秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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プレイヤー:カード:オッズ:解除条件
川瀬進矢: 3 :4.4:3人の殺害
桜姫優希:9:10.2:自分以外の全員の死亡
矢幡麗華:?:4.5:???
郷田真弓:?:4.1:???
手塚義光:?:3.7:???
長沢勇治:?:8.8:???
DEAD:7:DEAD:???
???:???:???:???
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第三話 合理性の不合理

 

 

 

 

 

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信じる者に対して証拠は不必要である。信じない者に対して証明は不可能である。

スチュアート・チェイス(米国の経済学者)

―――――――――――――――

 

 

 

 

 場の空気は解除条件を交換するかしないか、から一転した。

 桜姫先輩が『自分以外の全員殺し』の解除条件を掲げ、ゲームを拒否した事によって。

 怒濤の展開だ……既に解除条件を知っていた俺以外は一瞬膠着状態に入る。

 

 

 ここで流れが変わった以上、桜姫先輩に乗ろう。

 この決断が正しいのか、それは分からない。不安も大きい。

 しかし、俺の何倍も桜姫先輩は怖かった筈。だからこそ決断する事ができたのだ。

 9番の宣言で注目されている桜姫先輩を庇うように、矢面に移動する。

 

 

「やれやれ、折角解除条件に関して庇っていたのに無駄になってしまったじゃないですか」

「悪かったわよ……だけど、信じて貰うには隠すわけには行かなかった。それだけよ」

「まっさか、既に交換してる人間が全員殺しとはね……ククク。そいつぁ、盲点だったよ」

 

 

 呆れたように手塚が呟く。俺も、自分で仕掛けたブラフが速攻で台無しになってしまったのは予想外だ。残念だとは思わないけども。

 手に持っていたPDAを鞄に戻し、自分本来のPDAを手に取る。

 

 

「あーあ、折角目立とうとしたのに、2番目だと効果も半減ですよ。俺はPDAナンバー3、3人殺しのスペードの3であることをカミングアウトします」

「おま……そのPDA、まさか……!」

「油断ならない奴……!」

「最悪な条件を引き当てて、それを自ら明かすなんて馬鹿な奴だなぁ!」

「桜姫さん……川瀬君まで……!?」

 

 

 わざわざ手に持っていたPDAを鞄に戻し、もう一つのPDAを手に取ってから解除条件の画面を見せる。そう、ルール交換の時に使用していたPDAは自分のではなく、死んだ男の物だったのである……! 本気出せばこうやって騙す事ができたんだよ、だけど俺はそんなことしないよアピールである。 

 尚、手塚と矢幡の鋭い視線が一斉に俺に突き刺さる。シャイな人間にとっては少々辛い展開である。長沢なんて笑っている、馬鹿って言う方が馬鹿なんだよチクショー。背後の桜姫先輩を除けば心配そうに事態の推移を見守っているのが、郷田社長だけだ。

 

 

「か、川瀬君……」

 

 

 心配そうな声色をしている桜姫先輩を手で制して、これから話す内容を頭の中で整理する。

 賽は既に投げられた、後は覚悟を決めるのみだ。

 

 

「生憎ですが、俺は桜姫先輩のように優しい人間ではありません、貴方たちが団結して最大人数を生き残らせる方針で行くなら協力します。大人しく、解除条件を満たさずに生き残る方法を探す覚悟を決めますよ」

 

 

 これは最初から考えていた妥協案の1つだ。自分の命は惜しい、だがすぐに殺すと切り替えれる程、俺の頭は柔軟でもドライでも無かった。また、自分1人の命が、3人の命と釣り合うと思えるほど思い上がることもできない。ただし、このゲームに参加してる人間が救いようのない人間ばかりなら、前提が変わる。

 

 

「ただし、疑い合い自分本位の殺し合いを行う人間は容赦無くナンバー3の解除条件の餌にさせて貰う予定です」

 

 

 要約すれば【皆が殺し合いに乗らないなら乗らない、皆が乗るなら乗る】……やはり俺は流されやすい人間なんだろう。だが、この局面では抑止力として使わせて貰う。

 桜姫先輩が情で攻めるなら、俺は論理で殺し合いを止める。

 別に自分自身、正義感が強い訳では無いと思うが、なんだろう……盤面が整ったから攻めたというのがこの場合俺の行動決定としては正しいのだろうか? 決して絆された訳では無い、ハズ。

 

 

「川瀬君、私は貴方にも誰も殺させないからね」

「今、殺し合いを抑制しようとしたのに、背中から撃たれた気分なんですが」

 

 

 なんとか、苦笑いの表情を作って桜姫先輩に返す。

 少し気が楽になったので、此処で畳みかけよう。

 

 

