秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind- 作:流火
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人生はゲーム、楽しみなさい。人生は宝、大切になさい。
マザー・テレサ(カトリック教会の修道女)
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「……川瀬のお兄ちゃん、誰も帰ってこないね」
「まっ、それならそれで俺達は自由に動けるってことで」
周囲の部屋から見つけた缶詰を開いて、ルールを交換した部屋にて長沢と2人で朝食を食べていたが誰かが来る気配はない。最初の犠牲者を見つけた時がゲーム開始から1時間半、ルール交換とその後の一悶着で1時間程度、長沢と2人になって周囲の部屋捜索、食事、マッピングによる位置特定に大体30分。戦闘禁止解除まで残り3時間といったところか。
最低限の武器――と言っても少し長い木の角材だが――を見つけたため急に襲われてもなんとかなるはずだ。
逆に言えば見つけられたのは2人で一日分の食料(美味しくない)と水と二本分の角材のみ。このゲームはダンジョンRPGのようにダンジョン探索を行いながら他プレイヤーと競争する趣向であるらしい。見つかる物に関しては当たり外れがありそうだが、これが殺し合いである事を前提に考えると外れなんだろうか?
「よし、今後の方針だが。基本的にはできるだけ多くの人間を生存させるように動く、よって他人の首輪解除の協力していく事になる」
「正直、上手く行くとは思えないんだけど……駄目そうなら僕――いや、俺は降りるぜ?」
怪訝そうに長沢は言う、とはいえ俺だって相手が長沢だけならば打つ手はある。根拠は簡単、コイツは面白そうなら着いてきてくれそうだと見た。その点、手塚や矢幡より扱いやすいだろう。俺にとっては相性の良い相手だ。
さぁ推理ショーを始めよう。
「そんな事言っちゃって良いのか? お前の解除条件って4か10のどっちかだろ?」
「ぶっ!? …ど、どうしてそう思ったんだよ、お兄ちゃん!?」
「ふっふっふ、初歩的な事だよワトソン君」
危ういところもあるが、やっぱりかわいいなコイツと思いつつ自信満々に語りはじめる。
落ち着いて考える時間もあったし、皆の解除条件を2、3択には絞れている。外れてるかもしれないけど。
「おかしいとは思わないか? 俺は3と9……3つ中2つの殺人条件の持ち主を知っているのに、あの時、郷田社長以外が解除条件の交換を反対しだしたんだ。桜姫先輩がするなら分かるけど、どう見てもおかしい」
「あー、そっか! 僕――いや、俺から見れば殺人条件の人が解除条件の交換が嫌だって言ってるように見えたけど、お兄ちゃん達は殺人条件を持っていたから……!」
うんうん、長沢も理解力と発想力はあるようだ。助手になる権利をやろうと内心思いつつ、話を続ける。
「そう、その時点で嫌だって言ってる人は、A、4、8、10、Q辺りに絞られるってわけだ。薄く、JOKERが弱みになりうる6もあるのかな」
「じゃあさ、なんで僕のが4か10だって思ったの!?」
「……まず、6と8はない。JOKERに対する反応でね。JOKERを過剰に恐れていた矢幡麗華がそのどっちかだと思ってる。あと、Qにしては殺意が高いし、特定個人を狙うようなAである様子も見られなかった。だから、4か10濃厚。単純な消去方だなー」
「うげ、こえぇ……」
「言葉には気をつけろよー」
一人称が僕に戻ってますよーという突っ込みを入れようと思ったが止めておきつつ、ビックリしている長沢を楽しそうに眺める。まぁ、今回は殺人条件の大部分を把握できていたのが大きいので、それがなければ誰かが殺人条件だと誤認してたかそもそも推理出来なかったと思う。ありがとう桜姫先輩。
「参考までに言えば手塚は4か8か10,郷田社長は5かJってとこ」
「すげーな……えーと、手塚はほぼ僕と同条件だけど確かジョーカーに関して何やら考え込んでたから、8の可能性もあるってことか。あのオバさんは、確かに交換に積極的だったもんね……あれ? でもそれなら、全員と遭遇する7番の可能性もあるんじゃないの?」
「よくぞお気づきになりました」
2つある内の片方のPDA、死んだ男のPDAを操作し、解除条件を開く。そこには7が表示されていた。
そういえば、この7番のPDA。誰も渡せとも番号を開示しろとも言わないから、すっかり忘れてた。言ってくれれば、8かKのカミングアウトと引き換えに渡しても良かったんだが……誰も俺を信用してくれなかったんだろうか?
