秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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プレイヤー:カード:オッズ:解除条件
御剣総一 :A:5.9:Qの殺害
葉月克己 :2:DEAD:ジョーカーの破壊
川瀬進矢 :3:5.5:3人の殺害
長沢勇治 :4:4.8:首輪を3つ収集する
郷田真弓 :5:4.4:24ヶ所のチェックポイントの通過
高山浩太 :6:DEAD:ジョーカーの偽装機能を5回以上使用
漆山権造 :7:DEAD:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
矢幡麗華 :8:DEAD:PDAを5個破壊する
桜姫優希 :9:8.2:自分以外の生存者数が1名以下
手塚義光 :10:DEAD:2日と23時以前に首輪が5個作動している。
綺堂渚  :J:4.3:24時間行動を共にしたプレイヤーが生存
姫萩咲実 :Q:DEAD :2日と23時間の生存
北条かりん :K:3.1 :PDAを5個以上収集



第十六話 被観測者達の憂鬱

 

 

 

 

――――――――――――――

アメリカ人はプライバシーの意味すら分かっていない。この国にそんなものは存在しないのだ。

ジョージ・バーナード・ショー (アイルランドの劇作家、評論家)

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 仲直り……仲直り? して情報共有タイムとなる。

 とはいえ、3人で情報共有するならもっと多くのメンバーで情報共有を行い、無駄は省いていきたいのが人情ではある。そこそこ時間経過したのだから、『トランシーバー機能』を試してみるのがベストだろうか。

 

「先程も言ったが、桜姫先輩と俺は二手に分かれた。二手に分かれた理由は、『首輪探知機能』もあるが『トランシーバー機能』の存在が大きい。この『トランシーバー機能』は手塚のPDAにダウンロードされている……俺達は手塚を通じて通信するか、【JOKER】で手塚のPDA【10】番に偽装して連絡を取り合う予定……だった」

 

 尤も、そのプランは死亡者が二人も出ている時点で、最悪の結果を辿っている可能性が十分あるわけだが。

 

 『Q』のPDAを手に取り、追加した『トランシーバー機能』の項目を押す。

 ソフトウェアをインストールした時の説明で『トランシーバー機能』は通話時のみバッテリー消費する事は確認済み、無駄話は極力省かなければならない。

 そんな風に考えていると、手塚の名前を聞いたからか勇治が不満げな声を挙げる。

 

「へぇ、手塚って【10】番だったのか……アイツがゲームに乗ってないのは意外だったけど、大丈夫なのかよ?」

 

「こっちが隙を見せずに、組むメリットを提示し続ければ……多分?」

  

「僕――いや、俺はそこが心配なんだけど。首輪を解除するまでは兎に角、解除した後に賞金目当てに裏切るんじゃないか?」

 

「…………………………手塚を信じろ」

 

「ハハッ、これは考えてなかったって顔だな」

 

 勇治の疑念に少し間を置いて答えると、やれやれと勇治が呆れた表情で答える。

 首輪解除後の話は割と取らぬ狸のなんとやらだ。俺の想定の範囲外である。

 流石にリスクを考えると、手塚はそんな事をしない……はず。

 大丈夫だよな???

 

 そんな風に思考をしていると、かりんの表情に陰りが見える。 

 

「賞金の話になると、アタシがそうなってたかもしれないから……」

 

「あ、悪い! かりんがどうこうという話じゃなくて」

 

「話が脱線してるぞ。もう終わった話を蒸し返さなくて宜しい――いや、言われた言葉をそのまま返せば良いのか? 俺達はかりんを信じてるから、ノープロブレム。それでも悩みたいなら、一人で抱え込まないで貰おうか」

 

「むぅ、その言い方はずるい」

 

「言った事は帰ってくるのだよかりん君」

 

 賞金という言葉に不安そうな声を挙げたかりんを、封殺する。

 不満そうな表情をするが、俺がずるいというのなら最初に言ったかりんの方がずるいという事になるが宜しいか?

