秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第十九話 帰るべき日常

 

 

 

 

――――――――――

お伽話はドラゴンの存在を教えるものではない。そんな事、子供たちは知っている。ドラゴンを殺すことが出来るとお伽話は教えるのだ。

G・K・チェスタトン (英国の作家)

――――――――――

 

 

 

 

 シャワー室に静寂が支配する。

 防音が効いているのか、2人の吐息と心音しか聞こえない。乱れた心拍は徐々に落ち着いてきた。

 落ち着いたら落ち着いたで、別の現実に向き合わなければならないのだけれども。

 

「どうして、分かったんだ」

 

「……何が?」

 

「俺が言って欲しい事とか」

 

 ひとしきり泣いて冷静になった俺は、恥ずかしさと情けなさが同居するなんとも言えない心境になった。

 ……それを誤魔化すように、いつの間にかかけがえのない存在になりつつあるかりんを抱きしめながら疑問をまず言葉にする。

 かりんの顔が見れない。

 

「昔、かれんが……あたしに嫌われようと色々やってた事を思い出してね。その時のかれんに雰囲気が似てたから」

 

「……凄いな、かりんは」

 

「大した事は無いよ。ただ……あたしは、それしかできないだけ」

 

 自分の死を悟り、相手を悲しませない為にわざと嫌わせようとする手法か……本心ではないので、大事な人なら看破されるだろう。

 経験値の差により、見事に見破られてしまったわけだ。全く……頼りになる。

 

「これはもう、かりんを今後は女の子扱いはできないな」

 

「それ、どういう意味?」

 

「立派な大人の女性だってこと」

 

 格好良いこと言ってるように聞こえるだろう?

 相手が年下の女の子だと恥ずかしいから対等だと思って、恥ずかしさを薄れさせてるだけなんだぜ? 

 ……かりんならバレてるかもしれない。

 

「ようやく、あたしの魅力に気付いた?」

 

「気付いてたと思ってたけど、低く見積もっていたようだ」

 

「なーんて、進矢もあたしを過大評価し過ぎ。本当に大した事はできないから」

 

「誰かを精神的に支えるって事は大した事なんだよ、少なくとも俺にはできないからね」

 

 パーソナルスペースをずっと意識してきたが、今はもうそんな気持ちがなくなっている。完全に入り込まれてしまったというべきか、今では密着距離で安心感を覚えている。

 この殺し合いゲーム始まって以来、一番心が穏やかになっているのかもしれない。思えば最初は高揚感で、恐怖を誤魔化していたんだろうなと今なら分かる。

 

 さて……本題に入るか、今までは前置きだ。

 前置きで思ったより重い話になって、泣いてしまったのは俺のミスです。

 

「で、この流れで言うのもなんだけど。かりんとだけ話したい大事な話があるんだけど……」

 

「え、何それ!? ちょ、ちょっと、待って……まだ心の準備が」

 

「落ち着け。心の準備が必要な話ではあるけど、多分方向性が全然違う」

 

 声がうわずったかりんに何となく考えが読めたような気がして苦笑する。

 いや、抱き合ってるから、こういう思考になるの分かるけども! ……ちゃんと、ちゃんとこうなってる合理的理由が無くはないから!

 

 恋愛面?

 俺、失恋後は1ヶ月間次の恋愛はしないというマイルールがあります。クールダウン大事……そんな事、考えてる時点で意識はしているのだけれども。

 

「かりんのご両親について……話して、大丈夫か?」

 

「うん、あたしも……聞いて欲しい」

 

「好きだった?」

 

「.……うん。二人共仕事とか、かれんの病気を調べたりするのであたしにあまり構えない事を気にしてた。2人が死んだのって、かれんの治療費に3億8千万が必要って聞いてすぐなんだ……今思えば――」

 