「改めて提案です。解除条件の交換をしませんか? 自己犠牲と殺人を除けば、解除条件の協力を約束します」

「その解除条件を公開して協力……!? そんな事を言って信じられる訳ないじゃない!」

「分かりました、説明します」

 

 

 矢幡の鋭い目線を受け流しつつ、間髪入れずに回答する。

 内心は不安でいっぱいだが、ここは自信満々に話さないといけない局面だろう。

 

 

「貴方たちは他人を信用できない理由を3点挙げました」

 

 

 PDAを持たない左手で3を示してみせる。

 この場合、疑念を一気に消し飛ばす事はできない以上、分割して1つ1つ潰していく事が必要となる。そして、俺の論理は桜姫先輩の行動により完成している。

 

 

「一つ目、PDAの競合と殺人条件。直接的な殺人条件はA、3、9……内2つはカミングアウトした通りです。Aは特定個人の殺害なので、Qでない限り恐れる事はありません。俺達が皆さんの解除条件を手伝っても良いですし、俺達を無視して団結し解除条件を達成しても構いませんよ?」

 

 

 僕と桜姫先輩以外の全員が顔を見合わせる。殺人条件の持ち主の自己犠牲があれば13人中最大10人生還可能なルール。内、切り捨てられるべき2人が協力体制を見せる譲歩をしているのだ。少しは効果が無くては困る。

 

 

「二つ目、ジョーカーがあるから信頼できない。まず、危険ナンバーの俺達ですが、ジョーカーの持ち合わせはありません。言うまでもなく、3と9なんて偽装する価値もない。桜姫先輩、ジョーカーなんて持ってませんよね?」

「え、えぇ……持ってないわ」

「で、ついでに言えば多人数が居る場で番号を一斉公開してしまえば、偽装した場合被ってしまう可能性が半分程度あります。ジョーカー警戒すればこそ、ここで一斉公開すべきでは?」

 

 

 このメンバーが実際にできるかと言えば自信はないが、単純により多く生き延びる方法としては冴えたやり方だと思っている。 尚、死んだ男のPDA番号を伏せているのも、被り確率を上げる為である。殺人ナンバーが自分が解除条件ですって明かすよりは100倍勇気はいらなさそうなんだけどな!

 

 

「3つ目、お金の問題に関しては当人で話し合って解決してください。我々は欲で生きる動物ではなく、理性と叡智の光に生きる人間なんですから」

「はっ、そい面白い冗談だな」

「無理だよ、川瀬のお兄ちゃん。手塚がそんな提案呑まないって」

「貴方たちの論理は全部、斬り伏せたつもりなんですけどね?」

 

 

 感情、論理……その2つで攻めてみたが、糠に釘とでも言おうか。3人の表情を見るに手応えがない。そこで、俺は自分の重大な思い違いに気付いた。

 手塚が嘲るように口を開く。

 

 

「ついでに言えば、4つ目に殺して奪った他人のPDAを使って、自分のPDAはこれですってジョーカー以上に確実に偽装できるってか? だから、信頼されるには今公開するしかねぇ、それは分かった。だが、何も解決してねぇよ」

「先に指摘されてしまった……しかし、何も解決しないとはどういうことです?」

 

 

 ――参ったな、思ったより全員の意志が固そうだ。

 今持つ自分の札を全て使用して、疑心暗鬼を止めようと考えていた。

 だから、俺は疑う理由を全て論理で以て粉砕した。

 

 

「で、結局の所、6時間経過したら、こいつらは信用できるのか? 俺は出来ない」

 

 

 しかしながら、彼等は理由があるから疑うのではなかった、疑う事に後付けで理由を付け足していた。それだけなのである。どれだけ疑う理由をぶった切ったとしても、本当に裏切るか、裏切らないか……その保証を俺にすることはできないし、裏切りが発生した場合責任を取ることもできないのだ。

 

 

「川瀬の兄ちゃん、折角楽しいゲームなのにさ。水を差さないでくれよ。それに僕――いや、俺は手塚を殺さないといけないんだし」

「俺は殺しより、犯人当てや脱出ゲームの方が好きでね。俺が好きなゲームに変えたいと思ってる所なんだよ」

 

 

 中学生時代は殺す方が好きだったな、と若干懐かしい思いに囚われつつ……彼の意志を変える事はできない事を悟った。……少なくとも今は。

 

 

「お前たちはこのゲームに乗っている。自分の解除条件を満たす為に、解除条件を敢えて明かし……取り入ろうと考えている。そうなんでしょう?」

「そんな……! 矢幡さん、私はそんなつもりじゃ……!」

「考えたわね、お人好しなら騙されて殺されていたでしょう……でも、私は騙されない……!」

 

 

