秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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プレイヤー:カード:オッズ:解除条件
御剣総一 :A:5.1 :Qの殺害
葉月克己 :2:DEAD:ジョーカーの破壊
川瀬進矢 :3:6.6 :3人の殺害
長沢勇治 :4:7.2 :首輪を3つ収集する
漆山権造 :7:DEAD:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
桜姫優希 :9:9.5:自分以外の全員の死亡
手塚義光 :10:3.9 :2日と23時以前に首輪が5個作動している。
綺堂渚  :J:??:24時間行動を共にしたプレイヤーが生存
姫萩咲美 :Q:DEAD :2日と23時間の生存
北条かりん :K:5.1 :PDAを5個以上収集
矢幡麗華 :?:DEAD:???
郷田真弓 :?:4.1 :???
???  :?:??:???



第十三話 彼女の遺したもの

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

人を賢くするのは過去の思い出ではなく、未来への責任感だ。

ジョージ・バーナード・ショー (アイルランドの劇作家、評論家

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 桜姫先輩と改めて協力関係を結び直した俺達は、スミスにより示されたボーナス地点に移動していた。部屋は普通の物置のようだったが、その部屋には真新しい箱が複数置いてある。埃の上に足跡や……人が入った痕跡がある事を考えると、人力でこれは置かれているものだと思われる。隠し通路が色々ありそうなんだが、気にしても仕方ない。

 まずは武器を気にするべきだ。

 意を決して二人で1つずつ箱を開けていく。

 

 

「こ、これは……もしかして……!?」

 

「……先輩、落ち着いてください。エアーガンですね、軽いですよ」

 

 

 拳銃の話をしていたので、桜姫先輩が驚愕の声を挙げるが、触ると普通にプラスチック製で軽い銃だった。説明書も同梱されており、小さなBB弾を撃つタイプのハンドガンタイプのエアーガンだ。俺が過去買った事あるのは対象年齢10歳以上のものだが、此処ににあるのはもっと威力が高いモデルに違いない。2丁ある。

 

 

「エアーガンって……不良が使うような?」

 

「それは偏見ですよ!? ……縁がないならそう思っても仕方ないですが、サバイバルゲームや競技とかで色々使います。あとは害獣対策とかで」

 

「ふーん? やっぱり、使った事あるの?」

 

「対象年齢10歳以上の奴は、その年齢になった時に一応。その年のお年玉でね。銃の構え方を映画見ながら練習したり、楽しかったですよ」

 

「貴方ってそういう人よね……。でも、これから私も使わないといけないみたいだし……実銃と比べたらよっぽどマシなのかな」

 

「18禁、あと違法な威力のあるエアガンもありますが、所詮撃ち出すのがプラスチックですからね。皮膚が腫れたり、内出血を起こす程度で済むんじゃないでしょうか。目に入れば失明の危険はありますけど」

 

「危険なのは分かるけど、相当マシな気分になってる時点で私もこのゲームに毒されてしまったみたいね……」

 

「実銃にエアーガンで対抗しようとするのは割と間違ってますけどね。無いよりはマシかと」

 

 

 桜姫先輩の呆れ混じりの表情を見る度に、姫萩先輩の事を思い出して辛くなる。

 あれの前なら、もうちょっと大はしゃぎしながら、武器の解説ができていた自信があるのだが……いや、それはもっと呆れられる奴だ。

 説明書を読みながらプラスチックの銃弾を装填、桜姫先輩に断りを入れてから試しに部屋に転がっていた段ボールを撃ってみる。静かな射出音を発しつつ、見事に貫通した。

 

 

「す、すごい……こんなに威力があるんだ……」

 

「……と、このように至近距離なら段ボール程度なら貫通するみたいですね。窓ガラスだって割れるでしょう。人に撃つのは絶対駄目な奴ですね、こんな状況でなければ……ですが」

 

「……私が、こんなものを持たないといけない時がくるなんて、思ってもみなかったわ」

 

「いや、上階には実銃ありますからね!? 3階で拳銃なので、4階以降はもっと酷いと思われます」

 

「そ、それは分かってるけど……」

 

「まっ、気を取り直して構え方を教えますよ。正しい射撃姿勢が、命中率を大きく変える……らしいです!」

 

「そ、それって伝聞よね!? 凄く……不安……」

 

「そこは小学生時代の俺の銃への愛情を信じてください」

 

「……川瀬君が凝り性なのは分かってるから」

 

 

