秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind- 作:流火
――――――――――――
死とは痛烈に苦しいものだが、生きた証もなく死ぬのは更に耐え難い。
-エーリッヒ・フロム (ドイツの社会心理学、精神分析、哲学の研究者)
―――――――――――
誰もいない部屋を歩く。
散らかった生活感のあるマンションの一室に、俺は一人歩き回っていた。
ここはどこだと思ったが……少しすれば自分の家らしき場所である事に気づく。
教科書にちゃんと名前は書いてあったからな。
あとは同じ苗字と自分じゃないと思われる名前は俺の家族だろうか。
「……そろそろ記憶を取り戻すのも近いってことかな」
しばらく歩いて、これが夢である事に気づくと、自分の部屋らしき場所に移動する。
すると誰もいなかった筈の場所に初老に差し掛かったような男性が座っている。不自然だが、不自然ではない……だって、夢とはそういうものだからだ。
その人物は振り向いて、机にあるノートを俺に手渡してきた。
「やれやれ、少しは成長したと思ったが、こんな題名にしてるのはまだまだ子供だな」
「……大人になんかなりたくなかったんだよ。クソ親父」
渡されたノートの題名は『探偵ノート2』。
これは、ある事件が起こってから、それを追いかけ続けた成果が書かれている日記……だと思う。
中身を見るがモザイクがかかっていて読めない。
夢だからこんなものか。
「この件に関する調査は止めろ。父親命令だ」
「つまり、調査を続けろって意味だな」
「……違う。本当に止めろと言っているんだ」
なんのことを言っているのか、実のところ俺には良くわからない。
だが、目の前の男は真剣な表情で……本気で俺にそう言っている事が分かる。
面倒だが、話を合わせるべきか……まぁいい。
「えー本件に置かれましては、持ち帰らせて頂き前向きに検討していきたいと思います」
「玉虫色の回答やめろ」
「冗談だよ。言う通りにするさ、『俺』はね」
「……含みのある言い方だな」
「誠実な回答だと言ってほしいかな」
目の前の男性はこのゲームを調査するのをやめろと言いたいのは分かる。
俺も、理性的に考えればそれは正しいものだと思えるし、それをする余裕も力もないと思う。
しかし、自分の感情までは分からない。
実際、記憶を取り戻した後の自分の行動までは保証できないのだ。
(この場合、どうして目の前の男にこのような事を言われなければならないかだが……)
まぁ、興味持った事は徹底的に調べたくなる性分が自分にある事は、なんとなく察しがついたし、余計な事をして藪蛇を突っついてほしくないのだろう。
この殺し合いゲームが深刻な事態である事は分かる。
だが、その深刻さの程度が分からないのでなんとも言えないのだが。
「良いか? 進矢、大事なことは生き残る事だ。それ以外の事は些事だと思え、俺はそれに気づくのが遅かった」
「些事、か……」
真剣に言われている言葉である事は分かるが、俺にはピンとこない。
勿論、目の前の男が言っている事は正論ではあるのだが、引っかかる部分は多い。
気づいてしまった過ちや、目の前で行われる惨劇を見て見ぬフリをしろというのだろうか? 不可抗力というのなら、話は別ではあるが……まだ検討段階なのだ。
ふつふつと湧いてくるのは、目の前の男への反抗心だ。
少し感情的になったのを自覚し、俺は一つの答えを得る。
「なるほどなるほど、これは俺の夢だから、死にたくないと思った俺がアンタにそんな事を言わせてしまった訳だ。悪い、そろそろ目覚める!」
「ちょ……おまっ……進矢!」
意識がボヤけてくる。
夢の終わりは近いらしい。
男は慌てた様子で声をかけてくるが、俺はそれに対してにこやかに手を振った。
