秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

50 / 61
川瀬進矢:A:8.8:Qの殺害
葉月克己:2:6.8:JOKERの破壊
綺堂渚:7:4.1:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
矢幡麗佳:Q:5.9:2日と23時間の生存
御剣総一:J:6.2:24時間行動を共にしたプレイヤーが生存
長沢勇治:K:6.5:PDA5個以上の収集
手塚義光:?:4.8:???
漆山権造:?:9.1:???
郷田真弓:?:3.6:???
???:?:?:???
???:?:?:???
???:?:?:???
???:?:?:???



第九話 ただの酷い茶番

 

――――――――――――

ハンティングはスポーツじゃない。参加していることを片方は知らないのだから。

ポール・ロドリゲス (米国のコメディアン)

――――――――――――

 

 

 

 

「綺堂さん、一応周辺警戒をお願いします!」

 

「う、うん! 分かった~」

 

 ……息を整えながら状況を把握する。

 綺堂さんには念のため、周辺の警戒……これは女性――推定、郷田真弓さんの悲鳴から他のプレイヤーが乱入する事を警戒しての処置だ。

 目の前の漆山権造は顔に汗をビッショリ書きながら、鉄パイプを握りしめている。

 俺と御剣さんは顔はそっくりとは言え、制服をはじめとした服装など細かい部分の違いは多い

 冷静に注視すれば気付けると思うのだが、相対した今でも気づく様子はない。

 ……わざわざ、訂正する必要もないか。

 

「す、すいません……た、助かりました」

 

「……郷田さん、お気になさらず。動けるなら、安全な場所に下がっていてください」

 

「え、えぇ……ありがとう」

 

 後ろの郷田さんに返事をしながらも、視線は漆山権造から一切逸らさない。

 強さだけなら、あの手塚という男と比べれば撃退には問題無さそうに思える。

 ……問題はお互いにどれだけ負傷せずに相手を無力化できるか、だが。

 

 漆山権造は俺達の会話に対して、怒りを震わせるように言う。

 

「こ、小僧……正義の味方気取りか……! 前もそうだったなぁ…! さぞかし、安全な解除条件を引き当てたんだろうよ……!」

 

 あ、この漆山権造って人、隠し事できないタイプだ。

 女性を襲ったのは後でしばくとして、少しだけ親近感が湧いた。

 彼の怒りに嘘は見えない、身勝手かもしれないが真実――すなわち、外れ条件を引き当てたということだ。

 

「まぁ、そうですね。一旦、話し合いませんか? 貴方の解除条件が――」

 

「うるさい! うるさいぃ!!!」

 

 漆山権造の鉄パイプが空を切る音がする。

 怒りに身を任せたその一撃は手塚のそれと比較するとキレがない。

 

――相手を傷つける罪悪感を怒りでカバーしている、といったところか

 

 軽く動いて回避しながら、相手を分析する心の余裕がある程だ。

 乱暴に振り回すそれは、ラッキーヒットがありうるので少し怖いけれども。

 

「――3か9だったとしても、俺には話し合いに応じる用意があります」

 

「そうやって儂を騙すつもりか!? このゲームは本物だ! 話をしてる余裕なんてないんだよ!」

 

 まぁ正論と言えば、正論だ。

 解除条件を達成せずに生きて帰る手段は見つかっていない。

 ないかもしれない、それを探しているのは……今の俺に生きなければならない理由がないからかもしれない。

 

――人を殺すのが怖いので、自分を鼓舞しつつ一人殺して後戻りできなくさせたいといったところだな

 

 ここで正論を吐いても逆上させるだけだな。

 良心に訴えかける方法でいってみよう。

 

「本当にそれで良いと思ってますか? 漆山さん」

 

「し、仕方無いじゃないか! 儂だって……儂だって死にたくないんだ! 生きたいんだよ!」

 

「……えぇ、そうですね。全くです」

 

 正直に言ってしまえば、その言葉が聞きたかった……のかもしれない。

 生きる意志が欠如している今の俺では、解除条件を達成せずに生きて帰る方法を見つける公算は薄い。

 ならばその動機付けはどうするか?

