秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

18 / 61
プレイヤー:カード:オッズ:解除条件
御剣総一 :A:5.2:Qの殺害
葉月克己 :2:DEAD:ジョーカーの破壊
川瀬進矢 :3:6.0:3人の殺害
長沢勇治 :4:6.2:首輪を3つ収集する
郷田真弓 :5:5.4:24ヶ所のチェックポイントの通過
???  :6:3.2:ジョーカーの偽装機能を5回以上使用
漆山権造 :7:DEAD:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
矢幡麗華 :8:DEAD:PDAを5個破壊する
桜姫優希 :9:9.9:自分以外の生存者数が1名以下
手塚義光 :10:4.7 :2日と23時以前に首輪が5個作動している。
綺堂渚  :J:??:24時間行動を共にしたプレイヤーが生存
姫萩咲美 :Q:DEAD :2日と23時間の生存
北条かりん :K:2.0 :PDAを5個以上収集


第十五話 分かり合えぬ者達

 

 

 

 

――――――――――――

私は死を恐れない。人生とは命を懸けたゲームなのだから。

ジャン・ジロドゥ (フランスの外交官、劇作家、小説家)

――――――――――――

 

 

 

 

 

――ピロリンピロリンピロリン

 

【生存者数 8名】

 

 無機質にPDAが振動する。

 生存者数が9人から8人に変わった。無意識に【Q】のPDAを握る力が強くなる。……下で誰かが死んだか、もう驚く気はない。候補は桜姫先輩、御剣先輩、手塚、綺堂渚の内誰かだ。

 俺も一歩間違えれば、ここに表示されている人数は7人になっていたかもしれないし、覚悟はしていた。誰が死んだかは、ちょっと精神衛生上限界なので考えないが。

 

 予め、【Q】のPDAにインストールしたトランシーバー機能で手塚へ手短に『近くに2人居る、片方は御剣先輩で絶対に手を出すな』と『桜姫先輩が武器を持って救援に行く事』の2点を一方的に伝えている。走ってる間は応答する余裕は無かったし、今は向こうに応答する余裕が無さそうだ。戦闘中にいきなり連絡を受けても困るだろうから、一旦、桜姫先輩がJOKERで【10】に偽装可能になるであろう時間まで待つしかない。

 

「また……誰か、死んだの?」

 

「みたいだ。実は1Fで人が集まってる場所があってな、多分そこで誰かが死んだんだと思う」

 

 不安そうに涙目状態の北条さんが、至近距離で上目遣いでのぞき込んでくるので恐る恐る頭を撫でつつ説明する。ちょっと端的過ぎる説明の為、周囲を警戒していた長沢が疑問の声を挙げた。 

 

「ど、どうして分かるんだよ? 川瀬お兄ちゃん」

 

「追加ソフトウェアに首輪の位置が分かる奴があって、同時に二箇所で戦闘が発生してそうなので桜姫先輩と二手に分かれて助けに来たんだよ」

 

「助けに……来た?」

 

 当然の長沢の疑問、助けに来た筈だったんだよ長沢。どうしてこうなっちゃったんだろうか、羞恥心が心の中に湧き上がる。思考を巡らせるが、もう自棄になった俺は男前に認める事にした。

 

「い、言いたい事は分かる! 言いたい事は分かる! 正直、自分の剣道経験を過信していた! 言い訳の余地はなく、郷田に不意打ち成功したまでは良かったんだが、その後普通に戦って負けました!」

 

「どっちが助けたか分かんねぇなこれ」

 

「そ、それだけ強い人だったんだよね? 誘拐犯側の人間なんだし……」

 

「地味にフォローが痛い! 真面目な所感を言うなら、初見の対戦型アクションゲームで熟練者相手にする程度にキツかった」

 

「……あー、流石にキツいな」

 

「ほとんどやった事ないけど、上手い人は上手いもんね」

 

「……川瀬進矢に同じ技は二度通用しないから、たぶん、きっと」

 

 

