秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind- 作:流火
川瀬進矢:3:4.5:3人の殺害
桜姫優希:9:10:自分以外の全員の死亡
DEAD:???:DEAD:???
???:???:???:???
???:???:???:???
???:???:???:???
???:???:???:???
???:???:???:???
???:???:???:???
???:???:???:???
???:???:???:???
???:???:???:???
???:???:???:???
――――――――――
自由とは、身に降り掛かった事に対し、どう行動するかという選択。
ジャン=ポール・サルトル(フランスの哲学者、小説家、劇作家)
――――――――――
ピロリンピロリンピロリン
――そういえば、ボールの対処に忙しくてPDAの音を無視してたな……
『追跡ボール:体当たりして自爆する、ルール違反者や首輪の解除に失敗した人間を殺す自走地雷。移動速度は時速6キロ。爆発の威力はそれほどでもないから何個か当たらないと死なないし、走って逃げれば大丈夫かも?!』
……悪趣味な遊び心のある文面に冷や汗がでる。
追跡ボール――足が怪我した状態で逃げられるとは思わないし、ゆっくりなぶり殺しにしてるようにしか見えない。必死になっている自分達をおちょくっているのだ。
悪意に晒される事で、少しだけ正気に戻る事ができたのは皮肉である。
「腕を放してくれるとありがたいんですが」
「……分かってるの?」
「今、改めて実感したよ」
「首輪を解除しないと、私たちは……死ぬ」
「そして、首輪を解除するには殺すしかない……だな」
爆発は男を消し飛ばすと同時に、俺達の現実感の無さをも吹き飛ばしていた。桜姫優希の方は力無く座り込み、俺の腕を捕まえて離さない。……俺も、こんな時でなければ美少女に縋られて悪い気分はしないが、正直言ってこういうときに女の子を慰める言葉を知らない。というか、なんだろう……俺では相応しくない、というのが正しいのだろうか。此処には俺しかいないわけだが。だから、ここは……『川瀬進矢』の言葉を伝えるしかない。
「確かに俺達はただの被害者かもしれない。誘拐され、首輪をつけられ、人を殺さないなら死ねと来た。全くもって役満だ。20億の慰謝料を貰っても到底足りないだろう……だが」
興奮を落ち着ける為に深呼吸する。彼女はもうちょっと狂乱すると思っていた、あるいは呆然として何もできなくなるか……だが、桜姫優希はじっと、ただ俺の眼を見ている。涙目になりつつも、まだ希望を残した眼で見ている。
……すこし、眩しかった。
「最後に決めるのは自分自身だ。ゲームに従って殺すか、抗って死ぬか。その選択肢だけは、常に俺達に残されているんだ。そして、その決断だけは他人に委ねる事はできない。殺人者になるか、抵抗者になるか……それは自分で決める事なんだよ、桜姫優希」
別に、強い信念があってそう考えている訳じゃない。むしろ、自分自身少なくとも日常生活においては流されやすい方だと思っている。だから、流されない為の戒めとして、ゲームに乗るにしろ乗らないにしろ……自分の意志で自己決定する事が大事だと、半分自分に言い聞かせるように言う。
「……私は、私は乗らない……誰も殺さないし、殺させない。こんな悲劇はも……」
そして、目の前の彼女は全身を震わせながらも、辿々しく言葉を紡いでいく。……正義感が強いのだろう、殺人を選択肢として残している俺とは大違いだ。仮の同行者としては都合が良いのかも知れない、手段を選ばない人間は危害を加えてくる可能性があるわけだし。
「それが君の選択なら、尊重するし……一先ずは協力しよう。少し、休んでいるといいよ。汚れ仕事は男の役目だろうし」
「どうするつもり?」
「PDAの回収、かな。無事か分からないけど」
「……私も、行くわ」
「止めといた方……って無駄そうだな。同じく、君の事が分かってきた気がするよ」
