秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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エピローグ 桜を想う

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今年の自分と去年の自分は別人。それは愛する人も同じ。変わりゆく相手を、自分も変わりながら愛し続けられたら、幸運である。

サマセット・モーム (英国の小説家、劇作家)

――――――――――――

 

 

 

 春の始まりというのは、学年が変わったり卒業式だったり入学式だったりと変化を伴うものだ。

 新しい出会いを求めたり、新しい環境に期待したり……まぁ俺も普通の男子高校生レベルではそういうものにワクワクしていた時もあり、何度も裏切られ結局何も変わらないじゃないか! となったり。

 内心鬱憤が溜まっていた事もあったが、今年の春は初めて普段とは異なる感想を抱く事になる。

 すなわち、俺は変化を望んでいないし……むしろ恐れている。

 

 例えば、最近色気づいた彼女が高校デビューで男子にモテモテになり、何度も告白されるとか……

 これが持たざる者から持つ者になった代償だというのか……等と黄昏れてみる。まだ朝だけど。

 

 電車に乗って、桜が散る景色を眺めながら半年以上前の事を回想する。

 

 

 

 あの忌々しい殺人ゲームが終わった時、PDAから音声がしたと思ったら俺達は意識を失った。

 そして、目が覚めたら病院で治療中だったというわけだ。

 軽傷、重傷の差はあれど……少なくとも俺達は全員ボロボロの身体で生きて帰る事ができた。

 お互いに生還を喜び合ったが大変なのはその後だった。

 

 まず、その病院というのがかりんの妹の北条かれんの病院だった事。

 心の準備ができてないのに、急に見舞いに来たかれんちゃんに突然の挨拶をする羽目になったのだ。

 あの時のかりんはバグってたし、俺もバグっていたような気がする。

 その狼狽っぷりは今でもネタにされる程である。

 

 次に大変だったのは俺達が大金を得て病院送りにされた事のカバーストーリーについてである。

 旅先で出会った俺が、偶然海外のカジノに最後の望みを抱いていたかりんと出会い境遇に同情した結果、実はかねてからの俺の友人(だった事になっていた)御剣先輩と桜姫先輩と共に海外に飛び、カジノで不良少年の勇治と出会い協力して大金を手に入れた事になっていた。

 その後、大勝ちした代償としてカジノか他の客に目を付けられて襲撃された……という筋書きである。

 

 いいのか? そんな雑なカバーストーリーで本当に良いのか!?

 と色々と突っ込み所満載だったが、現地での知らない写真はあるし、渡航記録は残されてるし、何なら飛行機の搭乗券すら持っていた。あと、いつの間にかパスポートまで取っていた事になっていた……外務省終わってるな。

 しかも、よりによってこんな時だけ行動が早いウチの家族(父親を除く)が病院に見舞いで来襲し、根堀葉掘事情を聞かされそうになって凄く大変だった……主にかりんとの馴れ初めとか。

 

 ……結局の所、色々となんとか2人で頑張って捏造した話を聞いた俺の家族の反応は大体以下の通りだった。

 母『二人共、ウチの子にするー!』

 兄『進矢と喧嘩したら言ってくれ、そっち側につくから』

 弟『兄が変な事したら言ってください、制裁するので』

 

 ……三人共、何か他に俺に対して言う事ない???

 むしろ、俺に味方が誰もいない???

 最終的に俺の味方は遅れてやってきた親父だけだった……それはそれで複雑である。

 逆にかりんの妹のかれんちゃんとは普通に仲が良くなり、趣味の話だけならかりん以上に合った。

 調子に乗って『お義兄さん』って呼んで良いんだよ? って言ったら、かりんに睨まれてしまった……まだ早すぎたか。

 

 結果として、俺とかりんは家族公認の仲になり外堀が速攻で埋まった。

 別に良いんだけど、家庭内の居心地が若干気恥ずかしくなった。

 御剣先輩がやってたような惚気の先制攻撃とかできれば、俺もそこまで恥ずかしい思いをしなくて済むかもしれないが、ちょっとレベルが高すぎた。

 

