秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第十二話 そして、もう片方の真実を

 

 

 

――――――――――――

人は人生における過ちを積み上げて、運命と呼ぶ化け物を作り上げる。

-ジョン・ホッブス (19世紀米国のベストセラー作家)

――――――――――――

 

 

 

 

 

『渚さん、この部屋の調査状況とこれからの方針についてを、ノートに纏めておいたので、良かったら目を通しておいてください。それじゃ』

 

 渚が風呂場で自分の頭をゆっくりと冷やした後、進矢はこのような言葉を残して入れ替わりに風呂場に入った。

 直接話すのが気まずいんだろう。

 

 それは、渚も同意だった。

 

 渚が机に目を移すと、学校で使っていると思われるノートが開かれており、その横には進矢のPDAとPDAの拡張機能のソフトウェアが二つ……そして、スタンガンとサバイバルナイフが置かれている。

 

(流石に、自分のPDAをそこに置くのはどうなのよ……)

 

 PDAの重要性は進矢が認識してない筈がない、その行為について渚は困惑する。

 信じている……という無言のアピールなのだろうか?

 裏切り者である自分に対する当てつけのように感じ、苦しみが渚を蝕む。

 そして、身勝手な怒りすら湧いてくるのだ。

 

 尚、進矢の真意としては男女二人きりの戦闘禁止エリアで風呂場に入るというリスクを負った渚に対し、返礼として自分もリスクを背負うべきだとPDAを貸したという流れなのだが、流石にそこまでは渚には伝わらない。(その際、PDAの地図の写真は、携帯で写真に撮っているので最悪持ち逃げされてもゲーム内で遭難することはない)

 

(大丈夫、私の今回の任務は『進矢君を信じて、サポートする事』……郷田さんからの連絡がない以上、何も変わってないわ。いつものようにやるだけよ)

 

 ……既に本性が暴かれている点はスルーする渚である。

 どうしてこうなったか渚にも分からないが、信頼関係が損なわれた訳ではないので問題ない筈である。

 服の裾を握りしめ、数年ぶりに感じる胸の痛みを無視しながら、渚はノートを確認する。

 

『この戦闘禁止エリアで見つけた有用な物は机の上に置いてます、PDAの拡張機能に使ってみればわかると思いますが――』

 

 拡張機能に関しては渚も知っているので読み飛ばす。

 この戦闘禁止エリアで進矢が見つけたのは【生存者カウンター】と【GPS機能】の二つ。

 【生存者カウンター】に関しては進矢が使ってしまったため、もう片方の【GPS機能】に関しては渚に使用権を譲る旨の事が書かれている。

 

 ……サブマスターである自分には不要な機能だ。

 だから、勝手に進矢の【A】のPDAにダウンロードしておいた。

 それを見たら彼はどう思うだろうか……と渚は想像する。

 

(私が優しい人だと、まだ誤った判断を下すのでしょうね)

 

 騙すつもりなら、行動が過剰過ぎる……進矢の推理はその点では正しい。

 だが、導き出された答えはどうしようもなくお花畑で、間違っていた。

 

 渚が進矢の為に過剰に尽くしてるのは、仕事でありサブマスターとしてカメラマンとしての役割だから……その一点に過ぎない。

 進矢には誘拐犯側の人間という視点がどうしようもなく欠如しており、その役割故の行動を別の理由で補完しているからか……完全に誤った結論に辿り着いているのだ。

 組織側の人間になった理由としての家族の借金を返す為とか、そちらが見抜かれた時は驚いたが――それだけだ。

 

 ――それならそれで、自分が組織の人間だと言った時の進矢の反応が見物だわ。

 

 ポタリと、進矢が用意したノートに水滴が落ちる。

 ちゃんと身体と髪は拭いて乾かしたつもりだったが、風呂上りだからか、まだ濡れていたのだろうと渚は判断する。

 渚は急いで顔を拭き直して、ノートの続きを読み始めた。

 

『●15億を得てのゲームクリアと正規じゃない生還方法について』

 

