秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

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第十八話 二人の背負うもの

 

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他人のために出来る最高の事は、自分の財産を分け与える事ではなく、相手の持つ財産に気付かせること。

-ベンジャミン・ディズレーリ (英国の政治家)

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「流石に手鏡を使って曲がり角の先を確認するのは、警戒しすぎではないですか?」

 

「……ここから先は銃が普通にある領域なので、これくらいした方がいいですよ。相手が先に移動している自分たちに気づいて、通路に出た瞬間銃撃を受けたら死ねます。臆病であることは大事なことなんです、恐怖に負けなければね」

 

「そう、ですね……ごめんなさい」

 

「謝る必要は無いですけど」

 

 紆余曲折がありつつも、俺たちは無事に3階に到着した。

 ここまで待ち伏せがないということは、拳銃という武器を重く見て早く上に行った人間が多いということだろうか?

 1階が進入禁止になった時点で、死亡した人間がいない事から一安心しつつも……激戦が後回しになっている現状に歯がゆさも思える。一応、剣道経験者である自分からすれば、弱いとしても下層の方が有利が取れた筈なのだ。

 

 さて、3階に入ってから、数十分経過……特に遭遇もないため【地図拡張機能】も有効利用して倉庫から銃器を回収した。

 姫萩先輩に銃を持ってもらうのは、俺としても不本意ではあるのだが……致し方ないか。

 

(でも、背中を怪我しているんだから、上手く撃てないかも)

 

 上手く撃てない方が良いのでは?

 と思ってる俺は甘いだろうけども、そう思わずにいられない。

 とはいえ、このゲームに身を置く以上は俺も最悪を考えなければならない。

 

 この場合の最悪とは即ち、俺が死んだとしても姫萩先輩一人で生きのこれる方法を伝授することである。

 

「一旦、ここで休憩としましょうか。その前に銃の撃ち方を教えますが、俺も見真似ですけどね」

 

「じゅ、銃の撃ち方……ですか?」

 

「すいません、本当は教えたくないんですけどね」

 

「い、いえ……お願いします」

 

 憂いを含む姫萩先輩の言葉に申し訳なさを感じつつも、木箱の上に空き缶を置いてそれを的にする。

 

「と、言っても俺もプロじゃないんですけどね。仮でお手本をお見せします」

 

 そう言って、十分な距離を取り空き缶に向けて銃を構える。

 昔、親父から学んだ通りの銃の構え方をする。

 問題ない、教えて貰った当時は玩具の銃だったとはいえ、本職である親父からの指導もあるから構え方に関してはそこそこの自信がある。

 

(そういえば、俺の記憶を蘇らせたトリガーも拳銃だったっけか)

 

  つまり、それだけ元々の俺に印象深い物だったということだ。

 最後の一押しだっただけというのもあるかもしれないが、我ながらドン引きである。

 相当昔、誕生日プレゼントで親父からモデルガンを買ってもらったんだっけ……懐かしいな。それが警察としての親父の支給品と同じモデルでお揃いだ―とかはしゃいでいた記憶がある……尚、お母さんはドン引きしてた。すっかり忘れてたな。

 

 懐かしい気持ちになりながらも、俺は姫萩先輩に一通り教えていく。

 と言っても、基本中の基本だけだが。

 

「今は、ある程度相手の方向に向かって撃てれば良いです。牽制射撃だけでもできれば、相手がこっちを殺しにくくなります。撃つのも一発で良い、0と1は大きく違いますからね」

 

「な、なるほど……」

 

 姫萩先輩は強張った表情でぎこちなく傾く。

 やはり抵抗感は大きいか……気持ちは分からないが理解はできる。

 だから、ハードルを可能な限り下げているのだ。

 

(それだけじゃ、足りない時もいずれ来るだろうけどな)

 

 相手を狙って撃たない、そのやり方でも暫くは牽制射撃として機能するだろう。

 だが、それは今が二日目だからであり……全域が戦闘禁止になるまで余裕があるからである。

 時間が迫れば迫るほど、リスク度外視で戦わなければならない場面が出てくるし……【Q】の姫萩先輩はそこから逃れる事はできないのだ。

 

(この場合、真っ先に思い浮かぶのは【J】の御剣先輩との協力だが……果たして、今どうしていることやら)

 

 生きている事が確定したので自分と瓜二つな顔が過るが、生きている事以外は北条かりんを撃った可能性がある事以外は何も分からない。

 堂々巡りになりそうな思考を打ち切り、銃を両手で持ち逡巡している姫萩先輩に声をかける。

 

「じゃあ、早速……試してみましょうか?」

 

「撃たないと、駄目でしょうか?」

 

「駄目です」

 

「……」

 

 姫萩先輩は銃を手にして深呼吸する。

 少々強引だったかとは思うものの、これくらいの強引さは必要だと割り切る。

 間違ってるのは、俺なのかこのゲームなのか分からなくなってくる。

 それでも、姫萩先輩は意を決した表情で銃を缶に構える。

 

 全身に震えが見えるが、姿勢等は俺の教えた通りだ。

 姫萩先輩は息を止め、ゆっくりと引き金を引いた。

 

――パァン!

