秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第十七話 たった一つの冴えたやり方

 

 

「それで……渚ちゃん。いつまで、そうしているつもり?」

 

「……」

 

「渚ちゃん!」

 

「は、はいっ!?」

 

「とりあえず、通信はちゃんと伝わってるみたいね?」

 

 通信で渚の声を確認して、郷田真弓は嘆息する。

 サブマスターである綺堂渚が川瀬進矢に入れ込むのはショーとしては別に構わない。

 だが、ここまで渚の精神的ダメージが大きいとなると、今後の動きに問題が出てくるかもしれない。

 それを確認する為に、郷田は渚に連絡を入れたのだ。

 結果としては黒ーーゲームでは稀に良くあるハプニングではあるのだが、自分の時は安定進行したい郷田である……捌ききる自信は勿論あるが。

 郷田は、渚の心中を察しながら口火を切った。

 

「川瀬進矢を【Q】の元に戻るのは面白い判断だったと思うわ。あそこで、【Q】が殺された場合、手塚義光を殺して首輪解除達成……そうなったら、無難だけどちょっと味気ないものね?」

 

「そう、ですか……それは良かったです」

 

「ふふふ、まるで川瀬進矢があそこで【Q】を殺せないのが分かってたみたいね。それほどまでに、彼を【信頼】してたのかしら?」

 

「……っ」

 

「ふふ、冗談よ。ゲームの円滑な進行の為に、相談しに連絡したわ。何せ、生存者数は未だ11人。戦闘自体は散発的に起こってるけど、ペースとしては遅いものね。一緒にゲームメイキングしましょう? 結構、慣れれば面白いのよ」

 

「……」

 

 画面の向こう側で渚は口を噤むのが見える。

 郷田が渚とゲームを一緒にするのは初めてだが、印象とは全然違うのに少し苛々する。

 

(初ゲーム以前の自分を取り戻した、って所かしら? ゲームマスターとしての昇格はない……のは別に良いとしても、私の査定が巻き込まれるのは嫌ね。となると、私の取るべき行動は――)

 

 今回のゲームは、自分に責が及ぶとしても言い訳の効く範囲だ。

 だから、たまには挑戦的に動いても良いかなと思う郷田である。

 安定進行が好みであっても、客に飽きられてしまえば元も子もないからだ。

 

「あるわよ、渚ちゃん」

 

「何が、あるって言うんですか……?」

 

 さて、あくまで今回のゲームの主導権を握っているのは渚だ。

 今回のゲームにおいて、組織から「〇〇を殺せ」だの「〇〇をしろ」という命令が渚に届く事はない。

 だから、郷田は驚愕に染まる渚の表情を見ながら、彼女を葛藤する方向で誘導することに決めた。

 それが一番観客が盛り上がる方向性だと郷田は確信したのだ。

 

「それは勿論、組織を裏切らず、川瀬進矢が生き残り、貴方の家族も救われるかもしれない。そんな、ハッピーエンドがね」

 

「――え? そんな方法……」

 

「信じられない? 聞いたら納得すると思うけど」

 

 渚が組織を裏切るか、裏切らないか……そのギリギリを見据えた上での最善の解決策を提示する。

 全てはショーの為に――郷田は皮肉な笑みを浮かべるのだ。

 

「貴女は咲実ちゃんから【Q】のPDAを奪い取り、進矢君に殺されなさい。それで、悪い人間は退治され、良い人間が生き残る。……最後は幸せなキスをして終了。 ……どう? 素敵なエンディングだと思わない?」

 

「それ―ーは――」

 

「もしかして、何か申し開きの余地があると思ってる?」

 

「っ……! ありま、せん……」

 

 沈痛な面持ちで渚は項垂れる。

 流石に死ぬのは怖いのか、あるいは他の感情があるのか……そこまでは郷田には分からない。

 それでもその姿から、組織側の現場に出る人間とゲームの一般参加者に大きな違いはない事を郷田は再確認する。ゲームマスターであっても、”黒幕役”という役職を割り振られた参加者に過ぎないのだ。

 

「よく考える事ね。これから組織の手先として生き続けるか、己の罪に押しつぶされて死ぬか」

 

「……郷田さん、は――どうして、そこまで平然と言えるんですか?」

 

「貴方位の時だったかしら……私は組織の手先として生きる事を選んだ。それだけの事よ」

 

 一時はどうなるかと思ったが、このゲームの主旨はこれから始まったばかり。

 

