秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

26 / 61
プレイヤー:カード:オッズ:解除条件
御剣総一 :A:6.4:Qの殺害
葉月克己 :2:DEAD:ジョーカーの破壊
川瀬進矢 :3:6.0:3人の殺害
長沢勇治 :4:5.1:首輪を3つ収集する
郷田真弓 :5:4.9:24ヶ所のチェックポイントの通過
高山浩太 :6:DEAD:ジョーカーの偽装機能を5回以上使用
漆山権造 :7:DEAD:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
矢幡麗佳 :8:DEAD:PDAを5個破壊する
桜姫優希 :9:5.0:自分以外の生存者数が1名以下
手塚義光 :10:DEAD:2日と23時以前に首輪が5個作動している。
綺堂渚  :J:4.5:24時間行動を共にしたプレイヤーが生存
姫萩咲実 :Q:DEAD :2日と23時間の生存
北条かりん :K:4.1 :PDAを5個以上収集


第二十一話 幸福な目覚め

 

 

――――――――――――

心身ともに健全ならば、悪天候なるものは存在しない。どんな日も美しく、激しく吹き付ける嵐にさえ、血湧き肉踊るのである。

ジョージ・ギッシング (英国の作家)

――――――――――――

 

 

 

 

 規則正しい生活を送っていれば人生大抵の事はなんとかなる。

 これは、生活習慣の乱れが著しい俺や兄貴に対して、弟が何時も口酸っぱく言っていた言葉だ。本読んだりゲームしたり、ネットしたりで夜更かし多い日常だったから、言われても仕方無いのだが。

 

 だが、眠るのは常に憂鬱だった。

 何故なら、目覚めというのは基本的に憂鬱なものだからだ。

 

 ただし、それは昨日までの話ということで、今日からは新生川瀬進矢として頑張っていこう。少なくとも、ゲーム中の3日間はネット断ちゲーム断ちができるのだ。

 デスゲームで行うソーシャルデトックス! 電子ドラッグからの脱却! 

 ……無しだな。

 

「いっちにーさんしー」

 

 軽くラジオ体操を決めて、一日の準備は万端だ。

 難があるとすれば右手がとても痛い、筋肉痛である。

 痛いだけで済んでいるので、御の字ではあるけども。

 

 戦闘禁止だった為、見張りは基本的に一人のみが交互で実施。疲労の状態から俺が最後の見張りに回されている。ありがたい。

 箱を通路に持ち出して簡単な机にし、ノートを広げる。

 これから1時間半ほど、一人で見張りな訳だが……。

 

「はい、進矢。コーヒー淹れといたよ」

 

「おう、ありがとう。じゃあお休み」

 

「? あと少し寝る位なら、一緒に見張るよ。もう少ししたら、皆の朝食も作らないといけないし」

 

 それとなく休憩を促してみたが、かりんは首を傾げた。

 何と1つ前の見張り役のかりんが交代の時間になっても寝るつもりは無さそうだ……残り時間を考えると寝ないという選択も分からなくも無い。

 

「……気持ちは嬉しいけど、やっぱり少しでも休んだ方が良いんじゃ」

 

「大丈夫、進矢と一緒に居るのが一番元気出るよ」

 

「……!? ……あー、俺もそうだけど」

 

 隣に座るかりんが可愛すぎて辛いです。

 口にするのは恥ずかしいので、ちょっと目を逸らして小声で同意する。

 

 細かい見張りとかは皆に任せて熟睡余裕だったが、なんか皆で気を使ってこんなルーティンになったんだろうか。どんなに生きる気持ちで溢れていても死ぬときは死ぬだろうし、少しでも一緒に居させたいもんね……客観的に見れば分かるよ。自分の立場で見れば恥ずかしいけど。

 

「それで、『JOKER』で確認した機能一覧を見てるの?」

 

「まぁね、向こうがどういう戦略で来るか考えないと」

 

 手元のノートには、今まで見張りしてた人が書いていた自分達が持っていない各PDAをJOKERで覗いた結果が記されている。要するに郷田真弓と綺堂渚の持っている手札だ。俺達の手札と付き合わせて、考えていかなければならない。