 

 乾いた銃声が鳴ると、空き缶から離れた方角の壁に銃痕ができる。

 それを確認した姫萩先輩は息を荒げて、銃を持つ手を降ろして座り込んだ。

 

「お疲れ様です、大丈夫ですか? 背中痛みますか?」

 

「いえ……違うんです」

 

 流石に心配になり、駆け寄った俺に姫萩先輩は否定の言葉をかける。

 彼女の顔は先ほどよりも青くなり、震えも強くなっていた。

 銃を床に置いて、両手で自分を抱きしめるようにして、姫萩先輩は言葉を吐き出した。

 

「簡単、だったんです。引き金が重いとか、反動が強いとか……そういうのじゃなくて、思ったより大したことないなって。そう思ってしまった自分が、怖いんです。……怖くて、怖くて……たまらないんです」

 

「……姫萩先輩」

 

 自分の心に言いようのない鈍い衝撃を受ける。

 彼女の言う事は正しく、綺麗で……そして、この場で生き残るのにそぐわないものだ。

 自分が間違っているとまでは思わないけれど、銃の撃ち方を教えて良かったのかわからなくなってくる。

 

「大丈夫ですよ、姫萩先輩」

 

「川瀬、さん?」

 

 だから、これから言う俺の言葉は気休めであり、罪悪感を薄めるだけの言葉に違いないのだ。

 それでいて、本心でもあるから厄介なのだが。

 

「今の気持ちを、姫萩先輩が忘れなければ……きっと、大丈夫です」

 

 状況に適応しなければ生き残れない。

 でも、変わらないで欲しい。

 都合の良い考えではあるが、俺の中での素直な感情だ。 願望と言い換えてもいいかもしれない。

 

「やっぱり、川瀬さんは凄いですね」

 

「そんなに大した話じゃないですよ。俺と姫萩先輩の違いはシンプルなものです」

 

 しかし、無理やりでも姫萩先輩には自分でゲームを生き延びて貰わなければならない。

 このゲームは俺が守れば生き残れるという類の生易しいものではないのだ。

 だから、彼女が生き残るには強くなる必要があるのだ。

 

 姫萩先輩の横にしゃがみ込む。

 

 ……強さ、一言で言うのは簡単だが、簡単に身に付けれるものじゃない。

 一度目を閉じて、自分の今までの軌跡を思い出す。 

 

「俺は親父の背中を追い続けて、今ここにいます。ここがどれだけ地獄でも、その道標があれば戦えます。ですが……それは俺の生きる理由なので、姫萩先輩とは関係のない事です」

 

 目を開くと、姫萩先輩は俺の話を静かに聞き入ってる。

 思えばこんな話をしたことは家族にすら殆どなかった。

 姫萩先輩に強くなって欲しい為とはいえ、俺自身思ったより心を開いてしまっているのかもしれない。

 

「それでも、姫萩先輩は自分の足でここまで来れました。なら姫萩先輩自身の生きる理由がきっとある筈なんです。それを思い出してください、その想いがあれば……きっと最期まで戦えます」

 

 ……生き残れる、とは言えなかった。

 だが、生存とは意志だ……それは間違いないと思う。

 そして、姫萩先輩なら自覚がないだけで大丈夫……な筈だ。

 まだ出会って数時間だが、そこは彼女の事を信じたかった。

 

「私は……」

 

 そのように考えて居ると、姫萩先輩は意を決した表情になり、俺に手を伸ばした。

 そして、両手で俺の右手を握った。

 

「……ふぇ?」

 

「川瀬さんを信じたい、です!」

 

「え、えーと……その、先輩?」

 

 姫萩先輩の手はひんやりしてて心地良い。

 綺堂渚の手と手の荒れ具合は変わらないが、柔らかい手――って何考えてるんだ俺!?

 

 一瞬、遠くに行きかけた思想を理性で引き戻したが、現実の把握に時間がかかる。

 大丈夫か? 俺の顔、赤くなったりしてない?