 シンプルに【絶対に死にたくない殺人条件持ち】を仲間に引き入れてしまえばいい。

 

「だから、生き延びる為に協力しましょう」

 

「社会の荒波も知らない糞餓鬼がっ!」

 

 確かに、社会というものは全く記憶にございませんが。

 というボケを入れる暇もなく、大振りの鉄パイプを初めて角材で受け流す。

 漆山権造という人物、非常に浮ついていて半ば恐慌状態に思える。

 

 隙が多すぎるので、遠慮なく突かせてもらうか。

 

「手塚直伝、回し蹴りぃ!」

 

「グっ……畜生! 畜生!」

 

 隙を逃さず見様見真似の一撃を漆山の腹めがけて繰り出す。

 流石に、上手く入らなかったが、形成を逆転させこちらの攻撃のターンだ。

 

 と言っても、更にできた隙に漆山さんの鉄パイプを角材で叩き落すだけなのだが。

 

「謝っては貰いますが、今回の件は水に流しましょう……俺は今、解除条件を満たさない方法でのゲームからの脱出方法を探しています。協力しませんか?」

 

 ――カランカランカラン

 

 力なく床に転がっている鉄パイプを踏みつけながら、俺は極力感情を抑えた声で漆山さんに話しかける。

 油断はしない。

 漆山さんが突然、隠した武器を抜いて突進してきても対応できる。

 あるいは投擲武器でも同様だ。

 体力も精神も少しずつ、詰めていく。

 

「うるさい……うるさいうるさいうるさい! 信じられるわけ、無いだろうがァ!」

 

 ……そんな俺を見て、漆山さんは脱兎のごとく逃げだした。

 それもまた問題ない、追いかけっこには自信はない方だが、見た目から考えて相手が漆山さんなら十全に追い込む事が可能だ。

 

 何も問題ない。

 その時の俺は愚かにもそう判断した。

 油断していないつもりで、皮肉にも――完全に油断していたとも言える。

 

 

 

 

「進矢君、あぶない!!!」

 

「――え?」

 

 

 

 綺堂さんの声がしたと思うと、重量と衝撃を感じ俺の視界は完全に反転した。

 そんな俺のすぐ近くを何か光る物が通りすぎ、壁に激突した。

 金属音が鳴り響く音が聞こえるが……何が起こったのか、理解が追い付かない。

 体の自由を失い、俺の体は床に横たわる。

 

「……あらあら、そっちの女はトロそうだから、先に男を狙ったのに――思ったよりやるじゃない」

 

 ……冷たい声、見下ろす冷たい視線――そして、落ちるナイフの音。

 遅れて、後ろからナイフを投げられたのか……と理解する。

 

 だが、床に二人で折り重なっている状態の俺達にとって、その理解はあまりに……遅すぎた。

 

「でも、それで十分。二人とも、さようなら――」

 

 すぐさま第二のナイフが郷田の手から投射される。

 ……なるほど、人の死というのは呆気ないものか。

 感情が追い付かない……こういう時に記憶が戻ってくるといいのだが、そう上手くはいかず。

 今までのこのゲームの自分の行動が走馬灯のように思い出される。

 

 矢幡さんの事、御剣さんの事、手塚の事、亡くなった少女の事、そして、何より――

 

 スローモーションのように感じる時間の中、一つの意識が明瞭になる。

 そうだ。

 俺が死んだら、次は綺堂さんが死ぬ。

 もう、避けることがかなわないナイフ、ガードも不可。

 それがどうした?

 死を前に理解する。

 

 たかが、ナイフの一撃――耐えてみせろ。

 耐えて目の前の女、郷田真弓を撃退しろ――綺堂渚を守れ!

 最悪大動脈が斬られようと、即死はしない……ならば何も問題ないな!

 

 ――それが、彼女との約束の重さだ。

 

「そんな簡単に……終わって、たまるかぁぁ!」

 

 自らに気合を注入する為に叫ぶ、そして俺の首付近にナイフが吸い込まれていくのを睨みつける。

 目をそらさず、激痛に備える。

 

 だがら――

 

「進矢君は私が守る!」

 

 ドス! 

