秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind- 作:流火
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希望は最悪の災いだ。苦しみを長引かせるのだから。
フリードリヒ・ニーチェ(ドイツの哲学者、古典文献学者、思想家)
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「うおー! すげー、階段が瓦礫ばっかりだ。完全に通れないよ」
「地図にバツ印が書いてあったから、通れないんだろうなとは思ってたけど、ここ通るには重機とか要りそうだな」
長沢と二人で人捜し優先のダンジョン探索を始めて1時間程、未だに誰とも会えない状態が続いていた。人捜しがてら、ついでに行ってる物資捜索では治療用の救急箱と更に二人で一日分の食料を手に入れる事に成功している。
尚、流石に重くなってきたので鞄の中の参考書と教科書はその場に置き去りになった。日常を切り捨てて、非日常を受け入れているような複雑な気分だ。……また買えば良いんだろうけど。尚、愛読のミステリー小説はまだ鞄の中に入ってたりするので、優先順位はお察しである。
「地図上では、バツ印が書かれた階段が4個。バツ印が書かれてない階段が1個。1階から2階への階段は、3階への移動には使えずに1つの階段で1階層上がる事ができるのみ……と」
「ふーん……どこにも書かれてないけど、それくらい自分で考えろって事か」
「主催者は自分で考えさせる主義っぽい……と言えば聞こえは良いけど。考えない奴は容赦無く脱落させてきそうだな」
二人で状況を確認するように口に出す。
情報の1つ2つの違い、また書かれている事から何を読み取るか……考える事が多くて、少しパンクしてきそうだ。こういう時は、考える事を絞って1つずつ整理しないと……と思っていると長沢が思いついたように口を開く。
「それにしてもさ、川瀬のお兄ちゃん。殺し合いのゲームにしては、全然良い武器手に入らないじゃん。それで考えたんだけど、もしかして上の階に行けば行く程良い武器が手に入るんじゃないか? RPGじゃありがちじゃん、奥に行くほど良いアイテムが手に入るって」
「あー、なるほど。確かにそこは違和感だった。角材で人を殺せって言われたら、ちょっと物理的な意味で難しいし、鈍器で何度も殴るのもハードルが高すぎる……ただ、もしそうなると、結構怖い想像しちゃうな」
少しずつ武器が凶悪化していく、つまり――徐々に殺し合いを激化させていく為のシステムとなる。それは後半になっていけば行くほど、相互に話し合い説得するのが困難になっていくんじゃないか? という疑問に繋がっていく。
「つまりこういうことか――」
「だからさお兄ちゃん――」
長沢と俺は同時に口を開き、自分の考えを述べた。
「1Fの内に可能な限り多くの参加者に会うべきだ」
「早く上の階に行って、優位を取るべきだよ」
……………沈黙。
意見が割れたー!?
いや、言いたい事は分かるけどね。
「どうしてさ、川瀬お兄ちゃん! 僕――いや、俺の考えが正しかったら、それに気付いた他のプレイヤーも上の階を目指し始める。それに、人捜し優先でもまず2Fに行って武器を確保して、1Fに戻るでも良い訳だし」
「いや、長沢の意見は正しいと思うよ? その仮説が正しいかどうか、検証もしたいし。優先順位の問題ってだけ。武器を持って説得となると軋轢が生まれそうだし、もっと信頼できる仲間を作るか桜姫先輩と合流できれば、武器捜索組と人探し組に別れていきたいなと思ってる。問題は報連相になるんだけどね……」
リアルタイムで通話機能がある何かとかあればなーとは思っている。尚、余談だが自分の高校は携帯持ち込み禁止なのでまだ携帯を持っていない。情報交換時に圏外だと聞いてはいるが。
しかし、上の階に行けば行く程武器が過激になるのか……うーん、思いつかなかったが、考えれば考える程信憑性は高そうに思える。いや、自分の頭だけで考えても仕方ないか、折角仲間が居るのだし。
あと、長沢拗ねちゃう。
