秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

19 / 61
幕間4 手塚義光の華麗なる逆転劇

 

 

 

 

――――――――――

幸運の方程式を持っているというギャンブラーは、大なり小なりイカれている。

ジョージ・オーガスタス・サラ (英国のジャーナリスト)

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「つまり~、総一君はこのゲームに参加してる。恋人さんを探してるんだね~」

 

「え、えぇ……渚さんは、見かけませんでしたか?」

 

「あの女の子とそっくりな子なのよね~。ごめんなさい~」

 

「そうですか……」

 

 

 御剣総一が、初回限定特定で『Q』の解除条件の初期配布者の元に駆けつけた時、そこに居たのは通路の地面に座り込むゴスロリ姿の女性と、胸から大量の血を流して倒れている姫萩咲実の姿だった。

 一瞬、優希とあまりに似てるその姿に気が遠くなったが――ゴスロリ姿の女性――綺堂渚に慰められ、優希がまだ生きているかもしれないという希望から正気を取り戻す。

 

 それでも、咲美の死がショックである事に変わりはない。綺堂渚に話を聞いた所によると、彼女は総一の少し前に駆けつけ、治療しようと近づいてみたのだが、既に死亡していたらしい。彼女のゴスロリ服に血が付いているのはその為なのだろう。

 唯一の救いは、咲実の死に顔が穏やかだった事だ。この殺し合いで出会ってからずっと怯えてた咲実からは考えられない表情、彼女に何があったのかは分からない。それでも誰かに裏切られ、非業の死を遂げた訳ではなさそうなのが唯一の救いだった。本当に最悪の中の、一筋の光程度のものではあるが。

 

 そして、今……エクストラゲームで提示されたボーナスとやらを受け取る為に移動している。無論、そのボーナスが姫萩咲実の死と引き換えのものであるというのが、非常に辛いところなのだが。

 移動しながら、綺堂渚と情報交換しており、綺堂渚が解除条件『J』で『24時間以上行動を共にした人物が、2日と23時間生存している』が判明している。つまり、綺堂渚は『Q』の初期配布者ではなく、スミスの言葉を信じるのであれば姫萩咲美こそが『Q』の初期配布者だったという事になる。

 

(だったら、『JOKER』で偽装するのも仕方ないか……俺が『A』だもんな。)

 

 これで、『A』を配布された総一は『Qの所有者の殺害』による解除条件が達成不可になったのだが、総一に優希とそっくりな咲実を殺す事は元から出来なかっただろう。優希がゲームに参加していると分かった今なら尚更だ。だから、総一はその点に関しては惜しいとは思わなかった。最優先事項は、恋人である桜姫優希との合流に他ならない。

 そして、ボーナスで指示された部屋につくと、真新しい箱が置いてあった。その箱を開くと、思わずため息が出る。己の馬鹿さ加減に。

 

「……咲実さんが死んだっていうのに、どこかでまだ大丈夫だと思ってた自分が居たのかもしれないな」

 

「総一君? どうしたの~?」

 

「ボーナスは……銃、でした」

 

 映画やドラマなどでよく見る黒光りするソレを見た時から嫌な予感はしていた。しかし、持ってみるとそれはずっしりと重く否応なしに本物である事を実感させられる。持ち運びたくはないが、他の人間も持っている事を考えると持たない訳にもいかない。

 何より、これを見つける事で総一は一つの事実が分かってしまった。

 

(咲実さんの傷跡、あれは銃で撃たれた跡だったんじゃないか?)

 

 いざという時に撃てるかは分からない、だが優希を守れない事の方が余程辛い。だから総一は銃を握る決意を固めた。その様子を不安そうな表情で渚が見ている事に総一は気付き、脳内にスミスの声が反響する。

 

『君が、参加者の1人を殺した時点で、無条件で桜姫優希の現在位置を教えるよ! 時間は無制限だからね! これも初回限定特典の範疇だと思ってね!』

 

(……馬鹿な! 俺は何を考えているんだ!)

