秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第十四話 悪夢は追いつく

 

 

 

 

―――――――――――

この世の出来事は、予期せぬ時に突然起こる。人は自分を支配していると感じたいのだが、支配出来る時と出来ない時がある。我々は偶然の力には抗えないのだ。

ポール・オースター (米国の作家)

―――――――――――

 

 

 

 

 

『良いか進矢……日本の警察で支給される拳銃は――』

 

 緊張感と同時に、思考が勝手に巡る。

 俺の中で誰かの声と何かがフラッシュバックし、疑問の答えが分かる。

 ”俺”が実物を見るのは初めてだが、あの少女が持っていた銃には見覚えがある。

 子供の頃、誰かから教えてもらった筈だ。

 

「まぁ、攻撃したということで信頼はできないだろうけど……俺達にゲームに乗る意志はないんだ。この状況で良いから、話し合わないかい? お嬢ちゃん」

 

「関係ないよ! 私を騙すつもりなんでしょ!? お金を持って妹の所に帰る! その為に……悪いけど、死んでもらうよ!」

 

 ……そういえば、彼女の服に血がついてたな。

 怪我をしたのか、誰かに怪我をさせたのかまでは分からない。

 一瞬だけだったが、血走って殺気立った目と所々傷ついた皮膚から相応にこのゲームの洗練を受けている事を感じさせた。

 ……説得は難しそうではある。

 

 お金の問題というのも厄介な話だ。

 覚悟はしてたが、速攻で競合相手に出会うとは思わなかった。

 

「進矢君……一旦、逃げた方が」

 

「いや、この場でなんとかします。大丈夫です」

 

 ……少なくとも、”あの”銃に関しては恐ろしいが勝算はある。

 だから、俺は笑って心配そうな渚さんに応じた。

 状況は最悪だが、脳の方は不自然なほどに冷静だ。

 

(人を無力化する武器はあれがあったな……あの手で行くか。相手は冷静そうに見えないし、まだ銃の扱いに慣れて無さそうだ。こういう時に、相手を逆上させる言葉はっと)

 

「誰かを殺して手に入れたお金で、妹さんの治療をしても妹さんは喜ばないよ!」

 

「……っ、うるさい! お前に何が分かる!」

 

――パァン!

 

 銃声が聞こえると共に身体を飛び出させる。

 少女に小銭を投げ、彼女を中心として円を描くかのように少しずつ近づこうと走る。

 焦った少女は、更に銃を発砲させた。

 

――パァン!

 

 だが、当たらない。

 当然だ、固定された的ならともかく、素人が高速移動している対象を当てる事はできないだろう。

 その銃声を聞いて、俺は真っすぐに少女に突っ込む。

 

――カチャカチャ

 

「弾切れ……!? そんな……!?」

 

「残念、その銃って装填数5発なんだよ」

 

 予備の銃を持っている事を考慮しても、既に構えている銃を発砲するのと銃を持ち換えて発砲するのでは、取るべきアクションの数と難易度が段違いだ。

 真っすぐ敵が近づいている状況では猶更である。

 故に、あとはもう肉弾戦なのである。

 俺は迷わず、ポケットからスタンガンを取り出し少女に押し付けた。

 

「こんなところで……!」

 

「はい、バーン」

 

「きゃああっ!!!」

 

 電撃が少女に通電し、力を失い彼女は倒れる。

 気絶はしてないが、割と痛そうだ。

 戦いの趨勢を決めるのは一瞬とはいえ、命が掛かっている……終わってしまえば冷や汗もびっしょりだ。

 拘束するものは……ないので、一旦は武装解除する必要がある。

 身体検査という意味合いであれば、デリカシーという意味で渚さんにお任せする必要が出てくるだろうが。

 真っ先に拳銃と少女のPDAを取り上げ、内容を確認する。

 

 

【6 JOKERの偽装機能を5回以上使用。自分で使う必要も、近くで行う必要もない。】

 

 見事なまでに非殺人条件である。

 JOKERどこにあるか心当たり全くないけど。

 あとは彼女の目的次第だな。

 

「し~ん~や~く~ん~?」

 

「ひぃ」

 

 背後から猛烈に嫌な予感がした。

 振り返ると無理やり作り笑いを浮かべているような、渚さんの姿があった。

 ……俺何か悪い事した?

