秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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幕間6 詰め将棋の遊戯盤

 

 

 

 

――――――――――

復讐を果たしてこそ、相手を許す気になる。

スコット・アダムス (米国の漫画家)

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 ゲームで運営側を打倒するヒロイックな展開になった時、ゲームマスターとサブマスターは倒されるべき悪となる。

 十数回目のゲームにして、初めての展開だが綺堂渚としては……ある種の感慨のようなものが、無きにしもあらずだった。

 少なくとも、渚が知る今までのゲームの全ては、プレイヤー同士で死屍累々の展開だった。ゲームマスターとサブマスターを除けば、平均生存者数2~3人。解除条件を遵守すれば10人は生き残れるように設計されているというのに、人と人同士が信じられない為に決まって破滅的なエンディングとなる。

 

 今回もそうなる筈だった。

 1つだけ普段と違う部分があるとしたら、解除条件を遵守しても生き残れない筈の3人が団結した事だろうか。

 参加者を纏め上げ、悪の殺し合いゲームの手先を殺す。

 スーパーヒーロー……とでも例えれば良いのだろうか。

 それはとても陳腐で、最後までやり遂げる事は非常に難しい事は他ならぬ渚が一番良く識っている事だ。

 

 そして、最初のゲームで誰よりも大切だった筈の幼馴染の親友を殺し、十数回の血塗られたゲームの進行を補助してきた綺堂渚は最後に立ちはだかる悪の権化として確かに相応しかった。

 後は自分が殺されればめでたしめでたし、ハッピーエンドである。

 

 数十回ゲームに参加した今になって、渚は考える。

 自分がこんなにもゲームに参加していたのは家族の借金の為だけではない。

 自分と同じ選択をする人間を見て、自分の行為を正当化する為だけではない。

 正しく団結する人々を見て、『お前は間違っているのだ!』 と突きつけて欲しかったのかもしれない。

 

 だが、今更だ。

 それを受け入れるには、最早渚は穢れすぎた。

 彼等に感じる確かな怒りと憎悪は、八つ当たりに違いないのだ。

 

 加えて言うのであれば――。

 

『自分が殺される事で、彼等にもまた人殺しの責を負わせる事ができる』

 

 なんて想いが渚を支配していたりもする。

 あるいは、一人位殺した方が、彼等も本性を剥き出しに渚の知る人間になってくれるのではないかとも思う。

 結局の所、渚自身……自分のやりたい事がはっきりしていなかった。

 

 身体の方は軽くなったというのに、気持ちは重いままである。

 悩んだ渚が出した結論としては――

 

 結局の所、組織の尖兵として……サブマスターとして動く、という単純な答えだった。

 カメラは持たなくても、綺堂渚は組織の戦場カメラマンでありインタビュアーでもある。

 だから、何を考えているのか、どういう思惑があるのか、直接やりとりするしか無いのだ。

 

 ターゲットは勿論決まっている……どう接触するか、それだけが問題だった。

 

 

 

 

 

 

――――ダダダダダダダダダ!

 

「そう来たかー! 余裕ぶっこいてないで、査定なんて放り捨てるべきだった!」

 

 サブマシンガンの銃弾が郷田から少し離れた場所の床と壁を抉る。

 御剣総一の射撃は威嚇射撃なのは分かるが、桜姫優希の持つエアーガンのBB弾は容赦無く身体に狙ってくるので逃げない訳にもいかない。

 追ってくる二人の移動スピード自体は慎重に慎重を重ねているが、ドアコントローラーの利用ともう一人の長沢勇治のスタングレネードによる牽制攻撃もあり、じりじりと袋小路に追い詰められている。

 

 だが、その慎重さも渚が場所を現すまでだろうという事も郷田には分かっていた。

 何故なら、二人はエアダクトがある地点で必ずスピードを落としてくるからだ。

 地図にエアダクトが拡張されてなければ、エアダクト内部の場所検知は不可能、それに気付いているからか、エアダクトに対して最大限の警戒をするようにしているのだろう。

 

