秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第二十話 トリック・オア・トリート

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

ハロウィーンは楽しくもなんともない。この皮肉な祭りには、子供たちの大人に復讐したいというどす黒い欲求が反映されているのだ。

ジャン・ボードリヤール (フランスの哲学者、思想家)

――――――――――――

 

 

 

 

 

戦闘禁止エリアの近くの部屋に簡易的なテーブルを準備し、配膳の準備を終えるとほぼ同時にカップルの姿が見えてきた。

 俺とそっくりな男の方――御剣先輩が声を挙げる。

 

「……おーい! そっち行って大丈夫か?」

 

「御剣先輩! 桜姫先輩 大丈夫ですよ!」

 

「……凄い、本当にそっくり。双子みたい」

 

 お返しに声を挙げる俺の横で、かりんが感嘆の音を漏らす。

 

 身長はほんの少し俺の方が低くて……なんか陽っぽいオーラをそこはかとなく感じる事以外は大体鏡で見る俺の顔とそっくりだ。

 世界には3人はそっくりさんが居るらしい。人口爆発により、その言葉が生まれた当時より人が多いのだから探せばもっと居るだろうって感想だ。

 わざわざそっくりさんを探して殺人ゲームに参加させるのは……手間暇かけるのを厭わない凄い事だ。ミステリー小説のすさまじいトリックのために努力する犯人の比ではない。このゲームにかかった費用の計算なんて怖くてやりたくないな! 

 

 それはそれとして、御剣先輩とは今まで真面目な話しかしてなかったので少しは砕けた喋り方で話をした方が良いのかもしれない。

 

「先輩! 突然ですが、お兄ちゃんって呼んで良いですか!?」

 

「突然なんだ? 止めてくれ、変な気分になってくるだろ」

 

「あら? 弟が居た方が、総一もちゃんとやれるんじゃない?」

 

「優希も悪乗りするな!?」

 

 兄弟みたいって言われて悪乗りしてしまった。別に反省はしていない。

 ……待てよ、御剣先輩が兄なら桜姫先輩は義姉さんになる……? アリでは?

 

「食事準備してるから! 食べながら話を……しましょう!」

 

「ちょ……かりん!? 強く引っ張らないでくれ!?」

 

 なんて思考が頭に過ぎってると、かりんに腕を引っ張られていた。心が読まれてる??? なんとなく不機嫌そうな表情になっていた。

 今の発想はちょっと業が深かったわ。ごめん、反省してます。

 

「お、桜姫の姉ちゃんに……進矢お兄ちゃんが二人!??」

 

 丁度勇治も戦闘禁止エリアから出てくる。

 来たな、兄弟ネタの元凶。

 揃ったことだし、冷える前に全員集合の食事ができるな。

 

「勇治、わざと言ってるよな!? さて、細かい話は食事しながらで良いでしょう。かりんお手製の料理楽しみです」

 

「えへへ……でもインスタントとかをちょっとアレンジしただけだから、納得できないよ。帰ったらちゃんとしたものを作るからね!」

 

 俺の楽しみという言葉に反応してか、かりんの表情がぱっと明るくなる。女の子の……それもかりんの手料理か、やばい嬉しい。まさか俺が生きている間にそんな機会に恵まれるとは……あっ

 

「ごめん、かりん。嬉しい筈なんだけど……死亡フラグって怖くね?って気持ちが唐突に溢れてきた」

 

「ちょっと川瀬君、ゲームのやりすぎとアニメの見過ぎよ。北条さんに変な事教えちゃ駄目だからね?」

 

「良いよ、桜姫さん。あたしは、絶対に進矢を死なせないし、進矢の悪い所も変な所も全部知りたいから」

 

「あー……ストップ。落ち着け、かりん。今のは俺が全面的に悪かった」

 

 恥ずかしさと嬉しさが入り交じった複雑な感情を味わいつつ、かりんの肩に手を添える。かりんの気持ちはアレだ、桜姫先輩に俺を取られたくない故の敵愾心とかだ。通信時にかりんから発せられてた嫉妬オーラは、俺に対してだったらしい。今気づいた。

 気持ちは嬉しいけど、かりんの不機嫌オーラが止まらない。どうやって止めれば良いか……ちょっと経験値が足りないので分からない。

 誰か助けて……という気持ちで御剣先輩の方を見る。

 