 感情のぶつけ合いなら兎に角、議論では絶対に負けてやらない。決して、先程の事を根に持っているわけではない。

 

 ……さて、話を戻そう。

 トランシーバー機能を使わなくては。

 

「話を戻すが……『トランシーバー機能』を使ってみるぞ。向こうの状況次第だけど、情報共有も纏めてやりたいからな。俺が話し始めるまで、静かにしといてくれ」

 

「りょーかい」

 

「わかった」

 

 3人で真剣な表情でうなずき合い、『トランシーバー機能』を起動する。

 まだ戦闘なり何なりが起こっている可能性がある為、音で気付かれる訳にはいかない。

 さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……そして、誰が死んだか。

 

 

 

――スイッチオン

 

 

 

 3人で息を殺してPDAに耳を傾けてみる。

 するとすすり泣く音がPDAから聞こえてきた。

 ……女性、だろうか? 

 二人死者が出たというのなら、それで泣きそうな女性というのは俺の知る限り一人しかいない。

 

『総一……私、誰も助けられなかった……! 手塚さんが、手塚さんが……!』

 

『優希は悪くない、何も悪くない。それを言ったら俺だって……!』

 

 

 

――スイッチオフ

 

 

 

「……………………そっとしておこう」

「「…………」」

 

 通話する為だったのに、何故か盗聴してしまったかのような気まずい空気が流れる。

 このトランシーバー機能、さては向こう側の盗聴ができるな??? 

 もしかして、手塚はそれを織り込み済みでトランシーバー機能を渡してきたのでは? 怖い。

 

 ……現実逃避はさておき、恐らく手塚は死んだ。

 そして、桜姫先輩と御剣先輩は生きている。

 今はそれだけで良い。細かい情報交換は後回しにして問題無い。

 二人が落ち着いたら、勝手に連絡をくれるだろう。

 微妙な空気を払拭する為、なんとも言えない表情をしている二人に俺は言った。

 

「今から、今から俺は……とっても不謹慎な事を言います」

 

「お、おう?」

 

「すーはー…………桜姫先輩と御剣先輩……生きてて良かったぁあああ!」

 

「ちょ、ちょっと進矢!?」

 

 全ての感情を吐露するがごとく、その言葉を吐き出し、脱力して壁に寄りかかりつつ倒れ込んだ。

 懸念事項は沢山あるが、それでも仲間全員の無事を確認した結果、安心すると同時に蓄積していた疲労が全て俺に襲いかかり、立ち上がる機能を失った。もう限界だった。

 勿論、一緒に勇治とかりんが居るからというのもあるんだろうが。

 緊張感というのは長くは続かない、少なくとも俺はそうなる。

 

「2人共……生きてて良かった……。正直、シャワー浴びてもう寝たい……気を抜くと落ちそう」

 

「お兄ちゃん。突然、駄目親父っぽくなったな!?」

 

「うるさーい、緊張の糸が切れたんだよ! というか何だよあれ! 何だよあれ!!!」

 

「不貞寝してるようにしか見えねぇ」

 

 勇治に呆れた言葉を投げられる。

 手塚を悼む気持ちもある、ゲームが怖いという気持ちもある。

 それでも一度切れた感情の糸というのは中々元に戻らない。

 ゲーム開始から13時間を過ぎといったところか、ゲームが午前8時スタートとして21時……普段、そこまで健康的生活を送っているわけではないが、ここまで濃ければ体力も限界を迎える。

 一緒に居るのが桜姫先輩とかだと、つい背伸びしてしまうのでその影響もあるのかもしれない。

 

「その、ごめん……桜姫さん、は聞いたけど……御剣さんって誰?」

 

「あー、二人は知らなかったか。桜姫先輩には俺激似の恋人が居て、このゲームに参加している。上手く2人共再会できたようだな、良かった良かった」

 

「言ってる事と表情が全然合ってないよ!?」

 

「不貞寝してる理由はそれだな?」

 

 ……そんな事は無いと、思う。思いたいんだけど。

 別に表情を取り繕うとは思っていなかったが、思ったより不満げな顔をしていたらしい。

 それはこう……あれだ。

 俺は二人で幸せに生きて帰って欲しいが、二人のイチャイチャを見たいわけではないのだ。

 姫萩先輩が生きてたら、俺と同じような気持ちを抱いている筈だ。多分。

 

