秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind- 作:流火
綺堂渚:7:4.2:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
矢幡麗佳:?:6.4:???
御剣総一:?:5.2:???
???:?:?:???
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人生における最大の悲劇は、幼子の死だ。それは全てを変えてしまう。
ドワイト・アイゼンハワー (第34代米大統領)
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「川瀬……麗佳さんの件なんだが、俺に任せてはくれないか?」
「別に構いませんが……大丈夫ですか?」
真剣な表情をした御剣さんは俺にそのような提案をする。
先程、矢幡さんの圧に負けた時とは比較にならない真剣な表情である印象を受ける。
あくまで彼女がゲームに積極的である事を止めたいようだ。
俺には無理そうだから、御剣さんに別のアプローチを試して貰った方が良いのかもしれない。
「難しいのは分かっているが、彼女を一人にはしておけないだろう?」
「……それもそうですね」
「もし、二手に分かれざるを得ない時が来たら……お前は渚さんの方に着いていてやってくれないか?」
「綺堂さんが拒否しなければ元よりそうするつもりでしたが……むしろ、御剣さんが矢幡さんについて行ってくれるなら助かります」
「何だ、そうだったのか……良かった」
御剣さんが息を吐く。
俺が矢幡さんと話している間に綺堂さんと何かあったんだろうか?
……疑わしい部分は多いが、同行する人間を一人だけ選べと言われれば綺堂さん一択だ。
記憶喪失後のフォローに関しては置いといても、落とし穴に落ちかけた時に守ってくれたり、解除条件を庇ってくれた恩がある。
その分、彼女に何か返してやりたい。
だが、それは俺の事情な訳で……
「意外ですね、綺堂さんは御剣さんと同行したいと願い出るかと思いました」
「そんな事はないぞ。川瀬、渚さんはお前の事を心配していた」
「俺を? 記憶に関しては彼女に助けられてますから、気にしてません。あんまり気に病まれると、逆に恐縮ですね」
「そういう事じゃなくて……あー、くそっ。単刀直入に聞くが、渚さんの事をどう思ってる?」
「本当に単刀直入ですね!?」
……うーん、つい先程麗佳さんに色々と疑っているという事を相談した手前、質問に窮する。
窮するのだが、御剣さんは思いのほか真剣だ。
質問の意図は何だろう?
御剣さんも綺堂さんの事を疑っている?
……何か違う気がする。
とはいえ、俺の中で綺堂渚像がハッキリしないから疑っている訳で……結構難しい質問である。
だから、簡潔且つ誠実に答えるとするのであれば……
「正直に言って、彼女の事が良く分からないというのが本音ですね」
「……うぐ、アイツの気持ちが今になって分かってきた」
「……? どうしました?」
「いや、なんでもない」
頭を抱えて何やら呟いていた御剣さんに何を言ったのか確認しようとしたが、はぐらかされてしまった。
……うーん、御剣さんが恐らく俺の知らない何かを知っているという事までしか分からないな。
「そこは二人の関係だ……俺が言うのも違うか」
思考を巡らせている間に、御剣さんは言葉を零し、意を決した表情で俺の両肩を掴んだ。
「2つだけ言っておく、一つ目だが……俺は今でもお前が誰かを傷付けたり殺すのは反対だ。反対だが、”俺”は止めない。それでも、渚さんを悲しませるような事は止めてくれ」
「……分かりました。一人で早まった行動はしません。そちらこそ、矢幡さんと喧嘩しないでくださいよ」
おそらくだが、誰と誰のペアを組んだとしても問題は発生する。
組むならどこかで妥協が必要だ。
想像もできないような事態に一緒に対処する必要があるだろう。
果たして信頼関係を築けるだろうか……不安は多い。
「確かに矢幡さんと行動するのは大変そうだな……一応、解除条件も明かしておく」
「【J】ですか、麗佳さんをパートナーにするって事ですね」
「そうするつもりだ。できれば信じてくれれば、良いんだけどな」
俺の言葉に御剣さんは苦笑する。
【J】:「ゲーム」の開始から24時間以上行動を共にした人間が2日と23時間時点で生存している。
すなわち、御剣さんによる矢幡さんをゲームから生きて帰す事の宣言に他ならない。
矢幡さんなら【JOKER】や、ゲーム終了直前の賞金の分配の危惧をするかもしれないが……。
「さて、お前に伝える事の二つ目だ。俺は矢幡さんを守る。お前は渚さんを守れ……絶対に、守り切れ」
「勿論その意志はありますが……二人共強い女性ですから、そこまでする必要ないのでは?」
「それは、弱気な事を悟られないように気丈にふるまってるだけだ。それに、二人が強い女性なのは俺も知っているが……どんなに強い人間でも死ぬときは一瞬だ」
「……ここはそういう場所ですからね」
御剣さんの真剣な言葉に同意する。
鉄の棒が振り下ろされる罠もあるし、落とし穴もあった。
どっちも一歩間違えれば死に至る罠であったことは間違いない、回避できたのは運が良かっただけだ。
もし、どちらかが死んでいたら今どうなっていただろう?
