秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第二十八話 二人で見る未来

 

 

 

 

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深く愛されれば人は強くなり、深く愛すれば人は勇敢になる。

老子 (春秋時代の楚の思想家)

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 何度かの重量兵器の運搬の後に、集合時間となる。

 なんとかギリギリ作業が終わったら、集合場所の本命である最終防衛用拠点予定地に移動する。

 ……かりんだけがまだ集合場所に着いていなかった。

 【動体振動センサー】でPDAを確認するが、元気に持ち場で動き回っている。恐らくは作業に夢中になってか、多分時間に気付いていない奴だ。

 ちょっと遠いから……まぁ、後で迎えに行くか。

 

「お疲れ様でした。作業は一旦此処までで、勇治はあと2時間位で帰ってくるから、そしたら訓練して……今日中に中央制御室を攻略予定。その後、ちょっと遅い夕食を食べて寝る。良いですね?」

 

 準備は万全とは言いがたいが、最低限拠点構築と防衛線に必要な重火器は揃っている。防衛線もかりんの尽力の跡が見えバリケードの形としてはできてきている。本音を言えばもっと急ぎたい気持ちもあるが、これでもペースが早いほうだ休憩も必要だと判断する。

 機関砲の方は先程、郷田監修の元で試射してみたが、轟音と共に普通にコンクリート壁を抉った。今更だがこの建物って、どういう構造をしているのやら……柱とか色々大丈夫なんだろうか? 建造物の力学に関しては流石に分からないが、やり過ぎて建物が自体が崩壊するエンディングは勘弁して欲しい。爆発オチなんてサイテーって奴だ。

 

「という事で、御剣先輩……郷田担当は1時間、1時間としますが、前半後半どうしましょうか?」

 

「あ、それなら、前半は私達で担当するから、後半にお願いするわ。川瀬君はかりんちゃんの事をお願い、結構無理してるみたいだから」

 

 罰ゲームの郷田と手錠で繋がれる係を決めようとしたら、桜姫先輩が横から口を挟んだ。

 まだ来てないかりんの事を心配するのは当然と言えば当然か。俺一人で行く流れだな、分かってはいたけど。

 

 

「人を罰ゲームみたいに……」

 

「実際罰ゲームなんだよなぁ。分かりました……かりんとも、そろそろ話しとかないといけないと思ってたので」

 

 

 郷田から愚痴がこぼれる。郷田担当は罰ゲームではあるが、俺個人としては何だかんだで機密に抵触しない範囲で色々話しを聞いておきたい気はしなくもない。

 不満げに話す郷田だが、資材運搬や銃の使い方指導などは割とまともだった。自分の命もかかっている状態の為当然とは思うが。とはいえ、完全に信用できないのは変わらず推定大量殺人犯なので、罰ゲームも良い所だ。

 特にかりんとは基本的に近づかせないようにしている。

 

「そういうことなら、こっちが後だな。頑張れよ川瀬」

 

「最善を尽くしますよ、御剣先輩」

 

 

 先程の話の後にも少しずつ悩みを話しあったり、軽い恋バナを交わした御剣先輩が親指を立ててきたので、こっちも親指を立てて返す。そんな俺達を桜姫先輩が微笑ましそうに見ていたので、ちょっと気恥ずかしかった。

 

 

 

 

「か~り~ん~! 遅刻だ!!!」

 

「あ、進矢……本当だ!?」

 

 罠がないかPDAで確認しつつ走る事数分、散らかった物置の中の資材を整理しているかりんを発見する。汗だくになっており、ほんのり良い匂――もとい、疲れてそうだ。だが、元々スポーツ少女といった印象のあるかりん、むしろ似合うなんて印象を受ける。時間を忘れて集中していた表情から一転、あたふたした表情に変わったのが可愛い。

 ……俺の眼のかりん贔屓はおいといて、持ってきた鞄に手を突っ込む。取り出したるは、戦闘禁止エリアの冷蔵庫で冷やしたミネラルウォーターである。

 

「全く、仕方無いな。はい、水。次はちゃんと時計を見てペース配分を考えろよ。携帯のアラーム使ってくれ」

 

「はーい、ごめんなさい……それと、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 適当な木箱に腰掛け、かりんに水を渡す。

 横に座ったかりんはごくごくと水を飲んでいるのを横目に、鞄からタオルを取り出す。暫くしてよっぽど喉が渇いていたのか、美味しそうな音を立てながらかりんは息をした。すかさず、汗で濡れた髪をタオルで拭いてやる。くすぐったそうに、かりんはそれを受け入れた。……正直言って、タオル受け取って欲しい、それともこのまま俺が拭く流れですか?

