秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第十一話 迷探偵は真実に辿り着きうるかについて

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

人はあらゆる衝突に対して、復讐や攻撃を伴わないような解決策を導きださねばならない。その土台となるのは愛である。

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (アフリカ系アメリカ人公民権運動の最高指導者、牧師)

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 男女が手を握り合っている光景は外からどう見えるのだろうか、と現実逃避気味に考える。

空気は熱々なような冷え切っているような……自分でもわからない緊迫感に、全身から汗が吹き出る思いだ。

 

 

 戦闘禁止エリアの筈が、次の瞬間には殺されてそうな錯覚を受ける。

 ……激しくなる心臓の鼓動だが、それが恋なのか恐怖なのかもう何も分からない。

 分からないが、このまま突っ走るしか俺には選択肢がない。

 

 辛うじて、心の余裕を生みだしているのは皮肉にも好きな人の手を握ってるからだろうか?

 酷い話もあったものである。

 

「話を戻します。貴方は、ゲームをクリアするだけなら能力的には問題ないが、賞金が必要だった。だから、他の参加者を利用しようと考えた。自身で言われたように、最後に裏切る為に……でも、それだけじゃあないですよね?」

 

「……何が言いたいのか、分からないのだけど」

 

「貴方の行動に不自然な点が多すぎるって事ですよ」

 

 そして、恐らくだが……ここからが一番大事な所だ。

 先程の渚さんは、辛うじて言い逃れができるタイミングで自白した。

 つまり、怒っている……というのも事実ではあるが他にも要因があり、それを隠しているのではないかと判断できる。

 怖いは怖いが、俺だって渚さんの為に一歩も引けないし……。

 

 うぅ、さっきまでの綺堂さんがちょっと懐かしくなってきた。

 今も良いと思うけど、ちょっと心が休まらない。

 早すぎである。

 

「今までの出来事を一つずつおさらいしていきましょうか――」

 

 さて、まずは前提から話していこう。

 余裕がないのは多分お互い様なら、一気に畳みかけて根を上げさせてやる。

 

 

「そもそも……最初、気絶した俺からPDAを盗んで去れば良かったのでは?」

 

「あの時、一応庇われた負い目があったからよ」

 

「それでも、記憶喪失である事が分かった時点で見捨てれば良かった筈。状況説明する必要は無かった」

 

「その時は利用価値がまだあったし、最低でも開始6時間以降までは一緒に居なければならなかったから」

 

「じゃあ、矢幡さんが罠に掛かった時、どうして助けるようなことをしたんですか?」

 

「利用価値があるかもしれない相手に恩を売りたかったからよ」

 

「矢幡さんに武器を向けられた時、俺を庇った理由はなんですか」

 

「一番利用できそうな相手だったからね」

 

「手塚に襲われた時、リスクを侵して俺に武器を投げたのは?」

 

「敵が勝手に潰しあってくれるのよ? 上等じゃない」

 

 

 渚さんは気付いているのか、それとも無意識なのか。

 はたまた俺が完全に見当違いの回答を出しているのか。

 いずれにせよ材料は出揃った。

 間違っているかもしれないが――この場では俺の推理を真実に押し通す!

 

 

「渚さん……貴方って本当に――優しい人ですね!」

 

「……はぁ!? どうして、そうなるのよ!」

 

 無様で頓珍漢な推理だと言いたげな表情で渚さんは叫ぶ……俺もそう思う。

 だが、そうじゃないと言い切れるだろうか。

 

 渚さんは、俺をお金の為に利用して、最後には裏切るつもりだった……それは、真実だ。

 そして、渚さんは自分が悪く糾弾されるべきだと糾弾して欲しいとさえ思っているのかもしれない。

 一方でそれだけではない筈だ。

 

 渚さんが悪いだけの人間ではない事を証明してみせる。

 今この場で……!

 

 

――ここからが、本当の勝負だ!

