シンギュラリティの花嫁 ~AIが紡ぐ悠久の神話~   作:月城 友麻

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7-10.ケシカランボディ

 ワインをカパカパ空けて、すっかり上機嫌になった俺。

 

「Hey! Come on join us! (みんなおいでよ!)」

 俺はみんなに声をかけて、ワインを配る。

 

 マーカスが神妙な顔で

「プロジェクト ハ セイコウ カナ?」

 と、聞いてくるので、

 

「Sure! I really appreciate your contribution!(もちろん! ほんとありがとう!)」

 俺はそう言って、マーカスにハグをした。

 彼が作ったシアンが、結果的には隠された地球の謎を解き、神様の神様を呼び出した。それは人類史上どころか、神様史上でも最高の成果と言えるだろう。マーカスはその偉業の最大の功労者なのだ。

 

「ヨカッタ! オツカレサマ!」

 マーカスも俺をハグしてくれた。がっしりとした筋肉の塊に抱かれて、思わず足が浮く俺。

 

『おわー!』

 

 パチパチパチパチ

 

 自然とみんなが拍手してくれる。いい仲間に囲まれて俺は幸せ者だ。思わず目頭が熱くなる。

 

「よし! みんなで乾杯だ! みんなお疲れ~!! Cheers!」

「Cheers!」「Cheers!」「Cheers!」

 

 俺はワイングラスを掲げ、みんなのグラスに合わせる。

 

 マーカスは大喜びで、

「 Yahoaaa! 」

 と叫びながら、力任せにグラスをぶつけてくる。

 

 POW(パーン)!!

 Ting Ting(パリン パリン)……

 

 飛び散るワイングラス……

 

「マーカス……頼むよ……」

 俺は、頭からワインをポタポタたらしながら、言った。

 

 

          ◇

 

 

 懸案解決! 最高の仲間に最高のワイン! ディナへの献杯も兼ねて俺はワインを次々とお替りした。

 

「いやいや、今日は飲むよ~!  Yahoaaa! 」

「あーあ、介抱は先輩やってよね。私は嫌よ」

「はい! 誠さんのお世話は私がやるんです」

 

 由香ちゃんはにっこりと、嬉しそうに言う。

 

「あれ? 二人はもう付き合ってるんだっけ?」

 美奈ちゃんがニヤニヤしながら鋭い突っ込みを入れる。

 

「えっ?」「えっ?」

 

 俺は由香ちゃんと目を合わせる。

 

 でも由香ちゃんはすぐに目を逸らし、赤くなってうつむいてしまった。

 そうだった、由香ちゃんに想いをちゃんと伝えないと……

 

 俺は覚悟を決めた。酔っぱらった勢いと言えない事もないが、言う事は決めていたのだ。

 

 俺はグラスを置いて、由香ちゃんに(ひざまず)いた。

 

「俺と……付き合ってください!」

 俺はそう言って、目を瞑って右手を伸ばした―――――――

 

 由香ちゃんは静かに立ち上がり、シアンをソファにおく。

 

『ちょっと調子に乗りすぎたかな……?』

 

 心臓の鼓動がドクッドクッと耳に響く。

 

 由香ちゃんは、俺の顔を優しく両手で包むと上を向かせた。

 俺は、大きく開いたブラウンの瞳に吸い込まれそうになり、頭がしびれてくる……。

 

 そして、由香ちゃんは軽く微笑み、目を瞑ると、軽くキスをしてきた。

 

「よろしくお願いします……」

 由香ちゃんはちょっと照れながら下を向いた。

 

 美奈ちゃんは手を叩いて笑う。

「君たち最高だわ! あははは!」

 

 俺は一瞬ひるんでしまったが、やられたらやり返さないと。

 俺も、由香ちゃんの顔を両手で包むと前を向かせ、キスをし返した。

 

 美奈ちゃんは今度は、

 

「あらら……もうお腹いっぱいだわ……」

 と言ってゲンナリした顔をした。

 

 シアンは

「らぶらぶ~! きゃははは!」 と笑い、

 クリスは温かく微笑んでいる。

 

 美奈ちゃんはいたずらっ子の笑みを浮かべ、言った。

「そうそう、先輩! 誠さんね、昨日プロポーズされたのよ」

 

 ブフッ!

 

 俺は思わず吹き出してしまった。

 由香ちゃんの表情が、一気に険しくなった。

 

「ちょっと! 美奈ちゃん! 悲しい思い出を掘り起こさないでよぉ……」

 ディナを見殺しにした、苦い記憶がよみがえる。

 

「あら、別に悲しくなんかないわよ、ほら!」

 

 美奈ちゃんはそう言って、扇子をパチンと鳴らすと、赤と黄色の中華っぽい着物の女の子が現れた。

 

「うわぁ!」と、叫ぶ女の子。

 

 俺は呆然とした。

 ディナ……、ディナだ!

