秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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幕間2 彼と彼女の決断と結末

 

 

 

 

 

―――――――――

人はしばしば、運命を避けようとした道で、その運命と出会う。

ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ (17世紀のフランスの詩人)

―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な!? PDAナンバー『5』だって!?」

 

「は、はい……どうかされましたか?」

 

 

 御剣総一にとって、このゲームは波乱の連続だった。 

 恋人に良く似た少女である姫萩咲美に出会い同行している内に、罠にかかり、その後ルールと罠情報を交換した手塚義光に攻撃された。

 そして、姫萩咲美の解除条件である『5』の【24ヶ所のチェックポイントの通過】をクリアしながら、他の人を探していたところ、目の前の女性……郷田真弓の悲鳴が聞こえ、駆けつけたところ自分とそっくりな男子高校生である川瀬進矢と出会った。だが、彼は総一の恋人である桜姫優希の存在を示唆するだけして、仲間である姫萩咲美と共にと分断されてしまった。

 

 だが、総一にとっては自分の事よりも、恋人である桜姫優希がこんな狂ったゲームに参加している……ということはそれが一番重い事実だ。

 正直、気が気でなく目の前の女性を無視してでも、駆けだして探しにいきたい。

 だが、そういう訳にもいかず、郷田真弓と名乗った中年女性と情報交換をしていた。

 ルールは相互に全て把握していたので、まずお互いに解除条件を……という話になったのだが、郷田真弓はまさかの姫萩咲美と同じ解除条件だったのである。

 

 咲美のPDAも郷田のPDAも、どちらも画面を確認したが同じだ。

 念の為、郷田に事情を説明し1Fのチェックポイントの位置表示も確認させてもらったが、総一の記憶が正しければ全て一緒に思える。

 

 

「ど、どういう事なんだ!?」

 

「きっと、JOKER……なんでしょうね……」

 

「……っ!? 偽装機能……!」

 

 

 どっちが、とは言えない。

 今まで行動を共にしてた姫萩咲美がJOKERで自分を欺いていたとは思いたくないし、だからと言って郷田真弓がJOKERであると決め打つ事もできない。ただ、どちらかが確実にJOKERであり騙しているというのが確実な問題だった。

 

 

「私を疑っているんですね……」

 

「……!? い、いえ……そんな事は……」

 

「いえ、正しい判断だと思います。私も先ほどのPDAナンバー3番、川瀬進矢君に襲われるなんて、夢にも思っていませんでしたから」

 

「そ、そういえばどうして、あの男の解除条件を知っていたんですか?」

 

「話せば長くなるんですが………ルール交換の時に一緒に居たんです、御剣さんともう一人とそっくりな二人組。桜姫優希さんと、川瀬進矢さんに……」

 

「優希……っ!」

 

「桜姫さんは、恋人と一緒に居たときに誘拐されたと言っていました。それが、貴方なんですね……」

 

「は、はい……!」

 

 

 この時点で総一に、郷田の話を聞かないという選択肢はなくなった。

 勿論、目の前の女性がJOKERで欺いていると可能性は否定できない。

 川瀬進矢と共に分断された咲美が心配という気持ちもある。

 だが、それを上回る人物が桜姫優希なのだ。

 

 

「一人の男性がルール違反で死亡し、その時に6人集まりました。その時に、お互いに首輪の解除条件を交換できない……そのような空気になった時に、異議を唱え、殺し合いを否定し、全員で協力すべきと声高に主張していたのが桜姫さんでした」

 

「それは……彼女らしい行動だと思います」

 

「それに異議を唱えたのが3人、彼女に同調したのが自分が殺人の解除条件【3】だと自ら明かした川瀬進矢1人……そして、恥ずかしながら私はその場に踏み込めず傍観するしかありませんでした」

 

「…………そう、ですか」

 

 

 総一はその時の情景がありありと想像できる。

 幼い頃、桜姫優希はいじめられっ子、無視されていた子を庇い、仲間に入れた結果、自分が虐められてしまう状態になった事がある。不条理に対し、反抗した結果として不条理の矢面に立ってしまうのだ。この狂ったゲームでも彼女が変わらなかった事に対し安堵する一方、それは彼女が現在非常に危険である事を意味する。心無い人間なら、桜姫優希を良い餌としか思わないだろう……という事は悪意に疎い総一であっても容易に想像しうるからだ。