俺は覚悟を決めるために少女の死に様を見に行こうとしているのかもしれなかった。
「あー、川瀬……言うべきか迷ったが言っておく。お前にとって……渚さんは、時に鬱陶しかったり耳に痛い事を言ってくるかもしれないが。それは全部お前の事を想って言ってくれていることなんだ。そういう事を言ってくれる人は大切にしろ……居なくなってから後悔しても遅いんだ」
「……分かりました。肝に銘じておきます」
……御剣さんの言葉を聞いていて一つ分かった事がある。
少なくとも、彼の今の言葉は真実だ。
誰か大切な人を失った経験があるのかもしれない。
彼の後悔を、俺にさせまいと思っているんだろう。
印象論だが、御剣さんは一旦信頼する事にする。
となると、後は綺堂さんについてか……まず、綺堂さんが気丈に振舞っている行為を俺が偽ってると誤認してしまった可能性は否定できない。あるいは記憶を失う前に彼女とそれなりに親しかったか……。
しかし、疑いすぎて彼女を危険に晒すのは本末転倒だ。
気を引き締めて、生き残る為の情報を集めていこう。
「いない……? なんでだろう? ここで待っててくれる筈だったのに」
「そういうものよ。誰だって、自分の命は惜しいわ。そう言った筈よ?」
御剣さんとの会話もそこそこにエントランスに到着した。
しかし、そこには誰もいない。
……御剣さんの話では、郷田という中年女性に戻ってくるように約束したらしい。
とはいえ、1時間半近く時間経過しているからな……確かにゲームの性質と時間アドバンテージを考慮すると離れるか?
あるいは、もう一つの可能性がある。
「綺堂さん、確か救急箱の中に使い捨てのプラスチック手袋が入ってましたよね? 頂けますか?」
「う、うん……でも、何に使うの~?」
「御遺体の検分です」
「か、川瀬……お前本気か?」
周囲に人がいない事を確認して、血が飛び散っている場所の中心部分……すなわち少女の死体がある場所に目線を移す。
身体に風穴が幾つも開いており、血が部屋一帯に飛び散っていた。
PDAにはこう記されている。
『スマートガン自動攻撃システム:ルール違反者や首輪の解除に失敗した人間を殺す為に全域に配置された攻撃システムの1つ。首輪が作動した状態で、システムの感知エリア内に侵入すると、識別信号とサーモグラフィに誘導されて4基の銃が目標を攻撃する。サーモグラフィの温度が低下するか、識別信号が止むまで攻撃は続く。』
恐怖に見開いた少女と目が合い……身震いもするが、残念ながら俺達はそうならないために少女を教訓とせねばならない。
まだ小学生位だろうか?
