Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

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Prologue #06

 ──笑顔を浮かべる少女の姿が見える。

 あどけなさの残る顔を満面と喜色に染め、太陽にも負けない明るさで、少女は今も変わらず笑みを浮かべていた。

 

 そんな彼女の笑顔を見て、守りたいと、ずっと笑顔でいて欲しいと、少年は心の底から切に願っていたのである。

 ありきたりで、ありふれた──それこそ、世界中を探せば()()にでもあるような日常に咲く小さな花。

 それこそが、()()えのない宝物だと、この少年は常日頃から感じていた。

 

 家族や友人を殺されるのは“当たり前”だ。

 当然、怒りや嘆きを(かて)に才能が芽吹くのも“当たり前”で。

 子供が武器を手に異形と殺し合うのも“当たり前”である。

 

 平坦な日常など、それこそ英雄譚や逆襲劇と並ぶ空想の夢物語に過ぎない。

 (アラ)(ガミ)の出現は、ありふれた日常という“常識(あたりまえ)”を、いとも容易(たやす)く“非常識(ありえない)”モノに(おとし)めていく。

 ありえないモノが当たり前に。当たり前なモノがありえないモノに。

 環境の変化や時代の流れに合わせ、人の常識が流転するのは至極自然なことだ。

 

 だがしかし、それはあくまでも一般常識の話であり、まだ未熟な子供であるコハクが、それを身に付けている最中なのは言うまでもないだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()という、人々の“当たり前”な願望を見てきたのもあるのか。彼が愛しているのは、ありふれた“当たり前”であり、それを塗り潰す“非日常”が好きになれない。

 ゆえに、彼は()()()(ののし)られることを許容したのだ。

 

 ()()()()()()(いく)つもある。弁明も難しい。

 そして人間、幾ら仕方がないと割り切ろうとも、負の言葉には敏感になる。だから、ごく自然な流れとして、コハクは()()()()()()()()()()()()という前提思考に囚われた。

 

 それに加え、大切な少女まで()()()と罵られることを恐れてしまったことも、彼が()()()()()()()に走った要因の一つだったのだろう。自分の本音を置き去りに、()()()()()()()として少女の事を拒み続けたのだ。

 

 本音で語り合えた機会など、あったかどうかさえ覚えていない。

 もし仮に、コハクが彼女まで()()()と罵られる事を恐れずに、事情を話して本当の気持ちを話していたら。或いは、正面から向き合った上で妥協策を探していたら──たとえ、結末は変えられずとも、少年の心に強い後悔が生じる事は無かっただろう。

 結果、彼はヒユリの真意に気付く事が出来ぬまま、その手から大切な者を取り(こぼ)してしまった。

 

 だからこそ、守れなかった事がただただ悲しい。

 心底から大切だと思えた日常の象徴(ひだまり)を、この手から取り零した喪失感が、今も胸を締め付けている。

 なまじ、()()()()()()()()()()を想像してしまうから、尚のこと。悲しみが、かくも心に()みゆくのだ。

 

 自分には向いていなかったのだと、彼女のような犠牲者はもう出させないと、()()()()()()()を取り(つくろ)って逃げる事が出来たら、どれだけ楽になれるだろう。

 だが、(すべ)ての痛みと理不尽を背負い、雄々しく立ち上がれるほど強くもなければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()愛しい“過去”を守り抜こうと振り切れる勢いの良さも、神宿コハクは持ち合わせていなかった。

 

 父が死んだかもしれない──

 そんな不条理(げんじつ)を突き付けられ、状況から見ても生存が絶望的である事実を前に、心が今も痛苦を訴えている。

 

 だがしかし──ああ、()()()()

 (くずお)れる*1ギリギリの()()(ぎわ)で、それだけはすまいと踏みとどめたのは。

 

 ──コハク──

 

 真っ直ぐに自分を愛してくれるあの笑顔に、顔向け出来ないことだけはしたくないからだ。

 