 かりんの髪を撫でて言葉を止める。思わず抱きしめる力を強める。

 湧き出るのは罪悪感だ。ゲームに参加した当初、興奮していた自分を思い出す。ここまで、周到に悪意があって人の人生を狂わせているとは思わなかった。だというのに、彼女を救うには結局はゲームを行っている連中の力を借りざるを得ないのだ。

 

「そっか、大丈夫。そこまでか――ごめんね。かりん……ごめん」

 

「悪い癖だよ……全てを背負い込もうとするの」

 

「直そうとは思ってるんだけどな、時間が許すなら思い出話を沢山聞きたいよ」

 

「うん……あたしも、聞きたいし話したい」

 

 生き残る方法を必死に考えてる筈が、もっとかりんの事を知りたくなってしまう。これもまた、生きて帰る理由が増えたと思っておく。

 それまでは、全力を尽くそう。許されるならかりんがそうしてくれたように、今はまだ細かい事情を知らなくても心の支えになろう。

 

『ゲームの事を話す。これから行われる事を考えて、主催者が何をしてくるか考えたんだ。誰にも聞かれたくないから、今は2人だけで共有したい』

 

『う、うん……分かった』

 

 お互いに抱き合いながら、耳を近づけて小声で話をする。手で身体に浴びない場所のシャワーを出し、雑音を放出し、盗聴されても聞き取れないように工夫する。

 

『エクストラゲームではきっとかりんが主役になる、郷田真弓との因縁を使う気だ。……かりんはどうしたい? できるだけ、尊重する』

 

『あたしは……このゲームが始まった時、このゲームが本当である事を願っていた。それに……あたしにとっては、かれんの事が一番大事』

 

『大丈夫、全部喋ってくれ。迷惑なんてことはない』

 

『お父さんとお母さんも、きっとあたしとかれんの幸せを祈ってると思う。だけど……憎いという気持ちが無いというなら、嘘になる、と思う』

 

 雑音が支配する世界の中で、かりんの言葉を必死に拾い上げる。

 これを残酷な運命と言うには、少々人の手が介在し過ぎた。それでも、かりんに背負わされた運命は、その重ねた年月と小さな身体に比して大きすぎる。彼女を救うなんて大言壮語は言えないが、せめて俺にできる……いや、やりたいことは……。

 

『そっか……約束するよ。このゲームは絶対、俺が終わらせる。どういう決着であれ、郷田真弓に落とし前をつけさせる。……どうしても、殺したいというのなら、止めはしないが、せめて……俺に罪を共有させて欲しい』

 

『バカ、そういう時は止めるものじゃないの?』

 

『明らかに一時の感情ならクールダウンを要求するけど、ちゃんと決めた事なら俺は止めないから』

 

『……あたしは、皆の方が大事だし、進矢に人殺しになって欲しくないよ』

 

『うん、そうだよね。俺もかりんに人殺しになって欲しくない』

 

 不謹慎ながら、殺人を否定したかりんの事を嬉しく感じる。

 法が正しく機能しなければ私刑が横行するらしい。その為に法があり、個人に代って法が人を裁くのだ。だが、このゲームは完全なる治外法権。あるのは個々人のモラルのみ。

 そんな中で残されたモラルは何よりも尊い。

 

 だから、自分の中で浮かんだ懸念を伝えるのが心苦しい。

 俺がこのゲームを主催する側の人間なら、5人の中で誰を裏切らせるか……裏切らせる要素があるか……誰が裏切ったら一番盛り上がるか、それが分かってしまう。

 

『それと、もう1つ……懸念事項を伝えておく。全員生還の為にルールをねじ曲げる事と引き換えに、賞金の剥奪があり得る……かもしれない』

 

『……!?』

 

 かりんの身体がこわばる。

 思うに、このゲームの主催者は命の選別をさせるのが大好きだ。そして……それを誰にさせるか? と問われればかりんだろう。

 