 同情してくれるのはありがたいが、敗北の所為で心が痛い。

 年長者としての威厳が崩れ落ちていく音を感じつつ、せめてもの強がりを言うのが精一杯だった。まぁ、俺のプライドが傷つくことで、死者が出た動揺が二人から薄れてくれるならまだ良いか。

 なんて考えたのが悪かったのか、俺のフォローをしていた北条さんの目が厳しくなる。

 

 

「でも、川瀬さんの負けた後の対応が最悪すぎるよ! 俺に構わず撃てって何なのさ! 本当に怖かったんだから!」

 

「確かに、命の1:1交換とか、カードゲームか何かのやり過ぎじゃないかって気がするな。現実にリセットボタンはないし、命は残機制でもないんだよ川瀬お兄ちゃん」

 

「なんだろう、一番言われたくない人に言われてるような」

 

「兄ちゃん! 僕は真面目に言って――」

 

「分かってる、分かってるから」

 

 

 二人の攻勢に思わずタジタジになりつつ、流石に自省モードになる。これがつい先程、人に『自分の命を大切にしてください』と言った人間の姿である。

 怖いのは確かなんだけど、このゲームに参加してからの経験が俺を変えてしまったんだろう。すなわち、【仲間の死を看取るよりは自分が死んだ方がマシ】という狂気にも似た思いがある。

 

 本音を言ったら絶対怒られる奴だ。

 

――ピロリンピロリンピロリン

 

 そして、その自覚を強めるようにPDAが再び鳴った。

 嫌に自分の心音を強く感じ、動悸が早くなる。

 俺達の選択を嘲笑うかのようにPDAの画面表示が変わっていた。

 

【生存者数 7名】

 

 

「俺はさ……自分以上に仲間に死んで欲しくないんだよ。桜姫先輩も、北条さんも、長沢も……あと、ついでに御剣先輩も」

 

 

 もうその内の二人は死んでいるかもしれない。という衝動を抑え込みながら、噛みしめるように呟く。先程、桜姫先輩に言った【7~8割の信頼】とは究極的に裏切られても自分が傷つかない為の予防線であり、喪ったとしても冷静さを保っていられるラインなのだ。日常では上手くこの距離感を操れていた筈なのだが、このゲームの中でうっかりと自らに課した枷を踏み越えてしまったのが俺の失敗だと言える。

 

 

「ふ、ふざけないで! それで残された人がどう思うか……どれだけ傷つくか分かってるの!? 川瀬さんだって家族が居るんでしょう!?」

 

「流石に、北条さん程には分かってないと思うけど……十分分かってるつもりだよ、分かってるからこう言うんだよ。家族には申し訳ないけど、さ」

 

「分かってない! 分かってないよ! お父さんとお母さんが死んだ時、私がどれだけ悲しんだか! 全然、川瀬さんは分かってない! 私だって長沢だって、はぐれた後は川瀬さんの事を凄く心配してたし、エクストラゲームで生存者が減った時は凄く怖かった! 死んだんじゃないかって、胸が張り裂けそうだった!」

 

 

 泣きはらした目で、北条さんは自分でも何言ってるか分からないかもしれないスピードで俺に詰めかける。ここまで強く哀しい主張は、人生の中で初めて見たかもしれない。彼女は良くも悪くも真っ直ぐだ、それだけ両親に愛されて育った――なんて思考が過ぎり、ゲームに対する嫌悪感が胸を満たす。

 ……あぁ、糞。

 そうだよ。これなんだよ。

 自分が何故、このゲームに参加してこうなってしまったのかを理解した。

 姫萩先輩の死だけではない、悪循環だ。北条さんが、俺の自己犠牲を否定すればするほど、だから死なせたくないという思いが強くなる。

 だからすれ違ってしまう、どうしようもなく平行線を辿る。

 ――だってそうだろう? 北条さんは、親の死の真実を知って、敵討ちではなく当時の哀しみを繰り返さないように動ける人間なのだから……

 

 

