秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第十三話 夢幻の貴方

 

――――――――――

人は他人に対して自分を偽るうちに、ついには自分自身に対しても偽ることになる。

-フランソワ・ド・ラ・ロシュフコー (フランスの公爵で、モラリスト文学の作家)

――――――――――

 

 

 

 

 郷田との通信を終えた渚は衝動的に寝室から飛び出て、戦闘禁止エリアから外に出ようとする。

 しかし、戦闘禁止エリアの出入り口の扉にもたれかかるように眠っている進矢が居る為、渚は外に出る事はできなかった。

 進矢は悪意があってそうしたのではないのだろう……ただ、寝ている間に誰か来ないか警戒する為に出入口に陣取っているだけだ。だが、それにより渚は出る事はできなかった。

 

(って、何考えてるのよ私……ここで逃げるなんて、『組織』が許すわけないわよね……)

 

 本気で逃げようと思えば、エアダクトなり使えばいい。

 だが、その結果がどうなるかと言えば、職務放棄による処断なり、何かしらのペナルティが想定されるだろう。

 そして何より、衝動的に逃げ出そうとはしたものの、渚は本心から逃げたいと思っているわけではないのだ。

 

 渚は、あらゆる抵抗を諦め、眠っている進矢の隣に座る。

 部屋は静かで、聞こえてくるのは進矢の小さな寝息のみだ。

 ……こうして、じっと顔を見ても自分が殺した”あの男”と全然似ていない。

 川瀬だなんて特別変わった苗字というわけでもなし、気づかなくても仕方なかったのだ。

 

「……お互いに馬鹿みたいよね。ねぇ進矢君」

 

 起きないように小さな声で呟く。

 そもそも、今回のゲームがイレギュラー続きなのだ。

 八つ当たりと分かっていても、渚を庇って進矢が記憶喪失になった事すら腹立しく思えてくる。

 

(そうなってしまえば、こんな気持ちにならなくて済んだのに……何も知らずに憎み合えたのに)

 

 渚は本当に大切な何かの為に、誰かを犠牲にし続けた。

 始まりを親友の真奈美に、そして……今まで己が参加したゲーム全てで。

 誰もが最終的には、自分の目的の為に戦う……そういう場所なのだ。

 主な業務がサブマスターという名のカメラマンである渚は、人気プレイヤーの同行者だ。

 このゲームの爆心地付近で、何度も生き延びてきた渚には分かっている。

 迷いを見せた方が殺される。

 そういう場所ですらある。

 だから、渚は躊躇せず自らの目的の為に多くの命をゴミのように扱ってきたのだ。

 

「糞、親父……」

 

 寝言が聞こえた渚は緊張感のない進矢の顔を見る。

 相変わらず、緊張感も何も感じない。

 それを見て、渚は気持ちを燃え上がらせかけ――なんとか自分の気持ちを落ち着けようとする。

 

 頭に熱が上がりすぎると眠れなくなるからだ。

 3日間不眠でゲーム踏破はやったことはあるが、あれはもう二度とやりたくない。

 寝れる時に寝るのもまた生き残る秘訣である、あと肌にも大事だ。

 

「待っててね、進矢君……貴方の為に、特別な舞台を用意してあげるから――」

 

 多くを殺してきたのだ。

 郷田に指摘されるまで、殺した人間の名前を憶えてない事や、殺した人数を把握してないことまで気づいてなかったのだ。

 止まれる訳がないし、渚自身止まりたいとも思ってない……その筈だ。

 

 記憶があろうが、なかろうがそんな事は関係ないのだ。

 

 渚は進矢の手を握る。

 少し荒れていて……今の鍛えに鍛えた渚からすれば、貧弱な掌だと渚は思った。

 

(そして、絶対に――私が殺してあげる)

 

 渚は目を瞑る。

 殺した人間の名前や数こそは覚えていないが、殺した人間の容姿とその死に様は毎晩夢に出る。

 忘れようとしても忘れられない。

 その人物が第一印象とどういう考え方をしていたか、ゲーム中のスタンスの推移、その末路。

 どんな信頼も理想も最終的に叩きのめされるのであれば、希望を抱かせる人間こそが苦痛であり害悪なのである。

 

 それぞれの悲劇を回顧し、最後に一年半前に川瀬進矢の父親を殺した時のゲームを思い出す。

 

(貴方の顔が絶望で歪む時が、楽しみ――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~~~~……あれ?」

 

 渚はふと扉の横で壁にもたれ掛かって眠っている自分に気づく。

 自分にかけられた毛布と不自然な寝てる場所……戦闘禁止エリア。

 状況と共に眠る直前の記憶を思い出し、スっと眠気を飛ばしながら起き上がる。

 

「お、渚さん。おはようございます」

 

 そんな慌てた様子で飛び起きた渚に対して、進矢はキッチンからちょこんと顔を出して挨拶した。

 

「あ、う、うん。おはよう~」

 

「朝食もうちょっとなので、身支度でもして待っててください」

 

「わ、分かった~」

 

――いやいやいやいやいや、ありえないでしょ!? 何やってるの私!?