『最低4分の3の参加者を仲間につけての生還になる為、正攻法では難しい。首輪の解除および生還への協力の対価として賞金を要求するのが筋だと思われる。危険プレイヤーは拘束した後に賞金だけ貰う方向を模索していきたい』

 

『他の友好的なプレイヤーに関しては、各プレイヤーそれぞれ直接交渉しながら模索しなければならない為、個別対応になる』

 

『大事になるのはやはり、解除条件。そして、解除条件を介さずに生還する方法。それを見つけることができれば、それを交渉材料として【3】と【9】の生還が可能になり、条件として賞金を貰う方向で調整していきたい。ついでに、俺も生きて帰れる』

 

『この件に関して、方向性は3つ。【首輪】をどうにかする、【警備システム】をどうにかする、【ゲームそのもの】をどうにかする。俺達は賞金が必要なので、【首輪】か【警備システム】の二択が無難、自分のPDAのルールを再確認したが生存すれば勝利で正規の方法でとは書かれてないので問題ないと思われる』

 

『【首輪】か【警備システム】だが、今回は警備システムで考えていく。しかし、警備システムは全域が進入禁止エリアになった後に、生き残れるバランスではない筈である。そこで、安全地帯がどこかにないか考えてみた』

 

『結論から言えば外に活路を求めれるのではないか? と判断した』

 

『現状、俺の観測範囲では……1階のエントランスの入口、そしてこの部屋で見つけた物をはじめとする上の階層に行くほど武器が良くなるという仮説の2点が鍵となる』

 

『6階まで行ければ、1階のエントランスの封鎖をも破壊できる……かもしれない。この作戦の可否は別として、外は安全だと思われる根拠はある。それは、このゲームが過去何十回も行われたと仮定しても、外に出た形跡がないからだ。1度も使われてない場所に警備システムを配置するだろうか? あったとしても、ちゃんとメンテナンスされてるだろうか? ……願望が含まれている事は否定しないが』

 

『簡単な流れを説明する。前提としてどうあっても6階に行って武器を回収、1階のエントランスを破壊は間に合わない。解除条件を満たしたプレイヤーが事前にエントランスの障壁を破壊する事が必須となる』

 

『その後、エレベーターを利用して6階から1階に移動(この移動とは、具体的にはロープを用いて垂直下降するという意味)、即座にエントランスまで全力疾走する。エレベーターからエントランスまでそう遠くはないので、全力疾走で10分~20分程度で外に出る事ができる』

 

『勿論、課題が多く。希望的観測が多分に含まれる為、後ほど……この件について議論していきたい。他の案も含めて、これからも検討していく』

 

「良くもまぁ……こんな事を考えられるわね。馬鹿なのか無謀なのか、それとも頭がいいのか……分からなくなってきたわ」

 

 可能か不可能かで言えば、可能だ……と渚の長年のサブマスター経験が言う。

 渚は進矢がエントランスのコンクリート壁を見た時、これが『何かのヒントじゃないか?』と言っていた事を思い出す。

 破壊できる手段がどこかで見つかるのではないか? と進矢は思ったのだろう。

 6階の武器で1階のエントランスを破壊した場合がどうなるか、それは渚自身前例がないので分からない。

 

 (観客はどうなるか興味を示すかもしれないし、いずれにせよ組織の掌の上であることは間違いないけど)

 

 その展開が受けそうなら採用する、面白くなさそうなら採用しない。

 最悪、外に出た瞬間に出た人間が蜂の巣になるというバッドエンドを用意する可能性すらあるだろう。

 あるいは、組織は蜘蛛の糸を垂らすだろうか?