 日常に戻って普通の高校生やってる俺には……訂正、今の仲間全員の力を合わせても短期間で三億八千万を調達する事は絶対に不可能だ。

 だから、最悪の事態を想定し、かりんに心に準備をして貰う必要があった。

 

『その場合、俺の命までならくれてやる。だから、早まった事はするな……痛っ。最悪の場合って意味だぞ、死ぬ気でどうにかする方法を考えるって意味だ。予想してるのと、予想してないのとでは対応が全然変わるからな』

 

『冗談でも死ぬとか言うの禁止……あたしも、早まった事は絶対しない。進矢を信じてるから』

 

 うっかりと禁句を漏らしてしまい、背中をつねられてしまった。もう死ぬ気はないのだが、口癖になってしまったか? 気をつけよう。

 

 ……やれやれ、ここまで期待されてしまえばやるしかないか。

 

 正直賞金に関してはそこまで心配していない。視聴者に配慮したドラマチックな全員生還を目指す事をわざわざ主催者に宣言したからだ。賞金放棄宣言には命を懸けてショー台無しにするストライキ敢行する覚悟である。

 ……死ぬ気はないのでチキンレースになりそうだが。

 

 

「さて、最後に……言っておきたい事だけど」

 

 大きく深呼吸して、かりんを引き離し、彼女の大きな瞳と眼を合わせる。仄かに紅潮した優しげな表情をした彼女を見て、恥ずかしさで一杯になる。顔を逸らしたくなるのを堪え……言葉を続ける。

 

「俺は十分、かりんの優しさを貰った。強さも信頼を受け取った……絶対に皆で生き残って帰るから、1階が進入禁止エリアになったらかりんは降りて構わないぞ」

 

「矛盾してるよ。絶対に生きて帰るなら、あたしが降りたら1人だけ仲間外れじゃん」

 

「ごめん、野暮な事を言った。だったら、ゲームの最後まで俺に付いてきてくれるか?」

 

 更に、強く降りるように促そうとして止めた。

 偽らざる本音を言うのであれば、かりんはこのゲームに参加するまでに十分苦労をしたのだから、ここで苦しむような事にならないで欲しいと思う。

 だが、感情面で言うならば絶対に降りる事を承知してくれないだろう。感情論による言い争いになれば、俺は絶対勝てない……既に証明済みだ。

 理性的に考えれば、下に降りたかりんにだけ、変なエクストラゲームが飛ぶ危険性を否定しきれない為、それならば一緒に居た方が安心なのかもしれないと自分を納得させる。

 

「うん。エスコートお願いね。あたしも頑張るから」

 

「エスコートって、よくもまぁそんな言葉が出てくるな。……分かったよ。そう言われてしまえば直々にハッピーエンドまでエスコートするよ」

 

 

 立ち上がり、座ったかりんに手を伸ばす。

 ぱっと明るい表情を作ったかりんは、俺の手を握って立ち上がった。

 体重的にかりんは軽いと思うが、心情的には重い。まぁ仕方無いか。それだけ大切って事なんだから。

 

 目指すべきハッピーエンドはまだまだ遠いが、なんとかしよう。

 既に頭の中で道筋はできている。

 問題になってくるのが、郷田真弓と綺堂渚の存在。何をしてくるか方向性までは読めても具体的にどうくるかはでたとこ勝負になる。地力で勝ってる相手に対抗するにはどうするべきか……中々難しい問題になるだろう。

 

 ……全く、戦闘力で格上の人間を殺さずに無力化しようだなんて無謀すぎる話だ。女の子の横に居たら格好つけたくなってしまうのは、どうしようもない男の性だな。

 

 かりんへの手を握る力を、強める。

 ゴールへの道は、まだまだ遠い。

 

 

 

 

 

 

「……ふー! スッキリしたー!」

 

 その後、かりんは改めて料理に、俺はシャワーを浴びることとなった。

 シャワーを浴びてすっきりした俺は、服を着替えて更衣室を出ると料理の良い匂いがしてくる。おかしい、この殺し合いゲームは乾パンと角砂糖で乗り越える覚悟だったのだが。

 いや、ありがたいんだけどね。この匂いはカレーっぽい。多人数で食べるには持ってこい、なのか?

