Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

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Prologue #08

 瞬間、氷(ひょう)麗(れい)の女(じょ)帝(てい)は感知する。

 己(おのれ)が疾走する背後から、突如として巨大な感応現象が発生した。

 

 先程までとは、まるで比べ物にならない。

 それは、星辰奏者(エスペラント)や神機奏者(ゴッドイーター)如きでは起こし得ない規模の光輝であり、例えるなら女(・)帝(・)レ(・)ベ(・)ル(・)の(・)ア(・)ラ(・)ガ(・)ミ(・)同(・)士(・)が衝突した規模にまで匹敵する。

 しかも、何故かエネルギーの発生と同調して、自身を追跡し続ける背後の少年がいる場所からも一(・)ミ(・)リ(・)も(・)座(・)標(・)が(・)ズ(・)レ(・)る(・)こ(・)と(・)な(・)く(・)、全(・)く(・)同(・)一(・)の(・)反(・)応(・)が(・)感(・)じ(・)ら(・)れ(・)る(・)と言う異常事態。

 その熱量。その委(い)細(さい)。違(たが)わず女帝は得心した。背後にいる人間は、かつての吟遊詩人さながらに、黄泉へ向けて唄(うた)を奏で始めたのだと。

 

 すなわち──

 

 「まだ来るか──」

 

 苛立ちと共に、女帝は大量の氷杭弾雨を射出する。

 それらを総(すべ)て斬り裂きながら、己へと迫るコハクの姿。

 黄金と黒(くろ)鋼(がね)から成る拵(こしら)えの長剣は、彼の星辰光(アステリズム)を象徴する碧(あお)白(じろ)い光に包まれ、もはや黒刃から銀刃と化している。

 それを手に疾走する姿は、死出の旅路へと誘(いざな)う案内人と言うよりも、さながら地上を彷徨(さまよ)う霊魂を保護して黄泉に導く羊飼いだ。

 

 女帝は、思わず舌(した)鼓(つづみ)*1を鳴らした。こうも付き纏(まと)われるとは、忌々しい。

 

 「どうやら、死に急ぐのが趣味みたいね人間(ヒューマー)。ならば、良いだろう。私自らの手で、貴様を黄(よも)泉(つ)比(ひ)良(ら)坂(さか)へと叩き落としてくれるわ。

 その栄誉、感涙に咽(むせ)びながら、受け取りなさい」

 

 宣言と同時、ここに至り初めて女帝の意識がコハクに集中する。

 相対しているだけで発狂しかねない極大の殺意──それは、今までの様な片手間ではない。排すべき相手だと定めたがゆえのものだった。

 

 周囲の氷結速度が更に加速していく。街が凍り、大気が凍る。まるで、氷河期の如き世界へと塗り替えられていく。

 創成にも等しい莫大な星が満ちてゆき──刹那。

 

 「············ッ」

 

 空間の四方から発生する氷杭。それが一気にコハクへと襲い掛(か)かる。

 躱(かわ)すことなど不可能な万の砲撃は、しかし。

 

 「······、ふ──ッ」

 

 当たらない。斬り裂かれ、いなされ、躱(かわ)され、対応される······それこそ何かの諧(かい)謔(ぎゃく)*2みたいな星(・)に(・)選(・)ば(・)れ(・)た(・)少年は、己(おの)が異能を手探りながらも行使していく。

 何より、素粒子そのものの流れを感じ取れるのが大きい。

 元から備えていた素養か、或いは未覚醒の潜在能力か。どちらにせよ、今のコハクが有する星辰体(アストラル)や禍神体(オラクル)との感応性は他の追(つい)随(ずい)を許さぬ域にあり、ゆえ事前に射手の挙動予測が可能となる。

 

 「ふむ、どうやら口先だけではないということか。先程までの貴様であれば、即殺するつもりで放ったのだが、しかし······」

 

 女帝は余裕の態度を崩さぬまま、訝(いぶか)しげに目を眇(すが)めた。

 コハクに対する一定の評価も、あくまで高みから見下ろしたが故の言葉を下す。

 

 「高い感応性を利用し、素粒子そのものの運動に干渉を行い、こちらの星光、その素粒子が司る核エネルギーを破壊し、己の星光として再(・)利(・)用(・)するだと······なんだそれは? そんなものは──」

 

