秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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プレイヤー:カード:オッズ:解除条件
御剣総一 :A:5.5:Qの殺害
葉月克己 :2:DEAD:ジョーカーの破壊
川瀬進矢 :3:5.9:3人の殺害
長沢勇治 :4:4.2:首輪を3つ収集する
郷田真弓 :5:4.4:24ヶ所のチェックポイントの通過
高山浩太 :6:DEAD:ジョーカーの偽装機能を5回以上使用
漆山権造 :7:DEAD:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
矢幡麗佳 :8:DEAD:PDAを5個破壊する
桜姫優希 :9:5.5:自分以外の生存者数が1名以下
手塚義光 :10:DEAD:2日と23時以前に首輪が5個作動している。
綺堂渚  :J:4.4:24時間行動を共にしたプレイヤーが生存
姫萩咲実 :Q:DEAD :2日と23時間の生存
北条かりん :K:4.4 :PDAを5個以上収集


人数オッズ
7人生存:300倍
6人生存:10倍
5人生存:4倍
4人生存:3倍
3人生存:3倍
2人生存:4倍
1人生存:10倍
全滅:300倍


第二十三話 狂気の舞踏会開幕

 

 

 

――――――――

真実と知識の判断ができると思っている者は、神々に嘲笑され身を滅ぼす。

-アルバート・アインシュタイン (ドイツの物理学者)

――――――――

 

 

 

 

 時は半日ほど遡る。

 

 行動ゲーム理論においてK思考というものがある。

 頭脳戦や心理戦でみられる心理の読み合いで、相手がどこまで読んでくるかを前提として戦略を決める事だ。

 大雑把な説明すると、何も考えずに表面的な最適解を行う場合をK=0と仮定。

 相手がK=0の行動を取ると仮定した場合の対策をK=1。更にその対策の対策がK=2という考え方だ。

 但し、これは統一されたルールの下での読み合いが前提となる。

 諸々を考慮した結果、郷田真弓は1つの結論を下した。

 

「……うーん、やっぱり勝てないわね。これ」

 

 4階の一角でペンを回しながら、諦めたように郷田真弓は息を吐く。

 郷田真弓は数多のゲームマスター経験から、自分の勝機の無さを自覚した。

 自分では勝てない時は勝てないと認める事も、長生きの秘訣である。

 組織の内部における査定を犠牲にしても、死んだらどうにもならない。当たり前の話だが。

 

「はぁ、これが若さか。自分の加齢が嫌になっちゃうわね。」

 

 勝てない理由は1つ。

 5人を倒す為の丁度良い方法がないことだ。

 極論、ゲームマスターとしての知識を利用したチートや6階の武器で無双する手段はあるが、それをやるとゲーム終了後に組織に殺されかねない。

 一方でチート無しで札の切り合いを行った場合、何かしらの裏技を使われてしまう。。

 完全に対等な条件であれば分からないが、関係各所に配慮する必要がない以上、なんでもあり度はプレイヤー達の方が上なのだ。

 

 勿論、本当の本当に追い詰められた時用の禁じ手は幾つか用意してはいるものの、できれば使わずに生き延びたい。

 観客が盛り上がる方向で、そういう意味で言えば今のプレイヤーと完全に同じ立場である。

 そういう意味では完全に同じ土台に立っているのかもしれない。

 ということで、取るべき手は1つ……。

 

『合理的思考で勝てなければ、合理性を投げ捨てれば良いじゃない』

 

 というシンプルなものだ。

 

 少し話は変わるが、ゲームの人選は性質や能力と言った様々な要素を加味して可能な限りバラバラになるように配慮して選択されている。それはゲームの多様性を担保し、全く異なる人間同士の殺し合いを含めた交流から物語を産み出す為に存在する。

 そして、その人選理論は組織側の人間……ゲームマスターとサブマスターにも適用されている事を郷田は察している。

 理論を重んじるのが郷田真弓、(本人は認めてないかもしれないが)感情を重んじるのが綺堂渚と言った風に。

 

