秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第十六話 再び立ち上がる

 

 

 

――――――――――――

真の英雄的行為は、驚くほど淡々として劇的でもない。それは人に勝りたいという思いではなく、人に尽くしたいという思いからなされるものなのだ。

アーサー・アッシュ (米国のテニス選手)

―――――――――――――

 

 

 

 

 姫萩先輩は目を見開く。

 俺が【A】だと考えて居なかったんだろう。

 もし、【A】だったら、最初に【Q】のカミングアウト紛いの事をした時点で殺されたと考えて居たとか……ちょっと殺伐とした人生を送りすぎではないだろうか?

 

「か、川瀬さんが……【A】だったんですか!?」

 

「残念でしたね、姫萩先輩。俺は貴方を殺す気はありません……死ぬことを考えるのではなく、諦めて2日と23時間生き延びる方法を考えましょうか。そっちの方が建設的ですよ? きっとね」

 

「……どうして、ですか」

 

 彼女の綺麗な瞳に光が宿る。

 それが、怒りなのか戸惑いなのか哀しみなのか。

 ……いずれにせよ、彼女の気持ちを受け止める資格は俺にあるのだろうか。

 勿論、彼女が自殺しようとしたら止めなければならないだろうが。

 

「理由は言いました」

 

「それなら……どうして……貴方なんですか!?」

 

「……ごめんなさい」

 

 姫萩先輩は力弱く、俺の方を叩く。

 このゲームで、一人で過ごす辛さ……心細さを俺は知らない。

 それでも、彼女は誰かの為の生贄になる為に一人でずっと歩き続けてきた。

 そんな彼女に、この結末はあんまりなのかもしれない……俺が言えた事ではないけども。

 

「それでも、姫萩先輩は生き残るべきです」

 

 ――例え、このゲームで何人死のうとも。

 

 ――生きて帰った後の日常がどんなに灰色だとしても。

 

 そんな言葉が喉まで出てきて引っ込める。

 これは明らかに強者の理論だ。

 俺が彼女にかけるべき言葉は何だろう?

 ……ぱっと思いつかず、俺は口ごもった。

 

「それでも……嫌です」

 

「強情ですね」

 

「だって……それなら、両親の事を抜きにしても川瀬さんの方が生き残るべきだと思うからです」

 

「ストップです。そこから先は不毛な水掛け論ですよ」

 

 対人コミュニケーション経験に自信はない俺だが、これでも接客業を1年以上続けたのと兄弟喧嘩経験は無駄に豊富である。

 その経験からわかるのだが、二つの解決できない要素だけで対立してしまっては、上手く議論が進まない……つまり、感情的な言い合いになってしまう。

 

 そもそも、姫萩先輩は今視野が狭くなっている。

 一つの命題に囚われすぎなのだ。

 すなわち、【生きるべきか、死ぬべきかそれが問題だ】と。

 

「どうすれば良いかなんて、姫萩先輩は既に答えに辿り着いてる。先輩はそれに気づいてないだけです」

 

「答えに、辿り着いている……? 仰ってる意味が……」

 

「ちょっとニュアンスが違いますけど、【Q】が無駄死にすると【A】を巻き添えにしてしまう部分です」

 

「はい、死ぬ前に……やっと見つけた、私のできる事です」

 

「姫萩先輩が自分の能力だけを想定した範囲内ではベストだと思います。でも、元々……一人でできる事なんてたかが知れている。だから……えー、二人でもう一回頑張ってみませんか?」

 

「二人、で……」

 

 静かに俺の言葉を聞いていた姫萩先輩は呟きながらおれを見る。

 彼女は元々ゲームに積極的ではなく、消極的には反対していた。

 

 姫萩先輩は弱いから、自分の力が及ばないから諦めただけ?