「いや、スマン。もうちょっと考えよう、武器が上階に行けば行く程、過激になってくる仮定が正しいとして考えられる参加者の行動を精査したい」
「う~ん、僕……いや、俺だったら上の階の武器を持って、下の階でバリケード作って階段を封鎖するかな。同じ武器だったら、例えば川瀬のお兄ちゃんや手塚に勝てないと思うしね」
「で、それをされたくないから……さっさと上に行きたい訳ね」
「うん、もし自信満々なプレイヤーが居たら、例えばもう3Fを目指して1F階段を封鎖する奴が居るかも知れないし」
長沢の言葉に少し考え込む。
全力疾走すれば、開始から6時間まで出来そうではある。ここまで、初手で全力投球できる人間が居たら、逆に尊敬の念が湧くだろう。
もし、階段が封鎖されていたらどうするか……そう難しい話じゃないか、想定無しだったら焦るかもだけど。
「現段階では、どの程度の武器があるか想像するしかないしな……ただ、完全に封鎖されたとして、確かに武装面では不利になるが悪い事だけじゃない」
「へー、どんなの?」
「一つ目は突破側が人数の有利を確保する。数時間越しの我慢比べになるとすれば、人数が多い方が有利になるということ。二つ目は、下にいる人間同士で団結できる。時間が迫れば、普段協力できない矢幡さんや手塚みたいな人間とも協力できて、そのまま同盟関係を結べるかもしれない……背水の陣だからあまりやりたくないけど」
「そっか、でもあの二人はさっさと上に上がっちゃうと思うけどな~」
「手塚は封鎖する側になりそうだと思うのは偏見だろうか?」
「うーん、どっちもあり得そうだね」
結局のところ、最善の手段というのは無さそうだ。
言ってないが階段を封鎖しても、上から奇襲される危険性はあるわけだし。
1Fにあって現状見つけたのは、壊れた家具・角材・救急箱・食料類。となると2Fはギリギリ合法な武器、木刀とかエアガン・スタンガン系列があるんだろうか。……銃が出てくるとして、どこからだ? 更に6Fはどうなるんだろう? 危険度の上昇のペースが気になる。
そして、長沢の意見を聞いていると俺も別ルートで上の階に行きたくなるところだ――案自体は2つあるんだが……今は良いか。
せめて、長沢が高校生だったら、別れて行動する事を提案していたんだけどな。
などと思考に耽っていたら、長沢がシッと人差し指を自分の口に当てる
「川瀬のお兄ちゃん、誰か居るよ」
「っと、すまん……」
遠くに角材を持った小柄な少女を発見する。
遠目で見た限りは、短く切りそろえた髪に小柄な体型。多分、中学生前後。
ボーイッシュな服を着ており、女子の中では比較的話しやすい印象を受ける。
……思ったより、遭遇する人間の平均年齢低くないか? 何だろう、主催者に青少年の”心の闇”期待されているの? キレる若者として暴力振るって欲しいわけ?
いや、真意は兎に角、まずは接触せねば。
「御嬢さーん! 良いかなー!」
まずは、手に持っている角材を置いてから声を張り上げる。
「ッ!? ……誰!」
「多分同じ境遇だと思うんだけど、この場に誘拐された川瀬進矢という者です。高校二年生」
「僕、いや――俺は長沢勇治。中学二年生」
両手で万歳の格好をし、左手にPDA.右手に何も持ってない事をアピールし、少しずつ近づきながらまずは話し合いをしましょうのポーズを取る。長沢は少し後ろで真似してくれた。相手から見れば若干シュールな光景に見えるかもしれない。
少女の方は警戒を解かずに、キッと睨み付けながら口を開いた。
「あたしは北条かりん――中学三年生」
でも、素直な人間なのだろうか。名乗られたら同程度の情報を返してくれた。
さて、どうしようかな。情報量的には多分、こっちが圧倒してると思うんだけど。
「ちょっと情報交換したいんだけど良いかな、お互い誘拐されて気が立っているのは分かる。正直、俺もこんな首輪を着けられて困惑している。その角材は持ったままでも良いけど、今はルールで指定されてる戦闘禁止時間だから、早まった真似だけは止めてね?」
「あ……そういえば、そう書かれてた。ってことは、13人居るんだろうか……?」
ふんふん、ルール8を持っているっと。
13人という言葉から、もう1つはルール3か4だな。
――悪いな北条さん。人間って汚いんだよ。
