秘密遊戯 -I must be cruel, only to be kind-   作:流火

7 / 61
プレイヤー:カード:オッズ:解除条件
川瀬進矢: 3 :4.7:3人の殺害
長沢勇治:4:7.0:首輪を3つ収集する
桜姫優希:9:10.2:自分以外の全員の死亡
北条かりん:K:5.4:PDAを5個以上収集
矢幡麗華:?:4.5:???
郷田真弓:?:4.4:???
手塚義光:?:3.7:???
DEAD:7:DEAD:開始6時間以降に全プレイヤーとの遭遇
???:???:???:???
???:???:???:???
???:???:???:???
???:???:???:???
???:???:???:???



第七話 生兵法は怪我の元

 

 

 

 

 

――――――――――――

運命は一つの災いを与えるだけでは満足しない。

プブリリウス・シルス(紀元前1世紀頃のローマの作家)

――――――――――――

 

 

 

 

 

「あら、残念……思ったより、動きが良いのね」

 

 

 冷たい言葉を肌で感じながら――衝撃を全身で受け止める。

 反射的に長沢の前に立ち、学生鞄でガードした。

 学生鞄に深々と突き刺さった矢が視界に入る。

 怖い怖い怖い、反射的に動いたが貫通したら死んでいたぞ!?

 矢なんてほぼ見えないも同然だ、こんなもの一度防げただけでも奇跡も奇跡だ。

 

 

「北条! 長沢を引っ張ってでも連れて行け! 長沢! 落ち着いたら、お前が頭脳になって考えろ!」

「で、でも……川瀬さんは……!?」

「ちょっと、死なない程度に……あいつをぶっ飛ばす!」

 

 

 長沢は狙われた事で、一時的に硬直したと判断し、北条さんに撤退支援を依頼する。

 同時に学生鞄のすぐ取り出せる位置に置いてあった、ハサミを取り出し牽制として郷田へと投げた。咄嗟なのでコントロールは上手くいかない、軽く動いた郷田によって回避されてしまった。

 あの人もよく分からん人だな……俺の観察した印象と行動が全然違う。俺の見立てでは、報酬面でトラブルが発生する事は考慮に入れていたが……初手で襲われる事は想像すらしてなかった。

 長沢の言う通り全て演技だったのか……!? 考える時間がない……!

 

 

「大丈夫、俺は負けない……頼んだぞ」

「う、うん……!」

「ま、負けんなよ……! 川瀬のお兄ちゃん!」

 

  

 遠ざかる足音2つ……、まずは一安心か。

 鞄の中から、片手で持てるサイズの非常食が入った缶を取り出し、更に郷田に投げる。

 その後、即座に角材を片手で構え、郷田の元に突進する。

 

 

「くっ……!?」

 

 

 郷田は缶を避けながらクロスボウを投げ捨て、ナイフを投げる。

 回避行動の為に、一時スピードを落として横に跳び、その間に郷田は逃げ出した。

 

 

「逃がすか……!」

 

 

 このまま見逃すか、危険人物を追うか……一瞬悩んだが、そのまま追いかける事に決めた。その理由は武器だ、1Fでクロスボウは見つかっていない。つまり、郷田が持っている武器は明らかにこの階層では一段階上の武器だ。つまり、彼女は2階……場合によっては3階に上がって1階の人間を狩っているものだと考えられる。既に上階に上がる度に、武器が強くなる事に気付いている証拠だ。だから、後で脅威度が上がる前に今リスクを取った方が良い。

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に始まった追いかけっこだが……時間をかけても、距離が中々詰められない。

 中学まで運動部だった俺だが、その目から見る限り郷田真弓は走るフォームが綺麗だし、息を乱してる様子もない。ちゃんとしたスポーツをやってる人の走りだ。……妙齢の女性に体力負けしそうなのが哀しい。

 どうして、こんなゲームに乗ったんだ!? 等、何度か問いかけてみたが返答はない。……走りながら喋るのは体力を消費するだろうから仕方ないか。……俺も何度かやって、息が切れてきたから反省している。

 

 

「うおっと!?」

 

 

 言葉の代わりに返ってきた投げナイフを辛うじて回避して、追い続ける。

 走りながらの癖にそのコントロールは的確だ。

 瞬間的なスピードを上げすぎると、投げナイフのカウンターの餌食になってしまうため、持久走の様相を迎えているが考えが甘かった。

 これだけ追いかけているならどこかで行き止まりにうっかりぶつかっても良い筈なのだが、襲撃した時点で逃走ルートを綿密に決めていたのか、迷う素振りも見せない。追ってる側である筈の俺が、現在地点が分からなくなってきたレベルである。

 ちゃんと理性的に殺しに来た証拠だ……まさかっ!?