 

「進矢、皆の所に行かなくて良いの?」

 

「そっちは大丈夫、これから2時間休憩だから。だから、ゆっくり休め。終わったらまた一仕事だ。それも、もっと過激な」

 

「うん、分かった」

 

「全く、かりんは頑張り過ぎなんだよ。正直、一人にしたのは失敗だったかもな」

 

「だって、誰にも死んで欲しくないもん」 

 

「全く、この子は」

 

 俺の言葉にかりんは口を尖らせる。かわいい生き物である。

 顔までタオルで拭いてやった後にかりんにタオルを渡す。流石に服の中とかは俺にはどうしようもないわけだし。なんて思ってたら、普通に服の下をタオルで拭き始めた……もう少し恥じらいを持って? いや、信頼なんだろうけど……眼を逸らしますよね。

 

「1つ、かりんに謝らないといけないと思った事があってな」

 

「謝らないといけないこと?」

 

 かりんが整理して、整然と物が取り出しやすい状態になった倉庫を見ながら、1つの話題を切り出す。これは、今の作戦を思いついてからずっと俺の思考の奥底で刺さった小骨のように引っかかっていた。

 勿論、昨日事前に相談していた事でもある。同意は取っていたと思うし、こうするのがベストだった。だけど、それは恐らくこのゲームから帰った後にも永遠に燻り続ける問題だ。

 なぁなぁに終わらせてしまうのは良くない事だと俺は思ったのだ。

 

「……かりんの復讐の機会を、永遠に奪ったことを」

 

「……あっ」

 

 正直、復讐ということに関して、俺はよく分かってない。大切な人が死んだ事はない。唯一、それに近かった姫萩先輩に関しても、死んだ時に復讐の気持ちが浮かんできた事は終ぞ無かった。彼女は多分、復讐を望むような人間ではないというのもあるが、何よりも自責の念が強かったからだ。それが冷たいかって言われると、俺には分からない。だけど、かりんは別だ……両親は、近すぎて重すぎる。両親との仲は特別良くは無い俺でも、それは分かる。

 そして、かりんは俺と大きく違うと思う。彼女の無邪気な明るさと正義感は......恐らく、両親に深く愛されたが故に培われたものなのではないか? そう感じるのだ。

 

 気まずくてかりんから眼を逸らしていたが、不意に右手に力がかかる。かりんの手の柔らかなぬくもりが、右手から俺に伝わってきた。

 

「あたし、ね。本当に進矢には感謝してるんだよ? 一人だとこのゲームから生きて帰る事はできなかったと思う。できたとしても、きっと誰かを殺してた。そうしたら、元の日常に戻るなんてできっこなかった。……だから、殺させなかったんでしょう? 機会をくれただけで、十分だから」

 

「……かりん」

 

 ……なんとなく、そんな回答が来るとは思っていた。期待していた。

 それに気付いてしまい、安心している自分に少し嫌になる。

 かりんの右手を握る力を強める。

 彼女に何をしてやれるか、何を言えば良いのか……それだけを考える。

 

 思い浮かばない。

 ただ、1つ引っかかったところがある。

 細かい部分だが、そこだけは修正しなければならない気がした。

 

「1つ誤解があるので正しておくが、俺はかりんが人殺しになったら元の日常に戻れない云々は……正直、あんまり考えてなかった」

 

「え、じゃあ何を考えてたの?」

 

「えーと、あれだ。好きな子には何時までも綺麗な身体で居て欲しいとか、そういう感じ」

 

「ブッ……! あははは、何それ……ちょっとクサすぎるんじゃない? 進矢って結構馬鹿だよね?」

 

「馬鹿じゃないですー。ちょっとロマンチストなだけですー」

 

 かりんの笑い声が聞こえて、ようやくかりんの表情をのぞき込む。

 やっぱり、彼女には笑顔が似合うのではないだろうか。勿論、どの表情も好きではあるが。

 俺は基本的に冷めては居るが、ロマンチストでもあるとは思っている。逆か、ロマンに走って色々調べた結果現実が冷たすぎるから、普段冷めてるような印象で見られるだけだ。

 ということで、少なくともその2つは俺の中では矛盾していない。

 

 ……本当に幸せにすれば、騙した事にならない、か。

 御剣先輩の言葉を脳内で反芻する。彼女の為にできる事がまる筈だった。例えば、気に病んでいる事を取り除く事とか。

 

「クサい台詞ついでに言っとくけど、今なら分かるよ。このゲームが始まった時のかりんの気持ちが」

 