「これまで散々……! 俺の……を無視して……だ! 俺が……だ後位、頼みを聞いてくれ!」
男の言葉が途切れ途切れに聞こえてくる。
俺の事を真剣に考えてくれている、というのは伝わってくるのだが……。
如何せん、状況が状況だ。
俺はもう考えて、そして決断しているのだ。
「多分だけど、俺には俺の事情があるんだろう。だけど、それは多分……このゲームに参加してる参加者全員が一緒だよ。皆が皆、それを主張して押し付けてしまえば……あとはもう、惨劇しか残らないんだよ。だから、俺は……俺の記憶なんて要らない」
「……馬鹿野郎」
もう顔もぼやけて見えないがおそらく向こうの男は非常に呆れている顔をしている気がする。
完全に意識が浮上する前、最後に音の声が聞こえた。
「――綺堂渚に気をつけろ」
「ぎゃあああああああああ!」
不思議なダンジョンのゲームでトラバサミというものがある。
効果は単純、罠に引っかかると、しばらくの間移動できなくなるというものだ。
アイテムや装備品は使えるので、大した事のないものだ。
そんな、長沢のイメージは激痛と身体の熱さが完全に打ち破ってくる。
肉は裂け、血が舞った無残な左足の回復にどの程度の期間が必要になるか、それは過去大怪我をしたことのない長沢には分からない。
ただ、包帯でぐるぐる巻きにして、ギプスなりをつけて、松葉杖を使うか車椅子を使う漠然としたイメージだけはある。
……勿論、それは治療を受ける事のできる日常の話であれば、だが
そんなものはない今、当然このような結論が出てくる。
――痛い痛い痛い、なんでこんなことに! もう一回やればあんな奴に!
ゲームのリセットボタンのようなものがあれば……という現実逃避。
もしこれが、ゲームだったら長沢はいつもリセットしてきた。
クソゲーだと判断すれば別のゲームを買えばいい。
あるいはリアルで……例えば学校で起きた悪い事ならネットとゲームの世界に逃げ込んで消化してきた。
だが、今は……そんな逃げ道はない。
「くっ……悪魔、め」
揺さぶりを感じ隣を見ると、同じく倒れこんできた葉月の姿がある。
最初は利用するだけのつもりだった。
だけど、葉月は(長沢からすれば)頭は悪いが本当にいい人だったのだ。
だから、気付けば二人で生きて帰れればいいと思っていたが……。
(このまま、二人まとめて殺されるしかない、ってのか……?)
痛みを訴える身体を起こし、呆然と金髪の男を見る。
殺したいと思った、何故なら……あの男は長沢の欲しいものを全て持っているからだ。
子ども扱いするムカつく奴だから、と思い込んでいたが――今思えば、罠に対する注意を逸らすための挑発だ。まんまと引っかかってしまった長沢は、先程までの怒りを抑えつけ――そして、次に絶望的な痛みと死の恐怖を感じる。
長沢勇治にはなにもない。
何も為せずに、何も残せずに……。
いっそ、大声で泣きだしたかった。
小学生のような子供のように。
「畜生っ……! 畜生ー---!!!」
「すまな、い……長沢君、僕の所為で……」
もう何もできない。
何もかもがたりない。
力も、知恵も、勇気さえも。
「じゃあな、オッサン」
そして、金髪の男は油断なく葉月に近づき、鉄パイプをその体に振り下ろそうとする。
強い奴から狙うという判断なのだろう。
長沢の事を歯牙にもかけないその行動は、不意に……長沢の心に火をつける。
「ふざ、けるなぁあああああああ!!!!!!」
「うおっ!?」
足の痛みをも無視して、今取り得る最大の力を使い手塚は長沢に飛び掛かる。
男の片足を見事に抱きしめるように右の腕でしがみつき、左の手は自分のポケットのナイフを手にしようとする。
「どうやら、先に死にたいらしいなぁ!」
「がはっ!」