「まず2点。俺は死ぬつもりはないし、死にたくもない。ただ、どっちかを選べと言われたら迷わないってだけ。その点に関しては北条さんは、俺よりも分かってる筈だよ」

 

「それは……そうだけど……でも……」

 

「そして、俺には家に帰ったとしても、ここまで俺のために怒ってくれる人間はいない。俺の事を理解してくれる人もいないし、俺と通じ合って一緒に楽しめる人間もいない。楽しく恋バナした人間もな。俺の家族は、みんな良くも悪くも自立してるから大丈夫」

 

 

 喋りながらこのゲームで会った人間を思い出していく。

 出会う人間に恵まれなければこうはならなかった、そして恵まれてしまったが故にこうなってしまった。俺は誰に対しても、死んで欲しくないと思うわけじゃ無い。あくまで自分が【尊敬】している人間が死んで欲しくないし、悲しんで欲しくないだけだからだ。

 だが、どう言っても北条さんは納得しないだろう。

 泣きはらした目に哀しみを溢れさせ、反対の言葉を絞り出していく。

 

 

「川瀬さん……あたしたちはチームだったんじゃなかったの? 私に賞金を分けるっていう約束だったじゃない……それは嘘だったの……?」

 

「今の生存者数は7人、俺が死んだら6人。1人当りの賞金額は3億3333万、予定通り長沢から5000万融通して貰えば届く。妹さんを救うのに何も問題はないんだよ」

 

「ちがう! そういうことを聞きたいんじゃない! 川瀬進矢……自分の命を駒みたいに考えて、アンタは歪んでる!」

 

 

 北条さんの激昂を真っ正面から受け止める。

 こういうのは俺のとても苦手なところだが、それでも目を逸らすことは出来なかった。そして否定することもできなかった。

 理屈では勝てないからこそ、北条さんの感情は暴走している、と思う。そして、それを嬉しく思う俺はどうしようもなく――歪んでいるのだ。

 

 

「人の心がないとか冷たいとかよく言われてるけど、歪んでるは初めてだなぁ……でも、その通り、俺は歪んでいる。ゲーム参加する前も、そして今も……俺は自分の命を大切にしていない。だから、『命』を大事に思ってる北条さんとは決してわかり合えないと思う」

 

「分からない、分からないよ……どうしてそんな風に考えられるの?」

 

「前提が違い過ぎるんだよ、ここに来る前の俺は何もかもが退屈だった。つまらなかった。生きているという実感を得られるのが、死が近しい時だけ。危ない事にも何度か突っ込み、一時的な満足を得て、それだけだった」

 

 

ゲームに参加する前の俺は、よく言えば要領の良い人間だった。だから、つまらなくて代償行為に勤しんでいた。その中には人に迷惑をかけない程度に危険な行為も含まれている。何故なら危険こそが【生】を感じる手っ取り早い行動だからだ。

 一方で、このゲームに参加してからの俺はどうか? 今までの灰色だった景色が色鮮やかになるかのように気持ちが高ぶっていた。そして、過去に封印していた想いを取り戻した。だが、根本は変わっていないんだろう。

 それを分かってくれそうなのは、幸か不幸かこの場所にいる。

 

 

「その気持ちはちょっと分かるな。危ない事に突っ込んだ事はないけど……流石、お兄ちゃん、とも言いにくいけど、さ」

 

「今は違うよ、やりたい事がある。将来の夢もできた。人に離別の痛みを味合わせる訳にもいかない。自分がやられて嫌な事を人にはしないっていうのは、道徳の基本だからな」

 

「頼むよ、川瀬さん……あたしにとっては、このメンバーの誰が死んだとしても、負けなんだよ」

 

 

 もし、涙が涸れてなければまた泣きだしていたかもしれない。そんな悲痛な声で北条さんは言う。思えば、俺は彼女を泣かしてばかりだ。

 女の子を泣かせる経験なんて、幼少期を除けばほぼゼロなのに……このゲームに参加してから解除した実績が多すぎる。

 あぁ、弟ともうちょっと喧嘩しておけば良かった。と、ふと家族の事を思い出す。……喧嘩してれば、治め方も理解出来ていたかもしれなかった。

 ついでに兄の事を思い出し、家族の力を借りる事に決めた。

 

