秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第二十五話 狂気の舞踏会閉幕

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

罪の告白を免れるには自殺するしかないが、自殺そのものが告白なのだ。

ダニエル・ウェブスター (19世紀の米国の政治家)

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「良い、ハッピーエンドを」

 

 俺は自分の死を覚悟した。もしかしたら、一瞬後に綺堂渚に斬り殺されてもおかしくなかった。

 それでも、決死の覚悟で最後の説得を行った

 

 だが、結果は想定外も想定外である綺堂渚の自殺とも言えるルール違反。

 

 最初の犠牲者である漆山権造で見た光景だ。彼女の首輪のLEDが赤く発光していた。

 何が起こったかも分からず、どうしてこうなったのかも分からない。

 ただ、泣き笑いの表情を浮かべる彼女に対して、俺は叫び続けた。

 

『さようなら、綺堂渚様』

 

 しかし、ふと無機質な電子音で正気に戻った。

 まだできる事はある。1%の確率でも、彼女を救えるかもしれない方法はあった。

 内ポケットに忍ばせていた最後の切り札である、拳銃を取り出す。

 それを使えば――

 

「無理よ」

 

『またのご利用をお待ちしております』

 

 俺の行動に対して綺堂渚は、短く制する言葉を使う。

 しかし、他に手段はない。あるはずがない。

 だからこそ、俺は反発の声を挙げようとする。

 

「そんなの、やってみないと」

 

「よく見てて、川瀬君。私が――」

 

 力強い言葉を発する綺堂渚の元に壁からワイヤーが高速で殺到する。

 ものすごいスピードのワイヤーを渚は最小限の素早い動きでひらりと避け、日本刀で断ち切った。

 あまりの光景に、俺は言葉を失った。

 

「貴方たちの道を――拓いてあげる」

 

 

 

 銃弾が飛び交い爆発音が幾度となく鳴り響く。

 壁からは毒薬らしきカプセルが何度も発射されるも、俺が投げ捨てたサブマシンガンを拾った綺堂渚によって射出装置は次々に破壊されていく。そして、綺堂渚は装置から発射された全てを回避してみせた。

 

 その繰り返し。

 最小限の弾丸を使用して、人間の視覚でギリギリ捉えられるか捉えられないかの攻撃を紙一重で回避し続ける綺堂渚は……場違いな感想を抱くとすれば……儚い美しさを感じた。

 生きて帰れる筈がない、だが最後まで足掻き続ける……そんな、死の舞踏だ。

 

「弾倉!」

 

「はい!」

 

 弾が切れたと同時に、綺堂渚が叫びそれに呼応して俺は弾倉を投げ渡す。

 それを優雅にキャッチしてみせた綺堂渚はそのまま滑らかに交換してみせた。

 

「最初のワイヤーは刺さったら高圧電流が流れて死ぬ。回避不可能だから、先に壊しておきなさい」

 

 いや、貴方回避したよね!? って突っ込みを挟むには、少々渚の表情は真剣過ぎた。

 確かに渚は規格外過ぎる。ただ、彼女がどうしてこうするかは分からない……俺にできる事は彼女をできるだけ長生きさせる事と、そして彼女の生き様を見届ける事。それだけだった。

 

「スマートガンは現れてから発射まで5秒のタイムラグがあるから、それまでに破壊しなさい。これが一番多いから」

 

 4基別方向から出てくるスマートガンシステムを1基1秒で破壊するのは無謀過ぎるが、それを達成して見せた渚は事も無げに言い切った。不可能を可能にするとは彼女の為に用意された言葉なのかもしれないとも思う。

 

「カプセルを射出する奴は、片方だけなら死なないけど、二種類受けたら苦しんで死ぬわ。対処は楽な方ね」

 

 そして、渚はスマートボールを一個ずつ銃撃して爆破していく。

 無尽蔵にも等しい警備システムの攻撃に、最小限の動きで最大の成果を上げ続けた。

 合間に俺への警備システムの解説を挟み続けながら。

 