 手伝える事があれば、手伝いたいが……邪魔になってもいけないな。そっとしておこう。顔を合わせるのが恥ずかしいわけでは、多分ない。

 

「勇治、そっちはどうだ?」

 

「さっき、桜姫のお姉ちゃんから連絡があって、『6』番の男の首輪解除できたからこっちに向かうって」

 

 襲ってきた男は死後に念願叶って首輪が外れたらしい。彼にとって、何の意味もないだろうけど。いずれにせよ、死者の首輪を外せる事が分かったのは収穫だ。後は、PDAを5個破壊すれば矢幡麗華の首輪を外す事が出来る。これで勇治の首輪収集条件はクリアできるってわけだ。

 

「おっけー、エアーガンの調子はどうだ?」

 

「そっちはバッチリ! 本音を言えば実銃撃ちたいけど」

 

「……銃弾数発しか残ってない拳銃で、練習はできないかな」

 

「仕方無いから、明日を楽しみにしとくよ」

 

 段ボールに書かれた的は見事に中央を貫かれている。才能はあるらしい。

 実銃では反動がある分どうなるか分からないけども。牽制はともかく、人を撃つのはな……うまいこと致命傷を避けるなんて運試しの部分が多そうだ。

 

 さて、勇治の横に立つ。

 大した用事がある訳でも無いが、合流してから男二人になってないのでボーイズトークを少ししたくなった。

 

「俺も楽しみだよ。ところで……勇治は、俺と組んで良かったと思うか?」

 

「急にどうした? お兄ちゃん」

 

「いや、色々と激動の中でゲームの方向性が変わったから、勇治は今楽しめてるのかなって思って」

 

 出来るかぎり話をしながら上手くやっているつもりだが、勇治がどう思っているか分からない。こう……勇治は、アレだ。俺の少年犯罪知識が放っておかさないのである。

 ニュースになるような少年犯罪は犯さなくても、一歩手前の予備軍っていうのは沢山居る。そういう人間を、おそらく組織は情報網から拾い上げゲームの参加者にしているのだ。

 そう考えると、【3人殺し】貰った俺は3人殺すような人間と思われていたという意味で心外だが。

 

「そうだな、用意されたレールじゃなくて、道なき道を切り開く感じで楽しいよ。進矢お兄ちゃんはかりん泣かせすぎだと思うけど」

 

「……!? 聞かれてたかッ」

 

「実際、そこのとこどうなのさ?」

 

「まず誤解を解く、泣いてたのは俺だ。で、どうってどういう意味?」

 

 分かってないなという勇治の顔。

 いや、分かってはいるけど、恋愛面っていう意味なのは。

 ただ……俺の中で、吊り橋効果疑惑があるから、ちょっと心を決めかねてるだけで。

 

「鈍い……女としてってことだよ。正直、人を好きになるってよく分からないんだけど、人のを見るのは面白くはある」

 

「おいおい、勇治。遅れてるな、俺なんて勇治の年齢の頃には一回女の子に告白して玉砕済みだぜ」

 

「自慢して言うことじゃない!?」

 

「0戦0敗より、1戦1敗の方が男らしいじゃないか!」

 

 まぁ、その時の俺は相手がどうこうというより恋に恋してた面が強いと思うけど。作戦も何も無かったし、痛い思い出だ。相手は俺より強い剣道部の女の子で、性格的には気が強かったしちゃんとしてた……桜姫先輩寄り? 