「な、長沢君!? ……む、無茶だ……!」
しかし、その動きは背中に物凄い衝撃を受け中断させられる。
鉄パイプのターゲットが葉月ではなく、長沢自身に移ったのだろうと察した。
息が苦しい、骨がどこか折れたのかもしれないが、長沢自身にはただただ熱く感覚が無くなる。あまりの痛みに痛覚がなくなったのかもしれないが、長沢にとってはどうでも良い。
こうなってしまえば、ただ……両腕で男の足を拘束する事しかできない。
「うる……さい! 今の、うちに、逃げろぉおお!!! ……葉月のおっさん!!!!」
「な、長沢君……っ、だ……だけど……!」
「家に、待ってる……家族が……がはっ!!」
「逃がしやしねぇよ。二人共な」
二回目の鉄パイプが長沢に振り下ろされた時、それでも長沢は足を握る手を緩めなかった。
今更、正義の心に目覚めたなんてことは断じてない。
目の前の男に……世間の理不尽に、一矢報いたいという強い感情が長沢に生まれてくる。
「ちっ、放しやがれ! このクソガキがっ!」
「離、す……かよ。この……ば~~~~~~~か!!!」
これは怒りだ。
ゲームやインターネットを抜かしてしまえば、長沢は自分自身の人生の殆どが怒りで占めている事を自覚する。
これは、長沢への呪いでもあり……そして武器でもある。
そして、目の前の男こそが長沢の怒るべき”大人”なのだ。
だから、長沢は負けられない。
何度鉄パイプが振り下ろされようが、長沢は男の足を掴み続ける。
これがちっぽけな長沢勇治としての、ちっぽけな抵抗だった。
(僕とは違うんだから、ちゃんと生き残ってくれよ……葉月のおっちゃん――)
「……チッ、収穫は一人か。やってくれたな、坊主」
手塚は、既に事切れた長沢を強引に引きはがす。
油断したつもりはない、だが予想外の粘りで片方を逃した。
結果として、反省点の多い戦いになってしまった。
「窮鼠猫を噛む……ってか? 次は気を付けるとするかねぇ」
後頭部を搔きながら、手塚はそれっきり長沢から意識を外す。
自分以外の人の生死に対して興味は無かった手塚であるが、ここまで冷酷で居られるのが正直に言えば手塚自身意外でもある。
だが、人の命を背負う事や感傷に浸ると言った行為は手塚に言わせればナンセンスだ。
このゲームに必要なのは『強さ』だという事を手塚ははっきりと認識している。
その『強さ』とは、物理的な強さだけではなく心も含める。
そんな手塚だからこそ、ここで小さな違和感に気づくことができたのだ。
そう、手塚の背後でゆっくりと扉が開かれる音に。
――ヒュン!
「……っとお!?」
風切音がして、手塚は自身の持っていた鉄パイプを放棄して反射的に前に飛ぶ。
手塚のすれすれの部分にノコギリが振り下ろされ、軽い風圧が冷たく手塚の首筋を撫でた。
はずみで、手塚の茶色の帽子が宙を舞う。
「っぶねぇ!? ……明日は我が身って、悠長な言葉だなぁおい!」
「……ふむ、良い警戒力だ」
振り向いた手塚に低い男の声が重苦しく響く。
視界に入ってきたのは、今しがたノコギリを振り下ろした明らかに筋肉隆々とした青年。
手塚が今までこのゲームで出会ってきた人間……否、これまでの人生で出会ってきた人間込みで最も強いのではないかと直感する。
「ちっ、漁夫の利かよ。随分と慎重な事で……とっ!?」
「お喋りしてる暇はあるのか?」
手塚はさらにノコギリの連続攻撃前に、辛うじて距離を取り続ける。
……状況は最悪だ。
まず武器だが、回避の為とは言え、鉄パイプを捨ててしまった以上、武器と言えるのは懐に隠し持ってるナイフ程度だ。右手で取り出して軽く牽制だけはしたものの、リーチが違うし、手塚の技量では攻撃を当てる事も受ける事もできない。
次に退路だが、奇しくも手塚の後ろはトラバサミ付きのワイヤー地帯だ。