 

 そうかもしれない。

 それでも、悪意と欺瞞に塗れたこのゲームに彼女は必要だ。

 だから必然、俺が彼女にかける言葉は一つしかない。

 

「俺一人じゃ、このゲームはどうしようもできない。姫萩先輩の力が必要です」

 

「私……足手まといにしかならないですよ」

 

 俺は立ち上がり彼女に手を伸ばすが、彼女は恐縮して手を伸ばさない。

 俺もまた、この行動が正しいかはわからない。

 立ち上がった結果、より悲惨な結末が待っているかもしれない。

 それでも、何もしないでいるより余程良いはずなのだ。

 

「俺だって、誰かさんの露骨な介入がなければ3~4回はゲームで死んでたんですが」

 

「川瀬さんのように戦う事はできないですし」

 

「直接戦うのは俺が頑張るから、その間に背中を守って欲しいですね」

 

「私に、何かができるとは思いません……」

 

「できるかできないかではなく、やるかやらないかです」

 

 視線が交差する。

 大事なのは意志だ。

 俺はよく失敗する事がある。

 失敗そのものは悪い事かもしれないが、それは挑戦の試行回数が多い事の裏返しでもある。

 失敗すればフィードバックして、次により良い結果を導き出せばいい。

 命が続く限り、それができる筈なのだ。

 ……ゲーム中で何度か死にかけた俺が偉そうに言える事ではないだろうが。

 

「川瀬さん……誰もが貴方のように強くはなれません」

 

「俺が強いかは別として、強くあろうとする事は誰にでもできます」

 

「……」

 

 姫萩先輩の瞳が揺れる。

 俺の理想とする強さは、親父のような正しさを押し通せる強さだけど……正直、全然自信がない。

 先程の綺堂渚に蹂躙された時の記憶は、記憶を取り戻したてだったからこそ半ばトラウマだ。

 

 ――綺堂渚には勝ち目がない。

 

 そんな気持ちはある。

 というか、綺堂渚の事が頭に過る度に俺は震えと共に逃げ出したくなる。

 逃げられるなら、というか……目の前の姫萩先輩を殺して逃げるという選択肢が目の前に一応あるが。

 実行に移す気概はなくても、絶えず悪魔は俺に囁き続けている。

 

「……分かりました。御迷惑でなければ、協力させてください」

 

「交渉、成立ですね」

 

 姫萩先輩が俺の差し出していた手を握り、立ち上がる。

 自分の中の後ろめたさが増えるが、同時に悪い声が聞こえなくなった気がした。

 これでは、どっちが助けて貰う側なのか俺には分からなくなってくる。

 

 そんな俺の想いを知ってか知らずか、姫萩先輩が少し涙ぐんだ瞳で俺を見ていた。

 

「川瀬さんは酷いです……貴方が【A】でなければ、私は諦められたのに……」

 

「それは、奇遇ですね。似たような事を俺も姫萩先輩に感じていた所ですよ」

 

 ……一応真実ではある。

 諦めるつもりはないが、諦める理由が増えるのは勘弁願いたいところだ。

 

「ふふっ、お気遣い頂き……ありがとうございます」

 

「そんなのじゃないと思うんですけどね」

 

 さて、このゲームで一度物理的にボコボコにされてしまったが……記憶喪失になっても、結果として身体は五体満足で済んでるし、生きてるだけでも儲けものだ。

 そして、生きてるからこそ何度でも再挑戦できる。

 

 よし、ここから仕切り直しといこうか!

 

――ぐぅ

 

 ……どこかから、気の抜けた音が聞こえた気がする。

 

「姫萩先輩……このゲーム中、ちゃんと食べてます? 睡眠ちゃんと取ってます?」

 

「い、言わないでくださいぃ!?」

 

 姫萩先輩はカァっと効果音が脳内で聞こえる位に顔を赤らめさせて、手を振る。

 カワイイ……じゃなくて、なんかごめんなさい。

 

 ここからどう動くにせよ、休憩が必要なのは確かだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

『●登場人物まとめリスト(仮)』

 

・安全

川瀬進矢

姫萩咲実

 

・未確認

葉月克己(気のいいおじさんらしい)

長沢勇治(生意気だが、頭の回る子供らしい)

高山浩太(頼りになりそうな精悍な男)

 

・不明

御剣総一(解除条件は【J】、矢幡を守る約束をしている。俺と顔がそっくり。北条かりんを撃った?)

八幡麗佳(解除条件は言動から【3】か【10】と思われる、御剣先輩を殺してないか不安。北条かりんを撃った?)