表面的には柔軟に物事を受け止めているが意志はあんまり強くない俺――川瀬進矢、物事を素直に正面から受け止めるが芯は強いのだろう桜姫優希。解除条件は最悪だが、最初に会えたのが桜姫優希というのは幸運……なんだろう。ついでに、男のPDAも壊れてなかった為、このゲームにおける運を使い切ったのかもしれない。
『解除条件 7:開始から6時間目以降に全員と遭遇。死亡している場合は免除』
「世の中上手くいかないものだな……こんな簡単な解除条件の人が、ルール違反で死亡し、ヤバい殺人条件の持ち主が生き延びるとは」
「川瀬君……亡くなった方に失礼よ」
「あー、そうだな……名前聞き忘れてた。ゲーム開始から1時間半、せめて冥福を祈るとしよう」
自分のPDAを鞄の中にしまい、二人揃って、惨劇死体の前で手を合わせる。
別の慈愛の心に目覚めた訳ではなく、死者を悼むというのは生者の心を整理させる為のものである。急展開で、少々頭の休憩をしたくなったのだ。それに……爆発音を聞きつけたのか、複数人の足音が聞こえてきた。
本当の勝負はこれからだ。ここからの怒濤の展開で、この最初の犠牲者の男なんてすぐに忘れるだろう。今しかないから、せめて祈らせて貰おう。
駆け寄ってきたのは4人。
若いチンピラ風の金髪の男性、身なりの良い妙齢の女性、学年トップレベルに美人な若い長身のツインテールで白いワンピースの金髪女性、生意気そうな背の低い少年。
死体へのリアクションをそれとなく観察したが、特に怪しい挙動は見当たらなかった。共通の特徴も無さそうに思える。
クローズドサークルに複数人集まり人が死んでいる。ミステリー小説みたいだ。
だから、頑張って探偵しないとな。と、気持ちを新たに状況を説明する。
「ということで、バリケードを作って自走式爆弾――追跡ボールって言うらしいです―― から男を守ろうとしたんですが、別方向から追跡ボールがやってきて逃げ切れずに死亡。追跡ボールは中々に凝ったデザインをしていたと思います。特注品なんですかね?」
PDAに新たに追加された項目である、ペナルティの説明を交えて説明する。ここに来た人間全員のPDAにこの項目は追加されているようだ。実際に死人が出てしまっている以上、最早このゲームが冗談であるとは済まされないと全員が真面目そうに聞いている。エアダクトの存在に関しては、悪用されたら危険なような気がしたので、念の為伏せておく。
「つまり、ルール違反して首輪が反応して殺されたって訳か」
「多分そうですね。ルール違反したタイミングは目撃してないので、今のところ、ゲームを信じてない男が首輪にPDAを読み込ませて発動してしまったというのが有力な推理だと思うのですが」
「PDAを読み込ませたら死ぬって書いてあるのに……馬鹿なオッサンだな」
「ちょっと君、死んだ人を悪く言わないの」
「チッ、分かったよ……」
この状況で一番怖くて頼りになりそうな金髪男に推理を披露していると、少年が横で感想を漏らし、桜姫がそれを咎める。真面目な学級委員長タイプだとは思っていたが、この状況で貫けるのは大したものである。
「確かに馬鹿だとは俺も思うが、愚かな行動っていうのは人間取ってしまうものだから……あんまり笑わないであげような? ただ他山の石にはすべきだ。具体的には欠けたルールを埋めていきたい」
「そうね……そんなインチキなゲーム、嘘だと思ってたけど……人がしんでしまったとなると冗談では済まされないもの」
「2番目のルールに書かれてる件……ですね?」
「そういうことですね。ただ、此処だと集中できませんし、部屋を変えませんか?」
ルール交換に神妙な顔で応じるのは美人のお姉様方(?)お二人である。ここでパニック映画みたいに、取り乱す人間が居たら大変頭が痛くなる展開だったが、一番危惧してる桜姫優希も踏みとどまってるようだし、最年少っぽい少年は逆に死体に興味津々っぽくて親近感があるし、大人3人は頼りになりそうだ。
なんて考えていると、ルール交換に異を挟んでくる人間がいた。
「それは違うわよ。ルールより、もっと重要なものがあるわ」
「マジか、なんだろうか……えーと、桜姫さん?」
「それよ、川瀬君」
「はい?」
「だから、私たち二人は自己紹介したけど。他の人とはやってないわよね?」
「あー、ごもっともです……」
……なんか、頻繁にペースを狂わされるのは気のせいだろうか?