 そして、死亡率の上昇と引き換えにゲームにおけるどんでん返しは、合理性を越えた感情から生まれるものだ。

 だから、今回のゲームマスター・郷田真弓の戦略はこうなる。

 

『渚ちゃんに任せて、自分は囮になる』

 

 人と人をぶつけさせるのが本領である郷田は、やはり自分の職業病からは逃れられないのであった。

 

 

 

 

 

 

「はーい、こういうのもなんだけど初めまして渚ちゃん。お噂はかねがね」

 

「初めまして~、郷田さん。こちらこそよろしくおねがいします~。私はまだまだなので、こういう展開初めてで」

 

「良いのよ渚ちゃん、営業トークなんて。同じ組織の仲間でしょう?」

 

 表面上は和やかに、ただし腹の底では信頼という言葉はない。というより必要がない。

 ゲームマスターとサブマスターは同じゲームの現場担当とは言え、役割の都合上連携する事はほぼ無いのだ。

 

 だが、ゲームを管理する都合上、それぞれ人の心理を読み取るのに長けている。

 故に、郷田真弓は綺堂渚が表面上はニコニコしているのは、自分の本心を覆い隠す為であると正確に理解した。

 

(観客は純粋に娯楽として、裏切りや殺し合いを通じた人間模様を楽しんでいるけど、渚ちゃんは人同士の裏切りを見て自分の罪の正当化を図っている……か。そう考えると、今回のゲームの展開で重要な役割を担ってる一人には違いない、と)

 

 人同士の裏切りを観測し、場合によっては自らが裏切る、裏切りのサブマスター……それが綺堂渚のゲームにおける役割だ。

 渚が仮面を被っている事は分かっても、その本心までは郷田には分からなかった。

 だから、郷田は渚に期待する。

 自分の命がかかっている状況であるのは間違いないのに、郷田はこれからの展開が楽しみで仕方無かった。

 

 そもそも、郷田に言わせてもらえばこのゲームの観客は分かっていないのだ。

 プレイヤーと同じ空気を吸いながら、殺し合いゲームに干渉する方が、ただ見ているよりも余程楽しいというのに。

 自分が組織の駒という自覚を持ちながら、それでも尚、ゲームマスターという何時でも切り捨てられ兼ねない立場に居た理由はそれである。少なくとも、郷田にとっては、ゲームマスターという仕事は『楽しく』、『給料が良くて』、『やりがいのある』仕事だった。文句は多々言うけれども。

 

「それじゃあ、これからの作戦について話していきましょう――」

 

 ディーラーから提示されたルールの穴の解釈。

 持っているPDAの入替や所有している追加ソフトウェアの使用方法。

 殺害をする場合のプレイヤーの優先順位や、それぞれのプレイヤーから受けた印象や戦闘能力を打ち合わせする。

 とはいえ、あくまで話し合えるのは基本方針と禁止事項に対してのみだ。

 数時間後にプレイヤー側から指摘が入るようにキリがないのである。

 ゲームは流動的でコントロールすることは完全にできない。コントロールする側だからこそ、よく分かっている。

 

「分かりました~。基本的には、好きに動いて良いんですね?」

 

「えぇ、一戦闘での殺害は一人のみ。最初に首輪解除者を殺して、こっちの首輪を外すのは無し……やるなら二人目以降にする。襲ってこない限りは、プレイヤーを全滅させない。この3つを守ってくれれば良いわ、中央制御室でのみ皆殺し可能だけどね」

 

「は~い」

 

 にこやかに渚は笑った。

 その心の奥底を郷田はうかがい知る事は出来ない。出来ないが、ベテランゲームマスターである郷田をして、何故か背筋が凍り付くような錯覚を覚えた。

 プレイヤー達は気付いているのだろうか?