 

・要救助者

北条かりん(解除条件は【6】、重病で入院中の妹がいる……お金が必要っぽい)

漆山権造(解除条件は【9】、セクハラ親父らしい)

 

・敵

郷田真弓(解除条件不明、解除条件とは別の思惑で動いていると思われる。)

綺堂渚(解除条件は【7】,未遭遇は姫萩咲実と長沢勇治と葉月克己と高山浩太)

手塚義光(解除条件は【8】か【10】か【K】。少女殺害者,交渉の余地無)

 

・死亡確認

色条優希(手塚によって殺害、解除条件は不明。小学生の女の子)

 

 

 

 その後、食事の準備をしようとしたら『そこまではさせられません!』と強く止められた結果、姫萩先輩が食事の準備をしている間に【探偵ノート2】にゲーム参加者を纏めておいた。

 インスタントを中心としたものだったが、俺製作と比較して1.5倍は美味しい気がする。

 このゲームで出会う女子は、料理なんて栄養あって腹に溜まれば良いって言う価値観の破壊者ばっかりか!?

 

「御馳走様でした、美味しかったです。敗北感」

 

「ふふっ、満足して頂けて良かったです」

 

 ……まぁ、食事が楽しみになるのは良い事だろう。

 いや、女の子と二人で食べたから普段より美味しい食事に感じられたという説があるか?

 ……などと考えてると、ふと脳内に綺堂渚の恐ろしい笑みが過る。

 

――記憶喪失中の俺、何やってるんだ?

 

 記憶喪失中の俺の行動の落とし前をつけるのは、記憶を取り戻した後の俺なんだぞ!?

 どうして、あんな行動したんだ馬鹿野郎! と思っても既に後悔先に立たずとしか言えない。

 ……この問題は最終日の俺に任せたいところだ。

 って、いやいやそんな思考……兄貴じゃあるまいし。

 

(と言っても、綺堂渚側が何を考えて俺に接してたのか全然分からないんだけど。そういえば、笑いを堪えすぎると涙が出てくるって聞いた事があるな、それで泣いたのか? うぅ、一応必死だった自分が虚しくなってきたぞ)

 

 女の涙は裏切れないって言葉はあるけど、相手がプロの女優だったら意図して泣けるかもしれないし。

 記憶喪失中には分かってたつもりになってた綺堂渚という人物について、どういう人間か全然分からなくなってきた。

 

 頭を抱えるが、答えは出ない。

 そもそも、俺は1年半前に行方不明になった親父の事を学業とバイトの傍らでずっと探し続けてきただけで……。死んでいる事も覚悟はしていたが、復讐を考えるまでには至っていない――発想を飛躍させすぎなのだ。

 

「……川瀬さん、大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ……すいません。これからが、結構大変だなと思いまして」

 

「そう、ですね。私達以外で、はっきりと味方と言える人も居ないですし……」

 

「ゼロとイチでは、心持ちも大分違いますけどね」

 

「……そうですね。私も、心強いです」

 

 一応、食事中に俺の出会った人物も(綺堂渚の話は長くなるので除くが)姫萩先輩と共有している。

 それにより全プレイヤーの顔と名前は判別することができるようになった。

 特筆すべき点としては、このゲームに俺達の知り合いはいないこと。

 もう一つが――

 

「姫萩先輩、よく郷田に襲われて生き残れましたね」

 

「あの時は、本当にもう無我夢中でした」

 

 姫萩先輩から齎された新情報としては、郷田に襲われていたという事だ。

 ナイフで襲われ、間一髪だったらしい。

 

「手加減されていたとか、そういう感覚は無かったですか?」

 

「そこまでは、分かりません……ただ、あの人が転んでいた事は覚えています」

 

「ふぅむ……なるほど。参考になりました」

 

 違和感はあるが、何かを断定できる根拠ではない。

 ただ、疑念は付きまとう行為だ。

 もう一つ、決定的な何かがあれば……何かを掴めそうな気がする。

 

「他の方がゲームに乗ってるのは怖いですけど……私は少し安心してるんです。ほら、このノートで北条かりんちゃんや漆山権造さんを要救助者って書いてるじゃないですか」

 

「あぁ。別に大した事じゃないですよ。北条さんは妹の為に声を大にしてゲームに乗っている、漆山権造は自分が【9】だと主張してゲームに乗っている。つまり、彼らはSOSを出しながら加害行為に及んでいる。……客観的に見れば要救助者という判断になりますね」

 

「川瀬さんがそう言うのが嬉しいんですよ」

 

「……客観的に見れるのは、撃たれそうになったのが記憶喪失中の俺ってだけかもしれないですけどね」

 

