Dies irae 〜 Silverio Godeater 〜 【工事中】   作:フェルゼン

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Prologue #09

 「嘘だろ······っ」

 『────馬鹿な』

 

 冷酷な女神像の顔を持つ(アラ)(ガミ)の口から(つむ)がれる()()()()詠唱(ランゲージ)に、コハクと()()()()は声を(そろ)えて絶句した。

 コハクの第六感が予見し、()()の思考に()ぎった()()()()()()が、()()に具現を果たす。

 

 「散りばめられた星々は、銀河を彩る天の河。(きょ)()へ煌めく威光を(まと)い、()(びゅう)*1()()を従えよう。

 ならばこそ、大地の(けが)れが目に余るのだ。(しゅう)(かい)*2国津の民よ。(せん)(ろう)*3たるその姿、生きているのも苦痛であろう。

 (さん)(らん)*4な我が身に比べ、憐れでならぬ。直視に()えん」

 

 地の底から響くようなその詠唱(ランゲージ)に、コハクの背筋へ怖気が走る。

 それは無論のこと怯えなどという感情ではない。覚悟を決めた今、戦場で向けられる殺気に()(しゅく)するなど、()(こっ)(ちょう)

 ましてや必殺の局面、この刃を振り上げるだけで勝利が確定するという絶好機である。

 しかし──しかし。

 そんな理性よりも更に深奥に存在する生物としての本能······それを根底から凍らせるかの如き呪詛の響きに、コハクは思わず反応してしまった。

 

 引き金となった感情は明確、憤怒。

 己の存在意義と定めし宿業、その激情こそが、彼女を本領に近づけている。

 即ち、(ひょう)(れい)(じょ)(てい)の深意に宿る本能とは、人間そのものに対する憎悪に他ならなかった。

 

 弱く、無能で、醜怪である──ゆえに存在を許さない。

 宇宙を着こなす天空神は、地上に(うごめ)()()こそを尊大に()(べつ)する。

 

 「ゆえに、奈落へ追放しよう──雨の恵みは()てついた。

 巡れ、昼光の女神。巡れ、闇夜の女王。(らん)(まん)*5と、咲き誇れよ結晶華。これぞ天上楽土なり」

 

 死の宣告は女帝なりの慈悲なのだろう。生命を氷結させ、華と化せば、せめて美しく散華するはずだから。

 全宇宙を統べる天こそ絶対。

 神を彩り煌めく銀河、その星屑の一欠片となれ。

 

 「超新生(Metal nova)──

 美醜の憂鬱(Glacial)気紛れなるは天空神(Period)ッ」

 

 惑星規模の超新星爆発──刹那、天王星が弾け飛ぶ。

 かつて、欧州で猛威を(ふる)った星辰奏者(エスペラント)の上位互換たる人造惑星(プラネテス)が、今度は神機奏者(ゴッドイーター)の上位互換と言う最悪の形で復活を果たした。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 「──()ね」

 

 短く、されど絶大な殺意を宿した一言が世界を変える。

 地面から一気に乱立する樹氷の大森林。まるで、空間そのものが悲鳴を上げているかのように絶頂しながら、()てついていく。

 

 「く、っ······!」

 

 必殺の一撃はそれに阻まれ、避ける、(かわ)す──何としても生き延びようと反転した。さもなくば、氷河期に包まれてしまう。

 禍々しく星光を吐き散らす女帝は、その様を静かに(なが)めている。

 明確な、(いま)(まで)とは比較にならない憎悪と共に、此方(こちら)を見定めていた。

 

 「地を()()(せん)(やから)が、穢れた血筋の奇形が、()めた口を()いてくれる。

 前世(かつて)どころか、この転生後(いま)でさえ、貴様のような輩が何故······私の前に現れるのか。

 呪わしいが、一つだけ感謝はしてやろう。貴様は私に、原初の衝動と前世(カコ)(くつ)(じょく)を思い出させてくれたのだから」

 