 

 頭を振る。今考えるべきことはそんなことじゃない。

 ここまで走りまわって捜索した以上、優希は既にこの階に居ないのではないか? と総一は考える。ならば目指すべきは上階だ。そして、総一は綺堂渚を見捨てて先に行くという事も出来ない。このゲームは魔境だ、彼女のような無害そうな女性が真っ先に狙われるのは想像に難くない……総一の恋人の優希のように、あるいは死んでしまった咲実のように。

 ……恐らくは、手塚のようなかつて総一を襲ってきた人物に殺されてしまうだろう。   

 だから、総一は渚に同行を提案し、渚はそれを快諾した。

 そして、進入禁止エリアの事もあるので一旦は2Fを目指す事を伝える。

 その前に、せめて咲実の遺体から彼女の身元が分かる物を回収しようと移動した時にそれは起こった。

 

『貴方は解除条件を満たす事ができませんでした』

 

 「え?」

 

 無機質な電子音……それは咲実が倒れていた筈の部屋から聞こえてくる。思わず駆け寄ると、そこには炎上するかつて咲実だったもの……そして、離れた位置でそれを見ていた手塚の姿があった。

 

 瞬間……総一の頭が沸騰したかのように怒りがこみ上げてくる。

 手塚のような人間がいるから、咲実は死んだ。手塚のような人間のせいで、優希が死ぬかもしれない。

 咲実の死は総一自身が考えてる以上に深く、総一の心に浸食し……結果、普段彼にできないであろう拳銃を手に取らせた。取らせてしまった。

 

「げっ……御剣……お前、まさか――!」

 

「そ、総一君……!?」

 

 それに気づく手塚、驚きの声を上げる渚……それが総一にとってやけに遠くに聞こえた。

 

―――パァン!

 

 銃声が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「川瀬よぉ……そういう大事な事は、もっと早く言えや!」

 

 どうしてこうなってしまったのか、手塚は走りながら一人愚痴る。姫萩咲美の死体を発見し、首輪を作動させたまでは良かった。だが、その行動を見咎められたのか、川瀬進矢そっくりの高校生――御剣総一に後ろから発砲されたのである。

 警戒を怠っていなかったのが幸いし、なんとか回避したがそのまま追われている。しかも、桜姫優希に裏切り者と聞いたゴスロリ女と組んでいるようだ。二人組に追われながら、PDAから、『近くに2人居る、片方は御剣先輩で絶対に手を出すな』『桜姫先輩が武器を持って救援に行く』と聞こえたが、もっと早く言って欲しかったというのが手塚の本音だ。

 

 尤も、先に御剣総一に一度襲いかかったのは自分自身なので、自業自得と言えば自業自得なのだが、それはそれこれはこれである。

 

「……ったくよ! こちとら誰も裏切ってない善良な一市民だっつーのに、向こうは裏切り者の拳銃持ちとかパワーバランスが酷すぎるぜ!」

 

 向こうがエクストラゲームのクリアで、武装面での優遇を受けている事に愚痴る。

 尤も、ボーナスこそはないもののエクストラゲームのお陰で死者が増え、『10』の解除条件である首輪の作動が満たしやすくなっている面を鑑みれば完全に手塚が不利な条件でもないが、生き延びなければ意味は無い。

 

「手塚! 撃ってしまったのは悪かった! 殺すつもりはない! ただ、これ以上誰も傷付けさせる訳にはいかない! 降伏してくれ!」

 

「やなこった!」

 

 先手で撃ってきた御剣総一を何歩譲ればを信じられるかは微妙だが、無量大数歩譲ったとしてもその横に居るゴスロリ女――綺堂渚を信じる事はできない。だから、手塚としての回答はNOのみである。

 面倒な事に最初に御剣総一と遭遇した時は、やや抜けてる印象を受けたが、当時同行していた姫萩咲美の死か……或いは恋人である桜姫優希の参加している事を知ってか、その両方により完全に余裕の無さそうな真剣な表情をしている。

 当時襲いかかった事を後悔するがもう遅い。何か鈍そうな二人組だから、行けそうだと思ってつい襲ってしまった。反省はしていない。

 そして、鈍い御剣総一はもういない。こういう人間とまともにやり合うわけにはいけない、手塚は本能的に察知していた。

 

 故に鉄パイプを捨ててでも全力で逃げる、逃げるは恥だが……死んでしまってはどうにもならないのだ。

 そして、手塚の苦労はなんとか功を結んだ。

 

「ハァハァ…………あとは勝利の女神様にお任せするとしますかね!」

 

 追ってくる二人とは別方向から聞こえてきた足音に向かって、手塚は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 桜姫優希はある程度『8』に偽装したJOKERからある程度事態を正確に把握していた。一つの首輪が二つの首輪に追われている、追いかけている側は分からないが追われている側は手塚義光である。彼が誰かと二人組を作る事はあり得ず、彼が逃げる事態になっているという事は襲われたからである。

 故に優希は、移動ルートをある程度見極める事で逃げる側と上手く合流できるように動いていた。そして、その目論見は成功し、逃亡している手塚義光と遭遇に成功した訳だ。

 

「手塚さん!」

 

「…………よし、ツキが回ってきた! お嬢ちゃんの恋人だろ! なんとかしてくれ! じゃあな!」

 

「え、えぇ!?」

 

 そして、手塚はそのまますれ違うようにして走り去ってしまった!