「あーそうか、死んだオッサンがその解除条件だったのか……簡単な解除条件だったのにな。でも兄さんも馬鹿だね、このPDAを使えばジョーカーを使う事なく、安全に他の人を騙せたって言うのにさ」
「最初に解除条件を交換してなければな、あの全員殺しの解除条件を引き当てていきなり見せてくる桜姫先輩に言ってくれ。お陰でなし崩し的に、交換してしまった」
あの時はこのゲームの趣旨を理解できていなかったというのもある。最初に見た条件がよりによって最悪な解除条件2つだった事もあり、自分が平均的な解除条件だと誤解していたのだ。全てのルールが揃って無かった以上、あぁいう事故は起こりうるものだろう。
しかし、あの悪手が無ければ俺自身全く異なる選択をしていた可能性があり、人生何が起きるか分からないものだ。
「桜姫の姉ちゃん、強かったよなー。それで、川瀬のお兄ちゃん好きになっちゃったとか?」
「別に好きになった訳じゃない、ただちょっと彼氏に嫉妬した」
「お兄ちゃん絆されてやんのー!」
「う、うるせー、うるせー! 長沢こそ、あの3人だったら誰がタイプなんだよ!」
「いや、あの3人は全員ちょっと……」
「……分かるわー」
真面目な学級委員長タイプの桜姫優希、美人だが性格がキツく疑り深そうな矢幡麗華、美人だが年齢が高そうで推定バリバリのキャリアウーマンな郷田社長。……うん、全員綺麗だが恋愛対象としてはちょっとって感じだな。恋愛対象に選ばれないという意味では、別ベクトルで俺達も人の事は言えないのだが……。
って、イカンイカン。気付いたら話が逸れてしまっていた。話を戻そう。
「コホン、解除条件に関して教えてくれるかどうかは長沢に任せる。4か10を持ってる事前提で話しを進めるぞ。5とJとQは時間がかかるし、早期クリアの為にはジョーカーを見つけて、2と6とKに協力を仰ぐのがベスト。この時点で4が解除され、10も多分問題ないはず。使用済みPDAを破壊し8もクリア。これが今の俺の想定する理想的な展開」
「すげぇ! RTA動画みたいだよ! お兄ちゃん」
「途中でガバ展開があったらごめんなー。あとは、此処まで来たら、AかQ……大穴で手塚がジョーカーを持ってると思う」
尚、大穴で手塚ジョーカーって言うのは、ルール4を見た時何やら考え込んでいたからだ。その考え込む理由が、ジョーカーを初期配布されていたがルールに記載がなく用途が分からなかったとかなら納得がいく。
あとは、殺人条件の首輪をどうにかする為には、どういう手を取るにしても時間が必要になると思うからその時間を稼ぐ為にRTA……リアルタイムアタックをしないといけないわけですね。
あとは、首輪解除者が多数出たら流石の手塚や矢幡でも信じてくれるんじゃね? という打算もある。信頼とは実績……これがビジネスの基本! とどこかで聞いた事があるような気がする。
そんな風に希望的観測を抱いていると、そういえばと長沢が口を開く。
「結局、残りの6人と接触しないといけないわけだ……どういう人間が参加してるんだろうね」
「これはちょっと怖い方の仮説なんだけど……解除条件の危険性ととその人個人の危険性はもしかしたら反比例してるかもしれない」
「……ど、どいうことだよ、お兄ちゃん」
「解除条件がヤバい人ほど信頼できる人で、人間的にヤバい人ほど解除条件が緩い」
「あー、そっか……お兄ちゃんと桜姫のお姉ちゃんの行動見てると、確かにそれっぽいな。だけど、それならお兄ちゃんはあのオバさんを疑ってるって言うの?」
「少なくとも、郷田社長は金に困ってるんじゃないかな……とは思ってるよ」