「……面白そうだから、もうちょっと聞いてみようぜ?」

 

「絶対にノー! 二人のプライバシーは俺が守る!」

 

「その二人が残りの仲間なんだよね? 私、全然知らないから……く・わ・し・く、聞きたいんだけど」

 

「そうだね、その情報は大事だね。だから、かりんさん。圧をかけないでください」

 

 顔は笑顔で目が笑ってないかりんに、震え上がりつつ、二人に渡すべきではない玩具を渡してしまった感がある。

 相手は中学生二人、そういう話題に興味津々なのは当然の理だ。

 しかし、俺だって疲れ切ってる時にあの二人の話はしたくないし、聞きたくない。

 つくづく、俺の心に優しくない殺人ゲームだ。せめて、使うのは頭脳と身体だけにしてくれないか!

 

――リア充爆発しろ!

 

 と、心の中で念じた瞬間に閃く。

 これ、ゲームに視聴者がいたら視聴者も思ってる奴だ。

 つまり、ゲームの主催者側は二人を引き裂こうと次の手を打ってくるやつだ!

 こんな閃き方したくなかった!

 くっ、どうすれば……どうすればいい!?

 

 悩んだ結果、疲れた頭は疲れた並の最適解を俺にもたらした。

 

「コホン……二人共、落ち着け。これから合流して、話す機会は幾らでもあるんだ。そういう話題は本人達に聞け! 俺としては、寝る準備とかしておきたい。地べたはきついし……あと、身体を拭くくらいはしておきたいかな。汗が臭いとか(桜姫先輩に)言われたら精神的に死にそう」

 

「……ごめん、進矢疲れてるんだったよね。でも後でちゃんと説明してよね」

 

「進矢兄ちゃん逃げたな……シャワー室ならあったぜ、戦闘禁止エリアの中に」

 

「戦闘禁止エリアって……あっ」

 

「おー、シャワーあるのか! で……何か問題あるのか?」

 

 露骨な話逸らしをなんとか成功? させつつ、まずは体力を回復させる事が最優先だ。

 体力の衰弱は、精神の衰弱に繋がるとかなんとか。今、ダイレクトに衰弱している俺が言うのだから間違い無い。

 

 で、休憩には戦闘禁止エリアがうってつけのように思える。

 今まで俺に遭遇する機会は無かったが、そこで休めるのなら万々歳ではなかろうか?

 と思わなくも無かったが、かりんの心配そうな表情を見る限り駄目そうな気がしてきた。

 長沢が悪戯っぽい笑顔でとある部屋を指さした。

 

「ちなみに戦闘禁止エリアはあそこな」

 

「……おかしいな、俺にはさっき郷田真弓って人が爆発音をさせて扉を破壊してたり、銃をバンバン撃ち込んでた部屋しか見えねぇ」

 

「やっぱり、気付いてなかったか。進矢お兄ちゃんも、結構抜けてるよね」

 

「……つ・ま・り、外から中に攻撃できて、しかも反撃がアウトな訳ね! 全然気付かなかったよ! 俺はルールの穴に気付かず、二人を命の危機に晒してしまいました!」

 

 指摘される事でようやくルールを思い出してきた。

 

 ちょっと、見落としが多くて反省が間に合わないレベル。

 いや、『戦闘禁止エリア』っていかにも安全アピールが逆に危ない雰囲気を醸し出しているのは分かるけど、実際に見つけてなかったから考えてなかった。

 答えが先に来てしまったから、実際俺が気づけていたか分からないけど……これで二人の内、どっちかが欠けてたらなんて想像したくもない。

 

 くそう、俺は何度見落としで後悔すればいい!?

