秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind- 作:流火
第一話 空白からの始まり
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私の持っている物が私を意味するなら、それを失った時の私は何者なのだろう。
エーリッヒ・フロム (ドイツの社会心理学、精神分析、哲学の研究者)
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クリスマス……リアルが充実している人間にとっては天国で、しかし受験生にとっては追い込みの大事な時期。
別に受験生じゃなくても、俺には縁はない――という自虐は置いといて、気がついたら机に向き合って勉強をしていた。
受験というイベントが迫っている事に、少々の焦燥感と興奮を抱いている。
すくなくとも、俺は変化する事を望んでいた。
つまらない日常の何かが変わるのでは無いかと願っていた。
とはいえ、勉強の繰り返しは正直飽きる。
中学レベルの勉強なんて、決まった範囲のものをどれだけこねくり回して性格の悪い問題を出せるかどうかだろう。範囲の知識は粗方頭に入っているので、あとはどう応用して発展させた問題を解くかだ。
成績は悪くない方だと思うのだが、点数が下振れすれば合格ギリギリにはなるだろうという危機感はあった。
そもそも、そんな机にかじりついて自分の学力ギリギリの所に行こうとする価値があるのかと自問する。やりたいことの方向性は決まっている。だが、それで良いのか? という思いが熱意を奪っていた。
結局の所、今の俺に芯と言える物はない。
――一度、考え直してみるか。
丁度良いところで切り上げ、あるノートを取り出す。
『探偵ノート』と名付けられたそれは、数年後には黒歴史になっているかもしれない痛々しく、そして熱意に溢れたものであった。
俺は事件というものが好きだった。自分が正義の味方側である事もそうだし、頭を捻って複雑な状況を推理するのも好き。犯人を追い詰めるという行程も好きで……あるいは――
ノートの内容を眺めていた俺は、部屋の外で物音がするのに気付いた。
「……親父、またこれから仕事?」
「進矢か? 勉強お疲れ。全く、こんな時に嫌になるね」
外に行くと仕事用の外出着の着替えをそそくさと終え、外に出ようとしている捜査一課の警部である父親に出会う。記憶が正しければ、今日は昼間に別のイベントで仕事していて夜間にもまた呼び出しとは、多忙な話である。
クリスマスイブに呼び出しとはプライベートもあったもんじゃない、何があったか知らないが哀しい話だ。勿論、大きなイベントなので事件も当然起こりうる事なんだが。……一家団欒というわけではないが、少なくとも一緒にクリスマスケーキは食べれなさそうだ。
「やっぱ警察は嫌だなぁ、なんでリア充の為に苦労しなきゃいけないのやら」
「本人の前で言うか、いやそうなんだが」
気持ち良く事件解決にだけ取り組んでいたんだよ!
そんな都合の良い気持ちが強い俺である。
「だが、社会の日常を守ること、ハレの日を守る事。どっちも大事な仕事だ。大変なのは事実だが、俺は誇りに思ってるよ」
「ご立派だなぁ、俺の夢はどうやって叶うのやら」
手にしたノートを見る。
中には未解決事件について、俺がインターネットや書籍で調べている物を纏めている。高校になったら実地でも調査して、更に踏み込んでみたいと考えている。
だから、正直言ってスピード違反や一時不停止のネズミ捕りを初めとして、現実の雑多な事件に興味など無いのだ。いっそ、自分で世界を驚かす事件を起こす側になった方が夢に近いのは? 等という破滅的な意志が過ぎるほど興味がない。
どこかで折り合いを付けなければならないとは分かっているのだが……。
「俺も当初はそんなものだったけど、青いなぁ進矢は! ……良いか? 確かにそういう華々しい事件だとか、迷宮入りした事件が脚光を浴びるっていうのは当然だ。花形だよ。だが、日頃起きる俺達警察にとっては小さな事件だってその当事者にとっては人生の一大事だ。人命に大小はない」
「確かに、年間行方不明者約8万人……これはあくまで警察に届けられた数。統計で言えば味気ないけど、一般人にとっては行方不明届けなんて人生に一度あるかないかのビッグイベントか……」