桜姫優希……真面目そうなのと、光というか陽属性を持ってそうなので、日常生活ではあまり関わりたくない側の人間なのかもしれない。
「ということで、纏めます。一人を除き単独行動中に人気のない場所で誘拐されてた。ただし、誘拐された時点の記憶はなく、気付いたら此処で目覚めている。我々の中に知り合いはおらず、共通点らしきものもない。何なら県もバラバラ……個人まで特定された計画された誘拐っぽいですね。此処までしか言えないのが、もどかしいところですが」
どこにでもいるごく普通の高校二年生である俺、川瀬進矢。
彼氏と二人で下校中に誘拐されたらしい高校三年生、桜姫優希。(年上だった! やばい、先輩って言わなきゃ!)
大学二年生でキャンパスを歩いてる途中に誘拐されたらしい金髪美女、矢幡麗佳。
中小企業の社長らしく、最近年齢が気になるお年頃らしい郷田真弓。
荒事慣れしてそうな、自称どこにでもいるごく普通の会社員である手塚義満。
塾帰りで攫われた子供扱いされると怒りたくなるお年頃である中学二年生、長沢勇治。
犠牲になった男を含めれば、7人。このゲームに参加したプレイヤーが13人ならば丁度過半数がここに集まっているということになる。
「まっ、それ以上そこを掘り下げても仕方ない。俺達は何をしたら死ぬか確かめなくっちゃな」
「そうね……ルールと解除条件を交換しないと」
「ルールの交換は賛成だが、解除条件は別だな」
「え、どうしてかしら?」
手塚はルールの交換だけを提示し、郷田はルールと解除条件の交換を提示する。ただし、手塚は解除条件の交換を拒否した。解除条件はアキレス腱になりうるので当然だが、拒否をするということは手塚への警戒度を1段階引き上げた方が良いのかも知れない。……人の事は言えないが。
「そいつはルールを交換すれば分かることだな」
「首輪の解除条件は、文字通り命が懸かっているので、デリケートな話になります。だから、先にルールが分かってからでも遅くないと思いますよ」
「そうね……分かったわ」
一旦、手塚に同調しつつ、様子見に移る。矢幡麗佳、長沢勇治も反応からすると解除条件交換には慎重な姿勢のようだ。桜姫優希は不安そうに、俯いている。解除条件酷いからな……分かるよ、ちょっとフォロー入れてやろうか。
「と、いうことでー? 解除条件を交換するのは宜しくないとオモイマスー」
「わ、悪かったわよ……」
「川瀬のお兄ちゃん、どういうことだよ?」
「ふっ、俺と桜姫先輩は既に解除条件を交換してしまった仲ってことさ」
「確かにそうだけど、含みのある言い方ね……」
ここで解除条件を交換した仲だとカミングアウトするのは一見すると悪手だ。だが、俺と桜姫優希の解除条件が直接的な殺人条件となると話は別だ。これをカミングアウトすることで、自分達はカミングアウトしても問題無い解除条件の持ち主ですよーとアピールしているのだ!
