秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind- 作:流火
御剣総一 :A:4.9 :Qの殺害
川瀬進矢 :3:5.3 :3人の殺害
長沢勇治 :4:6.2 :首輪を3つ収集する
郷田真弓 :5:4.1 :24ヶ所のチェックポイントの通過
漆山権造 :7:DEAD:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
桜姫優希 :9:8.8:自分以外の全員の死亡
姫萩咲美 :Q:DEAD:2日と23時間の生存
北条かりん:K:6.1 :PDAを5個以上収集
矢幡麗華 :?:DEAD:???
手塚義光 :?:4.1 :???
高山浩太 :?:??:???
??? :?:??:???
??? :?:??:???
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この世に壊れやすいものは沢山ある。人の心は簡単に折れ、夢も希望も簡単に砕け散る。
ニール・ゲイマン (英国の作家)
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『おめでとう!! 川瀬進矢君、裏切りチャレンジ成功だ!!! ボーナスをあげよう! 初回限定特典付きさ!』
「……それ、御剣先輩にも言ってますよね」
『ちょっと、ボクにはなんのことを言っているのか分からないな~』
姫萩先輩の死により一人ぼっちなら泣き崩れたくもなるが、このカボチャ野郎の煽りの所為で皮肉にも正気に戻りつつ、無理している自分を自覚する。
2ヶ所における裏切りによる、死者の発生。この際、他の連中はもうどうでもいいとして、桜姫先輩、長沢、北条さん、御剣先輩の安否が非常に気になるところだ。だが、焦って駆け出して探してもそう見つかるものではないので、耐えている。
今やるべきことは、どんなに心が激情の濁流に飲まれたとしても、頭の中だけはクールに働かせることだ。
でなければ、目の前のPDAを破壊してしまうだろう。
『仲間を失って傷心の君にとってもいい話を持ってきたんだよ~』
「分かりました。言葉のやり取りをしたくないので、メッセージだけ送ってください」
『つれないなぁ~、もう~。ジャジャーン! 今回の初回限定特典! それは君の仲間が今、大ピンチな状態なんだ! 場所を教えるから助けに行ったらどうかな!? 運が良ければ間に合うかも!?』
「……」
『あれれ~、どうしたのかなぁ。聞こえなかった? 君の仲間が死ぬかもしれないんだよ~?』
……仲間、死。
俺の中で姫萩先輩の体の血が止まらず、どんどんと冷たくなっていく様子がフラッシュバックする。体全身が震えそうになる。
知らない人が死ぬのは興味がない、曽祖父が死んだ時は寿命だったから納得もできる。だが、仲間の死がここまで辛いものだとは知らなかった。一生、知らずに過ごしたかった。
「御託は良い、早く言え」
『はいはい、場所は地図に表示するから。頑張って走ってね~! ボーナスは別途、準備しておくからねー!』
地図に緑色の光点が示される。場所はここから割と近い。
手早く、姫萩先輩が持っていたJOKERのPDAを回収し、現在位置を確認する。急がなければ……と頭では思っているのだが、心に熱意が宿っていないことに気づく。姫萩先輩の死であらゆる事象に無気力・無感動になっている感覚。諦観に近いそれが、確かに俺を支配しようとしていた。
「今は、今だけは……お前の誘導に乗ってやるよ、スミス」
ジャックオーランタン、旅人を誘導し道に迷わせ、ドブや沼地に誘導する逸話がある妖怪。主催者が意図して、ジャックオーランタンをマスコットキャラクターとして使用しているのであれば、スミスの言葉に従い続ける限り、この殺し合いゲームの主催者の思惑通りに動いていることになる。それはたまらなく悔しかった。
「……姫萩先輩」
移動ルートを頭の中で描き終わった俺は、最後に通路の扉の前で横たわっている姫萩先輩を見る。彼女は、殺し合いゲームに向いた人間ではなかった。だが、死ぬ最期の瞬間まで人を思いやれる強さを持ち、自分がどれだけ不幸であっても人の幸せを祈れる優しい人間だった。最初の印象はあんまり宜しくなかったが、それでも尊敬に値する人物だったのは間違いない。彼女の生き様を見届けたのは俺だけだ。だから……どれだけ辛くても、自分の心に彼女の記憶を刻み込まなければならない。