「お金に困っている……? そうか! あのオバさん、俺が20億って騒いでた時に『案外あるかも?』って言ってたな! しかも、他のルールには否定的だったくせに、その時だけ! なるほど! そうか! なるほどなー!」
「うんうん、そういうことだよワトソン君。でも、オバさんは止めてあげてね?」
「なんでだよ? オバさんはオバさんじゃん!」
お前も子供扱いされたら怒るだろ? と突っ込もうと思ったが止めた。
表情がコロコロ変わる長沢を見るとなんとなく微笑ましい気分になってくる。分からなかった事が分かるようになっていくっていうのは楽しいもんなー。コイツは素直な奴だし、いきなり後ろから裏切ってくるということはないだろう……たぶん、きっと。
「ところでさ、どうして僕――いや、俺のことをワトソン君って言うのさ」
「気分? いや、1人でこのゲームを勝ち抜くのも大変だから助手が欲しくてね、君を探偵助手に任命しよう」
「ミステリー漫画の読み過ぎなんじゃね?」
「何を隠そう、小学生時代に将来の夢で『探偵』って書いてクラスの皆に笑われたのがトラウマだ。だが、こういう事態に巻き込まれたのなら話は別だ。大興奮だよ、この事態を引き起こしている黒幕の正体を俺は暴いてやりたくて仕方ないね」
「お、おう。確かにそれは、興味あるけど……」
大丈夫か? という目で長沢が俺を見る。ぶっちゃけ、ここまで規模が大きいとなると多分大丈夫じゃないだろう。とはいえ、相手が何であろうと基本は一緒だ。情報を集め、そこから作戦を組み立てる。……今考える事じゃないな、まずは生存優先だ。このゲームを主催する存在への考察は、最低限大多数の首輪解除の目処がついてからにしよう。
「まっ、それは捕らぬ狸の皮算用。まずは生きて帰らないとな……で、俺達はまずKのPDAの持ち主を探す必要があると考えている。というか、他の番号は分からんが、KのPDAの持ち主の居場所だけなんとなく分かるというべきか?」
「え、マジ? そんな事推理できるの!?」
「国語のテストと一緒だよ、作者の気持ちになって考えて――じゃなくて、このゲームを主催してる側に立って考えてみよう」
「確かにそういう問題多いけどさ……えーと、Kは解除条件としては割と簡単だけど……すぐに首輪の解除条件が満たされてしまったらつまらない?」
「そういうこと、ぶっちゃけ最初に集まった人の中でKが居ないと思ったのもそれが理由。同じ理由で人が集まりそうなMAP上のエントランス付近にもKは居ないと思う、だからその逆を探せばKと遭遇出来る可能性が高い」
「なるほど、ね。それでもまだ範囲は広いんじゃない?」
「ある程度の目算が立てば、後は足で稼ぎましょう」
「げっ、最後は根性論かよ……」
「足で稼ぐ、それは捜査の基本!」
「……テンション高いね、お兄さん」
現場百回は捜査の基本にして奥義だからテンションが高くなるのは仕方ない。何より、このゲーム……テンションが下がる事が数多く発生しそうだから今は気合い入れていかないとね。
尚、ここまでの推理は完全ランダム配置だったら意味はない。ただ、ここまで来ると意図があって解除条件の配布、ルールや初期配置等はやってると思うんだよね。殺人条件の持ち主には、ルール8.【6時間以内の戦闘禁止】は配らないとか。解除条件2と6と8にはジョーカーを配らないとか。ランダムとは書いてるけど、証明できない所では恣意的な運用をしてきそうというか。
ルールに関して100%信じるというのも怖いなこれ……。
「そんな事しなくてもさ……進入禁止エリアもあるんだし、階段付近で待てば絶対会えるんじゃねーの?」
「良い質問だね、ワトソン君。だけど、これはルールを全て知ってる俺達だからこその視点だ」