自分が仕掛けた罠に、今度は手塚自身が苦しめられる――『因果応報』という言葉が手塚の脳裏に浮かぶが、全くらしくない事だと内心で苦笑する。
そして、次に浮かぶのが無様に手塚に殺された少年だ。
「極限状態にっ……なると……! 人の本性が、出る……ねぇ!」
「どうした? 悪いが命乞いに興味はない」
「違ェよ。なんでっ、こんなゲームに、巻き込まれたか……そう思っただけだっ!」
いざ、死が間近に迫った所為か……らしくなく手塚は感傷に浸る。
死ぬのは仕方ない、生き残る為にゲーム開始直後に女の子を殺し、次に少年を殺したからだ。
ただ、そう……心残りはある。
先程手塚が摘んだ命は、不格好に惨めに……それでも意地は通した。
あの糞餓鬼に負けるのは……少しばかり癪である。
所詮、世の中は弱肉強食。
だが、世界は広い以上、自分が弱い側になる事も当然有り得る……というか、そんな事ばかりだ。
そんなときに取り乱すのは、手塚としても頂けないし……勝利の女神が最後まで諦めない人間に微笑む事を手塚は知っている。
(少し癪だが……あれを使うか)
覚悟を決めた手塚は、左ポケットに手を突っ込む。
すると、男の攻勢が激化する……何かやる事を止めたいのだろうが、無駄だ。
「喰らい――やがれ!」
「くっ……虚仮脅しか」
そして、左手一杯の小銭を男に投げつけた。
正直に言って、ただの一発芸だ。
ここで無理して追撃しても、勝負は相手の勝利で見えている。
それでも、攻撃は一旦緩み相手は体勢の立て直しが必要になるだろう。
手塚にとってはその一瞬が欲しかった。
手塚は一瞬の躊躇も見せずに、身体を180度反転させ駆け出し始める。
目指すは……ワイヤー地帯。
ワイヤー地帯の隙間の床にはトラバサミの罠があるが、ワイヤー自体には何の罠もないことは手塚自身確認済みだ。
つまり、逆説的に言うのであれば――ワイヤーを伝って10m弱跳び続ければ罠に引っ掛からずに向こう側に行くことができるのだ。
無論、失敗したら先程手塚自身で殺した少年と同じ目に遭う事必至なのだが。
「さぁ、今日の運試しと行きますかねぇ!!!」
「……正気か!?」
手塚は一切の躊躇なく、地獄の綱渡りにチャレンジを始める。
賭けるのは命、失敗すると命はない。
だが、こういう賭け事に滅法強いのも手塚義光という男だった。
――一歩
――二歩
――三歩
文字通り浮足立った状況ではあるが、身体に一切の震えはない。
ワイヤーの弛みは容易に手塚のバランスを崩してくるが、思えば手塚の人生だってバランスは滅茶苦茶だ。だから、どうということはない。
これが駄目なら死ぬだけだ、というのは一周回って気楽なもんだな。
と手塚は他人事のように考えながら駆ける。
――四歩
―ー五歩
―ー六歩
足のバランス感覚に乱れが生じつつも、手塚は冷静に次のワイヤーを見据える。
あとは自分の悪運を信じるのみである。
――七歩
――八歩
――着地
そして転がり落ちるように最後のワイヤーから飛び降りた手塚は地面に転がり込む。
息も絶え絶えだが、それこそが生きている証でもあるのだ。
「……ハァハァハァ、たまには狂気に身を任せるのも一興、ってね。」
「……」
男に追いかけてくる様子はない。
呼吸を落ち着けつつ、まぁ当然かと手塚は思う。
手塚が逆の立場でも、この状況は追わない。
首輪なりPDAなりの回収があるからだ。
目の前の餌を捨ててまで、危険人物の排除をするには少々リスクとリターンが釣り合わなすぎる。
「それじゃ、俺の命の取り分は回収させてもらうぜ……あばよ、旦那」
結果として、手塚は殺した少年の首輪もPDAも何もかも奪う事が出来なかった。
PDA以外の武器も何もかもを失った。
残念だとは思うが、その事について後悔はない。