 進矢の案は、そういう類の希望である事を渚は正確に理解した。

 

(それでも、このゲームで希望を掲げ続けて抗う旗印になるのは川瀬君。そして、それを手伝うのが今回のゲームにおける私の役割、か)

 

 渚としては、進矢のやり方がうまくいくとは思えない。

 そして、うまくいってほしいとも思わない。

 

 勿論、進矢の進んでいる道に希望は欠片として存在しない。

 何故なら、渚の借金が15億程度なのは真実だが、ゲームの運営側の人間である渚は賞金の分配の例外に位置するからだ。

 確定したバッドエンドに、そうと知らず進み続けている愚かな男……それが川瀬進矢だ。

 

 それでも、渚は進矢の末路を見届ける決意を静かに固める。

 

 ――川瀬君、貴方の全てを……私に見せて。

 

 たとえ、自分が最後に引導を渡すことになろうとも

 

 

 

 

 

「細かい問題点はいくつか指摘したいけど、大きい問題点が一つ……この作戦で私以外を説得できると思う? そもそも対話の機会を作れる?」

 

「……やっぱり、そこが最大の問題になりますよね」

 

 一風呂浴びた後に、二人でデザートのプリンや果物を食べながら改めて作戦会議に移る。

 調理中に渚さんはデザートも仕込んでいたらしい、糖分が丁度欲しかったのでありがたい。

 すごく感謝したが、それはスルーされてしまった。

 

 ……そこは良いとして、浮上した問題点が大きすぎるんだよな。

 

「極端な話、川瀬君がどんなに完璧なアイディアを出したとしても、それを信じる人がいなかったらナンセンスよね? 一人で生きて帰れる方法なら、川瀬君だけ生きて帰る事はできるかもしれないけど」

 

「その点に関しては懸念していましたが、今は対策が思いつきません。えーと、ほら……渚さんの魅力パワーで相手をメロメロにして話を聞かせるとかどうです?」

 

「残念だけど、私の見立てなら……今までこのゲームで会った人だとそれが通用するのは川瀬君位ね」

 

「なんでだ」

 

 ……だからこそ、ターゲッティングされてしまった訳だろうし、そこは仕方ないが。

 御剣さんダメかー、そっかー……いや、素でいい人なら渚さんの話術使用しなくても良いのかもしれないが。

 

 ――懸念点は、御剣さんが今そもそも生きているか、どうか

 

 渚さんから返してもらったPDAを見ながら、まだ生存者数が11人である事を確認する。

 ありえそうで、現状考えられる最も最悪なパターンは矢幡さんが御剣さんを殺したパターンだからだ。

 

 渚さんに関しては……結局の所、どう思ってるのだろう。

 自分のPDAになんかダウンロードされてる【GPS機能】を見ながら、ふと思う。

 使用権を渡したんだから、俺のPDAにダウンロードする分には渚さんの自由なんだろうが。

 

「川瀬君――実際、貴方は総一君と麗佳ちゃんの事をどれだけ信頼してるの? 信頼できる根拠はある?」

 

「……」

 

 渚さんは俺の悩みを見透かしているのか、俺を覗き込みながら問いかけてくる。

 そして、俺はそれに答えることができないでいた。

 そもそも話したのだってほんの一時間弱、矢幡さんに至っては敵対的だった。

 希望的観測を述べるのは簡単だ。

 

 だが、そんな気休めなんて容易く渚さんに見透かされるだけだ。

 特に渚さんは――本人の命だけではなく、家族の命が肩にかかっているわけだし。

 

 しかし、それでもあきらめるわけにはいかない理由がある。

 渚さんによる皆殺しルートはなんとしてでも避けなければ……。

 まず俺は折れない覚悟を決めて、そこから考え方を決めるのがコツだな、多分。

 

「思うに、信頼関係を築くに……相互理解が足りないと思うんですよね。手塚と郷田は論外としても、他の3人とは協力できる余地はあると思います」

 

「……それを築ける機会があれば良いわね」

 

「それは……力づくで作るしか無いんじゃないんですかね」

 

「川瀬君が言うと説得力が違うわね」

 

「えっへん」

 

「……皮肉のつもりだったのだけど」

 