 唯一の慰めは、今のところ見落としで直接的な仲間の被害に結びついてない事くらいだ。

 

 そんな事を考えていたら、頭に手を置かれて撫でられた。

 顔を上げると優しげな表情をしてるかりんが俺の頭を撫でている、気恥ずかしいような情けないような。

 

「だから一人で抱え込まないの。誰も気付けなかったことなんだしね。それに、攻撃を受けて勇治がすぐに気付いてくれたし、進矢が教えてくれたエアダクトがあったから無事に逃げ切れたわけだから……」

 

「俺の方が凄いけど、100歩譲って進矢お兄ちゃんとのコンビネーションプレーだと認めないでも無いな!」

 

「マジでありがとう勇治ィ! 思い返せば綱渡りしてる箇所が思ったより多い……もしや我々は全員が全員相互に命の恩人なのでは???」

 

「あ、確かにそうかも。ここにいる誰がいなくても、生きていられた自信がないもの」

 

「……認めたくないけど、そうだな。1人だったら、死んでたかもだ」

 

 罠で死にかけた俺をかりんが突き飛ばして、勇治へのクロスボウをおれが庇って、戦闘禁止エリアで危なかったかりんを勇治が守った。

 人は1人で生きていけない。

 一般論ではそうだが、直接的に実感する時が来ようとは思わなかった。

 どれだけ強がっても俺達は人1人分の力しか持ち得ないのだ。

 それを実感したのかしみじみと、かりんは続ける

 

「いきなり騙された時はどうなるかと思ったけど、2人に見つけて貰えた私は運が良かったんだ」

 

「いや、確か偶然じゃないよ」

 

 呟いたかりんに対し、長沢がまたもや悪戯っぽい笑顔を浮かべて返した。

 ……ん? 何か嫌な予感を感じるような。

 

「進矢お兄ちゃんが、僕と2人の時に、まず『K』の人を探そうって言ったんだ。結果、見つかったのがかりんだから、全ては進矢お兄ちゃんの手のひらの上だったんだよ!」

 

 な、なんだってー!

 そういえばそんな事言ってたな。すっかり忘れてたよ。

 燃料を投下されたかりんは楽しそうに笑う、連係プレイで人を追い詰めようとするのやめない?

 

「へぇ、じゃあアタシは進矢の狙い通りに捕まっちゃった訳なんだ?」

 

「その言い方、語弊がある!? あー、アレだ。首輪解除しやすそうだったから、早く接触しておきたかったんだよ」

 

「酷い! あたしの首輪が目当てだったのね!?」

 

「強気で否定できないけど、その発言はドラマの見過ぎだ……」

 

 かりんからの攻勢? を受け流しつつ、ゲームの始まりの頃を思い出す。

 このゲームでRTA的に首輪を次々に解除していこうと考えていたのが酷く遠い昔のように感じられる。

 どうしてこうなったのか後悔は多いが、それでも3人で冗談を言い合えるだけまだマシな状況なのかもしれない。

 

 思いを馳せていると、胸ポケットから音が聞こえてくる。

 

『……痴話喧嘩ができる程には元気そうで安心したわ』

 

「げ!? 桜姫先輩!? ……あー、違うんです。こうなんか、違うんです」

 

「浮気がバレた男みたいな反応で、ウケるな兄ちゃん」

 

「お前が始めた話題だぞ、勇治ィ!」

 

 あんまりなタイミングでの通話スタートにより、反射的に何も考えてない言葉が出てくるが、冷静に考えなくてもボロが出てきた駄目男っぽい発言になってしまった。

 ……回復早いですね桜姫先輩。

 こんな俺の姿、見られ……聞かれたくなかったよ。

 

 この『トランシーバー機能』とは仲良くなれそうに無い。

 気を取り直せ、立ち直れ俺。

 胸ポケットから『Q』のPDAを取り出す。

 

「コホン……こちら川瀬進矢、長沢勇治、北条かりん。以上3名、全員俺のプライド以外は無事、合流完了してます」

 

『私も総一と無事に合流したわ……だけど……』

 

「プレイヤーカウンターが反応してるので察してます。それでも、お二人が生きてて良かったです」

 

『……ありがと。手塚さん、あともう一人。名前は分からないけど――解除条件6番の男の人が亡くなったわ』

 

「……ッ!? 俺達を3階入口で襲ってきた二人の片割れですか……あ、ごめんなさい。まず自己紹介をしましょう」

 

『ごめんなさい、そうだったわね』

 

 移動ルートと経過時間から考えて、どう動いても桜姫先輩の位置に間に合わない気がするが何があったんだ?