 小学生~中学生時代の懐かしさに記憶を飛ばしつつ、洋画等でよく見る構え方をレクチャーする。本当は射撃姿勢は2つあるのだが、その内の片方……ウィーバースタンスという構え方だ。

 利き腕側の足を引き、正面から見て身体を半身になるようにする。利き腕を真っ直ぐ伸ばし、逆の腕は添えるようにして握る。安定して射撃しやすく、身体が正面に対して半身になる為、被弾率が下がる撃ち方だ。反面、左右の振りが難しくなるが、迷宮のような通路での射撃戦と考えればこちらの方が適切だろう。

 もう1つの撃ち方が、左右の振り重視で被弾しやすい撃ち方なので安全性重視となる。

 

 

「はい、上手上手……あとは実際に撃ちながら調整していきましょうか」

 

「ありがたい……本当にありがたいんだけど……お礼を言うのが複雑な気分」

 

「良いですよ、お礼なんて。拳銃を真剣な目で構える桜姫先輩綺麗なので、俺がお礼を言うべきです」

 

「…………そこを褒められても……」

 

 

 ……テンションが上がりすぎて、今滑ってしまった事を実感する。ちょっと桜姫先輩の顔が赤いかもだが。……御剣先輩、大丈夫? 褒められ慣れてない反応じゃない? 普段、ちゃんと彼女褒めてる?

 血塗れの制服で銃を構える女子高校生、桜姫先輩だからかもしれないが良い絵になってると思う。新しい性癖に目覚めてしまうかもしれない。

 そんな余裕を持った事を言えるのも、実銃じゃなくてエアーガンだからでもあるが。

 少し気まずくなったので、銃の撃ち方講習を切り上げて武器の捜索に移った。

 

 

 

 

 

 

「で、結局この部屋にあったのは木刀に特殊警棒、エアーガン二丁……あとは、スタングレネードと催涙ガスグレネードがそれぞれ複数個ずつってとこですね」

 

「私たちにとってはありがたいけど、殺し合いをさせたいにしては違和感があるわね……何を考えているのかしら?」

 

「……すいません、すごく……こう、すごくこのラインナップに心当りがあるんですが」

 

 

 首を捻っている桜姫先輩が、姫萩先輩と重なる。ちょっと癖が違うというか角度が違う気がする、姫萩先輩が生きてる時に見比べたかった!

 それはさておき、姫萩先輩との会話を思い出す。確か2階の武器に駄目だししてたり、3階の武器が欲しいという話をしていた時のような気がする。

 

 

『あー……俺はナイフより、木刀の方が欲しかったし、クロスボウって威嚇にも牽制にも向いてないんですよね……連射できて人が死なない分エアーガンのが良いかな。一番良いのがスタンガンですが、ちょっとリーチが足りないのでね……』

『真面目に言うなら、スタングレネードや催涙弾が欲しいですね。あとは特殊警棒とか』

 

 そして、エクストラゲームの時のスミスの言葉……

 

『具体的にはゲーム開始6時間以降から、2時間以上行動を共にしたプレイヤーが死亡した場合、君の欲しがっている物をお渡しするよ! …………って、はやい! はやいよ!! 初回特典は売り切れました!』

 

 

 

 欲しがっている物をお渡しするって文字通りの意味だったかー、うっかり欲しいって口を滑らせたもの全部じゃないか! ……やっぱり全部盗聴されてるんだな、某映画化された殺し合い小説もそんな感じだった。筆談してもバレそうだし、秘匿したい会話はどうすれば良いのやら……モールス信号スキルとか今猛烈に欲しい。

 悩みながら、姫萩先輩とあった会話の内容を桜姫先輩に説明する

 

 

「と、いうことで、主催者の粋な計らいに感動して、言霊信仰に目覚めそうですね」

 

「……つまり、これ全部川瀬君が、欲しいって口を零した武器なのね。というか、私以外にもそんな感じだったんだ……」

 

「姫萩先輩は桜姫先輩とそっくりだったので、呆れる顔もそっくりですよ! ……本当に双子みたいなので、できればお二人がお会いするところを見たかったですね」

 

「……本当、残念ね……」

 

 

 姫萩先輩の事を思い出してしまったので、うっかりと話題に挙げてしまう。失敗してしまった。でも、そっくり過ぎるんで桜姫先輩と一緒に居ると姫萩先輩の事を思い出してしょうがいないのだが……。

 しんみりしすぎた、考え方を変えよう。

 

 