このような子供にこんな残虐な行為をするとは痛ましい……恐怖もあるが、義憤もある。
何よりも脳味噌が疼くのだ。
真実を明らかにせよ――と。
「PDAは無かったわ、この様子じゃ首輪も壊れている。まだほかに調べる必要があるの?」
「えぇ、この子を殺した犯人を見つけないといけません。ルール通りここに居るのが13人であれば、容疑者は当時の目撃者6人と、俺達2人を外した4名……その全員を少女殺人犯と想定して行動するのは難しいです。何か絞り込む要素が欲しいです」
「無茶よ! こんなに銃で撃たれて身体がボロボロになってるのよ? 痕跡なんて見つかりっこ無いわ」
「そうかもしれませんが……そう決めつけるのは早いですよ」
――パシャ、パシャ
と携帯電話を取りだし、少女を撮影する。
現場を荒らす以上は写真を撮って保存する必要がある。
あとはなんだ…………? えーと、ご遺体には敬意を持つんだったか。
手を合わせて冥福を――祈るんだったか。
濁流のように知識が浮かんできて、高揚感のまま言葉を続ける。
「まず、飛び散った血の殆どは乾いてますが、少女の周りの血溜まりは乾ききっていない。血が乾くのは約1時間だが、溜まってれば延びる。1時間半弱前に殺されたのは確かだと判断だとできます。次に、流れている血の量が多い……これが示す事は――少女は生きながらにして銃撃されたということです」
「そんな、ひどすぎるだろ……」
「お前、医者でも目指してたの?」
「あ、進矢君。記憶を失う前はそんな感じだったよ~!」
後ろで気になるワードが出てきたが、まずは少女の事が最優先だ。
軽く祈った後で、血溜まりを避けるように歩きまずは近くにある鞄を漁る。
何時までも少女と呼称するのも忍びない。
分かる事から1つずつ拾っていこう。
――おっと、目を閉じさせてやるのも忘れずにだな
「被害者の名前は『色条優希』……小学生。銃創の他の外傷は……頭を殴られてるな。戦闘禁止エリア解除と同時に裏切られて、殺された。小学生なら為す術もないな」
「それなら、実行者は少なくとも【3】と【4】じゃないわね。ルールを確認するにせよ、もっとスマートなやり方がある筈」
「解除条件だけで判断するなら……【8】【9】【10】【K】濃厚ってところですね」
「……総一君、大丈夫~?」
「あ、はい……大丈夫です。知人の名前と一緒で……」
矢幡さんと話しながら、1つの仮説が浮かぶ。
人の心が無ければ最適な手段がある。
矢幡さんの言う解除条件全てで可能な最適解が。
だとすれば、辻褄が合う……!
「……そうかっ! 犯人は、ペナルティで被害者を殺させ……その音で、他のプレイヤーをおびき寄せるつもりだったのか! そして死体を見て動揺してるプレイヤーに横殴り――それだけじゃない!」
気付いてしまった真実に、警告と頭痛が頭の中に鳴り響く。
まずいまずいまずい、頭の中に一気に焦燥感が駆け巡る。
立ち上がり喋りながら、急いで周囲を見渡す。
「死体に釘付けになってるプレイヤーを狙――矢幡さん!」
「……えっ?」
「危ないっ!」
――ヒュン
と風切り音がする。
スローモーションのように鉄パイプが振り下ろされ、矢幡さんの頭に直撃――する筈だった。
「きゃ……っ!?」
すぐ近くにいた、御剣さんに強引に引っ張られなければ。
有限実行、彼は俺に言った通り矢幡さんのすぐ近くにいて、彼女の命を救ったのだった。
――ドン!
地面に鉄パイプが叩きつけられる音がする。
命の代償として、二人は覆い被さるように地面に転がり、矢幡さんの持っていた角材は遠くに放り出された。
……下手人であるアウトロー風の金髪男性と目が、合う。
「面白い事を言ってるねぇ、是非とも俺を混ぜてくれよ?」
その皮肉げな笑みに、身震いするが……目は逸らさない。
二人が倒れている以上、今対抗できるのは俺と綺堂さんのみ……まんまと引っかかってしまったが、俺が戦うしかないのだ。
「何か言えよ。だんまりじゃ、何も分からねぇぜ………!」
……が、流石に武器がない。
一応、他の3人に攻撃がいかないように綺堂さんに目配せしながら牽制で男に近づこうとするが、それに応じてか、男は二人を飛び越え俺に距離をつめながら鉄パイプを振るう。
横薙ぎの鉄パイプを辛うじて射程から離れる事で回避する。
重量からか大ぶりではある。冷静に集中して回避に専念すれば、問題はなさそうだ。
「進矢君! 受け取って!」
「ありがとうございます!」
時間を稼いだところで、綺堂さんが落ちていた角材を回収して俺に投げる。
ありがたい……!