 それこそが──

 

 英雄という規格外と同じ“光”でありながら。

 未来の為に(じゅん)ずるには余りに()()として。

 多くの愛しい過去を有してしまった。

 “闇”にも“灰色”にもなれない()()()の胸に宿る。

 

 ─────(ともしび)

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「創生せよ、天に描いた(せい)(しん)を──我らは煌めく流れ星」

 

 ささめく*2ように(つむ)がれるのは、悲哀を(せい)(ひつ)な情熱に変える詠唱(ランゲージ)

 愛おしい“過去(おもいで)”があり、心底から大切にしていた者がいた“光”の眷属。彼女と共に想いを()せた“未来”に希望を(いだ)きながら、生きている“()()”こそを守りたいと願っていた少年が、()()に覚醒を果たす時が来た。

 

 場に存在する膨大な量の星辰体(アストラル)禍神体(オラクル)がコハクと感応し、静かに(れい)()していく。

 それが女帝の感覚(アンテナ)に伝わり、冷酷な(みず)(はなだ)色の魔眼が、ゆっくりとコハクに向けられた。

 

 しかしそれも、むべなるかな*3彼女が即座に反応してしまうほど、彼は()(てつ)もない星を輝照させんとしているのだから。

 コハクは知りえない事だが、星辰奏者(エスペラント)神機奏者(ゴットイーター)と言えど、星辰体(アストラル)禍神体(オラクル)に感応して次元間エネルギーそのものを限定的に現界へと呼び出すのには、それ相応の出力捻出が求められる。

 言わば、地球の法則を無視した異次元(むこうがわ)の恩恵。その一端を用いる以上、星光の規模が大きければ大きいほど、大気中の星辰体(アストラル)禍神体(オラクル)の流れもまた、大きくうねらざるを得なくなるのだ。

 

 巨人からすれば、ほんの小さな身動(みじろ)ぎでも、小人からすれば大地震の何者でもないのと全く同じである。

 結果として、氷麗女帝は()()()()()()()()()()()

 

 無論、流石(さすが)に星光の揺らぎを物質的に視認することは出来ない。が、感知する事は可能なのだ。

 ゆえ、コハクの粒子反応が極端に膨れ上がった瞬間、相手の必殺ないし、大規模な星光が来ると察知するという因果関係が見事に成立する。

 何より、自分が可愛い女帝にとって、()(そん)にも尊き者(アラガミ)に歯向かおうとする者を無視する事が出来ない。

 そして、彼女はその星光の誕生を目撃してしまった。

 

 破壊の神威たる黄金光と、(かい)(びゃく)の象徴たる(かく)(やく)光が、淡く(あお)(じろ)い光に変貌していくのを。

 規格外の星の割に、猛威という猛威が一切感じない。(せい)(ひつ)にして穏やか、そして暖かく優しさに満ちた光の発生を。

 鋼の英雄や焔の救世主が有していた激しさという(はげ)しさの一切合切が消え失せた、“光”と思えぬ“光”の誕生を。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 目撃した光景に、思わずと言った様子で呆然とする女帝。

 その(かん)(げき)を、コハクは決して見逃さなかった。

 

 「せーのッ」

 

 ()(だる)い声と共に、振り上げた長剣に感応した星と剣の粒子を(くろ)(がね)の剣身に収束。

 剣身に渦を巻く(あお)(じろ)い光が、最大まで装填された次の刹那──

 

 「くたばれッ」

 

 宣告と同時、持てる限界速度で解き放つ(こん)(しん)の斬撃はしかし、我に帰った女帝によりことも無く弾かれる。

 初撃にして出し惜しみなし。並の(アラ)(ガミ)ならば無傷では済まないであろう星光を軽々といなすとは、流石(さすが)は正真正銘の怪物と言って構わない。

 女帝が無傷である事を確認し、コハクは思わず歯噛みした。

 