 ただ、頼みの綱の綺堂渚も郷田視点ではどこに襲撃をかかるか分からない。

 だから、最低限この場は自分で切り抜ける必要がある。

 今、郷田が持っているPDAは2つ。

 最初から持っている【5】のPDA、渚から受け取った【2】のPDA。

 そして、襲撃を受けた直後に【2】のPDAに【PDA探知機能】の追加ソフトウェアをダウンロードしたばかりである。

 詳細は以下の通り。

 

PDA【2】

『爆弾とそのコントローラーのセット』

『遠隔操作可能な自動攻撃機械のコントローラー』

『エアダクトの見取り図』

『PDA探知機能』

 

PDA【5】

『首輪探知機能』

『ドアのリモートコントローラー』

『罠探知機能』

 

 

 逃げながら郷田は次の一手を考えなければならないのだ。

 愚痴を吐きつつも、郷田はちゃんと何枚かの手札を用意してこの勝負に臨んでいる。

 

 手札一枚目、罠のシャッターの利用。

 ……残念ながら、罠の位置を完璧に読まれており、罠を目指す行動自体が相手に読まれてそうなので却下

 

 手札二枚目、ドア開閉機能で5階に逃げる。

 ……PDA感知機能を使用した結果、PDAの内2つが、正に逃げようとした5階の場所から4階に移動している模様。恐らく、川瀬進矢と北条かりんと推定。縄梯子は撤去されたものと思われる、却下。

 渚の移動ルートとして解放だけしておくに留める。

 

 手札三枚目、自動攻撃機械、遠隔爆弾の使用

 ……自動攻撃機械を準備してたのは5階。遠隔起爆できる爆弾は諸事情で使えない、却下。

 

 手札があっても、電撃的に5階に上がられてしまった為、殆どブタ札になってしまったのが哀しい事だ。

 頼みの綱は、この『PDA探知機能』……なのだが。

 探知機能を使った所、既に逃走ルートの先にはPDA2つと首輪1つが動いている。

 ジワジワと包囲してくる算段なんだろう。

 さて、ここからが読み合いの始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――時は数十分前の2階の作戦会議に遡る。

 

「――という訳で、首輪を一個生贄に捧げて、5階までショートカットできるわけなんですね」

 

「その為にPDA壊して首輪解除したのか……理屈は分かるけど、進矢兄ちゃんがどういう思考回路してるか分からねぇ」

 

「今までのルール傾向からして、行けそうだと思えるのが哀しい所ね」

 

「上手くいった……として、問題はそこからどうするかだよね」

 

 まず、5階にショートカットで行く方法を進矢が説明する。

 説明する本人以外には呆れられてながら感心されつつも、問題はその先だ。

 武器と位置のアドバンテージを得たとして、次の攻め手をどうするか……掲げる目標が全員生存なのだ。

 これだけで、目的を達成できると思ってる人間は誰も居なかった。

 

「はいはーい! ここは、俺の考えた案でいこうぜ!」

 

 そんな空気の中で、長沢勇治だけが楽しそうに得意げに手を挙げる。

 進矢の発案した作戦は有効として、次は長沢の手番だった。

 

「嫌な予感はするが、なんだ?」

 

「嫌な予感とは失礼だな、御剣の兄ちゃん。そう難しい事じゃない、首輪探知機能とか位置表示機能ってあれば便利過ぎて使いすぎちゃうだろ? だけど、信じ過ぎちゃ行けないって事だよ」

 

「それって探知機能に見えなくなるソフトの話だよね、あとエアダクトの中にはいれば見えなくなるし」

 

 長沢はJOKERに表示された光点を示しながら、探知機能の危険性を指摘する。

 首輪探知で数時間前に検索した光点の中には郷田真弓と思われる光点は4階にあるが、綺堂渚と思われる光点が6階に存在する。一見便利なものだが、便利さに頼りすぎると大きな落とし穴がある……というのは、JOKERで発見した『ジャマー機能』と進矢とかりんの二人で検証した『エアダクト内は検知不能』という落とし穴は判明している。 

 

「ジャマーソフトがあるし、俺としては正直ジャマーのジャマーが欲しい」

 

「カードゲームかよ」

 

 この2つの落とし穴を上手く使われてしまえば、下手したら誰かが死ぬ事になるため、対策は必須だった。

 しかし、進矢としてはカウンターカードのカウンターカードが無いために難儀していたのだ。

 