 このゲームの今後の鍵を握っているのは間違い無く、綺堂渚だろう。

 

「あ、そうそう……最後に言って置くけど」

 

 だから、郷田はその猛獣の枷を解き放つのに躊躇はなかった。

 20kgはある、サブマスターに装着されたその枷を。

 

「その重たい撮影機材……全部外しちゃって良いわよ。本気でやりなさい」

 

「……え?」

 

 その言葉に今度こそ渚は素で驚いたような表情をする。

 まるで、その発想が無かったかのように。

 郷田の職業病と同様に、渚もまたサブマスターとしての職業病があったのかもしれない。

 不意に、渚は笑い出した。

 

「うふ、あははは……! そうですね、どうして気付かなかったんでしょう? 私、どうかしてたのかもしれません」

 

「フェアプレイがプレイヤー達のオーダーよ。だから、その通りにしてあげるの。当然でしょ?」

 

 その反応を見て、郷田もまた満足して皮肉げな笑みを浮かべる。

 

 プレイヤーの一人である手塚が今際の際に言ったように、この世界にはどうしようもない絶対的なものがある。

 だから、絶対的なものに逆らわず、自分の楽しめる死なない範囲内で彼等のために踊り続ける……それが賢いやり方である。

 それが長年染みついた郷田真弓の生き方だ。

 一方で別の可能性があるのであれば、それを叩き潰したいとも、見届けたいとも、礎になる覚悟も、その全ての意志を持ち合わせていた。

 いずれにせよ、後はなるようにしかならない。

 ゲームマスターもまた、神ならぬ身であることに違いはないのだから。

 

 

 

 

 

 

時は現在時刻に戻る。

ゲーム開始から約26時間。

 

――ピロリンピロリンピロリン

 

『貴方は解除条件を満たす事ができませんでした』

 

「ていっ!」

 

 解除された首輪に自分の持つPDAを接続し、首輪は赤いアラームが鳴り始める。

 そして、ルール違反になった事を確認し、首輪を閉鎖された階段の間のコンクリート片の隙間のできるだけ奥まった所に全力で投擲する!

 

「解除された首輪がルール違反になる事を確認、条件の一つ目をクリア! 次は開通する事を祈る!」

 

「進矢! 良いから早く離れて!」

 

「おっと、すまんかりん。ペナルティがくるぞぉ! 離れろォ!」

 

 場所は3階~4階間の×印が書かれた階段。

 一先ずは問題なく3階まで到着した俺達は、俺提案の一つ目の奇策に取りかかった。

 それは以下の仮説を組み合わせたものだ。

 

『仮説①:解除された首輪は起動する。根拠は解除条件10が2日と23時間以前の発動であること、首輪探知の反応がある事から電源が生きている事の2つ』

『仮説②:他人のPDAが役に立つ事から、首輪も同程度に役に立つのではないか?』

『仮説③:首輪が起動するのであれば、首輪1つ使い潰せば警備システムで×印の階段は開通する可能性がある。根拠は、体格の小さいプレイヤーであればツルハシ等駆使して、瓦礫の中に入り込んでペナルティを回避を試みる事ができ、それによる生存を防ぐ為木っ端微塵にする必要がある……毒ガス? 視覚的にちゃんと死んだ方が観客的には良いでしょ?』

 

 そして最後に、このゲームは知恵を巡らすプレイヤーの味方だ。

 だから十中八九俺の試みは成功する。

 

「た~まや~」

 

 爆発するスマートボールに自動で攻撃する自走式砲塔、壁から飛び出てくる砲台等々。

 破片が飛んでくるのが怖いので、直接現場を目視する事はできない。

 それでも、すごい轟音が次々に響き、たまらずに耳を押さえる。十分に距離を取った筈の俺達でも、衝撃が伝わってくる。

 ペナルティって怖いね! そう思う。

 気分は警備装置によるペナルティというよりは、どちらかと言えば発破工事ではあるけども。

 