「俺も、貴方と会えて……よかったと思いますよ」
知らない内に流れていた涙を拭い、踵を返して走り出したのだった。
走る……走りながら気づいた事だが、俺は感覚が麻痺していたとは言え相当に疲れている。制服は上下、血と汗でびっしょりだ。血の部分は、俺ではなく姫萩先輩の治療を行った時と、抱えて通路に移動した時についたものだが。
これを見られてしまえば、俺が誰かを裏切ってボーナスを手に入れたようにしか見えないだろう。
まぁ……どうでも良いか、そんなこと。
今、やらなければならない事は、危機に陥っている仲間と合流する事。その上で俺のことを信じられないのであれば、ボーナスで受け取るであろう武器だけ渡して別れれば良いだけの話だ。
「……ここか」
扉を蹴破るようにドーン! と開け、今もつ唯一の武装であるスタンガンを構えて入る。二人の人物が向かい合うように話していたので、向こうが反応する間に全力で間に入り、スタンガンを向かい合う片割れの男性……鉄パイプを肩に担いでいる手塚義光に構えた。
「どうも、お久しぶりです。元気そうで何よりです。手塚さん……そして、桜姫先輩」
「……川瀬、君」
「川瀬の方か……彼女が追い詰められて、彼氏登場ってか?」
「見た目だけはそうですけどね」
そして、後ろにいる桜姫先輩はルール交換時と比べて明らかに変貌……衰弱している。
その制服は俺ほどではないにせよ、血で濡れ、あの時に見せた強い意志のある瞳も弱々しくなっている。顔がそっくりなので、ひきつけを起こしていた時の姫萩先輩と重なる、死を受け入れるようなーーそんな追い詰められ方をしているように思える。
勝気なオーラが姫萩先輩との大きな違いだったと認識しているのだが、その部分を残しつつも折れかかっているという印象だ。一体何があったのか?
「前会ったのは、10時間近く前だったか? お二人さん、随分雰囲気が変わったじゃないか。血でデコレーションするのが流行ってんのかね?」
「そういう手塚さんは、お変わりないようで羨ましいですよ」
桜姫先輩は血で濡れているが、手塚の方は埃などの汚れ以外は全く汚れが見られない。精神的にも体力的にも、まだまだ余裕があるように見える。つまり、恐らくだが、桜姫先輩が追い詰められている原因自体は手塚とは無関係だ。
手塚は皮肉げな笑みを迎えて俺たちを観察している。
「おぉっと、勘違いしないでくれよ……クックック。俺はお嬢ちゃんには何もしてない、ただ言葉で優しく教えてあげただけだ。正義なんて、この場じゃ何も役に立たないってな。そいつは、川瀬も分かったんじゃないか? それとも、その血は誰かを裏切ってついた血か……? そいつは、怖い。俺も早く逃げねぇとな?」
「エクストラゲームの話なら、初回限定特典で桜姫先輩の危機を知り、すっ飛んできた次第ですよ。俺はまだ誰も殺してませんが、一度仲間を死なせてしまった以上、手加減のブレーキは壊れてるかも知れませんね」
「仲間が死ぬ今際の際にエクストラゲームが発動したって? それを信じろって言うのか? 初回限定特典で殺しやすい人間を教えてもらったの間違いじゃないか?」
手塚は嘲笑うがごとく、証明できないところを指摘する。もし、正気の俺ならもっと怒りの感情が湧いたのかもしれないが、思った以上に感情が動かない。むしろ、指摘してくれて助かったと言う印象さえ受ける。桜姫先輩相手にこれを有耶無耶に進めるわけには行かないからだ。
「……証明できない事を声高に言うのは趣味じゃないので、事実だけを述べます。矢幡麗華さんと明らかに荒事慣れしている大柄な男性の二人組にやられました。死亡したのは姫萩咲実さんです……手塚さんはご存知ですよね? 他にも郷田真弓さんがゲームに乗り、クロスボウで学生鞄を撃ち抜かれる被害を受けて散々ですよ」
「クックック、あのオバさん……とんだ狸だったって訳か。で、なんでそれを俺に伝える? 伝える意味はあるのか?」
「……理由はシンプルです。手塚さんは、まだ交渉の余地があると判断したからです。先ほど言った、3名の危険人物は対話の余地がなくてトラウマなんですよ。手塚さんが解除条件8番なら、Kの解除の後に使い終えたPDAを交換条件として使用する準備があります。解除条件10番なら……お亡くなりになられた方の現在位置を教えますよ」
