秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

14 / 61
プレイヤー:カード:オッズ:解除条件
御剣総一 :A:5.1 :Qの殺害
川瀬進矢 :3:6.6 :3人の殺害
長沢勇治 :4:7.2 :首輪を3つ収集する
漆山権造 :7:DEAD:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
桜姫優希 :9:9.5:自分以外の全員の死亡
手塚義光 :10:3.9 :2日と23時以前に首輪が5個作動している。
姫萩咲美 :Q:DEAD:2日と23時間の生存
北条かりん:K:5.1 :PDAを5個以上収集
矢幡麗華 :?:DEAD :???
郷田真弓 :?:4.1 :???
葉月克己 :?:??:???
綺堂渚  :?:??:???
???  :?:??:???



第十二話 一人ぼっちの正義の味方

 

 

 

―――――――――――――――――――

トラウマは苦しみの源とは限らない。それぞれの目的に沿ったものをもたらすのだ。

アルフレッド・アドラー (オーストリアの精神科医、心理学者)

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

~桜姫優希の証言~

 

 

 まず、手塚についてね。

 情報交換を終えた後、手塚を追いかけていた私は結構な距離を走った後に、彼とは普通に話をしたわ。

 彼の言い分だと、百歩譲って私が、1万歩譲って川瀬君は辛うじて話をして交渉できるラインだけど、他の人間は交渉するレベルですらないみたいね。

 

『人を殺しちゃ駄目だの、誰にも殺させないだのそういう道徳の話はどうでもいい。建設的な話をしようぜ、お嬢ちゃん。でなきゃ話は此処で打ち切りだ』

 

 私としては不服ではあったんだけど、対話をしないと始まらないし今後の事と具体的な協力体制について話をしたわ。内容を羅列すると……

 

1.手塚の解除条件は10番、60時間以降に解除条件達成以外の首輪解除方法の目処が立たない場合は私と川瀬君の首輪は無抵抗で発動させる事。今は口約束で構わない。→私の分のみなら承諾

2.代わりに手塚は私と川瀬君、及びその仲間は襲わない。襲撃された場合は除く

3.私と川瀬君がルール交換の場で主張していた内容は正しい、今の私たちが裏切るつもりがないのは分かる。だが、最終的に裏切りは絶対に発生する(と手塚は主張した)為、一緒に行動するつもりはない。

4.協力してくれるなら、その分の対価は相互に渡す。具体的に手塚が欲しい情報としては死んで首輪が作動していない死体の位置や解除した首輪が作動するか検証する。あとはこのゲーム全般の情報ね。

5.ゲームが完全に停滞すると絶対良くない事が起こるので、無警戒な奴らがいたら襲うと主張する手塚と私がひたすら口論していた。

 

 大体1から5の順番に話し合いをしていたけど、結局は相互に折れてしまった形ね。

 

『人を動かしたいなら、まず結果を出す事だ。俺はこれでも相当嬢ちゃんに譲歩してやってるんだぜ? まっ、精々足掻いてみるんだな。嬢ちゃんの末路、楽しみにしてるからよ』

 

 なんて、言ってたわね。

 私も、川瀬君と合流しないといけなかったし、手塚を止めるには手塚以外の人に協力を仰げたら、と思ったの。その後、ルールを交換した部屋に戻ろうとしたけど少し迷ってしまって……なんとか辿り着いた時には川瀬君の置き書きを見つけたわ。

 

『桜姫先輩へ

 あの後、矢幡さんと郷田社長が二人組を作って場を離れ。

 不肖、川瀬進矢は長沢君と行動を共にする事になりました。

 今後のプランとしては、他の人の解除条件の解除の協力しつつ、人捜し優先で情報収集を行っていく予定です。自分達は、エントランスの反対側をぐるっと回って2Fに行いきます。もしも、桜姫先輩がこれを見た場合はエントランス方面をお願いします。開始から12時間~18時間の間は1F~2Fの階段付近で休憩を取ろうと思います。もし居なかったら、何かしらのイレギュラーがあったとお考えください。その後は順次階段で上に上がっていく予定です。幸運を祈っています』

 

 この内容を見た私は、現在位置を特定した後にエントランスに向かった。

 そして、エントランスで初老のスーツ姿の男性と白と黒のフワフワしたゴスロリ衣装をした女性を見つけたわ。男性が葉月克己さん、女性が綺堂渚さん。

 