「川瀬は良いな、全部理解しようとしてくれる彼女がいて」

 

 違う、そうじゃない。

 

「……あ、そう見える?」

 

 彼女という言葉に反応してか、かりんの機嫌が良くなった。

 御剣先輩は正しかったのか、かりんがチョロいのか。

 それはそれとして家に帰った後、見られたらまずいハードディスクデータは念入りに隠しておこう。……心の中で決意する。

 

「北条さん、ちゃんと捕まえとかないと駄目よ。きっと無理しちゃうから」

 

「ブーメランが返ってきた……!?」

 

「うん! 無茶しようとしたら、首根っこ掴んででも止めるから」

 

「容赦がないな!?」

 

「諦めろ、川瀬……こういう時、女には勝てない」

 

「良かったじゃん、進矢お兄ちゃん」

 

 仲良くなりそうな女性陣を尻目に、御剣先輩が諦めた表情で俺の肩をポンと叩いた。……心中お察しします。

 しかし、勝手に外堀を埋められていく感覚……まだ出会って一日も経ってない以上、スピード展開はよくないのではないか。

 まずはカレーを食べて落ち着こう。

 ひとまずは皆で仲良くできそうで良かった。

 

「良い事だとは思うけどね……冷めたら勿体ないし、後の話は食べながらしようか」

 

「はーい」

 

 戦闘禁止エリアから拝借した椅子に座ると、かりんが元気に応じて軽やかに隣に座った。自意識過剰でなければ周囲から生暖かい目で見られている気がする。……お互いに隠し事苦手だから仕方ないか。幸せを現実のものとするために、何としても生きて帰らなければ。

 全員が手を合わせた事を確認する。

 

「「「頂きます!」」」

 

 皆で食事を始める。

 尚、カレーは普通に美味しかった。

 初めて食べた味だが、日常の味という感じがした。

 こういうので良いんだよ、こういうので。

 

 

 

 

 

 

「スミスー! カボチャー! 元ネタはカブー! プリーズギブミーチョコレートー! 天国からも地獄からも出禁野郎ー!」

 

「うーん、返事はないわね。何か条件があるのかしら」

 

 ある程度、和気あいあいと食事が進んだところで、ゲームの話に移った。

 エクストラゲームに関するお話だ。

 現在、主催者側がどのように動いているか分からない。

 今後の指針とするため、向こうがどう出るかを知りたいのだ。

 その為に先ほどからスミスを呼びかけるも返事が無い為、いつしかスミスへの悪口大会へと発展していた。……何をやってるんだ、俺は。

 

 正気に戻った俺は桜姫先輩の言葉をヒントに返事がない理由を考える。

 こういうのは決定権を持つ側が強いのは当然な訳で……。

 

「条件……条件、参加者側から好きにスミスを呼べずに、あくまで主導権は主催している側である事を示したいんでしょうかね。俺たちが眠りに入ったころに唐突にエクストラゲームが始まったり、罠で強制分散分断させたところや、襲撃で傷ついたところを……みたいな感じで」

 

「うわ、性格悪ぃ……自分が圧倒的強者って立場を崩したくないのか」

 

「進矢……大丈夫なの?」

 

「うーん、方向性としては幾つか考えてるけど、どうにか相手を交渉のテーブルに乗ってもらいたいところだ」

 

 不満げに喋る勇治と心配そうに見つめてくるかりん。

 かりんの柔らかい茶髪を撫でつつ、ちょっと手詰まりだ。

 考えとしては、一旦このまま睡眠に入って様子見。あえて、主催者側の意図に乗って分断されたうえでエクストラゲームに乗っかる。等々、ある程度リスクを見越した対処療法的な消極案しか浮かばない。主導権を握られるというのは、あんまりよろしくないが……最終決定権を持つのが相手側である以上、仕方ない事なのか?

 

 くっ、格好よくスミス召喚の詠唱っぽい事をしたのに恥をかいてしまった。ノリが悪いぞスミス! 出てこいスミス!