 総一の表情が暗くなっているのを察したのか、郷田はPDAを開きながら口を開く。

 

 

「……あ、大丈夫ですよ。桜姫さんは生きてます」

 

「どうして、分かるんですか?」

 

「私のPDAには、追加ソフトウェアがインストールされており残り生存者数が分かるからです」

 

 

 そう言って郷田は自分のPDA画面を開示した。

 【生存者 12名】、確かにそう表示されている。郷田が言う最初にルール違反で死んだ男という話が真実であれば、まだ誰も死んでいないということになる。

 

 

「そうですか……良かった」

 

「追加ソフトウェアは、武器や食料と同じように部屋で見つけました。ダブらせてしまった【プレイヤーカウンター】をお渡ししますね」

 

「何から何まで、ありがとうございます」

 

「とんでもありませんわ、御剣さんは命の恩人ですもの……あと私にできる事は危険人物の事を教える事位ですね……」

 

「ど、どういう事なんですか?」

 

「御剣さん、貴方は桜姫さんの事が気になるんでしょう? 行ってあげてください」

 

「……すいません」

 

「悪い事なんて、何もありませんわ。私も、大切な人が居たら同じようになっていたでしょうし」

 

 

 総一は郷田から、ソフトウェア【tool;player counter】を受け取りながら、どうしてもJOKERで人を騙すような人間であるとは考えられなかった。やはり、姫萩咲美に騙されたのか……? という疑念が、芽生える。彼女は、恋人である桜姫優希とそっくりであるが故に、総一の中で無意識の内に甘い判定を下していたのかもしれないのであった。

 

 

「私の知る危険人物は5人います」

 

「……5人も!?」

 

 

 そんな総一の心中を知ってか知らずか、郷田の説明は続く。

 川瀬進矢はルール交換時はゲームに否定的かつ他プレイヤーに協力的だったが一転して、ゲームに乗った狡猾なプレイヤー。解除条件交換に否定的でそれぞれの理由でゲームに意欲的だった、矢幡麗華、手塚義光、長沢勇治の外見的特徴とそれぞれの言動の説明。更に、矢幡麗華に関しては、クロスボウで実際に襲ってきたと言うのだ。

 そして、突然ナイフで襲いかかってきた短髪茶髪のボーイッシュな少女が居たと郷田から聞く。

 

 

「既に12人中5人もゲームに乗ってるんですね……俺も手塚って男に襲われてます」

 

「そうですか、手塚さんが……尚更急いであげてください。私の解除条件では、貴方の邪魔にしかなりませんから」

 

「本当に申し訳ありません、郷田さんも……お元気で」

 

「えぇ、御剣さんもお元気で……桜姫さんに出逢えたら、『私が心配していた』と伝えてください」

 

「必ず伝えます……!」

 

 

 【プレイヤーカウンター】をインストールした後に総一は駆けだした。

 走るルートは優希を探しながら、咲美が居るであろうシャッターの向こう側へ迂回するのだ。

 何が本当で何が嘘か、分からない。一秒でも早く優希を見つけたい、焦燥感だけが総一を支配していた。

 だから、郷田の黒い笑みに気付くことがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァハァ……もう他の人は二階に上がったのか?」

 

 

 大回りして、シャッターの向こう側に回った後に誰も居ない事を確認し、その後も一階を駆けずり回って……早数時間。総一は誰も見つけられていなかった。幸運にも追加ソフトウェアを幾つか発見し、その内の1つ【地図拡張機能】により戦闘禁止エリアの場所を把握した為、1階の【戦闘禁止エリア】を回ってみたが、使われている痕跡すら無かった。

 その点に関しては運が悪かった事と、1階に居る他プレイヤーが未だに【地図拡張機能】の追加ソフトウェアを発見しておらず、戦闘禁止エリアに到達していた人物がいなかった事が原因であるが……勿論、総一にはその辺の事情は知るよしも無い事であった。

 

 

「と、なると……上の階か、階段の近くで休憩するのも有りかな」

 

 

 総一は落ちていたメモを拾い上げ、考える。

 

 

『ルール5により、開始から24時間経過で1階から順次下のフロアが進入禁止エリアになっていきます。進入禁止エリアに居たら首輪が作動するので、上に上がって下さい。皆で生きて帰りましょう! by川瀬進矢』

 

 