五体満足な自分の身体がある、それだけで贅沢過ぎる話なのだ。
(そういえば、帽子落としちまったな……結構気に入ってたのに。まっ、仕方ねぇか)
手塚は立ち上がり、振り向く事なく通路の先へと進んでいく。
その顔には彼にとってのいつも通りの皮肉げな笑いが浮かんでいた。
理不尽な世界、理不尽なゲーム。
造られた遊戯盤の上の駒になってしまった自分。
それでも、手塚は笑い続けるだろう。
油断と慢心は駄目だ、しかし賭けに勝つのに必要な事は自分の幸運を疑わない事なのだ。
「クックック……今日の俺は、ツイてるぜ」
「……やれやれ、困った事になった」
金髪の男を取り逃がしてしまった青年――高山浩太は、男を見送った後、煙草に火をつけ口に咥える。
彼は遭遇したプレイヤーからルールを一部交換しており、エントランス付近の少女の遺体から見て、現状恐らく騙し合い前提の殺し合いゲームに強制参加させられているという事を理解している。
だが、完全に半信半疑だった部分もあり、偶然近くで戦いが発生したため、部屋に潜んで様子を伺っていたのだ。
……結果は完全に黒。
疑いようもなく、殺し合いが発生しており……恐らくはもう歯止めがかからない状態にあるという事実を痛感した。
だから一番の危険人物である金髪の男を排除しようと、不意打ちを試みたが逃げられてしまったというのがこれまでの流れである。
(尤も……一番の問題点は俺自身、まだ覚悟を決めきれてない事、かな)
壁を背にして、周囲の警戒は絶やさず……しかし、彼らしくない物思いに耽る。
そう、高山浩太は先ほどの戦いで、一つ大きなミスを犯している。
それは、金髪の青年が少年と初老の男を襲っていたタイミングで奇襲をしなかったことだ。
そのタイミングで、高山が金髪の青年を不意打ちで殺し、彼の獲物だった二人を横取りすれば、高山は解除条件を達成できた筈なのだ。
すなわち、高山が引いた解除条件は以下の通りである。
【4.自分以外の首輪を3つ取得する。首を切り取っても、解除条件を満たし外すのを待つのも良い】
(参ったな、今まで煩わしいと思ってた戦時国際法がこんなにも懐かしいと思う日が来るとは思わなかった)
話は変わるが、高山浩太は世界各国を回っている年季の入った傭兵である。
人を殺した事も一度や二度ではない。尤も、自分で相手を殺したという確証を持てるのは、数えるほどしか無いのだが(大抵の場合、自動小銃なので自分と味方のどちらが殺したかどうか分からない)。
そして、殺した相手に念のためトドメを刺した事もないことはないが、その目的以外で必要以上に遺体を傷付けた経験はない。
略奪や民間人への暴行等はもっての他であり、むしろそれを嫌悪する側でもある。
馬鹿馬鹿しいかもしれないが、戦争には最低限のルールがある。勿論、そんなものを馬鹿正直に守ってる国なんて少ないし、現場としてもやってられない時があるのは確かだ。
(だが、この場所は違うということか……正直、相手が民間人だと油断してると死ぬのは俺自身だろうからな)
――心が痛まない訳でもないが、自分の命との天秤なら話は別か
……高山は重々しく決断を下す。
尤も、その選択をする事自体は既定路線だ。
ただ、少年と金髪の男の行動を見て、心が少々揺れ動かされたのも事実だった。
……何故なら、高山浩太にはそんな突き動かされるような意志力は持っていないからである。
意志の強さと戦闘の勝敗に全く関係は無い、という事は高山も重々承知ではる。
だが、何故か心に引っ掛かったのだ。
このゲームをクリアした”勝者”には大金が支払われる。
それは、『傭兵』という仕事の日本の物価と比較すればあんまりな安月給から解放される程に。
それを得てしまったら、自分はどうすれば良いのか?