 

 

 ――釣り出されているのではないか?

 

 

 その疑念が頭を過ぎり、鞄から保存食の缶を取り出した。

 脳内の桜姫先輩が食べ物で遊ぶな! と怒ってるような気がするが、手元にあるまともな投擲武器がこれしかないから仕方ない。あとで、このゲームのスタッフが美味しく頂いて欲しい……! 等と思いながら、郷田に全力投球した。

 

 

「……きゃ!?」

 

 

 郷田の足に直撃し、溜まらず足をもつれさせ転倒した。

 

 

「ハァハァ……手間取らせやがって……」

 

 

 ナイスシュート! と自分でも惚れ惚れとしたい、良い投げだったが……正直言って、油断はできない。俺の中の郷田社長像は現時点でバリバリの文武両道キャリアウーマンだ。……社長である事が嘘でないなら、反社会的組織のペーパーカンパニーの社長まで想定してる。護身術・格闘術の1つや2つ体得してたら、情けない事に接近戦で返り討ちにあってしまう。

 角材の間合いを活かして痛めつける? なんか悪っぽいぞ。いや、できるなら殺してPDA奪っときたいんだけどね。まだ時期尚早かなって……。と迷ってたのがいけなかったのが、突然大きな声が耳に入る。

 

 

「きゃああああ! 誰か、誰か助けて!!!!!」

「ハァ……? あんた、いきなり何を……って、マジか」

 

 

 郷田社長が叫び声を挙げると、走ってきた方向の逆側の通路から駆け足が複数聞こえてくる。

 ……状況を確認しよう。ここにいるのは息が上がった男女二人、女の方は倒れ、男の方は角材を女に向けている。

 どう見ても襲っているのが逆にしか見えねぇ……! いや、襲ってるのは確かだけれども! 速攻で、郷田社長をここでぶちのめす……? いや、それだとより容疑が決定的になってしまう……!

 郷田社長と言い合いになってしまえば、水掛け論になってしまう。その場合、信用勝負弱者である俺が、社長という身分の人間に弁舌で勝てるとは思えない。あるいは、来た人間がゲームに乗ってたら三つ巴になるのか……!? どうする……!? どうする……!?

 

 

 悪いパターンに嵌まっている事を自覚しながら、打開策を思いつかない。

 だから、次に起きた出来事によって不覚にも郷田への警戒すら完全に吹き飛んでしまった。

 

 

「大丈夫ですか……!? ……え?」

「…………ッ!? お、俺……?」

 

 

 ……時が止まるような衝撃を受ける。

 足音が聞こえた通路から見えたのは、制服や一部髪型こそ違えど毎日鏡で見るような顔をしていた。

 

 

 兄弟でもこんなに似てないんだが……! と内心思いつつ、勝手に頭の中で点と点が繋がっていく感覚を受ける。桜姫先輩……彼氏、俺とそっくり。まさか……まさか……、ど、ど、ど……どうすれば!? 思考が巡り、それ故に身体の方が硬直してしまう。

 向こうも困惑していたようだが、情報量が少ない分正気に戻ったのは向こうの方が早かったようで、俺から郷田社長をかばう位置に素早く移動して鉄パイプを構えている。……構えを見る限りは素人だ、戦えば勝てるとは思うんだが……っ!

 

 

「御剣さん!」

「咲美さんは下がってて!」

 

 

 冷静さを失い取り乱している俺は、更に追撃を受ける。

 御剣と呼ばれた男性を追うようにやってきた女性は、桜姫優希その人と一瞬見間違える程……そっくりだった。半ばパンクした思考から、うっかりと言葉を漏らしてしまう。

 

 

「え……さくら、ぎ……せんぱ……い?」

「……っ! 今、お前何て言った!? 優希を知っているのか……!?」

 

 

 あ、やばい。失言した……俺、今凄く失言した!