 固定式の警備システムが無くなった後は、追跡ボールの物量による攻撃だった。

 そして、それ故にどうしようもなかった。

 俺からすれば超人レベルの綺堂渚だが、無尽蔵の体力というわけではない。

 そうでなくても、銃弾が無限にあるわけでもないし、サブマシンガンだって使いすぎれば耐久力に問題が出てくるだろう。

 

 破壊、破壊、破壊。

 補充、補充、補充。

 繰り返される銃撃に硝煙の匂いが通路に充満する。

 それでも、追跡ボールは止まらない。

 

「最後に言える事は、警備システムはギリギリで耐えられる量が常に投入されるという事よ。貴方たちのような馬鹿な人間に――希望を抱かせる為にね」

 

 渚は予備の銃弾を使い尽くし、使い物にならなくなったサブマシンガンを追跡ボールに投げて爆発させる。

 そして、懐から二丁の拳銃を取り出し、飛んで向かってくる爆発するドローンを次々に撃ち落としていく。

 その弾丸を撃ちきった時、彼女を守るものは……もう何も残されていなかった。

 

 綺堂渚を守る為に、俺も含めて全ての弾丸を撃ちきって居たからだ。

 遠くから数十の追跡ボールがまた集まってくる。

 自分の運命を悟った渚は、最後に自分のPDAを俺に投げ渡した。

 

「さようなら、川瀬進矢君。貴方の事は大嫌いだったけど、それでもハッピーエンドを祈る気持ちは本当よ? だけど、耐えられないし許せないの。救われようとしてる自分を――じゃあね。困らせてごめんね。貴方は何も――悪くないわ」

 

「……」

 

 そして、空虚な眼で俺に微笑んだ。

 この瞬間――綺堂渚が喋っている瞬間だけ、追跡ボールの動きが止まる。

 それが、ショーとしての演出であると気付いた時――もう俺の中で吐き気が止まらない。

 

 俺に綺堂渚の気持ちが分かる筈はない。

 ただ、唯一察する事があるとするなら、罪悪感だ。

 何故、人を殺さずに首輪を解除する方法が存在する事が悪趣味なのか、それは既に解除条件の為に止むにやまれぬ状態で殺してしまった人物にそれを突きつけた場合の結果を考えれば自明の話だ。

 綺堂渚は恐らく苦しんでいた、だからこそ……俺の提示した全員生存案を拒絶した。

 そして拒絶したのは、綺堂渚は止むに止まれぬ事情で人を殺さないといけない理由はあったものの……根は悪い人では無かったからだ。

 

 そこの機微が分からず俺はどこかで、致命的なミスを犯した。

 あるいは、綺堂渚はそもそも自身の救いを求めていなかった。

 いずれにせよ、出来る事は何も無かった。

 

 あふれ出る涙を抑えて、俺は言った。

 

「渚さん……ありがとうございました」

 

「馬鹿ね。やっぱり嫌いだわ……私の後を追ってきたら絶対に許さないから。二度と会いたくないわ」

 

「皆に、伝えておきます」

 

 空虚な表情で寂しく笑い、そのまま綺堂渚は走り去っていく。

 追跡ボールの群れを走り幅跳びで、跳躍し回避……そのまま見えなくなっていった。 

 

 彼女の完全な拒絶と言外から滲み出る優しさ。

 このゲームの主催者側の人間というラベルこそあるものの、綺堂渚は間違い無くゲームによって人生を狂わせられた人間であるのは間違い無かった。

 だが、このゲームが始まった時には既に行き着くところまで行き着いていた。

 元々が良い人だったんだろうという事が分かってしまう故に、胸に苦しい思いだけが残る。

 

 暫くした後に遠くで連続して爆発音がして、受け取った『J』のPDAが振動する。

 生存者が、減った……それを知らせる音だ。

 時間確認の為、かりんから借りた携帯電話の時刻を確認する。

 約20分、それがペナルティ発動開始から綺堂渚が生き延びた時間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 合理的に考えると、自分以外全員生存させる手段として渚さんの取った方法はアリと言えばアリだ。