「全てのルール……あぁ! そうだった、他の人達は全部のルールを知らないんだった」
「そうなんだよね……序盤でルール知らない事による死因は3つ。PDAを接続する事による事故死、誘拐犯と誤認して襲ってしまう事による戦闘禁止違反、そして、進入禁止エリアを知らずに1階に留まってしまう事だろうから」
侵入禁止エリアの事を考えればひとまず上を目指す事が無難ではあるのだが、JOKERを探すとなるとJOKER所有者が1階に留まり、そのまま進入禁止になる事が一番避けたい事である。
となると、1階にいる間はルール5【進入禁止エリア】を紙に書いて、人を探しながら名前記載の元、一定間隔で通路に落としていくのがベストだろう。
ルール5の拡散という観点が無ければ、エントランス付近に行きたかったんだけどね。
『ルール5により、開始から24時間経過で1階から順次下のフロアが進入禁止エリアになっていきます。進入禁止エリアに居たら首輪が作動するので、上に上がって下さい。皆で生きて帰りましょう! by川瀬進矢』
名前を書いてアピールを忘れないっと。
こういう事を欠かさないのがモテる秘訣なのだ、モテたことないけど。
「休憩はこんなものか、あとは歩きながらかな。あと置き手紙書いていこう。大体今後のプランはこっちの置手紙に書いておくから、読んでおくように」
『桜姫先輩へ
あの後、矢幡さんと郷田社長が二人組を作って場を離れ。
不肖、川瀬進矢は長沢君と行動を共にする事になりました。
今後のプランとしては、他の人の解除条件の解除の協力しつつ、人捜し優先で情報収集を行っていく予定です。自分達は、エントランスの反対側をぐるっと回って2Fに行いきます。もしも、桜姫先輩がこれを見た場合はエントランス方面をお願いします。開始から12時間~18時間の間は1F~2Fの階段付近で休憩を取ろうと思います。もし居なかったら、何かしらのイレギュラーがあったとお考えください。その後は順次階段で上に上がっていく予定です。幸運を祈っています』
「こんな感じか、手に入れる情報次第で予定は大きく変わるだろうから、予定は未定。悪意のある人間に見られても困るから、深くは書けない」
「手塚辺りに見られたら、階段付近で襲われるんじゃねーの?」
「強気で否定できないけど、その時は俺の解除条件の錆にするだけだから……」
手塚がそうなった場合、桜姫先輩の運命はお察し……二重の意味で生かしてはおけない奴だ。手塚に着いていったのは、桜姫先輩の決断だし、俺も手の届かない範囲ではフォローのしようがないので、この場合は祈るしかない。
俺達は部屋を後にして、大迷宮へと足を踏み出した。
「でも、残念だな……川瀬のお兄ちゃんと行動してたら、誰も殺せないじゃん。悪い奴がいたとしても、殺すのは川瀬のお兄ちゃんだし」
歩き出してから程なくして、長沢はふと呟いた。
人を殺したいというその言葉。恐らくは長沢が、このゲームの参加者に選ばれるようになってしまったその欲求。俺は、何故長沢がそういう欲求を持つのか、よく考えれば知らない。だが、今はそれを止めなければならない。
皮肉な話だが、長沢はゲームに参加している理由がハッキリしている分、そこさえなんとかできれば信用できるプレイヤーだと俺は考えている。
「このゲームで殺人? 止めとけ止めとけ」
「どうしてだよ、川瀬のお兄ちゃん。そりゃ、僕――いや、俺だって人を殺したら罰せられるのは分かるよ。だけど、このゲームは多分何回……あ、いや。もしかしたら、何十回もやられていて、明るみにもなってない。人を殺しても法律で罰せられないって事じゃん」
法律で裁かれない殺人は、許されないのか?