 

「俺は、そんな北条さんを尊敬するよ。妹のために一生懸命なところも、真っ直ぐな所も、命を大事に思っているところも……まぁ、北条さんの事を全然知らないんだけど」

 

「きゅ、急に何を言ってるのさ! 卑怯だよ! そういうこと言うの!」

 

「『人は分かり合えない』『尊敬し、認め合うことはできる』『人の悪いところを探すな、良いところを探せ』『相手を否定するな』『見返りを求めるな』……他にも色々あるけど、我が家のベテランゲーマーである兄貴の教えだ」

 

「そのお兄さんの言ってる事は分かるし、良い事だと思うけど……ちょっと、他人を突き放してるような気もする……」

 

「そう? 僕――いや、俺は分かるなぁ。なんか、川瀬お兄ちゃんと話してるときは手塚や他の連中のような嫌味っぽさが無かったし」

 

 

 俺にとっての暗黒の小学生低学年時代に兄貴から伝授を受けて、辛うじて文化的最低限のコミュニケーションを取れるようになった偉大な教えだ。他のコミュニケーション方法を殆ど知らないというのもあるが。

 元々、コミュニケーションに困ってない北条さんのような人間には突き放してるように見えるかもしれない。

 北条さんはね……パーソナルスペースが狭すぎるんだ。悪い事ではないし、むしろ羨ましくもあるけど……パーソナルスペースが広い俺としては緊張してしまう。特に異性に対しては。

 ――という事で、微妙に気まずい空気から俺は逃げる! 長沢の方向に!

 

 

「ちなみに、俺は要所要所で俺が見えてない視点で物事を見てくれる点、土壇場で俺の振った無茶ぶりをこなしてくれる点――最後に、俺が万が一北条さんに危害を加えても守れるようにちゃんと警戒していた点で、長沢のことを尊敬している」

 

「流れ弾じゃねーか!? ていうか、バレてるのかよ!? 確かに警戒してたけど、僕自身のためだよ!? 北条の為なんかじゃねーし!?」

 

「はいはい、ツンデレツンデレ」

 

「て、おい! 抱きつくなよ!? 頭撫でるな!? 子供扱いするなぁ!?」

 

 

 俺の腕の中でじたばたする長沢だが本気で逃れようとはしてないのが分かる。

 仕方ない、一回北条さんに抱きつかれて泣かれてるから、バランスを取るため(?)に俺は長沢に抱きつかなければならなかったのだ。北条さんに先手を取られてしまったが、相手を抱きしめたい位心配だったのはぶっちゃけ俺も一緒だったし……正直すまん。

 でも、ウチの可愛げのない弟と同い年だし、可愛く思うのは仕方ないね!

 

 ひとしきり満足したところで、俺は二人に向き直った。

 2人共ベクトルは違えど顔を赤くして、不満そうにしている。

 空気を変えよう。

 鞄からPDAを1つずつ取り出し、床に置いていく。

 

 

「まぁ、こんなしっとりした話ばかりするのも何だ。大事な事もある、北条さん。首輪を解除するぞ」

 

「え!? ど、どういうこと?」

 

「俺の『3』、長沢の『4』、最初の犠牲者の『7』、桜姫先輩の『9』、姫萩先輩の『Q』。ジャスト5個だ」

 

「はやっ……早いよ川瀬お兄ちゃん! どうやって手に入れたんだよ!」

 

 驚愕の表情を浮かべる二人。その顔が見たかった。

 『PDA5個以上の収集』……大変だったな。元々のPDAの持ち主に思いを馳せると、心がギュっと締め付けられる痛みに苛まれる。

 その思いを隠すように、慎重に言葉を選ぶ。

 

「ちょっと状況が複雑なんで、1から説明した方が良いな……ちなみに桜姫先輩の『9』は見つけたJOKERと交換で借りたものだ。俺の言質で良ければ、ここにJOKERはない。まぁ、不安ならもう一個PDAを見つけるまで解除は待てば良い。信頼とは関係無く、リスク管理上当然の事だろうし」

 

「やっぱり、川瀬さんは歪んでるよ」

 

 

 ……北条さんが膨れながら呟いた。

 俺が何か間違えた事言っただろうか?