 女の子にスタンガンぶっ放した事は悪い事に入りますか???

 ……入りそうだ。

 

「馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿! 拳銃相手に突っ込むなんて危険すぎるよ! 何考えてるの!?」

 

「そ、そっちか……大丈夫だったから良かったじゃないですか」

 

「結果論! もし、進矢君が、死んだら……! 私は――、私は……」

 

 言葉を詰まらせる渚さん。目には悲しそうな表情で涙を浮かべている。

 ごめん……でもオチは見えたぞ。

 俺が死んだら15億をどうにかする目途が立たなくなるって奴だな、分かるよ。

 その為に資金の配分を含めて、女の子をどうにかしなければいけない訳だが……

 

 ふと、天啓のようにある言葉が脳裏に響く。

 先程、聞こえた言葉とは別の人物の言葉だ。

 

『気を付けろ進矢、このゲームで銃をぶっ放すと騒音でゾンビがワラワラ寄ってくるんだぜ』

 

 

 何のシチュエーションで聞いた言葉か忘れたがニュアンスは伝わる。

 なるほどなるほど、銃声とはそれそのものが大きな音を出してしまうと言う事だ。

 それをホールの奥の通路で視界に捉えた俺は、即座に判断を迫られる

 拘束した女子一名、もう一人の女、男一人……狙われるとしたら……俺だ!?

 

「小僧、死ねぇ!!!」

 

「嫌だぁ!?」

 

ーーパァン、パァン!

 

 少女から飛び退き、銃弾の射線から離れる。

 と言っても、結構な距離だったからそんな事をしても当たらなかったかもしれないが。

 そう思える程、拳銃を撃ってきた男ーー漆山権造の射撃が大雑把だった。

 片手打ち、反動を逃し切れてないフォームが悪いのだ。

 だが、いつラッキーヒットが炸裂するか分からず今度こそ分が悪い。

 なんとか女の子を連れて逃げなければーー

 

「ここで、3人……お前達を殺せばあと7人だぁ!!!!」

 

「しかも、皆殺し条件かよ!?」

 

「あたしのPDA返してもらうよ!」

 

「ちょ!?」

 

 そして、一つの事態に対処できても複合要因から発生するもう一つのトラブルまでは対処できない。

 先程スタンガンを当てた少女が即座に復活を果たし、俺からPDAを取り上げて拙い足取りで逃げていく。

 まだダメージは残っているだろうに、その意思力は感嘆に値するだろう。

 後を追おうと渚さんに目配せしようとしたら、信じられない光景を見る。

 彼女は慣れた手つきでクロスボウを構えていた。

 

「進矢君によくも!」

 

「渚さん何やってんの!?」

 

 あんまりな光景にツッコミをするが、もう彼女は止まらない。

 彼女はクロスボウを、漆山権造へとむけている。

 そして静止する間もなく、矢を発射した。

 

ーーヒュン

 

 矢は綺麗に漆山権造の持つ銃に当たり、そのまま拳銃は吹き飛ばされた。

 それがどれくらいの神業かは素人の俺には分からないが、まるで魔法でも見せつけられたかのようだ。

 

「ひ、ひぃ!?」

 

 事態を把握した権造は、そのまま情けない声を上げて逃げ出す。

 そして、衝撃ですぐに動けなくなったのは俺も同じだ。

 

「渚さん……今のって……」

 

「!? ……えーっと、進矢君! あの子を追いましょう!」

 

「は、はい!」

 

 少し悩むが、皆殺しのナンバーナインの漆山権造とジョーカー5回使用の少女では少女の方がまだ交渉相手としては的確だと言える。

 なによりも、相手はまだ子供なのだ。保護しなければという思いもあった。

 だから、俺は一時的に目の前に起きた出来事から逃避し、彼女を追うという意見に賛成した。

 

 無事に見つかる事を祈ったが、その願いは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦ってしまったから、次は完全に問答無用ですね……すいません、素人考えで事態を悪化させてしまったような気がします」

 

「それは仕方ないよ進矢君……横槍があるなんて分からなかったんだもの」

 

 結局、俺たちは10分少々で捜索を打ち切った。

 少女が銃を持っている事から、不意打ちで撃たれるとどうしようもないと言うのもある。そして、その時の俺たちに対抗手段がないのだ。

 最初から逃げれば、まだ彼女の心象を害せずに済んだんだろうか。

 いずれにせよ、難しい舵取りを今後も迫られそうである。

 