 青白い顔で指摘するのが矢幡麗華だ。ここまで疑ってくるってことは……何かしら心理的外傷(トラウマ)でもあるのだろうか、俺達に悪意がある事を信じて疑っていないみたいだ。桜姫先輩が慌てて否定をするも、全く心に響いてる気がしない。まぁ、なんだかんだで俺自身、いつでもゲームに乗る事は可能な状態であるのは確かだ。そこを指摘されたら……それこそ、PDAを破壊するしか証明の方法が無くなるだろう。

 再び醸し出される険悪な空気、一番早く立ち上がったのは手塚だった。

 

 

「ハハッ、お前等。短いつきあいだったな?」

「手塚さん、やはり俺達の事は信用して頂けませんか?」

「その気骨は買うがな、その嬢ちゃんの言うようにどっちかが演技をしているとなりゃ脱帽だ。だが……本気でそんな事を言ってるんなら、長生きできねぇぞ――お前達」

「お優しいことで」

 

 

 決別の言葉は鋭く、あるいは最後に見せた優しさなのかもしれない。いずれにせよ、そのまま手塚は去り無情にも扉は閉まる。だが、それを追う影は勿論存在した。

 

 

「手塚さん! 待ってください!」

「ちょ……桜姫先輩!?」

「川瀬君、私は手塚さんを説得するわ! この場はお願いするわね!」

 

 

 俺の背後から桜姫先輩が手塚の去った扉に走っていく、如何にもアウトローの格好をした手塚に対して迷わず走って行ける根性は大したものだ。俺も正直、追いかける度胸はないし、発想すら無かった。俺も追いかけた方が良いのだろうか、一瞬迷うが事態は同時並行で動いていた。

 次に立ち上がったのは矢幡麗華である。

 

 

「では、私も失礼します」

「麗華さんまで? どうして!?」

「人を殺さないといけない人と一緒に居られませんから」

「それ、死亡フラグでは……?」

「お前と一緒に居るよりはマシよ」

 

 

 次に立ったのは矢幡麗華、引き留めようとした郷田を素っ気なく断り、俺の半ば独り言めいた言葉に絶対零度の目線で突っ込みを入れた。美人にここまでにらまれた経験は正直ないので、思わず緊張して出遅れてしまう。バタンと手塚とは逆方向の扉が閉じられた。

 その扉に郷田社長が駆け寄る。

 

 

「私は麗華さんを追います、女性一人では危ないですので」

「期せずして、ペア結成って事ですか。道中ご武運を祈ります、共にゲームを生き延びましょう」

「えぇ、貴方の言葉、私は良いと思うわ」

 

 

 郷田社長はわずかに微笑んで矢幡麗華が閉めた扉を開け、すぐに視界から消えていった 

 元々、6人は多すぎるからある程度分かれて行動しようとは考えていたが、こうも一気に人が減るとは思わなかった。自分は頭の中で考え込んでしまうタイプだが、即断即決こそがこのゲームでは肝心なのかもしれない。

 

 

「という訳で逃がさん……お前だけは……」

「げ……逃げ遅れた……!」

「残念だったな……諦めて俺と協力プレイしてもらおうか!」

 

 

 こっそりと部屋を離れようとしていた長沢の先回りを行い、退路を断つ。といっても、長沢も強く反発する様子はない。

 ――なるほど、一番問題が根深そうな手塚は正義感の強い桜姫優希。

   殺人条件に怯えている矢幡麗華には、殺人条件ではない郷田社長。

   人を殺したいと豪語する少年には、ちょっとだけ倫理観がまともな先輩である俺。

 ここに集まった6人の中、ゲーム積極派、ゲーム慎重派で二人組を作るのであれば、これ以上のないグループ分けができたのかもしれない。

 

 

 可能な限り、力を尽くしたかもしれないが、結局は流されに流されてしまった……何だかんだで次善の状況になったが、ここでぐずぐずしてても仕方ない。改めてこのゲームの攻略を組み立てていこう。

 

 

「長沢勇治……協力して、楽しいゲームにしようぜ?」

「川瀬の兄ちゃん、さっきは目立ってたな……だけど、このゲームは僕――いや、俺の方が活躍するんだからな!」

「はっはっは、これは負けていられないな」

 

 

 長沢に手を伸ばすと、渋々ながら応えてくれた。今までの立ち回りから最低限は認めてくれたんだろうか……? 

 過ぎた事は仕方ないが、もう俺の自信はボロボロだよ畜生。

 それでも、ゲームに乗りそうな(というか乗ってる?)危うい少年とはいえ、中学生を殺したくはない。戦闘禁止時間が解除されるまでまだ時間がある。なんとか誘導しきらなくては……と決意を新たにする。

 

 

――自分が中学生時代にこのゲームに参加していたとしたら、似たような事をやりかねないので他人の気がしないとかそういう事を思っていたりするが。

 

 

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