 尚、現在見えてる範囲だと各PDAにインストールされている特殊機能は以下の通りである。

 自分の位置を表示するGPS機能とか、生存者数表示する機能は省き特殊な機能のみを記載している。

 

 

PDA【2】 ※推定所有者:綺堂渚

『爆弾とそのコントローラーのセット』……遠隔爆破可能な爆弾。JOKERで起爆は可能だが、爆弾の位置は不明。

『遠隔操作可能な自動攻撃機械のコントローラー』……現在コントロール不可状態、詳細不明。

『エアダクトの見取り図』……エアダクトの地図を拡張する。

 

PDA【5】 ※初期所有者:郷田真弓

『首輪探知機能』……起動してない首輪の位置を表示。解除された首輪を含む。

『ドアのリモートコントローラー』……ドアの開閉、ロックが可能。シャッターや上下のドアも開けられる。

『罠探知機能』……罠の位置を表示する。

追記:バッテリーが切れた際、1回のみバッテリーが全快する

 

PDA【J】 ※初期所有者:綺堂渚

『JOKER探知機能』……JOKERの位置を表示する。

『動体探知機能』……地図上の動体による振動を感知する。

『ジャマー機能』……自分の周辺のみ探知機能を無効にする。バッテリー消費大。

 

 

 

 頭を巡らせながら、コーヒーカップを口に運ぶ。

 やばい、コーヒーが美味しすぎる。

 普段はカフェインを取る為のものという認識しかなかったけど、かりんが淹れ隣に居るというオプションがついただけで驚きの甘さに。ブラックだけど。

 

「よく、何も入れなくてそんな美味しそうに飲めるね」

 

「そうだな、かりんが淹れたからかな」

 

「ただのインスタントなんだけど……」

 

「そう? じゃあかりんが隣に居るからか」

 

「……恥ずかしげもなく、そんな事言う」

 

 赤く染めた頬を膨らませ、かりんはミルクを入れたコーヒーを飲む。

 心地よい沈黙が場を支配した。できれば、かりんも同じ気持ちであると願いたい。

 劇的な何かは必要ない。こうして、心穏やかな幸せが何時までも続けば……なんて考えてしまう。

 

 このように、立場が変われば価値観も変わってくる。

 うん、この殺し合いゲームもそろそろ飽きてきたので全力を出してさっさと終わらせよう。

 嫌な事は後回しにせず、さっさと片付けろとは俺の弟の座右の銘である

 

「よし……コーヒーも堪能したことだし、色々検証してみよっか」

 

「検証? あぁ、次の悪巧みってことだね!」

 

「違いますー、俺が悪巧みするんじゃなくて、奴らの悪巧みを検証するんですー」

 

「大丈夫! 全部分かってるって!」

 

 何を分かってるか言ってみて? ん?

 なんて冗談はおいといて、かりんにはやはり笑顔が似合う。泣いてる顔も、可愛いと言えば可愛いけど。

 この子を何度も泣かせた奴酷すぎない? 俺です。

 ……ちゃんと信頼に応えないとな、気合いを入れ直さなくても気力で溢れている。

 こんな気持ちになるのが初めてで、やっぱり死にそうで怖い。

 死なないために頭を働かせよう。

 

 

 

 

 

「という事で検証結果の復唱をどうぞ」

 

「うん! えーと、【現在位置表示のソフトウェアは厳密にはPDAの現在位置を表示する】【エアダクトに入ったら探知・位置表示が効かなくなる】【ドアのリモートコントローラーは、鍵の部分に詰め物すればロックしても開けれる。逆にガムテープでドアの開閉はできなくなる】!」

 

 数十分後、かりんと色々検証した結果をノートに纏める。

 厳密にできる事・できない事を定義するのって大事だと俺は思う。

 知っている、知ってないで多分命を左右する結果になると思う。

 それぞれの考察は後に回すとして、判断材料だけを今は集めた状態だ。

 尚、ドアのリモートコントローラーに詰め物する奴はミステリーでオートロック突破によく使う手口だから試してみたかった。遊び心は捨てきれなかったよ……。

 

