秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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川瀬進矢:A:10.0:Qの殺害
綺堂渚:7:4.2:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
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第二話 人の心は交わらない

 

 

 

 

 

――――――――

一皮剥けば人は皆同じ。私はそれを証明するために、人間性の皮を剥ぎ取りたい。

アイン・ランド (米国の作家)

――――――――

 

 

 

 

 

『確認するけど、撮影対象に疑われて警戒されてしまい罠への注意が散漫になってしまった。信頼を深めようとしていた矢先に罠に引っかかり、よりによって撮影対象に庇われる。頭を強打した川瀬君は、記憶喪失に……それで間違い無いかしら?』

 

「――はい。間違いありません」

 

 進矢から一定以上の距離を取った渚は追ってきてない事を確認し、PDAで通話している。

 その表情は、先程……川瀬進矢と話をしていた時のようなほんわかさは消え失せており真面目な雰囲気だ。

 話の内容としては、渚にとっては哀しい事に――不祥事の叱責なのだが……。

 

 渚が進矢からある程度離れた後に状況報告の為にPDAでの通信を試みたところ、異例の対応とも言えるゲームマスターが対応してきた。基本的にゲームマスターとサブマスターは直接のやりとりを行う事はない。少なくとも、十数回のサブマスター経験を経ていた渚にとっても初めての事だった。

 つまり、今回の件はゲームマスターとサブマスターで直接やりとりしなければならない

程度には大きなミスをしてしまったということだ。

 どうしてこんな事になってしまったのか……内心で渚は頭を抱える。評価の大小はあれどこんなミスをしてしまった事は渚にとっても初めての事である。

 

『渚ちゃん……ゲーム経験回数的にはそろそろベテランを名乗れる域だけど、回数を重ねて油断してしまったんじゃない? 一番人気プレイヤーよ? とんでもない額のお金が動いてるの! 分かってる? 貴方だけの責任じゃすまないのよ!?』

 

「本当に申し訳ありません……なんとか、この失敗を取り戻しますので」

 

 ――なんか懐かしいな、こんなやりとり……

 

 怒られながら、渚は奇妙な感慨に耽っていた。

 渚もこの組織に入る前の高校時代……かつては多くのアルバイトを掛け持ちしており、個数が多い分、アルバイト中には大失敗をした事が何度かある。その度にこのような叱責を何度も受けていたのだ。

 その後、借金を理由にゲームに参加する事となり、自分の命の為に親友すら手にかけた渚であったが、皮肉にもゲーム運営側としての才能は高かったようでそういう叱責には縁が無かった。

 

『取り戻して貰わないと困るのよ、全く……まぁ良いわ、具体的にはどうするつもりなの?』

 

「記憶喪失をチャンスと捉えるべきだと思います。二通り考えてます、一つ目のサブプランはこのまま信頼関係を結び私以外誰も信じられなくなった川瀬進矢に最後の一押しをする」

 

 渚はぱぁんと無表情で左手に銃の形を作ってみせる。

 進矢と話していた時とあまり変わらない表情ではあったが、言ってる内容自体は邪悪そのものであった。苦しめて殺すのも問題ないが、渚としてはこっち派である。

 その時の相手の反応で……自分は間違ってなかったと安心できるのだ。

 

『記憶がない分、信頼関係は築きやすくなったわね。もう1つは?』

 

「記憶喪失で能力が低下した分、私が彼をサポートし『Q』殺しを手伝います。つまり、肩入れ以外は当初の予定通りですね。こっちのプランを本命として動きます……私の動くタイミングは任せて頂いても?」

 

『下手に優遇措置をするよりはそっちの方が良いわね……分かったわ、こっちでも援護するから……記憶喪失は考えようによっては前例がないからチャンスよ。このチャンスをものにすれば、逆にボーナスすらあるかもしれない。場合によっては追加指令が出る場合もあるかもしれないけど……基本的には自分で判断して頑張りなさい、渚ちゃん』

 

「承りました」

 

 渚はPDAの連絡を切って、溜息がでる。

 今回のゲームは初っ端からケチがついてしまった。

 聞くところによると、元々予定されていた重要なプレイヤーの1人が数ヶ月前に事故死しているらしい。その結果、渚の撮影担当プレイヤーが川瀬進矢に移り、このトラブルである。

 厄の多い回だ……今回は長いゲームになりそうだと渚は感じる。

 具体的には歴代のゲームで二回目くらいに。

 

(それにしても、どうして疑われちゃったのかしら?)