それに気付いているのか分からないが、解除条件が解除条件なので深く突っ込めない桜姫優希は歯痒そうな表情をしている。これで簡単に解除条件が推測されることは無くなっただろう。
「かー! 見せつけてくれるね! おい、お前等……イチャイチャカップルは放っておいてルールを交換するぞ」
「ははは、こんなゲームに恋人同伴で参加するのは死亡フラグなので、彼女居ない歴=年齢なのを感謝しているところですよ。手塚さん」
自虐ネタをぶっ込みつつ、そういえばここ綺麗どころの人が多いなーと思う。こういう時に恋愛脳になると、本当に死にそうなので自重しよう。平常心平常心、心拍数が上がっているのは恋じゃなくて命の危機に対してである。
心を落ち着けて鞄の中からノートと筆記用具を取り出す。それに反応してか、手塚が問いかけてくる。
「ん? 何やってんだ川瀬?」
「何って、記憶力に自信がないもので……書き留めておこうかと」
「なるほどな、後で紙とペン借りて良いか?」
「別に構いません、というか……全員分、筆記用具と紙くらいならお渡ししますよ」
どのような方針で動くにせよ、今のところ自分は協力的ですよーアピを欠かさない方が良いだろう。メンバー全員にノートを破って渡しつつ、ルールの交換を開始しよう。
さてさて、ここで重視しなければならないのは、ルールそのものより、ルールの傾向で主催者が自分達に何を求めているかを読み取らなければならない……気がする。
「皆、書き写す準備はできたわね? じゃあ、ルール3からだけど……」
音頭は郷田社長が取るらしい。流石社長である。幸か不幸か、全てのルールをこの場で集めきる事ができた。
尚、俺がメモに記載した事項は下記に纏める。
【ルール1】
参加者には特別製の首輪が付けられている。それぞれのPDAに書かれた状態で首輪のコネクタにPDAを読み込ませれば外す事ができる。条件を満たさない状況でPDAを読み込ませると首輪が作動し、15秒間警告を発した後、建物の警備システムと連携して着用者を殺す。一度作動した首輪を止める方法は存在しない。
【ルール2】
参加者には1 - 9のルールが4つずつ教えられる。与えられる情報はルール1と2と、残りの3 - 9から2つずつ。およそ5、6人でルールを持ち寄れば全てのルールが判明する。
※特記事項:自分を除けば、郷田社長が一番ルールを把握している印象。
【ルール3】 所持者:桜姫優希、矢幡麗佳
PDAは全部で13台存在する。13台にはそれぞれ異なる解除条件が書き込まれており、ゲーム開始時に参加者に1台ずつ配られている。この時のPDAに書かれているものが、ルール1で言う条件にあたる。他人のカードを奪っても良いが、そのカードに書かれた条件で首輪を外すのは不可能で、読み込ませると首輪が作動し着用者は死ぬ。あくまで初期に配布されたもので実行されなければならない。
【ルール4】 所持者:矢幡麗佳、郷田真弓
最初に配られる通常の13台のPDAに加えて1台ジョーカーが存在している。これは、通常のPDAとは別に、参加者のうち1名にランダムに配布される。ジョーカーはいわゆるワイルドカードで、トランプのカードをほかの13種のカード全てとそっくりに偽装する機能を持っている。制限時間などは無く、何度でも別のカードに変えることが可能だが、一度使うと1時間絵柄を変えることができない。さらにこのPDAでコネクトして判定をすり抜けることはできず、また、解除条件にPDAの収集や破壊があった場合にもこのPDAでは条件を満たすことができない。
※特記事項:ジョーカーに関して手塚は深く考え込んでいた、長沢は鼻で笑ってジョーカーどうでも良さそうだった。
【ルール5】 所持者:桜姫優希、長沢勇治
侵入禁止エリアが存在する。初期では屋外のみ。進入禁止エリアに侵入すると首輪が警告を発し、その警告を無視すると首輪が作動し警備システムに殺される。また、2日目になると侵入禁止エリアが1階から上のフロアに向かって広がり始め、最終的には館の全域が侵入禁止エリアとなる。