「宜しい。まぁこれだけあれば色々と悪用できそうだなー」

 

「やっぱり、悪巧みじゃないか!」

 

 かりんの鋭い突っ込みを受けた。

 俺は悪くない、俺が悪巧みするのはどう考えてもこのゲームを作った連中が悪い。

 でも、適応して悪巧みできるって事はやっぱり俺も悪い人って事だから――

 

「……蛇の道は蛇って事で」

 

「ぶっ。結局、そうなるじゃん」

 

 こういう結論になってしまう。

 まぁ、良い人って言われるより悪い人って言われる方が、心は安定するんだけどね。

 皆に良い人って言われた時の事を想像すると、多分心が持たない。俺も悪ぶりたい年頃なのかもしれない。

 狡猾パワーで残りの二人を無力化するのだっ!

 直接戦闘力も設備理解も負けている俺達は、それが唯一の勝ち筋だしな。

 

 なんて話してると女性が寝てる方の部屋から音が聞こえた。

 かりんは此処に居るのだから、桜姫先輩が目覚めたようだ。

 ちなみに、それぞれの寝る部屋は俺の力説により男女別とさせて頂きました。当然ですね。

 

「二人共、おはよう」

 

「優希さん、おはよう!」

 

「おはようございます、先輩。もしかして、起こしてしまいましたか?」

 

「あ、違うのよ。今日はかりんちゃんと一緒に朝食を作る予定だったから」

 

「そうそう、色々教えて貰おうかなって」

 

 まだ眠そうな表情をしている桜姫先輩が部屋から出てくる。

 俺が寝ている間にお互いに下の名前を呼び合う仲になっていたようだ。

 相性は良いと思ってたけど、打ち解けるのが早い!

 

「まだ、一時間近くあるのに、そんなに手間かけなくても……」

 

「あら? こんな事言われてるわよ、かりんちゃん。これは、女心が分かってないわね」

 

「大丈夫、進矢にその辺の事は期待してないから」

 

「えー」

 

 笑顔で頷き合う二人に、一人置いていかれる。

 どういうことなの……。

 悩んでいる俺に桜姫先輩が諭すように言う。

 

「良い? かりんちゃんはね――」

 

「わわわ! 待って! 優希さん、自分で言うから!」

 

「ちょ、ちょっと……かりん!?」

 

 かりんが上擦った声を出しながら立ち上がる。

 その後、かりんは後ろに回り込み抱きついてきた。

 心地よい重みと柔らかさを背中から感じる。

 

「昨日、優希さんと話して決めたんだ。進矢が皆を守るなら、アタシはそんな進矢を支えて守ろうって! 大した事はできないかもしれないけど、とびっきり美味しい料理を作るからね」

 

「もう既に胸がいっぱ……じゃなくて、ごめん。こういう時になんて言えば良いか分からない。かりんの信頼と優しさには結果で示す! 結果で示すから……!」

 

「ふふっ、これは負けられなくなったわね。川瀬君」

 

 微笑ましそうな表情で桜姫先輩は笑う。

 背中に居るかりんの表情は分からないが、心なしか心拍数が上がってるような気がする。

 どっちの心拍数かは分からない。

 ……俺の中でかりんがどういう人物か形容するなら、やはり信頼できる大切な人という比重が一番大きいだろう。

 恋だと霧散霧消してしまうかもしれない、愛だと反転して憎悪になるかもしれない。

 吊り橋効果を意識してしまう以上、どうしてもそうなる。

 ……まぁ、信じてるって言われただけで俺は救われたので、最悪どうなってもかりんの意志を最優先しようとは思うが。

 

 もしかして……このゲームで俺が死ぬとしたら爆死なのでは?

 むしろ、ゲーム主催者側の二人が観客に見せる為に悪ノリで爆殺してくるのでは???

 リアル爆発オチなんて最低だぞ!?