 

 記憶喪失前、記憶喪失後の川瀬進矢の様子を比べると渚は1つの疑問が過ぎる。

 まず、記憶喪失後の川瀬進矢は……頭の回転は速いが普通に女性への対応が慣れてない感じの内気な男子だ。こういう男に対する対応は特に問題ない、最初の警戒心が強いだけで一度打ち解けてしまえば後はどうとでもなる。記憶が完全にない為、騙すのは純粋な子供に人間の闇を見せつけるような罪悪感はあるが、それも仕事の内だ。今までの人間と同じように、川瀬進矢も人間だという事を証明してやろう。

 問題は記憶喪失前……

 

(あれはただの警戒じゃない――彼は間違い無く、何かを掴んでいた。私を疑うに足る何かを……そうとしか、考えられない)

 

 渚は思い返すが失言したわけでもない、行動にも問題は無かったはずだ。

 結局の所、渚から川瀬進矢を最序盤から害する訳にもいかないため、記憶喪失という結果は運が良かったのかもしれない。

 とるべき道は1つ、記憶を取り戻す前に籠絡……例えば、擬似的な恋愛関係等を作ってしまえば良い。その後に悲恋を演出する等すれば、ゲームとしては十分盛り上がり不祥事は解決されるだろう。

 

 そこまで考えて自嘲する。

 川瀬進矢の本性も醜いものだとは思うが、それでも咄嗟に渚を庇ったのは事実……そして、今の川瀬進矢は未だ真っ白な赤子のような存在に近い。

 そんな人間を金の為、仕事上の評価の為に殺そうとしている綺堂渚は間違い無く醜悪な人間そのものであった。

 

 だからこそ、渚の選択肢は1つしかなかった。

 幸いにも川瀬進矢の解除条件は【A】。

 進矢の人間としての本性を暴く、いつものこと……ずっと繰り返してきた作業だった。

 

 ある程度、今後のプランを纏めた渚は鏡で自分の表情を取り繕い、進矢の元に駆けだしたのであった。

 

「進矢君~! 今居る場所が分かったよ~!」

 

 その明るい笑顔は、渚の本性を覆い隠す仮面である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……さて、記憶は取り戻せないまでも自分について知る事は大切だ。

 

 綺堂さんが居なくなった事を確認し、持ち物チェックを行う。

 右ポケットには小銭が入っていた……なんだこれ?

 一先ず保留にし、左ポケットには携帯電話が入っている。

 起動してみたが、パスワードが分からな――と思いきや手が自然と動いて、普通に入る事ができた。脳が覚えて無くても、身体は覚えているらしい。

 【1224】……ね。

 待ち受け画面は家族だろうか、5人揃った写真がある。

 試しに自撮してみたが、これが俺の顔なのか……ふーんって感想しか出てこない。

 ここから分かる事は、俺は母親似で俺の兄弟と思われる2人は父親似ってことだけだな……うーん、疎外感がありそう。

 

 当然かもしれないが、圏外である。

 連絡は繋がりそうに無い。

 連絡先を見るが、家族以外はバイト先の連絡先なんだろうか?

 

 鞄を漁ってみると、給与明細やシフト表が出てきた。

 ……うむ、連絡先は家族かバイト関係者しかいない。友達は少なそうだ。

 ついでに言えば、写真一覧を見てみるが女性と取った写真とかはない……くっ、記憶がないだけで実は可愛い彼女が家で待っているという希望が断たれた!

 

 給与明細を見てみるが、大体月給は8万弱といったところか……こんなに働いてたら確かに友達作る余裕とかなそうだな。

 俺のコミュ力に問題があるわけではない、ヨシ! ……ヨシ?