 襲い()かる斬撃は残像さえ残さない加速を得ていたはず。

 音も、殺気も、気配すらも置き去りに、全力で放ったそれさえも、その首元には触れられない。

 否、届く気配さえしなかった。

 

 「ハァ、ッ──!」

 

 されど、刹那の間隙が生じれば、決して見逃さずに追撃へ(おど)り出るコハク。諦めずに連撃に繋げていくそれは、彼に力を貸し与えている姿()()()()が下す(たく)(えつ)した判断力と戦闘技術の(たま)(もの)だが、氷麗女帝に届かないと言う意味においては委細変わらず。

 しかし、それらの攻撃(すべ)てが無駄だった訳ではない。()()()()()()()()事が出来ただけでも立派な成果だろう。見る者全てを凍りつかせるような魔眼が、今度こそ完全にコハクを捕捉した。

 

 殺気を(はら)んでいる所ではない。視界に捉えた者や、狙いを定めた者全てを根絶やしにせんとするその気概に、コハクは一瞬圧倒されかかる。

 だがしかし、それもむべなるかな。彼の本質は確かに“光”の眷属だが、鋼の英雄のような感性など、()(じん)も持ち合わせていない。

 生存本能が()ぎ分ける殺気に、寒気が背筋を駆け巡る。まるで、背中に直接ドライアイスの煙を注ぎ込まれたかの如く、背骨まで浸透していくそれに、えも知れぬ恐怖を感じて足が(すく)みかけた。

 

 忘れてはならない。確かに、神宿コハクの本質は光の眷属ではあるが、同時に普通の感性を持つ少年である。

 平穏を愛し、争いを好まず、何事もない日常を大切な少女や父と共に過ごせるならば、それだけで充分······そんな、ひ弱でか細く、儚く無価値で、無意味に世界へ生まれ落ちた、()()にでもいる()()()()な人間なのだ。

 

 本音を言えば、戦いなどしたくはない。

 だが、戦う以外に生き残る道は存在しないのが現実。

 

 痛いのは嫌いだ。出来る事なら逃げ出したい。

 しかし、“逃亡”を選択した場合の生存確率はゼロ。

 

 恐くないと言えば嘘になる。本当は死ぬのが怖い。

 ただ、()()()()()()()()()と決めただけだった。

 

 だから、彼は戦う事を選んだ。武器を手に()り、生存の道を確実にする為に、(アラ)(ガミ)(ばっ)()する居住区内を駆け回っていたのである。

 死の恐怖を押し殺し、苦手な根性論を振りかざしながら、まだだまだだと奮起して戦っていた。

 

 ああ、ゆえに──

 

 「邪魔なんだよ、お前らの存在は──」

 

 武装の()を強く握り締め、命を()けて遂行したいと想う決意を口にする。

 (アラ)(ガミ)である彼女達からすれば、()()にいた者達の命など、たかが(ちり)(あくた)も当然だろう。

 だが、自分からすれば、()()えのない宝物なのだ。たとえ、どれほどの(いわ)れなき悪意をぶつけられようとも、軽々しく踏み荒らされていいような安い代物では断じてない。

 ヒユリとの、ささやかな日常──たまに父や彼女の友人も交え、親しい人物達と過ごす平穏は、時に(うっ)(とう)しく感じることはあれども、今となってはどれも(けが)されていい訳が無かった。

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ヒユリとの約束があるから──という、そんな大義名分だけでは無い。

 ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──という、そんな身勝手な()()の為だけにコハクは戦う。

 ただそれだけで彼は痛みに(こら)え、死の恐怖を押し殺す──過去(おもいで)に残る大切な少女に、胸を張って笑い返せるようになりたい。

 そう、神宿コハクを支える原動力に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 絶対に生き残る。全ては大切な少女の為に。あの笑顔に恥じることだけはしたくないから。その一念を()()に変えて刃を構え、コハクは喝破と共に虐殺の権化である蒼の(アラ)(ガミ)(たい)()するのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