 このゲームがショーであるという前提に立てば、全員を生かすために自分が犠牲になり道を拓くというドラマチックな展開がこれを可能にすると言える。

 俺の虚論だったかもしれない、警備システムから生き延びる手段に文字通り魂を捧げたとすら言える。

 もしかしたら、俺もかりんに怒られていなければ取っていたかもしれない手段。

 

 だけど、理屈ではそう思うことができても、到底納得できるものではなかった。

 だからといって、何か死んだ人間に何かが言える訳でも無く。

 空虚に無駄な時間を過ごしていた。

 

 

「進矢! ……進矢ァ!!!」

 

 

 あまり長い時間呆然とはしていなかったと思う。

 ただ、階下から聞こえてくる大切な人の言葉でふっと意識の糸が張った。

 生きている、大事な事だ。

 実感は薄いが、少なくとも今俺は生きていた。

 

 『J』のPDAに表示されている生存者数を見る。

 少なくとも、渚さん以外は誰も死んでいなかった。

 俺はすぐに、下のかりんに姿を見せて外していた縄ばしごを階下に放り投げる。

 

 思うことは多々ある、ただ今は――

 

「良かった……! 怖かった、怖かったよぉ……」

 

「馬鹿、俺が死んでたら、ここで渚さんに撃たれてたかもしれないんだから……もっと自分の安全に気を配れ」

 

「もう! 馬鹿……!」

 

 かりんの温もりを感じたかった。

 梯子を凄い勢いで駆け上がってきたかりんは、泣きはらした顔でそのまま飛びついてくる。

 渚さんとの戦いで何度か感じた死の危機、その時に浮かんでいたのは何時だってかりんで……いつの間にか自分の中で大きな存在になっている事を実感させられる。

 

 

「……って、首から血が出てるよ!? こんなに出たら死んじゃうよ……!」

 

 

 飛びついた後で、俺自身すっかり忘れてた首の怪我に気付いたかりんは、持ってきていた鞄の中から救急箱を取り出す。確か渚さんに負けた時に首に刀を突きつけられた時の傷か、自分では見えないが、血がしたたり落ちてたようで、服と床が赤く染まってきている。

 

 言葉では注意しているが、もしも立場が逆だったら同じ事をしていたかもしれない。

 それでも、大切な人の無謀な行動にはちゃんと一言言っておかなければいけなかった。

 

「今の今まで気付かなかったから大した傷じゃない。それよりも、かりんに死んで欲しくないから、危険な行動は駄目」

 

「あたしだって進矢に死んで欲しくないよ!」

 

「全く、仕方無いな……ごめん、ありがと」

 

 諦めてかりんの治療を受け入れる。

 別離なんて敵であっても何度も感じたくない。

 当日知り合った仲間ですら大きいな疵を残すし、ましてや大事な人を失う事は想像するだけで身を引き裂かれる思いだ。この温かみが冷たくなる事なんて、想像もしたくない。

 

「おーい、かりん! って、なんだよ。お楽しみ中か」

 

「よせ! 長沢! ……川瀬! 落ち着いたら、郷田を捕まえた部屋に来てくれ……色々あったんだろうし、頑張れよ」

 

 下からなんか男二人の言葉が聞こえてくる。

 別にそういう配慮は要らなかった。

 いや、俺というよりはかりんへの配慮か……生存者数が減った時のかりんの反応とか、直接見ては無いが酷そうな表情をしそうなのは予想できる。

 嬉しいようなムズ痒いような、いやそれもまた生きてこそなんだけど。

 

「あー、そっちはどう? 皆、無事? 郷田は捕まえた?」

 

「……全部上手くいったよ、怪我もしてない」

 

「そっか、良かった」

 

「もう、仕方無いんだから……」

 

 そして、気が抜けたのか、一気に疲れが襲ってくる。

 考えてみたらあれだけ戦って、説得して、渚さんの死に様を見届けたのだ。

 死に隣接するプレッシャーは相当なもので、1時間に満たない時間であっても、既に一日分は疲れている。

 怒濤の展開に次ぐ怒濤の展開で昨日も負けず劣らずだった気はするが……。

 

