秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第二十二話 それぞれの境界線

 

 

 

――――――――――

あらゆる人間の心の中に、善と悪の境界線が存在する。

アレクサンドル・ソルジェニーツィン (ロシアの作家)

――――――――――

 

 

 

 

 

 美人系、可愛い系、癒やし系、色とりどりの美女・美少女が集まったこの殺し合いゲームショーだが、純粋に一番美人なのは矢幡麗佳さんだろう。俺の適当評価で良ければ、他の女性はクラス上位勢とすると学校トップ狙えるのが矢幡さんだ。グレードが違う。

 何が言いたいかと言うと、不謹慎な話にはなるがそれが矢幡麗佳の遺体だと分かっていても一種の芸術じゃないかと俺は思った。

 

 白いワンピースは真っ赤に染まっており、腕は組まれて、顔にはタオルを掛けられている。タオルを取るとその瞼は閉じられていた。あの男が殺してから、わざわざ整えたのだろう。……血と状況が分からなければ、あるいは眠っているものと勘違いしていたかも知れない。

 死体は胸部に銃創が数発分……流れてる血からも考えて、恐らく心臓を撃たれての死亡。幸いなのは即死に近く、苦痛をあんまり感じなかったであろうということくらいか。

 

「思ったよりも、大したことねーな。あの最初の男と比べたら全然だ」

 

 スプラッターな死体を以前見ていた勇治も俺と同じ意見なのか、口に出す。

 

「本当に、この人が裏切られて殺されたの? ……その、もっと酷い状態かと思ってたよ」

 

 一方で、かりんは声色としては震えているものの、困惑の色も混じっている。俺の服の裾を握ってくるのが可愛いので、かりんの手を握っておいた。

 

「確かにな……死体に慣れてきた自分が嫌になってくるよ」

 

 御剣先輩もまた桜姫先輩の手を握り、自嘲気味に呟いた。

 それでも、ペナルティによる惨殺死体と比べたら天地の差だろう。

 死体を見慣れているであろう警察官や救助隊ですら、陰惨な現場におけるスプラッター死体で心を病む事はあるのだから、ゲームが終わったら何度か夢見るかもしれない。……生きて帰れれば。

 

「犯罪心理学的に言うのなら、殺人を犯せば普通は罪悪感がある。だから殺した相手をそれ以上痛めつけない程度の善性があったんだろう、殺した男には」

 

「彼のやった事は絶対に許さないし、大嫌いだけど。姫萩さん、矢幡さん、手塚の3人を殺した人とはいえ……あの男もまた、このゲームに無理矢理参加させられた被害者でもあるのよね」

 

「……100%悪い人なんて居ないでしょう。100%良い人が居ないのと同様に」

 

 桜姫先輩の言葉に返しながら思いを馳せる。殺した人も、殺された人……それぞれがちゃんと人間だった。皮肉な話だが、それを再確認する。

 

 そこまで考えたところで、握っている手の震えを感じて、憔悴した様子のかりんに目を向ける。幸か不幸か、このゲームで今まで遺体を見る事が無かったかりん。それはある意味で運が良かったとも言えるし、悪かったとも言える。

 だが、遅かれ早かれなら今のうちに見るべきではある。これ以上、同じ光景を生み出さない為に。

 こんなもの、本来は彼女の受けるべき試練ではないのは確かだ。一方でかりんの選択には、尊重したいとも思う。だから、寄り添おう。どこまで寄り添えるか分からないが。

 

「かりん、大丈夫か?」

 

「う、うん……大丈夫。ただ、早い内に進矢や他の皆と会えなかったら……アタシ、とんでもないことをするところだったんだなって思ったら……怖くて……」

 

 見るからに気落ちしているかりんを、もう片方の手で頭を撫でる。

 彼女のそういう正義感や真っ直ぐな心は正直好感が持てる。……一方で、真面目に考えすぎな気もする。隣にそういう事をあんまり考えて無さそうな勇治もいるんだから、足して2で割れば丁度良い。一方で、それぞれの持ち味でもあるから微妙なところだ。