*1
気力が抜けて、その場に崩れるようにして倒れたり、座り込んだりすること。

*2
1.ひそひそと話す。ささやく。

2.さやさやとかすかに音を立てる

*3
もっともなこと。当然なことの意。




 うわぁ〜い、やっと書き終わった〜。
 投稿が遅くなった理由は、クー・フーリン 【オルタ】のPUが来ると知り、石をホリホリしていたのと、仕事関係で研修に入った時期が重なったからです。

 プロローグって短い方が良いと、よくネットで見かけていたので、割と話数を気にしていたんですけど、「Dies irae」と「ヴェンデッタ」、「ラグナロク」は約一時間。
 「トリニティ」は約30分と、プロローグに一時間かけているノベルゲームに出会ってしまうと、「短いとか、長いとか関係なくね?」と開き直った次第でございます。

 今回はリメイク前と異なり、コハク君の詠唱とステータスがプロローグにて開示されません。理由は、「シルヴァリオ三作品」の主人公が詠唱するのは、第一章のケースが多いからです。
 アルカ君は「シルヴァリオシリーズ」の中でも、カグツチやヘリオスに位置するのと、「創生せよ〜」とこの時は人間時の詠唱だから。
 スゲー公開ラブレター味出ちゃったけど、気にしない。気にしない。

 男ボイス15のコンセプトである、「やる気皆無」を前提に置いている為、どこかしこに男ボイス15のセリフが転がっています。
 因みに、一主は神機使いになる前、無職だった事が判明しているので、下手したら「金なし、職なし、やる気無し」と言う、ゼファーさん二号になってた可能性あり。
 ただ、痛いのは嫌いだけど、仕事はキチッとこなすし、楽な任務が好きだけど、高難易度任務に挑んでも「割に合わない仕事だぜ」とか、「おいおい、このままじゃ身が持たねえぞ」など、辛勝した時にしか愚痴を漏らさないという、決定的な違いが存在するという。

 ゼファーさんは、適合試験受けただけで狂い哭く。
 まあ、彼の話は一旦置いておくとして。
 結構、男ボイス15ってキャラが掴めないんですけど、「GOD EATER」のOP、「Over The Clouds」の歌詞の言葉。

 「人は何故に、忘れてくの。
 ありきたりの、この日常に、かけがえのないものがあると」

 という、この一小節を根底に置かれているのではないか? と考察したんです。
 だから、「やる気皆無」。正直、アラガミの討伐は「シャーマンキング」の主人公・麻倉葉の「楽でいたいから」に近いテンションで、仕事をこなしてる感あるんだよな。
 彼の有名な名言に、「本物の楽々は、キッチリ頑張らんと味わえん。だから、こうして戦いにも来てる」があるんですが、男ボイス15はそんな葉君の思想と酷似してるのでは? と思うんよ。

 だから、「Vermilion -Bind of blood-」のクラウス爺さんとか、「Dies irae」の藤井蓮とかと比べると、本当にマトモでマシなレベル。
 敵が弱体化すれば、「痛いのは嫌いなんでな」とか。毒状態になると、「そのまま死んでくれ」とか。ダウン状態になると、「よし、ボコろうぜ」とか言うセリフが確認出来るので、マジで普通の感性を持っているのは間違いない。

 なんだろう? 光の眷属になったゼファーさん的な?
 (特典ドラマCD「性格反転? あるいはこんな特異点」のゼファーさんとは別の意味で)

 光の眷属の中でも最弱なのは、ラグナ君やジェイスさんほど尖ってないし、尖れないから。
 少なくとも、レインちゃんより劣るね。大切な人の為に過去も未来も皆全て、あらゆる絆を焔と燃やす事が出来ないから。

 うp主的に、そんな光の眷属を書きたいのよ。
 え? ラグナ君がそんな感じ?
 だから、コハク君から光の眷属ゆえの正しさで、ミサキ的立場の子をぶっ殺したんだよ? (*´ᗜ`*)ニコッ

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