 姫萩先輩の言葉に照れくさくなってちょっと顔を逸らす。

 そもそも、【A】を見捨てられなかった姫萩先輩に言われたくない言葉である。

 ……つまり、スタンスを姫萩先輩に合わせただけで俺が考えた訳ではない……はず。

 

「それに要救助者と書いてるだけで、助けられるかは分からないですよ。俺達は皆大海原に放り出された漂流者のようなものです。辛うじて体力が残っていて、泳げていても、溺れている人間に手を差し伸べれば引きずり込まれるのがオチでしょう」

 

 緊急避難の例で用いられる『カルネアデスの板』の話がつい過り、大海原という表現が浮かんでくる。

 ちなみに、『カルネアデスの板』とは簡単に言えば一人分の浮力がある板と、二人の溺れた人間で板を取り合って相手を殺せば、越した人間は有罪になるか? という思考実験の話だ。一応、日本の法律では無罪という事になるが、実際に殺せば本当に緊急避難になるか裁判で妥当性が論じられる事になると思われる。

 

「つまり、川瀬さんは双方が溺れずに助けられる方法を見つけたいという事ですね」

 

「えぇ。その場合の考え方としては、浮き輪や空のペットボトル等の浮力ある物を投げる。陸や船からロープや人の力で引っ張り上げる……プロの救助者なら後ろから羽負い締めって手もありますね」

 

 この場合、浮き輪や空のペットボトルは解除条件だ。

 北条かりんの場合は『JOKER』と賞金、【K】や【8】ならPDA.【4】や【10】なら首輪になるだろう。【9】や【3】には存在しない……残念ながら。

 

 次に陸からロープ等で引っ張り上げる……そもそも陸という概念がないな。

 ゲームの運営やあるいは視聴者に命乞いをすれば助けてくれるかって言えば違うだろう。

 彼らの慈悲に期待できるかと言えば無理だ。協力させる方法も思いつかない。

 いや、解除条件に拠らずに首輪を破壊なり、無力化する方法がこれか。

 なら、海の上でこれから船をDIYする必要が出てくるな。

 

 最後に背後から羽負い締め……これは相手の無力化だな。

 それ自体は、相手の命を救う事はできないが、少なくとも相手がだれかを殺す事はできなくさせる事が期待できる。

 問題は、無力化の難易度だ。

 大前提として、俺達はプロじゃないし……非殺傷武器で相手を無力化できるのって、スタンガン位だ。

 拳銃相手には不安過ぎる武装である。

 

「――というわけで、状況は中々に厳しいということです」

 

「そう、ですね。一番分かりやすいのは、解除条件が分かってる方に協力する事ですけど」

 

「取っ掛かりとしては、それで良いでしょう。だけど、それでは殺人条件の人はどうしようもない」

 

「はい……でも、川瀬さんは既に何かを思いついてるみたいですね?」

 

「バレてましたか」

 

 まぁ、こんな話はこれからする話の前置きにすぎない訳なのだが。

 ヒントは姫萩先輩と記憶喪失中の俺から編み出されている。

 

「まず、俺達の目的を定義してなかったなと思いました。皆で【よりよい選択肢を作る】ことにしようと思います。これは俺達にもそうですが、ゲームに乗った人達にです。『ゲームに乗るしかない、殺すしかない』と思っている方々にそうじゃない手段を提示し、生き残る方法を模索したいと考えてます」

 

「ふふっ……川瀬さんらしいです。私に対して、言ってくれたみたいにですね」

 

「姫萩先輩の優しさから着想を得ただけですよ」

 

「それは、言い過ぎですってば……」

 

 冷静に考えれば……こんな事を言い合える相手と出会えた俺は物凄く幸運なのではないだろうか?

 そんな事を恥ずかしながらも笑顔を浮かべる姫萩先輩を見て思う。

 

 って、マズイ……この空気は苦手だ。

 そもそも姫萩先輩は俺についていくしか選択肢がない状況な訳だし。

 冷静に考えれば俺って相当卑怯なのではなかろうか?

 

 うーん、ここは良い感じに空気を弛緩させたい!

