Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

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Prologue #07

 彼我の力量差は歴然。

 勝ち目があるなどと思う方が馬鹿げている。

 現在にした所で、何とか相手の意識を此方(こちら)に向けさせたという状態でしかないが、これで追い(すが)る事が可能になった。

 

 踏みしめる足が地面を穿(うが)つ。

 空振った一撃の風圧が、咲き誇る樹氷林を砕く。

 

 ()()()()を突破した(けん)(げき)は、もはや常人の動体視力で捕捉し切れない。その度に走る(あお)(じろ)い剣閃は、コハク固有の象徴なのだろう。

 嘆きの琴も慟哭(さけび)の詩も、何一つとして(こぼ)すまいとする想いに呼応し、この地に(けん)(げん)した異星法則。規模の大きさの割に、脅威らしい脅威を感じさせない星光が、攻撃を(かわ)し続ける女帝を(しつ)(よう)に追い駆けていた。

 

 倉庫の外装から引き()がされた()()()()()()()()が、まるで紙細工のように宙を舞い、後退した女帝のすぐ脇に吹き飛んでいく。

 何故、倉庫の壁が剥がされたのかさえ理解できない。恐らく、その建造物に程近い虚空で、コハクの長剣が女帝の(みず)(はなだ)(いろ)のマントと(さっ)()した──ただ、それだけのことだったのだろう。

 

 「ハァァァァァアアッ──」

 

 (れっ)(ぱく)の喝破と共に、コハクが再び女帝へと肉迫すれば、ただそれだけの事で風が(うな)る。

 この世界の物理法則にあるまじき異星法則だと言うのに、既存世界の大気は悲鳴一つ上げていない。

 一陣の()(ふう)と化しながら、女帝への追撃を続けているにも関わらず、彼は無駄な損害を一切出さずに戦っていた。

 

 それはまさに、有り得べからざる奇跡の具現。

 姿()()()()が操る核反応の横走りの(いかづち )さえ()もあらん。女帝が躱せば、彼女が(つく)り上げた()()()()()()が砕かれていく。

 だが、死体を内包した氷の(ひつぎ)だけは砕かれていない辺り、彼らの肉片一つに至るまで(アラ)(ガミ)の食料にする気がない事が(うかが)えた。

 

 相手が自分の攻撃を躱す事さえ頭の(かた)(すみ)に置き、追撃を繰り返す。

 言葉にすれば簡単だが、いざ行動に移すとなれば、隔絶した戦闘技術が必要になるのは語るまでもない。

 しかし、()()な理屈か、今のコハクの精神内には()()()()()()()()()が存在している。

 正体、目的、一切不明? だからどうした、関係ない。

 独りでは不可能でも、二人で力を合わせれば活路を開けるかもしれないのならば、他者の力を頼れば良いだけだ。

 

 頭の中で思考を巡らせながら、ふと、コハクは()(げん)そうに目を(すが)める。

 

  “······おかしい”

 

 追撃を繰り替えす中、コハクは徐々に女帝の能力傾向(コンセプト)がどういうものなのかを見抜きつつあった。

 

 “このアラガミ···まさか、星辰光(アステリズム)が使えるのか······?”

 

 だからこそ、疑問に思わずにはいられない。

 彼女は確かに他の(アラ)(ガミ)と比べ、隔絶しはいるものの、しかしそれは(けた)(ちが)いの()()()()だ。極論、規模そのものが違うから別物に見えてしまう。

 その証拠に、女帝の異能に(あらわ)れている六つの特性に関しては、星辰奏者(エスペラント)神機奏者(ゴッドイーター)の操る星光と同じ区分が当てはめる事が可能だ。

 

 たとえば──この女帝は“拡散性”を主体にしながら、他も(のき)()み高い値を出しているのが見て取れる。

 少なくとも、特化型と呼ばれる者のような(とが)った性質を有していないのは確実だ。氷を固めて使用すること。氷塊を苦もなく留めていることから、“集束性”と“維持性”も高位だろう。

 加え、上空の大気を()てつかせることを(かんが)みて、“干渉性”も低いとは断じて言えず、穴が一貫して見つからない。

 これで“操縦性”まで高ければ、間違いなく手が付けられないのは語るまでもなかった。

 