 郷田はこれからのゲームの道筋を脳内で描きながら、己の想いを口にした。

 激流を起こすのは自分、だが起きてしまった激流は郷田にも止められない。

 

「組織の手先として生きるのなら、そうね……ゲーム開始48時間までに進矢君の目の前で咲実ちゃんを殺して【Q】を奪う。最終日に進矢君と殺し合い……が無難なところかしら?」

 

「姫萩咲実さんを殺す……?」

 

――極限状態の選択こそが、このゲームを最も盛り上げるのだ

 

「殺したいと思ってるでしょ? 渚ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女の人を仲間にしましょう!」

 

「……どうしたんです? 急に?」

 

「急にじゃないです、本当の緊急事態ならできましたが、もう無理です。プロの救急隊や医療従事者は顔色変えずにできるのすごくないですか? 俺、医療関係には絶対に就職しません……」

 

「そこまで嫌なら、わざわざ毎回包帯を取り換えなくても構いませんけど……」

 

「いやいやいやいや、化膿したりして熱でも出たらどうするんですか!? 病院に行ける環境なら入院するだけで済むかもしれませんが、この状況なら普通に死にますよ! 共倒れしますよ!」

 

「そこはちゃんと考えてるんですね」

 

 俺が焦って捲し立てると、姫萩先輩は自分の黄色いリボンを結びなおしつつ、困ったように呆れたように笑う。 ゲーム開始から約32時間、休憩を終えた俺達は食事を食べて、姫萩先輩の包帯を取り換えた後は魂の叫びをした。

 二次元なら憧れてたんだが、なんというかこう……ナマモノ厳禁!

 こういうのは特別な関係の二人がやるべきですね。いや、保守的過ぎるか?

 あるいは俺のプロ意識が足りないのかもしれない。

 

 考え込んでいると俺に姫萩先輩の呆れたような声が届く。

 

「それに、このゲームにはもう安心して背中を預けられる女性の方はいませんよ?」

 

「えーと、綺堂渚、矢幡麗佳、北条かりん、郷田真弓……本当ですね。絶望的なラインナップのような気がします」

 

 どうにかならないかと、各女性の名前を挙げながら、彼女達の顔を思い出そうとするが……凶行に及んでる冷たい表情しか浮かばない、怖い。

 

「だから、諦めてください」

 

「……ぐぬぬぬぬ」

 

 姫萩先輩はにっこりとした笑顔絵で無慈悲に宣告する。

 その言葉で俺は全てを悟った。

 

 あー……はいはい、これはあれですね。

 狼狽えてる俺を生温かい目で見てますね。

 お子様だなぁとか思ってる奴だね。

 仕方ないだろ、高校生男子なんて健全だったらただの猿なんだが!?

 文句あるか!? と喉まで言葉が出てくるが姫萩先輩に文句言っても、墓穴を掘るだけだな……。

 

 状況が悪すぎる、話を変えよう。

 

「茶番は此処までにするとして! そろそろ2階が戦闘禁止になるまで、残り3時間……3階まで上がりますかね」

 

「そう、ですね。すいません……私の所為で、動きが遅くなりました」

 

「体調が万全だった方が良いので、これが最速です。俺も、自分の考えをまとめる時間を貰えましたからね。動きに問題はありませんか?」

 

「はい、おかげ様で走る事もできそうです」

 

「なら良し、今は時間が追ってますから……細かい話は上でしましょう」

 

 解除条件を伴わない生還方法、俺と綺堂渚の因縁、15億円の確保の方法、このゲームに乗った人々を止める方法……話さなければならない事は沢山あるが2階が進入禁止になるのは残り3時間、共有するには時間がない。

 移動距離から考えて、安全マージンはある程度考慮しているが、トラブルがあればギリギリになりかねないのである。

 

 ……ん? 振り返りの途中で、変な事を一緒に考えていたような? まぁいいか。

 

 気を取り直して、俺は姫萩先輩にこれからの事を告げる。

 

「自分が先行して罠の確認と前方確認をするので、姫萩先輩は後方確認と地図の確認をお願いします」

 

「はい! 任せてください」

 

「ということで、こちらが自分のPDAです。どうぞ」 

 

「え、えぇ!?」

 

「地図を見るのは、俺のPDAの方が情報量が多いですからね。致し方ないです」

 

「そうでしたね。分かりました、責任を持って預かります」

 

「……あんまり気負い過ぎないでくださいね」

 

 俺が姫萩先輩に【A】のPDAを手渡すと、彼女は両手で抱きかかえるようにPDAを持つ。ちょっとお前そこを代われ……じゃなくて、反応が仰々しいぞ。いや、【Q】が【A】のPDAを持つと考えれば気持ちは分からなくもないが。 