 呆れた様子で渚さんは目を閉じる。

 実現可能性は置いといて、戦闘禁止エリアに閉じ込めて強引にコミュニケーションをとる戦術は割とアリかもしれない。

 ……本人からすごぶる不評っぽいけども。

 

「……一部例外は居ますが、望んでゲームに乗ってるプレイヤーは居ない筈ですからね」

 

「そうね。だけど、私としては……この時点で他のプレイヤーは全員敵のようなものだと考えて動いた方が良いと思うわ。このゲーム、究極的には信じられる人間は自分だけよ」

 

「そうですねー、信じられるのは渚さんだけですね」

 

「はぁ?」

 

「……うん?」

 

 会話の流れで普通に頷いていたら、渚さんが怪訝な表情で俺を見つめる。

 険しい表情も可愛い……じゃなくて、ニュアンスを取り違えてたのか、気づかなかった。

 

「……言っとくけど、私はまだ川瀬君の事を信じてる訳じゃないし、私の事を信じても痛い目見るだけよ?」

 

「うんうん、頼りにしてます」

 

「私の話聞いてた?」

 

 俺個人としてはそれを口に出してしまうところが、良いと思う。

 裏切る人はそんな事言わない……多分。

 

 しかし、それを指摘してしまうと渚さんは……拗ねてしまいそうな気がする。

 なので、ここで俺が選ぶ選択肢は……スルー!

 ちゃんと話を続けたいからだ。

 

 でも、感謝の意志は伝えておこう。

 

「俺の考えに厳しい意見で指摘してくれるのはありがたいと思ってますし、それでも付き合ってくれて嬉しいですね。あと、細やかな心遣いに感動してますよ」

 

「……感謝される筋合いはないわ、私は自分の目的の為に川瀬君を利用してるだけだから」

 

「えぇ、上手く使ってください」

 

「……馬鹿ね」

 

 馬鹿じゃないです、他にやりたい事がないだけです。

 ……最悪、俺達以外全員敵だったとしても、運命共同体のようなもんだし。

 もうちょっと、まともな未来の為に努力していきたいところではある。

 いっそ、一回ゲームから離れてみるの手かもしれないな。

 

 まず、足元を固めていこうか。

 どうにも……俺の中で渚さんに見捨てられる恐怖というのがあるようだ。

 そして、なんとか力になりたい気持ちもあるが、どうにも空回ってるように思える。

 

 よし……渚さんともうちょっと、踏み込んだ協力関係になる必要があるな。

 そう考えた俺は、寝るまでの残り時間は渚さんとの親交を深める事に決めた。

 純粋に親交を深めたい気持ちは8割位です。

 

「そうだ、渚さん。折角なので、渚さんの家族の事を教えてもらって良いですか?」

 

「私の家族? 急な話ね……それは、どうして?」

 

「命を懸ける以上、誰の為に命を懸けるか知っておきたいのが一つ。渚さんの事をもっと知りたいのがもう一つですね」

 

「……そう。別に特別な何かがあるわけじゃないわよ」

 

「それが良いんじゃないですか、というか……俺だって自分の家族の事を全然覚えてないから、家族とはどういうものか知っておきたい面もありますね」

 

「仕方ない、わね ……でも、条件があるわ」

 

「条件?」

 

「貴方の家族についても教えなさい、勿論……今知っている範囲で良いわよ」

 

「なるほど、それがフェアですね」

 

 俺が教えられるのなんて、せいぜい家族写真位しかないけども。

 こうして寝るまでの時間、俺と渚さんはややぎこちないけれど、和やかな時間を過ごしたのであった。

 

 渚さんが悪い人だったとしても、理由があって悪い事をせざるを得ないだけならば……このゲームをクリアするころにはきっと、何のしがらみもなく、家族の元に返してやりたいと、そう思う。

 そして、もしも俺の記憶が戻ったしても、この気持ちさえ残っていればきっと大丈夫だと信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ゲームマスターの控室。

 