 この作戦が上手くいった場合のメリットは複数ある。

 一つ目は、武装面だ。経験則から上階に行けば行く程武器が良い。そして、3Fから4Fの階段と4Fから5Fの階段は遠く離れている。しかしながら、2Fから3Fの階段と4Fから5Fへの階段は実を言えばそう遠くない。つまり、3Fから4Fの階段を1つだけ開通すれば速攻で5階に辿り着けるのだ。

 二つ目は移動ルートの問題。1つしか移動ルートがなければ、主催者側は自作罠を作り放題だ。だが、今回のように自由に階段を開通できるとなったらどうだろう? 移動ルートの多様性が増し罠なんてスルーできる……勿論、最低限の警戒は必要だが。

 三つ目は主導権の問題。郷田は4Fから6Fまでのチェックポイントを回らなければならない。そして、通常ならこっちは3Fから馬鹿正直に4Fに移動している間に大半のチェックポイントは確保できるだろうが、一気にワープ染みた挙動でこっちが5Fに移動できるなら話が変わる。こちらが待ち伏せする側になれるのだ。

 

 いやー、美味しい話だ。全てが上手くいくなんて、そんなまさか――。

 

 

 なった。

 

「すごい、進矢の言った通りだ」

 

 始まってから数分後、そこには半分位の瓦礫が粉砕されて、開通した階段の姿があった。

 かりんが感嘆の言葉を漏らすが、俺自身本当に上手くいった事に正直、興奮が隠せない。

 はてさて、どこまでが主催者側の思惑通りなのか――そこまでは分からないが、一歩前進だ。

 さて、後はサクサク進んでいこう!

 

「よーし、野郎共ー! 電撃作戦のお時間だ!」

 

 ペナルティが治まった事を確認し、先頭で声を挙げる。

 

「よしきた!」

 

 その後ろを勇治が続く。

 

「お、おー?」

 

 若干躊躇いがちにかりんも続き。

 

「命かかってるんだ、気を引き締めていこう」

 

 軽いノリを御剣先輩が締めようとする。

 

「何かあったら私達でフォローしましょ」

 

 そんな俺達を微笑ましく桜姫先輩が見ていた。

 

 

 

 

 

 ショートカットして5階に到着。

 奇襲も待ち伏せもなし、良し。

 地図拡張機能で武器がありそうな部屋は大凡把握している。

 基本的な行動に関しては決まっていたので、手早く武器と追加ソフトウェア捜索に移った。罠探知で罠の位置も把握していたので、ここは作戦会議で引いたレールを走るだけである。

 

「うおー! すっげえええ! これだけあれば、あんな奴ら楽勝じゃね!?」

 

「いいか? 勇治。くれぐれも、必要時以外には絶対に引き金に手をかけるなよ!? 銃社会アメリカでは事故による死が凄く多いんだ! 銃口も向けちゃ駄目だぞ! 絶対だぞ!」

 

「いや、進矢お兄ちゃん。何度も言わなくても一度言われれば分かるって」

 

 テンションを上げている勇治に対し、俺もまた興奮を隠せない状態で注意事項を力説する。

 正直言って、拳銃より上の銃器に関しては俺の知識の範囲外だ。

 ちょっとハワイで銃の撃ち方を教えてくれる親父に恵まれなかった。

 ライフル、サブマシンガン、ショットガン、アサルトライフル……っぽいということまでは分かるが、それだけの武器が此処にはある。少なくとも暴力団の抗争を考慮に入れてすら、オーバースペックな気がする。銃社会アメリカのギャングの抗争はこの武装レベルなんだろうか?

 6階の到着を待たずして、もう運営組織のバッグについてる存在を考えたくなくなってきたが……とりあえず此処は日本じゃ無い筈……無いよね?

