわけにはいかなかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 ソーマの慟哭にも似た()(とう)の数々に、コハクは再び目を見開いた。

 

 何も言葉が出ない。返答もない。沈黙がおりる、数秒の永遠。

 (しゅん)(じゅん)は一瞬で──次の刹那には苦笑を(たた)え、やおらコハクは立ち上がる。

 そうして息をついて、やれやれといった()(ぜい)で肩を(すく)めた。

 

「はっ──全く、この博愛主義者は」

 

 その仕草からは険が取れていて、仕方なさげに髪を()いて⋯⋯

 

「いつまでもペラペラ──甘ったれたこと抜かしてんじゃねぇッ!」

「──ッ、が!?」

 

 刹那、暗転する視界。(ほお)を突き抜けた衝撃に身体は吹き飛ばされ、コンクリートの壁と激突を果たす。

 (とっ)()に片膝をついて、何とか座り込むことだけは阻止したが、顔面と背中──思いがけぬ場所への痛打に視界が(またた)き、素早く立ち上がることができない。

 意識さえ朦朧(もうろう)とする中、巨大な覇気を引っさげた影が歩み寄ってきた。

 

 ──本気だ。

 

 誰に言われるまでもない。ソーマに備わる闇の眷属としての本能が、もはや取り返しはつかぬと(けい)(しょう)を鳴らしている。

 

「な⋯何やってんだよ、コハクっ!」

「お前はすっこんでろ。これは⋯⋯俺とこいつの問題だ」

 

 慌てて止めようと駆け寄るコウタを、声で制した。

 片膝をついた姿勢から見上げた先には、こちらを見下ろすコハクの姿。

 

「ルーキーっ、てめえ⋯⋯!」

「怒ったかよ、腰抜け野郎。どいつにもこいつにもいい顔して、あれは嫌だ、これは嫌だ、その上これまで嫌だってか」

 

 彼の(メタル)(ブルー)の瞳が、凄絶に煌めく。

 

「だから結局、最後は誰かに寄りかかるんだ。いい歳しておんぶにだっこか、笑わせる。そうやって何でもかんでもすぐ誰かに与えちまうから、そいつがアキレス腱になっちまう。

 テメェ独りでどうこうしようとするのも、その裏返しだろ。誰かがいなきゃ立てねえから、そっちばっか見て、挙句テメェはそのざまか。

 阿呆(あほ)が。お陰で後悔しかしねえ大馬鹿になってやがる。どうしようもないな、こりゃ。戦いながら寝てるのか?」

「⋯⋯っ、なんだと⋯⋯」

「違うのかよ」

 

 ふらつきながら、上から目線で吐き捨てられる言葉へソーマは立ち上がる。

 睥睨しているのが(しゃく)(さわ)るのもあったが、何よりコハクにその視線を向けられることが我慢

 叩きつける気迫など意に介さず、返る視線は涼しげだ。けれど呼応するかのごとくエントランス内へ満ちるのは⋯⋯紛れもない戦意の類。

 

 同時、二人の脳裏に襲いかかったのは、雑音混じりの既知感だ。

 

 かつて何処(どこ)かで同じように対峙し、一方を排除した記憶が。その焼き直しをするように、後継者となって殺し合った経験が。確かな実感と共に押し寄せ、ソーマを激しく困惑させる。

 なんだこれは? 全く訳が分からない。

 辛うじて分かることと言えば、今まで静観していた()()()()()が現れたということだけ。まるで警告するかのように、破滅的な光と闇の決戦を流し込んでくる。

 

 一方のコハクに、戸惑いは一切見られない。

 恐らく、誰の差し金か気付いているのだろう。深い溜息を吐き、だがしかし──()()()()()だと(まなじり)を決する。

 

「⋯こいよ、ソーマ。喧嘩しようぜ。

 光だとか闇だとか、そんなの全部どうでもいい。俺とお前のケリを、今ここでつけようじゃねえか」

「野郎──っ!」

 

 脳内に響いたのは、自分でも正体が分からない、糸の切れる音。

 振り上げた拳に、一瞬の交差。

 喉を迸ほとばしったのは、怒りの咆哮で。そして間違いなく⋯⋯悲鳴の亜種でもあった。

 

 

 

*1
ちらっと見ること。ちょっとだけ見やることの意。





 長いこと苦戦し続けて思ったのですが、光の眷属の中にも「できない人」っていますよね、多分。
 ラグナロクの実況動画を見る感じ、ラグナは「できるけど自制してやらない」という印象を受けたのもあります。
 なら、私の書くコハクはその逆にしようと考えました。ただ腐っても光の眷属なので、仮にできても長続きしないぐらいの塩梅です。

 尚、実際にプレイはしていません。
 なので、ラグナに対する認識が間違っている場合、ご指摘して下さると助かります。

 それでは、また次回。
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