 優希は困惑するが、二人の足音を無視する訳にもいかない。念の為、ポケットに入れているエアガンを抜けるように警戒する。だが……気になるのは、手塚の呟いた言葉だ。桜姫優希の恋人……それが意味する言葉は…………。

 

「ゆ、優希!? 良かった! 無事だったんだな!?」

 

「……っ! 総一、その女から離れて!」

 

「え!?」

 

「遅いわ」

 

 総一と渚を確認すると素早く優希はポケットからエアガンを取り出して、渚の方へと向けた。だが、それよりも素早く、渚は総一が腰に差していた拳銃を抜き取り、総一の首に組み付いて銃を総一の脳天に向ける。総一としては、誰よりも大切な優希と出会って一瞬緩んでしまうタイミング……何も抵抗出来なかったのを責めるのは酷なタイミングである。

 時間はややズレるものの、奇しくも2階と似たような場景が繰り広げられていた。

 

「優希ちゃん、さっきぶりね~。玩具の銃で、本物の銃に勝てるか……試してみる?」

 

「うっ…………!」

 

「そんな、渚さん……貴方は一体!?」

 

 総一に銃を向けられ、優希は悲痛な顔で手を震えさせながら、それでも銃を下ろさない。そして、優希が人に銃を向けるような人間ではない事を誰よりも知っている総一は、混乱しつつも、雰囲気が変わった綺堂渚が全ての原因だという事を悟り、困惑の声を挙げる。

 それに、反応したのは優希だった。

 

「渚さん! もう止めて! 葉月さんだけじゃなくて、総一まで殺そうって言うの!? そんな事して、貴方は何がしたいの!?」

 

「ふふふ……私が優希ちゃんの愛しい総一君を殺す? それはちょっと違うわね。正確には優希ちゃん……貴方次第かしら~?」

 

「……どういう、こと……?」

 

 

 異常な状態に、目が笑っていない状態で穏やかな笑顔を浮かべる渚に、銃を構えながら困惑した表情で優希が返す。優希には渚は何を考えているか分からない、そして一歩間違えば総一が殺されるかもしれない……だから、必然返す言葉は慎重になる。

 

「そうだね~。私は~、優希ちゃんがどれだけ総一君の事を大事に思ってるか知りたいな~。世界で、一番大事?」

 

「……えぇ、世界で一番大事よ」

 

「じゃあ、こうしましょう」

 

 意図を問いかねている優希に対して、渚は、右手で総一に突きつけてる銃を優希に投げ。懐からもう一つ、拳銃を取り出し総一に改めて突きつけ直した。

 

「今から1時間以内に貴方が誰かを殺せば、私は総一君を無傷で解放する。出来なければ、此処で総一君を殺す。こういうゲームはどうかしら?」

 

「……んな!? 優希ッ! そんな話聞く必要は――!」

 

「成程、誰か……と言うのは、例えばの話――私自身でも良いということね」

 

「優希!?」

 

「……ふふっ、それは考えてなかったわね。でも、それも一つの選択かしら? 総一君? 優希ちゃんの解除条件知らないよね? 彼女の解除条件は9番なのよ」

 

 

 感心したようなそれでいて可笑しそうな声色で、渚は優希の秘密を総一に話す。

 総一が驚き絶望する反応を楽しむかのように。

 

 

「9番? ……ま、まさか……自分以外、全員の死亡…………最悪の解除条件じゃないか!?」

 

「その通りよ、総一。でも、貴方の【A】と変わらないわ。一人でも殺せないから、何人かなんて関係ない」

 

「それは……そうだが……だからって、自分を犠牲にしなくたって!」

 

「――総一」

 

 

 優希は覚悟を決めた目で、足下の銃を拾い自分の側頭部に銃口を突きつける。

 ……本当に死ぬ気は無い。一人で此処に来た時点で、皆で生き残る覚悟は決めている。

 

 

「私は総一を信じてる。だから、総一も私を信じて?」

 

「……っ!?」

 

 

 故に作戦はこうだ――自分を撃つと見せかけ、総一か渚の足を撃つ。

 渚に一瞬の隙ができる事を願い、同時に突進し、体当たりで渚と総一を引き離す。その後、なんとかして渚の銃を奪いとる。というのが一連のプランだ。

 場当たり的で、運任せな行動が多い為、撃たれるかもしれない総一の協力が不可欠となる。

 

(……川瀬君ならもう少し上手な方法を考えるかもしれないけど、これが私の精一杯。でも、銃の構え方は教えて貰ったし、あとは上手くやるしかない。総一を救う、渚さんを救う。全部やる! やってみせる!)