『僕は葉月克己、仕事からの帰り道で誘拐されてしまったようだね』

 

『私は綺堂渚って言います~、バイト帰りに攫われちゃったみたいです~』

 

 二人共、機械には疎かったみたいでPDAも上手く使えず、ルールに関してもよく分かってなかったから状況も含めて全部説明したわ。解除条件についても教えて貰ったわ、葉月克己さんが2番の【JOKERの破壊】、綺堂渚さんがジャックの【24時間以上行動を共ににしたプレイヤーが、2日と23時間生存する】。

 私の解除条件である9番【自分以外の全員の死亡】について教えた時は、二人共とてもびっくりしていたけれどそれでも協力を約束してくれたわね。戦闘禁止が解除されたのも、これくらいの時間だったかしら。その後も私の知っている事を二人に話して、川瀬君との計画通りに人捜し優先の情報収集を行う事で同意したわね。

 他にエントランスで分かった事は、このゲームが初回じゃないかもしれない事位かな。……そこの情報は被ってるみたいね。

 

 その後数時間は殆ど成果は無かったんだけど……食事を見つけて、追加ソフトウェアを見つけて……一応護身用に長物や果物ナイフを回収したわね。捜索が終わった後、時間が余った時に、階段付近はもしかしたら危険かもしれないと思って、川瀬君とタイミングを合わせる為に12時近くまで休んだの。18時まで休憩するなら、私たちが主に見張りをしようという話をしてね。

 料理とかも作って休んでたんだけど、渚さんの料理は絶品だったわね。私も料理をする方だけど、格が違うというか……。話がズレたわね、12時が近づいていよいよ出発しようという時にエクストラゲームが始まったわ。

 

 といっても私は何も気にしなかったの、葉月さんは人の良い人畜無害……悪く言えばこの状況じゃ頼りないかもしれないけど、それでも年長者として引っ張ろうとしてくれてる頼りになるおじさん。渚さんは、ゆったりしているようで根っこの精神は強いし人の事を思いやる優しさもある、何よりムードメーカーで殺伐とした空気を和らげてくれる人だったから。

 

 生存者数が12人から11人になった時も、私たちの事より、川瀬君や長沢君の事を心配してたわ。

 

 だから、次に起きた事を信じられなかった。

 ……今でも信じられない。

 

 

 鮮血が舞って、私の視界が赤く染まった。

 渚さんが葉月さんの腕をナイフで切り裂いた、と気付いたのは少し時間が掛かった。

 

『うっ……何が、起きて……』

 

『ど、どうして……』

 

 蹲る葉月さんの姿を見つつ訳も分からず私は呆然とするしかなかった。

 そんな私の事を、渚さんは何時もと変わらない笑顔で、平然と言ったの。

 

『どうして? 分からない事を聞くわね優希ちゃん。裏切られる前に殺してるだけだよ~、だってそうでしょう? 人は誰だって裏切るんだもの』

 

『そ、そんなの……葉月さんは裏切るような人じゃないわ! な、渚さんだって……!』

 

『ま、待ってくれ! 渚さん……何か、何か、理由があるんだろう。 優希さんは、離れていてくれ』

 

 

 腕を斬られて、血が凄い勢いが出ている葉月さんが私を庇うように立って言ったわ。

 渚さんは少し考え込んだ様子で

 

『……理由? そうだね~……大事な家族の為、って言えば殺されてくれるのかしら?』

 

『だったら……だったら、尚のこと、君に人殺しをさせる訳には……!』

 

『立派ね。もっと早く会えていれば――いえ、感傷ね。貴方みたいな人は……このゲームじゃ長生きできないのよ』

 

 葉月さんは、なんとか渚さんを抑えかかろうとしたんだけど、そんな葉月さんに対して渚さんは果物ナイフを振るった。彼女がやっていた料理と同じように、滑らかに。何度も、何度も。

 そして、葉月さんは渚さんに到達する前に倒れてしまったわ。

 ……訳も分からず、呆然としている私に彼女は言った。

 

『これで分かったかしら~? それとも……まだ分からない?』

 

 私のPDAが震え画面の生存者数が11人から10人になる。

 ……まだ葉月さんは息をしていた。渚さんは私に近づこうとしたけど、そんな渚さんの足を葉月さんは手で掴んでいた。

 