 

 

 

 

 

 

(……どういう展開よ、これ)

 

 進矢が一方的に戦意を燃やしている中で、渚はというと困惑していた。

 

 進矢の推理を聞くに、恐らく誘拐犯側の……つまり、組織の人間である事まではバレてない。

 だから、このまま彼の推理に乗っかっていけば、どういう形であれ一先ずは解放されるとは思うのだが……。

 

(物凄く、嫌な予感がする……)

 

 その推理を聞きたくない渚であった。

 それを聞いたら引き返せなくなるような気がする……そんな悪寒がする。

 しかし、逃げ出すことはできない。

 

(……ガン無視は、客受けとしては最悪でしょうしね)

 

 渚には進矢の推理ショーに付き合う以外に選択肢がないのだ。

 

「分かりやすいように解説していきます。つまりは、こういう事ですよ」

 

 そんな渚の心境を知ってか知らずか……進矢は無遠慮に推理と言う名の論戦を叩きつけてくる。

 

「渚さん……貴方は大金を必要としている一方で、積極的に人を殺したくないと思っている。だから、中途半端になってしまったんです。それでもどうしても大金が必要だったので、無理矢理にでも俺と敵対し、殺人を正当化する為に、先程俺に強い言葉を使ったんですね?」

 

「想像力が豊かね……もし、そうだとしても、何も変わらないわよ。それとも、死ねと言えば死んでくれるの?」

 

 覚悟が決まらずに、中途半端になるプレイヤーは確かに存在する。

 それは渚もよく見てきたし、そういう人間を誘導した事も多かった。

  ……確かに、組織の人間であることがバレなければ、そう疑うのが自然かもしれない。

 

 そういうことにして、白々しく涙ながらに謝罪して同行するのが無難だろうか?

 

 黒い激情を抑え込みながら、それでも渚は思考だけは冷静に判断しようとした。

 

「うーん、俺が死んで渚さんがハッピーエンドになるなら一考の余地はありますけど、そうじゃないですからね。それに、勝手に死ぬのは流石に記憶を取り戻した後の大元の俺に申し訳ないですし……」

 

「言い訳がお上手ね」

 

「手厳しいですね」

 

 真剣なのか呑気なのか、よくわからない進矢の反応に渚の苛々が募り、つい口が悪くなる。

 そして、苛々としつつも渚は少しずつ進矢の意図を掴もうとする。

 

(目的は恐らく、私の懐柔……ってところかしら、鋭いけど判断は甘ちゃんね)

 

 ……なら問題ないか。

 と判断し、渚は一瞬気を緩めながら進矢の次の言葉を待った。

 

「さて、話が逸れましたが……渚さんは優しい人なのに、殺人を迫られるように葛藤してました。それは何故か? ……お金が必要なのは、渚さんではなく渚さんの大切な人の為だからです! 付け加えるなら、貴方の家族の為!」

 

「……ッ!?」

 

 間違ってはない、が……正解でもない。

 だが――

 

「そういう反応をするって事は正解ですね、渚さん」

 

「……貴方、私を試したわね?」

 

 正確に真実を射抜かれて、渚が動揺を見せたのは無理からぬ事だ。

 

 進矢としても真実である自信は無かったが、進矢と渚が【共有者であると共に競合者】であるという仮定。

 そして、進矢は自分の所持してる携帯電話の待ち受け画面が家族の集合写真であった事から、家族の為にゲームに乗ろうとしているのではないかと考えた。

 

 渚は否定せず、結果として今この場では進矢の推理は真実として扱われる事となる。

 

「最初から素直に言ってくれたら、協力しやすかったのに……隠してた渚さんが悪いんじゃないですかね?」

 

「それは無理よ……。協力を要請するには、額が多すぎるもの」

 

「20億円の山分けだとしても……という事ですね?」

 

「え、えぇ……」

 

 ここで、渚は躊躇する。

 金額を言ったとして、どうする?

 裏切り、殺すつもりだった渚を目の前の川瀬進矢は協力するだなんて言うんだろうか?