 

 辛うじて表情を取り繕い、渚は何でもないかのように装う。

 だが、気づいてしまった。

 渚は疲れか動揺からか……昨日の夜、川瀬進矢の横で眠ってしまっていたらしい。

 寝ないように気を張っていたわけではないが、あそこで寝てしまえば……あの男にどう思われてしまったのかは想像に固くない。

 

(冷静に考えればファインプレーだから、昨日の件で気弱になって夜眠れず進矢君の隣で眠ってしまった私……そういう路線で行けば何も問題無いから)

 

 顔を水で洗うと同時になんとか熱も覚ましつつ渚はそのように思い返す。

 何も問題なかった。

 

(今日はどういう路線で行こうかしら? 進矢君の提案に気後れしつつも、前向きな路線で行かないと……組織の恋愛指南思い出さないと)

 

「ご、ごめんなさい川瀬君……寝坊しちゃったかな?」

 

 慣れた手順で完璧に身繕いを終わらせ、戦闘禁止エリアの広間に移動する。

 そこには簡素な和食料理をテーブルに並べ終えた進矢が待っていた。

 

「? まだ、起床予定時刻より前ですよ。渚さんも大変そうなので、朝食作っておきました」

 

 進矢は首を傾げながら答える。

 (大体進矢の所為だが)調子の悪い渚だから、気を使われてしまったのだろう。

 と言ってもその料理も本当に素人作である。

 主食・主菜・副菜・デザート……栄養バランスは悪くないが、配色のバランス……つまり見栄えが悪い。

 と言っても、渚の目が肥えすぎているのもある。

 人の作った料理をここ最近ずっと食べてなかったのだ。

 

「一応……味見もしましたし、良い感じでした。大丈夫です」

 

「もう……キッチン立入禁止って言ってたのに。でも、せっかく作ってくれたんだから食べてあげる.。……頂きます」

 

 やや不安そうな目で進矢から見られている事を確認した渚は苦笑しながら箸を手にした。

 各料理を一口ずつ食べていく。

 大雑把で、調味料がやや濃いめな味付け。

 食べ物同士の噛み合わせが悪く、しっくりこない味。

 ……だけど、味わってみると、どこか懐かしい味。

 

 

『渚~! 料理を何だと思ってるの~! これじゃあ、食材が可哀そうだよ~!』

 

『良いの良いの! 料理なんて、そこそこ美味しくて栄養があれば十分なの!』

 

『渚は本当に何もわかってない~! 分かった、今度私が作るから私の家に来て!』

 

 自然とそんな過去のやりとりが脳内から溢れ出る。

 小学生時代だっただろうか……。

 もともと料理をしなかった渚が、頑張って料理を覚えた時……幼馴染の麻生真奈美に凄く駄目だしされた事を覚えている。

 その時から、渚は真奈美の料理の大ファンになったのだ。

 

「泣くほど不味い!? ご、ごめんなさいー!」

 

 ……ふと、進矢の言葉で正気に戻った渚は自分の瞳から涙が垂れている事に気づく。

 もう何年も思い出してすらなかった真奈美との記憶で、どうして今更泣いているのか。

 渚は自分が分からなくなる。

 あの大っ嫌いな女の事で泣く理由がないはずなのだ。

 

「違うの。ただ――食材が可哀そうだなって」

 

「もっと酷いです!?」

 

 ショックを受けてる進矢を尻目に渚は黙々と食事を進めていく。

 食べながら、川瀬進矢がどういう人物か少しずつ頭の中で纏めていく。

 料理初心者――彼が何故料理を始める事になったのか。

 その結論は簡単だ。

 渚と同じで、必要に迫られたからだ。

 

 一年半前の急な父親の失踪――ゲームによる失踪であるならば、遺族年金・生命保険・退職金等のセーフティネットは一切適用されない。

 つまり、一家の大黒柱が急に失踪した場合は、まず切実な問題として無くなった収入の穴埋めをしなければならなくなる。

 それが、進矢の言う『自分はお金に困っていた』の真実だろう。

 渚は拙い料理が、渚を責めているような錯覚を受けた。

 