『……そんな、かなしい、目で……やらせな』

 

『もう、遅いのよ』

 

『止めてーーー!!!』

 

 そして、葉月さんにナイフが振り下ろされそうになった時、ようやく動けるようになった私が渚さんを突き飛ばそうとした。だけど、気付いたら視界が反転して温かいぬるりとした感触があった。葉月さんの上に投げ落とされた事に気付いた。

 

……それが結果的にトドメになってしまったのか、PDAの生存者数が10人から9人になったわ。

 

『あ……く……葉月、さん……そん、な……』

 

『良かったね~、優希ちゃん。これで、貴方も仲間を殺してボーナスゲットよ』

 

『何を……言ってるの?』

 

『エクストラゲームの内容をよく読んだ? 【ゲーム開始6時間以降から、2時間以上行動を共にしたプレイヤーが死亡】だから、貴方もボーナス対象に入ってるのよ?』

 

『……っ! そういう事を聞きたいんじゃ無い! 今までの渚さんは全部演技だったの!? 最初から裏切るつもりで、仲間の振りをしていたとでもいうの!?』

 

『馬鹿ね~、最初からそう言ってるじゃない。貴方が仲間だと思っている川瀬君もそう、そしてどこかで別のグループが1人裏切っている。殺される前に、このゲームの本質を理解できるなんて、貴方はとっても運が良いわ』

 

『……どうして!? どうして、私じゃなくて葉月さんを殺したの!? 解除条件9番の私を信じられないなら、ボーナスが欲しいのなら……私を殺せば良かった!』

 

『質問が多いわね。私~、貴方のような人が嫌い~。昔の私を見てるみたいで、ね。逆に聞くけど、人が人を殺すのに大した理由が必要かな~? 今の貴方の顔が見たかったから、って言えば納得する?』

 

 渚さんは果物ナイフを構えて微笑む。……話が通じない。

 何時間も一緒に行動してきた筈なのに、一緒に居た渚さんとは思えない。

 怯える私に向かって、渚さんは血を滴らせたナイフを持ってゆっくりと近づいてきた。

 恐怖心が沸き、私は逃げるしかなかった。……ただただ、怖かった。

 

『生きていれば貴方も私と同じになるわ。貴方は自分にとって一番大切な物の為に、それ以外の全てを裏切る』

 

 彼女のその言葉だけが今も、私の中にずっと……反響している。

 

 ……ひたすら逃げていた私は、手塚に出会って襲われて事情を説明させられてた。 

 あの時の私は、怖くて……手塚に殺されても構わないと思ってたのかもしれない。

 だけど、私と川瀬君にそっくりなコンビが居たと言われて……もしかして、総一が此処に居るんじゃ無いか? って思ったところで、川瀬君が入ってきた。

 そこからは、貴方も知ってる通りよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お互いに酷い目に遭いましたね。ゲームの洗礼という奴ですか……甘く見てたつもりは無かったんですけどね。悪い事も沢山ありましたが、総合的に見れば可能な範囲でお互いにベストは尽くしてましたね」

 

 相互に全ての情報を共有して考えを纏める。

 出会った出来事に関してはおおよそ共有できたと思うが、不確定情報が明らかになるにつれて見えてくるのは希望ではなく、明らかな絶望の壁だ。

 もう後戻りはできないし、するつもりもないがゲームに乗る方が明らかに楽だったのは間違い無いと思われる。

 

「ベスト……この結果が、こんな結果が私たちのベストだなんて……」

 

「はい、そうです。死亡者数だけで見るなら、失敗ですが。それでも全てが無駄だったとは思いません」

 

「……もしかして、慰めようとしてくれてる?」

 

「いいえ、事実だけを言ってます」

 

「その辺、貴方って頑なよね」

 

「テンションがもう少し高ければ別なんですけどね」

 

 

 まともに人を慰めるやり方なんて知らないし。

 イケメンな御剣先輩だったら、こういう時にどうやって慰めていたんだろうか?