 ある訳ないと言い掛けて、ハッと息を呑(の)むように女帝はある答えに辿り着く。

 素粒子を媒質に他の素粒子に干渉。光速を突破して行われる偏極現象。碧白い光に包み込まれた、黄金の光と深紅の光(原子核反応)──以上の特徴と一致する現象が、かつて旧西暦時代に一(・)度(・)だ(・)け(・)観測されたことを女帝は思い出す。

 原理こそ解明されたものの、その現象を物理的に実現化することは出来ず、旧西暦時代のエネルギー問題と共に研究開発が中止された科学者達の理(ゆ)想(め)の結晶であり、現実世界に実在する現象だ。

 

 それを思い出した女帝は、コハクが操る星光に納得の声を上げる。

 

 「核(・)変(・)換(・)による放(・)射(・)能(・)光(・)群(・)分(・)離(・)か······なるほど、あながち曲芸とも言い難(がた)い」

 

 未知との遭遇に困惑するのも、むべなるかな。核(・)変(・)換(・)と呼ばれる現象自体、実在はしても実現が出来なかった夢と現の境界線(グレーゾーン)に存在するモノ。

 だが、フランスの小説家であるジュール・ヴェルヌ曰く、人間が想像できることは、人間が必ず実現させるという言葉通り、科学の世界に於(お)いて“理論的に存在・実現化できるかもしれない”は“絶対に存在・実現化が可能である”と同義語である。

 ましてやそれが、星辰光(アステリズム)という広い宇宙空間の何(ど)処(こ)かに存在する異星環境の法則ともなれば、然(さ)もあらん。旧西暦時代に実現不可能だった原(・)子(・)核(・)変(・)換(・)という技術は、異能という形で実現化されても何ら可(お)笑(か)しくは無かった。

 

 流星の如きコハクの進撃は、投(とう)擲(てき)された槍の如し。一筋の閃光となりて、剣林弾雨を貫いていく。

 物理的な氷弾だけではなく、発生する星光の粒子に感応し無形の現象さえも消滅させ、己の星光として再利用していくのだ。

 

 その様を、女帝はあくまで愉快そうに睥(へい)睨(げい)し──

 

 「では、威力の強大さは?」

 

 ならばとばかりに、コハクの頭上へ巨大な氷塊を創造し落下させる。

 その規模は隕石にも等しく、発生を確認して避けられるようなものではない。言わば、巨人の一撃で小人を叩き潰す鉄(てっ)槌(つい)のようなものだった。

 

 だが、それも──

 巨象に蟻(あり)が踏み潰される刹那、アストラル粒子とオラクル細胞を構成する原子核振動を活発・集束した長剣を正面から振り下ろして切断・消滅させる。

 物質を構成する原子そのものを、別の原子に変(・)換(・)させる性質を持つ異能の持ち味──現在の出力自体が姿(・)な(・)き(・)声(・)の出力も加算されている為、ゆえに効果も斯(か)様(よう)に至る。

 

 「ほぉ、これを防げるのか。ならば尚更、貴様の存在を放置する訳にもいくまい。居住区(ここ)にいる時点で、最(・)初(・)か(・)ら(・)貴(・)様(・)に(・)生(・)存(・)の(・)席(・)は(・)用(・)意(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)のだ。

 あの御(お)方(かた)が苦肉に苦肉を重ね、完遂しようとしている大事な聖(・)戦(・)······それを水に流すような不穏分子は、やはり消えるしかあるまいよ」

 「ッ、ぐぁッ······!」

 

 宣告と同時、コハクの足元から発生した鋭利な樹氷がその身体を貫いた。

 一切の予備動作なく、加えて此処まで見せたこともない死(し)棘(きゃく)の攻撃に、ここまで曲(ま)がりなりにも渡り合って来た彼でも躱(かわ)せない。

 氷結し銀世界と化した足下を、鮮血が紅く染め上げていく。

 限界まで己の運動性能を高めようと、行動に連続していた攻防を行うには、五体満足である事が必須の前提条件。ゆえ、こうして脚(あし)を止められれば、必然的にコハクは無力と化す。

 

 「なるほど、範囲攻撃に対する効(・)き(・)は(・)甘(・)い(・)か。数が増えた際の対応も遅い。つまり、総じて物量差による小技に弱い。

 所(しょ)詮(せん)は劣等種、星光を操る荒(アラ)神(ガミ)たる我(・)々(・)には伍(ご)せる筈もなし、か」

 「さっきからペラペラ······マウントばっか取ってんじゃねえぜ······おい」

 