 しかし、姫萩先輩を殺した二人組は既に両方共、あの世にいるのか……と無情感がある。

 姫萩先輩が仇討ちを望むような人ではないのは分かるが、それでも複雑な気分だ。

 

 さて、気になる事は多い。

 情報交換の続きを行いたいが、かりんの心配そうな視線に気付いてストップをかける。

 情報強者の二人だけで話すのが話は早い……だが、今は5人で情報と状況の共有が最優先だ。

 連帯感という意味でもそうだし、俺の事情からしても必要な事だ。

 気持ちは重いが。

 

「聞いてますよね、御剣先輩? 俺は謝らなくてはいけないし、そして話をしなければいけない。亡くなった姫萩先輩について」

 

『……一応、川瀬……は、はじめましてじゃないけど。他の二人にははじめましてだよな。俺は御剣総一、高校三年生で一応優希の幼馴染兼恋人だ』

 

「僕――いや、俺は長沢勇治。中学二年生、進矢お兄ちゃんとそっくりなお兄ちゃんか……会うのが楽しみなんだよな」

 

「あたしは北条かりん、中学三年生。進矢から少しだけ話を聞いて、ます」

 

『あら、可愛い声ね。 私は桜姫優希、総一の恋人です。一応じゃなくて、ちゃんとした恋人だからね』

 

 なんか、御剣先輩と桜姫先輩の今のやりとりだけで力関係がちょっと見えたような……これで全員か。

 多いようで、少なくなってしまったような気持ちになる。

 とはいえ、姫萩先輩以外で中高生の死者は出てないから、意外と子供は不思議な力に守られている殺し合いゲームなのかもしれない……全然優しくないけど。

 

「これで、全員ですね。残り2人は明確に主催者側、折り合えない相手です。今までの流れと、これからどのように全員で生き残るか話し合っていきましょう」

 

 俺から口火を切り、今までの事を話し始めた。

 

 

 

 

 

 俺は姫萩先輩の事を全て御剣先輩に話した……つもりだ。

 どういう表情をしているのか、トランシーバー越しには分からない。

 伝えられるのは言葉だけだ、その時の空気感も感情の機微も何も伝えられない。

 ちゃんと伝わっているだろうか? と不安になる。

 

「……ごめんなさい、結局は2時間と少ししか一緒に居ませんでしたから、俺も姫萩先輩について分かったつもりにしかなってません。ただ、最期まで皆が生きて帰れるように願える人物だったのは確かです。彼女の死の一因は間違いなく俺にあるので、ゲームが終わった後なら幾らでも非難を受け付けます」

 

『いや、咲実さんの遺体を見れば、彼女が何も恨まずに亡くなった事は分かる。哀しいけど、川瀬は何も悪くないよ。俺達を誘拐した奴らが悪い』

 

「……恐縮です。では姫萩先輩の最期の願いは、御剣先輩に叶えて貰いましょう。生きて幸せになってください、まぁ――俺がそうさせるんですが」

 

『正直、最初会った時とお前の印象が全然違ってビックリしたよ』

 

「あの時はアレで本当に必死だったので忘れてください」

 

 ふぅ、と息を吐く。 

 肩の荷が降りたわけではないが、一つやるべきことを終えた気がする。 

 人一人の命、ただそれだけなのに心に掛かる重圧が重かったのは確かだ。

 心に刻まれたトラウマは一生癒える事は無いかも知れないが、それも彼女の生きた証として受け入れよう。

 

「次は、エクストラゲームが開始後の話をしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 そこそこの時間をかけて、おおよそ全ての概要情報は交換できた、と思う。

 突っ込み所も言いたい事も多すぎるが、まず言うべき事はこれだ。

 

「……人質になって男のプライド死んだなって思ってましたけど、御剣先輩が仲間だと知って安心しました。あと親近感が湧きました」

 

『いや、そんな所で親近感を感じられてもだな……』

 

 俺の中で御剣先輩への好感度が上がった!