 人のやり方を意識しても仕方ないか。

 俺は俺のやり方、つまり原因から潰していくしかないな。

 ちょっとリスキーだが踏み込むしかないか。

 

 

「……で、綺堂渚さんですか。桜姫先輩がこうなった原因は」

 

「うん……あの人の顔が、言葉が頭から離れなくて……」

 

「後出しかもしれませんが、なんでそんな人を信用しちゃったのかな~って印象ですが」

 

「……どうしてそう思うの?」

 

「良いですか先輩。天然で優しい清純派女性は実在しません。腹が黒く、男をその気にさせて弄ぶタイプです」

 

「え、えぇ~……それは流石に、極端過ぎるんじゃない?」

 

「良くて処世術として、猫被ってるんだろうな~って俺は考えます。でなきゃ、既に彼氏持ちです」

 

「総一と逆に、女性に夢を見てなさすぎなのも問題な気がしてきたわ……」

 

 

 そういう女性に騙されて酷い目に遭った友人を何人か知っています!

 というのは極端な話としても、殺し合いゲームの中で完全に動機がない安全な解除条件の人間は逆に怖いと思わなくもない。そう考えると、俺の仲間は解除条件がヤバいか、殺し合い乗る動機がある人間だけしかない。姫萩先輩が唯一例外だったが、あの人はゲームにおいて役割があり、ついでに恋バナした仲だったから……。

 

 

「本気に近い冗談はさておき,どうして綺堂渚が裏切ったか知りたいですか?」

 

「そりゃ、知りたいけど……わ、分かるの!?」

 

「証言からの推理で良ければ……桜姫先輩が分からないのは、まぁ当事者だから仕方ないかなって気はしますが」

 

「……はいはい、川瀬君は頭の良い人間ですよーだ」

 

「お褒めに与り光栄です。と、言ってもそう大した推理じゃないですよ。証言を聞く限り、綺堂渚は裏切りをしなければならなかったんでしょうね。ゲームの参加が初回じゃない印象を受けますし、主催者側に近い人間だったんでしょう」

 

「主催者側……誘拐犯側の人間ってこと!?」

 

「はい。……と言っても、ゲームが停滞した時に裏切る役割だけを持っていて他は同条件だったとか、完全に向こう側の人間だったとか、程度までは分からないですけど」

 

「…………そっか、じゃあ最初からこの殺し合いは止められなかったんだ」

 

「止められそうになったら、なったで、何らかの促進策を幾つか持ってるんでしょうね。厄介なことに」

 

 

 息を吐く。

 これが一番ややこしいところだ。

 もし、全てが上手くいってゲームを止められたとしても胴元にひっくり返されてはたまらない。俺は最初、このゲームは抜け道ありのフェアな殺し合いゲームだと思考を固定されてしまっていた為、この罠に気付くことが出来なかったのだ。固定観念に囚われてはいけないのは分かるが、ある程度思考を決め打たないと行動が間に合わないのが辛いところだ。

 

 

――ピロリン、ピロリン、ピロリン

 

 

「出たなカボチャ」

 

『スミスだよー! 折角、君達にボーナスの話を持ってきたて言うのにさ!』

 

「……ボーナスか……葉月さん……」

 

『いやぁ~豪快な投げられっぷりだったね! 若さ爆発! そんな君のボーナスだけど、首輪の解除条件の緩和だよ! 流石に【自分以外の全員の死亡】は他の条件と比べても厳しすぎるよね? だから、【自分以外の生存者数が1名以下】に変更してあげるよ!』

 

「ふ、ふざけないで……そんなの、何も意味が―」

 

『これで愛しの御剣君と一緒に生還できるよ! 元の日常に帰れるんだ! 良かったね!!!』

 

「な……っ!?」

 

 

 ……なるほど、精神操作が上手だなーと他人事のように思う。

 鞭で弱みをつくったところで、弱みを見逃さずに飴を差し出す、桜姫優希はこの誘惑に耐える事ができるか……? ってやつだ。察するに、綺堂渚はこういう展開になる事を見越して、あのような動きと言動だったんだろう。……完全に組織側の人間だと決め打って問題ないかな。

 

 

『続いて、川瀬進矢君! 君へのボーナスは武器だ! PDAに位置を表示するけど、隣の人に奪われないように注意してね!』

 

「一周回って尊敬してきたよ、スミス」

 

『わぁ、こんな事言われたの初めて! ありがと! ゲーム頑張ってね!』

 

 