 何故か残っている知識だが、これ以上働くと税金がかかったり扶養から外れたりするんだったか……世知辛いな!?

 よく分からんが、川瀬進矢はお金に困っていたのだろう。

 ……20億の山分けなんてもしかしたら、喉から手が出る程に欲しいのかもしれない。

 そう考えると、急に記憶取り戻すのが怖くなってきたぞ。

 

 うーん、もしかしたら綺堂さんもそうなのかもしれないな。

 よく分からないけど、あの服装って……普段着というよりは、そういう所? に勤めてると聞いた方が納得できる。勿論、記憶がないのでどういう所って具体的に言われても困るのだが。

 そう考えると、今の綺堂さんって仕事用の顔なのかもしれないな……そう考えた方が自然のような気がする。いずれにせよ、ちゃんと仲良くなりたいところだ。

 

 あとは教科書とノートと……図書館から借りた本が2冊。自分で買ったと思われる本が1冊。図書館の本はぱらぱらと捲ってみるとミステリー小説本と、もう1つが

節約料理本……だな、金がないらしい。

 自分で買った本は、探偵の手法に関する本みたいだ。

 俺はミステリーとか探偵とかに興味津々だったみたいだな。

 うっかり、この場で読み出さないように注意しなくては……。

 

「進矢君~! 今居る場所が分かったよ~!」

 

 おっと、色々と整理している内に綺堂さんが戻ってきたようだ。

 

「はーい、こっちも大体落ち着きました」

 

「大丈夫~? 何か思い出せそう?」

 

「そこは全然……多分、ミステリーや探偵物の本とか好きだったんでしょうが、自分を探るっていうのも複雑な気分ですね」

 

「確かに~、前の進矢君は探偵さんぽかったかなぁ……だけど、あんまり無理しちゃ駄目だよ~?」

 

「分かってますよ」

 

 心配そうな表情をする綺堂さんに恐縮しつつ、鞄に入っている物以外のものに視線を移す……、角材と救急箱?

 

「あとは、これはなんでしょう?」

 

「これはね~、この建物で見つけたものだよ~。悪い誘拐犯を見つけても、剣道やってた進矢君がこれでぶんぶんって倒してくれるんだって~!」

 

「そうなんですか……いずれにせよ、こういうものが部屋に置いてあったんですね」

 

 自分の新たな一面を綺堂さんに教えて貰いつつ、角材は俺が救急箱は綺堂さんが持つ事になっていたらしい。

 後はちょっとした食料や飲料が各部屋にあったようだ。

 ……本格的に殺し合いとしての体裁は整っているが、違和感もある。

 まともな武器は今のところ見つかっていない、何故だろう?

 まぁいいか、無いなら無い方が良い。

 

「それじゃあ、今の場所を教えて貰って宜しいですか?」

 

「うん!」

 

 俺の問いに綺堂さんは笑顔で頷き、この大きな建物を進み始めた。

 

 

 

 

 

『開始から6時間が経過しました。お待たせいたしました、全域での戦闘禁止の制限が解除されました!』

 

「うげ……そういうことか……」

 

「どういうこと~?」

 

 歩きはじめて、程なくすると開始時間から6時間経過する。

 エントランスへは、もうそこそこ近い位置には居たが罠を警戒しなければならないという事でそのスピードは遅い。エントランスまで目測であと30分はかかる距離だ。だからこそ、先に6時間経ってしまうのは避けられない事であったが……。

 

「つまり、持ってないルールに書いてあったんでしょうね、開始から6時間以内は全域が戦闘禁止って……」

 

 記憶がないこともそうだが、俺達がこのゲームにおいて大幅に遅れを取っているという事実に対して溜息をつく。

 焦っても仕方ないとは分かってはいるのだが……恐らく最初の6時間こそが、今後のゲームにおける重要なモラトリアムだったのだろう。

 尤も、ルールを知らない状態の俺達はうっかりと先制攻撃をしかけて、ルール違反をしていた可能性もあるにはあったので一概に不幸とも言い切れないのだが。

 

「気をつけましょう。今までも警戒はしていましたが、今後はより一層いきなり襲われる可能性があります」

 

「うん~、分かった~」

 

 あんまり不安になっても仕方無いので、綺堂さんの様子を確認してみる。

 そこまで焦ってる様子はなさそうだ……むしろ、心配そうな表情でこちらを見ている。

 演技というのは考えすぎだったか?