 誰を信じれば良いのか、何を信じれば良いのか……。

 現状、総一にとって絶対に信じられる人物は恋人の桜姫優希しかおらず、姫萩咲美も、郷田真弓も、川瀬進矢も……信じきることができない。

 生存者数は12人から変わっていないものの、ゲームに積極的と思われる人間が多数確認される今は少しでも彼女の情報が欲しかった。この疑心暗鬼が渦巻く裏切りと殺し合いのゲームにおいて、正義感の強い純粋な桜姫優希が長生きできるとは思えないからだ……そんな彼女だからこそ、何に代えても―と思うのだ。それこそ、自分の首輪の解除条件を度外視しても。

 

 そのまま、1階から2階への階段を目指している時にそれは起こった。

 

 

『お楽しみ! エクストラッゲーィム!』

 

 

 PDAの画面にスミスと名乗るカボチャの悪魔が現れ、恐ろしい事を話し出したのだ。

 

 

『裏切りのタイミングを見計らっていた諸君、その判断は正解だ! 今裏切れば、数々の特典が……! 初回特典付きだよぉ!』

『具体的にはゲーム開始6時間以降から、2時間以上行動を共にしたプレイヤーが死亡した場合、君達の欲しがっている物をお渡しするよ! …………って、はやい! はやいよ!! 初回特典は売り切れました!』

 

 

 そして、スミスが話している間にも次々とPDAがアラームを流し、反応していく。

 まるで指し示しているかのように、生存者数が減っていくのだ。

 

―ピロリンピロリンピロリン

 

生存者11名

 

―ピロリン、ピロリン、ピロリン

 

生存者10名

 

―ピロリン、ピロリン、ピロリン

 

生存者9名

 

 

「くっ……! 一体……何が起こってるって言うんだ……!?」

 

 

 突然エクストラゲームで、隣の人物を裏切れば特別ボーナスをあげるという趣旨の内容がPDAに送信されたかと思えば、プレイヤーカウンターが一気に3人減った。つまり、最低でも二人以上の組が3組存在し、その3組でエクストラゲームに乗った人物が存在する事を意味する。

 そして総一の知る限り、桜姫優希は絶対に裏切る側に立つ事はなく、裏切られる側の人物である。誰かに裏切られ、殺される優希を想像して吐きそうな思いに囚われる。

 だが、次の瞬間、その驚きを吹っ飛ばされるような言葉がPDAから飛び出てきた。

 

『おめでとう! ! 御剣総一君、裏切りチャレンジ成功だ!!! ボーナスをあげよう! 初回限定特典付きさ!』

 

「馬鹿な!? どういうことだ!? 俺は誰も殺してなんかいないんだぞ!」

 

 

 そこで、自分とは直接無かったため、聞き流していた具体的なボーナスの条件の部分を思い出す。

 それは、『ゲーム開始6時間以降から、2時間以上行動を共にしたプレイヤーの死亡』。

 御剣総一にとって、その条件に該当する人物は1人しか居ない……!

 

 

「まさか、まさか……咲美さん!?」

 

 

『その通り、全くせっかちなんだからさ。ちゃんと人の話を最後まで聞いてから、殺して欲しいよね。……とと、ちょっとボーナスの方は準備がいるから先に初回限定特典をお渡ししよう』

 

 

「くそ……人の命をなんだと思ってる……! ボーナス、だなんて……!」

 

 

『へぇ、それが桜姫優希の現在位置の情報だとしても同じ事が言えるのかな』

 

 

「この……っ!」

 

 

 総一は、咲美の死を知り憤慨するも……優希の現在位置がボーナスになるなら話は別だ。

 どうして姫萩咲美が死んだのか、死ななければならなかったのか……気になる事は沢山ある。だが、こんな場所であるからこ文字通り一刻も早く優希に会わなければならないのだ。

 

 

『でも、簡単に教えるのは違うかな? そうだね、2つの道を示そうかな』

 

「……そう簡単に教えてくれる訳無い、か。だが、2つの道って何だ」

 

『まず、初回限定特典として……PDAナンバーを1つ指定してね! そのナンバーのPDAの初期配布者の現在位置を教えてあげるよ! いつまでもひとりぼっちだと可哀想だからね!』

 

「……っ! そうきたか」

 

 