「いずれにせよゲームに否定的な俺達二人に非殺傷武器を渡してくるなんて、このゲームの主催者側からの俺達に対する明確な挑発ですね。これは」

 

「そうね、逆説的に言えば、私たちがこれらの武器で殺し合いを止めれるものなら、止めてみろという事になるから……私たちがこの武器を持っても問題無いと思ってる?」

 

「捕捉するなら、主催者側は俺達のスタンスを容認しているという意味もある気もします。いずれにせよ体力的にボロボロ状態なので、長沢と北条さんと合流して休憩を取りたいですね。、二人に裏切りが発生してない場合……彼等二人にまともな武器がないのが懸念事項になるので」

 

「確か、総一にはボーナスがいってるんだったわよね。複雑だけど、武器があるなら大丈夫かな……」

 

 

 ボーナスが行ってる所為で、俺が姫萩先輩を殺したと誤認されてそうで怖いんですけどね! という言葉を飲み込みつつ、俺も御剣先輩の事は心配ではある。御剣先輩自体というよりは、桜姫先輩と御剣先輩の関係を使って主催者側が何をやらかしてくるかが心配だ。メインキャストが桜姫先輩と御剣先輩。サブキャストの俺……次のエクストラゲームってそういう方向性になる? 極論、3人の内、1人の生贄で済むなら……俺一人の犠牲でも、なんて桜姫先輩の顔を見てたら考えてしまう。本当に最悪の場合の話だけど、セカンドプランとしてならアリか……。

 まぁいい、そろそろ眠気が混じってきた頭で考えても良いアイディアは浮かびにくいだろう。

 思考を切り替えて次の具体的行動に移る。

 

 

「おっと、姫萩先輩の事を思い出してたら、JOKERの存在を思い出しました。一応、偽装機能の使い方を先輩に教えておきますね。万が一の時の為に」

 

「…………万が一、ね。でも分かったわ、6番の人の為に使っとかないとだもの」

 

「尚、偽装回数はまだ2回です。その6番の候補が3人しかいなくて、全員敵なのが複雑なんですけどねー」

 

 

 PDAを2つ取り出す。

 1つは姫萩先輩の『Q』のPDA,もう1つは姫萩先輩から偽装機能の使い方をレクチャーして貰い……『5』から『Q』に偽装を変更しておいたJOKERとなる。すっかり忘れていたが、前の偽装から1時間は経過しているため、偽装機能の使用が可能だ。

 

 

「こちらに取り出しましたるは、QのPDAと、『Q』に偽装したJOKERのPDAです。種と仕掛ばかりですが、どちらが本物か見比べてみてください先輩」

 

「うーん、どっちが本物なのかしら? ……ちょっと待ってね」

 

 

 ピコピコと操作していくが桜姫先輩は首を捻るばかりだ。

 色々な機能を試しているが偽装機能がどこにあるか分からないらしい。まぁ、俺も最初教わった時は教わるまでさっぱり分からなかったから人の事は言えないのだが。

 教えるモードに入っていた俺だが、続いての桜姫先輩の一言に衝撃を受けて眠気が吹っ飛んでしまう。

 

 

「解除条件だけじゃなくて、ルールも一緒……あら、追加機能も入って――」

 

「……ん!? ちょ……! ちょちょ!!! 待ってください! えー!? ルールと追加機能が一緒なんですか!?」

 

 

 頭の中に電撃が走る錯覚を感じる。

 どうして今まで気付かなかったのか、それが正しければ偽装機能で他人を騙すなんて用途が霞むレベルでJOKERは有用ということになる。

 

 

「きゅ、急にどうしたのよ? 今初めて知った顔して」

 

「今、初めて知りました……とんでもないですよ! これ!」

 

「……とんでもないって……どういうこと? 説明してくれる?」

 

「はい、まず俺のルールを書き写したノートを御覧ください」

 

 

 怪訝な顔をしている桜姫先輩に対して、鞄にしまい込んだルール交換の時に使用したノートを見せる。

 世の中、備えあれば憂い無し、である。

 

【ルール3】 所持者:桜姫優希、矢幡麗華

【ルール4】 所持者:矢幡麗華、郷田真弓

【ルール5】 所持者:桜姫優希、長沢勇治

【ルール6】 所持者:郷田真弓、(川瀬進矢、PDA3)

【ルール7】 所持者:長沢勇治、手塚義光、(川瀬進矢、PDA3)

【ルール8】 所持者:川瀬進矢(PDA7番)