 PDAの地図に載ってない電子機器に囲まれたその場所はゲームの情報を管轄する部屋兼、ゲームマスターの休憩室である。

 ゲームの進行を担当するもう一人の組織側の人間……郷田真弓は一旦ゲームが落ち着いてきたので仮眠を取っていた。

 

 突然、PDAの振動で目を覚ます。

 やや寝ぼけた状態で、眼鏡の下をこすりながら発信者を確認する。

 ……【綺堂渚】、何度目かの連絡を確認し、PC端末を起動して情報を確認してから、着信に出た。

 

「……はい、私よ」

 

『郷田さん、どうして出なかったんですか!?』

 

「あー、ごめんなさいね。寝てたわ」

 

 そして、渚の焦燥した言葉を聞いて状況を確信した。

 郷田の言葉は半分は本当で、半分は嘘の言葉であった。

 渚の郷田への連絡は何度かあったのは把握している……その全てを郷田は意図的に着信拒否しているのだ。

 

 そして、今回……渚がとある条件を満たした為、郷田は渚の連絡に応じた。

 ただそれだけの事である。

 

『嘘をつかないでください、わざとだったんでしょう!?』

 

「だったら、何だっていうの?」

 

『ゲーム開始前、私に渡された参加者のプロフィール……それは捏造されたものだった。違いますか?』

 

「捏造、とは大きく出たわね……渚ちゃん」

 

――よしよし、順調ね。

 

 と郷田は、確信する。

 一時はどうなることかと思ったが、郷田にとって今回のゲームの状況はほぼ理想的な推移を見せていると言って良い。

 

 正直言って期待以上だ。

 郷田は喝采の言葉を述べたいほどだったが、冷静なゲームマスターの仮面を被りながら、渚に言う。

 

「……でも、そうね。”手違い”があって、誤ったプレイヤーのプロフィールが送られている可能性があるわね。良かったじゃない、渚ちゃん。重大な手違いがあって、大きな被害を受ける可能性がある場合、ゲームマスター規定に則って報酬3倍よ。借金返済へ大きなショートカットと思わない?」

 

『……ッ!?』

 

  

 PDAの向こう側で渚が息を詰まらせるのを察する。

 郷田としても経験者だから気持ちは分かる。

 

 参加者プロフィールに嘘を書かれると、計画が大きく狂ってしまうし、命の危険もある。

 だから、渚は怒っているのだろう。

 

 その狂った計画の修正すら仕事の範疇なので、本当にゲームマスター業は大変だ。

 不満は札束で殴って解決される事だけがホワイトである。

 

「……郷田さん、私はどう動けば良いですか?」

 

「本ゲームのゲームマスターとして命じるわ。渚ちゃん、自分で決めなさい」

 

「……」

 

「今回の件は、貴方がサブマスターからゲームマスターに昇格する――その登竜門よ。どうすればこのゲームが盛り上がるか、自分で考えなさい……フォロー位はしてあげるわ」

 

 PDAの向こう側で無言で話を聞く渚に対して、郷田は淡々と事実を告げていく。

 渚は既に十数回ゲームに参加しているベテランのサブマスターだ。

 初回ゲーム時は40億近かった借金も既に残り15億……はっきりと言うなら人気が出ている渚に対し、ゲームを運営する組織は期待しているのだ。

 

「貴方の家族の借金に対する健気な姿勢が評価されたのかもね、借金返済完遂に対して組織も尽力したいみたいよ」

 

「……だからって、このような」

 

「あら? 私レベルのベテランプレイヤーなら、普通の事よ? 事前に告知されなかったのは確かに手落ちではあるけれど、渚ちゃんが今まで殺した人間を忘れてるのが悪いんじゃないの?」

 

「……」

 

 渚は言葉を返さない。 郷田に言わせれば、渚は命に向き合えていない傾向があるように感じられる。

 正確に言えば、良心は残っている癖に自分の所業に向き合う強さを持ち合わせていない。

 だから、渚は逃げ……そして、今不意打ち気味に向き合う羽目になったのだ。

 

(良心が残っている方が、不確定要素が高くショーが盛り上がるからそれはそれで構わないんだけどね)