 ――プツリとPDAが切れ、元の待機画面に戻る。

 さてさて、今後の動きはどうしようか……桜姫優希がこれでゲームに乗るような人間であったのならば、俺も今後はもう少し気楽に動けると思うんだけど。

 ここで変に話を拗れさせても仕方ないと思った俺は、スタンガンを遠くに放り投げた。

 

 

「一応、おめでとう……って言った方が良いんですかね。これは」

 

「…………ねぇ、川瀬君」

 

 

 一旦、桜姫先輩の様子見る為に、一回話しかけてみた。

 その時に、普段とは声色が異なる桜姫先輩に気付く。

 何かの覚悟を決めた顔で、でも……殺意とはまた別な感情がある。

 

 

「……ずっとおかしいと思ってたの、どうして貴方は私の味方でいるの?」

「今、そういう話をする場面ではないと思うんですが」

「お願い、答えて」

「……」

 

 

 ……嘘は許さないという強い瞳。

 出来れば、曖昧な関係で終わらせたかったんだが。 

 まぁ、そんなの逆の立場なら信頼できるわけがないか……関係をハッキリさせる、か。

 俺は桜姫先輩の事をよく知らないが、それでもなんとなく彼女らしい行動なのかもしれない。

 

 

「……桜姫先輩は美人ですからね、一目惚れして見捨てられなくなるってよくある事じゃないですか?」

 

「それは嘘」

 

「一応、一世一代の告白だったんですが」

 

「ごめん。でも、貴方って女性に夢を持たないタイプでしょ? それは私には適応されないの?」

 

「……あとは姫萩先輩との約束もあります、【二人を生きて帰そう】ってね」

 

「その話を持ちかけたのは川瀬君よね? 貴方が始めた事よ」

 

「……桜姫先輩を人間として尊敬してるから、ゲームに負けて欲しくなかったから」

 

「それは、どうして……?」

 

「……俺を、疑ってるんです?」

 

「いいえ」

 

 

 全部本当の事を言っている、その筈だ。だけど、桜姫先輩はどうやら納得がいかないらしい。正直、自分を掘り下げるのは俺はあんまり得意じゃない、他人を観察する方がよほど気楽だ。だが、桜姫先輩との今後の信頼関係を考えると避けられない話で、心がピリピリしてくる。

 喋らなくなった俺を前に、桜姫先輩は自分の考えを整理するように話し始める。

 

 

「そう……それが、おかしいのよ。総一以外、誰も信じられない……他の人が怖い……そう思っている筈なのに、貴方の事を警戒できない……疑えない」

 

「……結局の所、桜姫先輩も顔で人を判断するタイプだったんじゃないんですか?」

 

「それはないわよ、私は総一の事を顔で好きになったわけじゃないもの」

 

「……ごもっともな話ですね」

 

「川瀬君――貴方はどうなの? どうして、今……スタンガンを放り投げたの? 私が裏切るとは、思わなかったの?」

 

「裏切るんですか?」

 

「……裏切らない、けど」

 

 

 少しだけ桜姫先輩が眼を伏せる。

 ……自分でも、何を言ってるのか……何が言いたいのか分からないのか分かっていないのかもしれない。

 いずれにせよ、桜姫先輩は人間不信になりつつある自分自身と向き合おうとしているのは理解した。

 

 

「なんとなく、言いたい事は分かりましたが。信じるとか信じないとか、裏切るとか裏切らないとか……俺に言われても分からないですよ。人間、7~8割信用できれば十分じゃないですか」

 

「その、7~8割に貴方は命を賭けるの? 信頼関係を築くのは前提で、死ぬ可能性はもっと高いのに?」

 

「……今までは、殺人へのハードルが高いと油断してた面もありますし、大なり小なり自分自身への過信もありましたけど」

 

「今は? 長沢君と北条さんが裏切り合ってないと言い切れる? 今まで仲間にした人全員と一緒に生き残ろうと思ってる?」 

 

「……少なくとも、ゲームに乗らないように説得したのは自分です。責任は取りますし、約束は守ります」

 

「例え、どちらかが裏切ってたとしても?」

 

「……そうですね。かもしれません」

 

 

 あんまり考えないようにしていた事だが、勿論、長沢と北条さんの二人が裏切り合っている可能性は十分ある。

 もし、本当に裏切っていたとしても、彼等を責める事は難しい。

 北条さんには絶対生き残らなければならない理由がある、長沢はそんな北条さんの動機を知っている。少なくとも疑い合う根拠は十分にあり、俺から見ても二人の人間としての相性はあまり宜しくないように感じられる。