 ――カランカラン。

 

「――え?」

 

 想像していた光景と全く異なる状況に一瞬だけ思考が硬直する。

 綺堂さんがナイフを鞄で受け止め、叩き落したのだ。

 

「絶対に! 貴方のような人には負けない!」

 

「くっ」

 

 そのまま、綺堂さんは立ち上がり、鞄の中の物を手あたり次第に郷田に投げる。

 中に入っているのは筆記用具とか化粧品とかあとは保存食やペットボトルだ。

 当たっても大怪我はしないだろうが、痛いし注意は逸れる。

 

 いずれにせよ、出鼻は挫けたのだが……。

 

「あらあら、油断しちゃったわね。それじゃあ、また会いましょう?」

 

 そこは敵もさるものというところで、すぐに逃走を開始する。

 こちらも即応で追いかけようと動くが、立ち上がり一瞬足が硬直する。

 

 どっちを追いかければいい?

 

 郷田と漆山はそれぞれ反対方向に動いている。

 俺の地図の記憶が正しければどちらも逃げやすい通路だったはずだ。

 挟撃の危険性も考慮しなければならない。

 

 ……いや、まず最優先は安全か。

 そうだよな……そう、決めたんだもんな。

 

「綺堂さん、ありがとうございました」

 

「進矢君、大丈夫? 怪我はない?」

 

「えぇ、何も問題ありません……綺堂さんのお陰です」

 

「う・そ、だね~? だって、進矢君、目を逸らして言ってるもん~! 何か疚しい事があるんでしょ~」

 

「そ、そそそ、んな事は……ない、ですよ?」

 

 今の俺にとっての一番の難題は、綺堂さんにどうやって顔を合わせて話せばいいかという事だった。

 

 このままじゃ、駄目だ。

 俺は綺堂さんを守りたいと思ってて、守ってるつもりだった。

 だが、実際はどうだ?

 矢幡さんの時も、手塚の時も、そして今回も……綺堂さんが居なければ俺は死んでいた。

 本当に守られている足手まといは俺の方なのだ。

 

 まずそれを理解しなければ――彼女と対等になれない。

 そして、本当の意味で彼女を守る事なんてできはしないだろう。

 

(悔しさをバネに頭をフルスロットルで回転させるか……もしかしなくても、俺の本領って多分こっちだし)

 

 こうして、俺は新しい目的を得た。

 だが、心に一つ引っ掛かるものがある。

 それが何か、今の俺にはまだ分からず――これからの行動に思考の焦点を移した。

 

 

 

 

「絶対、怪我してるでしょ~? ほら、お姉さんに見せなさい~!」

 

「それは、こっちの台詞です! というか、綺堂さんこそ無理しないでください!」

 

「進矢君を放っておける訳ないよ~!」

 

 ――郷田さんの作戦は成功ってところかしら、一緒に仕事をするのは初めてだけど流石はベテランね。

 

 作戦自体は、非常にシンプルなものだ。

 郷田が襲われているところを、進矢に助けさせる。

 郷田が裏切って後ろから攻撃したところ、渚が身を挺して庇い守る。

 ただ、それだけ。

 単純すぎる故に破綻もなく、修正もしやすい。

 

 ナイフ投擲の際に、タイミングを合わせる事だけが緊張したが、そこは渚もベテラン。

 何も問題はなく、進矢に違和感も持たれていない。

 

 そして、どういう思考を辿ったかは分からないが、渚から見るに記憶喪失以前のギラギラとした瞳に戻ったような気がする。

 そして、渚はなぜ自分が川瀬進矢を嫌悪するのか、ようやく自分の中で理解した。

 

 彼の在り方は――高校時代の渚に似ている。

 人に裏切られ、傷つき、倒れ……けど、大切な人のために何度も立ち上がった最初のゲーム。

 そして、その末路は――ー大切な人からの裏切り。

 

 つまるところ、それが今の状況に近い。

 記憶を失った彼は家族への愛情こそは失っているものの、その分渚への比重が重くなっている。

 だから、記憶喪失期間限定で、当時の渚にとっての真奈美に……いま渚がなっているのだ。

 

 ――チェックメイト

 

 懐に入り込めば、後は好きに心理誘導可能だ。

 元々の計画では、川瀬進矢の【正義】をゲームで屈服させ、その心の隙をついて誘導し、彼にとって禁忌となる殺人へと誘導し貶める事が渚個人の目標だった。

 無理なら、ただ単に心を折り、屈服させるのでもいい。

 渚として、【強い】人間が、折れ……本性を見せる様を見れればそれで良いのだ。

 どんなに精神力が強い人間であれ、どんなに知性に優れている人間であれ、どんなに優しい人間であれ……須らく、人は裏切る。

 そのサンプルとして進矢は非常に優れている事に疑いようはない。

 