 

「その、嫌なら良いんですけど……」

 

「いいいい、嫌とかじゃなくて……ですね!?」

 

「そうですか、良かった」

 

 安堵したように、姫萩先輩は微笑する。

 その笑顔は綺麗ではあるけど……俺は何も良くないんですが!?

 何だろう、俺はさっきまで真面目な話をしていたような気がするんだが……どこで方向性を間違えたのだろうか。

 

「川瀬さん、こういう反応もするんですね……かわいいです」

 

「ぐぬぬぬぬ……」

 

 悔しい心中が口から洩れたが、少し冷静になった。

 女子が男子に言う可愛いは今までの経験上、『異性として見てないけど、好感はあるよ』程度の意味だ。

 過去の失敗経験が無ければ舞い上がっていたかもしれない、危ない危ない。

 

 嬉しいけど、嬉しいけど! ここは心を鬼にしよう。

 

「一般論として……一般論として! こういう時に、誰かに依存してしまうのは危険だと思うので、一時的には良いですけど……もっとちゃんとした目的が見つければ良いかなと、俺は思いますね! はい」

 

「ふふふ……そうですね。でも、これが私の生きる理由です。変える気はありませんよ」

 

「……なんで、こんな時に限って意志が固いんですかね」

 

「大丈夫です。ちゃんと私にも理由があります」

 

 俺を握る姫萩先輩の手に力が入り、ほのかに熱を帯びてくる。

 そして、姫萩先輩は遠くをみるかのように視線を俺から外した。

 

「私も、川瀬さんと一緒です。お父様は詐欺に遭ってしまったけれど……それでも、お父様の言葉を信じて誰かを信じようとずっと努力してきました。信じて酷い目にあう事も多かったけど……それでも。諦めたくありませんでした」

 

 ゆっくりと、噛み締めるように姫萩先輩の言葉は紡がれて俺は言葉を挟めない。 手にかかる力はさほどではないが、その手を放すことはできず。

 視線を変えて俺を真正面から見る姫萩先輩、俺は静かに彼女の言葉を聞き続る……ことしかできなかった。

 

「そして、私にとっては今がその時です。だから、川瀬さんと一緒に……戦わせてください」

 

 想定してなかった言葉に胸が思わず高鳴ってしまうが……落ち着こう。

 俺たちはまだ出会って数時間、お互いの事を殆ど知らないはず。

 そ、それに俺にはもう心に決めた人物が……ってそういう話じゃないし、記憶喪失中の俺と混線しちゃってるよ!?

 

 脳内が軽くパニックになるが、こういう時は一旦一呼吸を置くべきだと思う。

 

「分かりました。落ち着きましょう、姫萩先輩……俺が悪い人で姫萩先輩を騙している可能性がまだ残っています」

 

 言ってて、自分が変な事を言ってる自覚はある。

 他の言葉を思い浮かばなかっただけと言えばそうだけど、どっちかと言えば逆か?

 俺が姫萩先輩に騙されている可能性を考慮した方が良いのでは?

 ほら、他に大金を手に入れて父親を騙した奴に復讐したいとか、大金を手に入れて新しい幸せを探すとかそういう目的で良いじゃないか!?

 

「ふふっ……変な川瀬さん。私は抵抗しませんよ?」

 

「抵抗して!?」

 

 ……こ、こうなるのは見えていた訳で、この話を続けると俺の分が悪すぎる。

 姫萩先輩が銃を持つプレッシャーは緩和したということで、望みから明後日の方向に飛びすぎてしまったとはいえ、目的は大体達成されている。

 

 ……うむ、相手の立場になって考えてみよう。

 よく考えれば姫萩先輩の生存確率を考えたら俺に全賭けするのは合理的なのかもしれない。

 

「そもそも? 信じるも信じないも、まだお互いの事をそこまで知らないですからね」

 

「そうですね、私としてはもっと川瀬さんの事を知っていきたいです」

 

「大した人間じゃないので、お手柔らかにお願いします……」

 

 女性にグイグイ来られるのは人生二回目なので、言葉が結構ドモっている気がする。

 尚、一回目は綺堂渚である……両方ゲーム中じゃないか?

 

 脳裏に綺堂渚の笑顔が浮かぶ。

 そうだ、俺は復讐という目的があるので、青春展開をする余裕がない筈!

