秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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川瀬進矢:A:8.8:Qの殺害
綺堂渚:7:4.1:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
矢幡麗佳:Q:5.9:2日と23時間の生存
御剣総一:J:6.2:24時間行動を共にしたプレイヤーが生存
手塚義光:?:5.1:???
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第八話 純粋という危うさ

 

 

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真に邪悪なものは純心から始まる。

アーネスト・ヘミングウェイ (米国の作家)

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 葉月克己――50代前半。

 彼の一人娘は独り立ち、人生における大仕事を一片付けしたところで、長年連れ添ってきた妻とどのような老後を過ごそうか……と考えている初老に差し掛かった普通のサラリーマンだった。

 生きている中で大きなトラブルに遭遇した記憶なんて数える程だ、それも多くの人が体験するようなイベントしかない。

 

 だから、このゲームに誘拐された時も最初に遭遇した中学生の長沢勇治に「このゲームは本物だよ!」と主張されても、中々信じる事はできなかった。

 しかし、据え付けの機関銃で撃たれ続け、痙攣しながら血を流し続ける少女を見た時に彼の世界は木っ端微塵に破壊される。

 

 今、この建物では葉月の中の常識は完全に通用しない。

 長沢勇治、御剣総一、郷田真弓、矢幡麗佳、漆山権造……同行していた全員がそれを思い知った事だろう。

 急に現れた下手人と思われる金髪の男から逃げだし、集まったメンバーは散り散りとなりつつある中、彼の選択は――

 

 

「……よしっ! ここまでくればあの金髪野郎も追いかけてこないかな」

 

「ハァハァ……長沢君。大丈夫……かい?」

 

「まっ、葉月のおっさんよりはね」

 

 

 まだ、子供である長沢と行動を共にする事であった。

 命の危うい状況にあっても――否、このような非常事態だからこそ、彼は子供を優先したのである。

 極論、自我同一性の危機にあっても、試されるのはこれまで積み上げてきた事――すなわち、自分が変わるわけではないのだ。

 

「でも、葉月のおっさんも勘が良いよ。僕――いや、俺についてくれば一緒に勝たせてあげるよ」

 

「はははは……やっぱり、長沢君は頼りになるな、ふぅ~」

 

 それを強がりと解釈して、葉月は息を落ち着ける。

 男たるもの、背伸びは必要だろう……自分も見習わなければと改めて葉月は己の心を叱咤した。

 

「もう、6時間経っちゃったし……流石のおじさんも、このゲームが本物だって事は分かってだろ?」

 

「あ、あぁ……あんなものを見せられた、からね。あんな……酷い……」

 

「しっかりしようぜ、おじさん! 首輪を解除しないと、俺達があぁなっちまうんだ! ということで……解除条件を教えて欲しいんだけど」

 

「そ、そうだね……すべてが真実ということなら、そういう事になる、んだね……」

 

 葉月は深く考えて居なかったが、おそらくは女の子が殺されたのもその解除条件の兼ね合いだろうというのはそんな葉月でもわかる事だ。

 危険な解除条件の持ち主が、自分が生き残る為にそのような凶行に及んだということになる。

 同じような目に逢わないために首輪を――という事だ。

 葉月は改めて自分の解除条件を確認する。

 

「えーと、僕の解除条件は【2】番、ジョーカーの破壊が――」

 

「パァン、はい葉月のおじさん死んだー!」

 

「え、えぇ!?」

 

「そう簡単に自分の解除条件を明かすなって麗佳が言わなかった? そんなんじゃ、悪い奴に体よく利用されちゃうよ? ……ってか、当たりじゃん」

 

 自分の解除条件を読み上げた葉月に対して、長沢は悪戯っぽく右手で銃の形を作り笑いながら答える。

 だが、6人で集まった時……確かにそのような話になったのだ。

 少女の死によって、色々と頭から飛んでいたが警戒するに越した事はない。

 尤も、葉月は別に長沢の事を疑っていなかったのだが。

 

「そうか、そうだったね……これから会う人も、疑っていかないといけないのか」

 

「……そうそう! 葉月のおじさんも腹芸とか覚えておいた方が良いよ? 僕……いや、俺なんて、絶対、おじさんは危険な条件じゃないと分かってたしね。俺だったら、どんな外れ条件でも平常心保ってるもんね!」