 記憶喪失と、それ以前に疑われた所為で計画が狂いに狂ったがなんとか修正できたようだ。

 ならば、次の目標は【Q】の殺害への誘導……という事になるのだろう。

 

「それで、進矢君……これから、どうしようか~?」

 

 郷田に投げたものを二人ですべて回収した後、渚は進矢に話しかける。

 相変わらず進矢は顔を合わせてくれないが、そこは問題ない。

 どこかでからかってやろうとは思うが、タイミングはちゃんと見極める必要がある。

 

「――郷田さん、怪しいですね」

 

「……え?」

 

「漆山さんのように、俺を御剣さんと勘違いするか……何かしらの反応を取るのが自然ですよね? だけど、彼女はそれを当然のように受け取っていた節がある。俺たちの知らない情報を持っているのかも……」

 

――ゲームの最初に、疑われてしまったのは私悪くなかったのでは?

 

 渚は自分に非がない事を再認識する。

 郷田がわざとヒントを残したのか、素でミスを犯したのか……渚には判断はつかない。

 強いて言うなら、進矢が鋭さを見せてくれれば見せてくれるほど、渚の失点が減るので歓迎すべきなのだろうか?

 

「た、確かに~! 私達以外だと、総一君と麗佳ちゃん……あと、あの手塚って人しか知らないよね!」

 

「えぇ、なので追いかけましょう! 今は少しでも情報が欲しいです!」

 

 けれども、導き出された答えは行動としては外れだ。

 万全の状態のゲームマスターとかくれんぼや追いかけっこして勝てるプレイヤーは存在しない。さらに運の悪いことに、郷田が逃げた方向にはほかのプレイヤーもいないのだ。

 (渚としては嫌だが)漆山権造を追いかけたり、2階の階段で張ったりする方がまだ成果の目があっただろう。

 だが、渚の立場でそれを口に出せないし、出すことはない。

 

(今は他が盛り上がってるみたいだし、適当に時間を潰しておけばいいか。今は雌伏の時だから、戦闘禁止エリアにさりげなく誘導して仲良しごっこでもしようかなー?)

 

 男の心をつかんで離さないコツ、それは胃袋を支配することである。

 そんな黒い思考を渚が抱いている事に欠片も気づかず、進矢は時間と体力を無駄に浪費することになったのであった。

 

 

 

 

 

 

――――ピロリンピロリンピロリン

 

『あなたが入ろうとしている部屋は戦闘禁止エリアに指定されています。部屋の中での戦闘行為を禁じます。違反者は例外なく処分されます』

 

 郷田を追いかけて小一時間……結局、手掛かりさえ得ることはできなかった俺達は、不幸中の幸いにも戦闘禁止エリアを発見することができた。

 中は一応掃除されており、埃もなく……簡素な部屋である。

 ソファやベッド等の設備から、みすぼらしくはないが豪華でもないといったところか。

 

 しかし、今までの部屋を考えると……天国のようにも思える。

 

 リビング、寝室、調理場、更衣室、風呂場……特に誰かが隠れている様子もなく、以前他のプレイヤーが来た様子もなし。

 特筆すべき点は……

 

「やった~! 沢山食材がある~! お姉さん、張り切っちゃうからね~!」

 

 業務用冷蔵庫の中に、保存食よりマシな食材が沢山あることだ。

 調理器具が揃っており、ガスも通ってるから調理もできる。

 寛ぐのに十全な設備が整っている印象を受けた。

 ……階段で他のプレイヤーを待つつもりだったが、これだとここで食事する流れだな。

 

「いえ、綺堂さんにはお世話になっていますからね。ここは俺が料理しますよ。綺堂さんは休んでてください?」

 

「進矢君、料理作れるの~? 意外だけど、大丈夫?」

 

「はい! レシピ通り料理作れば良いんですよね? 楽勝楽勝」

 

「進矢君、今日はキッチン立ち入り禁止ね~」

 

「……はい」

 

 鞄の中に入っていた格安料理本を堂々と掲げてみたが、綺堂さんからしてみれば完全に初心者向けの本だったらしい。

 落ち込んでいた俺に、『ゲーム終わったら一緒に料理しようね』と綺堂さんは提案してくれたため、約束をすることができた。怪我の功名というやつだ。

 

「じゃあ、私は料理しておくから~。進矢君はお風呂とかに入ったり、寛いでて良いよ~」

 

「流石にそれはないです」

 

 ……さしあたっては、戦闘禁止エリアの探索だろうか?