「二人の解除条件も分かったんだし、私達に怪我一つないからむしろ大戦果よ」

 

「言われてみれば、そうですね」

 

 そして、渚さんの言う通り名前は分からない少女と漆山権造の解除条件は判明した。

 少女もそうだが、皆殺しも重い……それでも、誰が持ち主か分かっただけでも収穫であると言えるだろう。

 

「不本意ですが、俺達も銃を探すしかなさそうですね……」

 

「――うん」

 

 渚さんが俯いた表情で、俺の言葉に同意する。

 

『銃を撃つ事態は最悪だが、最悪を背負ってもより悪い未来を回避するために撃つんだ』

 

 また、声が聞こえる。

 もう望む望まざるにかかわらず、俺の記憶は戻るのかもしれない。

 

 渚さんは何者なんだろう?

 当たり前のようにクロスボウを人に向けて放ち、火事場の馬鹿力だったのかもしれないが俺より力そのものは上。

 そんな疑問も過るが、関係ないかと振り払う。

 何者であろうと守るべき、そして大好きな渚さんには違いないのだ。

 ……全部、俺を守る為に行ってきた事だし、いずれ話をしてくれる時も来るかもしれない。

 

「あ、進矢君! この部屋とか、何かありそうと思わない?」

 

「確かに、今まで武器を見つけた部屋もこんなレイアウトでしたね」

 

 そして、ゲーム開始から24時間経ってくると物が置いてある部屋、何もない部屋……その見分け方が少しずつわかるようになってくる。

 いかにも何かありそうな部屋に、手を繋いだ俺達は一緒に入っていった。

 

 

 手分けして部屋の中を探す事約一分。

 他のボロ箱とは違う、雰囲気の異なる新し目の箱を見つける。

 物資は、今回のゲームに合わせて新しく補充されているようで、見つかりやすいのは良い事である。

 

 ……慎重に箱を開けると、黒光する拳銃を見つけた。

 そして手に取る。

 

「――チーフスペシャル・エアウェイト、ねぇ」

 

「進矢君?」

 

 怒涛の如く、知識が流れ込んでくる。

 知識だけではない。

 何故、この銃を知るに至ったのか。

 ……そうだ、親父に憧れていたから、親父の仕事について知りたかったんだっけ。

 まるで、自分を塗り替えるかのように――

 

 いや、違うな、この自分こそが本当の自分だ。

 

「日本警察に配備されてる、拳銃だな。軽量で使い勝手がいい」

 

 生まれた時、幼少期……

 父に憧れ正義を志し、それが原因でいじめられた事。

 父親に失望し、引きこもった時……兄にゲームに誘われ救われた時。

 少しずつ、昔から思い出してくる。

 

――自分が自分じゃなくなる。

 

 頭を抑え、抵抗を試みるが……大波相手に小石を置くがごとくだ。

 俺にはどうしようもなく無力。

 ただ、一つできることがあった。

 

「渚さん! 全てを思い出しそうなので……逃げてください!!!」

 

 何故、渚さんを逃がさなければいけないのか、その時の俺には全く分からなかったが。

 継ぎ接ぎだらけの記憶から、それを抽出することができる。

 1年半前――クリスマスだったか、俺の親父が消息不明になった……確か、このゲーム最初に目覚める前に夢を見た時……あれが親父と話した最期だった。

 

 衝動的に鞄の中から、【探偵ノート2】を取り出し、あるページを開く。

 

 わけのわからないまま金策と特待生の為に勉学に明けきれる傍ら、親父の影を追い続けた。

 そんな中、一週間前に新聞の切り抜きを使った脅迫状のような手紙が俺に届いたのだ。

 その中身は――ノートに張り付けてある。

 

【お前の父親を殺した人間は『綺堂渚』だ】

 

――カチャリ

 

 と銃の安全装置が外れる音が聞こえる。

 夢心地から現実に戻ってきた俺が見たのは、無表情で銃を構える【綺堂渚】の姿だった。

 彼女がいつどこで銃を手にしていたかは分からないが、現実としてそこに銃がある。

 そこで初めて分かる、逃がすべきは渚さんではなく自分であった事に。

 

「……本当、なんだな」

 