【ルール9】 所持者:手塚義光、川瀬進矢(PDA7番)

 

 

「こんな感じに、相手の持ってるルールが分かっていればその番号に偽装すれば、その人物の持っている解除条件を特定することができます」

 

「ルールを書いてる時にやたらと、手を動かしてるかと思ったけど……ルールの所持者までしっかりと書いてるのね……」

 

「知らない筈のルールに言及するうっかりさんが居ないか精査する為にメモってたんですが、ここで役に立つとは思いませんでしたよ。もう一つ目が、追加機能のコピーですね……ぶっちゃけ、偽装がおまけレベルで強いじゃないですか……JOKER……!」

 

「今、Qの追加機能は『生存者数の表示』だけだけど。他の番号に偽装すれば、そのPDAナンバーにダウンロードされている追加ソフトウェアを全部把握する事ができるし、全部使う事ができる……そう言いたいのね」

 

「ですね……このゲーム、隠し要素多すぎる! もっと早く気付いていれば……姫萩先輩だって……なんとか……!」

 

「川瀬君……悔やんでも仕方ないわ……大切なのは、今気付いてJOKERどう有効利用するかということ。違う?」

 

「仰るとおり……です」

 

 

 なんか、姫萩先輩が追加ソフトウェアを見つけた時も似たような事をしたような……と既視感を覚えつつ考える。どのPDAナンバーに有用な追加ソフトウェアが入っているか。今、武器が手に入った以上次に欲しい物は決まっているようなものだ。

 

 

「今からどの番号に偽装するか考えます。思うに、郷田社長……あと、矢幡さんと組んでた男性のどっちかが他の参加者の場所を表示するレーダーのような追加ソフトウェアを導入していると睨んでます」

 

「総一が近くにいると分かって、助けを呼んだ郷田さん。待ち伏せをしていた矢幡さんともう一人、ってことね。それなら、番号は判明してない『5』『6』『8』……『8』以外、危険はなさそうなPDAなのに」

 

「……無難に考えれば『5』の【24ヶ所のチェックポイントの通過】が郷田社長だと思います。単独行動向けというか、『6』と『8』の【PDAの5個破壊】と【JOKERの偽装機能を5回使用】が組んだと考えるのが自然ですので。ただ、そういう目で見ると……郷田社長も誘拐犯側に近い人間なんでしょうね。それ以外に襲われた理由が説明つかないですし、殺すというより盤面を乱しているという印象が強いですから」

 

 

 郷田社長のムーブを振り返ると、最初は良識的に動く、戦闘禁止解除後に問答無用に襲撃する、そこから先は推測だが御剣先輩がその時点で死んでいなかった以上偽情報などを渡してコントロールしたと考えるのが妥当なところだ。

 もしも、9番の【全員殺し】の解除条件の持ち主が判明してなければ、9番を疑っていた。

 あるいは金目当てでも首輪を解除してから殺し合いを始めるとか幾らでもやりようがある筈なのだ。

 

 ちなみに、綺堂渚が『J』の【24時間以上行動を共にしたプレイヤーの生存】である事を考えると、綺堂渚に課せられた本来の役割は首輪解除後に解除したパートナーを殺害する終盤の盛り上げ役。郷田真弓の役割が、序盤の火付け役と全体の調整……ってところか。……流石に3人も主催者側の人間居ないよな???

 疑心暗鬼になりすぎても仕方ないが、過去の解除条件の難易度と危険度が反比例しているという仮説は大体当たってて哀しいところである。

 そんな風に思考を迷走させていると、桜姫先輩が意見を出してきた。

 

 

「じゃあ、『5』に偽装する?」

 

「ところが、姫萩先輩は『5』で結構な時間PDAを操作してたみたいなんですが、地図にチェックポイントが表示されていた以外で、追加機能に気付いていなかったみたいなので……何かしらの特権は表示されないのでは?」

 

「え…………なんか、すごく……ずるい……わね」

 

「対等な殺し合いじゃないですからね、仕方ないですね。ということで、『6』か『8』のどちらかが良いと思います」

 

「その2つなら、私は『8』にダウンロードする……と思うわ」

 

「その心は?」

 

「単純に『6』の解除が終わった後に、『8』の解除条件【PDAを5個破壊する】のに『6』を破壊したいから。その時に便利な機能が無くなるのは怖いから……かな」

 

「なるほど、合理的意見だと思います。それに賛成です、8番に偽装しましょう」

 

 