たとえ、悪意があり、隙を伺っていて一瞬の隙でも見せれば逃さず殺しに掛かってくるような相手だとしても、話が通じるだけマシ。自分でも呆れるような妥協点だが、本当にそう思えてしまっているのだから、俺はこの殺し合いゲームに相当毒されてしまっているに違いない。更に皮肉なことに、基本的に単独行動だったと思われる手塚義光は誰も裏切る余地がなかった、と言う点では信頼できる人物なのだ。
PDAの番号を言われた手塚は一瞬、険しい顔をするもすぐに不敵な笑みに顔を戻した。
「なるほど、ね……そこまでバレてるとなると、中々に情報を集めてるようだな。良いぜ? 手始めに、その姫萩咲実って女の場所を教えてくれや。それで、この場は見逃してやるよ」
「地図のココです。ついでに言えば、俺が逃げ切れたのは2階の落とし穴のおかげなので、先の二人組が仲間割れしてくれれば真上に首輪があるかも知れませんね。希望的観測ですが」
「なるほど、ね。まっ、お前の言うことが本当なら行ってみるとしますかね。ククク……それで、リーチっと」
幸運に笑いが止まらないといった表情で手塚は嘯く。
エクストラゲームが始まってから、そうたいした時間は経っていない。それでリーチと言えることは、少なくとも一人の裏切りを把握していると言うことか。
そして、桜姫先輩がそれでに関わっており追い詰められている……後で細かく話を聞いておきたいところだ。
それはそれとして、手塚が笑ってる顔がムカついてきたので、皮肉の一言でも返してやりたい気持ちになった。
「解除条件10番で良かったですね? 情報収集さえ密にしておけば、そこまで達成は難しくない条件です。殺し合いが激化すれば特に」
「俺は3番の条件も当たりだと思うぜ? そいつは、お前も薄々気づいてるんじゃないか?」
「倫理面をスルーすれば、楽勝だったかも知れませんね。乗らないと決めたので、その仮定は無意味ですが」
「そいつは、残念だな。良い仲間になれると、思ったんだが」
「既に、自分には勿体ないレベルの仲間がいるので、手塚さんも良いお仲間に恵まれますことを心からお祈り申し上げます」
「可愛くないやつ」
手塚は口では吐き捨てるように言っているものの、表情は楽しそうだ。
もしも、最初に遭遇したのが桜姫先輩ではなく、手塚だったら全く異なるゲーム展開が会ったかもしれない。皮肉の応酬となっているが、険悪というわけでもない。気を許せないが、案外話が合うところはあるみたいだ。
皮肉げな顔を一瞬だけ真剣な顔に切り替えた手塚が言う。
「で、川瀬、俺は常々聞きたかったんだが、お前は本気に首輪の解除条件を満たさずに生還する方法があると思ってるのか? それとも、愛しの彼女と一緒に死ねるならそれも本望ってか? クックック……熱いねぇ」
「心中趣味はない、と言うか。心中するなら桜姫先輩はもっと相応しい相手がいるので、その場合俺は一人寂しく死にます。で、解除条件以外で首輪をどうにかする方法ですが、少しずつ輪郭が見えてきたような。まだ外縁部を手探りで探っているような、そんな不確かなものですよ」
「そんな不確かものに自分の命を預けようって? 正気かよ」
「質問に答えてませんでしたね。首輪の解除条件を満たさずに生還する方法はあります。そこは確信があります。俺は、他人の善意はとにかく、悪意は信じられる人間なのでこのゲームの主催者の悪意を信じています。そしてもう一つ、俺個人としては推理を外して死ぬならそれも本望ですよ」
「……クックック。若さって奴か、羨ましいね。悪意を信じるってのも、面白ぇ。お前たち二人の末路は、首輪を外した後でとくと見せてもらおうかね」
「手塚さんこそ、そんな観客席にいるような気分だと、どこかで足元を掬われて痛い目に遭うかもしれませんよ」
「そうだな、精々仲間を作って裏切られた馬鹿どものようにならないよう、気をつけますよっと」
成功を期待しているとも、失敗して墜落するところを嘲笑いたいとも、どちらとも取れる笑みを浮かべ手塚は応じる。
精神的に言うならば、もしかしたらいままで出会ったプレイヤーの中で一、二を争う程度にタフな感覚を受ける男だ。自称、どこにでもいる会社員とは何だったのか、それは相互にツッコミを受ける話なので、蒸し返す気はないが。
話は終わったとばかりに、少しずつ距離を取っていく手塚だが、何かを思い出したようにポケットを弄り出す。
「おっとそうだ、これをやるよ」
そして、取り出した小さなそれを、俺に投げ渡した。
右手はスタンガンを構えていたため、左手で受け止めると、それは追加ソフトウェアのようだった。【tool:network phone B】 と書かれている。