「いつか、悪夢が追い付てくると思ったけど……思い出さなければ、夢を続ける事ができたのにね」

 

 先程の少女や漆山権造とは違う気迫。

 がむしゃらな殺意ではなく、銃の達人が静かに殺意を向けてくる感覚。

 あの二人なら容易に抵抗できた。

 だが、今度こそ俺はもう諦観しかなかった。

 渚さんに感じていた愛情は霧散し、敵意を向ける気力も沸かない。

 

「このゲームはショーであり、見世物だ。俺は父の仇を取る役として呼ばれたが、そこで事故起こる。それが、外傷性健忘症だ。だが、【組織】はそれを好機とし、もっと悲劇的なショーにする事を思いついた」

 

「……えぇ、川瀬進矢。貴方は本当にてこずらせてくれたわ。そして、これがショーだからこそチャンスを上げる」

 

「……チャンス?」

 

「銃を取りなさい、川瀬進矢」

 

「……」

 

 考える。

 今、俺にできることは何か。

 銃を手にとったとして、綺堂渚に反撃し勝てる確率は万に一つもない。

 じゃあ、逃げるかと思ったが扉は綺堂渚の背にある為、俺に逃げ場はない。

 ……今、俺にできる最大の復讐は何か。

 

「俺は何もしない」

 

「ふざけるな!」

 

「うっ……」

 

 綺堂渚の蹴りが胴体に入る。

 やっぱりパワーが強い。

 だが、関係ない。

 

「お客様に絶望の表情をお見せするのが仕事? 苦悶の表情? 怨嗟の声を出した方が受ける? しないよそんな――がっ」

 

 綺堂渚のパンチが顔に入る。

 脳が震盪し、身体がフラフラになる。

 口の中切ったかもしれない、口内から血を吐き出す。

 だが、それだけだ……痛いは痛いが、分かっていれば我慢できる。

 

 このように死ぬまで無表情で耐えていれば、ショーとしては盛り上がらない。

 地味で、無意味な虚しい復讐もあったものである。

 

「どうして……どうして今更思い出すのよ!」

 

 そして、先に根負けしたのは綺堂渚の方である。

 彼女は瞳に涙を溢れさせ、俺に訴えかける。

 ……それに俺が応える事はない。

 当然だ。

 俺は俺で一杯一杯なのだから。

 

「アンタの事は、ずっとずっと大嫌いだった!!!」

 

「……まぁ女性に好かれた事は無いんで、そういう事もあるでしょうよ」

 

――ガン

 

 渚さんに踏みつけられる。

 一部人間にはご褒美かもしれないが、俺にはご褒美じゃない。

 

「今のまま、殺すのは簡単だけど……それじゃあつまらない、だからチャンスを上げるわ。川瀬進矢」

 

「そいつは……慈悲深い事で」

 

 皮肉交じりに俺は答える。

 ……綺堂渚の姿を見て、心が痛まない訳じゃない。

 だが、俺に何ができると言うのだ。

 彼女との関係のどこまでがショーで、どこまでが本物だったか俺に判別する術などないのだ。

 綺堂渚は俺を踏みつけていた足を離すと、距離を放していく。

 

「今から貴方をここから、落とす。上がってきた時が、貴方の最後よ」

 

「落とす、ね」

 

 それができる事こそ、ある意味で組織側の人間である事の証明ですらある。

 まさかの非暴力不服従が命を長らえらせるとは……誰が気づいただろうか。

 運が、良かった……のかもしれない。

 あるいは――

 

「絶対に上がってこない事をお勧めするわ。その時、貴方は絶対にゲームをクリアできない――だって、私が殺すもの」

 

「……分かってる癖に」

 

 その脅しは無意味だ。

 何故なら、俺が諦める事はないからだ。

 だから、少しボロボロになった身体を上げ、綺堂渚を見上げた。

 ……彼女の瞳は大粒の涙を溜めていた。

 

(……ばーか)

 

 身体が浮遊感に包まれる。

 衝撃に備えたが、柔らかい感覚を受けそこがベッドである事に気付く。

 その後、綺堂渚が落としてきたのか、俺の荷物と……先程の部屋に置いてあった拳銃が落ちてきた。

 そして、上の扉はゆっくりと閉まり、完全に見えなくなった。

 

(あんなに泣かれると恨めないじゃないか……卑怯だよ)

 