 この2択まで絞れてしまえば後は悩む時間が勿体ないレベルなので、さくさくと桜姫先輩に見せながらJOKERを操作しPDA『8』番に偽装する。ルールは3と4……ルール交換時に矢幡麗華言っていた番号と一致する。矢幡さんの解除条件は『8』番確定だ。

 そしてビンゴだ。……追加機能を発見する。

 

 

「……【tool:collar search】って書いてますね。この場合、綴りは似てますが色ではなくて」

 

「首輪って意味よね……つまり、首輪の位置が分かる?」

 

「動かしてみます……おう、バッテリーが減りましたね。数%位? 多用はできなさそうです……使用するとその時点での全ての首輪の位置が分かるタイプみたいです」

 

「……! つまり、総一の位置も分かる!?」

 

「首輪の持ち主までは分かりませんが、推理すれば、多分?」

 

「見せて見せて!」

 

「一緒に見ていきましょう」

 

 

 段ボールの上にPDAを置いて1つずつ情報を付き合わせる。

 まず、自分達の居る場所に2つ。1Fだと姫萩先輩が亡くなった場所に3つ、その近くに位置に1つ。1~2階の階段付近の2階に二人組が1つ、少し離れて首輪が1つ。2Fで自分が落ちた落とし穴付近に1つ、2~3階の階段付近の3階側に1つ。

 反応は11個である事を考えると、作動してしまった首輪は映らないものだと考えられる。

 

 

「……よし! とあんまり喜んでいられませんが、矢幡さんともう一人の男の間で裏切りが発生したみたいです。長沢と北条さんの間に裏切りは発生していません、あと御剣先輩も無事だと考えられます!」

 

「確かに複雑だけど、それだけは良かったわね……うん。2階の二人組が、長沢君と北条さん。1階の1つが手塚さん、確定してるのはそれだけよね」

 

「あの二人が分断されたりしてなければそうかと……。ここで気になってくるのは、御剣先輩が初回限定特典で何を得たか……ですね。俺の場合はピンチの仲間――桜姫先輩との合流でしたが」

 

「総一なら……私に会う事を望むはずだわ、でもスミスがそれを簡単に認めるはずがない」

 

「似てるから【間違えちゃった☆】って姫萩先輩の位置に誘導した可能性は十分にあ

りますね」

 

「凄く怒りが湧いてくるけど……やりかねない、わね」

 

 

 あとは1~2階の近くに仲間である3人が全員集合しているという楽観視はできないというのがある。無駄に場合分けをしすぎても頭がこんがらがるので、絞って考えると、1Fに手塚と御剣先輩……2階に長沢と北条さん。そして、1階と2階にそれぞれ郷田社長と綺堂渚がいると思われる。

 ……各個撃破のチャンスと言えば、チャンス……だが。

 

 

「ちょっと時間はかかりますが、姫萩先輩の場所に戻って御剣先輩に合流……トンボ返しで急いで2Fに向かうというプランで行きましょうか?」

 

「それだと、長沢君と北条さんを危険に晒してしまうわ。私が1Fに行くから、川瀬君は2Fのグループをお願い」

 

「流石に、危険じゃないですか? いえ、ハッキリ言えば桜姫先輩が心配です」

 

 

 しかし、俺の意見は桜姫先輩に却下されてしまった。

 どちらかを優先するのではなく、どちらも優先する。そのシンプルな答えを、俺が考えなかった訳では無い。ただ、姫萩先輩の死のトラウマが……という言い訳は止めよう、言葉通り桜姫先輩が手の届かないところでリスクに晒されるのが怖い。

 先ほどの本音トークで桜姫先輩に感化されすぎてしまったようだ。

 

 だが、そんな弱音に近い心情を抱いている俺に対して、桜姫先輩は厳しい表情で訴える。

 

 

「良い? 川瀬君、私たちは今までスミスと誘拐犯の良いように操られていた。でも、このタイミングで首輪探知機能を手に入れて全員の場所を知る事になったのは誘拐犯達にとっても想定外なのよ……ここで時間をかければ、対処されてしまう。だから、今此処で、すぐに動いて……黒幕の想定を超えなければいけないのよ!」

 

「……ぅ、それは……そうなんですが……」

 

「それに、総一が居れば大丈夫よ。私と総一が揃えば、できない事は無いんだから」

 

「嫉妬心と同時に同情心が湧くような奇妙な気持ちになりましたが、そういうものなんでしょうね……」

 

 