 発動値(ドライブ)状態にあるコハク固有の能力を、まるで逐(ちく)一(いち)検証するかのような女帝の物言いに、コハクは鬱(うっ)陶(とう)しげに吐き捨てる。

 お前の勝手な解釈を押し付けるなと、凍結しながら反(はん)駁(ぱく)した。

 

 「ふん、好きに言うが良い。何故なら──」

 

 薄(うす)嗤(わら)う言葉と共に、青く煌めく氷(ひょう)麗(れい)女(じょ)帝(てい)。ただ粛(しゅく)々(しゅく)と、周囲に今までの数倍の数の氷杭を発生させていく。

 まるで、愚かな罪人を天に誘(いざな)う女神のように、マントを広げて死を宣誓する。

 

 「貴様は此処で、望み通りに、数で圧殺するからだ」

 「マジかぁ······ッ、────」

 

 苦笑と共に諦めの言葉を吐いたと思われた刹那、旧暦の遺物である燃料加速装置(ロケットブースター)の原理を再現し、噴出した星で更なる反動加速を得ることで脚の拘束を粉砕。放たれた死氷が触れる寸前で、なんとか迎撃に成功する。

 触れれば只(ただ)ではすまないとは言え、身体の動きに先程までのキレはなくなっていた。

 

 逃げ惑えないがゆえの必死、脚を止めての斬撃で辛うじて魔弾を撃ち落とし、微(かす)かとなった自らの命を繋ぐ。

 生きる、斃(たお)す、それを両立させようと足掻き惑うが、しかし。

 

 「な、ッ────」

 

 まさに王手と言わんばかりの氷結が──コハクの足元を凝(ぎょう)固(こ)させ、その場に固く縫(ぬ)い付ける。

 今までのような刺し貫くのとは違い、血肉そのものを停止にかけてきた。

 

 機動性を有してさえすれば、嵌(は)められる能力ではなかっただろうが、しかし負傷による刹那の鈍(にぶ)りが彼を致命の状況へと追い込む。

 再現した炎翼加速さえ凍結し、完全に自由を奪われた状態は、一瞬で蜘(く)蛛(も)の糸に掛(か)かった哀れな羽虫だ。こうなってしまえば、もはや捕食されるのを待つばかり、女帝は嘲(あざけ)りながらそれを静かに眺(なが)めていた。

 

 「全てにおいて格上である私を迎え撃ち、その上で更に隙を生み出して、どうにかしようと目論んだか? 馬鹿馬鹿しい。そのような蛮(ばん)勇(ゆう)、勇気と呼ぶに値しない。

 弱きは強きに敵わない。水は上から下へと落ちる。意志の力? ああ、それで? 少々心を決めた程度で方程式が狂うなら、そちらの方が問題だろう。自然界の道理が狂う。

 お前と私は、その時点でもはや勝負は決まっている」

 

 鹿は獅子を殺さない。蝶(ちょう)は蜘蛛を捕食しない。極論、女帝の語る言葉はそういうことだ。そしてそれは、とても正しい。

 神機奏者(ゴッドイーター)の限界を超えねばならないという時点で、無茶に頼っているということ。自然な成り行きに反する博(ばく)打(ち)、その時点で既に勝利への道筋は破綻していると女帝は語る。

 

 「邪道は邪道にしかなれん。卑小な己を恥じなさい、人間(ヒューマー)」

 

 朗(ろう)々(ろう)と謳(うた)い上げるそれはどこか高貴で、まるで舞台劇(オペラ)の調べのようだ。杖の折られた羊飼いは如(い)何(か)な思いで聞いているのか。

 絶望、自棄、そのような感情に落とされても何も不思議ではない現状にて。

 しかし──

 

 「ふ、ふふ······」

 

 刹那、弾けるような哄(こう)笑(しょう)。

 先程までの気(け)怠(だる)く、口をへの字に曲げていた少年からは想像もつかない笑みを口元に浮かべる。

 その微か一瞬、赤く染まった月光が碧の瞳を黄金に染めたような気がした。

 

 「──ああ、悪ぃ。急にあんたが可(・)愛(・)ら(・)し(・)く(・)見えちまったから、思わず笑っちまったぜ」

 