 勿論、渚はすべて分かって殺している。

 何故なら、自分が死んだ時は自分の家族が同じ目に遭うのだ。

 自分の大事な人達の為に多くの人を陥れてきたのだ。

 今更、自分の行為を咎められたところで、笑って自分の行為を肯定することができるだろう。

 

「渚さん、ハンカチ持ってきました。無理に食べなくて良いですよ」

 

「……それはそれで、勿体ないでしょう」

 

 一旦、食事を止めてハンカチで目元を拭わせてもらう。

 昨日からだろうか、涙なんてずっと流してすらいないのに、何時の間にか涙脆くなってしまってた。

 それが目の前の男の仕業と考えると、やはり相容れない人間だと思う。

 そして、何故渚が川瀬進矢を受け付けないか……その理由を渚はようやく、理解できるようになった。

 

「渚さんがどういう事情を抱えてるか知りませんし、言いたくなるまでは大人しくしておきますが……渚さんの味方ではあろうと思うので、何かあれば言ってください」

 

「……そういう所が嫌いなのよ。馬鹿」

 

 つまり、川瀬進矢は信じてるのだ。

 【努力】をすれば必ず叶って、幸せになる未来が存在するという事を。

 今まで散々酷い目に遭ってきたくせに……世の中は理不尽だと知っている筈なのに、或いはだからこそなのか……

 このゲームに初めて参加する前の【綺堂渚】のように、前向きで力強く未来に進み続けているのだ。

 

――だから、私に騙されるのよ……進矢君

 

 今度こそ渚から涙が溢れてくる。

 演技ではない本気の涙。

 どうして、こんなに涙が出るのか……渚は考え、答えに至る。

 今まで【麻生真奈美の仮面】を自分につけていたのは、他人を欺くためだとずっと思っていた。

 全然違った、他ならぬ自分自身の心を守る為のものだったのだ。

 それを失ってしまえば、心の壁がない状態で全てを受け止めるしかできない。

 

「渚さん……」

 

 進矢は恐る恐ると言った様子で渚の背中をさすってる。

 そんなに心配されてしまったのか、腫物に触るかの如くだ。

 だが、渚はそんな進矢を見ても滑稽にしか思えない。

 結局は彼も記憶を取り戻せば、あとは問答無用で殺し合いになる関係だ。

 ならば、今ここにいる渚に優しい川瀬進矢は幻想に過ぎない。渚にとってそれは可笑しくてたまらないし、憎々しくてたまらない。

 

「ねぇ、進矢君……」

 

 渚は弱弱しく、進矢に寄りかかる。

 

 渚だって何時までもこのままではいられない。

 これから組織の人間としてやっていくために、【麻生真奈美の仮面】を被ったいつもの【綺堂渚】に戻らなければならない。

 

 どうすれば以前の自分に戻れる? そんなの簡単だ。

 

 川瀬進矢を殺せば元の自分に戻れるはずだ。

 だから渚は自らの激情に従うかのように、川瀬進矢の耳元で最大の呪詛を唱える。

 今の進矢ではなく、記憶を取り戻した後も縛れるように。

 

「私を、たす……けて……」

 

「約束します」

 

 そして、渚は進矢の肩で泣いた。

 その涙の意味は渚にも分からなかった。

 一つ言える事は、抱きしめられても全然安心なんてできないという事だ。

 何故なら、目の前で自分を抱きしめているのは全部渚にとって都合の良い幻想に過ぎないからである。

 渚がどのような感情を目の前の男に抱いていたとしても、彼は記憶を取り戻した時にはもうこの世にはおらず、泡のように消えている。

 

「進矢君の、ばーか……ここが戦闘禁止、エリアじゃなかったら……引き離して引っぱたいてたんだから」

 

「ハハハ、結構俺って最低ですね」

 

 それでも言葉とは裏腹に、渚は力強く進矢を抱きしめる。

 

 ――このまま世界が終わればいいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんね。川瀬君、服汚しちゃって」

 

「この制服は洗濯しないでおきますね」

 

「……それはした方が良いと思うけどなぁ」

 

 ゲーム二日目の朝、目が覚めたら渚さんが隣で寝てたり、朝食作ったら渚さんが泣き出したり、波乱万丈だった。……元々、感性豊かで傷つきやすいから、天然を装ってた可能性に気づいてなかった。

 割とゴメンである。

 デリカシーピンチである。

 