目配せで綺堂さんが角材にこっそりと移動していた事を確認したので、上手く事を運ぶことができた。
ゴム手袋をつけた手で角材を上手くキャッチしながら、やはり彼女は頼りになる事を再認識する。
「形勢逆転! 女の子の殺人犯である貴方を拘束します!」
「チッ……! 深入りし過ぎたか……! だが、その女を殺したのは俺じゃないぜ?」
「踵の後ろに血がついてますよ?」
「な、マジかっ!?」
「はい、隙あり」
嘘だ。
だが、ほんの一瞬だけ彼の意識は自分の踵にいってしまう。
その一瞬で十分だった。
決定的な一撃こそは与えられないものの角材でラッシュをかけ、彼の余裕を奪う。
俺が剣道をやっていたというのは本当だったらしく、重量に違和感こそはあるものの正確に振る事ができる。
そして、部屋の隅に追い込む。
これで逃げ場はない。
それでも、男はその楽しそうな笑みを絶やすことなく……不気味だった。
「クク……ハハハッ、やるじゃねえか小僧。俺は手塚義光……お前、名は?」
「自己紹介とは余裕ですね、川瀬進矢です」
言葉を返しつつも油断はしない。
ちょっとでも逃げるそぶりを見せれば、決定的な一撃を彼――手塚義光に叩き込まなければならないのだから。
余裕綽々の表情、何かある……!
そろそろ、御剣さん矢幡さんも体勢を整えている。
何も問題はないはずなのだが。
「川瀬進矢……か。中々、面白い奴だ。どうだ? そんなやつら切って俺と組まねぇか?」
「何を世迷い言…………を!?」
後ろから駆け出す音、何が起きた? と後ろに意識が向かってしまう。
「――ちょ、麗佳さん!?」
「進矢君! 危ない!」
御剣さんと綺堂さん、二人の声を脳で処理する余裕はない。
「隙、あり――だ!」
「ぐっ……がはっ!」
意趣返しだと言わんばかりに、大きく鉄パイプが振るわれ辛うじて回避する。
回避した直後、俺の腹部に手塚の回し蹴りが直撃し……角材を手放す事はなくとも、大きく後退した。
素早く移動すると、右ポケットの中に入れている小銭の音が煩わしい。
……状況を確認、矢幡さんが逃げたようだ。
このタイミングか……信頼されてないのは分かっては居たが、割とショックだ。
蹴りは上手く急所に入ってしまったようで、正直痛い。
右手を右ポケットの中に入れる。
油断したつもりはないが……ここで勝つのはしんどいと判断する。
――正攻法では
「ここは俺がなんとかします! 二人共……逃げてください!」
「進矢君を見捨てられないよ~!」
「そうだ! できるわけないだろ!」
「御剣さん……【約束】しましたよね?」
「……くっ! そうだったな……! 分かったよ! 死ぬんじゃないぞ川瀬!」
後ろから駆け出す音が聞こえる。
一旦、これで問題ないだろう。
矢幡さんの事も……そして、俺も。
「心配すんな、死ぬんならお友達も一緒さ」
「……残念だが、俺一人の命で我慢して貰おうか」
右手で腹を押さえながら、絞り出すように手塚に答える。
……敗戦濃色のフリだ。
「俺もリスクは踏みたくない……だが、お前は此処で確実に殺しとかないとな?」
「恐縮です!」
角材と鉄パイプ……2つが交差する直前に、右手の小銭を手塚の顔面目掛けて放り投げた。
「……なっ!? 小賢しいっ!」
(記憶を失う前の俺が、右ポケットに小銭入れてたのってこの為だったんだなぁ……)
作戦の成功を見ながら、しみじみとそう思う。