 「ああ···なるほど······」

 

 そこまで思考を巡らせ、ようやく理解する。相手の異能の本質は、自分と同じであることを。

 何も()()しな事ではない。遥か高位宇宙に存在する第二太陽(アマテラス)は、常に星辰体(アストラル)を地表に降り注がせており、そして禍神体(オラクル)細胞は地上から駆逐する事が不可能の代物である。

 ならば、後は語るまでもない。(アラ)(ガミ)のオラクル細胞が、天から降り注ぐ星辰体(アストラル)とも感応できるようになり、星辰奏者(エスペラント)神機奏者(ゴッドイーター)の使用する星辰光(アステリズム)を入手した。ただ、それだけの話だった

 

 「全く、めんどくせぇ······だが···」

 

 だからと言って、逃げる訳にも行かないと──続く言葉を飲み込んで、都合三度目となる踏み込みを敢行する。

 肉迫と同時に振り下ろす長剣。だが、その剣戟は女帝の(みず)(はなだ)(いろ)のマントに防がれ、激しく火花を散らせながら(つば)()()う形となった。

 

 もう30合ばかりも打ち合いながら、コハクはただの一度も相手を己の()(けん)*1に捉えられずにいる。

 刺突を繰り出し、(じゅう)(おう)()(じん)に振り払う長剣の(きっさき)は、コハク固有の星辰光(アステリズム)により、両手で操る長剣の重さをそのままに、片手で操る刀剣類と何の(そん)(しょく)のない速度を誇っていた。いや、両腕で操ることを前提とされるその長剣は、むしろ尋常な片手の剣術にはない変幻自在で奇抜な挙動を繰り返し、予想外の速度から女帝に奇襲をかけていく。

 それでも、大型武器の宿命として、連撃の合間にはしばしば隙を見せてしまうのだが、虚を()く島さえ与えないと言わんばかりに、姿()()()()が己の星光を操り、用意周到に女帝を(けん)(せい)してくれていた。

 

 「相変わらず、(けい)の剣筋は酷いものだな。■■殿が(さじ)を投げるのも(うなず)ける」

 「·········」

 

 姿()()()()()()に返す言葉もない。実際、()が会得している技を借り受けながらも、コハクの剣筋は問題外の(しゅう)(たい)どころか、それ以下の無様さである。

 身の丈に合わない武器を駆使しているのもあるのか、重心の移動がバラバラで、時に長剣の重心に(きゃ)(しゃ)(たい)()では踏ん張り切れずに振り回される始末。

 心·技·体の内、心と技は補えても、体までは満たせない。人間として身体的に成長したのならばいざ知らず、まだ成長期に突入しているのかさえ定かではない子供では、星辰光(アステリズム)を入手した(アラ)(ガミ)である女帝の域へ追いつけないのは、自然の摂理と言えた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 かと言って姿()()()()は、これまで何もしてこなかったからだと──軽々に言うつもりは微塵(みじん)もなかった。

 

 たとえ、誰の目から見ても(おの)が片翼と認めた人間の剣筋が劣等生以前の人間以下であろうとも、()からすれば()()()()()()事柄である。

 何が大事かは人が勝手に決める事だ。本人が本気で打ち込んでいるのであれば、そこに上も下もないと言うのが姿()()()()の持論である。が、これは(いささ)か目に余るものがあった。

 

 彼固有の異星法則の()()()により、地を穿つ度に(くつ)()り切れたボロとなり、(あら)わとなった両足が(すね)まで血に染め上げている。

 両手に関しては更に凄惨だ。(てのひら)の皮が完全に()げてしまっており、指の骨も何本か砕けている。だが、少年は痛みを噛み締めながら、戦うのを止めない。

 現在進行形で彼自身と姿()()()()星辰光(アステリズム)の反動を支払いながらのこれだ。()()姿()()()()が治療も得意とするとは言え、流石(さすが)に限度というものがある。

 時に反動で()(けつ)してしまうのは、姿()()()()の治療が()()()()()()()()ことの(しょう)()だった。何か別の解決策を見つけなければ、鋼の英雄とはまた違った方向性で自壊に至る可能性が高い。