 俺は強い女性が好きらしい。

 しかし、かりんに気付かされたけど、今思えば俺に恋愛は難しかっただろう。自分の片想いの間は気にならないけど、相手から好意を向けられると人間不信で萎縮状態になるって俺自身知らなかったし。仮に告白成功しても長続きしなかった気がする。

 

「敗北を恐れないのは……男らしい、のか?」

 

「ハハハ、まぁ恋愛どうこうはこのゲームが終わってからゆっくり考えれば良いんだよ。こんな場所じゃ、どうせ冷静な判断はできっこないし」

 

「……向こうは絶対そう考えていないような? まっ、俺には関係無いか、好きに弄っておくよ」

 

「馬に蹴られないように気をつけて」

 

 悪戯っぽい笑みを勇治が浮かべる。

 思い返せば、勇治はちょくちょくやらかそうとしていた気がする。そう考えれば、確かに俺は鈍い……というか無意識に思考から除外していたな。まぁ勇治が楽しめているなら良いか、楽しむ部分を間違えてる気がするが。

 

 あんまり踏み込み過ぎない程度に、もう少し根幹に踏み込んでみよう。

 

「じゃあ、勇治……ゲームは置いといて、日常生活はどうだった? 家とか学校とか」

 

「うげ、それ聞くのか……進矢お兄ちゃんは良いよな、楽しい兄ちゃんが居て」

 

 話題を振ると勇治はしかめっ面をした。

 俺もあんまり学校が好きというわけでもないので、それ以上に酷そうな勇治の気持ちは大体分かったような気がする。

 

「その答えで十分分かった。俺も似たような感想を抱いてたんだけど、結局のところこのゲームが終わったら日常に帰らないといけないわけだ」

 

「そうだな、まっ……帰ったら賞金たんまり貰えるわけだし? 暫く好き勝手遊ぼうかなって思ってるよ」

 

 あんまり楽しく無さそうな表情で勇治は言った。

 もし、このゲームに参加しなければ……多分俺も似たような状態だった気がする。

 

「あー、その事なんだけど、進矢お兄ちゃんのありがたいお言葉を聞く気はない?」

 

「……げ、説教でもするっていうのかよ?」

 

「違う違う……このゲームに対する考え方の話。こう例えるのはちょっと、抵抗はあるけど」

 

 折角、このゲームで勇治に知り合えた訳だし、お節介ながら彼の生きて帰った後の事が気になり始めてきた。皮算用なのは確かだけど、健やかに育って欲しい。

 そういう時にまた兄弟の力を頼るのは恐縮だが。

 

「児童文学で日常に問題のある子が、ひょんな事からファンタジー世界に冒険して、成長して日常に帰るという黄金パターンがある」

 

「そんな子供っぽい本読まないんだけど」

 

「結構名作あるからオススメだぞ。それで、ここで大事になるのは内面の成長だ。例えば、このゲームで得た銃や賞金で、家に帰っていじめっ子なり気にくわない奴に報復したとして強くなったと言えるのか?」

 

「ぐっ……言いたい事はなんとなく分かったよ」

 

「このゲームにそれを当てはめるには血を流しすぎたけれども、勇治に宝籤にあたった人みたいに破滅しないで欲しいんだよ。ズルしてチートして、日常が上手く行くわけないんだから」

 

「それも、進矢お兄ちゃんの兄貴の教えって奴?」

 

「残念、俺の弟の方だ。ちなみに兄貴の方はズルしてチートしたいっていつも言ってる」

 

「お、おう……台無しだな」

 

 良い事を言おうとしたつもりが、オチをつけてしまった。

 考えてみると弟にはいつも迷惑をかけているな。帰ったら優しくしてあげよう。

 

 弟が力説している場面を思い出す、某有名児童ファンタジー小説のコンセプトが大体そういう感じなのだ。

 安易に力を求める小説が多すぎるんだと、表層はそこではなくて大事な根幹を大切にしろと……趣味があんまり合わない弟が言っていた。

 ……俺? 俺はミステリーが一番なので、中立だけど。

 人間としてまっとうなのは弟の理論だな。

 