「そういうことだ! 最終的にその殆どは見つかるものだとしても、万が一ということもあるしな。おっと、時間がまずい。要は俺達が正義の味方っていうのは間違い、治安を――引いては日常を守るのが仕事だ。進矢向きじゃなさそうだな?」
「俺からすると守る程のものか? と思ってしまう……じゃ、親父いってらっしゃい」
「いずれ進矢も分かる時が来る、じゃあ受験勉強頑張れよ! ……もう一人の受験生の頑張っている姿も見たかったけどな」
「今日、3回も言ったんだけど兄貴については俺はもう諦めた」
「ハハッ……まぁアイツも最後は帳尻合わすだろ」
信じてるのか諦めているのか、身支度を終えた親父はそのまま玄関へ駆けだしていく。
こういう話を親父とするのは随分と久しぶりな気がする。
普段忙しいというか、親父の本当の家族は俺達じゃなくて仕事の方だ。
ある意味で羨ましいとも思う……そうなるなら一生独身でやるかとは思っているが。
しかし、年間8万の行方不明者ねぇ……8万もあるなら、モノホンがどこかにあるかもしれないな。
木を隠すなら森の中というが、砂漠の砂粒からダイヤモンドを探すような作業になるけども。
高校生……高校生になった時の楽しみにして、勉強を再開するか。
探偵ノートを奥へとしまい込み、過去問題集に取りかかろうとした所で、ふとある言葉が過ぎった。
鬱屈とした思いを抱えていたからか、昏い感情が駆け巡る。
その感情が我儘で、無意味で、理不尽なのは……他ならぬ俺が一番良く分かっていた。
だが、自分の意志で止められないからこその感情なのである。
――治安を、日常を守るのが仕事……か
「守って欲しい時は守ってくれないくせに」
「……ん……君!」
突然、頭に衝撃が走り、俺の中での景色が崩れる。
随分と遠くから、呼ばれているような声を感じる。
ぼんやりとしていた視界が徐々にクリアになっていく。
ピントが徐々にあってくると、それは人の形を形成していった。
白と黒の装飾の多い服、よく目立つウェーブのかかった長い髪と大きな髪飾り。
……そして、銀色に輝く首輪。
「進矢君、大丈夫!? 私の事、分かる?」
今度こそ視界がはっきりする。
ドアップで心配そうな表情をした女性が自分を見下ろしているのが見えた。
「うっ……!」
頭が、痛い……思わず、手を動かし、反射的に頭の方に手をやろうとする。
「頭を触ったら、駄目だよ! 進矢君! まだ安静にしないと!」
「えーっと……」
そして、女性は動かそうとしていた俺の手を握った。
状況を完全に掴む事はできなかったが、頭の痛みからして触ってはいけないものらしい。
とにかく、動かなければならない……そんな衝動があり、立ち上がろうとし――ふと、疑問に思う。
「……あー、すいません。進矢君って、もしかして、俺に言ってます?」
「え……ほ、本当に大丈夫?」
記憶を辿る……自分は何だ?
少なくとも該当する部分はない。
目の前の女性は誰だ?
自分の事を知っている反応なのだが、それも分からない。
困惑している俺に対して、目の前の女性は焦った表情で言葉を続ける。
「き、きっと、頭を強く打って混乱してるだけだよ~。だから、落ち着いて……ね?」
「俺、頭打ったんですか?」
そう言われると頭にガンガン痛みが走っているのも分かる。
正直言って、微妙に思考が覚束ない。
目が覚める前、何やら夢を見ていたような気がするが……今もまだ夢から抜けきれていないような感覚。
強いて言うなら、目の前の女性に心配かけているのは申し訳無いとは思うが。
「うーん、思い出せるような何かよく分からないな……ここはどこだ? 何月何日? どうして俺は頭を打つような事に? 貴方のお名前は……くっ、駄目だ! 何がなんだか……」
「お、落ち着いてよ~、進矢君! 無理に思い出さなくて良いし、分かる事なら私が1つずつ答えるから~」
「あ、すいません。……スー、ハー、こういう時は5W1Hを順番に詰めていきましょうか」
「5W1H……あぁ! 『いつ・どこで・だれが・なにを・なぜ・どのように』って事ね~。そういうところは~、進矢君のままだなぁって思うんだけどぉ」
「俺らしさとは一体……」
半ばパニックになりかけた俺の頭を、安心させるような声色が響き一先ず深呼吸して落ち着く。
何がなんだかよく分からないが、目の前にこの人がいることだけが俺にとっての救いのように思えた。
独りぼっちだったら、どうなっていたことやら。
興奮した心を落ち着かせ、質問を開始する。
最初は勿論、誰(who)の部分から始まった。
流石に人を呼ぶときは代名詞じゃなくて固有名詞の方が良いだろうからな。