 助けて欲しいと懇願したら、助けてくれるのだろうか……。

 

 今までは完全に偽りの関係だった。

 初回ゲームで親友に裏切られて以降、ずっと本性を偽り……そして、何度も裏切ってきた。

 

 しかし、今回は例外も例外。

 正体はバレていないのに、本性だけがバレてしまっている状態だ。

 本性を偽らずして、自分は騙しとおす事ができるのだろうか、唐突な不安に襲われる。

 

(そうか、やっと――分かったような気がする。どうして、私が川瀬君にこんなに苛々するのか……憎く、思うのか……)

 

「……15億円、これが私の抱えてる借金額よ」

 

「そう、ですか……なるほど、それはとても--頑張らないといけないですね」

 

 絞り出すように喉から言葉を出した渚に対して、進矢は渚の手を放そうとした。

 しかし、今度は渚が手を離さない。

 進矢は一瞬怪訝な表情を浮かべるも、気にせずに自分の見解を述べる。

 

「賞金の4分の3ってことは、俺以外で後6人は仲間にしたい所ですね」

 

「……川瀬君、貴方は分かってる筈よ。自分がどれだけ、夢物語を語っているかどうかなんて」

 

「……そうですね」

 

 先程と打って変わって、二人の声は自然と静かに……しかし、力の篭った言葉になっている。

 

 渚は話しながら、自分が感傷に浸っている事を自覚した。

 そう……かつての渚だって、40億近い借金を背負っていた。

 そして、それを努力によってなんとかできるという希望を抱いていた。

 大切な家族の為、そして支えてくれる親友がいて……バイト先では評価され時給も上がって……。

 辛いことも、悲しいことも多かったが……それでも、努力で少しずつ状況を変えることができていた。

 

 今が闇の底で、後は上がるだけだと……滑稽に無根拠に、信じていたのだ。

 

「それでも、渚さんに皆殺しをさせるわけにはいかないし……何より、今の渚さんは俺に見放されたがっているように思える。だから、意地悪な俺としては絶対に――貴方を見捨ててあげない」

 

「――本当に、性質の悪い人間よ……貴方は」

 

 きっと、今の川瀬進矢は、当時の渚と一緒なんだろうと渚は考える。

 本当の地獄を彼はまだ知らない。

 だから、今も尚……愚かにも渚を信じようとして、手を差し伸べる事ができるのだ。

 

 渚は悩む、悩みながら……その意図に反して、想いが口から溢れてくる。

 

「私は、貴方の想像もできないような悪い事や酷い事を沢山してきたわ……川瀬君に助けられる謂れがない」

 

「悪い事したなら償わないといけないですね。15億を手にした後に、頑張らないといけなませんね」

 

「川瀬君の推理が正しいのであれば、他ならぬ貴方にお金が必要って事じゃない」

 

「そこは……渚さんを庇った俺の判断を信じます」

 

 渚は、進矢の提案を否定しようとする自分に内心で驚く。

 

 何度も繰り返してる事だった、いつもなら平気で笑顔で相手を地獄に落としている筈なのだが……。

 

(泣いて縋れば良いじゃない。悲痛な声を出して、お願いすれば、きっと川瀬君は断れない……)

 

 しかし、それができなくなっている自分に困惑する。

 何故か……少し考えて、渚は気づいた。

 渚は、今まで自分を偽っていた仮面を失いつつある事を――。

 

 そして、裏切りたくないという気持ちそのものが、渚に拒絶を選択させていた。

 

「……私は、結局、貴方を裏切るかもしれないわよ?」

 

「それはありますね。じゃあ、そうだな……約束してくれたら良いですよ」

 

「約束? 裏切らない約束の、どこに意味が――」

 

「失礼な、流石にそんな事は俺だって分かりますよ」

 

 しかし、何度拒絶しても、進矢は根をあげない。

 

 二人の握っていた手が離れ、進矢は改めて右手の小指だけを渚に向けて差し出す。

 

「俺の欲しい約束は、『騙すのも裏切るのも、俺を最後にする』って約束ですよ。最後の男にしてください!」

 

「……やっぱり、私――貴方の事が大っ嫌い」

 

 渚は吐き捨てるように言うと進矢を無視し、拘束が解除されたのを良いことに振り返って更衣室に向かう。

 時間に直せば大した時間ではなかったが、それでも頭に血が昇り色々な事を暴露された渚は頭を冷やしたかった。

 