 にも(かか)わらず──

 

 “何とまた、澄んだ瞳をしているのか······”

 

 姿()()()()は胸中で独りごちた。光速の剣戟を振るいながら、その深い(あお)(そう)(ぼう)(にご)り一つ見られない。

 恋は盲目というように、人は(いだ)いた感情次第で目が(くも)る。そこに怒りも嘆きも()(せん)はない。要するに、目を(めし)いてしまうに足る感情さえあれば良いのだ。

 

 怒りを抱いているだろうに。

 当たり前の日常を(こっ)()()(じん)に粉砕され、正常で居られる訳がないのだから。

 嘆きも抱いているだろうに。

 姉も父も(うしな)い、それが己の正しさにも遠因があると理解して、涙さえ流したのだから。

 

 なのに、それら二つの感情に囚われず、()()ある問題と(しん)()に向き合おうとしている。

 女帝が初手から今に至るまで、コハクを不用意に近付けさせないよう逃げ散らすのに精一杯なのは、つまりそういうことだった。コハク自身の挙動から太刀筋を読み取る程度の事は出来ても、その為には真っ直ぐと己を見据えてくる相手と目を合わせなければならない。

 そして、女帝は彼の瞳を()()か恐れているため、明らかに相手の攻撃圏外と判断できる距離を維持し続けることでしか、コハクの瞳から逃げる事が出来なかった。

 

 光速で繰り出される剣捌きが圧倒的に見えるのは上辺だけの話である。姿()()()()による変則攻撃で女帝の出鼻を(くじ)いてはいるものの、どうにも不吉な予感がして仕方がない。

 果たして、この(アラ)(ガミ)()()がこの程度だったろうか?

 

 “まさか···”

 

 ふと、頭に()ぎる情報に、姿()()()()は目を(すが)める。

 もし仮に、“そう”だとしたら、この戦い、今のコハクでは荷が重すぎると予見して、()は今は()えて(ぼう)(かん)に徹した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「─────」

 

 執拗な追撃に耐えきれなくなったか、極寒の女帝(エンプレンス)此方(こちら)に向けてくるのは僅かな苛立ち。

 取るに足りない下等生物風情に付き(まと)われていることに、内なる殺意が荒立っているのが見て取れた。

 

 「事ここに至り、なお身の程知らずな言葉を(わめ)くとは呆れたものね。

 その巡りの悪さ、(しょ)(せん)は人間というところか」

 

 心胆寒からしめるその声音に(にじ)んでいるのは、()(じょく)と呆れ。

 

 「我欲に囚われ、近視眼的にしか事象を捉えられないとは······(しゅう)(あく)を通り越して、いっそ(れん)(びん)すらも湧いて来ようというもの。

 これ以上我等の手を(わずら)わせるなよ、人間(ヒューマー)。本当にお前、事の本質が分かっているのか?」

 

 ついでと言わんばかりに──しかし無拍子で放たれる氷杭の砲撃を、コハクは間一髪のところで間合いを取りながら(かわ)す。彼女の一挙手一投足に集中していなくば、いつ命を刈り取られるか知れたものではない。

 自分と()と女帝の明らかな違いは、(ひとえ)に攻撃範囲だ。どれだけ間合いを取っていようとも、一瞬にして致死の氷が殺到する。安全圏などという手緩いものは存在せず、間断のない集中状態を強いられる。

 コハクが攻め切れずにいるのは、剣の下手さだけでなく、そう言った事情も複雑に絡んでいた。何より、まだ(おの)が星光の特徴を掴みきれていない。

 

 「卑小な妄執、見るに堪えん。()()()が定めた“運命”に潔く従えば良いものを······何を()(そん)に意気込んでいる。

 何、心配せずともお前はもはや逃げられん。ゆえに、先の言葉をそのまま返そう。いい加減に、邪魔だ。(みじ)めに()(つくば)るがいい──」

 「────ッ!?」

 

 刹那、足元から無尽蔵に次々と生えてくる樹氷──()まれてしまえば一巻の終わりという脅威でありながらも、コハクもまた姿()()()()と同様に、この(アラ)(ガミ)は未だに()()(さら)してはいないと感じている。