 

「よし、食べながら次の案を考えよう……焦っても、敵の思惑通りになりそうだからな」

 

「うん、そうだね……あたしも焦っても仕方ないと思う」

 

「あー……その件なんだが、一つ案があるんだが、俺に任せて貰っても良いか?」

 

「……御剣先輩?」

 

 一旦思考を打ち切り、残り僅かになったカレーに手をつけようとしたところで、何やら考え事をしていた御剣先輩が真剣な表情で声をかけてくる。

 なんだろう……この雰囲気は、思わず背筋をピンと伸ばす。

 

「何か思いついたんですか?」

 

「あぁ、だけど……後戻りはできないかもな」

 

「勝算は?」

 

「お前の推理が正しければ十分にある」

 

「なら、お願いします」

 

 ……何を思いついた?

 それは分からないが、疑う事は止めた。

 俺と御剣先輩の関係はほとんど無いと言っていい、だが隣にいる桜姫先輩が信頼に満ちた目で御剣先輩を見ているのに気づいた。

 だから俺も信じる事にしたのだ、かりんに怒られるかもしれないが。

 

 それに、どうなろうと事態さえ動いてしまえば俺がなんとかすればいいという自信もないことはない。失敗しても皆でフォローしあえばいいのだ。

 

「よし……何とかしてみる。でも、後戻りはできないかもだから、フォローは任せたぞ」

 

「勿論です。御剣先輩」

 

「総一、無理しないでね」

 

 御剣先輩は緊張した表情で立ち上がると、桜姫先輩も立ち上がり、手を握り合う。……これが愛か、二人が視線を向ける方向は偽装された監視カメラである。なんだ、何を言って交渉のテーブルに引っ張り出すつもりなんだ?

 そして、御剣先輩は大きく深呼吸をする。

 

 推理ショーの始まりなんだろうか?

 俺も食事の手を止め、勇治とかりんの手をそれぞれ握った。

 

「――おい、そこで見ている連中! 俺とゲームしようぜ!」

 

「……ッ!?」

 

「聞こえてるのは分かってるんだ! ……この映像を見ているあんた達だよ!」

 

 ……そういうことかっ!?

 このゲームはリアリティショーだというのなら、視聴者が居る筈だ……それも、おそらくは生中継で。

 俺は脚本家や運営側に直接交渉しようとしていた。……だから、上手くいかなかった。手塚は言っていた、【絶対的なものがある】。俺はそれを、【視聴者に納得できる方法での全員生還】と解釈したが、もっと直接的な解法……視聴者に今後の展開を決めさせるという意味だったのか。

 視聴者はゲームを運営している連中の資金源だとすれば……この言葉に耐えられない。思いついてしまえばシンプルな答え……コロンブスの卵。

 だが、この局面であれば神の一手だ。

 

『ちょっと、ちょっとー! それは反則だよー!』

 

 スタンバイしてたのか、唐突にPDAがスミスの表示になり怒った表情で現れた。だが、なんとなく郷愁を漂わせた雰囲気を感じる……まぁ、俺がそう感じているだけなんだが。なんというか、お前たちも苦労してたんだな……みたいな同情心が唐突に湧き出てきた。

 御剣先輩がスミスに向かって言葉をつづける。

 

「なんだ。いるんじゃないか。 trick or treat? って言葉があってな。お菓子をくれなかったんだから、いたずらをされても仕方ないだろう?」

 

『ぐぬぬぬ、ハロウィンの主役であるジャック・オー・ランタンに向かって何事だ!』

 

「いいや、ハロウィンの主役は子供たちだよ」

 

 ……緊張からか、御剣先輩の声が若干上ずっているのは分かるが、それでも格好良さは損なわれない。……やばい、男だけど惚れそう。

 違う。落ち着け、俺。

 道はこじ開けられた。主導権を握り続けなければ……前のめりを続けないと負けてしまう。

 

 俺も話に入っていこう。

 

「こうやって出てきたってことは勝負ができますね。楽しいゲームにしましょう」

 

『やれやれ、お客様に呼びかけるなんて前代未聞だよ! ……油断した! ぺっ!』

 

「なーんだ、やる気はあるんじゃないか。やる気がなさそうだから、客に尻を叩いてもらおうかと思ったじゃないか」

 

 悪態をつくスミス君もかわいいです。

 なるほど、視聴者が変に暴走してコントロールが離れる前に、損切りのようにスミスが現れたというわけか。理解できる思考回路だ。

 勇治なんて尊敬のまなざしで御剣先輩を見ている……悔しい!

 

 ええい、ここから先は俺のターンだ!