 もう十分だ、話を変えよう。

 そうだ、諦めるな……きっと突破口がどこかにあるはずだ。

 

「は、話は変わりますが! 自分たちの解除条件って【A】と【Q】じゃないですか……本ゲームが恣意的に参加者を配役してると考えると、明らかに関連のある人物が一人いるんです!」

 

「関連のある人物……ですか? それは、綺堂渚さんじゃなくてです?」

 

「そうです。そして、その人物とは御剣総一先輩です」

 

 そのように俺は言い切って見せたが、姫萩先輩はポカンとして首を傾げている。 完全に心当たりが無さそうだ。

 推理外したか? 自信はないが、話を逸らすために続けてみよう。

 

「ほら……解除条件【Q】と一番相性良いのが【J】、一番悪いのが【A】。俺と御剣先輩は顔がそっくり、【A】が【Q】を襲い、【J】が【Q】を守る……そんな仕込みが行われていた可能性があります!」

 

「それ、川瀬さんが【A】の時点で破綻してませんか?」

 

「そうですけど! 話を続けさせてください! 俺は【A】だけど、因縁は【7】の綺堂渚にあります。そして、姫萩先輩にも御剣先輩にも因縁はない。だけど、御剣先輩と顔はそっくり……なら、姫萩先輩と御剣先輩に何かしらの関係があるものと邪推します」

 

 ある程度このゲームの参加者を把握した今だから言える事だが、もし序盤から【7】【J】【Q】でがっちりチーム組まれてたら俺は苦戦を強いられてたと思う。綺堂渚と信用勝負して勝てる自信はない……真っ向勝負でも勝ち目は無いが。

 まぁ、IFを考える必要はないか……今大事なのは、姫萩先輩と御剣先輩の関係性だ。どういう形であれ、何かしらの深い関わりがありそうな気がするのだが……。

 

「うーん、川瀬さんとそっくりな人なんですよね? 全く、思い浮かびませんが……」

 

「なるほど、顔と名前でピンとこない。ならば、予想してみましょう」

 

 考えろ……考えろ川瀬進矢。

 今、大事な事は姫萩先輩の俺への好意を逸らさせる事だ。

 これは別に俺がヘタレだからとか、そういうのじゃなくて……現状、俺の死亡率が高いであろう事に起因する。

 最悪の事を考えて、俺は姫萩先輩に生きる目的を作らさなければならない。

 

 えーと、何かヒットしそうだ。 そうだ、確か昔兄貴と一緒にプレイしたゲームで――

 

「かつて将来を誓い合ったけど、長い年月を経て忘れてしまった! ……これですね!」

 

「いや、これですねって……どういうことですか」

 

「恋愛物でよくある、片方だけ忘れずに約束をずっと想い続けているが、もう片方はケロって忘れてるタイプの奴ですね。終盤位に思い出す奴です、多分」

 

「随分、ふわっとしてますね!?」 

 

 姫萩先輩に完全に心当たりがないのに、関係性をでっちあげるならこれ以外思い浮かばなかったから仕方ない。

 幼稚園~高校生レベルでずっと一緒でそのまま付き合ってる人なんて、俺は見たこと無いし……俺自身、幼馴染と言えそうな人物は男ばかりで、イジメを期に縁を切っている。

 

「う~ん……思い出してみましたけど……全く、心当たりないですね」

 

「つまり、片思いなんですね」

 

「違います! そういう事実は無いって事です!」

 

 頬を膨らませて反論する姫萩先輩は可愛い。 さすがにアニメやゲームじゃあるまいし、そんな事は無いだろう……俺も冗談半分だ。

 

 どうやって話を畳もうかと考えると、俺の手を握る力が強くなった。

 

「仮にそんな過去があったとして、新しい恋の方が素敵じゃないですか?」

 

「俺は幼馴染を応援する派です! 幼馴染は負けない!」

 

「力説するって事は、川瀬さんにそういう相手が居るって事ですか?」

 

「そういう訳じゃないですが、負けた方に感情移入しちゃうタイプなんです!」

 

「あっ、それはちょっと分かるかもしれません」

 

 実際、俺は普段負ける側なので、負ける側の気持ちしか分からないと言い換えても良いが。

 

 ……結局、姫萩先輩と御剣先輩の関係は分からないままか。 何かあると思ったけど、気のせいかもしれない。

 あるいは、俺も綺堂渚の件で組織に教えて貰うまで、知らなかったように……本人達も知らない何かがあるかだが、今は追及のしようがない。

 

 ……そろそろ頃合いかな。

 そう思った俺は、姫萩先輩に言った。

 

「それで、どうですか? 緊張は収まりましたか?」

 

「え? あ、そういえば……そう、ですね。落ち着いたと思います」

 

「それは良かった、申し訳ないですが先に進む時間が来たようです」

 

 姫萩先輩は手を放す。

 彼女が名残惜しそうに手に意識を向けているのを見ないフリしつつ、PDAの地図を確認する。

 