 その後、かれんちゃんの病気に関してだが、不自然なまでに道筋が整えられていた事。

 それとウチの家族と仲間総出で協力したため、夏休み中には手術も終わり……かつての不調が嘘のように回復傾向に向かっていった。

 どこかでしっぺ返しが来るんじゃないかと正直ビクビクしてた幸福恐怖症の俺だったが、特にそんなものはなかった。

 毎週末、かりんと会って受験勉強の進捗管理とかれんちゃんの復学の手伝いをしながら、ゆっくりとこの日常に慣れ……受け入れていった。

 

 時は巡り、あの殺し合いが実は夢だったんじゃないかと思う事がある。

 現金……という冗談はおいといて、胸の痛みがそんな事はないと教えてくれるけども。

 

 

 

 

 さて、回想に耽る間に電車は目的地につき、降りて改札口を出る。

 散る桜は美しいし、思えば俺はずっとそれを求めていた。

 だが、本当は多分違う……桜というのは一年の内に精々一月程度開花し、多くの時期は葉桜だったり蕾の時期だったりする。

 人生が色彩豊かになった今の俺にとっては、葉桜も蕾も美しいものだ。

 満開の桜だけを探し求める必要はなくなった。

 喩えとして、これが適切なのか分からないけども。

 

 ついでに言えば、今日は満開を楽しむ日である。

 

 なんて考えていると、桜の名を冠する苗字を持つ仲間が丁度真横にいるのが見えた。

 

「あ、桜姫先輩。お久しぶりです。っと、御剣先輩も……大学受験の合格おめでとうございます」

「あら、同着みたいね。ありがとう、次は川瀬君の番ね」

「進矢も早いな……集合時間30分前だぞ?」

「総一がいつも遅いから早めに来ないと安心できないの! 大学生になるんだから――」

 

 2人のやりとりを見て、相変わらず何時ものような感じで安心した。

 いざという時にしか頼りにならないのだと、ゲーム後に桜姫先輩が愚痴っていたのを思い出す。

 ただ、桜姫先輩の愚痴の半分以上は惚気である。

 真面目な人は恋愛に嵌まってしまえば泥沼という言葉は、桜姫先輩には十分以上に適用されているようだ。

 桜姫先輩には冗談交じりで、そういう忠告をされた事がある。

 気をつけよう、もう手遅れ?

 

 直接会うのは、かれんちゃんの手術以来で二人の痴話げんかすら懐かしい。

 持ってきた小包を取り出し、桜姫先輩に差し出す。

 

「あ、お二人とも……こちらは少し早いですが桜姫先輩の誕生日プレゼント兼やや遅いですがホワイトデーの義理クッキーです。園内は飲食物持ち込み禁止なので、此処でお二人で食べるかロッカーにでも入れておきましょうか」

「あら、ありがとう。クッキーを焼くなんて、ちょっと印象と違うわね」

「はい……初心者なので味に関しては大目に見てください」

「おう、助かる。朝食べる暇が無かったからな」

「まったく、総一が自分で起きれないのがいけないんでしょ?」

「……分かってる、分かってるんだが」

 

 二人で言い合いながら、クッキーを食べ始めた。

 俺は空気よんで、そっと離れた。

 これはアレだ……御剣先輩に憎々しさを感じなくもないが、なんとなく理由は分かった。

 俺を含め男子高校生の99%は同意するのではなかろうか?

 すなわち、幼馴染の彼女に起こして貰いたいのである!

 そこから抜け出せなくなっているのである! やっぱり、桜姫先輩はダメンズウォーカーじゃないか!

 ……一生起こして貰えば良いんじゃないかな。

 

 周囲を見渡すと、以前より背が伸びた少年の姿を発見する。

 思ったより早いな、まぁ電車の都合とかあるだろうけど。

 

「よう、勇治……直接は久しぶり、兄貴と昨日遅くまで遊んでたんだって? 遅れるんじゃないかと心配したぞ」

「進矢兄ちゃんー! 寝坊なんてしないって、夜更かしなんて何時ものことだし」

「相変わらずだな、ちゃんと寝ろ……身長的な意味で」

「それは言わないお約束だろー!」

 