 追加ソフトウェアもあるしヤバい、爆発物に対する警戒をアップしないと。

 現実逃避気味にそんな事を考える。

 

「川瀬君、かりんちゃん……二人の世界に入っているのは結構だけど、そろそろ料理を始めないと間に合わなくなるわよ」

 

「はーい!」

 

「ありがとな、かりん」

 

 離れていく温もりの余韻に浸りつつ、戦闘禁止エリアの奥に移動する二人を見届けた。

 ……一人、静かになった戦闘禁止エリア入口でPDAナンバー【10】を見る。

 見てる項目はペナルティの部分だ。

 

『追跡ボール:体当たりして自爆する、ルール違反者や首輪の解除に失敗した人間を殺す自走地雷。移動速度は時速6キロ。爆発の威力はそれほどでもないから何個か当たらないと死なないし、走って逃げれば大丈夫かも?!』

※漆山権造

 

『スマートガン攻撃システム:ルール違反者や首輪の解除に失敗した人間を殺す為に全域に配置された攻撃システムの1つ。首輪が作動した状態でシステムの感知エリア内に侵入すると識別信号とサーモグラフィに誘導されて4機の銃が目標を攻撃する。サーモグラフィの温度が低下するか、識別信号が止むまで攻撃は続く』

※葉月克己

 

『火炎放射器:可燃性の液体を噴射して着火する、ルール違反者や首輪の解除に失敗した人間を殺す装置の1つ。液体の燃焼温度は低く即死はしないが、一度火がつくと消火は極めて困難。頑張れば生き延びれるかも!?』

※姫萩咲実

 

 

 ……昨夜こっそりと御剣先輩に聞いたが、姫萩先輩は見るも無残な姿となり髪は殆ど残っておらず、全身が焼け爛れていたらしい。原因は言うまでもなく首輪を作動させた事にある。

 実行したのは手塚だが姫萩先輩の場所を教えたのは俺だ。そして、無駄にはなってしまったが、手塚もまた生き残る為にやったことだ。

 それでも、彼女をそのような姿にしたのは事実だ。それが引っかかる。

 

 『Q』のPDAを取り出す、生存者数を表示機能とトランシーバー機能の追加ソフトをインストールしている為、使用頻度としては一番多い。だが、このPDAを使う度に姫萩先輩の事を思い出してしまうのだ。

 もう誰も犠牲にしない為に戒めだと考えている。御剣先輩は許してくれた。

 勝手な想像になるが、姫萩先輩も許してくれたと……そう思う。

 

「俺は、間違ってない……よな?」

 

 今の俺は幸せだ。それは断言できる。

 

 一方で小さな痛みは確かに残っている。必要な痛みだとも思う。

 これでいいのか――と気付いた時には考えてしまうのだ。

 

 ……俺の考えてる全員生き残り策は、本当に希望なのだろうか?

 皆を絶望に叩き起こすだけの、偽りの希望に過ぎないのでは無いか?

 全員生き残る方法なんて都合が良すぎるとは思う、

 

 だけど好きなのだ。皆の事が。誰かが死ぬところなんて見たくないのだ。

 ……だから、命に代えてもと思ってかりんに怒られてしまったのだが。

 死ぬつもりはないが、死んで欲しくない気持ちはその時より遙かに強くなっている……それは確かな事だ。

 

「本当に勝手な事ですが……死んでも意思がもし残るのであれば……応援して欲しい……です」

 

 天井を仰いで、姫萩先輩を悼みながら気付けばその言葉が出てきた。

 当たり前の事だが、返事は無い。

 

 最初に様子見なんて考えてた自分を馬鹿馬鹿しく思う。

 無理な話だったのだ、3人殺して生き残る事なんて。

 

 もし、俺が誰かを殺す為に引き金を引く時は、それは――きっと、誰かの為の時だけだ。

 そんな時が来ない事を祈る。

 

 

 その後、手塚が予備で持っていた小さめの水鉄砲を取り出し、その中に唐辛子を溶かした水を仕込んでいたら、二人に食べ物で遊ぶなと怒られた。

 馬鹿な……アルコールを入れるよりは、こっちの方が正規で安全な使い方じゃないのか!?