 色々と計画がずれたので、修正をするために考える時間も必要だ。

 

 偶然、転がり込んできた戦闘禁止エリア……次に、この幸運に巡り合えるか分からない訳だし。戦闘禁止エリアと銘打ってるからには、6階にはそもそも存在しないとかそういう可能性もある。

 ゆっくりできるのは今しかないのかもしれない。

 郷田さんの事、漆山さんの事……首輪の事、そして――。

 

 (そもそも、このゲームが何の為に行われているか……だな)

 

 理由は分からない。

 一つ確かなのは監視されているという事だ。

 そして、監視されているのであれば……何かしらの結果か過程を期待されていると推察できる。

 

 では、何に期待されているのか……今までの誘拐されてきたプレイヤーを紐解けば、見えてくるかもしれない。

 俺、綺堂渚・矢幡麗佳・御剣総一・手塚義光・郷田真弓・漆山権造。そして伝聞だけの葉月克己と長沢勇治。

 

(今の所、思い当たるのは、みんな何かしらの問題を抱えているということだろうか?)

 

 金がない、人を信じられない、大切な人を失った、殺人に躊躇いがない、裏切りに躊躇いがない……大雑把に要素だけ挙げると、こんな感じで。

 ……だったら疑問が出てくる。

 今、一番――俺にとって、大事な人。

 

(だったら、綺堂さんは……どうして、このゲームに参加する事になったんだろう? 綺堂さんの役目は何だ? 何を期待されている?)

 

 知るべきではない、とそう思っていた。

 彼女の本性を知る事を無意識に恐れていた。

 だけど、知りたいと思う。

 何よりも、俺は矢幡さんにこう言った筈なのだ。

 

 『人を疑うのは人を信じるのと同じ位大切な事』である、と。

 

 実践できてないのは俺だ。

 そして、何だかんだでゲームの状況は矢幡さんの言った通りに推移しているように思える。

 今もなお、彼女と協力体制を作れなかったのが痛い。

 

 だが、流石に無理か……あの時の矢幡さんの眼は、俺と襲ってきた時の漆山さんの眼とよく似ていたように思える。

 せめて、御剣さんと上手く――え???

 

『私も1つ教えてあげるわ、実態のない希望を見せるのは……一番残酷な事よ、川瀬進矢』

 

 矢幡さんの言葉がリフレインする。

 聞いた時とは、まったく異なる意味で脳に響く。

 

『私は絶対に生きて帰りたい、その為には何だってするわ! 例え、誰を傷付ける事になってもね! だから、川瀬進矢、貴方は正しい……そう言って欲しかったのよね?』

 

 それは天啓というにはあまりにも惨く、そして俺にとっては遅すぎた。

 膝から崩れ落ちる、矢幡さんの言葉の真意が……いま、ようやく分かったのだ。

 

「……嘘だろ? おい……」

 

 腰から崩れ落ち、茫然と言葉を吐き出す。

 

 矢幡さんのあの言葉は、殺人条件を引きながらゲームに抗おうとした俺へ皮肉った言葉ではない。

 ……短い付き合いだが、矢幡さんはそういう皮肉を言う人ではないように思える。

 ではなぜ、そのような言葉を言ったか?

 

 答えは一つ、【同じ殺人条件を引き当てた人間】としての言葉だった。

 

 頭の良い矢幡さんが、それに気づかない筈はない。

 ならば、その言葉は、あるいは遠回しなSOS信号だった……かもしれない。

 

 だが、今更気づいたところで何もできない。

 矢幡さんも、御剣さんもすでに俺の手の届かない所に居て……そして、今生きているという保証もない。

 

 

 

 全ては、どうしようもなく――手遅れだった。

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