「渚さーん! 嫌いは嫌いで、全然かまわないので、何かあったら俺に頼ってください!」

 

「なら、少し黙ってて」

 

「あ、はい……」

 

 歩きながら渚は過去を振り返る。

 

(今なら少しだけ真奈美の気持ちが分かる。彼女はきっと……当時の私に強い嫉妬心を抱いていたんだ。今の私が川瀬君に抱くのと、同じように――)

 

 渚の大嫌いという言葉は本心だ。

 一方で、それだけでもない。

 真実とは多面的で、多重構造なのだ。

 渚が多額の借金を抱えて、家族の為に頑張っているのが真実であるように。

 

(……私はどうすれば良いのかしら。どうしたいのかしら)

 

 何時もなら煩わしい組織からの指令も何もない。

 連絡を繋げようとしても、反応がない。

 

(私は、川瀬進矢抹殺の指令を……期待してるのかしら、恐れてるのかしら?)

 

 渚は勿論分かっている。

 両方の矛盾した答えは両方共に真であるという事実に。

 どちらになったとしても、渚は相応に傷つくのだろう。

 

 それでも、駒として徹すれば問題無かった。

 自分の意志での決断でなければ……まだ耐えられる。

 そんな組織の人間としての現実逃避だった。

 

(どうせなら、全部見抜きなさいよ……あの馬鹿)

 

 『仮面』を外して、渚は自分が今までどれだけ『真奈美の仮面』に守られてきたか、痛感する。

 この世界――地獄で生き抜くには素面では居られない。

 真奈美に裏切られた渚は心を凍てつかせ――そして、真奈美の仮面を被った。

 

 それを奪われた今、今まで通りサブマスター業を続けられるか……それは渚にすら分からない。

 

 そういう意味で考えるなら、無理矢理かつての綺堂渚という人物を探り当ててくる進矢に身勝手な怒りが湧いてくる程だ。

 

(まだ組織の人間である事はバレてないから、まず頭を冷やして次の対応を――)

 

ーードンドンドンドン!!!

 

 渚の思考は更衣室の扉のノック音で掻き消される。

 一人になりたかったのに、本当に煩わしい人だと渚の心が告げる。

 

「渚さん! ヤバいです! 多分ですけど、更衣室の中も風呂場も監視されてます!」

 

(あぁ――そういえば、そうだったわね)

 

 女性である事すら武器として使い、多くの人間を騙して殺してきた渚は――とっくの昔にまともな女性としての感性を失っていた。

 そういえばそうだったな、程度にしか感じない。

 それを自覚した時に、やはりもう生きている世界そのものが違う事を痛感する。

 

 冷たい闇の中、渚は身を焼く光を嫌悪する。

 

(川瀬君、私の闇は貴方が思ってるよりーーずっと、ずっと深いのよ)

 

 進矢は渚が悪人である事に気づいた。

 多くの人を騙して蹴落とした事にも気付いてるだろう。

 だが、その程度の認識に恐らく大きな隔たりがある。

 

 進矢の認識の甘さ……このゲームの現実こそが、進矢の希望を打ち砕く。

 

 ――そうなるに、決まっている。

 

(だから、絶対に……絶対に、私は川瀬君に期待しない)

 

 服装を整え、更衣室の扉に向かいながら……渚は乱れた自分の気持ちを新たにしようとする。

 どうせ、いずれ破綻する関係だ。

 

 かつての親友を殺した後のように、渚は自分の心が凍りついて居て欲しかった。

 正気になんて、戻りたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突貫工事をする事、1時間弱……一先ず、更衣室と浴室で隠しカメラを発見した俺は、戦闘禁止エリアで破壊行為を行っていいのか分からなかったので、片っ端から段ボールで射線を塞いでおいた。

 今や、通気口や鏡のある部分は大体段ボールとガムテープで封じられている。

 これで安全! ……な、筈だ。

 

 危ない……ところだった。

 浴室に向かおうとする、渚さんにちょっと疚しい気持ちを抱いた結果、今の状況を思い出し土壇場でガードできた。

 

 このゲーム最悪だな……くたばれ! と自分を棚に上げながら心の中で毒を吐く。

 

(戦闘禁止エリアって、俺の想像しているより……ずっと怖い場所なんじゃないか?)