 向こうの警戒ゲージが上がった事を認識しながら、皮肉にも自らの失言で冷静さを取り戻した。……落ち着け、少なくとも郷田社長を庇っている様子を見れば、二人はこの殺し合いゲームに”乗っていない”。つまり、俺の今やるべき事は危険人物の排除は損切りし、最低限この二人と郷田社長を引き離す事だ。俺がどう思われるかは、この際目を逸らして後で関係を修復するのがベスト、か?

 なるべく手短に方針を纏めるが、時間は待ってくれず事態は動いていく。

 

 

「ふ、二人共、気をつけてください! あの人の解除条件は3番……『3人以上の殺害』なんです!」

「……ッ!」

「な、なんだって!?」

「そ、そんな……」

 

 

 

 二人からの警戒が更に増し、ひりつく険悪な空気を肌で感じる。

 咄嗟に弁解しようとしたが……本当の事なので、反論できない!?

 それを言ったら桜姫先輩なんて9番の『全員殺し』なんだが、桜姫先輩の彼氏にそれを不用意に言ってしまえば、どうなってしまうか俺には全く分からない。言うにしても、何か変なノイズを混ぜてきそうな郷田社長の居ないところで言うべきだ。

 もしかしてこの殺人ゲームにおいて、凄く重要なターニングポイントの中心に勝手に放り込まれてしまっているのではないか……!?  一世一代の大勝負、覚悟を決めるぞ……川瀬進矢!

 

 

「本当に乗ってしまったって言うのか……こんな、ふざけたゲームに……!」

「まずは自己紹介をしましょう。……はじめまして、川瀬進矢と言います。恋人同伴の殺人ゲーム参加、心底同情します……みつるぎ、そういち先輩?」

 

 

 どんな肝試しでも、どの剣道大会でも感じたことのない震え上がりそうな緊張感に耐えながら、慎重に火薬庫に火種を投げ込むが如き言葉を選ぶ。

 御剣先輩の必死さはそれだけ、桜姫先輩の事を大切に思っている事が分かる。……罪悪感がやばいが、このやり方しか思い浮かばなかった…!

 

 

「優希に会ったのか……!?」

「桜姫先輩……彼女は実に良い人でしたよ。実にね」

「お前っ……!」

 

 

 できるだけ顔に冷笑を作り、全力で挑発する。

 さて……俺の即席で考えたプランは、恋人の桜姫優希の現状が知りたいなら追いかけて来い! というシンプルなものである! ぶっちゃけ、今の桜姫先輩の情報なんて欠片もないが、意味深な事を言うだけ言って逃げる! 男なら誰もが一度はやってみたい(?)作戦だ。このゲームが開始されてから、奇策ばかり打っているからランナーズハイも併せてテンション上がってきますね! あとでごめんなさいするから、その辺ワンパターンな気もするが。

 御剣先輩は必死だと思うが……俺も俺で大真面目……おあいこだよ!!

 ……パンチ何発で許してくるかな???

 

 

「流石に、3対1は不利……逃げさせて貰うとしますか」

「ここまで言って逃がすと――!?」

「はいドーン」

「なっ!?」

 

 

 メイン武装である角材を御剣先輩に放り投げ……全力ダッシュを開始する。

 走る方向は……咲美って呼ばれた、桜姫先輩激似の女性がいる方向である。その為に、武器である角材を投げ一瞬御剣先輩の注意を逸らす必要があった。まだ体力は持つ、なんとかあの女性を引きずって、郷田社長と引き離すのが目的だ。ちょっと強引だが、なんとかやり遂げてみせる……!