「多分そうだとおもうね、あ、俺のPDAナンバーは3。大富豪において、最弱カードであるが革命すれば最強になり、地方ルールによってはジョーカーを倒せるカードだ」
「え……!? い、いや、それだと僕のPDAナンバーの4が微妙みたいじゃないか!?」
PDAを操作し、ナンバーを提示する。
一瞬、後ろの長沢が困惑する声を挙げるも、意図を察したのかPDAナンバーを提示する。
アドリブ対応ありがとう、長沢。
可笑しかったのか、少女はクスリと笑い、自分のPDAを提示した。
「ハハ、あたしのPDAはKだよ。Aや2には負けちゃうけど、強いカードかな?」
あ、今純粋な笑顔を見て心が痛くなった。
と罪悪感を感じつつ、内心ガッツポーズをする。
Kの解除条件は【5台以上のPDAの収集】。JOKER警戒するなら6台必要、だがそれでも楽な部類だ。早期に会いたかったナンバーでもある。
――となると、今取れる方法は1つ。
「あー、北条さん。情報交換の前に1つ言っておかないといけない事があって……」
「え……どうしました?」
「今、俺はとても悪い事をしました! 本当に申し訳ありませんでした!」
悪い事をしたら謝る、道徳授業で学んだ基本を実践した。
「えー……と言うことでですね、悪い大人がいたらこのように騙してくるかもしれない訳なんですよ。いたいけな少女が悪い大人の犠牲になるのは俺も心が痛いので、このように実演する事で注意喚起をですね」
「これは酷いよ、川瀬のお兄ちゃん」
「ま……まぁまぁ、悪気はないのは分かったから」
突然の謝罪に対して訳が分からないといった風な北条に対し、ルールの中に解除条件一覧表があり、番号が分かると解除条件も連鎖的に知られてしまう事を伝えた。また、あくまで解除条件の伏せ合いとなり、無意味な牽制を生まない処置であることを丁寧に説明した。
少々、時間を使ってしまったが、手始めに謝罪したのが功を奏したのか、あまり険悪にならずに済んだ。
「……と、ともあれ、キングは当たりだ。【PDAの5台以上の収集】、俺と長沢……あと3人か。できれば、戦闘禁止の間に解除できればベストだけど、そう上手く行かないかなー」
尚、俺はPDAを2台持っている為、此処で言う3人とはジョーカー警戒してPDA6個以上集めるという意味である。
だが、北条はその言葉に対して、警戒心を取り戻したようで、硬い表情で返してくる。
「いや、どうかな? PDAって、文字通り命綱なんでしょ? 一時的でも預けてくれる人なんて居るんだろうか?」
……警戒心強くない? 正しい警戒心だとは思うけど。
いや、そういう人物なのか、理由があるのか、両方か。
北条かりんにも、何かしら理由があってこのゲームに参加する事になってしまったんだろうし。
「じゃあ、はい。俺のPDAあげる。先ほどのお詫びだと思ってくれ」
「え!?」
「俺の解除条件なんだけど、【3人以上を殺す事】なんだよね。自分の首輪を外すのに役には立たないけど、他の人の首輪が外すのには役に立つだろう?」
ピクリ、と北条の警戒ゲージが上がった音がした。
目を見開いてこちらを見ている。
バッドコミュニケーションだった……尚、絶対どこかで言わないといけない模様。
「俺は”善良”な人間を殺すつもりはないよ、ただ解除条件とは関係無く疑心暗鬼で殺し合いが始まったり、襲いかかってくるような人間まではその限りではない……という事で良い子にしててね?」
「わ、分かった……」
かりんは俺のPDAで解除条件を確認している。
硬い表情はそのままだ、頭の中でちゃんと情報纏まってるかな?
ちゃんと伝わってるか不安になる。
それとも、中学生にして、ギブアンドテイクじゃないと不安になるタイプなんだろうか?
「あー、それと別に100%善意でPDAを貸し出す訳じゃないから安心してくれ。長沢、解除条件を説明して」
「分かった、僕――いや、俺の解除条件は【首輪を3個収集すること】。解除した首輪を貰えるなら、貸し出すよ」
「そっか、そういうことなら……」
「そんなに不安なら俺のPDA叩き壊して良いから……」
「流石にそれはちょっと」
先ほど、自分で命綱って言ってたし流石に壊すの躊躇するのは分かる。自分の解除条件もあるしな。
となると、殺人条件を引いた俺がどうするつもりか心配なのかな?