 悩んでいる進矢の姿を見て、長沢は満足そうな笑みを浮かべて言った。

 

「この探知機能だけど、要はGPSだ。進矢お兄ちゃんが言ってたように、発信元を抑えれば探知機能に映らなくなる。 ジャマーソフトなんて無しに」

 

「……え、マジでぇ!? そんな裏技許されて良いのか!?」

 

「おいおい、最初にヒントを出したのは進矢兄ちゃんじゃないか。気付かなかったのかよ?」

 

「理論上は、そうだけれども……そこで思考停止してたな」

 

「まぁまぁ、アタシなんて二人の話についていくのが精一杯なんだし、そこまで落ち込まなくても良いよ」

 

 驚愕の声を挙げる進矢に対して、今度こそ長沢は勝ち誇り、胸を張った。

 答えのすぐ近くまで踏み込み、そこで止まっていた事に気付いた進矢は愕然として落ち込んだ。

 そんな進矢にかりんは肩に手を置いて慰めていた。

 総一はそんな二人に苦笑しつつ、質問を長沢に投げた。

 

「理屈は分かったが、実際どうやるんだ?」

 

「簡単だよ。これ、戦闘禁止エリアにあったアルミホイルな。アルミホイルは携帯の電波を遮るんだ、で俺の見張り時間に試してみたら首輪探知機能に引っかからない首輪の誕生ってわけ。へへっ、これを上手く使えば倒せるじゃないか?」

 

「あー、なるほどね。なんかどこかで聞いた事あるような気がする。携帯なんて縁の無い代物だったから思いつかなかったけど」

 

 残念ながら、携帯電話を持たざる男である川瀬進矢には携帯の電波に対する知識が薄かった。

 【首輪をアルミホイルで囲ってしまえば首輪探知機能に表示されなくなる】

 分かってしまえば簡単すぎるシンプルな事実。こういうのをコロンブスの卵とでも言うべきか。

 ジャマ―ソフトなんてものがあるから、他に消す方法なんて存在しない……そんな先入観を持ってしまう。

 だけどこのゲームにおいて、その思考は命取りだ。

 そして、気付いてしまったが故に、何もかもを疑わざるを得なくなる。そういう悪辣さが見て取れた。

 

「……えーと、一応、長沢案に補足しておく。多分、郷田はPDAの探知機能を持ってると思う。根拠は、自分の位置を表示するGPS機能の位置表示がPDAの場所依存なのに、PDA探知の存在が今のところ示唆されていないから、それを念頭に次の作戦を考えていこうか」

 

「そっちは考えてなかったなぁ。僕――いや、俺は、動体感知機能の対策も考えたんだけどさ、スタングレネードとか使って誤魔化せないかな? 皆が寝てる間は出来なかったから、ちょっと実験したいんだけど」

 

 こうして立て板に水という言葉に相応しい勢いで、作戦会議は進行していく。

 長沢と進矢ペアのそれぞれがそれぞれの目線で突飛な案を出して、もう片方がその案の欠点や応用を考えるという方式だ。

 その奇想天外な案を5人全員で現実的な所まで落とし込み、パズルのように組み合わせる。

 それは、これから行う事が殺し合いであるという前提を忘れる位、楽しい事であった。

 

 それはそれとして、川瀬進矢と長沢勇治の二人は組ませたらヤバいという印象を他の3人に刻みつけたのはちょっとした余談である。

 

 

 

 

 

――ズガァン!!!!

 

 

 「――ッ!? 鬱陶しい!」

 

 

――パァンパァン!

 

 

 比較的すぐ近くで爆発したスタングレネードに、郷田は片耳だけを塞ぎ牽制射撃を行う。

 辛うじて生きてる視界で、長沢勇治らしき影が壁を遮蔽にして隠れたのが分かる。

 少しずつ余裕が無くなってきた。

 理由は1つだ。

 追ってくる3人のPDAと首輪が探知機能が消えたり、点灯したりを繰り返している。

 ジャマーソフトが複数あるというよりは、GPSの発信妨害の裏技に気付いたという事だろう。

 郷田も存在だけは知っているが、ゲームマスターとして使ってはいけないモノだという認識が強い。

 

 これにより、郷田の中での探知機能の信頼性が急激に低下している。

 何よりも重いのは、この裏技を最後の切り札ではなく、見せ札として使ってきているという事実である。

 

 もちろん、ゲームマスターとして身体を鍛えてるから少々のダメージで済んでは居るが、持久戦の様相を見せてくると人数が多い方が有利なのは間違い無い。

 ……そして、もう1つの懸念事項は――

 

「優希! もうすぐ、一分だ」

 

「分かったわ!」

 

 かけ声と共にグレネードらしき球体が転がってくる音。

 郷田は扉を遮蔽にするように飛び込み、閉じる。そして――

 

 

 ――ズガァン!!!