 逆説的に言えば、コハクを敵だとさえ認識していないのだ。取るに足らない、眼前に転がってきた(ちり)と同程度でしかなく、ゆえに力こそ用いてはいるものの、それはあくまで適当に振り払うのみ。

 

 戦闘と呼ぶには余りに雑だが、それでも膨大な出力は()()だけで空間を支配する。

 結果として、今度はコハクが手も足も出せなくなった。いくら決意と共に(アラ)(ガミ)の前に立ちはだかろうとも、勝負の場においてはそのような感情など、何の影響も及ぼさない。

 あくまで無造作、片手間で放たれたはずの攻撃でさえ致命の撃となる。こちらの全力など軽く圧倒され、突破口すら見当たらぬまま──

 

 「くそったれが、ッ──」

 

 続け様に襲い来る氷弾を全て弾くことで死こそ避けられるものの、肝心の要である女帝との距離についてはいつまで経っても離れたままだ。このままでは、ただ(いたぐら)に消耗を強いられるのみ。

 加え、自己を中心に空間凍結を維持し続けながら攻撃を仕掛けてくるため、始末に負えなかった。

 

 降り注ぐ氷杭、そして着弾点から花吹く氷華。

 それは戦場でありながらも美しく、どこか目を()き付けられる。

 まるで、地獄へと誘う悪魔の(ささや)きのようであり、そして──。

 

 ああ、そして──。

 

 「気に入らねえ······」

 

 醜悪だから、せめて煌びやかに散華しろ──

 その一念が読み取れるゆえ、思わずコハクは(つぶや)いた。

 

 それは、その氷結庭園(せかい)は──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という一念の元に具現化させるからこそ、誰もが美しいと()()れてしまう。

 氷結とは、時間の停止や永遠と同義語なのだ。大切なモノが、永遠に美しいままでいて欲しい、と、誰もが一度は胸に(いだ)き、忘れていく(うた)(かた)の理想。

 刹那に過ぎ去る命だからこそ、堪らないほど愛おしく尊いのだと──成長と共に無意識の内に、人は自然と理解していく。

 だが、この女帝の庭園は違った。

 

 一見すると、確かに彼女の庭園は美しい。だが、そこに宿る本質は、他者に対する侮蔑と嫌悪だけ。

 自分以外の生命体は醜く哀れで無様だから、己の美しさを引き立てる飾りと化せ──そんな、祈りを前提とした氷結庭園の()()が美しいと言えるだろう。

 だからこそ、コハクは気に入らないと、口にした。()()()()()()()()()()とさえ、本能的な第六感が訴えている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんなコハクの心情に、姿()()()()は静かに(しゅ)(こう)した。

 

 「ああ、私も同意見だよ。だが、文句を吐いた所で()()が面倒な事実は変わらん。何せ、周囲の環境を全て凍結させている。結果として、私達と()()の相性は、上手く()まることが出来ないのだよ。

 言わば、()()は弱肉強食、絶対的な自然の摂理を(くつがえ)す事はできぬと理解しているからこそ、(おの)が強者となれる独壇場を作り上げているのだ」

 

 陸には陸の王者がいて、空には空の王者がいるように、その自然に適した王者が存在する。

 (ひょう)(れい)(じょ)(てい)の異能は、それと同じ理屈の元に成り立っているのだと、姿()()()()は語っていた。

 

 「何か対抗策は?」

 

 女帝の攻撃を上手く躱し、弾いて、薙ぎ払いながら、コハクは()に問う。

 そこに、(いち)()の光明を期待して。

 

 「愚問だな。卿の星辰光(それ)で、()()と全く同じ事を実行すれば良い」

 「なッ──」

 

 思わず、コハクは息を()んだ。

 その間隙を狙う氷杭の嵐は、姿()()()()による剣捌きにより防がれ、次の刹那には我に帰って彼は再び追走を再開する。

 ()が口にしたのは、コハクが本能的に避けている事柄だった。

 

 「驚くほどでもあるまい。卿の星辰光(アステリズム)()()()()()()だ。違うかな?」

 「んなわけあるかッ」

 