 何か良いアイディア、良いアイディア……ふと、調理に使っていたボンベ式のガスコンロが目に入り……頭の中で稲妻が走った。

 不敵な笑みを浮かべ、姫萩先輩に話しかける。

 

「話は変わりますが、姫萩先輩……俺って、夏休みの宿題は初日に終わらせるか、遅くても第一週には終わらせるタイプなんですよね?」

 

「は、はぁ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「川瀬さん……ほ、本当にやるんですか?」

 

「マジです。大マジです」

 

 軍手をして、右手に握っているのは一本のナイフ。

 それをガスコンロの火に炙り、ナイフは赤々と光を発している。

 家でこんなことをやれば怒られる事は請け合いだ、ちょっと興奮してきた。

 

「そもそも姫萩先輩、目が覚めた時……首に違和感を感じるのって結構遅かったですよね? 重いとも思わなかったんじゃないです?」

 

「は、はい……違和感はありましたが、実際に手で触れるまでは気づきませんでした」

 

「つまり、首輪は相応に軽い金属で作られている。使用日数は3日だから腐食とかあまり気にしなくていい……材質はアルミニウムかその合金であることが考えられます」

 

「い、言われてみればそうですね……でも、他に軽い金属とかないんですか?」

 

「強いていうなら銀とかですが、それも倍以上あるのでアルミニウムと決め打って問題ないでしょう」

 

 そして、幸運にも俺の手元には今、高校化学の教科書がある。

 そこには鉄の融点は1536℃、アルミニウムの融点は660℃。

 つまり、完全に火で炙った鉄のナイフなら、アルミニウムの首輪なんてサクッと切れたりはしないだろうか? と思ったのだ。

 

 ……火傷するかもしれないので、被る用に2Lの水ペットボトルも用意してるけど。

 

「そろそろ試してみるので、手鏡を俺に向けててください。これで首輪が解除できれば儲けものですね」

 

「ど、どうなっても知りませんからね!?」

 

 姫萩先輩は嫌そうに俺に手鏡を向ける。

 いや、怖いのは分かる……というか俺も怖い。

 でも、これで首輪解除できたら、なんというか殺し合いそのものが馬鹿らしくなるじゃん?

 

 なので、俺はやるぜ!

 少なくとも、ゲームの運営者から警告がくるまで自重しないぜ!

 

 というわけで、首輪に赤熱したナイフを近づけ注意深く皮膚に接触しないように斬ろうとしてみる。

 しかし、何度か試しても熱で首がヒリヒリするだけで、首輪が傷つく気配はない。

 

 ……少なくとも、今回の試行錯誤は失敗に終わったと言わざるを得ないようだ。

 そもそも熱伝導的に斬れるようになればアウトだったか? まぁうん。

 

「……これは失敗ではない、上手くいかない方法を一つ発見しただけだ」 

 

「かーわーせさん?」

 

「ひぇ」

 

 負け惜しみ染みた事を言う俺の視界に、姫萩先輩の空恐ろしい笑顔が映る

 怖い。

 どこかの誰かの笑顔と被る。

 ごめん! 見てる側としては怖かったね!

 配慮が足りなかったかもしれないけど、仕方ないんだ!

 

「えー、本ゲームに置かれましては、製作者が正気ではないため、まともな方法で不正クリアはできないと思い、少々無謀な方法を試させて頂きました。姫萩先輩の制止も聞かずに突っ走ってしまいましたが、今後もそのような事が多々あると思いますので、これからもどうかお付き合いの程宜しくお願いします」

 

「しかも、まだやるおつもりですか!?」

 

「……まぁ、はい」

 

 姫萩先輩のオーラに対し、何故か兄貴直伝の言い訳術が炸裂すると姫萩先輩は呆れたように溜息をつく。

 それを見て、俺は不謹慎ながらちょっと安心する。

 あんまり俺が頼りになりすぎると、姫萩先輩は俺に頼りすぎて依存しちゃうかもしれない。

 それは健全な関係ではないと言える……つまり、これは計算!

 俺は悪くない!