自分の胸ポケットに入っていた生徒手帳と目の前の女性の証言を組み合わせる。
「川瀬進矢、16歳。高校二年生。家族構成は両親と兄と弟の5人家族。9月12日生まれで血液型はA型、部活動には所属しておらず飲食店でアルバイトをしておりバイト帰りの帰宅中に攫われた……攫われた?」
「へー、9月12日なんだ! 私と丁度、1ヶ月違いだね~」
「もっと突っ込むところがあったような……そういう貴方は?」
「綺堂渚、誕生日は8月12日……年齢は~、秘密です~!」
「まぁ、そこは興味無いです」
「それはそれで酷いよ~進矢君~!」
「すいません。では改めまして……何歳なんですか?」
「進矢君の事なんて知りません!」
「えー」
女心は複雑怪奇、真っ白な記憶の中に俺はそれを刻み込んだ。
……このままずっと拗ねられても困るのだが。
困惑してると、少しだけ彼女は俺の方に視線を向けて言った。
「渚って私の事を呼んでくれたら許してあげようかな~?」
「分かりました、綺堂さん」
「それって~、許さなくて良いって事~!?」
綺堂さんは頬を膨らせながらぷんぷんと怒りだした。
別にそうとは思っていないが、女の人の名前呼びするなんて恥ずかしいし。
それに何だろうな……綺堂さんに非常に申し訳無いし心当たりもないが、生理的な警戒感が……。
彼女が悪いわけではないが、一回心を許すと甘えすぎてしまいそうな気がする。
うん、これくらいの距離感が丁度良いなと謝りながら思う。
尚、綺堂さんに聞いたら記憶を失う前からこんな感じだったと不満そうに教えてくれた。
……なら、問題ないな。多分。
ちなみに5W1Hのwhen(日時)に関しては、ピンと来なかったがまだ夏休みに入ってない辺り。
……バイトと学校の無断欠席がヤバいと”俺”が嘆いていたらしいので不安になる。
全く分からない事に恐怖を感じても仕方ない。
尚、俺と綺堂さんは出会って3時間の仲らしい。
割と赤の他人だった……と感想を漏らしたら普通に怒られた。
where(場所)に関しては、正直よく分からないようだ。
目覚めた時の部屋に置いてあったPDAにやたらでかい地図の機能があるが、1時間近く歩いて現在位置の特定は済んでいるらしい。
”俺”が逐一、綺堂さんに現在位置の共有をしていた事、更にPDAの使い方を詳しく教えたかららしい。よくやった俺。
尚、今現在は逆に”俺”が綺堂さんに教えたPDAの使い方を、今度は綺堂さんから俺に教えるという状態になっている。
よく分からんが、人に親切ってするもんなんだな……。
次に、why(何故)だ。俺は何故記憶を失ったかについて。
「簡単に言えば~、罠に引っかかった私を進矢君が庇ってくれて~、格好良かったんだから~!」
「……罠ってなんですか、罠って」
「よく分からないんだけど~、床に突っ張りがあってそれを私が踏んだら、ドーンって鉄パイプのようなものが壁から私に振り下ろされたの。それで、進矢君が私を突き飛ばしてかわりに……」
「頭にドーン、っと……訳が分かりませんが、発生した事象は理解しました」
綺堂さんが謝罪と感謝を交互に行うが、俺としてはその記憶が完全にないので恐縮するばかりだ。
……誰かを庇うなんて、格好良いな~と他人事のように思う。
自分じゃないみたいだ。
起きてる事象の1つ1つが、現実離れしていてまだ夢を見ているんじゃないかいと思う。
綺堂さんが、おそらく現実に縁のない服装だからというのも拍車をかけているのかもしれない。
脳は混乱しているが、そこは綺堂さんのゆったりとしたしゃべり方が都合が良かった。
おかげで、辛うじて思考を整理する事ができている。
だが、情報として受け取る事はできても、それをしっかりと吟味し考察する力まではない。
……そして、それが俺の記憶にアクセスし、何かを思い出すという事も無かった。
更に話題を切り替えようとした時、ふと綺堂さんの雰囲気が一変した。
「最後に~、what(何を)とhow(どうする)の2つね。この2つはとても重要よ。私達は恐らく、とても悪趣味な殺人ゲームに参加させられていて……望むと望まざるとに関わらずルールと解除条件に縛られているわ」
「……ど、どうしたんですか、綺堂さん。急に雰囲気を変えて」
「進矢君のモノマネ~!」
「……」
綺堂さんのお茶目な一面を垣間見つつ……自分がそんな雰囲気で言っていたという事は恐らく洒落にならない筈だ。
自分の中に欠けたものにたいする欠落感、そして命の危機は明確に感じている。
だが、どうすればいいのか分からない……いや、違うな。