「始まった時……って、進矢に会う前とか?」

 

「そうそう、大切な人を救う為には何だってやってやるって気持ち。かりんと会った時には想像する事しかできなかったけど、今ならはっきりと分かる。この笑顔の為なら、なんだってやれるってな」

 

「……ちょ、ちょっと進矢! 嬉しいけど、すごく恥ずかしいんだからね……!? というか、本当に何でもしたら駄目だよ! 絶対に、駄目!」

 

「分かってる、分かってるから……俺が言いたいのは、かりんは何も悪くないよってだけ」

 

「うぅ……」

 

 かりんの顔が紅潮し、あたふたと変わっていく。

 かわいいと思ってると、俺の右腕に縋り付いてきた。あんまり顔を見られたくないらしい。

 駄目だと繰り返すかりんの頭を左手でゆっくり撫でてやる。

 恥ずかしい気持ちはあったけど、かりんの中にある人を殺していたかもしれない自分を少しでも払拭できれば嬉しい。無理でも共有できればと思う。

 

 我ながらクサい台詞だと自分でも思うのだが、現在進行形で想いが強くなっていくのはどうにかならないものか……かりんの信頼を裏切る事だけは絶対にしたくない。

 

「……ねぇ、進矢」

 

「どした?」

 

 暫くかりんの髪を撫でていたが、ようやく正気を取り戻したらしきかりんが気まずそうに頭を上げてくる。腕に縋り付いていたので、結構な至近距離だ。

 かりんの大きな瞳と眼が合って、やや潤みを帯びた瞳孔が綺麗だと思う。

 ………何か期待しているような表情をしている、気がする。

 

 くっ、恋愛初心者の俺にもやって欲しい事は分かるけど……どうすれば良いか分からない! だが、かりんにイニシアチブを握られるとまだ越えるには早い一線を越えてしまうような気がする。

 ゆっくりと自然に眼を閉じたかりんの顔が近づいてくる。

 ……止めとくか。少なくとも、ゲーム中だと後で後悔する事になりかねない……もう遅いかもしれないけど。あと衆目環境だ。

 

 ほんの数瞬で諸々を検討し終えた結果、俺は容赦無くかりんの額にキスをした。

 

「……進矢? ちょっと???」

 

「残念でした。かりんにはちょっと、まだ早い」

 

「むー、子供扱いするなー!」

 

 かりんを抱きしめて、腕の中にいるかりんの不満げな声を聞く。

 腕の中でかりんが軽くじたばた暴れるが、離さない。実質半分は拘束だった。

 1つ学習した、かりんは子供扱いしてやれば、年相応になる。今まで、レディ扱いしてたから色っぽかったのだ。……もっと早く気付けば良かった、反省。

 

「真面目に言えばこれでいいんだよ、帰ってからの楽しみを残しておく方が良い。俺って、満足するともうここで死んでいいやって気分になりかねないから」

 

「もう、進矢って結構ヘタレだよね?」

 

「ヘタレで良いんですー! 人の人生を背負う決断は勢いだけでやるべきでは無いんですー! 大事だからこそ、異常な殺し合い環境で決断すべきじゃないと思うんですー!」

 

「あはは……真面目だ。でも、女としては、ちょっと嬉しいかも」

 

 冗談めかして、かりんの言葉に反論し、かりんを解放する。

 かりんは苦笑しながらも、恥ずかしそうに顔を逸らしていた。

 死ぬかもしれないから悔いの無いように……との二択だったが、理性が勝った。

 名残惜しい気持ちもなくはないが、未練がある位が多分丁度良い。

 

 再びかりんは俺の右手を握り、目を俯かせて恥ずかしそうに口を開いた。

 

「帰ってから……そうだ。帰ったら、かれんに紹介するね。……彼氏だって。きっと、びっくりするよ。『お姉ちゃんに彼氏!?』って、いつも女らしさがないって言われてるから」

 

「ダウト、俺は女らしくないかりんを見た記憶がありません。今度から女らしくない感じでお願いします」

 

「や・だ! 進矢ってからかうと楽しいから!」

 

「悪魔だ! 小悪魔だよ」

 

「女の子を悪魔扱いは酷くない?」

 

「そう思うなら言動を見直してくれ」

 

 中学生相手にタジタジになる俺が悪いのか、悪戯っぽい笑みを浮かべるかりんを見て思う。

 でも冷静に考えてみれば、かりんは男とも気さくに話せるタイプの女子である。俺の免疫が足りないだけで、これが普段の『女らしくない』かりんなのかもしれない。

 ……まぁ、対人経験の無さが露呈して、俺が無様さを晒すだけなら良いんだが。

 