 過失割合で言えば、あの二人を二人っきりにしてしまった俺にも何割か責任の所在が問われるだろう。

 

 

「やっぱりそうだった。貴方は人の事を信じていない……違うか、過剰に期待してないというのが正しいのかしら?」

 

「そりゃあ、過剰に期待されても迷惑でしょう。桜姫先輩もこの殺し合いゲームで勝手に期待されて解除条件9番になったのは、とても迷惑ですよね?」

 

「そうね。あと、川瀬君で気になっていたのは……貴方自身は殺し合い否定派だけど、殺し合いに乗る事そのものについては否定してないわよね?」

 

「……バレましたか? 隠す気も無かったんですが、基本的には他人の選択と決断を尊重するタイプですからね。人を殺そうとするなら、殺されても仕方ない程度には考えてますが……今となっては殺せないでしょうけど」

 

「……実は今、私が武器を隠し持っていて川瀬君を殺せると言ったら? 貴方はどうするの?」

 

「抵抗はするでしょうが、逃げる体力もないし素手だと流石に負けるかも知れませんね」

 

「…………」

 

 

 丁寧に、1つずつ……手探りで、俺が他者との間に設けている境界線を確認していく作業という印象を受ける。俺を信じたい、信じる根拠が欲しい……そういったところなんだろうか?

 女性……以前に他人にそこまで細かい部分を話をしたことがないので、緊張する。恐らくは、桜姫先輩も初めてなんじゃないだろうか?

 ……羞恥プレイか何か?

 正面から信用しようと頑張るのは、ある意味で彼女らしい真っ直ぐさと思えなくはないけども。

 

 

「……そう、大体分かってきたわ。最後に、これは確認だけどルール交換が終わった後の解除条件の交換の話になった時に、川瀬君はわざわざ私が矢面に立って説得するのを待ってたわよね?」

 

「……気付かれてしまってましたか? ズルい人間である事を見透かされてしまいましたね」

 

「責めてる訳じないの……ただ理由が分からなかったから。もしかしたら、恩を着せたかったとか、何かしらの企みがあると思ったんだけど……やっと分かったわ」

 

「……誰だって、最初に駄目な事を駄目だと言うのは難しいですよ。特に、他の人全員が否定的だったらね」

 

 

 人を観察しているのだから、人に観察される事もあるだろう。

 と理解はしているのだが、そこまで見透かされていたとなるとやっぱり見る人は見ているんだなという感想になってくる。変に神格化されるよりは等身大の自分を見てくれる人の方が良いかもしれないが。

 

 そして、ようやく桜姫先輩は納得がいったという顔で、微笑んだ。

 ズルい事は駄目だとか、歪んでるとかそういう否定の言葉が来ると一応構えていたのだが、そういう気配は微塵も無い。

 

「そういう理由も勿論あるんでしょうね。…………でも、違う。貴方ほど、頭は良くないけど。私はこう思うの、貴方はもしかしたら私だったのかもしれない」

 

「……全然違うと思うんですけど」

 

「全然違うから、私も気付かなかった。疑ってみて、初めて気付いたのよ」

 

 逆に貴方はまだ気付いていないの?

 という眼で訴えかけられているように感じる。

 ……多分、気付いてないわけではないと思うのだが、それを口に出すのがはばかられるというか、上手く言葉にできない。

 

 

「小さい頃の私は融通が利かなくて……正しい事をしようとして、現実と何度もぶつかった。何度も、孤立した。それでも、総一が居てくれたから……私は私のままで居られた。『私は間違ってない』って言ってくれる味方がいた」

 

「……突然の惚気話に胸が痛くなるけど、イケメンですね。嫉妬すら湧かなくなりますよ」

 

「川瀬進矢君……貴方は、総一が居なかった私なのよね? 誰も肯定してくれなかったから、誰もが認めざるを得ない論理を身につけた。かつての自分と重なるから、あの時……私を助けてくれた? 違う?」

 

「……!」

 

 ……ゆっくりと桜姫先輩の言葉を咀嚼していく。

 頭に静かな衝撃が広がる、と同時に思い出す。

 幼少期の記憶が脳内に駆け巡る――融通が利かない自分。思い通りにならない現実、間違ってない正しい事をしている筈なのにひとりぼっちになっていた自分。

 ならばと人に役立てる自分になろうと努力したら、今度は役に立つのが当たり前になってしまい、やって当然で誰にも感謝されずに、ただこき使われる日常が始まった。何度も何度も空回りし、そして孤立していった。とても、昔の話。

 

 ……自分が何故、探偵という職業に憧れたのか。謎を解くため? 解いて、人に驚かれて認められたいから?