 表情の変化から推測するに、考えられるのは、リスク管理の部分だろうか……そこが怒るポイントなのか俺はよく分からないが。

 

 

「………誰もが、北条さんのように真っ直ぐは生きられないよ」

 

「そういう事じゃない! 長沢、PDAを出して」

 

「え……あ、あぁ」

 

 

 真剣な表情に、長沢は抵抗せずにPDAを置く。そして、床には5つのPDAが揃った。

 北条さんはPDAを手に取り、辿々しい手つきでそれでも躊躇はなく凄い勢いでPDAの端子を1つずつ首輪の接続口に繋いでいく。首輪の収集とは、具体的には異なるPDAを差し込んでいくという意味らしい、ルールに書いてないので、少々びっくりしたが。

 何かこの工程に意味があるんだろうか? プログラムの処理上の問題? あるいは、実はここでJOKERを差し込んだらアウトなのかもしれない。JOKERの持ち合わせはないため、意味の無い想像だが。

 

――ピロロロ ピロロロ ピロロロ

 

聞いた事のない音声、そして緑の発光ダイオードが北条さんの首輪から発せられた。

 

『おめでとうございます!貴方は見事にPDAを5台収集し、首輪を外す為の条件を満たしました!』

 

――カシャン

 

 無感動で機械的な電子音と共に北条さんの首輪がアッサリと端子の部分から2つに分かれて外れるのだった。

 

 

「ほら、大丈夫だった」

 

 

 そして、北条さんは自信満々に清々しい笑顔で言ってのける。

 ちょっと急展開過ぎてついていかなかった、可愛いけど落ち着いて欲しい。注意を述べようと口を開く。

 

 

「あのな、早く首輪を外したいのは分かるが、もう少し――」

 

「全然! 分かってない!!!」

 

「……北条さん?」

 

 

 笑顔を一瞬にして怒りの表情に豹変させる北条さん。

 何かを間違えてしまったようだ。だが、何を間違えたのか分からない。

 

 

「あたしが言いたいのは! それだけ、川瀬さんの事信じてるってこと!」

 

 

 心をナイフで刺されたかのような痛みを受け。同時に嬉しくもある。

 ハリネズミのジレンマという言葉がある。要約すると、生きるのに1人では寒すぎる。だが、近づき過ぎると針が刺さって痛い。

 例えるなら、今の俺の状態はそれに等しい。

 

 そして、北条さんは全く攻撃の手を緩めてくれないようだ。

 

 

「もう1つ! 誰も死んで欲しくないのは分かった、分かったけど……それなら、一人で抱え込むのは止めて! あたし達はチームなんだよ!? 【皆で生きて帰ること】を目標に入れて!」

 

「あぁ、そっか。それを入れてなかったって事は――川瀬お兄ちゃん……最初から、一人で無茶するつもりだったのか」

 

 

 北条さんの凄い剣幕から繰り出される言葉と、それに納得したように話す長沢。……深い意図は無かったんだが、基本的にリスクのある行動を取るなら自分でやる気持ちではあった。

 この考え方、もしかして傲慢で2人を侮辱しているのだろうか? それでも、俺は言わずにはいられない。

 

 

「……あくまで相互に互いの目標を尊重する為のチームだ。人の為に命を賭けろなんて、流石に言えなかっただけだ。自分の命ならまだしも、他人の命に責任は取れないよ」

 

「だから、一人で抱え込むのは止めて! あたしもそうだった。かれんも、一人でなんとかしなきゃ……ってずっと思ってたから、誰も信頼できなかった。このゲームに参加しても、他の人を殺して5人以下にしないといけないって考えて、他の事なんて考えられなかった!」

 

 

 必死な形相で、北条さんは自らの罪の告白する。

 そう考えていたのかもしれない、とは思っていたが自分で言うとは思わなかった。だが、北条さんがここまで言うって事は……北条さんから見て、俺は最初に会ったときの北条さんのような状態にまで追い詰められているように見えるのだろうか?