 

「勝負の内容はシンプルです。俺たちはフェアなプレイを望みます。5対2と言えばこちらが有利ですが、正直5対1でもあなたたちが本気を出せば圧倒しますよね? そして、ルールが無ければ舐めプで互角の戦闘を演出する……それも面白くない。だから、縛りを設けた上でお二人には全力で戦ってほしいんですよ」

 

『そして、引き換えに皆で生き残るチャンスが欲しいってことだよね?』

 

 話が早い。想定された展開ということだな。

 舐めプされて勝負された時の屈辱感というのは悲しいものだ。ゲーマーとしてよくわかる。見てる側だって、そんなもの面白くないだろう。だから、縛りが必要になる。……命が懸かっている事以外は、俺の理解できる範疇で物事は進んでいるな。

 

『だけど、僕たちだってすでに決まったルールを覆すのは難しいんだ。それは分かるよね?』

 

「見てる連中が納得する程度には厳しい条件が必要ってことですね。十分分かってます……さっき言いましたよね? win-winな関係であろうって、さっきのスルーは貸一つって事で」

 

『うわ、図太い……いや強かっていうべきかな』

 

 せっかくなので、御剣先輩の案を無駄にしないべくさらっと貸しにしておく。

 相手の負い目を見逃さないのが、交渉のコツだ。視聴者が見ている以上、この貸しは見逃せないだろう。

 

 ついでに言えば、御剣先輩のおかげでテンション上がってきたので……せっかくなので、俺の推理を話そう。

 

「じゃあ一つ推理します。このゲームはそれこそ何十回も行われてきた、ならば……今回のように参加者が団結して、ゲームの主催者側の人間がバレた事例は存在する。だから……こういう事態になった時の、対処法のマニュアルも存在している!」

 

『ぐはっ……! バレたー!? いいもん、今回は底知れない邪悪スミスじゃなくて、ドジっ子スミス路線で行くもん!』

 

「……それでいいのか。ショービジネスも大変なんだな」

 

 御剣先輩のあきれた声が漏れる。

 邪悪スミスも俺たちにかかれば小動物スミスよ。

 さて……問題はその対処法マニュアルの内容だな、容赦なく死ね! ってしてくるのか、今更……裏切りの誘発を目論むのか。

 

 考え込んでいると、PDAの画面上のスミスはキリッっとした表情にきりかわった。今更取り繕っても感が凄い。

 

『君たちの解除条件が詰んだ首輪は3つ。だから3つの試練を与えよう……』

 

 そして、PDAに新しい項目が追加される。

 まぁ読む方が早いからね。というか、準備万端じゃねーか!

 なんで俺の声を聞き届けなかったんですかね?

 ただの嫌がらせかな? 

 いや違うな……ちゃんと高度な計算に基づいた嫌がらせだな。

 

「そうか、本来は俺たちを3つに分断させて、それぞれに1つの情報だけ渡すつもりだったのか」

 

『エスパーやめてよ!』

 

「相手の側に立って、考えを読む事は俺の得意分野の一つ。道徳教育の基本です」

 

「兄ちゃん、それって相手の嫌がる事は進んでやりましょうって奴?」

 

「そうそう」

 

「逆の意味でしか聞こえないよ進矢!?」

 

 かりんの突っ込みを受けるが、逆の意味でしか使わないから仕方ないね。

 さてさて、顔を突き合わせて向こうから提示される条件を読み込もうか。

 

 

【試練1.ゲームマスターの解除条件は『5』番である。君たちが3階に到達した時点で、4~6階のチェックポイントを回り始める。『K』の初期所有者がゲームマスターの殺害に成功した時点で、『3』の初期所有者の首輪が解除される】

 

【試練2.ゲームの中央制御室への秘密通路の入口が6階に存在する。秘密通路の中は自動攻撃機械で防衛されており、戦闘が必須である。ゲームマスターとサブマスター以外のプレイヤーは2日と23時間の経過までに、コントロールルームにあるメイン端末のパスワードに解除したいPDA番号の初期所有者の番号を打ち込むことで、その番号の首輪を1つだけ解除することができる。一方、サブマスターは2日と23時間の経過までメイン端末を守り切る事でも解除条件を達成するものとする】

※秘密通路の入口の場所を開示されている。

 