 

 

「きゃっ……!」

「スマン……ちょっとついてき――」

 

 

 

――ガシャン

――ガシャン

 

 

「――え?」

 

 

――ガラガラガラ

――ガラガラガラ

 

 

 つい先ほど聞いた音が前方と背後から聞こえ、思わず立ち止まる。

 これから咲美と呼ばれた女性の腕を掴み、引っ張って連れて行こうとした通路、そして、俺と御剣先輩の間に、凄い勢いで上から遮蔽物が降りてきている。

 その後ろで、PDAを操作している郷田社長の姿を視認した。

 

 

「……シャッター……だと!?」

「ま、待て……! さ、咲美さん!!!」

 

 

 ――ガシャン

 無慈悲な音が聞こえ、通路が塞がれてしまった。

 ガンガン! とシャッターの向こうシャッターを叩きつける音がする。

 だが、見る限りこの防火シャッター……特殊な状態を想定しているものなのか、通常のシャッターより強度が高いと思われる。少なくとも人力で突破するのは不可能に思える。

 

 

 シャッターの向こう側から声までは正確に聞き取れないが、大きな声が何度も反響している。悔しいんだろう、怒ってるんだろう……方向性は違えど、俺もその気持ちは一緒だ。

 俺の目論見は完全に潰えた。御剣先輩と危険人物である郷田社長を二人っきりにしてしまったのだ……!

 ついでに言えば、シャッターとシャッターの間に完全に塞がれてしまった。この間には部屋もエアダクトも見当たらない。このままでは『進入禁止エリア』まで女の子と二人っきりでジ・エンドルートである。

 その死に様はちょっと嫌だな……なんて考えていると、天井から音がして梯子が降りてきた。パッと見た感じ、これで2階に上がれそうだ。完全に詰みになる、という事は無いらしい。

 

 

「いやぁあっ、いやぁぁぁ!」

「あ、ご、ごめんなさい」

 

 現状を確認した俺に、大きな悲鳴が隣から聞こえ現実に引き戻される。

 咄嗟に、咲美と呼ばれた女性の腕を放して距離を取るが、ひきつけを起こしたかのように震えて座り込んでしまう。

 

 さて、この女性視点で現状を列挙してみよう。

・ゲームに乗ったと思われる男性と二人っきりである。

・その男性の解除条件は殺人が必須である。

・頼りになる仲間と分断され、ひとりぼっちである。

 

 ……これは酷い。俺でもパニックになるかもしれない。

 過失割合だけで言うのなら10:0で俺が悪いんですけどね……!

 マジでどうすれば良いんだろう!? 誤解を解くのが先決だが、まず話を聞いてくれる状態になるまで時間がかかりそうだ。

 

 

「あ、うぁ、ああぁっ」

「ほ、ほら、君に危害を加える意志はないから……ね?」

 

 

 両手をパーにして挙げて見せるが、反応はない。

 咲美氏は自分の身体も支えられる状態にないようだ。

 成功率低くてもカウンターでも決める位の気概があれば、までは言わなくても、部屋の隅に逃げるなり動けて欲しいんだけど……。北条さんならやれたぞ? ……多分。

 この状態だと、女の子引っ張る大作戦はこの時点で破綻していたのかもしれん。

 ……生兵法は怪我の元って言葉をしみじみと痛感する。このゲームは全てぶっつけ本番のガチンコ勝負である事が憎い。

 

 

 今までこのゲームで出会ったプレイヤーは桜姫先輩のような否定派にせよ、手塚のような積極派にせよ、何だかんだで動機があり、自分の意志が強かった。だが、この人はどちらでもないように思える。ホラーやパニック映画で言えば、犠牲者枠というかパニックになる枠というか……

 人を殺せば優位になるゲームにおいて、こういう人間を前にして、どうするかでその人間のモラルが試されるのである。つまり、今、俺のモラルが試されている……!

 いずれにせよ、1つだけ言える事はある。恋人そっくりだという理由があるにせよ、この人を連れて動いてた御剣先輩は間違い無く良い人であるということだ。あの桜姫先輩の彼氏であるのなら、当然なのかもしれないが。

 

 

 ……2階からの合流ルート、女の子の説得……長沢、北条すまない――あんなに綿密に合流ポイント決めてたのに、ちょっと合流無理そうだ。観測してる限り、まだ他の人の死を確認していない事だけが救いか。

 

 

 全く、思い通りに行かない事ばかりだ。少し、疲れた……。

 一旦、この場で座り込み、これからの事を考えつつ乱れていた息を整え直すのであった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。