 

 心の覚悟を決め、優希は二人を見る。

 総一は自分の身が撃たれる事も厭わず、渚の拘束から逃れようとしている。

 それは渚への隙を生みだし、絶好のチャンスを生み出しているように思える。

 そして――その時が訪れた。

 

 

「優希! 止め――」

 

「お前達のショーは、つまんねぇんだよ」

 

「「………え!?」」

 

 

 桜姫優希、御剣総一……そして、綺堂渚、誰もが予想しなかった乱入者が登場する。

 桜姫優希の真後ろから一筋の水が噴射され、御剣総一……そして、綺堂渚に降りかかる。否、発射されたそれは水ではない。保健室や病院の臭いである消毒液の臭いが、通路に充満する。

 

 

「主演交代の時間だぜ? ガキ共」

 

 

 大きな水鉄砲を構え、鉄パイプを持ち不敵の笑みを浮かべた手塚義光が桜姫優希の後ろに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 手塚義光は桜姫優希を見捨ててそのまま逃げ出した。というのは半分正解だ。

 間違えになる半分の部分は、介入する意志があるにはあったという部分である。

 だから、尻尾を巻いて逃げた時、手塚は近くの部屋に転がり込み、何か打開できる道具が無いかを駄目元で探してみた。

 しかし、所詮は1階で見つかる道具だ。壊れた家具や、良くて鉄パイプ……拳銃に対抗しうる武器になるようなものは見つからない……その筈だった。

 ただし、その部屋は真新しい箱が一つだけあり、手塚はその箱を開けてみた。

 すると中には子供が使うような玩具の銃が沢山入っていたのだ。

 例えば祭りで射的に使うような銃、プールで子供が使うような水鉄砲、音だけ鳴る玩具の銃……つい先程、実銃に撃たれて一歩間違えば大怪我を負っていたであろう手塚に取っては酷いブラックジョークアイテムとしか思えない。

 

 よし! 無理! 諦めよう! あとは、桜姫の嬢ちゃん1人で頑張ってくれ!

 と心の中で別れを告げ、部屋を出ようとした手塚の頭に電撃が走る。

 そして手塚は自分の所持品の中から救急箱を取りだした、その中には消毒用エタノールが入っていた。

 

「ククク……これを、こうすれば……不運も、こうやって一捻りすれば転じて福となるってな」

 

 大きな水鉄砲を取り出し、その中に消毒用エタノールを入れる。リスクはあるが、これを使えば相手の銃を封じる事が出来るようになった。相手が馬鹿なら、そのまま自滅するかもしれない。もしも、自分が銃を持っていれば絶対に思いつかないであろう方法……相手だけが一方的に銃を持つ今だからこそ、選択肢となる禁じ手だ。

 

「あとは様子見、と行かせて貰いますかね。上手く行けば、これで俺の首輪は解除だが……流石にそれは高望みしすぎか?」

 

 

 

 そんな訳で、通路の角で聞き耳を立てていた手塚だが、どうにも3人の様子がおかしい。このゲームは首輪を解除する為に、各プレイヤーが解除条件を達成する事を目指すゲームだ。殺人条件で自分の解除条件達成を諦めている人間に関しては、手塚も把握しているが……それとは全く別の状態に思える。

 ふと、解除条件達成以外での首輪解除を目指していた川瀬の言葉を思い出した。

 

『手塚さんこそ、そんな観客席にいるような気分だと、どこかで足元を掬われて痛い目に遭うかもしれませんよ』

 

(なるほど、ね……つまり、これはショーって事か。ってことは、あの綺堂渚って女はさながら仕掛け人。首輪外しても、そういう人間が生き残ってたら、俺も安心できねぇわな)

 

 彼等の言動を確認するに、正義感の強い桜姫優希に恋人を救う為に殺人を強要している。結果、桜姫優希は自殺でも良いんだな? と覚悟をしている状態だ。

 手塚としては、全くよく分からない思考回路をしているが、ここまで徹底していると手塚からしてもいっそ感心できる状態だ。首輪の解除条件だけを考えるなら、ここで桜姫優希に死んで貰った方が手塚としては楽なのだが……少々、気が咎める。