 俺達に気付いた勇治はこっちに走ってきて、冗談を言い合う。

 勇治はやはりというべきか、俺の兄貴と意気投合して最近は動画作成やらネットゲームやら色々遊ぶ仲になっているらしい。ぶっちゃけて言えば、兄貴に勇治取られた。

 そんな勇治も将来やりたい事ができたらしく、以前より精力的に勉強しており成績が伸びたと自慢を聞いたりもした。

 北条家に二人で遊びに行って、たまに四人一緒にゲームする事もありかれんちゃんとの仲もそこそこ良好である。

 

「お、御剣のお兄ちゃんと桜姫のお姉ちゃんは相変わらずか……良いなぁ。ちょっとちょっかいかけてくる!」

「ほどほどになー」

 

 そんな勇治だが、最近ようやく男女の仲というのに興味を持ったらしく俺に色々と相談を持ちかけてくるようになった。

 具体的に誰というのは無さそうだが、何かあったら相談に乗ろう。

 尤も、俺も御剣先輩もその辺のアドバイスは全然駄目駄目だろうが。

 

 受験生だった桜姫先輩と御剣先輩はかれんちゃんの手術以降ほとんど会えていなかったので、それまでどういう進展があったかで話が弾む。

 勇治の自分の事を良く見せようとする癖は相変わらずだったが、実際の努力の質に関しては大きく成長が見られていると思う。

 

「そういえば、かりんとかれんの奴遅くね? そろそろ時間だぜ? まだ退院してから2ヶ月だよな……体調大丈夫か?」

「そうね……元気になったとは聞いてるけど」

「いや、連絡が来てないから……多分、問題ないと思う……遅刻してる理由は――察してる。そろそろだな」

 

 受験勉強もあり一月くらい会ってなかった……恋人の事を思い浮かべる。

 勿論、ほぼ毎日電話のやりとりはあるし、応援の為にバレンタインデーにチョコレートを贈ったり、ホワイトデー前に合格祈願を兼ねたクッキーを贈ったりしているので別に寂しいというわけではないのだが。

 お返しは来年、俺の受験の時にお願いするということで。

 

 そんなかりんだが、受験が本格化する前に行ったデートでは時間ギリギリになることが割と多かった。

 何故ならば――

 

「もう手遅れでしょう、お姉ちゃん! 駄目でももう直してる暇なんてないから!」

「ちょ、ちょっとかれん、って事はどこかおかしいの!?」

 

 丁度、姉妹の声が聞こえてきた。

 ゲーム中でも、やたらはりきって頑張りすぎてしまう少女であるかりんである。

 元々興味はあったのかもしれないが、こういうイベント事……クリスマスのデートとかでは服装・化粧・髪型とやたらと張り切るのだ。……そして、緊張してしまうのか、ギリギリになって不安になっていつも化粧室で調整して時間ギリギリにやってくる。

 俺もあれからファッションにはそこそこ気を遣うようになったが、流石にかりんには敵わない。

 

 少し待ってると視界に入ってきたかりんは、出会った当初と比べて随分と髪も伸びて、化粧も相まって綺麗になったと思う。水色と白の寒色系のファッションは、満開の桜の中で輝いて見えた。今までも十分可愛かったが、本人としては美人系を目指しているらしい。

 そこまで頑張らなくて良いと思う一方で、毎回変わったかりんに会う事を楽しみにしている自分が居るのも事実だった。

 

「進矢義兄さんと勇治さんおはようございます! 桜姫さんと御剣さんはお久しぶりです! あの時はお世話になりました!」

「ちょ、ちょっとかれん! まだお義兄さんじゃないよ!?」

「……衆目環境で言われるのは凄く恥ずかしいな。久しぶり」

 

 桜姫先輩や御剣先輩、勇治からの微笑ましい目線を感じながら、久しぶりの挨拶を交わす。

 かれんちゃん先輩二人に囲まれて色々積もる話をしているようだ。

 

 そして、俺とかりんと言えば……かれんちゃんの不意打ち先制攻撃により顔を赤くしてぎこちなくなっていた。

 ちょっと訂正、デートとかになるとまだこんなものだ。家デートという名の試験勉強する時は普通なのだが。

 