 いや、追い詰められているのは事実だ。助けを求めるという発想がないのも、北条さんと同じ。それでも、少し事情が異なると思うけれど。

 

 

「……確かにそうだが、これは俺の個人的事情だ。そして、北条さんの至上目標はあくまで、【妹の治療】のはず。まだ、1Fが進入禁止になるまで時間はあるけど、時間になったら1Fに降りるべきだよ………北条さんの言葉は本当に嬉しいけど、一時の感情に流されるべきじゃない」

 

「分かった、全部分かった。でも、川瀬さんは1つ勘違いしているよ。あたしは、妹の治療に3億8000万円必要だと確かに言った。だけど、あたしは医療に詳しくないし、ましてや英語なんて全然喋れない。どこかで詐欺に遭うかも知れないし、藪医者を掴まされるかもしれない。だから、あたしは――一人じゃかれんを救えない! 川瀬さんに生きて帰って貰わないと困るんだよ!」

 

「……ゲームが終わってからも、他力本願宣言きたなこれ」

 

 

 これで証明終了だ!

 と言わんばかりの剣幕で北条さんは俺に言葉を叩きつける。

 

 俺は頭を抱えた。

 一見情けない発言のように見えなくも無いが、俺が自分本位で皆を助けようとするなら、自分だって自分本位でお前を助ける! という主張は、筋が通っているのかもしれない。自分がやりたいからやるという主張になれば、もう考え直させる論理がない。

 

 北条さんの言葉への反論を考える。

 授業レベルの英語なら悪くないが、英会話に通じるかと言われれば微妙だ。医学知識に関しては軽い応急手当や趣味で覚えた検死知識、あとはミステリーに良く出てくる薬品レベルしか分からない。あと、社会で習った『セカンドオピニオン』とか『インフォームドコンセント』とか、そういう制度があるって名前だけ知っているというレベル。だが、そんな言い訳が今の彼女に通じるとは思えない。

 

 最後に彼女を止める方法……1つだけ浮かんだが、これ言わないといけないのか? 止めるというか、彼女の覚悟を問う意味以上の何者でも無い気はする。

 

 

「……最後の最後で、命惜しさに2人を殺そうとするかもしれないぞ。俺が1人も殺してないと言って、お前達は信じられるのか?」

 

「殺したいなら殺せば良いよ」

 

「どうして、そう言い切れる!? 北条さんには生き残らない理由があるはずだろう!?」

 

「うん、そう。あたしはかれんの為に生きないといけない。だけど、今まで周りの大人達は可哀想だとか適当な同情だけして、誰も助けてくれなかった。それでも、このゲームで私を諭してボロボロになってPDAを集めて助けてくれた人が、全部嘘だったというのなら……この世にかれんを残してはいけないよ」

 

「そこまで言われるのは、過分な評価というかなんというか……」

 

「それに、何度も言ってるけどあたしは川瀬さんを信じてる。信じてるから、何があっても『信じろ』って言えば良いの! それだけで十分だから!」

 

「……ハァ、もう俺の負けでいいよ」

 

 

 北条さんの純粋な真っ直ぐな目に見つめられ、もう勝ち目がない事を知る。

 自分よりも2歳年下の筈の女の子にここまでやり込められるとは、このゲームが始まった時には想像すらしていなかった。

 このゲームに参加してる女性は、戦闘力か精神力のどっちかが強い人しかいないようだ。勘弁してほしい。

 

 

「川瀬お兄ちゃん負けてやんの~。前にも言ったけど、勿論、俺も首輪が外れたとしても最後まで着いていくぜ」

 

「もうどうにでもなれだよ! 俺は警告したからな!?」

 