 

「もし、似たような事をするつもりなら……事前に私に相談して、私のいるところでやってくださいね?」

 

「はーい」

 

「……」

 

 今、ものすごく呆れられた目で見られている。

 姫萩先輩の評価が下がったような気がする。

 哀しいけど、仕方ないね。

 

 良い感じだ。

 もっと姫萩先輩の評価を下げていこう。

 あんまり女性に期待されると気後れするという事に俺は気づいたのだ。

 これは断じて、綺堂渚の事を意識しての行動ではない……と思う。

 

「そもそも、昭和の脱獄王と呼ばれた白鳥由栄という人物がいるんですが、その人は味噌汁で手錠を錆びさせて外して、間接を脱臼させて、天井を登って狭い天窓を破って脱獄したんです。それくらいの狂気と根気がないと、正規ルール以外の生還は無理だと思いますね」

 

「それは確かに……凄いですね」

 

 姫萩先輩は目を伏せる。

 オタク知識の披露は大抵の場合、女性相手だと退かせる効果がある。

 意図して何やってるんだと思うが、言ってる事は間違ってるわけではないので問題は無いだろう。

 

 そして、もう一つ――

 

「あとは、首輪をどうにかする手段を見つけられないと、姫萩先輩に気後れさせてしまいますからね。やる事は多いですが、俺の命位はついでに拾い上げておかないといけないですからね」

 

「そう、でしたね……ごめんなさい。そこまで気づけませんでした」

 

「いえいえ、姫萩先輩は心配してくださったので、それに対して気後れする必要はないです」

 

 100%俺の暴走なのは事実だ。

 リカバリーできる範囲の暴走しかしないように、心がけてるつもりではあるが。

 

 首輪に関しては次の手を考えていこうか。

 

「さて……一回、睡眠を取りますか……休める時に休んだ方が良いですからね」

 

「今、眠気が割と飛んだんですけど!?」

 

「なんかすいません……」

 

 首輪を外せるかもしれない方法を思いついてテンションがハイになりすぎていた。

 それが実際の真相ではある。

 ちょっと後先の事を考えて無さ過ぎた。

 

 

 

 

 

 

「一つ、良いですか……川瀬さん」

 

「なんでしょう?」

 

 床は固い。掛ける用の毛布は見つかったが、掛け布団はない。

 先程居た戦闘禁止エリアは遠いし、ちょっと時間が足りない。

 単独行動の時にほとんど眠れなかった姫萩先輩には申し訳ないが、ここは床に眠るので我慢してもらう事とする。

 時間のロスは重いが、極力パフォーマンスは出したいということでの折衷案となった。

 

 姫萩先輩の表情はとても疲れてるように見え、横になったらすぐに夢の世界に向かいそうである。

 ちなみに、俺は見張り兼簡易の警報装置――中身の入った缶を糸に吊るして、揺れたら音が鳴る物――を製作中だ。

 逃げやすそうな場所を決め、横になった姫萩先輩はふと――俺に声をかけてきた。

 

「復讐って、なんですか……?」

 

「……」

 

 できれば避けたかったが、避けるべきではなかった話だ。

 ずっと気になっていて、それでも聞けなかった事なのだろう。

 そういう意味では、姫萩先輩に負担をかけてしまったのかもしれない。

 

 しかし、それは俺自身……答えが定まってない問題で、そして避けられない問題でもある。

 

「今日はもう遅いので、起きたら話しますよ」

 

「私は川瀬さんを……信じて、良いですか?」

 

「……」

 

 誰を信じて良いのか分からない環境で、今の所一番信じられる相手の不安要素。

 不安だったのだろう、という事が察せられる。

 

 俺も答えられない。

 記憶喪失から目覚めたばかりの混乱も残ってるし、俺自身もこのゲームに対しては手探りなのだ。

 自信を持って言える何かは、俺には存在しなかった。

 

「それは、自分で決めてください」

 

「そう、ですか……私は、川瀬さんを――……」

 

 そして、姫萩先輩の言葉は途切れた。

 製作中の警報装置から目を外し、姫萩先輩に目を向けるとかわいい寝息が聞こえてくる。

 どうやら完全に眠ってしまったようだ。

 

(答えは聞こえなかったけど、それでも)

 

 こうして、安心した寝顔を見せているのが何よりも雄弁に答えを語っているように見えた。

 今、自分は重責を背負っている事を理解する。

 

――良いさ、やってやるさ

 

 俺は信じてくれる誰かを裏切れない、それで良いかと俺は思った。

この中で生き残るのは?(女性編)

  • 矢幡麗佳:  倍率:6.1
  • 北条かりん: 倍率:6.4
  • 綺堂渚    倍率:4.6
  • 姫萩咲実:  倍率:8.3
  • 郷田真弓   倍率:3.2
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