 

 良心を欠片も持ち合わせていない郷田としては、分かり合えないなと感じる。

 尤も、郷田は殺した人間の名前をすべて覚えておく派なので、本当の意味で相手の命を重んじているのはどちらかは分からない。

 

「それとも、もしかして期待しちゃった? 私も若いツバメに言われてみたいわ~……『借金を返すのに協力する』『悪事は終わってから一緒に清算しよう』『裏切るのは俺で最ご――」

 

『黙って!!!』

 

「……やだやだ、ほんのジョークじゃない」

 

 思ったより強い渚の言葉に郷田は一瞬たじろぐ。

 渚の心理掌握術と郷田の恋のキューピット作戦は予想以上に上手く行っている、郷田は判断した。

 

 郷田は驚くような表情を作りつつも、内心ではほくそ笑む。

 こんなにも、上手く行く事があるから……ゲームマスター業は辞められないのだ。

 

「それでも、折角だからお客様の為に言って欲しい物ね? ねぇ、どんな気持ちだったの? 心を開きかけた相手が、【一年半前に殺した男の息子】だと知った時は」

 

「……川瀬君は最初から知っていたんですね? だから、私を疑う事ができた」

 

「えぇ……【綺堂渚】がそうだという情報は持っていた。普段の逆パターンね。尤も、確証は無かったんでしょうけど」

 

 そもそも、今回のゲームで渚に伝えられてたショーのメインテーマは偽装だった。

 正確には嘘ではないが、メインではなくサブテーマだったのだ。

 

  それが、進矢の記憶喪失で乱れに乱れてこのような着地になってしまったが、むしろ本来のショーよりも盛り上がっていると言えるだろう。

 

「渚ちゃん、改めて――初回以来のゲームの主役抜擢、おめでとう。ご家族の為に、頑張ってね」

 

『――ありがとうございます、私がどんな人間だったか……はっきりと思い出す事ができました』

 

 郷田の皮肉に対し、渚は涼やかに受け流しているように見える。

 しかし、郷田は見抜いた……渚はただ自分の気持ちを押し殺しているだけである事に。

 

(渚ちゃんには悪いけど、私の仕事は渚ちゃんを追い詰める事も含まれているのよねぇ)

 

 だから、駄目押しで郷田は追い打ちを仕掛ける。

 

「ふふふ……不要だと思うけれど、念のため忠告してあげるわ、渚ちゃん。これは貴方が始めたゲームなのよ? 本気で途中下車できると思ってるの?」

 

『勿論、分かっています……私自身の手で終わらせますよ』

 

 こうして、PDAの通話状態が一方的に切られた。

 分かっているのか、分かっていないのか……今頃、観客席は湧いているだろうか?

 

 いずれにせよ、このゲームの大部分は郷田の手を離れ……ほぼ参加者の意志で動くような状態になった。

 じっくりとゲームの推移を観察しながら、必要な所を調整していけば問題無いだろう。

 どのタイミングで川瀬進矢の記憶が戻るのか、はたまたゲーム終了まで記憶が戻らないのか……そこまでは分からないが、それもまた不確定要素として歓迎される。

 

――それにしても、あの渚ちゃんの心を揺さぶるなんて……川瀬君。やるわね

 

「もしかしたら、更生を促し心を揺さぶる事こそが……最大の復讐……なのかもしれないわね」

 

 良心に耐えかね、参加者に情が移り任務を放棄・裏切りを行う組織側のサブマスターは多い。

 だが、そのような人間は例外なく死亡している。

 

 改心するということは、今までに犯した罪が裏返り……裁きの光となって、その人物の身体を、そして心を焼き殺すのだ。

 多くの裏切り者の末路を見てきたゲームマスターの郷田は、その事をはっきりと――理解していた。




当然の話ですが、進矢が記憶を取り戻してからがEP2本番です。
過去がずれてるので、EP1と比べて総一レベルでキャラ違うかもしれないですね。

次回幕間
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