 

「そ、そうか……長沢君と一緒だと心強いよ。それで、長沢君の条件は何なんだい?」

 

「一方的に情報抜かれた可能性あるんだから、気を付けろよな? 僕、いや――俺のは俺に相応しいカード、つまり、『キング』だよ!」

 

 どどんと擬音が鳴りそうな満面の笑みで、長沢は【K】のPDAを掲げる。

 【2】のPDAの近くにあるので、それは【JOKER】ではない事は確実だ。

 

――こうしてみれば、本当に只の中学生なんだけどなぁ

 

 葉月は苦笑しながらも、長沢が安全な条件である事に心中で安堵する。

 それと同時に一つの疑問も産まれてくるのだ。

 

「あれ? それなら、6人で集まった時に解除できたんじゃ……?」

 

「いや、無理だね――誰が腹の内で何を考えてるか、分かったもんじゃないよ。大丈夫なのは、御剣のお兄ちゃん位かな? エロの親父も別の意味で裏はないかもしれないけど……」

 

 

「無理って、どういう意味だい?」

 

「……しっかりしろよな、おじさん。【JOKER】だよ【JOKER】、【JOKER】の持ち主が俺に、自分のPDAと偽って【JOKER】を渡して来たらルール違反――あの女の子と同じ運命だったんだぜ?」

 

「……!? まさか、そんな事が……」

 

「無い、とは言い切れないだろ?」

 

 葉月は、頭を殴られたような衝撃を受ける。

 得意げに言う長沢だが、同時に彼の表情には険しさもある。

 危険な人物がいるかもしれない。

 人を信じるな……と、葉月も頭では分かっているのだが、具体的な裏切りまでは想像できていなかったのだ。

 

「と、なると……すまなかったね。僕が【2】番である事を教えていれば、あの場で長沢君の首輪は安全に解除できたかもしれないのに……」

 

「あぁ、それは良いよ別に。あの麗佳が、PDAを預けてくれるなんて思えないし、何より――」

 

 ここで長沢は言葉を区切る。

 葉月も少し分かってきた、これは得意げに爆弾発言をしようとしている溜めだと。

 

「――そんな序盤に、ゲームをクリアしちゃったらつまらないじゃない! このゲームはこれから始まるって言うのにさ」

 

「な、長沢君……」

 

 これが今時の子供なのだろうか?

 葉月にとって遠い過去の話……葉月の中学時代~高校時代に思いを馳せればそういうクラスメイトに身に覚えが全くないわけでもないのだが。

 

 葉月は誘拐された当初、この事態の重大性を深く認識できなかった。

 それを何度も窘めてきたのが、外ならぬ長沢勇治なのだ。

 だが、その長沢もまた――この事態の重大性を本当の意味で深く認識できていないのかもしれない。

 

「っと、話過ぎちゃったな。まずは武器を探そうぜ、次にあの金髪野郎に会っても良いように」

 

「……そう、だな」

 

 苦悩する葉月の傍らで、何ともないように長沢は部屋を探し始める。

 葉月にできる事は、長沢を守りつつできる限り長沢が道を踏み外さないようにするしかなかった。

 そして、同時に――その使命感が葉月の正気を守っていた。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着くんだ、川瀬進矢……少し頭が冷えたので考えてみよう。

 

 これを考察するのは非常に不本意だが、ズバリ……綺堂さんが俺に好意を持っているか否かを。

 

 恋愛が単純じゃない事は頭では分かっているのだが、単純に考えるなら好意を抱く理由ならある。

 俺の記憶にはないのだが、俺は綺堂さんを罠から庇って記憶喪失に陥っている事が一つ。

 二つ目は、これを好意と言って良いかは分からないが……単純な生存戦略に照らし合わせて考えれば女性としては、男性を誑かして好意的になってもらうのが効率が良いし、安心できる。

 

 ならば、先程の綺堂さんの行動としては、俺を篭絡しないと安心できないので、あのような行動を取らざるを得なかった……と解釈できる。

 逆に好意を否定する場合は、綺堂さんは誰に対してもそういう行動を取るだけで、俺は特別ではないというパターンも考えられる。

 そう……頭では分かっているのだ。頭では。

 

――身体は正直というか、俺の心臓の裏切り者ー--!!!