 

「長沢君。表面的な注意事項はそうだけど、大事な事は皆で生きて帰る事なんだからね?」

 

「そうだぞ、人を殺す武器って事を忘れちゃ駄目だ」

 

「なんだよ、俺を悪者みたいにっ!」

 

 あ、視界の端で勇治がふて腐れた。

 とはいえ、目的を考える以上は過剰にでも、銃を恐れるべきなのかもしれない。

 運用を考える以上は、俺や勇治みたいに調子にのってヒャッハー! って撃ったら目的が台無しになりかねないわけだし。

 いや、そんな風には撃たないよ……撃たない筈だよ。タブン……。

 

「ということで、人を殺す武器って事をちゃんと認識して頂いている御剣先輩にサブマシンガンをお渡しするんで、郷田の追い込みをお願いします」

 

「え、えぇ!? いや、分かってるよ。そうだよな、俺がやるしかないもんな」

 

「大丈夫よ、総一。私も一緒に行くんだから、何があっても二人一緒よ」

 

「馬に蹴られる事覚悟で言うなら、此処まで来たら何があっても責任も結果も5人全員で背負うものですよ」

 

 あんまり二人の間に口を挟みたくは無かったが、一番身体を張る役目は御剣先輩には違いない。

 あるいは、うっかり相手を殺してしまう可能性もそうだ。

 俺も自分の判断で自分だけに被害が降りかかるのであれば、どれだけ楽だったかと思う。

 けれども、それでは目的を達成することはできない。

 何度も言われて、言ってきたように皆で一丸となってやるしかないのだ。

 

「……ごめんなさい、そうだったわね」

 

「川瀬もホラ、あれだ。大切な人をきっちり捕まえておけよ、一番不安な状態だと思うぞ」

 

「う、うぐ……そうですね。い、言われなくとも……」

 

 御剣先輩が軽く笑いかけてくるが、心にずしりと言葉が染み込む。

 ブーメラン返ってきた……!

 立場が逆転すると、とても難しいこの状態。

 俺とかりんの関係はこう……微笑ましく見られているが何も確定していない不安定な状態には違いない。

 何時死ぬか分からない状態で確定させるべきではないという……言い訳? 建前? に基づいているが、本音でもあるはずだ。

 

「こうしてみると、本当に兄弟に見えるわね。……川瀬君が何に悩んでるか分かってるつもりだけど、この状態で正解なんて無いと思うから、やりたいようにやれば良いんじゃないかしら?」

 

「そ、そーですね……善処します」

 

 えー、あとは若い二人にお任せするとして……軽い返事をしてそそくさと離れる。

 先輩方は問題無さそうだ。

 今後の動きを頭の中でおさらいする。

 

 まず、作戦では……御剣先輩と桜姫先輩の二人が郷田をメインで追跡する。

 その時には発砲が必要な為、此処にある武器込で判断すると御剣先輩がサブマシンガンを、桜姫先輩がエアーガンとスタングレネードや催涙ガスグレネードの使用を行い二人組で追い込みを実施する。

 今、拗ね気味でかりんに慰められている勇治は、JOKERで『5』番に偽装して貰い、首輪探知とドアのリモートコントローラーによる別働隊での銃撃を含めた追い込み補助を並行で行う。その際、先輩二人と勇治の二組でそれぞれトランシーバー機能で連携して移動をしてもらう。

 かりんが潜伏している場所に誘導して、3方向からやってしまうのが理想。

 俺は5階のリモートコントローラーで下に開閉する扉に待機して、あの男がやったように何時でも上から奇襲なり救援なりできるようにする。後詰め兼、予備選力だな……同時に、もう1つ目的はあるけども。

 

 結局の所、安全な場所も役割なんてない。

 だが、何度か考え直してみたが、俺と勇治ではこれ以上の作戦は思いつかなかった。

 まだ持ってない情報などがあれば、もっと冴えたやり方はあるかもしれないが、現時点ではこれが一番冴えたやり方なのだ。

 

 気持ちを整理つつ、まだ不満げな表情を残す勇治と、武器を恐れているかりんの所に近づいていく。

 

「あんまりいじけるな。一番頭使う役割は任せたぞ、勇治」

 