 もしも、俺が今渚さんに騙されているのであれば『良かった、不幸な人は居なかったんだね』路線で自分を守るしかないのかもしれない。

 それはさておき……現実問題として、ゲームは続いているので行動はてきぱき動かなければならない。

 切実に仲間が欲しい。

 二人っきりだと色々ともたないぞ、主に俺が。

 

「冗談は置いといて、顔だけ洗いなおした方が良いですよ。準備とかはしておくので」

 

「そ、そうよね……川瀬君お願い」

 

 別にメイクなんてなくても、渚さんは普通にかわいいと思うが……そこは女性の感性的にはやりたいところなんだろう。

 

 色々あったが、ゲーム開始からまだ22時間しか経過していない。

 このペースであれば24時間前に3階には到着できそうである。

 眠らずに3階に行くべきか迷ったが、次に戦闘禁止エリアに何時行けるか分からなかったので、まずは体調を万全にすることを優先した形だ。

 ……結果は色々な意味で疲れた気がするが、体調的には万全と言える。

 

 俺はそそくさと食器を片付け、持っていくものの選別を済ませる。

 生存者数も未だ【11名】。

 これがゲームとしてどういうペースなのか良く分からないが、各プレイヤーの小休止とか取ってるか徹夜して上階を進んでいるとかで争いはあまりなかったということなのだろう。

 今は、寝ている間に人が死ななかった事を喜べばそれで十分だろう。

 

 これからのゲームの流れについてだが……

 今日は人を探しつつ情報なり、武器なりを増やして自分たちの行動材料・選択肢を増やして。

 最終日に手に入れた物次第で、相応の決着をつける。

 ってところか。

 15億の勝利条件が中々重く圧し掛かってくるが、出たとこ勝負でいくしかない。

 

 

(後の懸念事項は、俺の記憶が爆弾になりかねないってところだけど……)

 

 実は起きた直後、自分の鞄を探していた時にあるものを見つけている。

 【探偵ノート2】って書かれたノートが誰かから隠すかのように鞄の奥底に置かれていたのだ。

 夢の中で見たものと同じ……大事な何かが書かれているんだと思う。

 だが、少し考えた結果――俺はそれを読むのを辞めた。

 

 まだゲームが始まって24時間も経ってないが、俺は既に気づいている。

 このゲームは誰もが自分の中で大きな事情があり、その事情こそが誰かを傷付ける動機になっているということを。

 だから、俺が自分を取り戻してしまえば……もしかしたら、【川瀬進矢】は誰かを傷付けること、殺すことすら正当化してしまうかもしれないのだ。

 生き残る為に【Q】を殺すのかもしれないし、渚さんを傷付けるのかもしれないし、あるいは単純にお金の為に不特定多数を殺してゲームの最終生存者数を何人以下にする必要がでてくるのかもしれない……そこまでは分からないが。

 一つ言えるのは、ゲームにNOを突き付ける為に、俺の記憶は邪魔なのだということだ。

 

 だから、記憶を戻さない為に……この【探偵ノート2】は鞄の奥底に戻させてもらった。

 

「川瀬君、ごめん~! 待ったー?」

 

「大丈夫ですよ」

 

 ぴょこぴょこと渚が洗面所から戻ってくる。

 ビフォーアフターの感想としては、彼女から感じる明るさが上がった。

 割りとライトな化粧なのかもしれない。

 

「それじゃあ、気を取り戻して……今日も頑張っていこ~!」

 

「なんか、雰囲気が明るくなりましたね?」

 

「えっと、こういう私は嫌かな……?」

 

「そんな事はないですけど……」

 

 少し不安そうな色を渚が出すが、否定するとパッと明るくなった。

 訂正、どういう気持ちの変化があったのか分からないが、化粧の雰囲気ではなく普通に明るくなっている。

 躁鬱の躁状態かもしれない、気を配っておこう。

 

 そのように見ていると渚さんは自分の手荷物の確認を終え、俺に向けて手を差し出してくる。

 

「それじゃあ、いこっか!」

 

「……何ですか、その手」

 

「……!? それは、えーっと……」

 

 指摘されるまで自分の行動の意味に気づいていなかったのか、そのまま顔を紅潮させながら硬直する渚さん。

 昨日の渚さんの面影は表裏含めて全然感じられない。

 昨日で渚さんの事を分かってつもりになってきたが、渚さんの事が全然分からなくなってきた。

 何だ? 男性掌握術パート2なの?

 日替わりで人格変わるの?