 いや、俺も含めて必死だったんだろうけど、結果今生きてるからネタにできるのだ。

 命があるっていうのは素晴らしい事だ。

 

「人質の際の対応考えると……桜姫、さんって進矢と同類じゃん!?」

 

『強気で否定できないけど、ちょっとショックね。その表現』

 

 呆れた表情をしたかりんが叫びのと苦笑しているような桜姫先輩の言葉がPDAの向こう側から聞こえる。

 桜姫先輩と同類と言われてしまえば、俺としては非常に恐縮です。

 桜姫先輩にもっと自分の命大事にして! 

 俺はブーメランが返ってくる事を恐れない男だ。御剣先輩に怒られれば良いと思うよ。

 

「桜姫先輩って無茶ばかりするんですよ! 御剣先輩もっと叱ってやってください!」

 

「お前が言うなーーーー!!!」

 

「ちょ、かりん……揺らさないで……! 頭揺さぶられると、ちょっと吐きそう」

 

『俺がついてる以上、優希には絶対無理させないさ。北条さんも頑張れ』

 

 かりんが大声で叫び俺の方を両手で掴み、ガンガンと振る。

 ……疲労の所為で、頭が……頭が。

 御剣先輩とかりん、何か変な所で通じ合ってないですか? 

 

 俺の無茶は勝算があっての無茶しかないので、無茶じゃないって言えば許されるだろうか?

 勇治の咳払いが聞こえてくる。かりんの攻撃が止んで、正直助かった。

 

「まともなのは僕だけか……で、銃に水鉄砲で対抗するって手塚正気かよ。しかも、『ドア開閉機能』ってそんな事できるのかよ……」

 

「……やっぱそれだよな。どれだけ考えて安全を確保しても、理外の一撃はどうしようもないというか、攻略本や攻略wikiのありがたさが分かった」

 

 頭を真面目モードに引き戻しつつ、大人の男二人の戦略に思いを馳せる。

 初見殺し……このゲームはやろうと思えばどこにでも隠し要素が隠されており、知恵と知識でどこまでも悪巧みができるのだ。

 そして、残った敵が主催者側二人と考えると、相手は熟練者でこっちは素人5人。うん、まともにやっては勝てないのは確定しているようなものだな。幸いなのは、向こうには何かしらの縛りがあるであろうことくらいか。

 

「それにしても、よく爆発で無事でしたね。『6』と『8』のPDA」

 

『炎が着火した時点で、鞄の中にPDAを入れて放り投げてたみたいなの。壊れるより、奪われた方がマシという判断だったんでしょうね』

 

「なるほど、死中に活を求めるようなクレバーさですね」

 

 死んだけど。という言葉は呑み込む。

 俺の印象でも、あの男は相当に隙がなくて手慣れている印象だった。

 だから、姫萩先輩の仇を含めなくてもここで死んでくれて良かった……と思ってしまうのは非情だろうか?

 

 ……そして桜姫先輩は気付いているんだろうか、その男の奇襲の大凡の原因は俺が作った事に。

 俺が桜姫先輩にJOKERを渡したから、男に狙われた。俺が落とし穴で逃げたから、男はおそらく『ドア開閉機能』の床利用に気付くことができた。

 

 悪意がなく、全てが偶然だ。だからか、桜姫先輩は何も言わない。

 ここで俺がそれを言及しても、気を使わせてしまうだけだ。だから俺も何も言えない。

 ……実質俺の動きが桜姫先輩と御剣先輩を危機に陥れ、手塚を死へと導いた遠因となった。

 手塚が裏切るんじゃないか? という話をしてた後に、こんな結果になろうとは……。

 

「進矢?」

 

「……ん? あぁ、悪い。最初にかりんがあの男に話しかけなくて、良かったと思ってな」

 

「大丈夫、でもないけど。その時の私だったら、そういう人は信用できずにすぐに別れたと思う」

 

 悪い思考のループに入ってた俺の耳に心配そうなかりんの声が聞こえる。

 咄嗟に言い訳を思いつくが、そう言われると最初のかりんから今のかりんが全然想像できない。

 全方向警戒モードと、信頼モードの落差が凄くて心配になる。

 彼女の境遇と彼女自身の性質を考えればそういう風になるのは仕方ないのかもしれないが。

 