どうしたら、俺の命が助かるか、それは意識を取り戻した時に胸の内ポケットに入っていたPDAは無機質に告げていた。
『解除条件 A:クィーンのPDAの所有者を殺害する。手段は問わない』
この画面を見た瞬間、ある知識が俺の中で浮かんだ。
【刑法第199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。】
つまり、人を殺すというのは良くない事で、それは法律上でもしっかりと罰則が規定された事実であるということだ。
しかしながら、記憶が無くて鈍くなっている俺でも分かる事はある。
今、大事な事はそういうことではない。
PDAのルールは告げているのだ、ターゲットを殺せ……さもなくば死ね。
「進矢君~?」
「うわっ!?」
思考の海に潜り込もうとしていた俺は唐突に綺堂さんの大きな瞳と目が会う。
一瞬、魅入られそうになりつつも、なんとか退避して息を整える。
綺堂さんはクスクス笑いながら、少し心配そうな声色で俺に語りかけてくる。
「進矢君の条件が大変なのは分かるけどぉ、今悩んでも仕方無いとお姉さんは思うな~?」
「その反応は知ってるんですね?」
「うん! 進矢君に教えて貰ったからね~、私のはこれ~。むやみに人に見せてはいけないって進矢君は言ってたけど、特別だからね~?」
綺堂さんは鞄からPDAを慣れてなさそうな手つきで操作し、俺に分かるようにかざした。
……できれば、一々思わせぶりな事を言わないで頂きたい。
ついつい、気にしてしまう。
【解除条件 7:開始から6時間目以降にプレイヤー全員との遭遇。死亡している場合は免除。】
「私達の他に11人居るらしいから、会って仲良くなれれば良いな~!」
「中々難しそうですね……というか遭遇?」
うーん、頭を捻らせる。
遭遇って表現は曖昧すぎやしないだろうか?
Qの殺害なら分かりやすいが……何を以て遭遇と判定するのだろう?
まずいな、1つ1つの要素を拾っていくとまた別の疑問が浮かんでくる。
などと思っていると、綺堂さんが何かに気付いたようで「あっ」と自分の手のひらを叩いて言った。
「そうだった! 進矢君が開始から6時間経ったら、もしかしたら何かが起こるかもしれないって言ってたよ~!」
「何か? 『7』の条件の付帯条項に書かれている6時間以降の話ですよね……?」
「そうなのよ~、わざわざ6時間以降って但し書きしてる以上、欠けてるルールに絶対開始6時間に関するルールが残ってる筈なんだって~!」
「ふむふむ、すいません……これからルールに関して読ませて頂きますね」
「私のPDAも見せてあげるね?」
「? ありがとうございます」
ルールを見るのにどうして、綺堂さんのPDAが必要なのだろう?
という疑問を解決する為にルールを読み込んでいく、その疑問はルール2の時点ですぐに氷解した。
今集まってるルールは欠けており、今はそれを拾い集めている最中なのだ。
【ルール1】
参加者には特別製の首輪が付けられている。それぞれのPDAに書かれた状態で首輪のコネクタにPDAを読み込ませれば外す事ができる。条件を満たさない状況でPDAを読み込ませると首輪が作動し、15秒間警告を発した後、建物の警備システムと連携して着用者を殺す。一度作動した首輪を止める方法は存在しない。
【ルール2】
参加者には1 - 9のルールが4つずつ教えられる。与えられる情報はルール1と2と、残りの3 - 9から2つずつ。およそ5、6人でルールを持ち寄れば全てのルールが判明する。
【ルール3】 所持者:綺堂渚
PDAは全部で13台存在する。13台にはそれぞれ異なる解除条件が書き込まれており、ゲーム開始時に参加者に1台ずつ配られている。この時のPDAに書かれているものが、ルール1で言う条件にあたる。他人のカードを奪っても良いが、そのカードに書かれた条件で首輪を外すのは不可能で、読み込ませると首輪が作動し着用者は死ぬ。あくまで初期に配布されたもので実行されなければならない。
【ルール5】 所持者:川瀬進矢
侵入禁止エリアが存在する。初期では屋外のみ。進入禁止エリアに侵入すると首輪が警告を発し、その警告を無視すると首輪が作動し警備システムに殺される。また、2日目になると侵入禁止エリアが1階から上のフロアに向かって広がり始め、最終的には館の全域が侵入禁止エリアとなる。
【ルール6】 所持者:川瀬進矢
開始から3日間と1時間(73時間)が過ぎた時点で生存している人間を全て勝利者とし20億円の賞金を山分けする。