 記憶を失う前の俺が警告を何度か入れていると思ったのだが、ゲームに対する深刻さは感じられないように思える。

 この違和感を解消できる何かを、少なくとも今の俺は見つけ出す事ができなかった。

 

 いずれにせよ、1つ分かった事がある。

 俺はどうやら、相手の事をプロファイリングしてどういう人物か自分の中で明確にしないと気が済まない性質らしい。

 ……人間不信なのかもなしれないな。

 微妙に綺堂さんに申し訳無い気持ちになってくるが、このゲームにおいては必要な素質だとは思われるので複雑な心境である。

 

 

 

 

 戦闘禁止が告知され、20分近く経っただろうか?

 時たま会話をしつつ、罠と周辺の警戒をしながらエントランスに近づいた時にそれは聞こえた。

 

――ガシャン!

 

「きゃあぁぁぁぁっ!?」

 

「「っ!?」」

 

 女性の悲鳴……場所は遠くない、反射的に綺堂さんに視線を向けると自然と目が合い頷き合う。

 何かが起こった、それは確かだ。

 

「行きますよ!」

 

「う、うん!」

 

 念の為、角材を握りしめて悲鳴が聞こえた場所へ急行する。

 角を曲がって新たな通路の先へ走――。

 

「し、進矢君……危ないっ!」

 

「うおっ……な、なんだこれ!?」

 

 走ろうとして後ろから綺堂さんに左腕を掴まれ、絶句する。

 それを落とし穴……と表現するにはあまりにも大きすぎた。

 穴というか、通路そのものが無くなっていているのである。

 床面全体が一区画分まるまる抜けており、勢いのまま突っ走って綺堂さんに止められてなければ勢いそのまま穴に真っ逆さま……ゲームオーバーである。

 

 穴を覗き込むが……薄暗いのもあるが、床面が見えない。

 最低でも5m以上はあるのだろうか……先程の悲鳴を挙げた女性も、これでは助かるまい。

 悲惨な情景を覚悟して、携帯電話を取りだし床面にライトを当てようとしたが……その前に声が聞こえた。

 

「こ、ここにいるわ……」

 

 丁度、自分達のほぼ真下には壁面のわずかな出っ張りにしがみついている金髪の白いワンピースを女性がいた。

 これが逆だったら、俺の全力走り幅跳びでも逆側に辿り着けずゲームセットだっただろう。彼女の幸運第一段階はクリアだ、あとは俺達が助けられるかどうか……!

 

「良かった! ちょっと、待っててくださいね!」

 

 その女性は1mちょっと下、床に這いつくばり頑張って手を伸ばそうとするも届かない。

 身を乗り出し過ぎると、今度は俺と俺を引っ張るであろう綺堂さんごと落ちる事になるし……長いもの長いもの……パッと角材とか衣服、鞄が浮かぶが強度的に不安になる。

 だけど、そんなに悩んでいる時間はないのかもしれない。

 

「みつ、るぎ……」

 

 下で誰かの名前を呟いている女性が見える、死を悟って最期に大切な人の名前を呟くようなの止めてくれ!

 俺はまだ諦めてない! ……何か、何か!

 

「進矢君! 腰ッ! ベルト! ベルトを使えば!」

 

「ハッ、そうか! それがあったか!」

 

 焦った綺堂さんの声が聞こえ、腰のベルトを取り外す。

 灯台下暗しと言う言葉が過ぎる、所持品ではなく答えが身につけていた物にあったとは!