【試練3.首輪解除者を殺害した場合、殺害者の首輪が外れる】

 

【条件:双方エレベーターの使用は不可とする】

 

「なるほど、ね……」

 

 大体わかった。考察の余地は沢山あるだろうが、ひとまずは全員生存の希望は見えてきた……気がする。

 安心させる為、かりんの手を握る力を強める。

 

「ゲームマスターとサブマスターってなんだ? 想像はできるんだが」

 

 頭を働かせていると、御剣先輩の言葉が聞こえてくる。

 うん、言葉の定義は大切だな。

 これを読み違えてしまえば、ルールに穴を作られることになる。

 そして、このゲームを動かしている連中はそれが大好きだ。

 

『大体役割の違いだね、ゲームの運営を主として担っているのが郷田真弓――【ゲームマスター】。プレイヤーと行動を共にして、撮影を主として行っているのが綺堂渚――【サブマスター】』

 

「殺害の部分はどうにかならないの? 貴方たちは二人を切り捨てるっていうの?」

 

「そ、そうだよ……あたしだって、殺したく、ない」

 

『それは違うよ、優希さん。そして、残念だったねかりんちゃん』

 

 組織側の人間とはいえ……あるいは親の仇とはいえ、殺人を許容できない桜姫先輩とかりんにスミスの冷たい声が浴びせられる。

 

『殺害条件はこのゲームのゲームマスター及びサブマスターの両名から、それぞれ提案を受けて僕たちが承認したものだ。そもそも、プレイヤーに負けてしまえば組織での居場所を失う……このゲームに命を懸けてるのは、君たちだけじゃあないんだ。だから、ここは譲れないよ』

 

「糞……マジかよ」

 

「……そんなの、正気じゃない」

 

 迫真に迫ったスミスの言葉に、御剣先輩と桜姫先輩が悔しそうな表情で言葉を漏らす。ふむ、命を懸けた相手に譲歩を引き出すというのは確かに難しい……というかほぼ不可能だろう。

 まぁ、それは良い……俺としては大切な条件はそこではない。

 良い覚悟だとは思う。だが、ハッピーエンドを目指すには二人の覚悟も踏みにじらなければならないのだ。

 

 そう、俺は俺の道を行く!

 

「いや、十分だ。そこまで話ができれば、次の条件について話ができるな」

 

『次の条件って、どういうことだい?』

 

「3つある。一つ目、ゲームマスターとサブマスターにはゲームを行う上で特権があるんだろう? それの剥奪、あるいは剥奪できないまでも持ってる特権の情報の開示を要求する。知らないことで初見殺しされるのが一番興ざめだ。フェアプレイでいきたいってのは共通の認識だと思うけど?」

 

『まぁそれに関してはそうだね。 オッケー、機能の制限に関しては実施する。持ってる物に関してはJOKERを通じて確認できるようにするよ。だけど、ゲームマスターのPDAは1個しかないから、1度のみバッテリーフル充電可とするよ』

 

「把握しました。まぁ無難な落としどころか」

 

 JOKERで見れるようにすれば、JOKERで把握できるし、こっち側でも使用することができる。十分フェアと言えばフェアだ。バッテリーに関してはこっちにあるPDA数を考えれば、使用量としてはそんなもんだと言える。向こうもスラスラ言ってきた以上、条件は既に考えていたってことだどう。

 第一の条件に関しては確認のようなものだ。スミスから言質さえ取れればそれで良い。……本命は次以降だな。

 ……本命を本命と悟られないことが交渉の鍵です。

 

「二つ目、以後俺たちの作戦会議の内容や手札の情報をお前たちや盗聴結果から、郷田真弓、綺堂渚両名に伝える事を禁じる。というか、それの警戒のせいで話せないことが多いんだよ! 俺は!」

 

『まだ喋る事多いのかよ! 観客受けは良いから、良いけどさ!』

 

「うむ、ナイス突っ込みだよスミス」

 

 喋って万が一、伝えられてしまったらすべての作戦がご破算になってしまう可能性が上がる。だから、このゲームで全員生き残る為の具体的な話が今まで一切できなかった。

 エクストラゲーム? 保険だよ、それは。

 ……俺がスミスと話をしたかったのは、次に話すことですべてだ。

 