 それから消毒液の染みる痛みに耐え、かりんは俺の首に包帯を巻きおえる。

 血は既に止まっていたようで、特に問題はなかった。

 

「何から何までありがと……あと、難しい役目を任せて成功させたのに、肝心の俺がこのザマでごめん」

 

「何でも良いよ、進矢が生きてれば。でも、今はちょっと……」

 

 治療を終えたかりんは、俺に縋り付いてきたので、しっかりと抱きしめる。

 俺が緊張の糸を切らしたかのように、かりんもまた気が抜けてしまったのだろう。

 大きな声こそは挙げないものの、小さな泣声が胸の中で聞こえてくる。

 

 かりんの体温を間近で感じると、なんとなく1つ推測をしてしまう。

 かりんは妹が一番大事だ、だけど人間だから勿論大事な物は1つじゃない。

 過大評価でなければ、かりんの中で俺が大事な存在になっていて欲しい。

 だから俺はこう考える……渚さんは、一番大事なものの為に、それ以外の全てを犠牲にし続けたのだと。

 

『生きていれば貴方も私と同じになるわ。貴方は自分にとって一番大切な物の為に、それ以外の全てを裏切る』

 

 渚さんは、そう桜姫先輩に言ったらしい。

 遅すぎるが今更気付いた。

 大切な物を切り捨てずに済んだ方法を、今更俺が提示しても俺は彼女を追い詰めただけなのだ。

 今、俺が生きてこうしてかりんと一緒に居られるのは、ひとえに渚さんに残された良心のおかげに過ぎない。

 

 勿論、渚さんがあり得たかも知れないかりんであったという事は俺の想像であり、妄想なのかもしれなかったが。

 

 泣いているかりんの頭を撫でながら、別の女の事を考えていたらかりんは頭を上げる。

 至近距離でかりんの顔がきて、ちょっとドキっとした。

 

「……進矢、ごめん。アタシも、もっと強いつもりだった……もっと頑張りたいのに、進矢と会って弱くなっちゃったかも」

 

「大丈夫、俺はそんなかりんが大好きだから――って、あ……」

 

 

 泣いてるかりんを慰めたくて、元気付けたくて……自然とその言葉が出てしまい、すぐ後に失言だと気付く。

 ゲームから帰ったら言うつもりの言葉でそう伝えていたからだ。フライングしてしまった。

 焦る俺を前に、涙を浮かべたままのかりんは……表情だけを悪戯っぽく妖艶に微笑んだ。

 

「大好きって、仲間として? それとも、女として?」

 

「えーっと……ですね……」

 

 先程までの弱気なかりんは何処へ行ったのか、一気に退路が無くなりタジタジになる。

 どう見ても分かって言っている奴だ。

 あー、自分で吐いた唾は飲み込めない!

 まぁ、俺の拘りはもう良いか……いい加減、認めてしまおう。

 ちょっと桜姫先輩と御剣先輩の事を言えなくなってしまうけども。

 

「……私、川瀬進矢は……北条かりんさんの事が、異性として好きです。ラブです」

 

 渚さんを説得しようとした時とは別の意味で緊張感に包まれ、正直自分が何を言ってるか分からなくなる。

 えーとえーと、言葉の定義は大切だよな。

 誤解の余地のない言い方しないといけないよな……公文書かよ。

 ……最後のプライドとして、かりんと眼だけは逸らさなかった。

 

「ブッ! 緊張しすぎ、アタシも進矢の事大好きだよ! ずっと、一緒に居ようね!」

 

 そんなカチカチになった俺に対して、かりんは吹き出し笑顔になった。

 顔が羞恥心で熱を帯びるが、そんなかりんの笑っている表情が好きになってしまったので逆らえない。

 失言がきっかけというのも締まらないが、それでもかりんが元気になって心底ホッとする。

 

 皆で一緒に生きて帰る道は閉ざされても、かりんとの未来は少しずつ近づいている。

 次が最後の試練だ。

 1つずつ大切なものを失いながら、それでもここまで来た。

 その試練が果てしなく辛いものになりそうなのが、問題だが……また1つ背負ってる命が増えた身として、生き延びなければならないのだ。

 