 

「思い詰めるのは良くないけど、今の気持ちは大切にしような。最悪の事態は避けられた訳だし、取り返しが付く範囲だ。次に活かしていこう?」

 

「……うん」

 

 そして、かりんは俺の身体に甘えるように寄りかかった。

 ………3年前に父親と死別したかりん。俺がかりんに対して担うべき役割はどちらかと言えば甘えられる立場なのかもしれない。だが、一方的な関係は望むところではないので……俺が言うべき事は、自立を促すこと。そして、もう1つ……自立とは独りぼっちで立つ事じゃないということを伝えることだ。

 

「さっき言ったように100%正しい事ができる人間は居ないんだから、かりんが間違えば俺がまた正す。逆に、俺が間違えばかりんが俺を叱ってくれれば良い、他の誰かでも同様だ。昨日、俺に真剣に怒ってくれたようにフォローし合えば良いんだ、それが仲間ってものだろう?」

 

「そうだね、進矢って放っておくと……危ない方向にすぐ行っちゃうし、一人で抱え込んじゃうもんね。アタシが守るからね」

 

 そして、かりんは俺の手を強く握った。

 ……俺の内心の要求は流石に酷だったか。これからの事を考えると、せめて今は甘やかしたい。密着するかりんの身体は柔らかく心地よい。そして、周囲の視線がやや痛い。

 よし……ここは周囲になすり付ける作戦でいこう。

 

「……守られる側なのは否定しないけどさ。ほら、もっと危ない奴が居るぞ、勇治とか」

 

「俺かよ」

 

「ぶっ……! そうだね! 危ない事しようとしたら、アタシがちゃんと止めるよ」

 

「ヘイヘイ、でもあの二人は……無茶しないと多分勝てないと思うけどな」

 

 不満げな表情をしながら、勇治は答えた。内容に関しては俺も同感だ。これから何度もきっと怒られるのだろう。仕方無い、格上を非殺前提とはそれだけリスクが高いのだから……上手くやるつもりだけれども。

 俺をオチに使うなよという目線を勇治から感じる。すまんな。

 かりんの心の整理にはもう少し時間が必要そうだ……一方で時は有限だ。

 

「じゃあ、気を取り直して首輪をはずしていこうか……お願いします」

 

「分かった、そっちも頑張れよ」

 

 まだ離れてくれないかりんをあやしつつ、俺はそう言った。

 御剣先輩は苦笑して、理解のある顔でPDAを取り出していく。皆の理解があって嬉しいなー……。

 まぁ良いか。せめて震えが止まるまでは、かりんに付き合おう。

 彼女は立派なレディであろうとはしているが……年齢的にはまだ子供だからね。

 そういう意味では勇治は、ちょっと背伸びし過ぎなのかもしれない。男だからか、甘える事をあんまり知らないからか……両方か。

 

 

 

 

 

――――ピロロロ、ピロロロ

 

『おめでとうございます! 貴方は見事にPDAを5台破壊し、首輪を外す為の条件を満たしました』

 

 ……既に死んだ人の首輪解除光景って皮肉過ぎるな……御剣先輩と桜姫先輩はこれで二度目だったか。

 一方で、矢幡さんの生前言ってた事も分かる。死者に驚いたり、恐怖したり俺達だが……一方で死者にに襲われたり、殺される事もないのだ。殺せば安全――日本に住んでて、その結論にいち早く至るのは――正直怖いが。少しだけ話をした印象で彼女は頭が良さそうだったので、頭の回転の速さが仇になったのかもしれない。

 悪い時には悪い事しか考えられないものだ。思考のサイクルが悪化すれば、俺だってそうなる可能性があった。このゲームはそういうものなのだろう。

 だから……俺はそれを反面教師にして、良いサイクルに思考し、生きる為の布石を積み上げていこう。

 

 

――ピロロロ、ピロロロ

 

『おめでとうございます! 貴方は見事に首輪は3本収集し、首輪を外す為の条件を満たしました!』

 