 違う、正しさだ。自分が正しいと思うことを、論理立てて人に説明できる。そして人に納得され、正しいと思って貰える……それがミステリー小説におけるどんな難事件でも華麗に解いてみせる名探偵に重なり、憧れた。

 自分でも忘れていた、俺自身の原風景。

 忘れてた筈の記憶が、脳裏に確かに再生されていく……。

 

 

「普通なら理想と現実がぶつかれば、現実を優先するのが人間よ。だけど、貴方は理想を優先しながら、現実と折り合う道を探し続けていた。自分が傷つかないように、相手を疵付けないように……それでも正しい道を進む。それがひとりぼっちの正義の味方――川瀬進矢という人間だった。だから、同類かも知れないと思った私を見極め、協力する事に決めた。私も、無意識で心を許した……違うかな?」

 

「………………誰かに見透かされるのって、思ったより最悪な気分なんですが」

 

 ピシャリ、と。

 綺麗な、それでいて鋭い目線で問い詰められる。

 少なくとも、今の俺にはどんな名探偵よりも鋭い、逃げられない言葉だと思った。

 ……観念するしかなかった。

 

 ここまで、自分のことを見抜かれたのは初めてのことだ。

 しかも、よりによって彼氏持ちだ。一番自分を理解してくれる人は、もう心の隙間に入り込めないほど恋人と強固な絆を気付いているのだ。

 

 

「ごめんね、考えてたの……私は、どうして貴方を信用できると思ってたのか。私も顔で人を判断しているのか悩んでたけど、分かったらそう難しい事じゃなかったわね」

 

「そうですね……先輩が立ち直れたなら、必要経費だと思っておきます」

 

「うん、こんな私だけど改めて協力してくれる? 皆を……総一を、長沢君を、北条さんも、川瀬君を……もしかしたら、渚さんも。ついでに、手塚さんも。他の人も、助けたいの。一緒に生きて帰りたいの。私と総一だけで生きて帰っても、何にもならないの」

 

「手塚はまだしも……そこに綺堂渚を入れるのは優しさではなく、狂気ですよ。でも、そういう桜姫先輩、嫌いじゃ無いですね」

 

「ふふ、ありがとう」

 

「厳しい道になりますよ?」

 

「貴方はそれで諦める人間なの?」

 

「桜姫先輩が諦めたら、諦めるかもしれませんね」

 

「他力本願……でも要するに、諦めないって事ね」

 

「そうなりますね」

 

 

 同じ姿でも人はここまで印象が変わるのかと少し驚く。

 血で赤く染まっていても、既に一度挫折を味わっても、強い瞳を持った桜姫先輩を俺は素直に綺麗だと思った。

 勿論、折れて震えている桜姫先輩もあれはあれで良か――って俺は何を考えているんだ。

 

 

「不思議な事で、ついさっきまではもう駄目だと言う諦観が強かったんですが、桜姫先輩が変わっただけで気持ちが上向きになりましたね」

 

「うん、もう大丈夫。私も色々思い出したから、総一が好きな私で居られるわ。川瀬君がここまで頑張ってくれたんだから、先輩として次は私の番ね」

 

「同じく、俺も主催者の連中に良いようにされた分を返さないと気が済まないので、負けませんけどね」

 

「頼りにしてるわ、川瀬君」

 

「こちらこそですよ、桜姫先輩」

 

 

 

 お互いにボロボロではあるけれども、このゲームにおける問題は何も解決していないと言っても過言ではないけども。問答無用で、自分のルーツを思い出さされ、根っこでは同類である事を確認した俺達は、改めてこのゲームでの反抗を誓い合った。

 

 状況は何も変っていない。 

 温かで、そして確かな希望の灯火のぬくもりが心臓に宿っているのを感じるのであった。




シークレットゲームは最初に会う人がメインヒロインの法則!(恋愛関係になるとは言ってない)
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