 なんて考えていると、PDAから御剣先輩の声が聞こえてくる。

 

『結果、首輪目当ての別の悪い男に捕まったんだな』

 

「そのネタ引っ張ってきます? 俺はこれでも人の悪意を看破するの専門です、詐欺って長続きしないのでやったらすぐごめんなさいしますよ」

 

「でも、悪い人ってみんなそう言うよね?」

 

「良い人だってそう言うから破綻してる論理じゃないか?!」

 

「大丈夫! 進矢が悪い人でも、最後までついていくから!」

 

「悪い人を否定する気無し!?」

 

 笑いながら、かりんが俺の隣に来て座る。お前本当に、将来悪い人に騙されても知らないぞかりん!?

 まぁ、単純に良い人ってだけではこのゲームはクリアできないだろうから、俺としては悪い人呼ばわりされても構わない。

 ここは清濁併せ呑むのがベストだろう……今、ここにいる5人でそれが一番できそうなのは俺だけだ。

 

『強固な信頼関係で結ばれてるのね。それで、私は手塚さんの最期の言葉が気になってるの……同じ悪い人として、川瀬の意見を聞きたくて』

 

「俺イコール悪い人をメンバー統一見解にしてくるの止めてくれません? それで、手塚の言葉……ですか」

 

 勝手ながら、手塚の死の一因を担ってしまった人間として彼の言葉を活かす責任が俺にはあると思う。

 桜姫先輩から聞いた手塚の言葉を咀嚼するように思い出していく。

 

【このゲームに、勝ちたいか?】

【だったら、全てを疑え】

【固定観念を捨てろ。このゲームのルールは絶対じゃない】

【もっと絶対的なものがある】

【奴らを上手く使え】

【それがお前達に残された唯一の勝ち筋だ】

 

 俺なりに解釈はあるし、得意げに推理をしたい。

 だが、今までの俺の失敗がそれにブレーキをかける。

 そのやり方は話がはやいが、俺達全員の為にならない。

 

「手塚さんの言いたい事は俺なりに分かります。でも、全部ではありません。それに、今まで何度かやらかしたのと同様に見落としがあるかも知れません。だから、全員で考えていきましょう。手塚が分かったんだ、悪い人仲間として分かるよな? 勇治?」

 

「俺にも擦り付けるのかよ! えっと……文字通りに受け取ればルール以上に重要なものがあって、それを踏まえて誰かを利用しろって意味だよな」

 

『川瀬君が、このゲームはやらせ前提のリアリティショーって言ってたわよね? 私がエクストラゲームで、条件が一部変わってるから、皆で生き残れるエクストラゲームを起こさせる、とか』

 

「でも、エクストラゲームってあの一緒に居る人を殺せって奴だよね? スミスがそんな条件を出すとは思えないよ」

 

『待ってくれ。ショーってどういうことなんだ。そもそも、何の為にこれが行われてるって言うんだ!?』

 

「……今のは俺が悪いですね、バッテリー問題もあるので項目を分けて考えていきましょう」

 

 議論がとっちらかりそうになったので、ストップをかける。

 だが、重要な要素は全て出てきたと思う。

 締めと要点だけ俺が捕捉するという形で、基本的には皆の話についていく形にするのがベストかな。

 

「『このゲームはそもそも何か』『手塚の言う奴らとはどういう意味か?』『エクストラゲームの利用』……まぁ3点かな。内、エクストラゲームに関してはまだ保留にしましょう。何かしらの落としどころは向こうが用意するとは思ってますが、判断材料が足りなすぎます」

 

 正確に言えば、向こうが用意するエクストラゲームの予想はついている。

 だが、郷田真弓の言葉から十中八九それは隣にいるかりんに関係すると思われる。デリケートな話になるのであれば、公開の場で議論するのは望ましくないというのが俺の判断だ。

 ついでに言うなら、エクストラゲームに頼るのは最後の手段というのあるが。

 