 総一は考える。

 このゲームを考え、実行している連中は相当に性格が悪い事は間違いない。

 自分が優希と合流したい気持ちすら何らかの手段で知り、利用しているのだ。

 その葛藤を感じ取ってか、更にカボチャは畳みかけるように言う。

 

 

『もし失敗しても大丈夫! 僕達はね、君の恋人を想う気持ちに感激しているんだ。だから、覚悟を示してくれれば、無条件で桜姫さんの現在位置を教えるよ!』 

 

「覚悟? 覚悟だって……どういうことだよ」

 

『君が、参加者の1人を殺した時点で、無条件で桜姫優希の現在位置を教えるよ! 時間は無制限だからね! これも初回限定特典の範疇だと思ってね!』

 

「そんなの……できるわけ、できるわけないだろ!」

 

 

―他人を信じろ、困ってる人は助けろ

―ズルはするな

 

 

 恋人である桜姫優希から常日頃から散々言われている事が総一の頭の中で反響する。

 勿論、その約束が無かったとしても人を殺すなんて事を御剣総一ができるわけないのだが。だから、解除条件が『Qの殺害』であっても、ここまでQの所有者を殺そうと動かなかったし、動けなかったのだ。

 

(だけど、優希と命と引き換えなら―? いや、俺は何を考えているんだ)

 

 頭をブンブンと振り、総一は頭の中から悪い考えを排除する。

 総一自身、このゲームの狂気に少しずつ呑まれているのかもしれなかった。

 

『愛しい彼女を救いたい、だけど救う為には愛しい彼女の最も嫌う手段を取らないといけない……あぁ、なんて悲劇なんだろうね!』

 

「……黙れよ! お前達がやっているんだろう!?」

 

『おっと、怖い怖い。でも大丈夫だよ、彼女のPDAのナンバーさえ当てればその必要もないからね! 自分の番号を外せば12分の1! さぁ、はりきって当ててみよう! 制限時間は10分だよ! 僕も他のプレイヤーのボーナスの準備で忙しいからね!』

 

 その心中を知ってから知らずか、カボチャの悪魔の言葉に怒りが沸騰しそうになる。

 だが、カボチャの悪魔の言うことは正しい。ようはここでPDA番号さえ当てれば良いのだ。

 ……総一は考える。この殺し合いゲームを運営している奴らは、相当に性格が悪い。

 そして、自分のPDAは【A】の『Qの殺害』が解除条件となっている。

 そして恋人とのゲーム参加……つまり、1つしか無い。

 他に考え得る可能性はない、悩み……そして決断した。

 

「……スミス! 『Q』のPDAの初期配布者の場所を教えろ!」

 

『了解! 今の、『Q』の初期配布者の位置はここだ! ボーナスは、その近くの部屋に別途配置するから、初期配布者の位置に到着する頃にはまた連絡するからね!』

 

 マップが表示され、緑色の光点が示される。

 今の位置から結構遠い、それでも総一は可能な限り最短のルートを算出し、急いで走り出すのであった。全て、彼等の思惑通りに動かされている事に気付かぬまま……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、間違ってない……生き残る為には、仕方なかったのよ……!」

 

矢幡麗華は自分の事が分からなくなっていた。

 

――初めて人間を撃った。

 

 それは別に良い。殺さないと殺されるのだから。

 それでは何故、今このように狼狽しているのだろう?

 割り切っていた筈だった、生きて帰る為なら文字通り何でもする筈だった。

 

 そして、彼女は解除条件の都合上誰か襲い、そして殺す必要があった。

 生きる為に人を殺す、それはやむを得ないことだ。 

 そうしなければ、殺されるのは自分なのだから。

 非戦を訴えている、桜姫優希と川瀬進矢……彼等も人を殺さないと帰る事ができない。今はそうであっても、いつか必ず裏切るだろう。だから、先手を打って攻撃した。

 

 ここまでの経緯を説明しょう。

 

 ルール交換直後に別れた後、戦闘禁止時間解除直後に郷田に襲われ逃げ切り、しかし高山浩太という仲間を得た彼女は上階の方が良い武器が入るという判断の下、3階に到達していた。

 そこで手に入れたのは銃、そして参加者の首輪の位置を特定する追加ソフトウェア。ソフトウェアによると、既に3階に到達しているプレイヤーは自分達二人のみ、それ以外には3階への階段近くにいるプレイヤーが二人いた。