 強度的には、それでも不安が残るが……今までの候補の中では一番マシに思えた。

 もう時間的余裕はない、行くぞ……と覚悟を決めた時、後ろから声が聞こえた。

 

「麗佳さん! 大丈夫ですか!? ……え?」

 

 その顔は確かに先程撮影した俺の顔そっくりで……だからこそ、その人物は俺と眼を合わせて硬直した。

 男子高校生の制服や声の高さが一部違うところはあるが、少なくとも家族写真で見た兄弟よりはそっくりだ。

 俺が硬直せずに済んだのは、記憶を失い自分の顔を自分の顔だと認識できてないからかもしれなかった。

 だから、先に反応したのは必然俺だった。

 

「丁度良い! 女性が落ちかけてるんです! 引っ張り上げるのを手伝ってください!」

 

「……あ、あぁ!」

 

 動揺から立ち直ったその男子高校生は状況を理解すると、素早く俺達に協力してくれた。

 幸運その2……とりあえず、俺似のその人物に敵意はなく協力的だった。

 こうして天運に恵まれた結果、女性を無事に引っ張り上げる事に成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ……中々、重かっ――」

 

「し~ん~や~く~ん~……?」

 

「ひぇ……」 

 

 何とか女性を引っ張り上げた後、4人で座り込んで息を整えていた。 

 そこまでは良かったのだが、一息つこうとしたところ……無意識に失言してしまったらしい。

 じりじりと綺堂さんが俺に詰め寄ってくる。

 じりじりと俺は後ろに下がる、そして壁に背がぶつかった。

 綺堂さんの顔は今までに見たどの表情よりも笑顔だったが、眼が笑っていなかった。

 そして、その右手が大きく振りかぶられ――

 

「めっ!」

 

「きゃん!」

 

 しっぺが俺の額に直撃し、思わず変な声が出てしまった。

 痛いから、結構マシになってきたとはいえまだ頭痛が酷いから……心中で涙目になりつつ、綺堂さんの方を見るとぷんすこと怒った表情に変わり俺に諭してきた。

 

「女の人にそんな事を言ってはいけません!」

 

「はいぃ、ごめんなさい」

 

「謝るのは~、私にじゃないよね~」

 

 怖い、怖いから……!

 ヒエラルキーというものがあるなら、完全に綺堂さんの下になってしまった瞬間である。

 綺堂さんから眼を逸らして、俺とそっくりな男の方が先に見え何故か羨ましそうに俺達を見ている……気がする?

 怒られるの好きなのかな?

 いや、こんな事考えてると知られたらもっと怒られてしまう……!

 

 

「別に良いわよ、そんな事。それで? アンタ達は何者で、何が目的なの?」

 

 

 女の人にどうやって謝ろうか考えていた俺の耳に凜とした声が響く。

 疲労の混じった声以上に……その瞳は、明確に警戒の色を主張していた。

 よく見ると綺堂さんとタイプこそ違えど凄く美人――ではあるが、同時に何かしらの危うさを感じさせた。

 おかげで、色々あって頭から吹っ飛んでいた今の状況を思い出す事ができた。

 

「失礼しました。川瀬進矢……らしいです」

 

「綺堂渚っていいます~、渚って呼んでください~」

 

「矢幡麗佳、よ」

 

 女性――矢幡さんは綺堂さんのほんわかとした雰囲気にも負けず、そっけなく返した。

 ふーむ、今の状況が恐らく殺人前提のゲームに巻き込まれているという事をしっかりと理解しているということか……いや、それ以上の何かがあったのだろうか?

 よく見れば、矢幡さんの靴に血が付着しているが……彼女自身が怪我をしているという訳でもなさそうだ。

 

「麗佳さん、助けて貰ったんですから……もう少し感謝した方が――あ、すいません。御剣総一と言います」

 

「甘いわよ、御剣――もう、このゲームは始まってるの、下手に出たら良いように利用されるのがオチよ」

 

 男性――御剣さんの言葉を切り捨てた矢幡さんは俺が地面に置いていた角材を拾い上げ立ち上がり、一切の容赦の無い目線で俺達を見下ろすのであった。

 

 俺は自分が人間不信かもしれないと思っていたが、もっと人間不信であるべきだったのかも……少し哀しくなりながら、見下ろす矢幡さんを見つめ返した。

 

「もうちょっと、平和的に話せませんか?」

 

「それは……貴方達次第でしょうね」

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