 カシャリと勇治の首輪が2つに分かれて外れる。

 これで、殺人条件以外の俺達の首輪は全て外せた事になる。

 

「おめでとう! 勇治! はーい、両手上げてー!」

 

「お兄ちゃん、僕よりテンション高いな!?」

 

 何となく、両手を上げてハイターチ。

 皆でハイタッチだ。……これはリア充っぽい儀式だ。

 なんというか、かりんの首輪解除の時はお祝いする空気じゃなかったのと、死体を見た事による暗い空気を払拭するためにあえて明るくしている面がある。

 

「やったね! 勇治!」

 

「良い事なんだから、喜びましょうよ! ハイターチ」

 

「俺も嬉しいぞ長沢」

 

「……本番はこれからだろ!? 全く、首輪外れた程度で大げさだな」

 

 ハイタッチには応えつつも、皆からの温かい言葉に頬を染めて顔を逸らす勇治であった。かわいい。

 いそいそと首輪を回収しておく。これで俺の手元には現在、解除済みの首輪が4個になったというわけだ。それを訝しげな表情で勇治が見ていた。

 

「そ、それよりもだな! 進矢お兄ちゃん、その首輪どうするんだよ?」

 

「首輪は切り札だ。まぁ見てれば分かる。話は歩きながらやろうか、罠のないルートは分かってるから……矢幡さんにお祈り、しよっか」

 

「う、うん……そうだね」

 

 俺の言葉にかりんは頷き、勇治は不満げな顔を覗かせる。

 ……正直、俺も姫萩先輩の件で矢幡さんに思うところはあれど、死者に憎悪をぶつけても仕方無いわけだし。

 でも、俺のように割り切れれば良いという訳でも無ければ、勇治のように割り切れない事が間違いとは言えない。

 

「わざわざ、こんな奴に祈る必要……あーもう、分かったよ!」

 

「分かれば宜しい」

 

 最終的には、桜姫先輩の笑顔に勇治は折れた。

 御剣先輩が勇治に対して同情的な目線を向けている。

 勇治は渋々といった表情だが……形だけでもというのは世の中には幾らでもあるわけだ。

 

 皆で、手を合わせる。

 矢幡さんに対してもそうだが、この場所の真下にいるであろう姫萩先輩にも意識を向ける。

 これ以上、このゲームに犠牲を出さないという決意を載せて。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、何から話そうか……えーと、大目標【7人全員の生還】。これを達成する必要条件が、【郷田真弓の無力化】【綺堂渚の無力化】【首輪か警備装置をなんとかする】の3つが必要になります。……で3つ目は、本当に最後の仕上げだから。まず、郷田真弓と綺堂渚の二人を倒す事を考えていきましょうか」

 

 3階への階段に移動しつつ、話を続ける。

 立ち止まって話続けても良かったが、流石に遺体の前で話をするのは気が滅入るので止めておいた。

 一度通ったルートでもあるし、罠探知機能で場所も把握している。襲撃の警戒だけしながら、考えを纏めながら話す。

 それに反発する人物が1人居た。

 

「待ってよ進矢! 本当に解除条件を満たさずに……首輪をどうにかする方法があるの?」

 

「……当然の疑問だな。あるよ、今それを言う気はないけど」

 

「それは、どうしてなの?」

 

 かりんが不満げに頬を膨らませた。

 今更ながら、かりんは矢幡さんの死を見て、死を身近に感じ、俺達3人の事が心配になっていたのかもしれない。かりんの潤んだ大きな瞳を見ていると、誰かを残して逝く事は凄く罪深いものだと心がチクりと痛んだ。

 

「それに関して、話している時間が勿体ないのが1つ。もう1つ、まだ主催している連中と観客に知られたくないのがある」

 

「これを言っちゃなんだけど、情報の抱え落ちとかあるから話して置いた方が良いんじゃ無いの?」

 

 空気が変わった事に対して、かりんを援護するように勇治が話す。

 ……そうだった、これだけはちゃんと話しておかないといけない事があった。

 