 3階に上がって分かった事だが、おそらく各階が進入禁止になるのは9時間毎だ。となると、今日中には4階――理想を言えば、5階には到達しておきたい。不確定要素が大きいので、努力目標ではあるけども。

 

 ――何の為に戦うか、か

 

 生存者は未だ【11人】を維持しているが、何時減るか分からない。

 綺堂渚と握り合った手の温もり、そして姫萩先輩の手の温もり。

 どちらも俺は覚えてる。

 

 だが、幾ら頑張った所で、俺の手は二つ。

 意志は砕けなくても、自分の命を含め守れる物には限りがあるに違いないのだ。

 

 先手、先手で動こうとは思っているが……ゲームが終わる頃に何人生き残れるかは分からない。

 

 それでも戦わなければならない。 ゲーム開始前からの俺の目的の為、俺を信じてくれる姫萩先輩の為――そして――

 

――あれ?

 

(どうして、その中に綺堂渚が入っているんだ? おかしくないか?)

 

 今更、本当に今更ながら……自分の中で大きくなっている存在に気付く。

 そもそも、綺堂渚とは一体何者なのだろう?

 自慢じゃないが、人間観察能力はそこそこあるつもりだ。

 

 だが、俺の人間観察能力には一つ大きな欠点が存在する。

 一度でも、自分が好きになってしまった対象には上手く作用しないのだ。

 この欠点に気付くまで、3回恋愛で痛い目に遭ってしまったのでそれは間違いないと思う。

 

 それでも、頭を振り絞って綺堂渚の事を纏めようと……

 

「どうしました、川瀬さん? 誰かが亡くなられたとか?」

 

「あ、いえ……そういうのじゃないですけど」

 

 不安そうな姫萩先輩の声で俺の思考は現実に引き戻される。

 心なしか以前より距離が近くなった気がして、少し心が高鳴るのと……罪悪感。

 ……罪悪感!?

 

(もしかして、いろんな意味で修羅場!?)

 

 そんな事はない、妄想が強い事甚だしいのだが……何故か俺の脳が警鐘を鳴らした。

 違う、冷静に考えたらそんな状況になる筈がない。

 姫萩先輩はあくまで純粋に俺の事を信じようとしてるだけで……あったとして精々吊り橋効果という長続きしない代物だ。そして、綺堂渚は組織側に近しい親父の仇である。

 

「えーと、親父の仇と思われる綺堂渚について考えていました」

 

「そう、ですか……このゲームで私と会うまで、ずっと一緒だったんですよね? どんな人だったんですか?」

 

 そういえば、姫萩先輩には他の人の情報はすべて話しているが、綺堂渚についてはナイーブな話だからと話題にするのを避けていた節がある。 だから、そう聞かれるのも当然な訳なのだが……。

 

「……良く分からない」

 

「そう、ですか……」

 

 言いずらい雰囲気を察したのか姫萩先輩はこれ以上何も言わなかった。 想像してる言いずらさとは全然ベクトルが違うだろうけど。

 

 うーん……一人で勝手に舞い上がっているだけのような気がしてきた! いや、待て……今嫌な想像をした。

 

「ただ、彼女の強さは桁違いです。だから、もし遭遇する事になったら、俺が綺堂渚の相手をするので姫萩先輩は全力で逃げて――」

 

「嫌です」

 

「勝てる見込みが――」

 

「絶対に嫌です」

 

「……姫萩先輩の為に言ってるんですが」

 

「なら、私が残るのも私の勝手ですね」

 

「おかしい、姫萩先輩の押しが強い」

 

「それなら……川瀬さんのお陰ですね」

 

 銃を撃つ前までの、怯えはどこに行ったのやらである。

 姫萩先輩は満面の笑みで俺の言葉を何度もぶった切った。

 勿論、これが空元気を多分に含んでいるのは想像に難くないが……どうやら、やり過ぎてしまったようだ。 心強さは、感じるけども……。

 

「俺は多分、姫萩先輩の思うような人間じゃない気がしますけどね」

 

 姫萩先輩に信頼を向けられる度、考えてしまうのだ。

 彼女の為なら、俺は誰かを殺せてしまう。

 

 そして、こうも思っている。

 不殺でこのゲームを終わらせる事はできないと。

 

 つまり、彼女を守る為に、彼女の信頼を裏切らなければならないのだ。

 

(あと、15億必要なんだったっけか……我ながら、本当に度し難いよ)

 

 

この中で生き残るのは?(女性編)

  • 矢幡麗佳:  倍率:6.1
  • 北条かりん: 倍率:6.4
  • 綺堂渚    倍率:4.6
  • 姫萩咲実:  倍率:8.3
  • 郷田真弓   倍率:3.2
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