 

 脳が震える程の大音量が、身体を震わせ聴覚が少しずつ役に立たなくなっていく。

 

(やっぱりそうか、彼等は【動体探知センサー】の弱点にも気付いている……参ったわ。お手本のようなゲームの攻略ね)

 

 強すぎる振動に対し、動体感知センサーは効力を発揮しなくなる。

 これが、動かない対象は検知できない事と双璧を為す動体探知センサーの穴と言える。

 スタングレネードのような許容範囲の衝撃を超えた場合、1分ほど動体探知センサーは検知不能になるのだ。

 彼等は追い込みと同時に1分間隔で大振動を起こす武器を使用している。

 ……恐らくは、郷田が動体探知センサーを持っている事を見越して無効化しているのと、渚が持っていた場合奇襲を難しくする為だろう。

 

 今の郷田に渚の位置を注意する余裕はないが、少なくともこの電撃作戦とも言える不意打ちで渚の救援を期待できる程、郷田は楽観的ではなかった。

 だから、ここは自分1人で窮地を脱する必要がある。それが大前提である。

 

 

(――さて、かりんちゃんと進矢君の2人はどうしてるかなっと)

 

 

 2つのPDAを確認しながら、郷田は走る。

 体力は結構削られては要るが、これでも郷田はプロだ、あと2~3時間は連続戦闘にも耐えてみせる。

 だが、体力的には頑張れても、バッテリーと弾薬の方は別だ。

 拳銃でサブマシンガンに対抗できるとは、さしもの郷田も思わない。有効射程が違い過ぎるし、待ち伏せをした場合はスタングレネードの餌食になるだろう。

 なんとか、誰か1人を殺すか重傷を負わせて戦力を削り戦線から一旦離脱したいところだ。

 

(逃げるルートは2つ……なるほど、ね。これは不自由な二択か)

 

 そして、郷田に突きつけられた逃走ルートの選択肢は二択。

 1つはPDA1個と首輪1個、PDA1個がそれぞれ別の部屋に挟み込むように存在している通路。

 もう1つは文字通り何もないが、隠れる場所は複数ある通路だ。

 他のルートは全て行き止まりに続いており、またドア開閉機能で施錠されている。

 

 まるでじゃんけんだ。

 PDAと首輪がある方向に隠れてると見せかけて、何もない通路に潜伏。

 そして、そう見せかけて馬鹿正直にPDAと首輪がある方に潜伏。

 どっちもあり得るし、どっちにも1人ずつ潜伏している可能性も勿論ある。

 

 考える時間は殆どない、わざわざ川瀬進矢の仕掛けた土台に載ってやりたくもないが、だからと言ってサブマシンガンのある方向に逆走するのはそれはそれでリスキーだ。

 

 そして、奇しくも選んだ郷田の選択は川瀬進矢の選択と一緒だった。

 

 ――つまり、道が無ければ作れば良い。

 

 袋小路に見せかけて、通路の行き止まりで【ドア開閉機能】で3階に落ちる事ができる場所が1つだけある。

 その通路に続く扉は【ドア開閉機能】で、施錠されており、もしかしたら川瀬進矢はそこまで読んで……ガムテープ等で完全に塞がれているかもしれないが、ならば爆破するまでだ。

 

 そう考えた郷田は虎の子の手榴弾を手に、扉の前に投げ込んだ。

 そして振り返り拳銃を抜いて、後ろで追いかけてきている総一達に射撃を撃ち込みながら、起爆を待つ。

 この距離では郷田の腕でも銃撃は当たらないので、容赦無く当てるつもりで撃ったが、総一が壁を影に隠れるのを確認した。

 

――ドゴォォォン!