「必要無い。俺達5人の誰か1人が欠けた時点で、俺の考える方法は取れなくなる……奴らの言うエクストラゲームに乗るしかなくなる。だから、俺が言えるのは、誰も死ぬなってだけだ。……1人1人が、皆の命を背負ってるものだと思え」

 

「そこまで言うなら分かったけど……優希さんも御剣さんもそれで良いの?」

 

 納得してるようで、納得できてなさそうなかりんは桜姫先輩と御剣先輩に助けを求めるように話を振った。そういえば、当事者ではないかりんが必死になっているものの、先輩方御二人はそこまで興味が無さそうだ。

 

「川瀬君がここで嘘を吐くとは思えない……というのもあるけど。どっちにしろ、総一と一緒だからそこまで怖くないのよね」

 

「俺もそう――じゃなくて、優希は俺が守るから死なせないよ!? ……俺は郷田さんと渚さんで頭一杯一杯なだけだ」

 

「凄いリア充理論を見た」

 

 御剣先輩が恥ずかしそうに顔を逸らすが、言いたい事は身体から漏れている。要するに『生きる時は一緒だし、死ぬときも一緒だからあんまり怖くない』って事だ。

 そのリア充理論はちょっと俺の想像の範囲外だったなーって、って思う一方で二人の内どちらかが欠けたカップルを俺は見たくないので協力するけど。

 

「全員の理解が得られたということで、次の話に行きましょうか。郷田さんと綺堂さんについて、エクストラゲームのおさらいと行きましょう」

 

 

【試練1.ゲームマスターの解除条件は『5』番である。君たちが3階に到達した時点で、4~6階のチェックポイントを回り始める。『K』の初期所有者がゲームマスターの殺害に成功した時点で、『3』の初期所有者の首輪が解除される】

 

【試練2.ゲームの中央制御室への秘密通路の入口が6階に存在する。秘密通路の中は自動攻撃機械で防衛されており、戦闘が必須である。ゲームマスターとサブマスター以外のプレイヤーは2日と23時間の経過までに、コントロールルームにあるメイン端末のパスワードに解除したいPDA番号の初期所有者の番号を打ち込むことで、その番号の首輪を1つだけ解除することができる。一方、サブマスターは2日と23時間の経過までメイン端末を守り切る事でも解除条件を達成するものとする】

※秘密通路の入口の場所を開示されている。

 

【試練3.首輪解除者を殺害した場合、殺害者の首輪が外れる】

 

【条件:双方エレベーターの使用は不可とする】

 

「はい、勇治君。ここから読み取れる見解をお願いします」

 

「りょーかい」

 

 あらかじめ、昨日の夜に見張り時間で相手がどういう手で来るかどうか、想定しておくことを勇治に宿題として課していた。俺は俺で見解はあるのだが、見逃し防止の為に複数視点で考える必要がある。

 

「まず、文字通りなら、ゲームマスターのオバさんとは追跡ゲーム。サブマスターの姉ちゃんとは拠点の攻防戦になる……ように見えるけど。今までルールの穴を散々突いてきた連中だから、そうシンプルにはいかない事は分かるよな?」

 

「戦闘禁止エリアとか、危なかったよね……」

 

 かりんの言葉に、全員が無言で頷く。

 なんというか保険会社の契約書みたいなルールだ、と保険会社に対する偏見全開の感想を抱く。

 

「規則ってそういうものじゃないのに……」

 

「法律ってそういうところありますけどね。まぁ今回はルールの穴を突き合うゲームなので、逆に利用してやりましょう。これがそういうゲームである以上、相手も縛られているということですし」

 

 学級委員長気質の強い桜姫先輩の零した言葉に、皮肉を若干交えつつ励ましの言葉を投げる。桜姫先輩は複雑そうな表情をするも、俺に頷いた。

 勇治はそんな俺達の様子を確認しながら、言葉を続けた。

 