「うん、改めて仲良し3人組で、頑張っていこうよ!」

 

「素直に宜しくしたくない……」

 

 

 パッと明るくなった北条さん、そして周囲を警戒しながら沈静化まで見守っていた長沢の2人を見る。

 半ば自棄になって諦めてはいるが、素直に認めたくはない。

 ……どうしてこうなった。

 悩んでいる俺に対し、北条さんは何かを察したように言う。

 

 

「そっか、喧嘩した後は仲直りしなきゃだもんね。じゃあさ、下の名前で呼び合おうよ。仲直りの記念にさ」

 

「突然、何を言い出しやがりますかこの子は……」

 

 

 不肖、川瀬進矢。

 女友達と言える人間はおらず、ましては下の名前で呼び合うなんてはしたない……はしたない? 事は、全然経験がない。

 当たり前のようにこのような提案ができる北条さんは、陽の者。これは分かり合えない。長沢もきっとそう思――

 

 

「確かにそうだな。じゃあ、改めてかりん宜しく」

 

「うん、勇治宜しく!」

 

 

 長沢の裏切り者―――!

 そういえば、コイツ矢幡さんの事、普通に下の名前呼びしてたな! 

 気にしてるのは俺だけか!

 俺がナイーブなだけか!

 いや、落ち着け……相手は中学三年生。二歳年下だ、強く女子だと意識しなければいい。ビークール、ビークール。

 

 

「そういうことなら、仕方ない。えーと……かりん、さん」

 

「かりんで良いよ、あたしも進矢って呼んで良いかな?」

 

「よ、宜しいのでは無いでしょうか……かりん」

 

「敬語なんて、使わなくても良いのに」

 

「恥ずかしがってるな、これは」

 

 

 2人の言葉を受け、目を逸らす。

 北条さ――訂正、かりんの笑顔に結局断り切れず、下の名前呼びをしなければならなくなった俺である。

 命懸けのゲームの真っ最中に、どうしてこんなことになっているのか。こうなると分かってたから、わざわざ距離取っていたのに……うぅ。

 

 そして、目を逸らすというミスをしてしまった為、かりんが至近距離に来ている事に気付かなかった。

 

「その、進矢……さっきは、あたしを心配してくれてたのに、歪んでるとか言っちゃってごめんなさい」

 

「……!? あ、いやうん。別に気にしてないよ……事実の指摘オールオッケー。でも気にする人は気にするだろうから、気をつけて」

 

「さっき言った事は全部本音だよ。だけど、あたしは進矢の歪んでいる部分含めて尊敬しているし好きだよ。そこは……勘違いしないでね」

 

「勘違いしてないから大丈夫……。こっちこそ、ほう……かりんの気持ちを蔑ろにしたというか、覚悟を軽視していたというか……ごめん」

 

 

 ……至近距離で不意打ちのように、色々喋るのは止めてくれないか!

 女の子の甘い匂いを感じ、直視できなくなる。小悪魔だ。

 顔が火照ってるような気がするのは、今までの疲れと喧嘩による興奮によるものです。多分。

 

 とはいえ、これがかりんなりの誠意なのかもしれない。

 思えば不毛なやりとりをしてしまったものだ。

 だが、ここまで激しくお互い喧嘩? というか本音をぶつけ合ったのはうまれて初めてかも知れない。

 

 

 ……そろそろ現実を直視するしかないか。

 『Q』のPDAを取り出す。

 二人のプレイヤーの死、誰が死んだか観測する覚悟。

 俺と桜姫先輩が選び、そして取りこぼした結果を。

 

 

「一人で抱え込むのは駄目って、あたし言ったよね?」

 

「……ハイ」

 

「僕、離れといた方が良い?」

 

「此処に居ろ! 3人で情報共有するから!」

 

 

 少なくとも、ここにいる二人は取りこぼさなかった。いや、助けたと言えば非常に微妙な過程だったが、それでも生きている。

 ここから立ち向かっていこう……このゲームの理不尽へ。

 

 

 

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