 

「ほら! 罠に引っ掛かっても、手を繋いでればカバーできるでしょ!」

 

「そういう問題ですかね……?」

 

「そういう問題なの! それとも、川瀬君は嫌……?」

 

 そして、渚さんは表情にスッと蔭を差した。

 やめてくれ、そういう空気は苦手なんだ……誰か助けて、俺が悪いの!?

 過去を振り返るとなんか俺が悪い気がしてきた……そっかー……。

 

「そうですね、言われてみればそんな気がしました」

 

「そっか! じゃあ、はい……特別、だからね?」

 

 根負けして、彼女の手を握ると、渚さんは表情をパッと明るくして恥ずかしそうに控えめに手を握る。

 俺も同じく居心地が悪くなり、少し顔を逸らす。

 今、こういうことをしている場合じゃないのだろうか?

 俺は訝しんだ。

 

「じゃあ、ここから3階までだねー。出発進行~!」

 

「お、おー」

 

 暗いより、悲しんでるより……百倍マシなのは確かだが。

 昨日の渚からは安心させるような心地があったが、今の渚からは周囲を明るくするような声色を感じる。

 どちらの方が優れているというわけではないが、なんとなくそう感じる。

 いずれにせよ、戦闘禁止エリアを出た俺達は再び殺し合いゲームの場に立つこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3階への階段までは特に何も問題は無かった。

 強いて言うなら、武器クロスボウを手に入れた位か、あんまり使う気はないが牽制として一応持たせてもらっている。

 あとは現在位置を表示するGPS機能も地味に便利だ。

 現在位置に気を払う余裕を罠や周辺警戒に移すことができ、心理的余裕の確保と移動時間軽減につながっている実感がある。

 

 だからだろうか、3階に着いて廊下へと踏み出し歩くこと30分弱……先に相手に気付くことができた。

 

 

「渚さん静かに……誰かいます。子供?」

 

 小柄な身体にボーイッシュな服装、短めの髪の茶髪。

 初めて見る子供だ。

 エントランスで亡くなった少女よりは年上……恐らくは中学生程度。

 渚さんの解除条件である全員生存を考えれば当たりの部類になるのだろうか?

 

「う、うん。進矢君、どうする?」

 

「ちょっと声をかけてみますか、渚さんは離れて――」

 

「べ~~」

 

「――一緒に行きますか」

 

「よろしい」

 

 あっかんべーのポーズをされてはたまらないので、掌を返す俺。

 注意深く周囲を見渡すが、彼女は休んでるのか顔を俯かせている。

 場所は小さなホール。

 周囲には誰も居なさそうだ。

 

 ……その年齢でこの環境は一人だと、随分心細そうだ。

 

 彼女への脅威よりも心配の方が上回る。

 武器は置いて、話しかける事とした。

 

「誰!?」

 

 少女は声をかける前に俺達に気付く。

 そして、腰から黒光りする何かを引き抜き、俺達に向けた。

 

――もしかして、それって拳銃か!?

 

 記憶がないが、知識からそれを当然のように理解し、反射的に前に出て渚さんへの射線を塞いだ。

 

「待って、君に危害を加える気はない! 武器もないし」

 

「嘘ね、覚えてるよ。2階であたしを撃ったでしょ、その時の金髪の女は殺した?」

 

「へ?」

 

 想定外の言葉に完全に固まる。

 

 撃った? この子を?

 誰が……俺じゃない、御剣先輩か矢幡先輩が?

 

 巡る思考と隠し切れない精神的動揺。

 それは銃を突き付けられた状態では絶対的な隙だった。

 

――パァン!

 

 腕が引っ張られ、ほぼ同時に銃声が鳴る。

 発砲音と着弾の音が響くと同時に、俺は通路の角まで引きずられた。

 

「ほら、ちゃんと手を繋いでて良かったでしょ?」

 

「……ありがとうございます」

 

 少し呆れた表情の渚が、俺を見下ろしていた。

 ……渚さん、腕の力が強い。

 俺、この人がいなかったら何回死んでたんだろ?

 感謝はあるが、今は撃ってきた少女の方だ。

 

「落ち着いて、君を撃ったのは……よく似た別人だから!!!」

 

「言い訳ならもっと、マシなのにしたら!?」

 

 ――パァンパァン!

 

 隠れてる角のコンクリートが抉れる。

 怖いは怖いが、逆の立場ならそう言ってたかも……。

 とはいえ、いつまでもコントやってる場合じゃない。

 目の前に広がる現実は残酷だが、それでも向き合わなければならないようだ。

 近づいてくる少女の気配に向けて、俺はどうするかを思案し始めた。

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