「話を戻すけど、このエクストラゲームはあくまで解除条件を規程してるだけで、二人の行動を縛ってる訳じゃないんだよね。だから、極端な話、今この瞬間に試練3で俺とかりんを殺して首輪解除する事もできなくはないんだ」

 

「そうか! いや、でもこのゲームは同時にショーでもある。俺達がチートでゲームクリアできないのと同様に、ルールに縛られると同時にショーという体裁は二人も守らないと行けないんじゃないか? 少なくとも、二人は長期戦を望むだろう?」

 

 勇治の見解に、御剣先輩が声を挙げる。

 手塚の行っていた話――絶対的なモノに対する縛り。主催者側の二人のスポンサーに対する配慮の話だ。ただ、ここから先は感覚的な印象が強く、正しい答えを出すのは難しいかもしれない。

 勇治は満足そうに御剣先輩に頷く。

 

「そう、ゲームマスターとサブマスターにとっての枷はそこなんだよ。御剣のお兄ちゃん。だから完全に逸脱しない範囲で、何かしらの罠を仕掛けてくると思うんだ」

 

 喋りながら、勇治は鞄からノートを取り出す。

 【エレベーターは使えなくてもエレベーターシャフトで移動する】

 【ゲームマスターを襲っている間に、サブマスターに奇襲される。逆の可能性有】

 【JOKERで追加ソフトウェアを確認できたが、ツールボックスで持ち歩いてた場合、直前でインストールされれば対応できない】

 等など、考えられる可能性が書き連ねている。

 かりんや御剣先輩は感嘆の声を挙げるが、勇治は少し暗めな表情で首を振る。

 俺もよく考えているなとは思うが……ここまで考えると、アレだ。

 

「正直、キリがないわよね。私も、思いつく事はあるけど……それでも、相手は複数回ゲームを経験しているのなら、まだ私達が知らない何かがあるかもしれないわけだし」

 

悲観的なようで現実を見た言葉を言う桜姫先輩に対し、勇治はちっちっちと指を振って応えた。

 

「そうなんだよ、桜姫のお姉ちゃん。だから、発想を逆転させるんだ。こっちから完全に相手の意表を突く。具体的な作戦はまだだけど、1つ思いついた事があるんだ……進矢お兄ちゃんはどうかな?」

 

 そして、勇治は挑戦的な目を俺に向ける。

 ここまで考えてくれて、俺は嬉しいです。

 

「奇遇だな、俺も1つ……思いついた事はある。それで、桜姫先輩が昨日言ってた事をやればいいわけだ。意訳すると【黒幕の意表を突いたら、速攻で徹底的にやって相手に対処させない】だったか」

 

「へー、格好良い事言うじゃん。お姉ちゃん」

 

「確かに、近いことを言ったけど、よくもまぁ……ポンポン思いつくわね」

 

 テンション上げている俺と勇治を尻目に、頼もしさと呆れの両方の感情が入り交じっている様子で桜姫先輩が息を吐いた。かりんと御剣先輩も、似たような表情をしている。

 もっと褒めてくれても良いのに。

 いや、褒めて貰うのは上手く行った後で良いけどね。

 

「じゃあ、具体的な話を詰めていくか――」

 

 3階への階段が見える範囲まで来たので、かつて姫萩先輩と上がるための作戦会議をした部屋に移動し、手に入れた情報から作戦を詰めていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 作戦会議に1時間ほどを費やし、大方針と地図の再確認、役割分担を決めた。完璧な作戦だ……と自画自賛をしたいが、あとは上手く行くことを祈るしかない。運に賭けるところも多いのだ。正直に言えば、不安も不安である。

 

「不確定要素は多いけど、大体は決まったな。人事は尽くしたし、後は祈ろう」

 

「……川瀬と長沢を敵に回さなくて良かった」

 

「何言ってるんですか、御剣先輩。一番頑張って貰うのは先輩ですよ、桜姫先輩に良い所見せてください。……それにしても意外でしたね、御剣先輩が卓球部だったとは」

 