「こいつは俺からの餞別だ。相互に連絡を取り合える追加機能があるらしい。あとは、そこのお嬢ちゃんをどうにかしてやんな。俺としては折れたままでも、一向に構わないんだが、それだとちょっと面白くない」
「追加ソフトウェア、ね。そういえば、桜姫先輩をどうして殺さなかったんですか? やろうと思えば6時間経過後すぐに、やれたんじゃないです?」
「ルール交換後、あんまりにも煩いから、つい老婆心が出ちまってな。こいつはただ殺すよりも、信念が折れた時に殺した方が良さそうだ、ってな」
「なるほど、良い趣味してる」
「クックック、今も良い顔してるが、お前の絶望顔も楽しみだよ。じゃあな」
「あぁ、最後に一つだけ。長沢と北条さんって言う、茶髪の短髪の女の子に手を出したら、貴方を殺します。あの二人は首輪解除の目処が立っているので、それはお忘れなく」
「おぉ、怖い怖い。まっ、心の片隅程度には置いといてやるよ。その二人なら一度会ったぜ。2時間位前だったか? 隙がなかったから襲えなかったけどな」
「元気そうなら良かったですよ」
今度こそ、話は終わった。
手塚は一度だけ、鉄パイプを下ろし、タバコに火をつけて歩いていった。
臭いが残るものをわざわざこの局面で使用する意味が正直、俺には分からないところだが、ヘビースモーカーも大変なのかもしれない。
念の為、手塚が視界から見えなくなるまでスタンガンの構えを解かず、そして緊張感を続け過ぎてしまっていたので座り込む。
「……ごめんなさい、助かったわ」
「いえ、どう言う形であれ、エクストラゲームで生き延びてくれて良かったです」
「生きては、いるけど……私、何もできなくて」
「その辺は、このゲームに参加してる御剣先輩に慰めて貰えば良いですよ」
「総一が……っ!? やっ、ぱり……その、どこに居るか分かる?」
姫萩先輩が御剣先輩に彼女が居る旨の話をした瞬間、立ち直ったことを思い出す。これが……人徳っ! いや、恋人なら当然なんだろうが、少々複雑な気分だ。現在、俺は『顔か!? 顔なのか!?』と言う自虐ネタが封印されている為、そのネタは内面否定に繋がって非常に危険です。いや、どうでも良いんだけど。
「ごめんなさい、心当たりはありません。出会ったのも3時間前ほどですし、次会ったら殺されそうな気がしますし」
「こ、殺されるって……貴方一体何をしたの!?」
「あー、これ喋らないといけない奴ですよね。えーと、海よりも深く山よりも高い訳が……」
「言い訳は駄目よ」
「……ハイ」
「似てるのは見た目だけかと思ったけど、悪い所は似てるのね」
「御剣先輩ってダメンズなんです? まぁ、そこは良いか。細かい事情を話しますが、その前に確認しなければならない事があります」
これから喋らないといけないことを考えると非常に気が重いことは確かだが、
精神的疲労は見えつつも言い訳をする自分に鋭く指摘する桜姫先輩を見るとなんとなく安心感を覚える。俺自身、相当精神的に参っているに違いない。
さて、確認したいことだが、ぶっちゃけると桜姫先輩の今のスタンスと覚悟だ。ゲームが始まった時と今では、もう前提が大きく違い過ぎている。たとえ、桜姫先輩がどのようなスタンスを抱えても、俺は桜姫先輩の味方であろうとは考えているけど、それは口を噤むとして聞いておかなければならない。
「貴方の恋人である、御剣総一先輩のPDAの解除条件は【A】、【QのPDAの所有者を殺す】ことです。で、本当に色々あった結果、結果的に今のQの所有者は俺になっています」
「それは……心配してないわ、どんな解除条件でも総一は誰かを殺せる人間じゃないもの」
「伝聞で聞く限りは、俺もそう思います。大事な事は次、あと二人知らない人が居るんですが、現時点での俺の所感だとこの殺人ゲームは、やはりある程度意図があって配役が決められているようです。それを読み取れば、この殺し合いを止める切片になりうるのではないか、と俺は考えていました」
「多分、貴方と会ったことのない二人なら、私が一緒に行動してたわ。葉月さんと、なぎさ、さん……だけど……」
痛ましい顔で桜姫先輩が二人の名前を言う。恐らくは、桜姫先輩が今の状況になった直接の原因に関わることなんだろう。何が起きたかは、後で聞くしかないが。
「エクストラゲーム、ですね。これで全員か……細かい話は後で聞きます、そして俺はここまでで一つの結論に至りました……この狂ったゲームのメインキャストは御剣総一先輩、桜姫優希先輩のお二人です」