「でも、良かったの進矢? 帰ったら言うんじゃなかったっけ?」

 

 憎たらしい位可愛い笑顔でかりんが問いかける。

 失言したのは俺だけど、逃げ道を塞いだのはかりんなんだよなぁ……。

 この野郎……潤んだ瞳が可愛い過ぎて辛い。

 さっきまでの涙はどこにいった。

 そんなところも好きなので、俺は末期です。

 生きてて良かった、お互いに……先程亡くなった渚さんの事を思い出して胸の痛みがチクりとする。

 

「……良いんだ。帰れるか分からない状態で告白は不誠実だけど、もう生きて帰るって決めたし、かりんを幸せにするって決めたから。逆説、もう決定事項なので、抵抗は無意味です。諦めて俺の手で幸せになってください」

 

「あー、捕まっちゃったー……絶対だからね? あたしの幸せには進矢が居ないと駄目だからね?」

 

 悪戯っぽい笑みと明るいかりんの瞳の中に懇願するような不安そうな光が混じる。

 ……先程、かりんが言ってたとおり弱くなったというのは間違い無い。

 少なくとも、かりんと出会う前には一人でも割と平気だったし、かりんも一人でずっと頑張ってたって言ってた。

 そして、恐らくは渚さんは一人で頑張り続けた人間としての……1つの末路だったのかもしれない。

 だから、寄りかかり寄りかかられながら生きていきたい。

 1人の弱い人間として。

 

「勿論、分かってる。絶対……生きてやる。じゃあ、皆の所に行こうか。何があったのか、全部話さないといけないし」

「そう……だね。進矢……一緒に幸せになろうね!」

 

 少し名残惜しそうに、かりんが身体を離す。

 はにかむ彼女の頭を撫でてやる。

 もう幸せなので、目的は達成されています……と言うのは野暮だろうか? ……野暮だな。

 

 「あぁ、そうだ。1つ忘れてた」

 

 絶対に言わなければならない事があった。

 正直、自分が死んでもおかしくない根拠は何個もあったが、今生きていると言い切れる根拠は1つある。

 くじけそうになった時……何度も俺を奮い立たせた。

 渚さんとはあのような結末になってしまったが、それでも俺は感謝しないといけない。

 

「かりんに貰った勇気がないと、多分死んでた。ありがとう」

 

「勇気って……あ、あー」

 

「だから、お返し!」

 

「ちょ――」

 

 思い出して真っ赤になったかりんに、肩に手を載せ向き合い、素早く唇を合わせる。

 恋愛は勢いだとかなんとか、少なくとも理性でやるものではないだろう。

 ということで半分自棄なカウンターだ!

 柔らかく、ほのかな温かさがあり……どこか甘い気もする。

 最初のキスよりちょっと長い間のキスを終え、そそくさと縄ばしごを降りていく。

 

「ほらほら、皆を待たせるのは悪いし、早く行くぞ!」

 

 逃げるところも含めて、最初のお返しであった。

 『J』のPDAのおかげで、全員の居る場所は分かる。

 顔が赤いであろう事は、とりあえず走って誤魔化そう。

 手を繋いで一緒に登場とか、ちょっと恥ずかしすぎるし……。

 

「ちょ、ちょっと進矢ー! ……もう! 酷いよ!」

 

「眼には眼を! 歯には歯を!」

 

「全くもう!」

 

 上に真っ赤に膨れた顔のかりんが見える。

 

 ……IFを考えても本当に仕方無い。

 やりたいことをやっていこう。

 俺が俺らしく生きる、それが自己満足ともいえる渚さんへの手向けである。

 さぁ、次は警備システムに1時間生き延びる方策を考えていこう。

 

 かりんから逃げようと走り出したのだが、かりんの足は速くあっさりと手を捕まれてしまった。

 

「絶対に離さないからね!」

 

「仕方無い……一緒に行こうか」

 

 ……どうやら、手を繋いだまま皆と合流しないといけないらしい。

 疲れもあるが、運動神経が低い俺が恨めしい。

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