 銃を手に入れた事で麗華は動揺していたが、傭兵だという高山は銃があるという事実を重くみたものの、銃そのものには恐れる事はなく、頼もしさがあった。正直に言えば、麗華としては高山が何時裏切る人物かヒヤヒヤものであったが、万が一敵に回したとしても勝ち目はないことは明らかで、やむを得ないという面が強かった。

 

『決断の時だな、銃を持っているのは俺達だけ。他のプレイヤーはこの階に上がらない限りは銃を手に入れる事はできない』

 

『分かっていた事ですが、本気で殺し合いをさせるつもりなんですね……今、仕掛けて大丈夫でしょうか? もっと強い武器を探すのは?』

 

『その手段は否定はしないが、3階で拳銃だ。ただでさえPDAを破壊する可能性がある、これ以上の破壊力があればまともにPDAを得る事ができなくなる。解除条件上、お互いに困る事になるだろう?』

 

『なるほど、分かりました。では、まず3階に上がってくる二人組ですね』

 

『あぁ、それまでに構えを教えておく。音で気付かれては困るから、実際には撃てんがな』

 

 幾つか打ち合わせをした後に、階段前で待ち伏せする。

 大した事のない時間の筈なのに、恐ろしく長い体感時間を経てソレが飛び出した。

 高山は迷わず、飛び出したそれを撃ち抜いたが。血が吹き出るのではなく、ガラスの割れる音が響く。

 

『……ほう! 鏡か。切れ者でもいるのか、尚更逃がすわけにはいかないな。追いかけるぞ』

 

『は、はい……っ!』

 

 そこからはひたすらに追いかけっこの持久戦。相互の体力の消耗具合を考えると狩猟と言っても良かったかもしれない。

 銃とナイフ、至近距離ならば兎に角、その強さは比べものにすらなならい。

 最初は銃の反動に驚きはしたものの、高山の手ほどきで徐々に慣れていく。

 半分は人殺しの練習のようなものだった。

 

『冗談きついですよ!? 矢幡さん!』

 

 相手はPDAナンバー3番、『3人殺し』の川瀬進矢だ。一緒に居た女性は、ナンバー9『皆殺し』の桜姫優希と瓜二つというレベルで似ているが、制服は違う。どうせ殺すのだ、関係はない。

 牽制用の投げナイフを使い切らせ、距離を詰めてトドメを刺す。そういう流れだった。

 

 そして時が訪れる。

 高山が、遙か遠くにいる桜姫優希似の高校生を撃ち抜くことで……だ。

 これは何度か撃った麗華にとっても恐るべき腕前であり、敵に回さなくて良かったと安堵するものだ。

 川瀬進矢が破れかぶれにコンバットナイフを投げたが、問題なく回避する。

 

 高山はこれにて弾切れ、次に撃つのは麗華の番だ。

 だが、麗華の腕では逃げる川瀬を撃ち抜くことはできないだろう。

 一人殺せるだけでも上出来か……そう思ったところで、川瀬進矢がとんでもない行動にでる。

 

『先輩! 捕まってください!』

 

 彼は撃たれて足手まといの仲間を、背負って逃げ始めたのだ。

 ……本物の馬鹿だ。ルール交換の時に出会った時の彼は、理知的で底知れない人物だった。

 それこそ、わざと殺人条件を開示して尚、解除条件達成に支障はない……むしろ、公開して信用を得ることで、裏切りを画策できる人物だと、そう思っていた。

 麗華は困惑しつつも、それでも当初の目的通り、スピードが落ちた彼を追いかけ震えた手で照準をつける。

 

……その時、自分の手が震えている事実気付くも、理由までは分からず、最初の殺人であると躊躇しているのだと思い、自分の心に抗いその背中を撃ち抜いた。

 

 銃弾は彼が背負っていた女性に当たる、当たり所は急所と言える場所だろう。だが、衝撃を受けた筈の彼は踏みとどまり、そのまま走り続けた。

 

 そのまま追いかけ、さらに複数の銃弾を撃ち込む事は彼女にとって容易だった。

 しかし、ここで初めて人を撃った感触に支配され、麗華は動けなくなってしまう。

 そして、高山が銃弾の装填を終え、彼等に照準をつけるのとほぼ同時にそれは起こる

 

『それじゃ……あばよおおお!』

 