「三つ目、このエクストラゲームを正真正銘最後のエクストラゲームにしろ……後からルールの書き換えや、都合が悪いから条件の変更、その他介入は無し。それを観客に誓え」

 

『うわぁ……滅茶苦茶怖い、今までで一番首を縦に振りたくないッ!』

 

「都合が悪くなったら、ルールの書き換えや露骨な調整とか殺人ゲーム運営してる側として恥ずかしいかなーって俺は思うんですー。プライドってものがないんですか? プライドってものがー」

 

 ルールの穴を見つけたとして、それを後だしで無しにされるのが一番つらいことだ。だから、ここをまず封じ込める必要があった。あとは、かりんにも言ったことだが賞金をやっぱり無しって言われるのが俺達にとっては一番のウィークポイントである。

 どこまでスミスの中の人が俺の思惑を理解しているか分からないが、嫌な予感は感じているのだろう。そんなスミスを追加で煽る。我ながら安い挑発だとは思うが、本命はこれでエクストラゲームすらオマケなのだ。

 

『フンガー! ここまでボクを虚仮にしたのはキミが初めてだよ! 川瀬進矢! そこまで言うのなら、キミのいうハッピーエンドとやらを掴み取って見せろよぉ!』

 

「って言うように観客か上司に言われたのか?」

 

『……フン、ボクを見くびるなよ川瀬進矢! ボクの独断で! ボクの責任で! キミの条件を呑もうって言ってるの! 観客に誓うよ!  二つ目と三つ目の条件を呑む、生半端な事をするんじゃないよ! これが盛り上がると判断したから、ボクも命を懸ける!』

 

「ゴメン、スミス……お前も漢だったわ」

 

『これで貸し借り無しだよ!』

 

「把握した」

 

 ……スミスの返答がやや意外だったが、ある種の納得もある。

 このゲームはそれほどまでに大金が動いている興行だということだ。

 俺たちやゲームマスター・サブマスターが替えの利く駒であるのと同様に、このゲームを動かしている人間は全員替えの利く駒なのだ。恐ろしいことに、このゲームは替えの利く駒だけで運営されていると言った方が良いのかもしれない。

 本当の意味でヘイトを向けるべき相手の影すら、俺たちはまだ踏めてない。    

 えげつないな、全く。

 

「さて、俺としてはこれで構いませんが……先輩方や勇治とかりんは何かありませんか?」

 

 気づいたら、スミスと俺の二人の世界になっていた為、ちょっと冷静になって周囲を見渡す。

 全員が見入っていたようで、しばし無言となる。

 ……正直悪かったと思っている。

 

「川瀬君、何か考えがあるのよね?」

 

「えぇ、勿論ですよ。桜姫先輩」

 

 真っ先に口を開いたのは桜姫先輩だ。

 桜姫先輩が言うのは当然……誰も死なずにクリアする方法という意味だろう。

 その為に最初から頑張ってきたのだし、これからもその為に険しい道を進み続けるしかないのだ。その第一段階として生存者同士団結する事、第二段階で俺の条件を主催者側に呑ませる事が必要だった。これで、ようやく折り返し地点と言って良いだろう。

 

「……あたしは、進矢を信じてるから……それだけしかできないけど」

 

「良いんだよ。かりん、お前には誰も殺させないから」

 

「……うん」

 

 次にかりんが俺の腕に絡みついてくる。

 不安げな声を安心させるように話すが、かりんの掴む力は弱まらない。

 また、無茶するんだろうと思われているようだ……ぶっちゃけ、その通りです。

 苦労するのは全員だろうけどね!

 

「いよいよ、仕掛けるんだな?」

 

「そうそう、ようやくだよ。勇治にも沢山働いてもらうからな」

 

「ヘヘッ、任せとけって!」

 

 楽しそうに不敵な表情で勇治は笑った。

 本当に頼りにしてるからな、勇治!

 

「途中までは頑張ったんだが……やっぱり敵わなかったか」

 

「そんな事はないですよ、御剣先輩が居なければ俺の策は成らなかった。それは確かな事です」

 

「格好良かったわよ、総一。普段からそうしてくれると、ありがたいんだけどね?」

 

「ははは……努力はしてるつもりだよ、優希が自慢できる男になるって約束したしな」

 

「うん……でも、総一は総一のままでいいからね。無理だけは止めてね?」

 

「分かってる。優希を悲しませることは絶対にしないから」

 

 ……ちょっとこのカレー甘いよ。もっと辛口が良かったな!