「俺の首輪に関しては、今は割と情報収集段階でノープランだが、なんとかする。他の解除できる首輪を全部解除した後でな。お前達は、俺の気が変わる前にさっさと首輪を解除して進入禁止エリアと化した下の階層に避難しとけ?」
「おいおい、そりゃないよ川瀬のお兄ちゃん。このゲームは最後までプレイしないと勿体ないって!」
長沢は注意喚起を聞かない。知ってた。
でも、マジで最終日付近になると俺の近くに居て欲しくない。まだ初日だから、死の実感は遠いが。直前になった時の自分を信用できるかと言えば微妙だし。
「……あの、ちょっと良いかな?」
「どうした、北条さん」
「進入禁止エリアって、何?」
…………沈黙。
「「あ」」
俺と長沢が同時に声をあげる。
……ルールを説明するの忘れてた。普通、先にルールを交換するだろうから、解除条件の話を先にしちゃったので……つい……。
その後、近くの部屋に入り今までの状況を簡単に説明しつつ、ルールを全て伝え終わった。
北条さんからは何だろう、最初に会った6人とはまた別の印象を受ける。
何というか、生きるのに必死――悪く言えば、余裕がないのか?
必死にルールを読み込んでいるのを感じる、もうちょっと落ち着いても良いのでは無いだろうか。水飲んで良いよと拾ったペットボトルを渡したりしたが、断られてしまった。仕方ないので、自分で飲んでいる。
長沢は少し離れて、話を聞きながら部屋の外を警戒中だ。
さて、ルールを聞きながら反応を観察していたが、普通は驚くであろう解除条件一覧のルール9を除けば、特に反応を示していたのはルール6【賞金20億の山分け】であるように思える。
わざわざこんなルールがあるわけだし、金が必要な参加者を当然準備しているってことかな。
「あー、ごめん。踏み込んだ話をしちゃって良いのかな」
「……あ、ご、ごめん……! な、何の話?」
「まず、深呼吸をしてくれ」
スーハー、スーハー。
一緒に深呼吸をする。
深刻な事情の悩み相談をやった事が、冷静に考えれば実はない。
……やばい、緊張してきた。
「で、改めて……踏み込んだ話をしちゃって良いのかな?」
「踏み込んだ……話?」
「お金が幾ら必要なのか、何故必要なのか」
「……」
「ごめんね。この点に関しては先にコンセンサス……もとい、合意を取っとかないと後で大変な事になりそうだからさ」
「う……う、ん……妹が、さ」
覚悟を決めたのかぽつりぽつりと、北条はゆっくりと喋っていく。
要約すると、妹が生まれつきの重病にかかっており大金が……具体的には3億8000万円必要。
アメリカの医療費はヤバいとは噂には知っていたが、健康保険外の民間医療費ってやっぱりヤバいんだな……と場違いな事を考える。
両親が居なくて、家族はそんな死にかけの妹だけ……重い……。
両親健在で3兄弟の真ん中な俺としては、小説や物語とそう変わらないレベルの遠い話。
しかし、確実に近くに……現代日本で起こっている話なのだ。
「だからさ、川瀬さん……あたしは絶対にお金が要る。だから――」
「ぜ、全部言わなくて良い。君の言いたい事は分かった。大体分かった……ちょ、ちょっと待って」
強い意志が込められた北条の視線から逃れるように、頭の中でそろばんを弾く。
3億8000万……20億を12人で割ると、1億6666万。二人分で3億3332万……結論は出た。
「長沢! 5000万出せ、それで解決する!」
「はぁ!? いきなり何を言ってるんだよ川瀬のお兄ちゃん!?」
話を聞いていたのか聞いてなかったのか、驚いて長沢は声をあげた。
できるだけ畳みかけるように話しかける。
「5000万引いても、1億以上残るだろ!? 最新式ゲーム一式買っても、1千万も使わないだろう!? 何に使うんだ、課金ゲーに5000万課金チャレンジするの!? 遊園地貸し切りで遊ぶの!? ゲーム会社を会社毎買うのか!?」
「いや、そんな勿体ない事には使わないけどさ……ナチュラルに人の賞金を宛てにしやがった」
「……神様、仏様、長沢様……どうか私めに5000万円を恵んで頂けはしませんでしょうか?」
「ちぇ……仕方ない。5000万な、分かったよ」
「よっしゃあ!」
仕方ないなぁ、という呆れた表情をした長沢を尻目にバンザーイのポーズをしてみせる。
長沢は勢いで押し切ればなんとかなると思った……ではなく、ちょっと児童相談所案件な重苦しい空気に耐えられなかったのだ。
コホン、ちょっとだけ真面目モードに戻ろう。
「ということで、俺の分を合わせれば3億8000万だ」
「……え?」
「気にしないでくれ、流石に女の子に頭を下げさせるのは違うからな。元々あぶく銭なんて、身につかないものだし、金に困った参加者がいたらこうするつもりだった。……こんなに重い事情だったのは、正直予想外だけれども」
ふぅ、3億8000万で良かった。いや、日本人の平均生涯賃金普通に超えてる気がするので、そんな少ない額でもないんだけど、10億越えだったら他の参加者を説得するのに死ぬほど奔走してゲームで死ぬ前に過労死する羽目になっていたに違いない。
一安心一安心と、安堵しようとしたところで、北条が声を張り上げてくる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!? こんな大事な事を簡単に決めちゃって良いの!?」
「ぶっちゃけると、生き残る為に考えないといけない事が多いので、簡単に決めときたいのが本音」
「いやいやいやいや、大金だよ!? 命を狙われる代わりに貰えるお金なんだよ!?」
北条かりんは焦っている、なんだろう……どこかでバッドコミュニケーションをしてしまったのだろうか。
ちょっと、北条さんの側に立って考えてみよう。
ふむふむ、いきなり悩んでた問題が見知らぬポッとでの人間が出てきて解決してくる。話がうますぎる……都合が良すぎる……【これは詐欺だ!】となっている。
俺だったらそう考える――ヤバいじゃん!?