 瀕死とも呼べる状況を前にして、コハクは笑う。

 表情は愛おしいモノを慈しむような色を宿し、まるで愛(め)でるかのように女帝を見据えていた。

 死刑を待つだけである筈の存在が、まるで高みから群衆を愛でるような、その表情。激しく矛盾しているものの、目はまだ光を失っていない。

 何一つ曇(くも)る事も翳(かげ)ることも無く、純粋で澄んだ瞳のまま、彼は盛大に無垢な哄(こう)笑(しょう)を氷結庭園に響かせた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 「ああ、勘違いすんなよ。別に、あんたの事を馬鹿にしてる訳じゃないぜ。ただ、誤解してただけさ。まるで悪魔か死神だってな······。

 それがどうだ、蓋(ふた)を開けてみりゃ実に可(・)愛(・)い(・)もんじゃねえか。そうだな、とても自然だぜ。お前は強者で、だから最後に必ず勝つ」

 

 そして実際、そうなっている。

 弱者たるコハクを相手取り、力を見せつけて理路整然と勝利の芽を潰し、諦めない意識を追い込みながら刈り取ろうとした。それはもう、楽しそうに。

 それは自然なことだ。当たり前のことだ。何も可(お)笑(か)しな行動ではない。

 よって、つまるところ──

 

 「お前さ、実はそんなに大した奴じゃねえんだろ?」

 

 そして、言葉を衝(つ)いて出た言葉に大気が凍(い)てつく。

 目に映るもの全てが氷結してしまいそうな、極寒の怒りが張り詰めていた。

 

 それはまさに逆(げき)鱗(りん)である。静かに、しかし膨張寸前の激情を女帝が宿す中、一切の空気を斟(しん)酌(しゃく)することなく羊飼いは語る。

 

 「ああ、そうさ。あんたの言ってる事は正しい。当たり前で、凄く“普通”なことだ。少なくとも、その心においては。怪物は自分の力を誇ったりしない。それを当然のように手段の一つとして使うのさ。だけど、お前はどうだ? 存在理由そのものにすら俺には見えるぜ」

 

 強いから自分は上等で、強いから選ばれし存在だ。

 強いから自分は特別で、強いから劣等だと蔑(さげす)む。

 強いから自分は優勢で、強いから別格な力を誇る。

 強いから、強いから、強いから······。

 つまるところ、暴力に寄り掛かることで自己を構成しているのだ。力を頼りに見せつけている。それはとても当たり前な方程式。

 獅子を食い殺す鹿ではないから、蜘蛛を捕食する蝶ではないから──狂ってないから怖くない。

 

 「だから、神様に頭下げて、摩(ま)訶(か)不(ふ)思(し)議(ぎ)な神通力でも貰(もら)って、そんな自分は強くて凄いんだって見せつけられんだよ。不条理な存在が、そのおかしさを恵んで貰うなんざ笑い話にもならねえがな」

 

 言い放った刹那、女帝の力が一瞬で集束した。主の意を反映して凍結の深度を深めていく。

 それを見て、ふと笑顔が消えて──

 

 「おめでとさん。これであんたも俺と同じく凡人······光にも闇にも、ましてや理想の灰色にもなれない半(・)端(・)者(・)だ。

 そして、そんな姿に成り果てでまで特別であろうとしたあんたに、一つ真理ってもんを教えてやるよ。人の情熱は、時に世界の理(ことわり)さえ乗り越えちまうんだぜ。

 だからあんたは、そんな奴らにすら決して勝てやしない。どんなに叩かれてもへこたれても、道を踏み外しても、倒れそうになっても、綺麗事だって分かってても、何度でも立ち向かう。周りの連中が立ち上がらせてくれる。そんな人間に、当たり前のように戦って、当たり前に敗北すんのさ」

 「黙れよ、貴様ァッ────!」

 

 決定的な言葉を口にした瞬間、最悪の絶対零度が空間へと吹き荒れる。

 コハクを一瞬で氷の柩(ひつぎ)へ飲み込みかねない、死の抱(ほう)擁(よう)。熱を奪い去るそれは、主の怒りを反映し、苦痛と共にその命運を断ちに掛かった。

 

 ······今まさに凍てつきつつある、彼の描いた思惑通りに。

 

 「今だッ、やれッ!」

 「了解した──さあ、再び羽ばたくが良い。煌赫墜翔(ニュークリアスラスター)、最大出力(フルバースト)ッ」

 