「ともあれ……いじめっ子に対抗できる精神性だったり、理不尽に立ち向かい意志だったり、色々な考え方に触れて勇治は勇治らしく成長して欲しいと……自称兄貴分の俺は思うわけなんですよ」

 

「ハァ……お兄ちゃんはお兄ちゃんで真面目だな。それと……自称は要らねぇよ」

 

 勇治は溜息を吐いて、諦めたように呟くのであった。

 

 

 

 

 その後、勇治からエアーガンを受け取り、勇治はシャワーを浴びて貰う。

 俺はと言えば、戦闘禁止エリアの入口前に座り込み、銃弾を掠めてた腕に包帯を巻く。シャワー浴びた時に痛くて痛くて仕方無かったのだ。

 『銃創』って漢字で書けば格好良いし、弾丸で撃たれた痕って考えれば日常では考えられない凄い事ではある。結果さえ伴えば立派な男の勲章だったんだが……残念だ。

 

 さて、考えよう……見張りという名の考察タイムだ。

 考えるべき内容はやはり、残された主催者側の人間二人だ。どうせ真っ向勝負で勝ち目はないんだ、となると得意分野で勝負するしかない。すなわち、考えて考えぬくことだ。

 

 思考の海に沈んで暫くした後、戦闘禁止エリアの中から声が消えた。

 

「あ、進矢! 料理できたよ!」

 

「おっけー! こっちは二人も2階に上がってきたらしい、首輪探知の結果によると綺堂渚と郷田真弓は3階に上がってるっぽい。暫くは安全だな。配膳、手伝っておくよ」

 

 奇襲はなし……最低限警戒していたが、ここからさらに人数減らせば俺達の勝ち目は薄くなる。このゲームがショーであれば、3日間の戦いを演出しなければならない。だから、短期決戦過ぎるのも困るだろうという判断だ。

 また、結果が分かりすぎているショーというのも面白くない。ある程度、戦力の均衡は必須となる。……ただでさえ熟練度の差があるのだから、人数差を削る事はないと考えた。

 

 シャワーの音は止み、更衣室からは着替えている音。

 

 ……全員集合か。

 

「スミスく~ん、5人揃ったら出てきて欲しいんだけど。俺達は全員生き残りたい、お前達はショーを盛り上げたい。win-winな関係でいれる内に、話し合いたいと思うんだけど……そこのところどう思ってるのかな?」

 

 このゲームが強者が弱者を一方的に殺戮するものではないことは把握済みだ。郷田真弓と綺堂渚の言動が証明している。だから、カモフラージュされた監視カメラに向かって俺は話しかけた。

 

 正直、スミスとの交渉で全員生還作戦は上手く行くわけがないとは思っている。

 でなければ、スミスのベースを旅人を迷わせるジャックオーランタン以外にしているだろう。

 

 では、何故呼びかけるか?

 

 どう動くか分からない郷田真弓と綺堂渚の行動を制限したいからだ。あの二人に勝つには、まず盤面のルールを整える必要がある。 ルール無用で戦えば、俺達の負けは必至であり当然の処置だ。

 

「また、悪い事考えてる」

 

「それは違う、と思うぞ」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべたかりんに指摘された。

 失礼な、悪巧みは苦手な方だよ。

 今やってるのは、既に見つけた要素からできるだけ勝ち筋を広げようとしている作業だ。

 

「その表情、あたしは好きかな。でも……他の人の彼女に色目使ったら駄目だからね? 分かってる?」

 

「正論過ぎてぐうの音も出ない……」

 

 かりんが少し顔を赤らめつつ、からかうように言う。

 その言葉にドキリとして、自省の念が芽生えてくる。

 

 色々分かりやすかったというか、隠す余力があまりなかった為、桜姫先輩への好意がバレバレだったようだ。

 人間関係って難しいね!

 嬉しい悲鳴なんだろうけど。

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