「何が、言いたい……の?」
「様々な可能性を検討していましたが、エクストラゲームで確信しました。このゲームはある程度やらせ要素のある殺し合いリアリティショーだと言うことです。そして、仲睦まじい恋人の悲劇を観客達が求めて、場合によっては介入が有り得ると考えています」
「私と総一、が……そんな、そんな、ことって」
「前置きは長くなりましたが、俺の言いたいことは以下の通りです。他の人間は気にせず、二人で生き残る方法のみを考えた方が良いのではないかと」
「言いたいことは、分かったけど。……どうして、そんなことを言うの? それを言って、貴方に何の意味があるの?」
「最初はただの殺し合いゲームだと思って、大方針を決定しましたが、前提が大きく変わったので、それを踏まえて桜姫先輩がどうしたいのかを聞きたいだけです。そう示し合わせた訳でも有りませんが、結果的には協力者のようになった訳ですし」
内心では完全に仲間認定している訳だが、それは此処で言及することではない。結局のところ、現実を踏まえてどうしたいかだ。
問いかけに対し、桜姫先輩は全身を震わせ、涙を浮かべる。
「本当はこうしてたら駄目だって、分かってる。でも、どうしても……頑張れないの。他の人を、信じられないの……怖いの。ごめん、なさい……あの時はあんな事言ったけど、やっぱり総一に会いたい。 ……いつもの日常に、帰りたいよ……」
「一番ずるいのは先輩ですよ。……とはいえ、まだゲームが始まって半日なのに、思えば遠くに来たものですね」
「本当に、そうね……ごめんなさい。頼りにならない先輩で」
「こちらこそ、生意気ですが力になれない後輩で申し訳ないです」
女に涙には勝てないと言うが、姫萩先輩の死を見届けてトラウマになっている俺が桜姫先輩を見捨てることはできない。だが、これではどん詰まりだ。彼女を立ち直せるとしたら、俺ではなく御剣先輩の力が必要であり、関係性は良好ではない。
……そして、何よりも理解できてしまうのだ。桜姫先輩が、俺で例えるなら長沢と北条さんが裏切りあっているのを、目の前で見たようなショックを受けている。そして、今の俺の精神状態は、実質的には桜姫先輩と大差ない。感情を表に出すのが大変苦手なのと、輝かしい日常というものがないから、強い羨望を抱かないだけだ。
更に、スミスが俺を桜姫先輩の場所に誘導したのは、まだ折れて貰っては困るという主催者側の意思表示に他ならない。これから更に心を折ってくる何かが予想される以上、俺は今の桜姫先輩を責めることもできない。
(郷田真弓、矢幡麗華と組んでる男の二人組、桜姫先輩がこうなった原因の人物、御剣先輩との軋轢をどうにかして、手塚ともなんやかんや良い関係を築きつつ、主催者の思惑を上回り、首輪の解除条件を満たさず生還する方法を探す簡単な作業か……絶対、どこかで破綻する。もっと、現実的な案はどこかに転がってないだろうか)
悩みは尽きない。なんだろう、もしかしてこういう時に姫萩先輩が居たら、上手く桜姫先輩を叱咤してくれたんじゃないか? という疑問が芽生える。……現実逃避しても仕方ないか、もう居ない人間に頼っても仕方ない。
今、生きてる人間だけでどうにかするしかないのだ。
「じゃあ、御剣先輩に合流するまでは、不肖川瀬進矢が代理人を務めさせていただきます」
「……私のことは放っておいても良いのに」
「それをやったら、本格的に御剣先輩に殺されてしまうので勘弁してください。それに、桜姫先輩がいないところで仲間も作って約束もあり、よりによって故人との約束までできて、もう俺は止まれないんですよ」
「なか、ま……」
「根深そうですね……」
仲間という言葉で、桜姫先輩の顔色が真っ青になる。
人間不信の状態が強いようだ。俺が辛うじて対象外っぽいのは顔補正か何かだろうか。
本題から入って、一気に今後の方針を纏めようとしたのが悪かったのかもしれない。
しかし、その故人との約束が【桜姫先輩と御剣先輩を二人とも生還させる】なのは、今の状況を見ると皮肉にしか見えないというか。軽い気持ちで人と約束をしてはいけないの好例な気がする。
「……ゆっくりで良いから、話していきましょう。これまでの事と、これからどうするかを」
「そう、ね」
どんよりとした暗い空気の中、ポツリポツリと桜姫先輩は話し始めるのであった。
「全部、話すわ……私が行動を共にしていた、葉月さん、渚さんのことをーー」