 

 しかし、高まっている鼓動だけはどうしようもなかった。

 記憶を失う前の俺は、よほど女性に免疫が無かったのか……友達が少なかったのか。

 今からでも、御剣さんとパートナーを入れ替えたいのだがさすがに無理か。

 等と現実逃避に走ってしまう。

 

 

 そして、もう一つ合理的に考えるなら――

 

(綺堂さんと一緒に日常に帰るために【Q】を殺す、という感情に身を委ねるのが生きて帰れる公算が一番高いのでは?)

 

 この考えが思い浮かんだ時、自然と身体の芯が冷たくなり身震いする。

 なんとも、甘美で魅惑的で身勝手な想像だろうか?

 ともすれば、この誘惑は殺人への忌避感を上回りそうな気持ちだ。

 

 そういえば、綺堂さんと一度も【Q】を殺す事の是非を相談していない。

 だが、それはできない。

 綺堂さんに【Q】を殺してでも、生きてほしいと懇願でもされてしまえば俺は耐えられないしれない。

 ……自分の事が完全に分からなくなってきた。

 

 もう少し、今殺し合いの場にいることを理解しなければならない。

 逆に命の危機にあるからこそ、命の危機による緊張感を恋からくる物と勘違いする『吊り橋効果』に陥っているのかもしれないが。

 

 ――よし、決めた。

 さっさと綺堂さんの解除条件を達成して、進入禁止エリアに行ってもらうべき!

 そうすれば、後方の憂いはなくなるはずだ!

 

 強引に自分を納得させ、少し遠く離れた綺堂さんに話しかける事にする。

 

「綺堂さんの解除条件の事を考えれば、1階から2階の階段で待ちましょう。今から向かっても、遅いかもしれませんが」

 

「階段~? どういうこと~?」

 

「ほら、地図の階段の部分にバッテンがついてますよね? 多分、そこは通れない場所だと思うんです。そして、何もついてない階段は一ヶ所だけ、そこしか通れないならそこで待っておけば全員に会えるんじゃないでしょうか? ……少なくとも、既に2階に上がった人以外は」

 

「あ~、なるほど~! そういえば、バッテンって書いてるところは瓦礫に埋まってて通れなかったよ~」

 

「記憶失う前に見てたんですね……」

 

「あ、ご……ごめんね~? ちゃんと言わなくて」

 

「いや、そこは良いんですよ」

 

 綺堂さんは申し訳なさそうな表情になるが、全ての情報を伝達するのは土台無理な話だし、そこは大事ではない。俺が綺堂さんの顔を直視できなくなっているからか、慌ててる様子が声から出ているが……別に不機嫌ではない事はできれば理解してほしい。難しいかもだが。

 もう一つ、やるべきことは【Q】を守る事だ。

 これを忘れてはならない……この場合、【Q】を守るとはどういうことか?

 

 

【ルール5】

侵入禁止エリアが存在する。初期では屋外のみ。進入禁止エリアに侵入すると首輪が警告を発し、その警告を無視すると首輪が作動し警備システムに殺される。また、2日目になると侵入禁止エリアが1階から上のフロアに向かって広がり始め、最終的には館の全域が侵入禁止エリアとなる。

 

【『A』の解除条件】

Qを殺すこと

 

 

 この置き書きをこの場に残しておくことだ。

 ルール5を知らないプレイヤーは地図で自分の場所を見つけた後、常識的に考えればエントランスに向かう筈だ。

 なので、できれば色条優希の死で衝撃を受けてゲームがヤバい事を理解して貰い、その後でこのルールを知っておいてほしいものである。ついでに、【A】の解除条件を書いておくことで【Q】に宣戦布告して、警戒を促しておく。

 俺が殺すまで死ぬなよ? って奴だ。

 尚、これを書き写している間、ほとんど綺堂さんの事を考えて居たのは俺だけの秘密である。

 

 

「そういえば、綺堂さん……俺が書置きしてる時、少し離れてましたよね? 何かありました?」

 

「別に大した事じゃないんだけど~、女の子が可哀そうだな~って思って……」

 

 少し沈痛な表情をして、綺堂さんは答える。

 察した俺は、色条優希の遺体があった場所に移動すると……彼女は手を組んだ状況で顔にハンカチをかけられていた。

 成程、綺堂渚という人物はそういう所に気を使える人物らしい……色々邪推してたのは全部間違いだったのでは? と罪悪感がふつふつと俺の中で湧き上がってくる。

 綺堂さんのそういう優しさを俺は――

 

(って、そうじゃないだろー! そういう事考えないのー! 御遺体の前で不謹慎だぞ! 俺!)