 尚、アルコール入れるのも考えたが、自爆と誤爆による意図せぬ殺人をするのが怖いので非殺傷なやり方に変えた。

 

 

 

 

 

 

 

『開始から24時間が経過しました! 3時間後に1階は進入禁止エリアになります! まだ1階にいる人は、速やかに上のフロアに移動してください』

 

 アラームが聞こえた後、俺以外の男二人も起き出し、和やかに朝食の時間となった。

 朝食にしては種類豊富で色彩豊かだ。

 やや重たい量とも言えるが、次に食事を取れるタイミングが何時になるか分からない以上、食べれる時に食べておくべきだ。。

 ……桜姫先輩は言わなかったが、恐らくは彼女の言っていた女心の中に、どちらかが死ぬ可能性を否定できないので、最期になるかもしれない料理に全力を尽くしたかったというのもあるのだろう。

 口にするのは野暮な話なので、俺も言わないけども。

 

 限られた材料の中でよくもここまで……うん、美味しく食べるのがせめてもの礼儀か。

 あと、今更だが何時も料理を作ってるお母さんありがとう。お礼を言わずに死ぬかもしれないのが、ちょっと哀しい。

 親不孝者にならないように頑張ろう。

 

「優希。料理は美味しいし、ありがたいけど……こういう時にオクラ入れなくても良いだろう?」

 

「このゲームが終わっても、生きていくから当然じゃない。皆が見てるからちゃんと食べなさい。それともアーンした方が良い?」

 

「いーや、オクラなんて食べられなくても栄養バランスは十分だ。生きていける」

 

 何か横で桜姫先輩と御剣先輩の口論? 訂正、痴話喧嘩が始まった。

 何時ものやりとりなのか、別に険悪な空気ではない。……こういうのも良いかも?

 わざと苦手なモノを入れてくる戦術、お母さんが昔よくやってた奴だな!

 生活を送る上で食べれる物のレパートリーが増えた方が、良いだろうしな。

 

 だから、勇治。そのグリーンピースはちゃんと食べなさい。

 勇治が除けようとしたものを、無言で止める。

 不満げな表情で勇治は睨み付けてきた。

 頬張っているので、言葉は出てこない。無言で親指だけ立てておく。頑張れ。

 

 そんな様子を見てか、かりんが心配そうな表情で声をかけてきた。

 

「ごめん、聞いてなかったね。進矢に好き嫌いやアレルギーはあるの?」

 

「アレルギーは花粉程度……好き嫌いは人並みだとは思うけど、かりんの作ったモノなら変な味付けじゃなければなんでも美味しいよ。どうしても駄目なものがあったら言うけど、今のところ全部美味しい」

 

「えへへ、そっか。良かった」

 

 好き嫌いはなくはないが、母親の尽力により余程変な味付けではなければ嫌いなものでも食べれなくは無い程度に改善されている。そこに愛情ブーストが加わるとなれば、全部美味しいと言える。

 念の為、ここで言う愛情とは、美味しく食べれるように工夫されてるという意味で『愛情があれば大丈夫!』という意味ではないです。

 フィクションのような飯マズが居なくて良かった。

 

 その後、御剣先輩と勇治は死にそうな顔で全部平らげた。

 死地を乗り越えたような表情をしてるように見えるだろ? 苦手なモノ食べただけなんだぜ?

 ……気持ちは分からないでも無いけど。

 

 ここで死地を乗り越えたのだから、次の死地も頑張って乗り越えような。

 

 

 

 

 

 食事が終わった後、荷物は纏めておいたので3階への階段に移動する事に決めた。

 現在時刻はおおよそ開始から、25時間。

 急ぐ理由は1Fがあと2時間で進入禁止エリアになる為だ。

 2Fで落とし穴に落ちた俺は正確にその脅威を理解している。

 つまり、1Fが進入禁止エリアになった時に落ちれば死ぬし、時間ギリギリの時に落ちたら絶望的なタイムアタックに挑戦しなければならなくなるという事だ。

 勇治は『時間によって性質の変わる罠』と表現した。格好良い表現だ。

 