【ルール6】 所持者:郷田真弓、(川瀬進矢、PDA3)
開始から3日間と1時間(73時間)が過ぎた時点で生存している人間を全て勝利者とし20億円の賞金を山分けする。
※特記事項:長沢大興奮、矢幡と手塚が本当かどうか疑問を呈するも、郷田社長が複雑な仕掛とそれにかかる費用を根拠に『案外くれそうな気がする』と述べた。
【ルール7】 所持者:長沢勇治、手塚義光、(川瀬進矢、PDA3)
指定された戦闘禁止エリアの中で誰かを攻撃した場合、首輪が作動する。
【ルール8】 所持者:川瀬進矢(PDA7番)
開始から6時間以内は全域を戦闘禁止エリアとする。違反した場合、首輪が作動する。正当防衛は除外。
※手塚に飛びかからんばかりに反発していた長沢がとても大人しくなった。
【ルール9】 ※手塚義光、川瀬進矢(PDA7番)
カードの種類は以下の13通り。
A:クィーンのPDAの所有者を殺害する。手段は問わない。
2:JOKERのPDAの破壊。
またPDAの特殊効果で半径1メートル以内では
JOKERの偽装機能は無効化されて初期化される。
3:3名以上の殺害。首輪の発動は含まない。
4:他のプレイヤーの首輪を3つ取得する。手段を問わない。
首を切り取っても良いし、解除の条件を満たして外すのを待っても良い。
5:館全域にある24個のチェックポイントを全て通過する。
なお、このPDAにだけ地図に回るべき24のポイントが全て記載されている。
6:JOKERの機能が5回以上使用されている。
自分でやる必要は無い。近くで行われる必要も無い。
7:開始から6時間目以降にプレイヤー全員との遭遇。死亡している場合は免除。
8:自分のPDAの半径5メートル以内でPDAを正確に5台破壊する。手段は問わない。
6つ以上破壊した場合には首輪が作動して死ぬ。
9:自分以外の全プレイヤーの死亡。手段は問わない。
10:5個の首輪が作動していて、更に5個目の作動が2日と
23時間の時点よりも前で起こっていること。
J:「ゲーム」の開始から24時間以上行動を共にした人間が
2日と23時間時点で生存している。
Q:2日と23時間の生存。
K:PDAを5台以上収集する。手段は問わない。
正直俺自身内心驚いているが、どれもこれも知らない人にとっては衝撃的なルールで反応を観察するのが楽しかった。特にテンション高かった長沢が8番のルールを聞いて非常に大人しくなった所とか。状況を考えると洒落にならないが、かわいいぞコイツ。手塚がからかいたくなるのも分かる。
それはそれとして、特にルール9の解除条件を聞いた時の全員の驚きようは別格だった。俺と桜姫先輩は『え、他の解除条件ってこんなに簡単だったの?』という驚きだったが、他の全員はヤバい条件ばかりで驚いたんだろう。俺としても、まさか最初に知った2つの解除条件が最悪の解除条件だったことは苦笑を禁じ得ない話である。
全ての解除条件が分かり、場の空気が険悪になってきているので、牽制球を投げてみよう。
「いやー、しかし残念ですね? 解除条件の交換を拒否した時は、てっきりヤバい解除条件を引き当てたんだと誤解してましたよ、手塚さん」
「油断も隙もねぇ奴だ。だが、俺は自分の解除条件を言うつもりはないぜ?」
「どうしてかしら? みんなで協力しあって早々に首輪を外したほうが良くないかしら?」
「郷田さん、私も解除条件を交換するのは反対です」
「麗華さんまで!? ……どうして?」
「参考のため、理由を教えて貰って宜しいでしょうか?」
ルールの交換が終わった以上決別も近そうだ。自分も身の振り方を考える必要がある……と頭では分かっているのだが、職業病のように他の人のPDA番号を推理したくてたまらなくなってきている。
解除条件の交換反対派は手塚、矢幡。消極的反対っぽいのが、長沢。交換賛成派が郷田ってところだろうか。