 じゃなくて、二人の仲睦まじさに目を焼かれそうになる。

 かりんが期待した目で俺を見ているような気がするが、ちょっと俺たちにはこのレベルは早すぎるというか……もうちょっと時間かけたいところだ。

 

 なんて考えていれば、勇治から肘で突かれる。

 

「ここで頑張らずして何時頑張るんだよ、お兄ちゃん」

 

『漢見せろー! 川瀬進矢ー!』

 

「お前もそっち側かよスミスっ!?」

 

 参加者同士の恋愛も見世物の一部って言うのが俺の意欲を奪ってるんだよぉ!? うん、でも不安定な関係を維持し続けるというのは不安なものだろう。というか、俺が不安だった。だから、ハッキリと伝えようか。

 

「かりん、良いか?」

 

「う、うん」

 

 かりんの腕を離し緊張した状態で、向き合う。

 シャワー室の出来事以来、なんだかんだで目を合わせると気恥ずかしさが先にきてしまう。それにこんな異常な状態で関係を進めるのは……俺の主義に反する。だから言うべき言葉は唯一つ。

 

「帰ったら、必ず俺の気持ちを伝えるから……二人で、いいや全員で生きて帰ろう!」

 

「もう……仕方ないな。でも、分かった! 皆で帰ろうね!」

 

 俺の言葉を聞くとかりんは一瞬不満げな表情を浮かべたが、ぱっと切り替えて明るくなる。こうやって、かりんの表情がコロコロ変わる様を見ていると、気づけば鼓動の高まりを感じるのだ。

 

 死亡フラグなんてもう知らん!

 もとより生きて帰る目のが薄いのだ。

 ならばすべてのフラグをへし折ってでも生き残る気概が必要だ!

 

 つまらないジンクスなど、恐れている場合ではないのだ!

 

『うんうん、生きる目的があるのは良いことだ。ゲームを色鮮やかにしてくれる。それじゃあ、お邪魔カボチャな僕はここで退散かな? エクストラゲームはもうないから、もう二度と会うことはないかもしれないけどね!』

 

「それはない、必ずお前の中の人に到達するって宣言はまだ無効になってないからな。首を洗って待ってろよ!」

 

 思い出すのは以前のエクストラゲームの時だ。

 姫萩先輩が死んだあの時と比べれば吹っ切れてはいるが、あきらめたわけでも忘れたわけでもない。

 

『しぶといなぁ……だったら、このゲームが終わったらウチに就職する? 進矢君でも、総一君も、どっちも歓迎だよ!』

 

「「断る!」」

 

 御剣先輩とハモった。

 向こうもダメで元々だろうが、流石にその選択肢はない。

 

『残念。ゲームの盛り上がりは皆に託したからね! じゃあね!』

 

 こうして、スミスはプツリと消え、PDAは通常の画面へと戻った。

 一筋縄ではいかないこのゲームだが、なんとかか細い綱渡りから落ちずに済んだようだ。

 

「……では、全員条件はすべて整ったことで、俺達全員の勝利条件をハッキリさせましょう。【7人全員の生還】……異論ある人は手を上げてください」

 

 誰も上げない。問題無さそうだ。

 あっても困るけど。

 

「OK,なら次の段階……郷田真弓と綺堂渚を殺さずに無力化する事を念頭に、動いていきましょうか……でも、その前に寝ましょう。超眠いです」

 

「……そうだね、正直くたくただもんね」

 

「具体的な方法を知りたい気持ちはあるけど、分かったわ」

 

「明日は今日より大変な一日になりますよ……きっとね」

 

 大変だった一日目が終わりを迎える、後は見張りの順番とかシャワーの順番とかそういう細かい事はあるけども。そういう細かい事を話そうとした時にPDAが震えた。

 

【PS:特別サービス! 開始から24時間まで戦闘禁止にします。 そこまで言うなら、ボク達の悪意を全て乗り越えてみせろ! 地獄で待ってるぜ! byスミス】

 

「……お前は地獄に行けないから、ジャック・オー・ランタンなんだよなぁ」

 

 送られてきたメッセージに苦笑する。

 こうして俺達の一日目は終わった。

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