 ついでに言えば、探知機能とドア開閉機能の組み合わせで主催者側の二人が落としにかかってくる可能性もある。

 勿論、罠探知機能とドア開閉機能の両方を持っている為、そこまで恐れる事はないのだが、わざわざリスクを被る必要もない。

 この位置からなら、約2時間あれば次の階段に移動する事は可能だ。

 

 ちょっと、首輪の問題で寄り道する必要はあるが。

 

 

「相談ですが、矢幡さんの首輪を解除しに行きませんか? これで勇治の首輪の方はクリアできるので」

 

「僕は別に急いで解除しなくても良いと思うけどな、首輪が外れればできる事は増えるけどさ」

 

 首輪を外すであろう勇治本人は慎重だ。

 それは別に、エクストラゲームの【首輪解除者を殺せば首輪が外れる】の部分を恐れてる訳ではないだろう。

 どちらかと言えば首輪を外す事の代償に対する抵抗にあるものと感じる。

 

「勇治の言うことは正しいんだが、解除した首輪で実験したい。もし選択肢として利用できるなら、首輪をガンガン使うかもしれない。その場合、首輪が足りなくなるから、先に懸念事項を潰しておきたい」

 

「つまり、考えがあるのね?」

 

「さっきみたいな悪巧みだね!」

 

「うん、否定はしない。方法は見てからのお楽しみって事で」

 

 ……これが、信頼って奴か。

 もし俺の考えている事が上手くいけば、郷田に速攻をかけれる秘策がある。

 それに、上手く行かなければ正攻法でいけば良いだけだ。

 

「なるほどね、まぁ良いよ。首を斬ってみたい思ってたし」

 

「それは無し!」

 

「なんでだよ! PDAを5個壊すのは勿体ないじゃん!」

 

「いいや、首を斬る行為はこう……良くないモノを呼び寄せる。カルマ値が上がってバッドエンドルートに直行する!」

 

「ちぇ……そういうなら、仕方無いな……」

 

「いや、そこは納得するところじゃないからな? 首を斬るのは俺も反対だが」

 

 どうしても他に手が無ければ、俺も首切断に舵を切ったかもしれない。

 だが、他に手がある状態で首切断に踏み切るのは流石に気が咎めた。

 その選択が直接的に不利になるものであったとしてもだ。

 それに、首を斬ったらアレだ……ゲーム的に言うのであれば、精神的なデバフと好感度デバフがかかる。

 うん、やめておこう。

 

「問題は破壊するPDAよね。いっそ、この機会に私達のPDA破壊しちゃいましょうか。使わないしね」

 

「そうだな。俺のも、そこまで大事なソフトウェアをインストールした訳じゃ無いし、破壊して問題無い」

 

「御剣先輩のは――いえ、なんでもないです」

 

 いざという時の保険として取っておいて、俺が『Q』持った状態で殺されれば――なんて言おうとして止めておいた。

 安定志向は良いのだが、それを言うと全員から総スカンを喰らうのは明らかだ。

 また、かりんに怒られ……泣かれてしまう。

 

 というか、そんな事考える男で申し訳ない。心の中でかりんに詫びる。

 実用的には、『A』の破壊は道理にかなってるだろうし。

 

「お二人がそう言うと思って、俺達のPDAをノートに纏めておきました」

 

 他の4人に見張り時間に書いてたノートを見せる。

 敵だった男がPDAを守り切った事により、この選択が取れるので、そこは複雑な気分ではある。

 

●破壊するPDA

『A』『3』『7』『9』『K』

 

●破壊しないPDA(重要な追加機能以外は省く)

『4』:首輪解除に必要

『6』:ドア開閉機能、JOKER探知インストール済み ※残りバッテリー9割程度

『8』:首輪解除に必要、首輪探知インストール済み ※残りバッテリー6割程度

『Q』『10』:通話機能インストール済み ※残りバッテリー双方9割程度

『JOKER』:偽装機能によるソフトウェアコピー ※残りバッテリー8割程度

 