 

 手榴弾の起爆を確認し、煙が郷田を包み込む。

 

(1人位、削っておきたかったけど……悔しいけど、一旦撤退ね)

 

 埃を浴びる事覚悟で、郷田は舞い上がった埃の中に飛び込んでいく。

 一先ず、これで……進矢の策は脱却できた筈だ。

 郷田としては敗北感で一杯だ、思惑から外せたとは言え、これでは損切りと言っても差し支えない。

 それでも、最終的な勝利の為に1敗を恐れてはならない。

 郷田はそう考えていた。

 

 

「……ケホッケホッ――え?」

 

 だから、郷田が煙を抜けた先で鋭い目線で銃――水鉄砲を構える短い茶髪のボーイッシュな少女……北条かりんの姿を視認した時に完全に硬直してしまったのは酷だと言えるだろう。

 

 ――鍵のかかっている封鎖された扉の向こうに伏兵はいない。

 

 郷田真弓は誘導されている事に気付かず、川瀬進矢の心理トラップに見事に引っかかってしまったのである。

 

「このゲームで死んだ皆の……仇!!!」

 

「あ、ちょ――ギャアア!」

 

 そして、水鉄砲から発射された水が郷田の顔に直撃し、眼球と鼻腔から強すぎる刺激が襲う。

 それは立つ事ができなくなる程の強烈な痛みで、郷田はその場で体勢を崩しのたうち回る。

 川瀬進矢お手製の唐辛子水が十全にその役割を発揮した。

 その数秒後、郷田の至近距離で轟音と閃光が炸裂し、完全に意識を失う事となった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ……緊張した。でも、全部2人の計画通りだった……」

 

「へへっ……僕達全員で追い詰めたんだ、これくらい当然だよ。ハァ、ハァ」

 

 長沢勇治は、完全に意識を失った郷田に対して後ろ手で手錠を掛けた。

 

 皮肉な事に、ゲーム盤を支配しているゲームマスター郷田真弓も今回ばかりは川瀬進矢の読み通りに動いた。

 進矢は信じたのだ……郷田真弓が危機的状況で最適解の選択肢を”生み出す”事ができる、そんな優秀な人間であると。

 そして、見事に郷田はその術中に嵌まってしまった。

 不自由な二択は罠に見せかけたただのブラフで、PDAと首輪が置かれていた事以外に何の仕掛も無かったのだ。

 

 結局の所、郷田真弓は優秀過ぎた。

 ――だから、負けた。

 

「良かった、二人共無事で。あー、作戦成功か……似たような事をもう一度しないといけないと考えると、結構しんどいな」

 

「そ、そうね……川瀬君も心配だし、もう二度とこんな事やりたくないというのが本音だけど」

 

 少し遅れて、汗だくの御剣総一と桜姫優希が部屋に入ってくる。

 走った時間自体は十数分と言ったところだが、銃を人に向けながら撃つという行動は想像以上に精神力を磨り減らしていた。

 とはいえ、この作戦の成否は全員の信頼関係と努力にかかっていた比率は大きく、自らの任務をこなした全員の勝利である。

 そういう意味では必然的な勝利でもあった。

 

「御剣さんも優希さんも大丈夫!? ……その、怪我はない?」

 

 勝利の余韻もあるが、かりんは戦った全員が怪我をしていないか心配そうに駆けつける。

 

「なんとか、な。ちょっと休みたいけど」

 

「私も、総一が守ってくれたからね」

 

 このとき4人は気付いていなかった。

 この【試合】に関して言えば完勝した。

 だが、郷田真弓の本領は自身の戦闘能力ではない……という認識がなかった。

 完全敗北をしつつも、郷田は確かにもう1つの役目を遂行して見せていたのである。

 

 

――ピロリン、ピロリン、ピロリン

 

 

 PDAが鳴る。

 

 

「え――嘘、でしょ……?」

 

 

 それを確認し、困惑した表情で、泣きそうな瞳で他の3人に言葉を求めるかりん。

 しかし、それに応えられる人間は居なかった。

 ただ、PDAだけが無慈悲に現実を伝えていた。

 

【生存者 6名】

 

 PDAは無機質に残酷に嘲笑うように――現実を表示していた。

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