「進矢お兄ちゃん、こんなの楽勝だって! だけど、良かったのかよ。かりんの奴を一人にして」

 

「アタシは大丈夫! 皆で生き残る為だもの、それに二人が一生懸命考えた作戦だから……これくらい平気」

 

 話しかけると、強がってかりんを気遣う勇治と少し硬い表情で返事するかりんの二人。

 命が懸かってる状況……俺も高校受験の時を比較にするのが馬鹿らしい位緊張している。

 ……後悔しないように、やりたいようにやる……か。

 俺の中で素直な言葉を喋るべきなのは分かる……だが、素直な言葉とはなんだろう?

 

 俺達を放っておけば、生きて帰れるのに俺達の為に上に残って危険な役割を担ってくれる二人。

 中学生の時に、俺は二人と同じように強くあれただろうか?

 そうだ、この作戦も……今の俺の意志も、かりんと勇治のお陰に違いないのだ。

 だから……二人の意志に応えてやりたい。

 

「進矢?」

 

「どうしたんだよ、お兄ちゃん」

 

 右手でかりんの手を、左手で勇治の手を握る。

 こういうのは月並みだが、二人の手は柔らかく、脆そうで、温かく、掛け替えのないものだ。

 

「言いたい事は多いけど……その、ただありがとうって言いたくてだな」

 

 部下に死んでこいと言えるのが指揮官の資質であるなら、俺は二度とやりたくない。

 皆で生き残る為に、大事な人の命を賭けなければならない矛盾。

 二人の命をチップとして加えなければ全員生存のベッドすらできなかった現実。

 それに対して文句言わなかった二人が嬉しく、代替案を思いつかなかった自分に腹立しさすら感じる。

 でも、ここで言うべきは謝罪ではなく、本当に感謝の言葉しかない。

 

「二人がいなかったら、ここまで来れなかった」

 

 声が震える。

 二人の命を賭けさせつつ、身勝手にも絶対に死んで欲しくないと思う。

 俺の言葉を聞いたかりんと勇治の反応は、なんというか呆れだった。

 

「おいおい、かりん。進矢兄ちゃん、こんなこと言ってるぜ」

 

「全部終わってから言ってよ、話したい事は本当に沢山あるんだし」

 

 かりんも勇治もなんでもない事のように軽く笑う。

 やっぱり、俺はここで死ぬのかもしれない……死亡フラグを乗り越えなければ――

 仲間達と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、手短に試し撃ちして銃の反動のチェックと、リロードの練習を行った。

 反動の強い銃を絶対大丈夫だと強気で主張する勇治の説得に苦労した以外は、特に問題は発生していない。銃の使用に関しては本当に最低限で、狙う事を考慮に入れないで狙った方向に撃つレベルで……だが。

 俺達に銃の専門家がいるわけではないので仕方無いのだが、本当に殺すつもりはないので用途としてはそれで問題無い。

 

 丁度良い銃器とPDAを分配して勇治と桜姫先輩、御剣先輩と別れる。

 3人は郷田を狙う為に4階に移動した。

 PDAの配分は以下の通りである。

 

『4』『6』:ドア開閉機能、JOKER探知機能 所有者:北条かりん

『8』:首輪探知機能     所有者:御剣総一

『Q』:通話機能インストール済み 所有者:桜姫優希

『10』『JOKER』:通話機能インストール済み  所有者;長沢勇治

 

 ……俺のPDA? 作戦で使うPDAを算出してたら、俺の分が完全に無くなった。

 PDAレスで頑張ります。

 

 5人だと随分賑やかだった気がするが、今はかりんと二人っきりだ。

 かりんは待ち伏せという関係上、階段ではなくドア開閉機能で降りる必要があるからだ。

 一応、ロープも持っている為、飛び降りるなんて危険な行動は取る必要はない。

 二人きりになって、寂しいやら恥ずかしいやら……3人が心配な気持ちと作戦への不安も大きい。

 