 

 さて、自分の位置を表示する【GPS機能】は俺の【A】のPDAにダウンロードされていたが今はソフトウェアを更に追加している。姫萩先輩と休憩していた部屋から【地図拡張】と【現在階層の進入禁止までの時間を表示する追加機能】の二つを新しく見つけることができたのである。

 【GPS機能】との兼ね合いから、【地図拡張】は【A】に、【現在階層の進入禁止までの時間を表示する追加機能】を【Q】にダウンロードした。バッテリー消費も極小なので、恐らく入れ得な追加機能と判断したのもある。

 進入禁止までの時間を表示する機能はあれば便利程度の機能だが、地図拡張は倉庫や戦闘禁止エリア等の部屋の名前が地図に追加され有用な追加機能だといえるだろう。

 

 だが、ソフトではなくメンタル面で一つ問題が発生した。

 【A】のPDAで地図を見て【GPS機能】を使っていると、なぜか綺堂渚の笑顔や二人で話した会話の内容が浮かんでくるのである。確かに、この【GPS機能】は綺堂渚が無理やり俺のPDAにダウンロードしたものだが、自分でも気づかない内に心に負った傷は深刻なのかもしれない。

 自分のPDAを使うのは精神的に辛いと判断し、基本的に地図の操作は姫萩先輩に任せる方針でいる。それを姫萩先輩に伝えてはいないけども。

 

「でも、万が一分断されることを考えて、私の【Q】のPDAを持っておきませんか?」

 

「そこは、携帯に地図を写真撮ってるので大丈夫です。あ、ついでにこちらもお渡ししますね」

 

「……? 鍵、ですか?」

 

 次に俺が姫萩先輩に渡すのは鍵だ。

 これは追加機能のソフトウェアと一緒に見つけた、手錠と鍵のセットである。

 なんでこんなものが? と思ったが、一応殺人に手を染めるつもりのない自分たちにはそこそこ便利な道具のような気がする。

 実際にこれを付けて殺し合いをするとなると、馬鹿で滑稽のような気もしなくはないが。

 

「さっき見つけた手錠の鍵です。危険人物の拘束には心もとないですが、無いよりはマシだと思いまして」

 

「なるほど、川瀬さんが手錠を繋いだら鍵を持った私が離れてれば良いんですね? でも、川瀬さんが危険すぎるんじゃ……」

 

「危険人物を殺す、或いは放置するわけにはいかないから仕方ありません。その時に最善と思える方法を取りましょう……これで拘束できる人は一人なので、根本的な解決にはなりませんけどね。姫萩先輩はそれでいいですか?」

 

「良いか悪いかなら良くないですけど、他の方法を思いつきません。すいません……」

 

「そうですね。たった一つの冴えたやり方が、どこかに転がっていれば良いんですけどね」

 

 もしもそんなものがあったなら、迷わず飛びつきたい位である。

 だが、このゲームを運営している人間はそれを許しておらず、このゲームには存在しない概念だ。

 社会もそうだ、どこかに存在する正しい絶対的な概念というのを探し求めた事もあるが、そんなものは存在しない。騙し騙し、その時や場合に応じた努力を続けるしかない。

 

「偉そうに言いましたが、俺の手も二本……二人で生きて帰るだけで、精一杯な事かもしれませんけどね」

 

「……川瀬さん」

 

 姫萩先輩が心配そうな表情で俺を見る。

 うわー、気分落としちゃったかな? ちょっと、弱気になって申し訳ない。警察官が弱音を吐いたら、市民を不安にさせてしまうから、最悪な状況であっても瘦せ我慢でも強気でいるしかないという親父の言葉を思い出す。 言うのは簡単でも実践するの難しい、しっかりしなければ……と思いながら修正する言葉を考える。

 

 そんな俺と、顔を上げて俺を見据える姫萩先輩と眼が合った。

 

「――二本じゃないです」

 

「え?」

 

「腕が二本で足りないのなら、私の腕も使ってください!」

 

 姫萩先輩の力強い言葉に数瞬、あっけにとられる。

 ……あぁもう、俺は失敗ばかりだな。

 無意識の内に姫萩先輩を足手まといだとか、そんな風に思っていたのが態度に出てしまっていたのかもしれない。

 

 我が家の鉄則、誤ったら謝ろう……ダジャレじゃないです。

 

「姫萩先輩に謝罪しないといけないかもしれないですね」

 