 問いを否定しつつ、襲い来る氷弾氷柱を器用に躱す。

 まるで、猫のような回避方法は生来の勘によるものだ。その手の才は有していないものの、生き残ると意味の才は他の(つい)(ずい)を許さない。

 

 「解決策があるのなら、あんたがやれば良いだろ。俺達が使う星辰光(アステリズム)の本質を考えての助言なら、それこそあんたの方が向いているはずだ」

 「さてな、接近までならば活路を開くことは可能だが、刃圏に捉えるとなると話は別だよ。必中の間合いをわざわざ(さら)すような相手ではあるまい。

 それに──私独りでは、たとえ攻撃が当たろうと、卿の神機がアレに耐えられんよ。斬り掛かっておいて、武器が壊されたでは話にならん」

 

 確かに、()の言う通り。

 斬れば凍る、女帝の恐ろしさは守備面にまで及んでいた。

 

 絶対零度に等しい凍気を、()()()()(まと)っているのだ。接近するという行為自体が自殺行為に繋がるのは、語るまでもない事実である。

 しかも、その凍結は人体の表面だけではない。

 全てを凍らせる極低音は肺の中まで及び、それで動きが少しでも(にぶ)れば四方に散りばめられた氷華によって串刺しにされるのだ。

 

 のみならず、それだけでは終わらない。

 軽い攻撃を当てた所で、姿()()()()の言う通り、神機が末端ごと凍結させられるだろう。今まで無事だったのは、剣と女帝の攻撃が擦過するのが本の一瞬の出来事だったから。

 そして今は、己の勘と()の技巧を駆使する事で、どうにか相手の攻撃を避けているものの、()(かん)せん有効な攻撃手段が見いだせずに、攻め(あぐ)ねいている。

 端的に言って、手詰まりだ。まともに取り合わないことくらいしか生き残る術がない。

 その中で選ぶべきなのは、恐らく逃げの一手であり、一旦この場を退き、対抗策を考えるのだが──

 

 「そうも、言ってられねえのがな······」

 

 何故、コハクが女帝と対面出来ているかと言うと、それは(ひとえ)に彼女が支配する氷結庭園に由来する。

 支配領域が広いことにより、獲物を狙う他の(アラ)(ガミ)が襲撃した所で氷の庭園が彼らを阻み、命を奪う。

 “逃亡”を選ぼうにも、現在進行形で街区に侵入した荒神が庭園に侵入して来ている為、彼らを(しの)ぎつつ女帝から逃げ切るなど、まず不可能だ。

 

 かと言って、潔く“敗北”を受け入れる事も出来ない。

 つまる所、結局は()()()()()()のだ。生き残ると、せめて安寧の眠りにつかせてやりたいと言いながら、願いながら、殺して奪って進み続ける事で“勝利”と言う名の生存を手にする。

 そんな、ろくでなしになるしか道はない。

 さして賢くもない頭を高速回転させ、光明を見出そうとしていた時、ふと声が問い掛けてくる。

 

 「なってしまえば良いだろう。その、ろくでなしとやらに。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 良いかね、何事も危険(リスク)が伴うのは当然の摂理だ。無論、それにより何かを傷付けてしまう事があるだろう。

 ならば、全ての危険(リスク)を恐れ、立ち止まるか? 何かを傷付けることを恐れ、己の望みを捨てるか?

 これは私の持論だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。己が進むべき道ぐらい、その心で決めてみたらどうかな?」

 

 結局の所、大切なのは自分の心で決めなくてはならない。

 何を信じるのか、どのような道を進むのかも皆全て、自分の心が知っている。もし、その心を信じずに、大切なものを選べなければ、また同じ後悔をするのだ。

 

 自分には心底から"やりたい"と決めたことがある。

 なら、成すべきことなど唯一つ。こんな所で迷っている場合ではない。

 もう二度と、同じ後悔はしたくないのだ。あんな思いはもう嫌だから、さあ──

 

 「いいぜ、なってやるよ」

 