「意外ってどういうことだよ?」

 

「もっと陽キャっぽい部活やってるかと思ってました。サッカーとかテニスとか」

 

「酷い偏見だな!?」

 

 役割を振る際に、御剣先輩の所属している部活が卓球部である事が判明した。尚、話を掘り下げようとすると桜姫先輩に勧められて~とか、ラケットを誕生日プレゼントで貰って~とか惚気に近い話が返ってきたので掘り下げるのは止めた。俺の中で卓球部のイメージがリア充の部活に更新されました。

 聞いてる印象からすれば、単純な身体能力だけなら、御剣先輩>俺>桜姫先輩=かりん>勇治 な感じはする。 直接、勇治に言ったら怒られそうなので言わないけど。

 

「俺も運動しとけば良かったかな~、でもなぁ……」

 

 不満げな声を挙げる勇治、部活動ってこう……運動的には弱者側の俺は本当に辛くて大変だから、俺も高校までは続けられなかったんだよね。だから、勇治の気持ちが凄く分かる。

 まさか、こんな非常時に使う機会があるとは思わなかった。

 

「最近はそれどころじゃなかったけど、汗掻くのって楽しいのに」

 

「かりん、それは持つものの発言だ。我々運動できない側は幼少期から散々低い順位で戦ってヒエラルキーが落ちて、自己肯定感が育たないの!」

 

「気持ちは分かるけど、川瀬君は川瀬君で、一応持つ者の側じゃない。自分にないモノだけを見ても、仕方無いわよ」

 

「……そこは否定しませんが」

 

 かりんの言葉にちょっと反発してみると、桜姫先輩に正論パンチを受けた。

 持たない部分にコンプレックス感じるのは健全だが、囚われすぎてもよくない。バランスが大事か。

 とはいえ、苦痛だったスポーツ関連も、帰ってみたらやってみたいレベルには懐かしさはあるのだけど。

 

 

 さて、2階から3階への境界線を越えた瞬間に命懸けの戦闘だ。

 もう少し息抜きをしたかったけど、時間は待ってくれない。

 あとは賽を投げるのみ……最後に心構えの話をしようか。

 ということで咳払いを1つ。時間を確認して、口を開く。

 

「……さて、いよいよ作戦開始ですが、1つ言っておきたい事があります。郷田真弓にせよ、綺堂渚にせよ……正直、言いたい事も思う所もあります。ただ、先程言った通り100%悪い人間は居ないものです。その点、俺達が考える事はたった1つで良い、ですよね? 桜姫先輩」

 

「誰も死なせず誰も殺さない……そして自分が死なない。要するに【7人全員で生き残る事】、ね?」

 

「迷ったり分断されたりしたら、その言葉を思い出してください」

 

 桜姫先輩と出会って、ここまで進めた。

 レールもほぼ新しく敷き終えたから、後は適宜修正を入れながら走るだけだ。

 

「二人共、優しすぎるんだよ……そういうの嫌いじゃないけど」

 

「優しいというより、甘いんじゃないか?」

 

 思う所はあれど、反対はしないかりんと勇治。

 俺を信じて着いてきてくれたのもそう、首輪が外れても俺達の為に動いてくれているのもそう。だから、俺は二人に最高の結末を見せてやりたいと強く思う。

 

「その甘さが良いんじゃないか、ここまで来たら皆で生きて帰ろう。……それが出来なかった人も居るんだし」

 

 ……御剣先輩は桜姫先輩を見ながら、誰かを思い出すかのように遠くを見ている。

 なんとなく、その気持ちが分かったような気がする。

 ややしんみりした空気を払拭するように俺は叫んだ。

 

「よーし! では、正々堂々、敬意をもって、お二人を罠に嵌めていきましょう!」

 

「おー!」

 

 俺の叫びに応えてくれたのは勇治だけだった。

 一呼吸置いて、他の3人から突っ込みが入る。

 皆の心は1つにならなかったよ……。

 

 

 こうして若干グダグダな空気の状態で、3階に臨む事となった。

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