「かりん、合格おめでとう……よく頑張ったな」

「そんなの、進矢が色々教えてくれたから……」

「違う違う、合格はかりん本人の努力の成果だよ」

 

 まず、服装とか褒めた方が良いのかなーとか思いつつも、かりんが可愛すぎて思考がやや硬直気味だ。

 話したい事は沢山あった筈なのだが、当たり障りのない言葉しか出てこない。

 そのまま当たり障りの無い言葉を少し交わしたところで――

 

「あーもう、じれったいなぁ!」

「わ、わぁ!?」

「うおっ、と!」

 

 かれんちゃんがかりんを俺に突き飛ばしてきた。

 衝撃と共に、かりんをなんとか受け止める。 

 頻繁にからかってくるかれんちゃんにもの申すのは後に回すとして、かりんの質量とぬくもりを感じて、やはり自分にとってのかけがえのない人だと感じる。

 

「……び、びっくりした。進矢、大丈夫?」

「かりんが綺麗過ぎて、正直……大丈夫じゃない」

「な、何言ってるの進矢!?」

 

 顔を真っ赤に染めたかりんをみると、少し落ち着いてきた。

 ようやく、ちゃんと言えた……ハッキリと言うべきと御剣先輩に何度か言っているが、実行するのも中々難しい。

 周囲の一目を感じる一方で、今まで受験で、沢山の事を我慢させたのだから、少しはかりんを甘やかしてもバチは当たらないと思う。

 

「可愛くて綺麗で、他の男に取られないか不安になる……だから、そんなに頑張らなくて良いんだよ」

「そんな事無いって! でも、不安になるなら、ちゃんとアタシを捕まえててよね! し・ん・や!」

「はいはい」

「受験終わったから、沢山遊んで色々な所に行こうね!」

 

 そうして、かりんは顔を赤らめたまま屈託の無い満面の笑みを浮かべた。

 その後ろではかれんちゃんがしてやったりと笑っている。

 恥ずかしいが、他の皆も一様に笑顔だ。

 

 今日はかれんちゃんの快復祝い兼先輩達とかりんの合格祝いに遊園地に行く手筈となっている。

 桜が舞い散る駅前で、春の温かな風が俺達を迎え入れてくれた。

 

 

 

 勿論、俺達は知ってる。

 ゲームは人知れず、まだ続いている事を――

 生き残った俺達はやはり、ゲームの影響から逃れる事はできないのだ。

 だが、生き残った者の責務として諦観ではなく希望を見て未来に進んでいこう。

 

 これからもずっと、皆と……かりんと一緒に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――時は半年ほど遡る

 ある秘密のゲームを中継しているとある豪華客船にて……

 

 スーツ姿をした男が、上品で豪華な服を着た観客に囲まれ朗々と語っていた。

 

「……さぁ! いかがでしたか? 皆さん、今回のゲームは! 6名生還、久しぶりの大規模な生還となりました!」

 

 ここは狂った殺人ゲームの観客席。

 最早、この世のあらゆる娯楽をむさぼり尽くした結果、行き着いた者達のみが座れる場所である。

 観客に語りかけているのはディーラーと呼ばれる男で、観客席側の進行を務めている責任者だ。

 

「今回の展開は王道的なゲームの運営を倒すだけではなく、まさかの運営側の人間とすら恐喝まがいの手法で手を組み……本ゲームのあらゆるギミックを駆使して、無事に最後の1時間の生還を達成しております。尚、正攻法で警備装置をくぐり抜けたのは今回が初めての記録となります。彼らの悪意を乗り越える愛と知恵と友情に運営として敬意を表します」

 

 ――尤も、鬱展開や人間の愛憎劇・裏切りを求めていた人間にとっては不満かもしれないが。

 とディーラーは内心苦笑する。

 だが、そのような悲劇的な結末はハッピーエンドもあるからこそ映えるのだ。

 真のバッドエンドは幸せな未来を掴み取れない事による落差から発生しうる。

 だから、今のこのゲームはこのようなギミックになっていた。

 