 

(全てが奴らの思惑通りってのも、面白くないわな)

 

 自分の中で気持ちを納得させ、自然と口からソレが出てきた。

 

「お前達のショーは、つまんねぇんだよ」

「「え」」

 

 水鉄砲を発射させ、人質を取ってる状態の2人に振りかける。揮発性の高い消毒用エタノールだ、それを全身に浴びている状態で発砲なんざしようものなら、発砲した側が火だるまになるだろう。

 

「主演交代の時間だぜ? ガキ共」

 

 3人の驚愕した表情に満足しつつ、鉄パイプを持ち優希を越えそのまま綺堂渚の方に突き進む。残念ながら、手塚義光に人質なんて通用しない。御剣総一が人質になるのであれば、総一毎鉄パイプで叩きつぶすまでである。それが分かっていたのか、渚は総一を突き飛ばし逃げ出した。

 

「まさか、貴方が戻ってくるだなんて……!」

「おいおい、俺の行動は俺が決める。むしろ、感謝して欲しい位だ。ここで、アンタが俺に叩き潰された方が、きっとこのゲームは盛り上がるぜ?」

「手塚さん、できれば穏便に!」

「チッ、お人好しめ」

 

 そのまま渚を追い詰め、鉄パイプを振り下ろすが渚は俊敏に回避し、通路脇の扉を開き部屋中に逃げ出した。手塚は急いで追いかけて、扉を開けようとするも鍵がかかったのかビクともしない。

 

「逃げられたか、まっ……そう簡単にはいかねぇか。千載一遇のチャンスだったんだけどな」

 

 綺堂渚という女は只者ではない、だから此処で殺しておきたかった。

 だが失敗してしまった。一筋縄ではいかない、分かっていたつもりだったが……残念でならない。仕切り直しのお時間だ。

 

「助けてくれたのは本当にありがたいんだが……どういうつもりだ? 手塚」

「そう警戒しなさんな、あの時、お前達二人を襲ったのは、あんまりにも警戒心がない二人だったからこの場所がどれだけ危険か教えてやっただけ、さ。尤も、あんまりにも動きがとろかったら授業料として命を頂いていたけどな」

「できるだけ人を襲わないように、あれだけ言い含めたのに……でも、助けてくれたのはありがとう」

「俺は契約違反は何もしてないぜ、感謝の気持ちがあるなら言葉じゃなくて実物が欲しいけどな?」

 

 カップルに警戒されながら、手塚としては苦笑を禁じ得ない。何せ、本当に顔がそっくりな二人組が入れ替わり立ち替わりで似たような反応をしてくるからだ。しかもタイプが違うお人好し揃いときた。よくもまぁ、こんなメンバーを集めてきたものだと自分を棚に上げて感心する。

 

「助けてくれたから教えるけど、姫萩さんの真上辺りにさっき首輪の反応があったから、間違い無く誰かがそこで死んでいるわ」

 

「なるほど、ね……じゃあ、正真正銘あと1個で俺の首輪が外れるのか」

 

「手塚……ッ! 解除条件、そういうことか!」

 

 ギロリと手塚は優希と総一を見てみる。二人は、武器を向ける事はないものの警戒の姿勢を強める。別に二人を殺して、首輪を解除しようだなんて少ししか考えていないというのに、そんなに警戒しなくてもと思わなくも無い。

 

「はっ、武器も情報も負けてる相手にわざわざ喧嘩を売る度胸はねぇよ、お前達を襲うよりは川瀬の方で首輪解除の目処が付いているって話だ。俺はそこに便乗させ――」

 

 

――パァンパァンパァン

 

 

「――がはっ」

「「……え?」」

 

 手塚の身体に3つの穴が開き血が噴き出して倒れる。下手人は御剣総一、桜姫優希の両名では無い。そして――綺堂渚でもない。手塚義光は総一と優希と話をしながらも、常に渚の奇襲への警戒を怠っていなかった。だから、これはあり得ない奇襲――文字通り、彼等3人全員の死角から現れた完全なる奇襲だった。

 天井に穴が開き大柄な男が飛び降りてきて、二丁の拳銃をそれぞれ桜姫優希・御剣総一に突きつける。

 

 

「――PDAを置いて降伏しろ。この男のようになりたくなければな」

 

 

 低く冷酷な声が通路に、響き渡る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。