 それは底冷えする静かな口調。怒りこそ感じられるものの、判断力を奪う類の激情に(あら)ず。

 伝わって来るのは、ただ眼前の相手の命を奪うという単純な殺意と憎悪。そこに揺らぎは()(じん)も存在せず、即ち先刻までコハクの突いていた弱点がもはや存在していないことを意味している。

 漆黒に塗り潰された憎しみを(もっ)て、かつてウラヌスと呼ばれた魔星は、氷麗女帝(バルファ・マータ)という(アラ)(ガミ)と新生するのだ。

 

 マントを広げ、星と神の粒子を渦巻く様は極刑の通達。

 羊飼いの頭上に巨大な氷塊を創造する──その規模は、先程までの優に十倍。

 

 『ふむ······、これはいかんな』

 「んなこと言ってる場合かよッ!」

 

 他人事のように(つぶや)く声に反論しながら、限界まで星光を装填(チャージ)した剣身で斬撃を放つ。

 避けた所で()(じき)となる確率が高く、ならば死中に活を見出す──と。

 

 「──ッ!?」

 

 そう、思考して氷塊を斬り裂いた刹那、四方八方から伸びる氷柱。抵抗する島もなく、その人体は斬られ、刺され、抉られ、破壊されていく。

 近付くだけでも体温を一瞬で奪い、細胞を端から壊死させる鋭利な棘と花弁嵐を前に、もはや()す術など存在しない。()(けん)に捉えていたはうの姿が、恐るべき速度で離れていくのが見えた。

 

 「大小の差はあれ、貴様は()()と同じものを持っている。ならばこそ、やはり貴様の存在は見過ごしてはならんと理解した。

 不条理など必要ない。劣等はそれらしく、()り潰されていればいい」

 「──よく···、言うぜ······。自分から···──、神様に、頭下げて······、その···──ッ──······、不条理の塊に···なった······くせに···」

 「────」

 

 指摘した瞬間、次に放たれたのは連撃。大地を(おお)い尽くし、全方位から迫り来る絶対零度の樹海が、先程よりも圧倒的物量差を伴った剣林玉雨が降り注ぐ。

 それを、コハクは矢継ぎ早に乱撃を放つことで、氷の木々を次々に切断していくものの······しかし、それは焼石に水を浴びせるような行為だ。

 対処法としては下策中の下策であり、それを証明するかのように結晶華は ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 断ち切った枝葉が中空で新たに発芽した氷華に脇腹を穿(うが)たれ、粉砕したはずの破片が巻き戻るように再結集した氷枝に(ほお)を斬り裂かれた。

 

 二つの星光の火力なら完全に蒸発させることも可能だが、軽々に連発すれば直ぐに()()()へと至るだろう。五月雨(さみだれ)の如く飛来する氷撃すべてに対応すれば、別の意味で自滅は免れない。

 拡散性と維持性に優れるため、広範囲に長時間の展開を可能とし、更に掲げる星光は氷や凍結という普遍的な現象だ。さらに干渉性も低いという訳ではなく、ならばこそ彼女の攻撃は決して一度では終わらない。

 斬られ、砕かれた瞬間にその残滓へと再干渉──さながら、破片を樹氷の種子と見立てる事で再び力を行使する。

 最低でも一撃から三手、四手は派生しながら続行するのは当たり前。七手で終わればまだ良い方だ。酷い時は十数回、砕いたはずの氷柱が棘となり枝となり砲弾となり活性化して、執念深くコハクへ牙を()く。

 そして、それを躱せば刺さった大地が凍土と化して女帝の領土に早変わり。ならばと刃で断ち切れば、攻撃の基点として数を増やし再起動する訳で······

 