「どうしてですか?」

 

「無意識の内に要救助者だと思っていたので」

 

「と、とんでもないです……! 実際に、怪我をしてますし、足手まといですし!」

 

「なんで卑下し始めるんですか……」

 

 謝ろうとすると姫萩先輩は急にあたふたして、俺を止めようとする。

 姫萩先輩が自分に自信が無いタイプなのはなんとなく理解したが……それでも、何とかこのゲームに抗おうとしたいのだろう。

 ならば、俺のするべきことは謝罪じゃないのかもしれない。

 

 となると、言うべき言葉は――

 

「そうですね、警察官は事件現場に向かう時はバディを組むものですからね。改めてよろしくお願いします! 姫萩先輩!」

 

「……! はい! よろしくお願いします、川瀬さん!」

 

 お互いに笑いあいながら、バディを結成する。

 さて……ゲーム開始から随分と時間が経ってしまったが、この殺人ゲームに挑ませてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってください! 姫萩先輩!」

 

 歩くこと、十数分。

 通路の先に地面に広がる血痕、壁と壁を伝うワイヤー……そして、何かを被せてる毛布を見つける。その何かというのは、なんとなく想像がつくので俺は後ろからついてきている姫萩先輩を呼び止めた。

 

「どうしました?」

 

「多分、二人目の犠牲者です」

 

「そんな……!?」

 

 ここまで生存者数は【11名】から変わっていない為、二人目の犠牲者である可能性が濃厚だ。記憶を取り戻してからの初めての現場検証か、良い気持ちはしないな。

 記憶喪失中の俺が3階に行った時とは異なるルートを使っている為、ルート次第では綺堂渚と遺体発見していたかもしれない。そこはIFを考えても仕方ないが。

 

「とりあえず、確認しにいくので姫萩先輩は警戒をお願いします」

 

「川瀬さん……私も」

 

「姫萩先輩、俺が遺体を見て精神的ショックを受けたら、誰が俺を宥めてくれるんです? 二人同時に錯乱したら目も当てられないですよ」

 

「そうですか、分かりました」

 

 一緒に行こうとする姫萩先輩を止めと、不満そうに彼女は頷いた。

 その場で思いついた言い訳だから、見透かされている可能性もある。

 気持ちは嬉しいけども、彼女にあんまりそういう事に関わって欲しくないのかもしれない。

 

「今回は騙されておきますね」

 

「……ありがとうございます」

 

 そういう内心はバレバレだったようだが。

 

 

 

 

 

 

 

「被害者は長沢勇治、中学生……死因は何度も殴られた事による撲殺。首を斬られていますが、出血量から死後に斬られたものだと思われます」

 

「首、まで……そんなの惨すぎます」

 

「解除条件、でしょうね」

 

 姫萩先輩は少し手を震えながら、自分の首輪を握っている。

 無理もない反応だが、少し眩しいなと思う。

 ……俺としては、殺人ゲームに巻き込まれた現状、自分で殺すのは禁忌だが、既に死んでる死体の首を斬るのはギリギリ許容範囲か悩んでいるからだ。

 

――勿論、良いか悪いかの二択なら悪いに決まってるんだけどな

 

 首を斬った人間も、おそらくそういうスタンスだったのだろう。

 死んだ長沢勇治の首はタオルでくるまれており、目は閉じられている。

 首のない身体の方も、手を組ませて姿勢を整わせている。

 このような行動は犯罪心理学において、罪悪感があったと見なして構わないだろう。勿論、このゲームの狂気に呑まれて、今後そのような行動を取らなくなる可能性は十分にあるが。

 

「災害でも戦争でも、弱い立場の人間から死んでいくのは嫌になりますね」

 

「はい……」

 

 意気消沈した姫萩先輩を見て思う。遺体を平気で見れる俺自身すら――姫萩先輩から見れば異端の存在なのかもしれない。

 少し悲しくなりながらも、残念ながら時間がないため情報の共有を進めていく。

 

「まず、殺した人間はあの金髪の男――手塚義光です。周囲に小銭が転がっているのと、帽子が落ちていました」

 

 あの小銭を使った牽制攻撃を見たのは綺堂渚と手塚義光のみ、綺堂渚は犯行時刻から考えて長沢勇治が亡くなった時間に俺と一緒に居た筈だ。帽子と合わせて、そこは確定で良いだろう。そして、手塚義光は長沢勇治を殺した後、別の人間に襲われて帽子を失いつつ小銭で牽制して逃亡……この流れが一番しっくりくる。手塚の解除条件候補は【8】【10】【K】、これでは絞り切れない。