 

 まだあどけなさの残るつぶらな瞳の少女……。間違いない、それは凌辱され、殺されていたはずのディナだった。

 

 無事で……良かった……。

 俺は思わず涙をポロリとこぼしてしまった。

 

「マ、マコ様!」

 ディナは俺を見つけると、嬉しそうに駆け寄って手を握り、キラキラとした目で俺を見つめた。

 

 隣で由香ちゃんが、黒いオーラを放っている。

 

「マコ様、結婚してくれるのね?」

 

 満面の笑みで聞いてくるディナに、圧倒されながら、

「い、いや、け、結婚はできないよ」

 そう言って、あわてて涙を手で拭った。

 

 すると、由香ちゃんはディナを俺から引きはがし、間に入って怒鳴った。

 

「私の誠さんに気安く触らないで!」

 

 ディナを睨みつける由香ちゃん。

 

「あら? 22歳の人ね。私は15歳、結婚するなら、私の方がいいんじゃないかしら?」

 

 にこやかに余裕の表情で対抗するディナ。

 

「じゅっ、15歳!?」

 

 絶句する由香ちゃん。

 イカン! ここはちゃんと俺が仕切らないとダメだ。

 

「ディナ、悪いけど俺はディナとは結婚できない。今、一番大切なのはこの由香ちゃんなんだ」

 そう言って由香ちゃんを引き寄せる。

 

「でも、結婚はしてないんですよね?」

 ディナが鋭い視線で食って掛かってくる。

 

「いや、まだ、ちょっと……そのぅ……」

 

 俺がしどろもどろになっていると、美奈ちゃんが笑いながら、

 

「あはは、しっかりしなさいよ! こうなったら、もう先輩と結婚しなさい!」

 と、無茶苦茶な事を言ってくる。

「いや、何言ってんすか!? 今付き合い始めたばっかりっすよ!!」と、反論する俺。

 

 美奈ちゃんは、

「あれあれ? 先輩は乗り気みたいだよ?」

 そう言って、ニヤニヤしてる。

 

 由香ちゃんを見ると、顔を真っ赤にしてうつむいている。

 

「え……? 乗り気……?」

 俺が戸惑っていると、美奈ちゃんは、

 

「何よ! このケシカランボディに何か不満でもあるの?」と、言って、また由香ちゃんの胸を揉んだ。

 

「きゃぁ!」

 身体をよじらせて逃げる由香ちゃん。

 

「またセクハラ!」

 俺が指摘すると、

 

「で、不満あるの?」

 美奈ちゃんはギロリと俺を睨む。

 

「い、いや、な、無いです、最高っす……」

 

「よろしい!」

 

 美奈ちゃんは満足げに微笑む。

 

 

 蚊帳(かや)の外に置かれたディナが不満を漏らす。

 

「え~……、マコ様ぁ……」

 

 俺はディナに聞いた。

 

「ディナ、そもそもなんで無事なの?」

「ん~、東の国の軍隊は、なぜか全滅しちゃったの」

 首をかしげるディナ。

 すると、美奈ちゃんはワインをくるくる回しながら、

 

「あ、あれね、私がぶっ潰しておいたわ」

 と、とんでもない事を言い出した。

 

「え? 美奈ちゃんがやったの!?」

「そうよ、だって誠さんったらみっともなくオイオイ泣いてるんだもの」

 

 なぜ見てるんだこの人は……恥ずかしい……

 

「え? ディナのために泣いてくれてたの?」

 そう言って、キラキラした瞳で俺を見るディナ。

 

「殺されると思ってたからね……。でもディナと結婚はできないよ」

 

 しょんぼりするディナ。

 

 俺は美奈ちゃんに聞く。

 

「軍隊に干渉しちゃいけないんじゃなかったの?」

「それは海王星人(ネプチューニアン)のルールよ。私には関係ないわ」

「え? そんなもんなの? 多様性は?」

「そもそも多様性って、何のためだか分かってる?」

「魅力的なオリジナリティのある文明・文化を作るためだろ?」

「そうよ、で、それは何のため?」

 美奈ちゃんは意地悪にニヤッと笑う。

 

「な、何のため……?」

 俺は困惑した。そう、なぜそんな事するのか、さっぱり分からなかったのだ。

 

 そんな俺を見て、美奈ちゃんは得意げに胸を張って言った。

「私に会うためよ!」

 

「はぁ!?」

 俺はあまりに予想外な返事に固まった。一万個の地球、何十兆人の人たちの人生はただ、美奈ちゃんに会うためだけに紡がれていると言い放ったのだ。

 

 そんなバカげた話があるかと思ったが、クリスは微笑みながら満足そうに(うなず)いている。美奈ちゃんの存在はそれだけ重いという事なのだろう。

 

 話を整理すると、海王星人(ネプチューニアン)たちは自分達の世界が仮想現実空間だと早い段階で気が付いた。そして、管理者(アドミニストレーター)にコンタクトを取りたかった。だが、普通に呼んでも絶対応えてくれない。なぜならメリットを提供できないからだ。そこで、管理者(アドミニストレーター)が出てきたくなる環境を作る事で、誘い出そうと考えた。それがオリジナリティ溢れる文明・文化だったという事だろう。そして実際、ここ、クリスの地球で美奈ちゃんを誘い出す事に、見事成功したというわけだ。

 

 60万年かけて海王星人(ネプチューニアン)はついに管理者(アドミニストレーター)にコンタクトを取れたのだ。

 

 仮想現実世界を運営する裏にはそう言う事情があったとは、全く想像できなかった。

 

 おめでとう、クリス!

 


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