何のビジョンもなく、高山は長い傭兵生活で自分の定めるべき道を完全に見失っていた。
……一方で、戦場以外に高山浩太に生きる場所がないのは確かな事実でもあるのだが。
高山は静かに煙草を投げ捨て、ノコギリを握る手に力を籠める。
そして、自然と口から言葉がこぼれ落ちた。
「天にまします我らの父よ、願わくは御名をあがめさせたまえ。御国を来たらせたまえ」
高山は別に神を信じているわけではないし、基本的に無宗教だ。
だが、海外で無宗教となると危険人物として扱われるし、その関係で宗教には詳しくなった。
つまり、これは只の社交術とも言える。
……そして、多くの理不尽から目を逸らすのに、実に便利だ。
少なくとも、戦場においては。
「御心の天に成る如く、地にも成させたたまえ。我らの日用の糧を今日も与えたまえ」
祈りの言葉を口にしつつも、高山は自分の行動が皮肉にしか思えなかった。
とはいえ、歴史を紐解けば十字軍だって血に濡れた歴史だ。
だったら、高山の行動も血で血で洗う歴史の繰り返しに過ぎないのかもしれない。
「我らに罪を犯すものを我らが許す如く、我らの罪をも許したまえ」
正直に言えば、高山は自分が許されたいとは思っていない。
だが、目の前の少年の罪は赦され、天国に行って欲しいとは思っている。
敵味方両面で少年兵とは何度か出会った事はあるが、その末路は大抵悲惨なものだ。
味方として考えればお世辞にも使えるとは言えないし、敵側なら良心から目を逸らしさえすれば良い的である。
「我らを試みに遭わせず、悪より救いたまえ」
高山はしゃがんで、少年の眼を閉じてやる。
後頭部は悲惨なものだったが、顔は綺麗でどこか満足そうな印象を高山は受けた。
「国と力と栄とは、限りなく汝のもの成ればなり」
高山は少年の首筋にノコギリを添える。
祈りながら高山は、人類はとんでもない存在を信仰しているのではないかとふと考える。
もし、世界を創造した神がいるのであれば、それはやはり憎悪すべき対象ではないのだろうか?
このゲームを主催する人間を創造したのであれば、その存在は悪魔と言っても差し支えはない筈なのだ。
「アーメン」
(他ならぬ俺自身……悪魔の一人か)
そして、そんな高山の思考もこれから行われる惨事から目を逸らすための方便に過ぎない。
高山浩太は静かに少年の首にノコギリを振り下ろした。
スミス『はーい! スミスだよー! 記念すべき第一陣はこのメンバーだよー! 5択だけど、複数正解有り得るからね』
2:葉月克己 倍率:6.2 コメント:長沢君の分まで頑張って欲しいね。
J:御剣総一 倍率:6.7 コメント:簡単には死ねないよねぇ???
不明:手塚義光 倍率:5.1 コメント:一番頑張ってるね!
不明:漆山権造 倍率:9.9 コメント:大穴って奴だね!
不明:高山浩太 倍率:4.1 コメント:一番安牌じゃないかな!
スミス『第一陣は第一人気を省いた男性陣だよ! 男と女を混ぜると、偏りそうな気がするしね。流石に全滅はない筈……無いよね? 奮ってベットしてね! 一応期限は第二陣開始か、この中の誰かが死ぬまでだよ!』
スミス『あ、そうそう! このSSでは賭けたらバッドエンドとかないから安心してね? 某漫画の引用だけど、安全である事の愉悦って大事だよねぇ!』
第一回BET 誰にBETしますか?
-
2:葉月克己 倍率:6.2
-
J:御剣総一 倍率:6.7
-
不明:手塚義光 倍率:5.1
-
不明:漆山権造 倍率:9.9
-
4:高山浩太 倍率:4.1