 機が満ちたことを確認した姿(・)な(・)き(・)声(・)が、号令と共に炎翼加速を最大限に引き出した。

 元より、コハクが使用する煌赫墜翔(ニュークリアスラスター)は先達の天駆翔(ハイペリオン)とは異なり、その燃料源は己の感情ではない。

 即ち、感応性による星辰体(アストラル)と禍神体(オラクル)を煌赫墜翔(ニュークリアスラスター)という形で再現したに過ぎず、ゆえにその出力は変幻自在。最大出力で発揮した炎翼加速により、その衝撃で炎翼加速と足下の縛であった氷の高速を粉砕する。

 それは正しく、単純な光熱だけではない。内側から発生する衝撃と、他者の力を己の星光として取り込む性質が生み出した神業だった。

 

 身体は全くの無事であり、自分でも理解し切れていない星光の本質を他人である声(・)の(・)主(・)が熟知している事実と、それを理解した上で合わせられる技巧にコハクは思わず舌を巻くが、今はそれを胸の内へ留めて疾走を再開する。

 姿(・)な(・)き(・)声(・)が再現した炎翼加速の助けを受け、一気に女帝の懐(ふところ)に潜(もぐ)り込んだ。

 踏み込むコハクと、一歩引いてしまった女帝。

 我が身を釣(つ)り餌(えさ)にした策により、この一瞬を以(もっ)て、女帝の力を瞬間的ながら捉えたのだ。

 

 そして──牧童師(ウーティス)の有する唯一にして最大の切り札、警戒するにも値しなかったはずのそれが、今まさに死の恐怖を携えて女帝の眼前へと具現する。

 寒々しいまでの冴えと共に、自らの首元へ迫る刃。その必殺性は確かであり、此方(こちら)が圧倒していたものの関係ないと断ち切るべく、光り輝いている。

 そう、相手を殺すのに圧倒も蹂(じゅう)躙(りん)も必要ない。

 ただ一点、斬首さえ成せば全てはそれで済むのだから。

 

 事ここに至り、待っているのは死であるからか、女帝は半ば呆然としていた。

 戦場で見せるとも思えない表情──しかしそれは焦りではなく、一杯喰わされたことに対してという訳でもない。

 死の危険が迫っているから? ああ、それでもなく。

 徐々に徐々に、己へと肉迫してくる少年の姿。

 疾走することで風に靡(なび)く髪は黄金。

 真っ直ぐと相手と向き合うように見据えられる瞳は、鋼(メタル)蒼(ブルー)を思わせる碧(あお)。

 何よりも女帝は、若き頃の英雄を目撃したことがあった。

 

 ゆえに──

 

 「──ヴ(・)ァ(・)ル(・)ゼ(・)ラ(・)イ(・)ド(・)」

 

 英雄と、目前の羊飼い······後者は若干、タレ目がちではあるものの、そこはかとなく似ている二人の面影を、思わず重ねて見たことが彼女の意識を凍らせた。

 真っ直ぐと相手を見据える瞳。醒(さ)めた目線。勝利することに全能力を傾け、自然の道理を覆(くつがえ)す異常な生命。どう考えても敗北するはずが、その“運命”に牙を剥(む)く訳の分からない何者か·····

 

 その既視感に、ああ、なるほどなと独りごちて。

 

 「天昇せよ、我が守護星──鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため」

 

 次の刹那、憤怒の激情が女帝の内から燃え立った。

 

 

 

 

*1:
不満げに舌を鳴らすこと。舌打ち。

*2:
こっけいみのある気のきいた言葉。しゃれや冗談。ユーモアの意。




 若き頃のヴァルゼライド閣下とは、六時さんが描いた、まだ星辰奏者(エスペラント)でもない頃を参考にしました。あれ、公式なの? アニメイト特典ドラマCDがどこ探してもないので分かりません

 というのも、うちの子であるコハク君のヘアースタイルが、無印&BURSTではスタイル11。リザレクではスタイル5でして。
 これを絵に描くとき、割とヘリオスの髪型が参考になるんですよ。で、試しに類似画像を検索したら六時さんの絵がヒット。
 そこから思いついたネタです。

 あれだけ憎悪してりゃ、女帝ことウラヌスことカナエ殿なら、若かりし頃の閣下を覚えているのでは? という考察の元、本編のような表現が産まれました。
 では、またの次回| ・∇・)ノシ♪

 オゾンより上でも問題なーい♪
 (仲間との絆&クリアマインドの境地でor気合と根性で)

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