 「丁度、PDAが5人分残って良い塩梅です。『JOKER』はプラスアルファという事で、その場その場で必要な人に持たせましょう」

 

「よく纏めてたわね」

 

「時間のロストは惜しいので、安全面以外で時間を削れる分は積極的に削ろうかと……誰がどのPDAを持つかは、また別途相談ですね。じゃあ行きましょうか」

 

「はーい」

 

 その他、隊列の並びや、それぞれの役割・担当を決めて出発する。

 これも大体事前に御剣先輩に考えて貰っていた事だ。

 御剣先輩なら、女性陣や中学生である勇治が安全寄りで、俺達がややリスクのある布陣にすると信頼している。

 ……口にしたら、御剣先輩以外の人に怒られそうだが、男二人の秘密って事で。

 

 

 

 歩いて数分、緊張からか沈黙が続く。

 思い出したように、俺は口を開いた。

 

「あぁそうだ。ちょっと気持ちを整理したいので、俺は矢幡さんに会おうと思っているんですが……皆さんはわざわざ見なくて大丈夫ですよ」

 

「いやいや、俺の首輪解除の為だからな! 逃げる訳にはいかねぇよ!」

 

 真っ先に反応したのは勇治。

 さては死体を見たいだけなのでは……と喉まで突っ込みがでかかったところで、瞳に怯えを感じた。

 あー、格好付けたい方か。それなら、気持ちを尊重した方がいいのかもしれない。

 男として、俺もそっち側だから……うん。

 

「ちゃんと矢幡さんを説得できなかったのは私なんだし……矢幡さんを追いかけてたら、もしかしたら止めれたかもしれない。だから、私も会いに行くわ」

 

「矢幡さんは俺達より年上なので、その辺は自己責任だと俺はドライに考えますけどね」

 

「それでも、よ」

 

「こうなったら、優希は何て言っても止まらないからな。せめて、俺も付き添うよ」

 

 桜姫先輩の強い意志を込めた瞳に御剣先輩は諦めたように話す。

 

 あの時、桜姫先輩が手塚に、俺が勇治に…………そして、矢幡さんに向かったのは郷田だった。

 人を信じられないから単独行動にした筈なのに、その結果危険人物に追われ、裏切られる最期って皮肉過ぎるな。

 

 人の身体は1つ、手は2本。

 誰か1人を止めれただけでも十分だろうが、そこは理屈じゃないんだろう。

 俺も姫萩先輩に対して後悔の念を抱いているため、共感はする。

 

「アタシは、もしかしたらアタシがやっていたかもしれない事と向き合わないといけないから……それに、進矢が苦しんでるなら支えたい」

 

「……あー、かりん1人だけ離れると危険だしな。それなら一緒に来てくれた方が良いか」

 

 かりんの真っ直ぐな瞳に射貫かれ、思わず目を逸らす。

 こういう事を直接言うのはズルいと思います。俺も結構言う方なのかもしれないが。

 なんだろう、お互いに攻撃重視で心のガードがボロボロなのかもしれない。

 

 羞恥で顔が熱くなる。

 

「素直じゃないな、川瀬」

 

「あら、微笑ましいじゃない」

 

「今、一番言われたくない人達に言われましたよ!」

 

「いや、どっちもどっちだからな」

 

 勇治がジト目でそう言った。

 恥ずかしさで、穴があったら入りたい……いや、この場面で落とし穴に落ちたら洒落にならないのだけど。

 それでも、できれば最後までこのメンバーで欠けることなく、頑張っていきたい。

 俺がそうするのだ、皆と!

 

「来るのは構いませんが! 折角食べた料理を吐くことだけは許しませんからね!?」

 

「はーい」

 

 かりんが笑顔で頷いた。

 信頼に応えるって結構大変だが、かりんが言った通り皆を守りたい。

 向こう側はどこまで想定して、どういう罠を張ってくるか分からない。

 それでも、誰も欠かさず速攻でゲームマスター郷田真弓を倒してやろう。

 そう決意するのであった。

 




次回:単話IFルートにしようかなと思ってます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。