「……コホン、さては疑ってるな。北条さん、それは正しい警戒心だ、大切にしておけ」
「あ、いや……」
口ごもる北条さん。まぁ、何か言って前言撤回されても困るだろうし、どう喋れば良いか分からないんだろう。……俺も、どう喋れば良いか分からない。こういうのは、ここに居ない桜姫先輩の仕事じゃないか!? と愚痴を言いたい気持ちで一杯だ。
何か喋らなければ……メリットもないのに、どうしてお金を渡すかの話だったよな。
「まず、勘違いしないで欲しいんだが、俺は勿論善良な人間ではない。例えばこの地球上では、3秒に一人の割合で人間が死んでいるらしいが、それで心が動いた事はない。発展途上国の紛争のニュースを聞いても、へー……で終わる。北条さんに近い話をするなら、難病の子供に募金した事はない」
「じゃ、じゃあ……どうして?」
「そりゃあ……単純な話で、俺だって助ける手段がある仲間は助ける」
「……え」
「……あ、ごめん。今、勝手に仲間認定してた」
「ぷっ」
人との距離感の測り方が下手ですいません。
い、いや、この殺し合いに巻き込まれた人全員が広義の意味では仲間だし、何も間違ってないから……と心の中で言い訳をしていると、長沢が会話に参加してくる。
「たまに思うけど、川瀬のお兄ちゃんって頭が良いのに……馬鹿だな?」
「う、うるせー! 間を取り持ってくれる人間が居ないのが悪い! 俺は元々、リーダーなんて柄じゃないんだよ! 誰か俺より相応しい人が、北条さんを慰めて格好良く救ってくれよ! 俺は横で、フォローと助言だけやっていたいんだよ!」
「桜姫のお姉ちゃんに同調してたのってそういう……」
「俺1人であれやるの無理だからな!?」
「情けないカミングアウト……女に頼るなんて、ダッセェ!」
「じ、自覚してるから、声を大にして言わないで!? あと、北条! 便乗して笑ってるんじゃねーぞ!?」
「アハハハハハハ!」
場が完全にグダグダになってしまった。畜生、これだから人と話すのは嫌なのだ。
改めて北条を仲間にする為の方策を考えよう。
……こっちが一方的に善意を押しつけている状態が宜しくないんだよな、多分。
3人だから、実質プロジェクトチームの作成である。つまり、チーム目標を決めて、自分達全員が同じ方向を向いているという事を確認して団結する必要があるんだな。
オーケーオーケー、やってやろうじゃないか!
「くそう……では、仲良しコンビから仲良しトリオになるにあたって、俺達のチーム目的を北条に伝えよう。流石に、北条も俺達が何を目的に動いてるか分からない状態で仲間入りも何も無いだろうしな」
「アハハハ……あ、うん」
「なんか、オンラインゲームのギルドみたいになってきたね」
「オンラインは手を出した事が無いんだよな……でだ。チームだけど別にルールとかはない、ここで俺が言いたいのは、単純に一緒に生き延びる為のチームを作るんじゃなくて……それぞれにとって一番大事な事を共有して尊重……協力し合うこと。例えば、北条さんは【妹の為に賞金3億8000万を持って帰り、治療する】事が何よりも大事」
「う、うん! あたしは絶対に……ゲームが本当なら……かれんのために」
「これをチーム全体の目標にする」
「「え!?」」
2人が同時に驚いた声をあげる。
「長沢は何で驚いているのカナー、さてはお前人の心が無いな?」
「……わ、分かってるよ……ただ……。う、上手く言えねー」
人の為に自分の利益にならない事をやるのは、違和感があるとかだろうか?