 

 少し冷静になり、渚さんがシャワーを浴びているであろう扉の方向を見て思う。

 鍵の機能があるわけではない、つまり入り放題だ。

 覗こうと思えば覗けるし、それに反撃ができるわけでもない。

 俺が手を握ったら、渚さんが振りほどけなかったように……色々と落とし穴があるんだろう。

 

 つまり、今……特に俺から逃げもせず風呂に入った渚さんから最低限の信頼を得られたと考えておきたいが……。

 

(隠しカメラの事を言っても、反応少なかったし……最悪見られても良いと思ってるのか?)

 

 もし、行ったら、ゴミを見る目線で絶対零度の睨みを受けそうだが。

 それはそれで……じゃなくて、そういうことを含めて、俺は試されているのかもしれない。

 

 まだまだ、信頼を得る道は遠そうだ。

 それでも入口に立てた事を、まず喜ぶべきだろう。

 

 

(指摘するか迷ったけど、渚さんって……人に裏切られたトラウマを持っているだろうしな。それも、大切な誰かに……)

 

 

 気持ちを切り替えて、仕事後の紅茶を飲みながら、渚さんの事を考える。

 そう考えなければ辻褄が合わない事象が幾つかあるからだ。

 

 着想したきっかけになったのは、郷田の裏切りから俺を守った時だ。

 あの時、俺は渚さんに周辺警戒をお願いしていたが……郷田の事は全く、警戒していなかった。

 裏切る可能性を全く考慮していなかったわけでもないが、裏切るタイミングでもないと思ったからだ。

 もしも、俺と渚さんと立場が逆だったら、郷田の一撃をどちらかが受けていた事になる可能性が高い。

 

 結果論だが、あそこで、郷田を警戒するのは……はっきり言って過剰だった筈なのだ。

 

 そう考えると、芋ずる式に……渚さんが過剰に俺に色仕掛けしてくるのは、裏切られる可能性を限りなくゼロにしたかったという意図も含まれるのではないか?

 渚さんの俺への拒否反応は、信じる事に対する恐怖があるのではないか?

 と連想できる。

 

 一つ一つは根拠として薄弱でも、3つ集まれば……そこそこの根拠になるだろう。

 

 多分だが、矢幡さんもそういうタイプだ。

 どうにかしたいが、どうにもできない。

 ……強いて言うなら、極力甘やかす事位だろうか?

 

 しかしながら、心の問題に対してはすぐ解決できるようなものでもないだろう。

 実務的な問題……まずは15億の借金返済計画だな。

 どれだけ悩もうと、まずはそこを解決しないと何も解決しないのだ。

 実現に近づけば、渚さんも少しは気を許してくれるはず……そうなってくれれば、良いな?

 

 15億円とは中々高いハードルだが、『パートナーが何を目的に動いているか全く分からない状況』よりはマシだし、『会う人間を極力説得し、解除条件によらない首輪解除条件を探し続ける』よりは具体的で考えやすいように思える。

 はっきりとした目的があるのならば、あとは理想を現実にするだけだ。

 

 

 紅茶を飲み干し、携帯電話を開く。

 待ち受け画面には家族五人の集合写真が表示されている。

 ……どこかに旅行にでも行っている写真なのだろうか?

 皆、笑顔でいるように思える……改めてみると、俺の顔がやや幼い気もするが。  

 

 何を考えて、俺は家族写真を待ち受け画面にしたんだろう?

 俺の今の行動は果たして正しいんだろうか?

 

 記憶がある川瀬進矢は俺の行動を笑うだろうか?

 それとも怒るだろうか、悲しむだろうか?

 記憶がない俺には分かり得ない事であった。

 

 俺は、自分の行動に自信を持てないまま、携帯電話を額に当てて目を瞑り……静かに祈る。

 

 

 

――記憶が戻るのは、もう少し後回しでお願いします。身勝手で、ゴメン……

 

 

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