 緊張と警戒……それと、何を喋れば良いか分からず緊張してた事もあり、事務的な事以外は殆ど喋らずに落下ポイントに到着する。

 下の階へ開閉可能なドアには、縄梯子が括り付けられ柱に繋がっている。

 開閉した瞬間に、下の階に縄梯子が落ちる仕組みになっているのだろう。

 

「なるほど、周到な事だな……既に見せた方法の応用なら幾ら使っても自然だ。公平感がある戦術と言える」

 

 しゃがみ込んで縄梯子を触ってみる、頑丈そうだ。

 これを使って、3次元的な移動で俺達を翻弄しようというのが郷田の目論見の1つだったんだろう。

 俺の奇策によって台無しにされてしまったが、まだ敵の策の内1つを潰したに過ぎない。

 

 ここでかりんともお別れだ、何を言えば良いのだろう。

 最悪の事を考えれば今生の別れになるかもしれない、彼女に対して。

 大事な人をしっかり捕まえておけとは最初に俺が言った事の筈なのだが、それを達する事はできなかった。

 

「かりん……作戦は大事だが、兎に角生きてくれ。誰も死ななければやり直せる、それが何よりも大事な事だ」

 

 少し硬くなっているかりんに対して、眼を逸らさずにそれだけ言う。

 頭を悩ませるも、結局は事務的な事しか言えなかった。

 大事な事は大事な事なんだけど、必要な言葉はそっち方面じゃないと思うんだ。

 

 ちょっと申し訳なさを感じている俺に対し、かりんは大きく息を吸い込んだ。

 そして決意したように、近づいてくる。

 

「――ッ!?」

 

 唇に温かいものが触れる。

 気付けば文字通り目と鼻の先にかりんの顔があり、そしてすぐに離れた。

 俺に飛びついてきたのだ、と気付いたのはその暫く後……完全に反応できなかった。

 

「ふふ……進矢から勇気貰っちゃった」

 

 紅潮した顔をして悪戯っぽく微笑むかりん。

 俺も顔が熱くなり似たような状態になってるんだろう。

 ちょっとずつ分かってきたが、かりんは相当におませな女の子である。

 それでも、例えこのゲームの結果がどうなろうと、今のかりんの表情を生涯忘れられないと思う。

 

「じゃ、じゃあ行ってくるね! また後で、会おうね!」

 

 そして、そのままかりんはPDAを操作して、ドア開閉機能を使って下に降りていった。

 

「……負けた。後で覚えてろよ、かりん」

 

 そんなかりんに対して、俺はそんな負け惜しみの言葉しか送れなかった。

 女はしたたかって奴なのだろうか?

 正直敵う気がしない。

 何が勇気を貰っただ。

 勇気を貰ったのは……俺の方だ。

 俺はこれを幸せなファーストキスにする為に、このゲームをハッピーエンドで終わらせないといけないんだ……男として。

 

 かりんが降りたのを確認し、縄梯子を回収する。

 下へのドアが閉まっていくのを名残惜しく見届けるが、今は未来の為に行動する時だ。

 

 PDAを失い、地図を喪失した俺だが、先程の武器庫で1つ良い物を発見した。

 周囲の音を拾って、大音量で流してくれる耳掛け式の集音器である。

 それを取り付け周囲の音を聞き取り、奇襲を事前に察知するのが目的だったのだが――付けてすぐにそれを投げ捨てた。

 

「なーんだ、わざわざ別れるのを待っててくれたんですか、綺堂渚さん」

 

「えぇ、此処に居るのが貴方で良かったわ――川瀬進矢君」

 

 音がした方向にサブマシンガンを向ける。

 そこに居たのはこのゲームに似つかわしくないようで、ある意味で似合っているゴスロリ服の美女――初対面の綺堂渚が日本刀を携えていた。

 

 5階で一人浮いたプレイヤーが居れば綺堂渚狩りに来る……此処までは、計算通りだった。

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