長沢も、深く話をしようとすると児童相談所案件になる気がするんだよな……。
……あれ? どうして、此処に俺居るの? 場違いじゃない?
い、いや……まずは長沢の話からだな。
「長沢……ゲームの楽しみ方は文字通り色々あるんだ。完膚無きまでにパーフェクトゲームを目指すとか、自分が活躍するとか、悪い奴ぶっ飛ばすとか。今、お前に必要な事は……何をするのが楽しいのか、探してみる事だと思う。【楽しんでゲームをクリア】する。これが俺達の第二の目標」
「……わ、分かったよ、川瀬お兄ちゃん」
「い、命がかかったゲームなのに……楽しむんだ……」
「俺達の楽しいゲームクリアの為に、お前の妹も一緒に笑顔にしてやんよ」
「あ、ありがとう……」
二人共微妙に釈然としていない顔をしているが、現時点と俺の力ではこれが限界かなーと思う。
勿論、楽しむと言っても緊張感は必要だと思うよ? ただ、北条さんに肩の力を抜いて欲しいだけです。長沢の方は、まだ宿題段階だな。
「で、最後! 【このゲームの真実を知ること】、これは俺……川瀬進矢の目標な。正直分からない事ばかりで、謎が沢山あるこのゲームの事を俺は知りたい。俺にとってはこれが一番大事な事で、この目標を達成する為には殺し合ってる場合じゃない。結果的には殺し合いを止める側に立ってるって訳だね」
「このゲーム……の真実……」
「だからさ、北条さん。俺達は基本的にちゃらんぽらんコンビなんだよ、エンジョイ勢という奴で……要するに、子供がお金の事なんて気にしなくて良いってこと」
「……あ……」
釈然とした顔から、ハッとした顔に北条の姿が変わる。
ようやく気付いてくれたか。確かに3億8000万は手が届かない金で一生働いても届かない額ではある。だが、自分で働いて得た金という訳でも無いし、貰えるかも分からない。俺達にとっては、やりたいことのついでに貰えれば良いなーレベルの降って湧いた代物だ。
そう深刻に捉えなくても――
「あたし……その……あたし。絶対にかれんを守らないといけないんだって……誰も助けてくれなくって……ずっと1人で頑張ってきて…! だから、だから……」
あ、あれ……??
……俺は自分の立てた作戦の失敗を悟った。
「あたし……自分でやるしかないと思ってて……殺すしか……っ! ないって……!」
北条かりんは泣きだしてしまった……。
いや、どうして泣きだしたかなんとなく分かるけども!
どうしよう……どうすればいい?
気の利いた言葉……気の利いた言葉……。
「……川瀬のお兄ちゃん、泣かせてやんの」
「そっとしておいてあげる優しさを持つのだ、長沢……」
鞄からタオルだけ取り出して、北条さんに渡しておく。
泣き止むまで待って、追加の情報交換を考えたら6時間までのモラトリアムはほぼ終わりか。
泣いてる北条かりんを見て、ふと思う。
――両親は居ない、家族は妹1人、重病……治療に3億8000万。
俺が考えるのは可哀想……というよりは、残酷だと思う。
治らない死の病というだけなら、ただの不可抗力だ。
だが、3億8000万の希望なんて……そんなもの果たして希望と言えるのだろうか?
こんな希望があるから彼女は、誰も信じられなくなり……このゲームで殺人の最後の一押しをさせてしまったのだ。
――こんな境遇だから、彼女はこのゲームに……いや、違うな。
生まれつきの病……3億8000万。両親不在、そしてこのゲームは【過去何十回も行われている】。
北条かりんの両親は、このゲームで亡くなったんじゃないだろうか? 娘にリベンジさせているのか?
そもそも、病院に主催者の息がかかっていて3億8000万と伝えている?
彼女が人間不信になるように誘導があった?
……分からない、分からない。
証拠も根拠もない、怖い想像でしかない。
今はただ、ここに居るメンバー全員で生き延びることを考えるべきだ。
…………
思ったよりこのゲームって大変だな。
仲間が増える度に責任も増えてる気がしてならない。
全員、年下な所為もあるのだろうが。
他人への感情移入なんて、滅多にしないんだけどな。
でも悪い気はしない。生き残る動機が気付いたら増えているというのも、これが騙し合い上等の殺し合いゲームであると考えれば皮肉な話だが……。