 結果、戦えば戦うほど女帝の支配領域が拡大し、逃げ場ばかりが覆われていく。

 武装を握る腕は攻撃を防ぎ続けた事により、凍傷を負ってしまった。コハクがこの攻撃の嵐を真の意味で打ち破るには、文字通りこの一帯を焦土に変える意外にない。

 (もち)(ろん)それは可能だが、力が根こそぎ尽きるに加え、決定的な隙を(さら)すことになる。

 そして、その(かん)(げき)を女帝は決して見逃しはしないだろう。

 少しづつ、そして確実に追い詰められていくコハク。

 人間と魔星──両者に横たわる残酷な(けん)(ざい)(のう)(りょく)が、時と共に無慈悲な現実を如実に形成しつつあった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 蒼の星辰光(アステリズム)が煌めき、氷弾が襲い来る。着弾した次の刹那には、氷華が周囲一体を丸呑みする勢いで爆発的に広がった。

 それが何度も、何度も何度も連続するという絶望の光景。

 死以外の可能性など微塵も想定できない状況で、それでもなお立ち上がろうと、足掻き続ける。

 

 「っ、あァァッ──く、ッ!」

 

 四方八方からの攻撃が放たれる度、その身は(なぶ)られるように傷を切り刻まれながら、それでも女帝から目を逸らさない。

 奥歯を噛み締め、半ば一方的に嬲られているような状況下にも関わらずに、ただ真っ直ぐと。

 それは、愛おしい“過去”があるからこそ、大切な少女と共に想いを()せた“未来”を目指し、“()()”この時を生きて行く者として当たり前の行動だ。よって、コハクは今もこうして生と死の境界線へと立ちながら、破格の魔星と(たい)()する。

 先ほど女帝の知らない所で発言した通り、どうか些細な幸せを積み上げていく普通の生活に戻りたいことを願いながら。

 近視眼的な動機で道を歩もうとするそれは、かつての死闘に()()()()()()()()()とも面影が重なって見えたから──

 

 「貴様は、ああ、どこまで──!」

 

 それが、その在り方が、女帝には(たま)らなく(かん)に障って仕方ない。

 ああ、この子供は、何と巧みに自分を苛立たせるのだろうか。

 相対する敵種の瞳は己を確かに映していること。まるで何もかも見透かされるような瞳に、彼女の憎悪が(うな)りを上げる。

 視線はこちらを捉えているし、一挙一動を(つぶさ)*6に観察しており、そこに実体が伴う分、更に輪をかけて苛立ちを感じるのだ。

 

 未来しか見据えている訳でも、過去を愛するがゆえに侮蔑している訳でもない。

 神宿コハクが向き合っているのは、()()この時である。

 まずは目先。そこにある小さな問題と一つずつ向き合い片付けて、些細な幸福や結果を積み上げて歩むからこそ、対比としてどうしても()()へと至る前段階の障害は、必然的に比重が重くなってしまう。

 しかも、この度相手取るのは、かつて()()()()()()()()に裁かれた荒神(おんな)だった。

 

 三生に渡り虚栄と怨嗟に支配された女帝にとっては、内心での評価が下されていない分、真っ直ぐと見据えてくるコハクの視線に耐えられない。

 ()()()()()()が問いかけてくる。何か成長したのか、と。

 ()()()()()()(わら)いながら(たず)ねてくる。無事に小物から卒業出来たのか、と。

 出なくば、やはり貴様の魂は根底から腐っていたことになるぞと、言われている気分に襲われる。

 先天的な才の優劣、(アラ)(ガミ)という上位存在への転生······そこだけでもコハクが目を逸らさない理由としては充分であり、警戒するのも当然だ。

 若さゆえに、人の情熱は時に世界の(ことわり)を超える、などと青臭い理想論を彼は口にしたが、それは意外と的を射ている。

 なぜなら、女帝は個の情熱が世界の不条理を超える様を三度に渡り目撃した。彼ら彼女らの奇跡は、本質的に本質的に想いの強さがあったからこそ成し得たものだと、彼女は知っているはずなのに。

 