 敵は不沈で、味方は即席。状況は全く見通せない。倒せたとしても、他に荒神が居ることも念頭におけば、かなり高レートな博打であるのは明白である。

 ならば、これを今から正面から押し通るのみ。たとえそれが、大概英雄(バカ)のすることだとしても、関係ない。

 

 何故ならば──

 

 「恥じるな。悔いるな。■■■■───」

 

 もはや、この手に正誤の秤など無いのだから。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 決意と同時に、解放されるはコハクの持つ高い感応性。

 (つむ)がれた言葉は、本来の意味合いとは真逆の意味で紡がれたため、最後の言葉はもはや意味を理解する事が出来ないほど原型を留めていない。

 それは一種の自己暗示であり、自分の心へ捧げられる新たな形をした()(けい)である。

 

 (えん)()(どう)(こく)。絶望。嘆き。苦痛。怒り──それら一切の負の連鎖を包み込み、断ち切るものが星の異能(アステリズム)となって完全に姿を(あらわ)れる。

 鼓動はどこまでも加速して、(くろ)(がね)の刃が碧白い光に完全に包まれた。

 

 破壊の神威たる黄金の光と、(かい)(びゃく)の象徴たる紅蓮の光さえ包み込み、(おの)が力と()()()()()()()のだとしたら、コハクを()()()()とは即ち、()()()()()()()()()()()に他ならない。

 己の身など(かえり)みず、星の輝きを高めていく。

 心肺機能が限界を超えて加速。止まらぬ血流により全身が発熱を帯びて、まるで溶鉱炉に投げ込まれた鋼の気分だ。

 

 そして──

 

 「超新星(Meta lnova)──

 銀魄包む(Victim)星火たれ《Gimle》、黄金冠せし天駆翔(Atymnios)ッ」

 

 不利な状況からの形勢逆転を目指し、蒼の(アラ)(ガミ)を黄泉に誘うべく、疾走を開始した。

 

 

 

 

 

*1
刀の届く間合いのこと




 他のアラガミが割り込んで来ない理由。
 序章の舞台設定が、『GOD EATER プロモーションアニメ』の5年前に位置するから。

 凄いですよ、このアニメ。
 ゲームのアーカイブで見た時、初陣のソーマと入隊四年目なリンドウさんが、ボルグやサリエルなどの大型アラガミを一撃で撃破。
 挙句、オラクル細胞を塗布しただけの弾丸でザイゴードを討伐する、かなりトンチキな軍人さんまでいる。
 それを考慮すると、原作本編より弱くせざるを得なくなったのが原因です。

※余談※

 実は、この『プロモーションアニメ』で核融合炉が爆発するんだけど
 ツバキさんもリンドウさんもソーマも、爆心地の目と鼻の先にいたのに、何故か無傷でピンピンしてるんだが?
 支部長曰く、一人一人の戦力は一個大隊に相当するとか。

 つまり『Dies irae』で言うと、ツバキ&リンドウ&ソーマの強さは、大隊長三騎士クラスということに
 いや、強すぎひんか?
 だってこいつら、原作だと異能も渇望もクソもない。ただオラクル細胞ぶち込まれただけの人間なんだぜ?
(若干一名、GEオリジナルだけど)

 で、それに平然とついていける1主たちへぇ。
 特に1主なんて、某サイトで「人類の天敵の天敵」なんてわけわかめなタグ付いてるし。
 第一部隊の一般人代表であるコウタとアリサも、言うてアッシュ君とかと良い勝負してるし。
 何ならロミオ先輩の方が人間臭いし。

 これらを考慮して、格付けすると。
 大隊長三騎士=リンドウ、ソーマ、ツバキ、1主。
 コウタとアリサは、ベア子と万年失恋吸血鬼辺りか?
 アリサは一度、(けい)ちゃんとかルサルカ辺りにまで落ちそうだが、結局最後はベア子辺りで落ち着きそうだ。
(※原作GEのままの評価)

 こりゃ、第一部隊全体を指して化け物クラスと言われるのも頷けるわ。ぶっちゃけ、『神座シリーズ』にいてもおかしくない強さ持ってやがる。
 しかも神機って、冷静に考えたら特級の聖遺物では?
 討伐対象が討伐対象だし、魂の質とか量とか普通にヤバそう……(小並感)

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