 そして彼等の存在は消える……違う、落ちていく。

 すぐに麗華と高山は二人でその場にかけつけるが、その時には丁度落とし穴が閉まり始めていた。

 

『彼等に迷いはなかった、最初からこの落とし穴狙いだったのか……?』

『あ……あ……』

 

 高山は冷静に状況を分析している状況を尻目に、麗華の心の軋みがここで全身を支配し座り込む。

 

 そして、矢幡麗華は初めて自らの過ちを自覚した。

 少なくとも川瀬進矢は本当に殺し合いの打破を目指しており、そして桜姫優希も殺し合いに乗らず、彼等は誰も殺すつもりはなかった。彼等のあの時の言葉は、全て真実だった。

 そして、命を賭しても他人の為に動ける人間だった……。

 襲われたなら仕方ないと割り切れた、相手が無抵抗だったとしてもいずれ殺人に積極的になる人物だから、殺すのは仕方ないと割り切れた。

 

 だが、よりによって命を懸けて仲間を助けるところに、無慈悲な銃弾を撃ち込んでしまった。

 彼女は、自分に手を差し伸べようとした人間を疑心暗鬼から手を振り払い、彼等が裏切らない人間だと証明したタイミングで殺してしまった。

 

『わ、私はこのゲームには乗りません! 誰も殺す気はありませんし、他の人解除条件が殺人ではない限り協力します! そして、首輪を解除しなくても助かる方法を見つけて見せます!』

『生憎ですが、俺は桜姫先輩のように優しい人間ではありません、貴方たちが団結して最大人数を生き残らせる方針で行くなら協力します。大人しく、解除条件を満たさずに生き残る方法を探す覚悟を決めますよ』

 

 麗華の頭の中で、彼等がかつて言った言葉が反響する。

 ……仕方ないから殺した、という言い訳はもうできない。

 川瀬進矢が、他人を見捨てるような人間だったら良かった。麗華自身が既に何人も殺して、後戻りができない狂気を孕んでいれば良かった。

 しかし、彼女はまだ正気でゲームに飲まれ切っていない。自分を客観視する余裕が残っていた。

 矢幡麗華は残された理性により、自らの愚かさが故に殺人鬼に堕ちた自分を自覚してしまい…………嫌悪し、恐怖した。

 

 どんなに覚悟を決めたつもりであっても、彼女は大学の自由さが合わず、周囲に馴染めなかった普通の女子大生に過ぎないのだから……。

 

「私は、間違ってない……私は間違ってなんか……!!!」

 

 自分の罪を自覚するが故に、漏れる声が嘘である事が分かってしまう。

 罪悪感が胸を支配し、周囲が何も見えなくなってしまう。

 仲間の声も、PDAからの音も……。

 それは彼女にとって致命的な隙だった。

 だから―

 

『君達に朗報だ! ずばり! 仲間を殺して、ボーナスゲット!』

『裏切りのタイミングを見計らっていた諸君、その判断は正解だ! 今裏切れば、数々の特典が……!』

 

 裏切り、裏切り……そう、矢幡麗華は裏切られるのが怖かった。だから、彼等の手を払いのけた。

 そして、終いには彼等に銃弾を返した。

 それが一番安全だったから……。

 心の中から罪の意識が溢れてくる、周囲の音も景色も全て聞こえない程に。

 だから、彼女は自分に向けられた銃口に気付くことができなかった。

 

 

――パァン!

 

「……か、はっ……!」

 

 

 完全に悪に徹する事もできず、差し伸べられた無償の善意を信じる事もできなかった。

 結局のところ、矢幡麗華はどうしようもなく人間だった。

 人間であるが故にこのゲームを生き延びる事ができなかった。

 

「……悪いな、確実な方法をとらせて貰った」

 

 エクストラゲームで高山浩太に送られてきたボーナス、それはメッセージに『tool;joker search』と書かれていた。確実に生き残る手段、それが彼に本来行わせないであろう裏切りを行わせた。

 

(あぁ……そうか、間違えた。私ったら……いつも、そう……人を疑い、過ぎちゃう……から)

 

 そして、自ら作った血だまりに倒れ、その血だまりを広げていくのだった。

 もしも、次があれば……そんな馬鹿な事を考えながら、矢幡麗華の命の灯火は消えた。

 強い猜疑心を持ち、裏切らない人間の手を撥ね除けた彼女は、よりによって裏切りによって自分の人生を終えることとなった。

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