 「()()()は、いつまで私を()()にするつもりなのか。しかもそれに()()らず、そんな下らぬ理由で()()()()の意志に逆らうなどと······ッ」

 

 それでも、女帝は英雄や逆襲の担い手、調停者や探索者の信奉する()()理屈に激しい怒りを抱く。

 許すことも認めることも到底できない。

 情熱(こころ)存在(ちすじ)を上回るなど、認める道理がどこにあろう。

 

 「心一つで何でも出来る? 愛する者がいれば、不可能なことも成し遂げられる? 相も変わらず馬鹿げた理屈だ······(むし)()が走る。

 相手の貴賤も考慮に入れず噛み付き続ける狂犬め。掃き溜めから産まれた(ゴミ)が、雑多な血筋の分際で──」

 

 前世(カコ)に受けた屈辱、絶望、憎悪に怨嗟。

 死後に見せられた恥辱、敗北、嫌悪に殺意。

 (ふっ)(とう)する負の情念が()(せん)を描き、今世(いま)と絡みついて······

 

 「貴種(アマツ)を、■■■を、一体何だと心得るのだ。

 (わきま)えろォォッ──!」

 

 激昴と共に大噴火したその瞬間、再び氷麗女帝(バルファ・マータ)の出力が爆発的に膨張しながら炸裂した。

 

 

 

*1
理論や判断にまちがいがないこと。

*2
並外れてみにくいこと。また、そのさま。

*3
浅ましく、卑しいの意。

*4
光り輝くさま。または、華やかで美しいさま。

*5
花が咲き乱れているさま。

*6
細かくて、詳しいさま。詳細に。




 スィリオォス──ッ!!
 一週間遅れて更新された、『(こく)(びゃく)のアヴェスター』を読了後のうp主、(こん)(しん)の心の叫びがこちら。
 うp主自身、『シルヴァリオトリニティ』の「ミステル・バレンタイン」や『黒白のアヴェスター』の「スィリオス」のような「大きな目標よりも、まず目先」って考え方が凄い好きなんですよ。
 理由が初めてプレイした王道RPG『テイルズオブシンフォニア』の主人公、「ロイド・アーヴィング」の「目の前の人も助けられずに、世界再生なんてしてられるかよ!」という名言が、うp主の心の底に根差しているからです。

 結果、『トリニティ』では見事、ミステル√に突入して、「アッシュ君」と「ブラザー」というWパンチを見事に喰らい、無事に涙腺が崩壊しました。
 だから、「スィリオス」の愛がきちんと「ナーキッド」に届いていた事が純粋に嬉しかった次第。でも、本編での二人の関係って、「ワルフラーン」抜きでは成り立たない伏線も張られているので、それらを含めても感無量です。

 ただただ、良かったな〜と。

 もしかして、「マグ」が「蓮たん」の異能を一発で見抜いたのって、「蓮たん」の大切にしていることが「スィリオス」と似通っているから見当が着いたんだろうか?
 だとすると、意外に仲良くなれそうだな、「スィリオス」と「蓮たん」。「マグ」が「マグ」だから、最初は警戒しそうだけど。

 さて、話を戻そうか。
 本作の「カナエ」殿は、「ヴァルゼライド」閣下の徹底講義と、「ゼファー」さん手痛い授業を叩き込まれている上、「アッシュ」君の結末も見た上で、「神祖」共の末路を「彩模様おばさん☆ラブ」な人に教えられたので、原作よりもヒステリックで、自分で墓穴を掘りに行くキャラになってます。

 まあ、「ヴァルゼライド」閣下の特別授業と、「ゼファー」さんの特別受講だけでも、「カナエ」殿からすれば地獄ですから、是非もないよネ!
 それから、更新がやや遅れ気味な理由について。
 無事に研修期間を開け、午前中に仕事に出る機会が多くなったからです。少し更新が遅めになると思いますが、これからもよろしくお願いします。

 
 それでは今回も、Danke(ダンケ) schon(シェーン)| ・∇・)ノシ♪

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