「ゲームは何かに関しては、ショーである根拠に関して桜姫先輩に話した通りだと思います」

 

『確か……【殺し合いを促進させるエクストラゲームの存在】【私や総一、川瀬君や姫萩さんをはじめとした、意図的な配役】だったかしら? 加えて言うなら【エクストラゲームの結果、私達に被殺傷武器を渡した事】、あと【誘拐犯側の渚さんの行動】もショーである事を裏付けている気がするわね』

 

「僕も見られてるんだろうなとは思っていた。けど、文字通りの見世物、か。僕達は殺し合いゲームの参加者というよりは、殺し合い映画の登場人物ってことか」

 

「映画や小説とかで人が死んだり殺したりはよく見たよ、だけど本物の人間にやらせるなんて、そんなの正気じゃない……」

 

『一体、何が目的でそんな事を……ッ!?』

 

 ふーむ、比較的冷静に議論ができそうなのが、桜姫先輩と勇治。

 感情が受け入れて無さそうなのが御剣先輩とかりん。

 イメージ通りと言えばイメージ通り。

 勿論、推論に推論を重ねている部分もあり、全てが真実ではないだろう。

 しかし、前提条件をある程度正確に把握しなければ、打つべき手が見えてこない。

 だから、心を鬼にして此処は少し冷たくなろう。

 

「目的は、それは需要がある……つまり楽しいからでしょう。で、俺もこのゲームを主催している連中が宇宙人やら火星人なら良かったと思いますが、間違いなく正気の人間が行っていると思います」

 

『どうして、そう思うの?』

 

 PDA越しに聞こえる桜姫先輩の端的な言葉。

 勇治の顔は彼にしては珍しくやや焦りの表情があり、かりんからは怯えが見えた。

 できれば、皆で意見を導き出したかったが、この結論だけは俺だけしか言えない。

 

「高校レベルの世界史知識があれば、人間がどういう存在なのか分かる筈です。そして、そうでなくても、知ってる筈です。俺も、桜姫先輩も、御剣先輩も、勇治も、かりんも。外の経験から大なり小なり知っている筈です。この殺人ゲームは、極めて人間的なものですよ」

 

 人は他人が傷つく姿に何かしら感じ入るものがあるらしい。

 ローマの闘技場は有名な話で、昔は処刑が娯楽だったというのもそう。あるいは人種や宗教が変われば、相手を人間扱いせずにどこまでも残酷になれるという例もある。

 俺だって、インターネットでグロ写真を見たり、趣味の悪い小説やゲームだってよくやる。

 

 そして、そういう悪さというのは大なり小なり各人が抱えている筈なのだ。

 ここにいる5人の内、俺と勇治以外はそういう印象があんまりないだけで。

 

 しかし、そうじゃない3人でさえ、他人との関わりで、人間が完全に善性だとは誰も思っていない筈だ。

 正義感が強く、それ故に孤立した桜姫優希。彼女の唯一の味方だった、御剣総一。

 歪みを持ち育った長沢勇治。両親がおらず、大病を抱えた妹を抱えていた北条かりん。

 多くの悪意に囲まれて生きてきた筈だ。

 自ら積極的に危険や悪意に飛び込もうとしていた、俺とは違い望まずして。

 ……なんだ、俺はやっぱり悪い人じゃないか。

 

「俺達はゲームのプレイヤーじゃない、奴らにとっての駒に過ぎない。その認識こそが、スタートラインだと、そう思っています」

 

『そう……川瀬君。貴方の言いたい事が少し分かったわ、【奴ら】とはこのリアリティショーを執り行っている人間ではない。ショーを見ている側の人間、視聴者……彼等を上手く使えってことね?』

 

「えぇ、手塚はそう言いたかったのでしょう。そして、これでようやく具体的な話を進めることができますね」

 

 青い顔で俺を見つめるかりんの表情を見て、手を伸ばそうとして止めた。

 今は安心させるべき時ではない。

 

 これで前置きは終わりだ。

 全員で生き残る為にどうすべきか、それを話し合わなければならないのだから。 

 これを見ている連中にもちゃんと聞こえるように。

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