「そして、一部質問があったので全体にてお答えさせて頂きます。当ゲームの最後の1時間の仕掛は、ゲーム中の推理にありました通り『参加者から運営側を除いた11名のプレイヤーが全員協力すればクリアできる難易度』になっております。今回は6人でしたが、人数の少なさをまさか小麦粉で補うとは……最近の若い人間は恐ろしいですね」

 

 ちなみに、ディーラーとしては小麦粉作戦が出るまでは最後の1時間で首輪をしている人間は全滅すると睨んでいた。

 正直に言えば素直に感心している。

 ゲームマスターが知らない機能を含め、ここまでゲーム内のギミックが使い倒されるのは運営側冥利に尽きると言えた。

 

「一方で、今回のゲームによりちゃんと参加者同士協力し合えれば全員生還も夢ではない事が分かりました。今まで犠牲になったプレイヤー、これから犠牲になるプレイヤーは愚かなものですね! ちゃんと考えて協力すれば、全員生き残れるしお金まで配って貰えるというのに……それができない。人間というのは儚く哀しい生き物です」

 

 まぁ、それは自分達も含めてだろうが、とディーラーは内心自嘲する。

 しかし、自分は安全で人の不幸と愚かさを嘲笑うというのは、逆らいきれない快感があるというのもまた事実であった。

 

「ただ、少し問題が発生しましたね……今回で仕掛が粗方使い倒されてしまったため、また皆様方に満足して頂ける何かを検討しなければなりません。例えば、【同じ人物でPDAを配り直してゲームをする】など……おっと、物理的に不可能でしたね」

 

 観客席がドッと笑いに包まれる。

 この殺戮遊戯では使い倒されたジョークであった。

 それだけこのゲームがご愛顧されている証でもある。

 ひとしきり終わった後、ディーラーは「おや?」と計器を見て何かに気付いたように首を傾げて見せた。

 

「丁度良い、今回のゲームを生き延びた悪運のゲームマスターにお越し頂いたようです。この問いに関しては、郷田真弓マスターにお答えして頂くとしましょう」

 

 コツコツと足音が聞こえてくる。

 身体はボロボロであったが、服だけは着替え直した眼鏡の女性――郷田真弓が一直線にディーラーに向けて歩いて行った。

 

「ゲームマスター……お疲れ様でした。1つ質問なのですが、今後このゲームを進めるに当たって、斬新な展開を進めるには何が――ゴホォオオオオ!」

 

 郷田に話しかけるディーラー対して、真っ直ぐしすぎた右ストレートが顔面に直撃する。

 ディーラーは辛うじて受け身だけはとるものの吹き飛ばされ、観客席は再び笑いに包まれるのであった。

 ディーラーが殴られた箇所をさすりながら、恨みがましく郷田を睨み付けるのに満足してか、郷田は口を開いた。

 

「あー、すっきりした。素晴らしい斬新な展開、か……そうねぇ。【ゲーム直前に重要な鍵を担うプレイヤーが突然死する】とか【プレイヤーの中に居てはいけない人間が混じってしまう】とか面白いんじゃないかしら? 貴方達が右往左往するという意味で」

「イタタタ……それ、最終的に苦労するのマスターですよ?」

「貴方達が私に頭を下げざるを得ないってところが良いのよ」

 

 郷田の回答は100%私怨だった。

 笑っているが目は冷徹だ。

 流石の郷田も、今回のゲームばかりは死を覚悟していたし、なんならルールに則っているとはいえ運営に殺されかけたのである。

 

「痛い痛い……では私からも提案を、【組織側の人間が大ポカをかまして、最序盤に重要プレイヤーを大怪我ないしPDAを壊してしまう】というのは如何でしょう? 胸躍る展開になると思いませんか?」

「どうやら、一発じゃ足りなかったみたいね? その喧嘩、買ったわ」

「はつはっは、現場の人間ほどではありませんが、激戦後の貴方が私に勝てるとお思いで?」

 

 こうして、ゲーム終了後の余興が始まった。

 勿論、ディーラーと郷田は長い付き合いの腐れ縁でありプロだ。

 少しだけ、ほんの少しだけ積もり積もった私怨が混じっているが……ちゃんと一線を越えることなく、観客席を盛り上げていった。

 

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