 反論する言葉を探そうとするが、何もかもが正しい意見だ。

 これは、主催者も想定していないであろう降って湧いた機会、俺達二人の命を両方危険に晒す行為ではあるものの、不利な盤面を一気にひっくり返せるような……そんな逆転のチャンスだ。

 自分の命だけなら容赦無く掛け金として乗せる事ができるだろう。

 桜姫先輩を仲間として信用している。先程言った、7~8割の信用という言葉は撤回してもいい。

 ……だが、あえてこの感情に名前をつけるなら恐怖だろうか。

 

 全てを見抜いてるかのような目で、桜姫先輩が語りかけてくる。

 

 

「男ならちゃんとしなさい! 一人で皆を助ける事はできないけど、二人ならカバーし合う事ができる。ましてや、もっと居るのよ! 長沢君と北条さん……そして総一がね」

 

「桜姫先輩……ならば、自分の命を大事にしてください。貴方が生きて帰れば、それだけで一人の人間を救ったということです」

 

「えぇ、皆で絶対に生きて帰りましょう!」

 

 

 結局は折れる羽目になった俺は、自分の命を大切にできないものに人命救助する資格が無い原則を持ち出す事しかできなかった。とはいえ、桜姫先輩の言うことはどこまでも正しい……なにせ、俺達は何も取りこぼさずにゲームをクリアする事を既に選んでいるのだ。ここで今更躊躇する俺が間違っている。

 桜姫先輩の真摯な目で見つめられて、敵わないと思う一方で、こういう人だから信用できるんだろうなという気持ちもある。……不意に胸に悔しさが湧き上がる。何に悔しさを覚えているのか分からない。彼女の強さはひたすらに眩しく、俺には刺激が強すぎるのかもしれない。

 だけど、この言葉は言わなければいけない気がしたので自然と口から発せられた。

 

 

「貴方にとっては二番目かもしれませんが、このゲームで最初に会ったのが桜姫先輩で良かったです」

 

「馬鹿! そういうのはゲームが終わってから言いなさいよ!」

 

「今言わないと御剣先輩に殴られるじゃないですか!」

 

「総一はむしろそれくらいやれた方が私は安心なんだけどね……」

 

 

 桜姫先輩についていける平和主義者ってだけで御剣先輩は相当な大人物ではないのだろうか? 俺は訝しんだ。

 ……さて、名残惜しいが、時間を浪費するわけにはいかない。

 急いでスタングレネードと催涙ガスグレネードを折半し、分配する。また近接武器の配分としては、俺が木刀で桜姫先輩に特殊警棒を渡しておく。

 

 

「おっと、桜姫先輩。JOKERと『9』のPDAを交換しましょう」

 

「北条さんの解除条件、ね。分かったわ」

 

「1時間経過後に『10』に偽装してください、手塚と混線する可能性もありますが、それで通話できるようになるはずです。勿論、手塚を通じて会話できるならそれでも構わないです……ただ、あんまり手塚に油断しないように、細かい部分は任せますが」

 

「そうね。川瀬君こそ、首輪探知を失う分、二人を見失わないようにね」

 

「そこはなんとか食らいついてやりますよ、選んだ以上……あとはお互いにご武運を」

 

「心配する必要は無いわ。私たちは死なないためではなく……生きる為に戦うんだから」

 

「やっぱり……敵わないですね」

 

 

 桜姫先輩に、心の底からの感嘆の言葉を漏らしつつ、別れを告げる。

 次に会えるかはもう分からない。どちらかが死んでいるかも知れない。

 不安もある、躊躇いもある。だけど、桜姫先輩を……いや長沢も、北条さんも、姫萩先輩も……俺はもう誰も裏切れない。だから選択肢は1つだけ。

 

 

 そして、1つの想いが俺の中にある事を自覚した。

 

 ――桜姫先輩に勝ちたい。

 

 どうしてこんな想いが出てきたのか分からない。今まで俺はライバルと思える人物が居なかったし、同類だと思えた人物にも会った事がない。全てにおいて未知で新鮮な相手だからかもしれない。この殺し合いゲームが始まってから、知らない感情が暴れすぎて情緒が壊れそうだ。

 ……だが、不思議と悪い気はしない。

 

 

 その為に、エクストラゲームに頼らずにこのゲームをクリアする方法を編みだす事が必要になる。

 難しい宿題になりそうだ。

 

ひたすら2階の階段へと駆けている俺は静かに……しかし、強く強く決意した。

 

 

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