殺人ゲームに巻き込まれてしまった以上は当然出てくる命題である。
長沢は中学生ながら頭は回る、生半端な反論では納得しないだろう。
……このゲームって、もしかして他の参加者をなんとか説得して折衷案を探し出し、信頼関係を築いていくゲームなんだろうか? ゲームなら、選択肢が出たりするし、トライ&エラーが効くから楽勝なんだけど、リアルだと一番苦手な奴だ。
現に先ほどは失敗してる訳だしな。
「うーん、道義的な反論は意味無いっぽいから、理論的に反論するけど。複数回もやるって事は、この催しは個人の悪趣味じゃなくて多く人間が関わっている大規模なものだと考えられるよね。法で罰せられなくても、多くの人間に自分は殺人をした人間だと弱みを握られてしまうじゃないか」
「良いじゃんそれ、多くの人間に自分は人を殺せる人間だと認めてもらえるってことだよ」
そうきたかー、自己顕示欲って奴だな。
一概に否定できない欲求ではある。俺も陰タイプだが、人一倍に自己顕示欲はある方だと思う。自分の能力以上に目立ちたい、チヤホヤされたい。
だが、殺人という手段で成功体験を得たとしても、それは破滅への入口だ。ミステリー小説からの引用だが『殺人は癖になる』って、某名探偵も言ってたし。……首輪の解除条件が【3人殺し】の俺こそ、自戒しないといけない言葉だなこれ。
正直に言おう、向き合わずに適当に受け流したい。
だが、ここでハッキリさせた方が良いのかも知れない。長沢勇治という人間はどの道を選ぶのか。
「それは……悪い人間に認められて、このゲームを運営する側や俺達を見てる奴らに雇われる事を目指すのであれば、それが正解だ。だが、同じ認められるなら、このゲームをぶちのめして名探偵として凱旋するのが俺の目標だ」
ちょっと極端な二択になってしまったが、結局の所、自分が何をしたいかだ。
俺だって自分の命は惜しい。だが、抗う事に決めた。これは、誰かの影響を受けたかもしれないとしても、俺自身の選択だ。
そして、長沢勇治はまだ選択していない。俺のスタンスは既に伝えた以上、無理矢理連れ回して後で暴発させるよりは、今ハッキリさせよう。
――敵になるか仲間になるか。
「ここまでなし崩しで強引に同行してたが、やはりフェアな条件として選択肢提示しようか、長沢勇治。ここで俺の助手になり、共にゲームを生き延びるか。それとも、ここで俺と袂を分かつか。選択しろ」
何時しか歩みを止めて、長沢勇治と向かい合う。
もっと上手いやり方があるのかもしれない。だが、少なくとも今の俺にはこのやり方しか思い浮かばなかった。
長沢は腕を組んで考えて、やがて口を開いた。
「川瀬のお兄ちゃんさ……このゲームを楽しんでるよな?」
「……あぁ、楽しんでいる。もしかしたら、このゲームで俺以上にゲームを楽しんでいる人間は居ないかもしれないぞ? ……桜姫先輩には秘密にしといて」
「……どうしようかな~、チクっちまおうかな~」
「止めて、止めて……」
悪戯っぽい笑みを浮かべた長沢相手に力無く抗議の声をあげる。とはいえ、冗談だと分かってはいるのだが。
長沢は笑みを浮かべながら、ポケットからPDAを取り出した。
「僕――いや、俺のPDAは4番、解除条件は【首輪を3つ集める事】だよ。ご名答だね、川瀬のお兄ちゃん」
「公開しちゃって良いのか? 大事なものだろう?」
「良いも悪いも、そういうことなんじゃないの? ……仲間になるっていうのはさ」
「そうか……そうだったな。改めて、俺と長沢は解除条件を交換した仲ってことだ」
「お、おう……そのフレーズ気に入ってるんだな、お兄ちゃん」
「秘密の共有こそが、人間関係を深めていくんだよ……多分」
安堵の溜息を漏らしつつ、ようやく1人仲間入りだ。
一先ず、長沢については心配しなくてもいいだろう。
他の2人組は果たして上手くやれてるだろうか……。
ここまで人間関係で苦労するなら、確かに1人の方が楽だとは思う。というか、普段は単独行動が多いしな。
――善性でコミュニケーション能力が高く、潤滑油のような人を仲間にしたいな……
長沢と2人、通路を歩きながら俺は静かにそんな現実逃避をしていたのであった。
尤も、本当にそんな人が居た場合、俺自身が信じ切れるかといわれれば全く別の話なのだが。