「家族への紹介か、こっちのが大変だよ……『どうやって、こんな可愛い良い子を騙したんだ!?』って全員に言われるのがありありと想像できる」

 

「そこは大丈夫! ちゃんとお金で買われたって言うから!」

 

「全然大丈夫じゃない! 主に俺の家庭内ヒエラルキー的な意味で」

 

「えへへへー、捕まっちゃった」

 

「アウトォ! もっとマシな言い訳を考えて!?」

 

 俺の手を握る力を強めて、かりんが笑いかけてくる。

 半分本当の事を言っている分、性質が悪いというか、やっぱりかりんには敵わない。

 冗談めかして言えば、俺の家族も分かってくれ――分かってくれるか? 自信が無くなってきた。逆の立場――例えば兄貴が似たような事をしたら、多分信じないだろう。哀しいね。

 

「楽しみだなぁ……そうだ。進矢は何かやりたいこととかある?」

 

「中学三年生のかりんに受験の為に勉強を教えないといけないという使命を感じていたところかな」

 

「むー!!!」

 

 勉強という言葉に反応して、かりんが威嚇するように不満の声をあげた。

 今だけは小動物みたいで可愛い。

 勝ったな、コミニケーション力でマウントとれないならどうすればいいか、自分の得意分野でマウントを取る事である。すなわち、学業だ。いや、二学年年下にそれでマウント取るのはかなり大人げない事なんだが。

 

 少し反省していると、何故か顔を赤らめたかりんが言いにくそうに口を開く。

 

「あ、そうだ。じゃあ保健体育を……」

 

「それはちょっと、かりんには早すぎると思いますー! 年上をからかうんじゃありません」

 

「スポーツ特待を目指すって言いたかったんだけど、進矢さんは何を想像したのか言ってごらん?」

 

「嘘だ! 絶対、確信犯だろ! それなら、保険体育なんて表現しない筈だ」

 

「えへへ、バレたか……最近は部活やってないから、スポーツ特待はないんだよね。成績もあんまり良くないから、頼りにしてるよ、し・ん・や!」

 

 ……ちょっとー、この子を『女の子らしくない』って言った人誰だ?

 身内じゃ分からないかー、そっかー。

 ムカツクところはある。

 だが、恥ずかしさの入り交じった、かりんの満面の太陽のような笑顔を見たら全部許してしまう。

 これが惚れた弱みって奴だ。

 お互い様だろうけども。

 

 こうやって色々と遠慮無いところまで踏み込んでくるのもまた、1つの信頼か。

 大丈夫だと思ってるから言ってくるのだ。

 子供が親にやる試し行動の一貫だと思えば……両親を亡くしてるかりんを考慮すると、重すぎる。父親のいない心の隙間に入り込んだようなものなのかもしれない。

 

 でも、この笑顔を守っていきたいのは本当だ。

 だからゲームを生き残る次の一手を考えなければならない。

 ……これが最後の安息の一時だな。

 

「かりん、これからゲームを終えるまで二人っきりでゆっくり話すのはこれが最後だ。後は悪いけど、ずっとゲームに集中していたい。だから、やって欲しい事や話したい事があれば今のうちに頼む」

 

「……そう、だよね。分かった。実は誰にも話した事はないけど、将来の夢があるんだ。このゲームから帰ったら協力してくれる?」

 

「分かった、約束する。ただ、勉強とかで良ければいくらでも見るけど、スポーツは勘弁な」

 

「あはは、進矢って結構頼りないね?」

 

「……いや、名選手は名監督にあらずだ。勉強すれば見てやれるかも、いける大丈夫だ」

 

「進矢が地味にショック受けてるー。違うから、冗談だからね?」

 

 頼りないと言われて反射的にムッとして反論してしまった。

 思ったより、かりんにそう言われた事がショックらしい……。自分でも知らない内に結構な見栄っ張りだったのかもしれないし、かりんの前では見栄を張りたいのかもしれない。

 仕方無いね、男だから。

 

 それにしても、と思考を巡らす。

 将来の夢――か。

 このゲームは辛い事だし、現実は狂気の上に成り立っている虚構の世界だとしても、立ち止まる理由にはならない、か。

 

 しっかりと先を見据えている彼女に恥じないよう、俺も頑張って生きていきたい。

 右手にかりんの温もりを感じながら、気持ちを強くしていった。

 

 それから、自分達の休憩時間が終わるまで二人でとりとめのない話を続けた。

 かけがえのない、このゲーム最後の平穏な時間を噛みしめながら。

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