「思えば、ずっと二人でこのゲームは動いてたな」

 

 一人旅か……そう考えるだけで心細くなる。

 あの少女や漆山権造の気持ちが少しは分かってきた、この不安感に長時間耐え続ければおかしくなるに違いないのだ。

 

「これが本当の意味のゲームスタートか、随分なスロースタートだったな……」

 

――ピロリンピロリンピロリン

 

『開始から24時間が経過しました! これよりこの建物は一定時間が経過するごとに1階から順に進入禁止になっていきます』

 

「早いと言えば、早いし……遅いと言えば遅いが、やれるだけやるしかないか」

 

 荷物を手にして、銃をポケットにしまい込む。

 記憶を取り戻したとはいえ、まだ夢見心地から完全に抜け出せたわけではない。

 せめて、誰かと合流して小休止したいところではあるが――

 

 

「いやあああああああああ!!!!!」

 

 

 どこかから、女性の悲鳴が聞こえる。

 やれやれ、記憶戻って早々お仕事とはせわしないことだ。

 

(……まさか、な)

 

 ふと、ある疑問が俺の頭に浮かぶがそれを振りほどき悲鳴の元に急ぐ。

 

 

 扉をあけて、駆ける。

 すぐ近くに血を出して倒れている女子高生らしき女性と……金髪の男、手塚義光の姿があった。

 俺は迷わずに銃を抜き叫ぶ。

 

「両手を上げろ!」

 

 警告はマナーだ。

 必須ではないが、推奨される行為。

 拳銃を構えた感想としては軽いが、心は重たい。

 よくもまぁ、あの二人は簡単に撃てたように思う。

 俺はできれば、一度たりとも撃ちたくないんだがな……それとも、それが慣れる時が来るのだろうか。

 

「げっ、川瀬か!? だが、その銃……玩具か? 撃てるのか――」

 

――パァン!

 

 手塚から射線をずらして、一発射撃する。

 想定よりは反動が少なかった。

 

「事態が緊迫でないときは、威嚇射撃することが求められる。今回の場合は玩具でないことを証明する為に、撃った」

 

「はっ……あの黒いゴスロリの姉ちゃんはどうした? 裏切られたか? ん?」

 

「……黙れ」

 

 口の減らない奴だ。

 倒れている女子高生は青白い顔で、俺を見つめている。

 負傷箇所は背中だろうか、ナイフで刺されている……大きな血管をやられたか分からないが治療が必須だろう。

 ……少しでも遅れた場合は、殺されていたであろうことを考えれば間一髪だった。

 

「おいおいおい、図星かよ。金髪のねーちゃんにも裏切られて……こんな事を続けてたら、お前……死ぬぜ?」

 

「俺の命を心配するなら、自分の命を心配した方が良いんじゃないのか?」

 

「それもそうだ……じゃあな?」

 

 そして、手塚は去っていった。

 相変わらず食えない男である。

 だが、彼も無傷ではないのだろう……返り血かもしれないが、服装に所々血がついていたり、帽子が無かったりした。

 

 ……まぁ良い、いまするべきは彼女の治療だ。

 幸か不幸か、救急箱は手元に持っている。

 

「……患部の治療をしないといけないから、悪いけど制服脱がせないといけないぞ」

 

「助けて、くれるんですか……」

 

「ノーと言われてもな」

 

 不安そうな表情で揺らぐ彼女に対して、有無を言わさぬような口調で俺は言った。

 身体的にも精神的にも弱ってそうな印象を受ける。

 今まで出会ってきた女性たちは良くも悪くも、強さの印象が強いが……彼女からは儚さの印象が勝った。

 

「それとも、助けて欲しくなかったか?」

 

 だから、聞いてみる。

 彼女がどういう事情を抱えてここまで来たのか。

 

「助けても無駄ですよ……私はこのゲームで、この怪我で……2日と23日も生き残れません! せめて、Aの人に殺されようと……ここまで、頑張ってきたんです……!」

 

「え、えぇ……?!」

 

 絞り出すように彼女は答える。

 その言葉の意味することは一つしかない。

 そして、俺の中ですべては繋がった……。

 綺堂渚はこうなる事が分かって、俺を2階に落としたのだと。

 

(……やってくれたな、綺堂渚ァ!)

 

 心の中で俺は叫びつつ、治療の準備を進めるのであった。




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