【ルール7】 所持者:綺堂渚
指定された戦闘禁止エリアの中で誰かを攻撃した場合、首輪が作動する。
……さて、色々と頭が混乱していた俺だが活字を読んで1つの方向に纏ってくる。
解除条件だけ【Q】を殺さなければヤバいのでは? と思い込んでいたが、このルールを見る限りはまずはルールを知り尽くさないとヤバい。
どこまで本気かどうかは分からない。
だが、少なくとも俺と綺堂さんは誘拐され、この建物には罠がしかけられている。
……そして、知らない内にルールに引っかかって死ぬ可能性があると。
PDAの経過時間を確認する 『開始から5:30経過』……あと30分しかないな。
どっかの誰かのせいで随分と時間をとってしまったらしい、自虐です。
とにかく行動しなくては、意を決して立ち上がる。
「よく分からないが不味い事がはっきり分かりました……人を探しましょう、人を――」
「お、落ち着いて進矢君! 焦っても仕方無いよ~、地図で今の場所分からないんでしょ~」
「うぐっ……」
だが、俺の目論見はあまりに拙速に過ぎた。
その無様さを看破されたようで、綺堂さんに腕を捕まれてしまう。
振りほどこうとまでは思わないが、焦る心持ちは変わらない。
「だけど、この手の何かって……兎に角急いで動いて、有利を取らないといけない気がして……」
「確かに前の進矢君も似たような事を言ってたけど……よ~し! ここはお姉さんにお任せなのだ~!」
「綺堂さん?」
雰囲気を一片させてゴホンと綺堂さんは咳払いする。
そしてキリッとした凜とした表情に変わる。
なんかやたら気合いが入っているぞ?
「『焦っても仕方無い、解除条件は生き残る為の必要条件かもしれないがあくまでのその1つに過ぎない。まずは、今置かれている状況を把握する事に専念すべき。その為にはできるだけ多くの人に会わなければいけないわけだが……』進矢君はどこに行けば良いか、分かるかな~?」
「何かと思えば、俺の声真似ですか……正しいけど、俺何者だ? ちょっと待ってください」
綺堂さんの表情がキリッとした状態からまた、にこやかな笑顔に戻り……コロコロ変わって可愛らしい人だなと思う。
……あんまり見とれている訳にもいかないので、PDAの地図に目線を落とす。
深く考える必要はなさそうだ、目立っている施設は少ししかない。
「候補はエントランス、2階への階段、エレベーターってところですね。この選択肢ならエントランスですかね?」
「ぴんぽーん! 入口から出ようとしてる人が居たら止めないといけないし、エントランスならゲームに乗り気じゃない人が集まるんじゃ無いかって進矢君は言ってたよ~。あと、そういう人を狙う悪い人がもしかしたら居るかもだって=!」
「なるほど……そこまでは考えてなかったです。いや、自分の言葉って事に違和感を感じるんですが」
「進矢君も落ち着いて考えればそれくらいきっとできるよ~! だから、焦ったらだ・め!」
「は、はい……」
焦りすぎた所為かメッという勢いで、綺堂さんに諭されてしまった。
記憶に無い過去の自分の行いに助けられたというべきか……うん、落ち着こう。
今の状況は不味いかもしれないが、少なくとも綺堂さんは信頼できるみたいだし……流石に、自分を信じてくれている? であろう相手に無様は晒したくない。
綺堂さんに謝ると、彼女はぷんぷんしてた顔を綻ばせ軽やかに動き始めた。
「じゃあ、進矢君。私は地図で今の場所を確認してくるから、持ち物とか確認しておいてね~! すぐ、戻るから~」
「ちょ、ちょっと綺堂さん!?」
地図の大体の場所は覚えているが、罠と俺の記憶喪失騒動で細かい位置を失念してしまったと聞いている。
だから、ある程度この建物を歩いた記憶がある彼女がそれをする事は合理的ではあるのだが……。
「誰かいたり、何かあった大声を挙げてくださいね!」
「大丈夫! 平気、へ~き~!」
と走り去ってしまった。
天然そうで、割とちゃんとしてて、マイペースな人だな……。
色々と引っ張られている部分はあると思うが、だからこそ助かっているのかもしれない。
こういう異常事態に対する図太さは見習いたいところである。
――少なくとも、代わりに頭を強打してしまっただけの価値はあったのかもしれない
俺は綺堂さんに対する考察を切り上げ、自分? の学生鞄を漁り始めたのであった。
エピソード1とは色々と設定が異なっている部分があったり、無かったりします。
(解除条件やプレイヤー等、ゲーム以前の背景等。ただし根っこは一緒です)