 

 強引に思考を打ち消し、悶々とした気持ちを抱える事になった。

 

 

 

 

 

 

「結局、ここまで誰とも会えずじまいでしたね……」

 

「進矢君~、私もうお腹ペコペコだよ~」

 

 そんなこんなで、ゲーム開始から大凡9時間となった今、2階への階段に辿り着いた。

 携帯電話によると、今の時刻は午後6時頃……そろそろお腹がすいてもおかしくない。

 途中で食事休憩をしても良かったが、どうせなら階段前の広間で食べたほうが待ちながら食べれるし効率が良いということで、ここまで歩いてきたのだ。

 ……残念ながら、いくつか部屋を見てきたものの目ぼしい武器等を見つける事は無かったのだが、そこは仕方ない。

 

「そうですね……ちょっと、2階に上がって上の広間に上がったら食事にしましょうか」

 

「賛成~! お姉さん、料理には自信があるんだからね~!」

 

 綺堂さんの手料理……うっ、心が高鳴る……。

 それならいっそ固形ブロックの保存食を食べたほうが良いのでは? と葛藤する俺である。

 いや、嬉しいけど、嬉しいのがその複雑というか……。

 

「そうですね、良い匂いがすれば……他の人も釣られて出てくるかもしれません」

 

「なるほど~! 良い作戦だね~!」

 

 それが本当に良い作戦かは置いといて、綺堂さんは満面の笑みで答えた。

 しばらく一緒に二人きりで行動して、仲間が欲しくなってくるこの頃である。

 前もってドライになると宣言しておいてよかった……ドライになってる風に照れ隠しができる。

 ……どこかで頭を冷やしたい、物理的に。

 

 綺堂さんの事を頭で考えてる余力で警戒しつつ、階段を上がる。

 

「……残念ながら、誰も居ないですね」

 

 だが、一つ分かる事はある。

 このゲームを行っている建物は全体的に埃っぽい。

 だから、移動するとよく調べれば残る足跡等の痕跡がある。

 勿論、埃が無い箇所もあり、追跡や個人の判別ができる程の精度はないが多くの人が通ったかどうかは分かる。

 そこから判断するに、既に少なくない人間は二階に上がっているということだ。

 

 ……解除条件【7】の事を考えれば、割と手遅れだった。

 罠の警戒で移動が遅くなったのもあるが、悔いが残る結果である。

 

 心中で色々考えこんでいると、隣で綺堂さんが声を発した。

 

「進矢君! 聞こえた!?」

 

「……? どうしました?」

 

「悲鳴だよ! 悲鳴~! 女の人の悲鳴が聞こえた~!

 

 と言うが早いが、綺堂さんは駆け出して行った。

 ……考え事をしていて、聞き逃してしまったらしい。

 武器を持たずに駆け出したのは、俺が絶対についてくるという信頼故だろうか?

 そんな彼女を慌てて追いかける。

 

「俺が聞こえなかったということは、結構遠いですね……場所は分かりますか?」

 

「う、うん! こっちだよ~!」

 

 綺堂さんの真剣な表情を見て、俺もスイッチを切り替え、角材を握りしめる。

 行く先に危険人物がいようとも【7】を考えれば行かざるをえないし、【Q】は守らないといけない。

 助けに行くのは合理的な判断である。

 

「了解! 場所の指示をお願いします!」

 

 こうして、俺達二人は次の死地へと躊躇わずに駆け出した。

 疲れていると思っていたが、目的が生まれてくるとそれを感じさせないのが不思議なところだ。

 

 しばらく走ると、男女の姿が見えてくる。

 太った中年男性が鉄パイプを持って、倒れている妙齢の女性を襲おうとしている……その姿が。

 スピードを速め、躊躇なく俺は二人の間に滑り込んだ。

 

「これ以上の狼藉は辞めてもらいましょうか? 漆山権造、さん?」

 

「あ、貴方は……?」

 

「なっ、また貴様か!? 御剣総一!!」

 

 ……ゴメン、その人はよく似た別人。

 

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