 そして、手塚を襲った人間かその後に来た人間が首を切断したという流れになる。解除条件は【4】の人間となる。……消去法で犯人候補は絞れるけど、大人の誰かだろうか。シリアルキラーのプロファイリングなら、切断面が汚いから犯人は医者か肉屋じゃないって評価を下すべきなのかもしれないが、医者や肉屋でも専用の凶器じゃないとこんな切断面になる可能性もある。保留しとこう。

 

 ついでに言うなら、長沢の遺体の先にある通路はワイヤーがぎっちり張られていて、隙間にはトラバサミの罠があった。長沢勇治の片足には、トラバサミが挟まっていた為、罠に誘い込まれたものと思われる。

 ……以上の分析により、手塚義光は知能と身体能力の両方が高い凶悪犯罪者ってところか。俺の技もきっちりラーニングされたし、俺もしたけど。

 考えたくないが、二回目の遭遇で牽制射撃に留めたのを後悔する時が来るかもしれない。そんな時がこない事を願いたい。

 

「……現場検証結果はこんな所ですね」

 

「よ、よくそこまで分かりますね」

 

 俺が簡潔に報告をまとめると、顔を青くした姫萩先輩が引き気味に頷いた。

 犯人の所業に引いてるのか、それを纏めた俺に引いてるのかこれだけでは分からない。

 ……まぁ、俺が引かれても仕方ないんだろうけども。

 

「親父なら――プロならもっと上手くやりますよ。それを目指してた訳ですしね」

 

 事態は深刻だが、それだけに囚われてもいけない。

 なので、俺は話を変える事にした。

 

「川瀬さんは……お父様の事、尊敬されてるんですね」

 

「あ-……尊敬はしてるかなぁ」

 

 そして、俺は話の逸らし方を誤った事に気付く。

 正直に言って、俺が親父に抱いている感情は複雑だ。

 思春期だからというのもあるが色々あるのである。

 

「?」

 

「こっちの話です。尊敬してますよ、はい」

 

 ただ、尊敬しているのは事実なのでそういう回答になった。

 その辺の事情も、落ち着いたら話せれば良いなとは思うが……。

 綺堂渚が俺の親父を殺した目算が高い以上は、むしろ深いところまで離さなければならないのかもしれない。

 勿論、後でということになるけども。

 

「姫萩先輩は――いや、なんでもないです」

 

 問い詰められると怖いので、それとなく姫萩先輩に話題を返そうとしたが、途中で彼女の地雷を踏むんじゃないか気づき俺は途中で止めた。

 姫萩先輩は父親が人が良くて騙された結果、心中したという重い過去がある。

 記憶があってもなくても、俺ってデリカシーがないのだ……悲しい。

 

 そんな懸念を吹き飛ばすかのように、姫萩先輩は俺の言葉に対して朗らかに笑って答えた。

 

「私はお父様の事大好きですし、尊敬してますよ」

 

「……敵わないですね」

 

 芯の強さという意味では、俺は敵わないのかもしれない。

 別に勝ち負けではないのだから、良いのだけども。

 

(父親……か)

 

 ふと、頭に過る。

 それは綺堂渚もそうなのかもしれない、と。

 この殺人ゲームがインターネットでよく見る、“ショー”であると仮定する。ショーであるかは分からないが、目的は娯楽である可能性が高いとは思っているが。

 その場合、綺堂渚が父親によって背負わされた借金か何かで、殺人ゲームに複数回参加し俺の親父を殺す。そして、俺が親父の仇討ち要員として、綺堂渚の対抗存在として呼ばれる……ふむ因果が回る、というか運営が回しているというところか。

 そして、それは今回のゲームだけではない、終わりなき憎悪や悲劇の円環のようで……ゾッとしない想像のように思える。

 

「……だったら、頑張らないとですね」

 

「はい!」

 

 悪い想像を振り切り、姫萩先輩に話しかけると、力強い返事が返ってきた。

 その言葉に不思議と気持ちが落ち着くのを感じる。

 俺もまだまだだな。

 

 その後、毛布を掛けられた長沢勇治に二人で手を合わせるとルートを変えて、今度こそ3階への階段に移動しはじめた。

この中で生き残るのは?(女性編)

  • 矢幡麗佳:  倍率:6.1
  • 北条かりん: 倍率:6.4
  • 綺堂渚    倍率:4.6
  • 姫萩咲実:  倍率:8.3
  • 郷田真弓   倍率:3.2
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