割と多くの人間が解除条件を教えたくないらしい、そこに違和感がある。ルール9の解除条件一覧を確認すれば分かるが、一番危険な解除条件である3と9は俺と桜姫先輩、残りの殺害条件はAのみだと思うんだが……教えたくなさそうな解除条件候補はAとQ、持つ人次第で危険になり得る解除条件は4と8と10とKってところか。この辺の人が多いのか……? あとは、ジョーカー関連の2と6だが、特に6はジョーカーがアキレス腱になり得るからその辺か。
逆に、郷田社長はブラフでなければ危険な解除条件ではなさそう。Aを警戒する様子もないからQでもない。ジョーカーに対する言及もないし、素直に考えれば5かJ辺りと見た。
パッと思い浮かぶのはこんなところか、後は各自の意見を聞いて推理を狭めていこう。
口火を開いたのは手塚からだ。
「……解除条件だ。競合するものもあるし、中には全員殺しなんてものもある。想像してみろよ、オバサン……あの震えてるお嬢ちゃんがもし、その解除条件を引き当ててたら、アンタは協力して殺されてやるのかい? それとも、その子にだけ諦めて死ねって言うのかい?」
「それは……」
ピクリと桜姫先輩が反応する。その通りなんだよなー……と内心思うが黙っておく。フォローを入れるか迷ったが、全員殺しを引き当てた桜姫先輩がどのようなスタンスで動くか観察する為にスルーさせて貰う事としよう。
続いて矢幡が自分の意見を述べる
「それだけではありません。仮に協力できる解除条件が集まったとしても、JOKERなんてものがある限り、それも安全とは思えません」
「偽装機能ありますもんね。えー、お客様の中にジョーカーをお持ちの方はいらっしゃいませんかー?」
「川瀬お兄ちゃん……それで、ジョーカーが名乗り出る訳ないと思うよ」
「誰か1人こういうのがお約束かなって……」
長沢に呆れられたような目で見られる。俺はただ空気を緩ませようとしただけなのに、哀しい。
同じく呆れた目線で見ていた手塚が口を開く。
「JOKERだけじゃねーよ、20億山分けってのがある。首輪を解除後に金目当てに裏切られる事もある、あのガキみてぇにな」
「お前を殺せば賞金が上がるんだろ? 一石二鳥じゃん」
「長沢君、止めて! 手塚さん、矢幡さん。貴方たちもです!」
タンと、桜姫優希が手を床にたたきつけて立ち上がる。……この場の全員の視線が桜姫優希に釘付けになる。彼女は怒っていた……それは理不尽を強いる主催者に対してなのかもしれないし、その主催者の思惑通りに疑心暗鬼に囚われている自分達に対してなのかもしれない。
「私は! 協力して、首輪を解除するべきだと思っています! 殺すとか、裏切るなんてまっぴらです! ましてやお金の為だなんて!」
「じゃ、どうしろって言うんだよお嬢ちゃん? そういや、解除条件は既に交換したんだって? さぞかし、安全な解除条件を引き当てたんだろうなぁ」
カチンと来たのか、桜姫先輩は震える指でPDAを操作し、その後で全員に提示する。画面は解除条件を示している。このゲーム内における最凶であろう解除条件を……
『9:自分以外の全プレイヤーの死亡。手段は問わない。』
「わ、私はこのゲームには乗りません! 誰も殺す気はありませんし、他の人解除条件が殺人ではない限り協力します! そして、首輪を解除しなくても助かる方法を見つけて見せます!」
本人も自分で何を言ってるのか分からないかもしれない、それくらい浮ついているのが見て取れる。PDAの画面は震え、声も辿々しい。だが、その信念だけは恐らく本物なのかもしれない。力強く言葉を続ける。
「お金が欲しいなら、私の分なら幾らだって渡します! だから止めましょうよ! 人を疑い合って殺し合うなんてことは……ッ!」
目に涙を浮かべながら、それでも彼女――桜姫優希は自分の主張を全て……言い切って見せた。彼女はただ1人、この疑心暗鬼が渦巻く殺人遊戯に抗おうとしているのだ。
桜姫先輩は決断した。……次は、俺が決断する番だ。